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Home >  Interviews > interview with Mamas Gun (Andy Platts) - 70年代ソウルをアップデイトするUKのバンド

interview with Mamas Gun (Andy Platts)

interview with Mamas Gun (Andy Platts)

70年代ソウルをアップデイトするUKのバンド

──ママズ・ガン(アンディ・プラッツ)、インタヴュー

質問・序文:高橋芳朗    翻訳:青木絵美   May 02,2022 UP

Mamas Gun
Cure The Jones

Légère Recordings / Pヴァイン

Soul

Amazon Tower HMV disk union

 ロンドンに拠点を置くソウル・バンド、ママズ・ガンが2017年発表の前作『Golden Days』から約4年半を経てニュー・アルバム『Cure The Jones』を完成させた。バンドの中心メンバーであるアンディ・プラッツがショーン・リーと組んだヤング・ガン・シルヴァー・フォックスでの精力的な活動(2018年の『AM Waves』と2020年の『Canyons』、計2枚のアルバムを作っている)、そして予期せぬパンデミックの影響も受けて過去最長のスパンを開けてのアルバム・リリースになったわけだが、これは14年に及ぶママズ・ガンのキャリアにおけるマスターピースとして賞賛されることになるだろう。
 2009年にアルバム『Routes to Riches』でデビューした当時のママズ・ガンは、のちにヤング・ガン・シルヴァー・フォックスへと発展していくAORフィーリングをベースにしつつ、マルーン5ばりのポップ・センスとジャミロクワイにも通ずる洗練されたグルーヴを武器にして人気を博していくことになるが、例えば『Routes to Riches』収録の “Pots of Gold”、続く2011年のセカンド・アルバム『The Life and Soul』収録の “We Make it Look So Easy” など、随所で垣間見せていた真摯なソウル心にも強く心を惹かれるものがあった。
 そんなママズ・ガンがデビュー時からの音楽的方向性を一転してソウル・ミュージックに寄せる憧憬を前面に打ち出してきたのが、2017年リリースの4thアルバム『Golden Days』だった。マーヴィン・ゲイ流儀のしなやかなメロウネスに貫かれた内容は従来からのファンはもちろん新たなリスナーを開拓することにもつながったが、今回の新作『Cure The Jones』は『Golden Days』の路線をさらに推し進めたより純度の高いソウル・アルバムに仕上がっている。
 『Cure The Jones』の豊潤なサウンドの向こうから立ち上がってくるソウル・レジェンドたちは、マーヴィン・ゲイ、ビル・ウィザース、カーティス・メイフィールドなど。まるで彼らが憑依したような、素晴らしいヴォーカル・パフォーマンスとソングライティングによってアルバムを傑作へと導いたアンディ・プラッツに話を聞いてみた。

ママズ・ガンの音楽は、角やエッヂやテクスチャーがあって、5人の人間が一緒に演奏している音だ。一方のヤング・ガン・シルヴァー・フォックスの音楽は滑らかで丸みがあり洗練されていて、2人の人間が作っている音楽だ。

まず、2017年リリースの前作『Golden Days』について改めてお話を聞かせてください。『Golden Days』は今回の新作につながるママズ・ガンにとってのひとつの転機になったアルバムと考えていますが、現在から振り返って同作をどのように受け止めていますか?

アンディ・プラッツ(Andy Platts、以下AP):100%同感だね。『Golden Days』は、僕にとってもバンドにとっても分岐点となる作品だった。自分たちで音楽のプロデュースを手掛けつつ、正真正銘のソウル・ミュージックという観点から自分たちのサウンドを磨き上げたんだ。これまで以上に兄弟や家族のような親密さが感じられるバンドになるための第一歩になったよ。

その『Golden Days』から約4年半が経過しています。これはママズ・ガンのアルバム・リリースのスパンとしては過去最長になりますが、この時間は今回の新作の制作にどのような影響を及ぼしていますか?

AP:そのうちの2年はパンデミックによるものだったけど、この期間で僕は作曲家として、そして僕たちはバンドとして、『Golden Days』を制作したときに選択した数々のことに対して自信を感じられるようになったと思う。『Cure The Jones』を制作したときの僕たちには自信があり、成熟していた。それは僕たちのスキルや意図が自然に進化して集約されたからだと思うんだ。

『Golden Days』から『Cure the Jones』のあいだ、アンディ・プラッツさんに関してはヤング・ガン・シルヴァー・フォックスでの充実した活動がありました。YGSFの活動で得た成果は今回の新作にどのようなかたちで反映されていますか?

