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Chiminyo

Electronic Hybrid Jazz

Chiminyo

I Am Panda

Gearbox

小川充   Feb 04,2021 UP

 紙媒体のエレキングで2020年のジャズ・シーンを振り返り、ロンドン勢ではモーゼス・ボイド、リチャード・スペイヴンらドラマーによるアルバムをピックアップしたのだが、彼らのように既に名の知られた存在に負けず劣らず気になったのがチミニョである。チミニョは2019年に「アイ・アム・チミニョ」という12インチEPでデビューしたドラマー/パーカッション奏者だが、本名のティム・ドイルとしてはアフロ・ジャズ・バンドのマイシャの一員として活動しており(リーダーのジェイク・ロングがドラマーのため、もっぱらパーカッション奏者として参加)、既にミュージシャンとしてのキャリアはいろいろ積んでいる。
 北ロンドンを拠点に活動していて、トルコ、ギリシャ、ルーマニアなどの民族音楽やジプシー音楽も取り入れたユニークなバンドのドン・キッパーにも参加するほか、エズラ・コレクティヴのサックス奏者のジェイムズ・モリソンらとコズミックなジャズ・ロック~フュージョン・バンドのシカーダ(Cykada)を結成して、こちらも2019年にアルバムを発表した。『アイ・アム・チミニョ』のリリースやシカーダのアルバムによって、2019年頃から注目度を高めていったアーティストである。マイシャのほかにシャバカ・ハッチングス、テオン・クロス、ザラ・マクファーレンなどサウス・ロンドン勢ともいろいろ共演してきており、また2020年はマイシャを通じてスピリチュアル・ジャズのレジェンド的存在のゲイリー・バーツとも一緒にレコーディングをおこなった。

 『アイ・アム・チミニョ』はDJのベン・ヘイズが共同プロデューサーとして関わり、エレクトロニクス・サウンドとチミニョの生ドラムを融合した作品集となっていた。ダブステップ、ベース・ミュージック、ビート・サウンドなどとジャズやエクスペリメンタル・ミュージック、インプロヴィゼーションを結び付けたそのサウンドは、ロンドンのジャズ・ミュージシャンの中でも最先端のひとつで、モーゼス・ボイドやリチャード・スペイヴンのさらに先を行くミュージシャンになるのではないかと予感させた。いろいろいるドラマーの中でももっともエレクトロニクスとの結びつきが深く、タイプとしてはドリアン・コンセプトとも共演するチド・リムに近い印象を持った。また “ダーマ・ボディーズ” というインド音楽を取り入れた演奏もあるが、これなどはドン・キッパーでやっている民族音楽的アプローチを発展させたもので、音楽的引出しの豊富さも感じさせた。2020年は前述のとおりマイシャでのゲイリー・バーツとの共演セッション録音があったが、『アイ・アム・チミニョ』から1年ぶりの録音となるデビュー・アルバムの『アイ・アム・パンダ』を完成させた。

 『アイ・アム・パンダ』はチミニョによるセルフ・プロデュースで、作曲からアレンジまで全て自身でおこなっている。キンクスが設立したことで知られるコンク・スタジオで録音はおこなわれ、レコーディング・エンジニアはジョルジャ・スミス、サンファ、ビンカー・アンド・モーゼス、エズラ・コレクティヴなどの作品を手掛けたリカルド・デミアンが担当。
 チミニョはドラムやパーカッション演奏に加えてピアノとヴォーカル、そしてエレクトロニック・プロダクション全般も手掛け、ほかのミュージシャンとしてはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ダブル・ベースなどの弦楽器に、インドネシアのスリン、中央アジアのカヴァルなど民族楽器の演奏家も加わっている。そしてゾンゴ・ブリゲイドというアフロ・フュージョン・バンドを率いるガーナ系のラッパーの K.O.G.、アーティスト集団のスティーム・ダウンのメンバーであるブラザー・ポートレイト(ニュー・グラフィック・アンサンブルやオスカー・ジェロームのアルバムにも参加していた)、ドン・キッパーの同僚でギリシャとルーマニアがルーツのドゥニャ・ボチックなどがゲスト・シンガーとして参加している。昨今のロンドンの音楽シーンを象徴するようなマルチ・カルチュラルなアルバムである。

 ヴォイスとドラム・ビートがシンクロした “アイ・アム・パンダ” でアルバムは幕を開けるが、ドイツのパーカッション奏者兼シンガーであるジョージ・クランツが1980年代にヒットさせたエレクトロ~ガラージ・クラシックの “ディン・ダ・ダ” を思わせるようなはじまりだ。ドリーミーなシンセ空間が広がる “ラン” もエレクトロな質感の楽曲だが、そうした中でドラムが生き物のように自由なビートを刻んでいく。シルキーやスウィンドルなど、ダブステップとジャズ、ライヴ・インストゥルメンタルを結び付けたようなアーティストに近い楽曲である。“パンズ・コール” はワールド・ミュージック調のコーラスや旋律を持ち、ほかのロンドンのジャズ系アーティストにはない個性を感じさせる作品となっている。この曲や “リーチン” に見られるように、チミニョはドラム以外にキーボードの腕前もなかなかのものであり、『アイ・アム・パンダ』は単にドラマーのスキルだけでなく、チミニョの総合的なサウンド・プロデューサーとしての姿を見せてくれるものだ。
 また “ハイアー・トゥゲザー” などに見られるように、ほとんどのドラム・パートがエフェクトをかけたり編集したりして素材として使用されている点も、通常のドラマーのアルバムとは異なっている。クララ・セラ・ロペスの歌をフィーチャーした “ブレッシン” のようなネオ・ソウル調の作品もあれば、ブラザー・ポートレイトのポエトリー・リーディングのバックでコズミックで未来的な風景が広がるジャズ・ミーツ・テクノな “シンキン”、チミニョの演奏する深遠なピアノが印象的なポスト・クラシカル曲の “イントゥ・ザ・サンキス”、K.O.G.のラップでアフリカ音楽とジャズとグライムが出会ったような “シー・ミー”、ドゥニャ・ボチックのヴォイスと共に中央アジアから東ヨーロッパにかけての民族音楽を取り入れ、最後は混沌とした音の渦となって終わる “パンドラ” と、実に幅広く豊かな音楽性も披露している。その実験性や先進性も含めて、現在のロンドンの若手アーティストで筆頭株に挙げられるのがチミニョではないだろうか。

小川充