「R」と一致するもの

Moodymann - ele-king

 窓のカーテンがすべて紫色に統一されているのは、プリンスの家のことではない。デトロイトのURの本拠地サブマージの建物の筋向かいにある家のことで、数年前から、おそらくはケニー・ディクソン・ジュニア(KDJ)が住んでいるのか(もしくはただ借りているだけなのか、いったい何のために?)わからないが、彼のものであるらしいとまことしやかに囁かれていると、昨年までは毎年デトロイトの野外フェスに行っている人物から聞いた。その写真、動画も見せてもらった。なるほど大きな一軒家(東京と比べると家賃は恐ろしく安いのだろう)の窓という窓は濃い紫のカーテンがあり、カーテンがない窓には黒人ミュージシャンの絵が絵が描かれている──プリンス、ジョージ・クリントン、ニーナ・シモン……。
 まったく人通りのない埃っぽい通りにポツンとそんな紫カーテンの屋敷があるのは異様といえば異様だが、しかもその建物からは通りに向かって、ただひたすら60年代~70年代のソウル・ミュージックが流れている。もうそれだけで、ひとつのメッセージである。

 よせばいいのに、この春リイシューされたプリンスの後期の傑作『レインボー・チルドレン』のアナログ盤を買ってしまったのだが、プリンスはジョージ・クリントンと並んでデトロイトの特別なヒーローのひとりである。KDJは前作の『Moodymann』からは、ハウス・ミュージックの形式をさらに拡張し、自分のルーツ(ソウル、ファンク、ディスコ)との接点に意識的なスタイルを模索しているように思える。ソウルやファンクの要素は最初からあったし、歌モノ自体は『Black Mahogani 』でも『Anotha Black Sunday』でもアンプ・フィドラーやホセ・ジェイムスなどを起用して試みてはいるが、近年のそれはリズムがハウスの機能性から自由になっているし、サンプリングにせよコラージュにせよ歌のように構成されている。

 コロナ渦ということで、察するにプレス工場が動かないから先に配信のみで5月21日にリリースされたのであろう『Take Away』の1曲目、アル・グリーンの“ラヴ&ハピネス”(ディスコ・ファンにはファースト・チョイスのカヴァーでも知られる)のサンプリングからはじまる“Do Wrong(間違えろ)”は、完璧なまでにゴスペル形式のハウスで、これはまったくKDJ印といえるのだが、その即興(ゴスペルとは決められた枠組み内での即興である)において洗練されている。続く表題曲は、キビキビしたファンクのシンセ・ベースと魔術的なコラージュによって、彼の教会(=ゴスペル)をディスコに変換する。「シスター、取って、取って、取っていって」と声は繰り返し、一瞬パトカーのサイレンが挿入される。
 が、しかし不安はすぐに消える。『Take Away』全編に滲み出ているKDJのブラック・ポップ・ミュージックへの愛情によって。アルバムはそして、KDJファミリーのNikki-Oが歌いアンドレスがプロデュースする“Let Me In(私を入れて)”~「みんなさよなら」を繰り返す“Goodbye Everybody”~デトロイトのポップ・ソウル・グループ「DeBarge」参加の“Slow Down(ゆっくりと)”、それからKDJ流のギャグ“I'm Already Hi(俺もうハイ)”を経て、ため息が出るほど美しいディープ・ハウスの“Just Stay A While”へと到達する。ここまでの流れがじつに心憎いのだけれど、この曲におけるシンセベースはラリー・ハードの“キャン・ユー・フォール・イット”の次元に侵入していると言っていいし、“Do Wrong”と“Just Stay A While”がアルバムのベストなのは疑いようがない。
 とはいえ、“Let Me Show You Love(君の愛を俺に見せてくれ)”も陶酔的なソウルとハウスのエレガントなミクスチャーだ。アルバムを締める、ジェイミー・プリンシプルのセクシー・ヴォイスが注入された“I Need Another ____”は80年代半ばのシカゴ・ハウスへのトリビュートであろう。
 じつは最後に、bandcampの画面には掲載されていないが、音源を買うとボーナストラックとして“Do Wrong”のSkate editがヴァージョンが入っている。デトロイトではいまでもスケート場でダンス・ミュージックを楽しむというスタイル(ソウル・スケート・パーティ)が活きているのだった。

 KDJはDJであり、古きソウル、ファンク、ディスコの研究家だ。まだ黒人コミュニティにしか知られていないような、倉庫にどっさり眠っているキラーなソウルやディスコを彼はチェックしているのだろう。そしてそれが彼の作品に息吹を与えているのは間違いない。『Take Away』はKDJのなかでもとりわけ歌(=ソウル)が前景化した素晴らしいアルバムだが、頼むから早くヴァイナルを出してくれ。ハードディスクではないところで、自分のコレクションに加えたい。


