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先日トム・ミッシュとユセフ・デイズの共演アルバム『ワット・カインダ・ミュージック』がリリースされたが、サウス・ロンドンではこうしたコラボが盛んだ。アルバム単位では昨年もベーシストのダニエル・カシミールがジャズ~ソウル・シンガーのテス・ハーストと組んだ『ディーズ・デイズ』がリリースされたが、アルファ・ミストとエマヴィーによる『エポック』もそれに近い路線の作品だ。ただし、このミニ・アルバムはもともと2014年に発表されたものの再リリースとなり、新たにリマスタリングが施されている。『ディーズ・デイズ』がブロークンビーツなども交えた硬質のフュージョン・ジャズ調だったのに対し、『エポック』はずっとR&Bやヒップホップ寄りの作品となっている。それは、そのままアルファ・ミストとエマヴィーの音楽のベースとなっているものだ。ちなみにアルファ・ミストはトム・ミッシュ、ユセフ・デイズともコラボを行なってきていて、『ワット・カインダ・ミュージック』がリリースされたタイミングで『エポック』が再リリースとなったのも何かの縁かもしれない。
アルファ・ミストにとっては昨年の『ストラクチュラリズム』に続く最新アルバム『オン・マイ・オウンズ』がリリースされたばかりであるが、こちらは完全なピアノ・ソロ作である。映画音楽的で緻密な構成も感じられた『ストラクチュラリズム』、ジャズ・ピアノとポスト・クラシカルの中間に位置するような『オン・マイ・オウンズ』に対し、『エポック』はもっとラフなスケッチ的作品集で、あくまでエマヴィーの歌との共存を目指した音作りになっている。『ストラクチュラリズム』やその前の『アンティフォン』(2017年)にはシンガー・ソングライターのジョーダン・ラカイをフィーチャーした曲もあり、また彼のアルバムの『ワイルドフラワー』(2017年)にも参加したり、2015年のEP「ノクターン」ではトム・ミッシュとの共演も披露しているが、『エポック』はそんなコラボの原点にあるものだろう。
一方のエマヴィーは本名がエマヴィー・ムボンゴというロンドンを拠点とするアフリカ系のシンガーで、主にヒップホップやR&Bの分野でセッション・シンガーとして活動している。ドルニック、IAMNOBODI らと共演し、自身でもEPの「シームレス」、「L+VEHATER」(共に2013年)、アルバムの『ハネムーン』(2019年)といった作品をリリースしている。エマヴィーとしても『エポック』は彼女の活動初期にあたる作品で、これをきっかけに翌年のアルファ・ミストの「ノクターン」でも再び起用されている。
もともと7曲入りのEPだった『エポック』だが、今回の再リリースに際しては1曲加えた8曲となっている。その追加曲の “エナジー” は『ストラクチュラリズム』にも参加していたロッコ・パラディーノ(ピノ・パラディーノの息子)がベーシストとして参加し、“フライ・アウェイ” という曲はエマヴィーと一緒に仕事するシンガー・ソングライターのドルニック・レイが共同プロデュースを担当する。また “シング・トゥ・ザ・ムーン” はローラ・ムヴーラの作品のリワークとなっている。アルファ・ミストはピアノやキーボード全般に加え、ビート・プログラミングを行なっている。むしろ『エポック』は彼のビートメイカー的な才能にスポットを当てたものと言えるだろう。“インソムニア” ではラップも披露していて、彼の音楽的基盤においていかにヒップホップが大きなものかを物語る。
エマヴィーの歌はエリカ・バドゥ直系とも言えるようなスタイルで、『エポック』は全般的にネオ・ソウルの王道を行くような作品である。J・ディラのプロダクションに影響を受けているアルファ・ミストだが、『エポック』はエリカ・バドゥ、J・ディラ、コモン、ディアンジェロなどによるソウルクエリアンズの世界観を継承しているのは明らかだろう。またジャズ的な見地ではピアノ使いはやはりJ・ディラとも交流のあったロバート・グラスパーにも重なる。そして全体的に沈み込むようなダウナーでメロウな作品が多いところは、やはりロンドンらしさと言えるかもしれない。振り返ると1990年代から2000年代にかけ、ロンドンにはスペイセックやブレイク・リフォーム、ディーゴやカイディ・テイサンらによるシルエット・ブラウンなど、ジャズのエッセンスも加えた良質なダウンテンポ・ソウルを提供するユニットがあった。本作もその系譜を受け継ぐ作品と言えるだろう。
小川充