AP:どちらのプロジェクトも重なる部分があると思う。例えば、プログレッシヴなハーモニーやグルーヴの使い方、ソウルフルなメロディの作り方だね。ママズ・ガンの音楽は、角やエッヂやテクスチャーがあって、5人の人間が一緒に演奏している音だ。一方のYGSFの音楽は滑らかで丸みがあり洗練されていて、2人の人間が作っている音楽だ。ホーンなどについては別として、だけどね。どちらのプロジェクトも、本質的に異なるものだから、お互いを支えあっている。このふたつのプロジェクトは対照的なんだ。ソングライターとしての自分は、片方のプロジェクトに取り掛かるときにはある特定のマインドになって、もう一方のプロジェクトに取り掛かるときはまた別のマインドになる。そういう原動力が交互のプロジェクトによって得られるんだ。

アンディさんは2020年に竹内アンナさんの “Striking Gold” を彼女と共作しています。あなたはこれまでにも山下智久さんや Every Little Thing に楽曲提供していますが、こうした日本のアーティストとのコラボレーションはどのような体験になっていますか?

AP:自分のやっていることが異なる状況でどのように解釈されるかを知る良い機会だと思っている。日本のポップ・ミュージックは、とても洗練されていて冒険的だ。僕はそこがすごく気に入っているんだ。洋楽のリスナーなら引いてしまうようなコードや曲構成を試してみたいという自分の好奇心が刺激される。それに、他のアーティストと直に仕事をするのは本当に楽しいんだ。アンナは素晴らしいよ。アイデアにあふれている。


中央が、今回メール・インタヴューに答えてくれたアンディ・プラッツ

マーヴィン・ゲイ、カーティス・メイフィールド、ビル・ウィザースといったアーティストたちは、偉大な人物であり作詞家としての僕やバンドのメンバー全員に昔から影響を与えてきた。ルイス・テイラー、シュギー・オーティス、スモーキー・ロビンソンのようなアーティストたちにも影響を受けてきた。

2020年以降の世界規模での新型コロナウイルスの感染が今回の新作に及ぼした影響はありますか?

AP:たしかに影響はあった。『Cure The Jones』は作詞やサウンドや曲作りの深みという面において、僕やバンドが体験したパンデミックによって形作られたアルバムだと言えると思う。それに、録音した素材をテープに収める期間が3日間しかなかったという状況だった。

アルバム・タイトル『Cure the Jones』にはどのような意味/想いが込められているのでしょう?

AP:なにかを「Jones」するということは、なにかを渇望するとか、欲求が満たされたいと思っているという意味なんだ。そこから各自の解釈をしてもらえればいいと思う。

今回の新作『Cure the Jones』の音楽的コンセプトを教えてください。どんなアルバムを目指しましたか?

AP:基本的な意図としては、素材の大部分をアナログ・テープで録音してより豊かで深みのある音にすることだった。このアルバムではベラ・チッパーフィールドがハープを演奏して、ジョナサン・ヒルがストリングスで参加してくれている。それから “Party For One” や “You're Too Hip (For Me Baby)” などでは新たな領域を開拓した。これも意図したことのひとつだね。

こんなご時世だからこそ、楽観主義的な姿勢を強く持って自分が恵まれていることを思い出すべきだと考えている。自分の人生には良いことがあるということを認識して、それらに感謝するべきだと思うね。

今回の新作では “Winner's Eyes” を除く全曲のソングライティングをアンディさんが単独で手掛けています。曲を書くにあたってはどんな点に留意しましたか?

AP:年齢を重ねるにつれ、歌詞の質にこだわるようになった。つまり、「まあまあ」のアイデアと「最高」のアイデアの違いということ。また、アルバムの曲たちはひとつのコレクションに属するようなものにしたかった。2013年のアルバム『Cheap Hotel』みたいに、バラバラで断片的な曲ではなくてね。それも『Golden Days』から学んだことだよ。

アルバムの収録曲からは偉大なソウル・ミュージックのアーティストたち、具体的にはマーヴィン・ゲイ、ビル・ウィザース、カーティス・メイフィールド、アース・ウィンド&ファイアー、アル・グリーンなどが連想されますが、アルバムの制作にあたって指標になったアーティストや作品はありますか?