※なお、本日7月3日のbandcampは、Covid-19の影響を受けたアーティストをサポートするために売上のシェアを放棄する日。また、この日のために以下のレーベルやアーティストがさまざまな支援のため、特別なリリースを用意しているのチェックしてください(https://daily.bandcamp.com/features/artists-and-labels-offering-donations-special-merch-and-more-this-friday-july-3)。ちなみに、「bandcampがいかにしてストリーミングのヒーローになったのか」はガーディアンのこの記事を読んで。英語だけど(https://www.theguardian.com/music/2020/jun/25/bandcamp-music-streaming-ethan-diamond-online-royalties)。

Gary Bartz & Maisha - ele-king

 長くジャズを聴いてきた者としては、いま現在の注目の若手アーティストを聴くことからはもちろん新たな興奮を得られるのだが、一方でかつて素晴らしい作品を残してきたベテラン・アーティストの新作が出れば、やはりチェックせずにはいられない。そして、そんな新旧アーティストが共演したとなれば黙ってはいられないものだ。こうした新旧アーティストの共演は、たとえばロザンゼルスなどで結構盛んに行なわれており、ハーヴィー・メイソンのバンドにカマシ・ワシントンマーク・ド・クライヴ・ロウが参加したことがあったし、昨年のフィリップ・ベイリーの『ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ』もそうした新旧の力が組み合わさって作られたアルバムだ。最近ではエイドリアン・ヤングとアリ・シャヒード・ムハマドの『ジャズ・イズ・デッド 001』で、ロイ・エアーズ、ダグ・カーン、アジムス、マルコス・ヴァーリらレジェンド級ミュージシャンとのコラボも実現した。

 その『ジャズ・イズ・デッド 001』に参加したひとりのゲイリー・バーツは、以前にもザ・ロンゲッツ・ファウンデーションの『キッス・キッス・ダブル・ジャブ』(2015年)に参加するなど、若手ミュージシャンとのセッションに積極的なアーティストのひとりである。1960年代にアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズでプロ・デビューし、マイルス・デイヴィスのグループへ参加したほか、マックス・ローチ、スタンリー・カウエル、マッコイ・タイナー、アリス・コルトレーンらと共演してきたゲイリー・バーツは、ポスト・コルトレーン的なスピリチュアル・ジャズから、マイゼル・ブラザーズをプロデューサーに迎えたジャズ・ファンク、さらにはルーカス=エムトゥーメイによるブギー~フュージョン路線と、長きに渡って活躍してきたサックス奏者だ。レア・グルーヴやクラブ・ジャズ世代からも人気が高く、ザ・ロンゲッツ・ファウンデーションやエイドリアン・ヤングもそんなところからラヴ・コールし、共演へと繋がったのだろう。

 そして、今回はロンドンのジェイク・ロング率いるマイシャがラヴ・コールを送って共演が実現した。マイシャはアフリカ色の強いスピリチュアル・ジャズを指向していて、ちょうどバーツの〈マイルストーン〉や〈プレスティッジ〉時代のサウンドやコンセプトと共通項がある。バーツは1970年にウントゥー・トゥループというグループを率いて、『タイファ』と『ウフル』という連作からなる『ハーレム・ブッシュ・ミュージック』を発表している。マルコムXとコルトレーンに捧げられたアフロ・フューチャリズムに富む『ハーレム・ブッシュ・ミュージック』は、現在のブラック・ライヴズ・マター運動にも繋がる作品なのだが、その中の “ウフル・ササ” を取り上げている。原曲はアンディ・ベイが歌うジャズ・ファンク調のナンバーだが、今回はヴォーカルが入らないぶんバーツ本人のサックス・ソロがより引き立てられるものとなっている。もう1曲バーツのナンバーをやっていて、“ドクター・フォローズ・ダンス” は『フォロー・ザ・メディシン・マン』(1973年)の収録曲。こちらもジャズ・ファンクだが、アフロ・リズムにブロークンビーツのエッセンスを加えたジェイク・ロングのドラムと楽曲が見事に合致している。そのほかの “ハーレム・トゥ・ハーレム” や “ザ・スタンク” は今回のセッションのための新曲だが、どちらも『ハーレム・ブッシュ・ミュージック』あたりに入っていても違和感のない楽曲で、マイシャがバーツの音楽をいかに研究し、理解してきたかがわかる。“レッツ・ダンス” はマイシャのカラーが強いアフロ・ジャズで、ダンサブルなリズムと牧歌性に満ちたバーツのサックスが素晴らしいコンビネーションを見せる。

