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Richard Spaven & Sandunes

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Richard Spaven & Sandunes

Spaven x Sandunes

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小川充   Oct 22,2020 UP

 現在のサウス・ロンドン勢が注目を集める以前、2010年代前半頃より既にUK発の新世代ジャズ・ドラマーとしていち早く脚光を浴びていたリチャード・スペイヴン。UKではザ・シネマティック・オーケストラや4ヒーロー、インコグニートの演奏に参加し、USではホセ・ジェイムスからフライング・ロータスなどとも共演してきたことにより世間へアピールする機会に恵まれ、またヒップホップにダブステップやドラムンベースなど、クラブ・サウンドを取り入れた演奏によりジャズ以外の分野からも支持を集めていった。現在はモーゼス・ボイドゴーゴー・ペンギンのロブ・ターナーなど、そうしたジャズとクラブ・サウンドを繋ぐようなドラマーもいろいろいるが、そうした先陣を切ったのがリチャード・スペイヴンとも言える。

 ジェイムスズージョーダン・ラカイ、ステュアート・マッカラム、フリドラインなどいろいろなアーティストの作品に参加し、アルファ・ミストと44th・ムーヴというユニットを結成する一方、自身のソロ作品では2010年に処女EPの「スペイヴンズ・ファイヴ」を〈ジャズ・リフレッシュド〉からリリースし、その後ファースト・アルバムの『ホール・アザー』(2014年)以下、『ザ・セルフ』(2017年)、『リアル・タイム』(2018年)と発表してきている。『ザ・セルフ』では盟友のギタリストであるステュアート・マッカラムほか、ジョーダン・ラカイ、ジェイムスズー、クリス・バワーズ、クリーヴランド・ワトキスらが参加し、ファラオ・サンダースからキング・ブリット、フォーテックに至るカヴァーも手掛けるなど、ジャズからクラブ・サウンドに通じるリチャード・スペイヴンならではの世界を見せてくれた。『リアル・タイム』も同じくステュアート・マッカラムと組んだバンドで、数曲でジョーダン・ラカイのヴォーカルをフィーチャーしていた。このアルバムのプロデューサーはドイツのドラムンベース・プロデューサーとして知られるフレデリック・ロビンソンで、マスタリングはバグズ・イン・ジ・アティックのメンバーでディーゴとの共演など、主にブロークンビーツ方面で知られたマット・ロードが手掛けるなど、一般的なジャズとは異なる人脈がブレーンを固める異色作であると同時に、リチャード・スペイヴンというミュージシャンのジャズとクラブ・サウンドの境界にある立ち位置をよく示した作品と言えるだろう。その『リアル・タイム』から2年ぶりの新作となるのが『スペイヴン×サンデューンズ』である。

 このアルバムはタイトルが示すように、サンデューンズという女性ピアニストとのコラボレーションとなっている。サンデューンズは本名をサナヤ・アルデシールといい、インドのムンバイ出身で現在はロンドンを拠点にインド、ヨーロッパ、アメリカとワールドワイドに活動している。ボノボのオープニング・アクトを務め、プリティ・ライツのツアー・サポートをおこない、ジョージ・フィッツジェラルドのアルバム制作に参加するなど、エレクトロニック・ミュージック系での活動が多い。〈!K7〉から今年5月に「スペア・サム・タイム」というEPをリリースしているが、『スペイヴン×サンデューンズ』もその〈!K7〉からのリリースとなる。サウンデューンズはピアノやシンセ、キーボード全般を扱い、それ以外にゲストも参加しない完全にふたりだけのコラボとなっている。リチャード・スペイヴンはドラマーであると同時にエレクトロニクス機材を扱うビートメイカーでもあり、本作においてはそうした彼のビートメイカー/プロデューサー的側面が強く表れたと言えるだろう。過去にジェイムスズーとおこなった共演に近い形態の作品集だ。

 小鳥のさえずりのSEを交えたオープニングの “イン・リーディネス” はアンビエント・テクノ系の作品で、全体的にテクノの影響が強い作品集となっている点はドイツの〈!K7〉らしい。こうしたテクノ的な色合いに生ドラムを有機的に融合したのが “ツリー・オブ・ライフ” という曲で、スペイヴンの独壇場とも言える世界だ。ドラムンベースのビートをさらに細かく分解し、それに人力でディレイを掛けたようなテクニックには恐れ入る。“イヴリン” でのコズミックな音響空間にこだまするミニマルなビートから、次第にインプロヴィゼイションを交えた立体的で複雑なドラミングへと展開するのも巧みで、エレクトロニクスとジャズの即興演奏を見事に操っている。“キャント・セイ・ザット・トゥ・ユー” に見られるように、サンデューンズのキーボードは非常に抒情的で、ときにインド音楽を思わせるような独特の旋律を奏でる場面もある。“リトル・シップス” や “サステイン” における瞑想的なサウンドは、明らかにインド音楽からの影響と言えよう。アリス・コルトレーンやファラオ・サンダースがインド音楽を取り入れた演奏をおこなったように、古来ジャズとインド音楽は相性がいいものだ。『スペイヴン×サンデューンズ』はそれを現代的な手法で解釈したもののひとつとも言える。


小川充