AP:バンドのメンバー全員に共通しているのは、僕たちがソウル・ミュージックを高く評価しているということ。マーヴィン・ゲイ、カーティス・メイフィールド、ビル・ウィザースといったアーティストたちは、偉大な人物であり作詞家としての僕やバンドのメンバー全員に昔から影響を与えてきた。でも僕たちは、ルイス・テイラー、シュギー・オーティス、スモーキー・ロビンソンのようなアーティストたちにも影響を受けてきた。それに加えて、スコット・ウォーカーのようなソウル系とはまた違ったアーティストからも影響を受けている。例えば “When You Stole The Sun From The Sky” は彼の影響が特に強い曲なんだ。

以前ママズ・ガンの音楽的魅力はジャミロクワイやマルーン5を引き合いにして語られることがありましたが、今回の新作のアプローチはぐっと70年代ソウル寄りでシルク・ソニックと重なるところもあると思います。先日のグラミー賞でも高く評価された彼らの作品をどのように評価していますか?

AP:僕たちの音楽の多くには昔から70年代のアプローチがあったと思うんだけど、いまのプロダクションになってようやく自分たちが思い描いていた音や出したいサウンドが出せるようになったと思うんだ。シルク・ソニックは音楽的には良い選択をしていると思うけど、歌詞が浅くて安っぽいと思うな。ブルーノ・マーズは良い音楽を作る可能性を秘めているということだね……あまり物議を醸すような言い方はしたくないんだけど(笑)。

そのシルク・ソニックがそうであるように、ママズ・ガンも70年代のソウル・ミュージックを単なる懐古趣味にとどまらない現代の音楽として表現することに成功していると思います。その点を踏まえて、サウンド・プロダクションやレコーディング、演奏などの面でどんなところにこだわりましたか?

AP:基本的にすべては曲からはじまるんだ。プロダクションの方向性は曲によって決まる。曲はすべて、僕たちが生きている時代や現代という時代に感じている感情から影響を受けているんだ。だからコンテンポラリーなサウンドになるんだよ。それに、70年代らしいサウンドに現代的なプロダクションを少々加える箇所を見出すことも大切だ。僕たちのサウンドは作曲したパートと楽器をマイクに接続して、その音を録音する特殊な方法によって作り上げられているんだ。

アルバムのリード・トラック “Good Love” はフィラデルフィア・ソウル~シカゴ・ソウル風の軽妙なグルーヴが心地よくたいへん気に入っています。この曲をアルバムの顔になるリード・トラックに選んだ理由、そしてこの曲で打ち出したかったサウンドやメッセージなどについて教えてください。

AP:こんなご時世だからこそ、楽観主義的な姿勢を強く持って自分が恵まれていることを思い出すべきだと考えている。自分の人生には良いことがあるということを認識して、それらに感謝するべきだと思うね。“Good Love” はそういうものをすべて網羅していて、とにかくポジティヴさを高らかに表現にしている。ポジティヴを拒否する人なんていないだろ?

今回の新作中、バンドにとって最もチャレンジングな試みになった楽曲はどれになりますか?

AP:“Go Through It” は、曲の雰囲気を捉えるために演奏を何度か撮り直したからチャレンジングだった。“Looking For Moses” もグルーヴがしっくりハマるように何度か録音したね。

今回の新作はママズ・ガンを新しいレベルに押し上げるキャリア最高傑作だと思います。それを踏まえて、デビュー作の『Routes to Riches』から『Cure the Jones』に至るこれまでの5枚のアルバムがバンドにとってどんな意味を持つのか、各作品を簡単な理由も添えつつ一言で表現してもらえますか?

AP:『Routes To Riches』は明るさ、『The Life & Soul』は急ぎ、『Cheap Hotel』は不確実、『Golden Days』は恐れ知らず、そして『Cure The Jones』は自信。僕たちのサウンドは作曲や音の個性において、かなり落ち着きがないという状態から焦点がしっかりと定まってきた。どんなサウンドにしたいのかというイメージが明確になって、それに自信を持てるようになってきたんだ。こういう変化には時間がかかるけれど、良い方向に向かっていることが自覚できたら、それをじっくり育んでいけば良いと思っている。進化を急かすことなんてできないからね。

バンドの最高傑作といえる『Cure the Jones』を作り上げたことによって得た最大の収穫はなんだと考えますか?

AP:いままで以上に自分の内なる声を信じることだね。

Mamas Gun『Cure The Jones』配信リンク
https://p-vine.lnk.to/G2HIMH

質問・序文:高橋芳朗(2022年5月02日)

Profile

高橋芳朗(たかはしよしあき)高橋芳朗(たかはしよしあき)
東京都出身。音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティー/選曲家。著書は『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない~愛と教養のラブコメ映画講座』『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』『ライムスターのライブ哲学』『ラップ史入門』など。ラジオの出演/選曲はTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』『アフター6ジャンクション』『金曜ボイスログ』など。Amazonミュージック独占のポッドキャスト番組『高橋芳朗 & ジェーン・スー 生活が踊る歌』も配信中。

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