 ゲイリー・バーツと同時期にデビューして活躍してきたアーチー・シェップも、コルトレーンとの共演を経て開花していったサックス奏者である。ドン・チェリーやセシル・テイラーなどとのフリー・ジャズから、ゴスペルやソウルなどを取り入れたジャズ・ファンク~スピリチュアル・ジャズなど幅広く演奏し、1980年代以降はバラード奏者としても高い評価を得ている。ジャズ・ファンク期の作品はバーツ同様にクラブ・ジャズ・ファンから人気が高く、『アッティカ・ブルース』(1972年)はじめカヴァーやサンプリング・ソースとしても愛されてきた。そんなアーチー・シェップが、ワシントンDCのヒップホップ・プロデューサーであるダム・ザ・ファッジマンクの新作にフィーチャーされている。ロウ・ポエティックとK・マードックとのデュオであるパナセアをトラックメイカーとして支え、MCインサイトとのユニットのY・ソサエティでの活動やMFドゥームやブルーなどとのコラボにより、ジャジーでソウルフルなトラック作りに定評のあったダム・ザ・ファッジマンク。今回のアルバムは彼にとって初めてのジャズ・プロジェクトとのことで、自身でドラムスやヴィブラフォンを演奏し、ミュージシャンと組んだバンド形態のプロジェクトとなっている。エイドリアン・ヤングとのコラボでア・トライブ・コールド・クエストが完全にミュージシャンとして組んでいるのと同じことだろう。そしてアーチー・シェップはサックスのほかにピアノ演奏でも参加し、ロウ・ポエティックがシンガー/ラッパーとして加わっている。

 基本的にジャズの即興演奏にヒップホップのエッセンスやラップ・パフォーマンスを交えたもので、“ラーニング・トゥ・ブレス” や “チューリップ” のようにクールでソリッドな楽曲が収められている。1970年前後のエッジの立ったシェップの諸作に通じる匂いを感じさせるもので、ジャズとヒップホップが底辺で繋がっていることを改めて感じさせる。そしてバーツとマイシャの場合もそうだが、このコラボもダム・ザ・ファッジマンクからのシェップに対するリスペクトの念が滲み出たものとなっている。

KOTA The Friend - ele-king

 NY・ブルックリンを拠点に活動し、自主リリースでありながら、2018年リリースの 1st アルバム『Anything.』や昨年リリースの 2nd アルバム『FOTO』が一部のヒップホップ・リスナーの間で話題となった、現在27歳のラッパー、KOTA The Friend。自らプロデュースも行ない、メローでレイドバックしたビートに、自らの家族や日常生活に根ざしたテーマで、万人に届くピースフルなメッセージを込めたラップを乗せるという彼のスタイルは、いま現在のメインストリームなヒップホップ・シーンのトレンドとも異なる。しかし、あくまでもストリートに根付いた上でのオーガニックな彼の楽曲は、殺伐としたいまの時代だからこそ求められているのも事実で、特にコロナ禍かつ BLM (Black Lives Matter)ムーヴメントが世界中に広がっている最中の5月下旬に、今回のアルバム『EVERYTHING』がリリースされたことは大きな意味を持ち、人びとの心に寄り添うような視線で語られる彼のポジティヴなメッセージや音楽性に救われる人もきっと多いに違いない。

 彼の音楽的な特徴は、ギターやシンセサイザー、ホーンなどを多用した生っぽい感覚のあるサンプリング・トラックと、そのサウンドに対して実にマッチしている心地良いフロウとのコンビネーションにある。ある意味、曲によってはローファイ・ヒップホップなどにも通じる部分もあった彼のいままでの楽曲に対して、今回の『EVERYTHING』はビートの面で明らかな変化が生じているのだが、それはドラムの部分だ。ハイハットやキックを連打するパターンであったり、リズムマシン的なドラムの音質は、まさにトラップそのもの。実際、このビート感はすでに 1st アルバムでも一部で導入されており、2nd でさらに強化されていたのだが、本作ではアルバム一枚を通して、ほとんどの曲でこのスタイルが貫かれており、さらに言えば彼自身のラップもトラップ色が非常に濃くなっている。軸にあるメローな部分は変わらないまま、トラップの要素が足された彼のサウンドは、素直に格好良いし、個人的にはめちゃくちゃ好みだ。このスタイルが彼の専売特許ということではないと思うが、完璧とも言えるバランス感によって、強固なオリジナリティが貫かれている。

 同郷ブルックリンの Joey Bada$$ とクイーンズ出身の Bas がゲスト参加した “B.Q.E” は、そんな本作の魅力が詰まった一曲であり、彼らの地元を通るフリーウェイを掲げたタイトルの通り、実にスタイリッシュなニューヨーク・アンセム(=賛歌)になっている。また、前作での “Hollywood”、“Sedona” のように、これまでも国内外の様々な地名をタイトルに付けた曲を発表してきた KOTA The Friend だが、今回は “Long Beach” と “Morocco” という2曲を披露しており、数少ない非トラップ・ビートの “Long Beach” は歌のパートも心地良く、非常に開放感ある一曲で、一方の “Morocco” は透明感ある美しいトラックに乗った tobi lou とのコンビネーションがタイトに響く。他にもアルバム冒頭の “Summerhouse” から “Mi Casa” への気持ち良すぎる流れであったり、Joey Bada$$ と並ぶ大物ゲストの KYLE がゲスト参加した “Always” など聞きどころは多数あり、俳優の Lupita Nyong’o と Lakeith Standfield がそれぞれメッセージを寄せるインタールードなども含めて、アルバムの構成という面でも隙はない。ラスト・チューンの “Everything” では彼の息子=Lil Kota も参加しており、ふたりの掛け合いによるラストの部分から得られる幸福感は何ものにも代え難い。こんな気持ちで聞き終えるヒップホップ・アルバムは本当に希であろうし、この作品に出会えたことを幸せに思う。

RILLA - ele-king

 リラ? 誰よそれ? リラとは関西に生息しているオモロイ男(DJ)です。長年、DJブースと動物園を往復していた彼がついにデビュー作「First Drop / Just A Second」を発表しました。ライヒとシャックルトンをミックスしたようなアプローチで、じつにピースな、アンビエント・タッチのミニマル・ダンス・ミュージックです。2つのリミックス・ヴァージョン(ジャングル・ミックス、ダンスホール・ミックス)もじつにクール。ちなみにレーベルを主宰するToreiは期待の若手DJでもあります。
 以下、編集部に送られてきたメールのコピペです。(アー写変えて欲しい)
  ↓

 東京を拠点に活動するDJ/プロデューサーToreiが主宰するレーベル〈Set Fire To Me〉の第2弾は、KEIHINと共にパーティーALMADELLAを主催してきたDJのRILLAが登場。
 長年のキャリアで培われたセンスと初期衝動を融合した“First Drop”、架空の民族の儀式とサウンドシステムの邂逅を表現した“Just A Second”に加え、ObjektやYaejiなど気鋭アーティストらよりサポートを受ける、英レーベル〈Scuffed〉からのリリースも好評なStones Taroによるジャングル・リミックス、新宿のレコードストアReggae Shop NATのレーベル・ラインより発表したDJミックス「Strange Addiction」も話題の、本レーベル主宰のToreiによるサイケデリックなダンスホール・リミックスを収録。
 ジャケットはレーベル第1弾に引き続き、東京拠点のアーティストDavid Yutoが手掛けている。

RILLA -『SFTM002』

1. First Drop
2. First Drop (Stones Taro's Jungle Remix)
3. Just A Second
4. Just A Second (Torei's Psy-Hall Remix)
Bandcamp
Soundcloud

RILLA(プロフィール)

嗚呼、人情とベースライン。福岡より上京した、あの屈強な霊長類(学名:ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ)を思わせる特徴的な風貌を持ったその男とダンス・ミュージックを出会わせたのは専門学校時代の友人という縁、DJをはじめたのも友人の「お前レコ ード持ってるならやってみろよ」という言葉、そして現在のDJの基礎、いわゆる“やられた音”としてその後のその男の趣向を決めたのは、そのDJ練習の音に嫌気 がさした、隣人の保母が差し出してくれたDJ KENSEI氏のミックステープであった。ここでも縁、いやそれは言い換えれば人情でもある。そこでヒップホップに衝撃を受け、そしてブレイクビーツ、エレクトロニカへと開眼していく。2002年、名門CISCOテクノ店への入店とともにバイヤーとして働くうちに、ジャングル、テクノ、ダブステップと、そのサウンドの趣味を広げた。いつしかその名前がRILLA と定着しはじめた頃、東高円寺の名店GRASSROOTSに出入りするうちにさらに耳が深く、広がることでいまのDJスタイルへと日々進化していく。それもこれも人との出会い人情であった。ヒップホップもレゲエもダブステップもテクノもハウスも、その男がかける音は基本的にベースラインのグルーヴがある(聴こえずとも)、そしてどこか遠くが温かい(聴こえずとも)。5年間務めたGRASSROOTSでのレギュ ラー・パーティ「GUERILLA」~「LOCUS」、KEIHINとのテクノとダブステップ、そして未知の体験を提 供する不定期開催の"ALMADELLA"を経て現在京都在住。今宵もどこかで、人情とベースラインでスピーカーと身体を揺らしている。嗚呼。(※家庭の都合でDJを休止していたが、現在復帰に向け準備中)
https://www.soundcloud.com/rilla-almadella
https://www.twitter.com/rilla_
https://www.facebook.com/almadella.rilla

interview with Baauer - ele-king

 いま、地球が怒っている。46億年の歴史上、いちばん怒っている。

 Baauer のニュー・アルバム『PLANET’S MAD』はもともと、素晴らしい生命体が住む汚れなき星(この星とは大ちがいだ!)についてのストーリーを語るためのコンセプト・アルバムだったという。けれども、リアル・ワールドはフィクションよりも奇なり。人類を未曽有のパンデミックが襲った結果、Baauer の激しく跳ね回るビートとうねるベース、自由に飛び回るヴォーカル・サンプルは、気候変動と疫病に見舞われたこの星がぶちぎれていることを表現しているようにしか思えない。

 2013年に一大ミームとなった “Harlem Shake” の生みの親である Baauer は、ファースト・アルバム『Aa』(2016年)でプッシャ・Tやフューチャー、M.I.A.、G-DRAGON といったヴォーカリストとともに、ど派手なトラップ・エレクトロとベース・ミュージックを交配したパーティーを表現していた。引き続き〈LuckyMe〉からのリリースとなるこの『PLANET’S MAD』では、インストゥルメンタルに集中した上で、ひずんだ電子音とトライバルなパーカッションが前作以上にアッパーに舞い踊る。狂ったようにテンションを上げていくこのダンス・アルバムは、ダンス・ミュージックの現場から遠ざけられているひとびとのわだかまりを、多少は打ち砕いてくれるはずだ。

 一方、ここで Baauer はアゲるだけではなく、これまでになくシリアスな、内省的な表現もしている。それは『PLANET’S MAD』の10曲め、“REMINA” 以降の後半部分を聞いてもらえればわかるだろう。『PLANET’S MAD』のメランコリックなパートは、故郷である母なる地球について私たちが思いを巡らせるための時間であるのかもしれない。

『PLANET’S MAD』について、ハリー・バウアー・ロドリゲスが語る。


Listen Out Festival

直接顔を合わせられないからこそ、かえって人とのつながりを大切にできるようになったというかね。コミュニティが逆に活発になってきていて、すごくいい変化が生まれてるなと思ってるよ。

NYCの状況は、ここ東京よりもずっと厳しいと思います。いま、どんな状況ですか?

ハリー・ロドリゲス(Harry Rodrigues、以下HR):実際には何も変わっていないんだけど、ニュースが騒ぎ立てている感じだね。外を歩いたりしても、意外といつも通りの景色が広がっているんだよね。でもニュース番組が怖がらせてくるから、家にいるようにしている。部屋にこもって、オンラインで自分の音楽をうまく配信していこうと画策してるね。それはそれですごく楽しいよ。この状況をうまく乗り越えていくためにも、いい方法を見つけたなと思う。

Twitch(ゲームの実況プレイをライヴ配信するプラットフォームで、音楽ライヴも増えている)での配信やゲーム「Animal Crossing (どうぶつの森)」を楽しんでいますよね。拝見しています。そんな状況でいま、どのように音楽に向き合っていますか?

HR:最初の頃はこの状況にうまく適応できなくて、どうすればいいかよく分からなかったんだよ。でも Twitch をはじめてから変わってきた。オンラインでいつも聴いてくれるファンも増えてきて、曲作りの新しい方法を見つけたって感じだね。オンラインでも人とつながることはできるし、Twitch をはじめたのは本当によかった。ただ俺の音楽はライヴありきだから、その点は厳しいよね。全部キャンセルになってしまったし、ライヴがない音楽生活っていうのはすごく違和感がある。他のアーティストも同じだと思うんだけどね。まあいまは、音楽を作る方を楽しんでる。それはそれで、いい変化でもあるしね。

なるほど。いきなりシリアスな質問で恐縮ですが、新型コロナウイルスが人びとの生活を脅かし、クラブの営業も不可能な現在の状況で、エレクトロニック・ダンス・ミュージックが持ちうる意味やパワーとはどんなものだと考えますか?

HR:そうだね。直接的には人が集まれない状況になったからこそ、俺たちが音楽を通して、オンラインでポジティヴな流れを作るいい機会になっていると思う。コミュニティを作るちょうどいい機会だし、直接顔を合わせられないからこそ、かえって人とのつながりを大切にできるようになったというかね。同じ畑のアーティストとかフェスティバルも、オンラインでどんどん配信してるしね。コミュニティが逆に活発になってきていて、すごくいい変化が生まれてるなと思ってるよ。

たしかに、ダンス・ミュージックはコミュニティのためのものですよね。あなたは Baauer として、数多くのヴォーカリストたちとコラボレーションをしています。コラボレーションしたいと思うポイントはなんでしょうか?

HR:いつも、気になったアーティストには俺から声をかける。ポイントというよりは、純粋にかっこいいことやってるなと思ったアーティストとか、前からファンだったアーティストとかに連絡してみるんだ。それでまぁ、返答が返ってくるのと返ってこないのと半々って感じかな。承諾してもらったとしても、その相手が別のプロジェクトに取り掛かっちゃって、うやむやになることとかも往々にしてあるし。だから、もともと俺から連絡をしてみてるアーティストは本当にたくさんいるんだよ。でも不思議と、タイミングが合って最終的にコラボレーションすることになったアーティストとは、何もかもがうまくいくことが多い。すごく満足のいく曲ができるんだよね。

そのコラボレーションも、越境的だと思います。たとえば、幼い頃からドイツやイギリスなど、さまざまな土地で暮らしてきたことは、あなたの音楽に対する考え方に関係していますか?

HR:特に、7歳から14歳まで住んでたイギリスはそうだね。当時は音楽を聴くといったらラジオだったんだけど、間違いなく、あの時代が俺の音楽の嗜好を決めたね。UKガレージにはまってて、クレイグ・デイヴィッドが好きだった。もともとはUKポップから入って、そこからUKガレージが好きになったんだ。


Nick Melons

アルバムを通してフィクションのストーリーを伝えるのって、すごく楽しいんだってことに気づいてね。ただ自分の新曲を集めるタイプのアルバムよりも、ひとつの作品をつくり上げている感覚で楽しかった。

クレイグ・デイヴィッドがUKガラージをポップに広げたのは事実だと思います。コラボレーションに話を戻すと、あなたと日本のミュージシャンたちとのコラボレーションは、注目すべきことだと思っているんです。前作『Aa』の “Pinku” に参加した PETZ、“Night Out” に参加した YENTOWN クルー、“Open It Up”をプロデュースした Awich。彼らとのコラボレーションはいかがでしたか?

HR:みんな本当にかっこいいよね。スタイルが独特で、他の国とは一線を画してる。最初のきっかけは PETZ で、そこからつながっていった。東京にすごく仲がいい友だちがいるんだ。すごくいい奴で、東京に行くときには彼が色んなクールな場所を案内してくれるんだけど、一度東京に遊びに行ったときに彼が連れて行ってくれたのが、当時 PETZ が働いてた店だった。そこで PETZ のみんなと話して、SNSでつながって、やり取りしたりしてた。それで YENTOWN のことを知ったんだよね。まずは PETZ とコラボして、そのあと YENTOWN、そして、YENTOWN のクルーから Awich のことを聞いて、Awich の曲をプロデュースすることになった。ここ数年間彼らのコミュニティのアーティストたちと仕事をしたことになるけど、どれもすごくいいコラボレーションになって良かったよ。

いい関係性ですね。あなたの新しいレコードについて聞きたいと思います。本当に素晴らしいアルバムでした。いつから制作をはじめ、どのようなコンセプトでつくったのでしょうか? また、前作と比較して、まず気づいたのはヴォーカリストがフィーチャーされていないことでした。これはどうして?

HR:制作をはじめたのは1年半前。そろそろ次のアルバムを出すころだなと思ってね。それで〈LuckyMe〉のドム(Dominic Sum Flannigan)と話して、フィーチャリングなしのインスト・アルバムにするのがいいんじゃないかってことになった。前回は色んなアーティストとコラボしたアルバムだったから、今回は全部自分だけの曲にしてみるのがちょうどいいだろうってことで。それを前提にして、コンセプト・アルバムにするのが面白そうだっていう話になった。それで、自分の中でSF的なストーリーを作ってドムに説明したら、最初は「頭おかしいんじゃない?」って言われたんだよ(笑)。でもストーリーに沿った曲をどんどん作っていくうちに、アルバムを通してフィクションのストーリーを伝えるのって、すごく楽しいんだってことに気づいてね。ただ自分の新曲を集めるタイプのアルバムよりも、ひとつの作品を作り上げている感覚で楽しかった。他のアーティストとコラボレーションするのも、もちろん楽しいんだけどね。違う面白さがある。

なるほど。そのかわり、あなたの音楽における重要なエレメントであるヴォーカルのサンプルが様々なかたちで使われています。どうしてヴォーカル・サンプルを使うのでしょう?

HR:サンプルは断トツで何よりも、いちばん大事な要素だね。さっきも話したイギリス時代、UKガレージを聴いていたときから、色んなアーティストのヴォーカルサンプルの使い方が気になっていたんだ。別の曲からサンプルを取って、自分の曲に落とし込むって面白いなと思って。それがずっと自分の中に残ってるね。だから、自分で音楽を作りはじめてからもずっと、別の場所からサンプルを取ってきて、自分の音楽に変えるっていう作業がいちばん好きなんだ。人が作ったものからさらに新しいものを作る。音楽作りでいちばん楽しいと思う工程だね。

プレスリリースではファットボーイ・スリム、ケミカル・ブラザーズ、ベースメント・ジャックス、ダフト・パンクなど、90年代のダンス・ミュージックが引き合いに出されています。たしかにそれも感じますが、曲ごとにアプローチはさまざまです。新作では音楽的にどんなところをめざしましたか?


HR:ちょうどこの前、Twitch の配信でこの話をしていたな。曲を作るときに気にしているのが、色々なスタイルの音楽を作るっていうことなんだよね。テンポとかサウンドに幅を持たせたい。その上で、どれも俺らしいものにするっていう。全然違うスタイルの曲なのに、聴くだけで「Baauer だな」って分かるものにしたいんだ。それが俺の音楽的な目標なんだよね。色んなジャンルの音楽が好きだから、自分が作る音楽に関しても、テンポやスタイルを固定してしまいたくない。色んなアプローチをしながら、Baauerらしい音楽を作っていきたいんだ。


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「惑星が危険な目に遭っている」っていうコンセプトで他の曲の制作を進めていった。そしたら、このパンデミックが起こった。「地球が怒ってる(PLANET'S MAD)!」って思ったよ(笑)。

1曲めの “PLANCK” のアウトロでは、日本語が聞こえてきました。これは気温と電力についてのニュース音声ですよね。気候変動はこのアルバムと関係していますか?

HR:その名も「PLANET'S MAD」だからね(笑)。ただ実は、最初は冗談で仮に付けたタイトルだったんだけど。でも制作を進めていくうちに、俺とドムの中でこのタイトルがしっくりくるようになった。ストーリーとしては、汚れのない惑星がどこかにあって、そこには素晴らしい生命体が住んでて……っていうものなんだ。あんまり説明しすぎると面白くなくなってしまうんだけど、自分が住んでいる惑星に対して、自分の生活がどんな影響を及ぼしているのかを考えたり、新しい綺麗な惑星で、その環境を大切にしながら生きていくことを想像することって、地球への考え方を変えることにもつながると思ってるから。

繰り返しになりますが、「HOT 44」や「PLANET’S MAD」といったフレーズは、気候変動に代表されるこの星の危機を指しているのではないかと思うんです。2曲めの “PLANET’S MAD” で表現していることを教えてください。アートワークやヴィデオが表現している宇宙のイメージは、それと関係していますか?

HR:最初に作った曲が “PLANET'S MAD” で、そこからタイトルを取ったんだ。1年半前にアルバムを作りはじめたときにはさっき言ったストーリーがすでに頭の中にあったから、惑星とエイリアンのストーリーにするっていうのは最初から決めてた。だから “PLANET'S MAD” はすぐに出来上がって、そこをスタート地点にして、「惑星が危険な目に遭っている」っていうコンセプトで他の曲を進めていった。もともとのアイディアとしては、架空の惑星だけが舞台だったんだ。そこから、暗に地球についての話をしているようなコンセプトに変わっていった。だからMVでは地球が軸になっているし。そしたら、このパンデミックが起こった。「地球が怒ってる(PLANET'S MAD)!」って思ったよ(笑)。だから、リリースを延期にする話も出たんだ。ドムに、「不謹慎な気がするから延期にした方がいいかな?」って相談した。でも彼は「今だからこそ出そう」って。こんなタイミングになるとは思っていなかったから、驚きだよね。

アルバムの後半、“REMINA” から “HOME” へ、という2曲の流れが素晴らしかったです。このメランコリックでチルアウトした2曲は、どのようにしてつくられたのでしょう?

HR:その2曲は最後の方で作った曲で、当初はちょっとアルバムに合わないかなと思って、外そうとしてたんだ。でも流れがよかったって言ってもらえて嬉しいな。最終的に収録することにしたのは、この2曲の流れがそれまでの緊張感とかとげとげしい雰囲気を中和してくれると思ってのことだったから。ここで一旦リラックスできる、静かな曲を入れるのがちょうどいいと思って。結果的に、全体のバランスを取り持つ2曲になったね。

エンディングである “GROUP” には、“REMINA” “HOME”のメランコリーと、Baauer らしいヘヴィなビートが同居しているかのように感じました。この曲についても教えてください。

HR:この曲をクロージングにするのは、最後の方で決めたことだったんだよね。いま言ってくれたみたいに、ハードなビートとメランコリーが同居していて、作ったときからずっとお気に入りの曲だった。最後の曲にすることにしたのは、制作を進めていくうちに、この曲にアルバム全体のストーリーのエンディング感を感じるようになったから。ストーリーの中では、最終的には惑星はどこかに行ってしまうんだ。新しい惑星が出現したとき、最初はみんな怖がっているけどだんだん正体がわかって、その惑星のことを好きになっていくんだけど、結局はどこかに消えていってしまってみんな悲しむ。その消えていく惑星の様子をいちばん表現しているのが “GROUP” なんだよね。

ストーリーとの兼ね合い、ということで腑に落ちました。ところで、“HOME” で歌っているのは、英国のシンガーソングライターである Bipolar Sunshine さんですね。ヴォーカリストがほとんどフィーチャーされていないこのアルバムに彼が参加した理由や経緯を教えてください。

HR:“HOME” が持っているような雰囲気の曲をアルバムに入れたいっていうのはずっと頭にあったけど、最初は全部インストにするつもりだった。でもとりあえず Bipolar Sunshine のヴォーカルでレコーディングしてみたら、ものすごく良い曲になった。アルバムに入れざるを得ないぐらいにね。そこに言葉にできる理由はなくて、1曲だけヴォーカル曲を入れるっていうのがベストだと思った。それに、彼の声は素晴らしいから。唯一のヴォーカル曲を彼にお願いできてよかった。

感動的な曲だと思います。“HOME” で歌われる「home」や「mama」といった言葉は、なにを表しているのでしょうか?

HR:歌詞を書いたのは Bipolar Sunshine なんだよ。このアルバムのストーリーも伝えていない状況で、彼の信条とか経験をもとにしたこの歌詞を書いて、それが見事アルバムにぴったりな曲になったっていう。すごいよね。「home」や「mama」は故郷としての地球や母なる地球って意味にも取れるし、幸せを感じさせながら、俺たちの「home」である地球について顧みさせられるというか。もともとは Bipolar の中での「home」や「mama」だったものが、俺たちにも通じる意味を包含してるんだ。


Jake Michaels

新しい惑星が出現したとき、最初はみんな怖がっているけどだんだん正体がわかって、その惑星のことを好きになっていくんだけど、結局はどこかに消えていってしまってみんな悲しむ。

“HOME” にはハドソン・モホークが参加しています。モホークとあなたは〈LuckyMe〉の同僚であり、トラップとEDMをけん引してきたふたりだと思います。あなたから見て、ハドソン・モホークはどんな音楽家でしょうか?

HR:彼のことはもう本当に、いちばん尊敬してる。特にインスピレーションを受けているアーティストのうちのひとりで、それこそ音楽をやる前から尊敬しているアーティストだね。人間的にも。だから今回手伝ってくれることになって、こんなに嬉しいことはないなって。幸せだよ。

大半の曲に参加している Holly という方は、どんな音楽家ですか?

HR:彼はポルトガル出身のプロデューサーなんだけど、曲の作り方が独特ですごく勉強になるんだよね。もともと名前だけは知っていて。最初は1曲だけお願いするつもりで依頼をしたんだけど、出来上がったものに度肝を抜かれて(笑)、本当にすごくてね。それで2曲目をお願いして、それもやばいぐらい最高で、3曲目、4曲目……ってお願いして。自分が作った曲を新しい次元に連れて行ってくれる人に出会えたって感じだね。

他にクレジットで気になったのは、“MAGIC” のチド・リムです。彼はドラムで参加したのでしょうか?

HR:どうだったかな……。コードだけ依頼したんだったと思う。そうだ、それで、あんなに素晴らしいドラマーなのに、本当にコードだけ書いて送ってくれて贅沢なことをしたなと思ったんだ(笑)。彼も〈LuckyMe〉に所属しているからそもそも知り合いだったんだけど、個人的に結構仲が良くてね。プライベートでも会うミュージシャンの中でも、特に面白い人で。初対面はロンドンだったな。彼の出身地のオーストリアでも遊んだりして、年々仲良くなっていってるね。でも仕事で一緒になったのは今回が初めてだったから、新鮮で楽しかったな。

ところで、〈Lucky Me〉の Twitter アカウントが「PLANET’S MAD (A. G. mix)」とつぶやいています(https://twitter.com/LuckyMe/status/1257326129280684032)。これは、あの〈PC Music〉の A・G・クックがリミックスをするということ?

HR:そうだよ(笑)。まじでやばいやつが出来たから。本当にすごい。いつリリースするかはまだ決まってないけど、遠くはない。実はもう、彼が Sky Festival(『Porter Robinson’s SECRET SKY MUSIC FESTIVAL』、5月9日(土)(現地時間)配信)に出演したときにプレイしたんだけどね。

それは聞き逃してしまいました……。リリースを心待ちにしています。今日は本当にありがとうございました。早くあなたの音楽をクラブやフェスで、低音が効いた大音量で聞きたいものです。

HR:日本にも本当に本当に行きたい。ライヴはもう、待ちきれないよね。

「戸川純の人生相談 令和弐年」がますます面白くなっています! 深夜に営業している歯医者情報から戸川純の本名である「戸川順」がどのような経緯でつけられたかなど、初めて聞く話がまだまだ出てきます! 何を隠そう『疾風怒濤ときどき晴れ』のインタヴューは、かなりの部分が脱線でした! ありがち! その話ともまったくかぶっていない。どこにどれだけエピソードが詰まってるんでしょうか。そして、毎回、エンディングで歌われる曲も素晴らしく、個人的には「夏は来ぬ」のバックトラックにもやられてしまいました。これ、レコーディングしないのかな~。


戸川純の人生相談 令和弐年 第五回

戸川純の人生相談 令和弐年 第四回

戸川純の人生相談 令和弐年 第三回

戸川純の人生相談 令和弐年 第二回

A Certain Ratio - ele-king

 今年の1月、まだ世界がコロナを知らなかった時代の最後の月、ア・サートゥン・レシオの来日ライヴに行ってきました。マンチェスターの〈ファクトリー〉の看板バンドのひとつで、“ジョイ・ディヴィジョンがジョイムズ・ブラウンをカヴァーしたかのような”という評価の通りの、強力なリズムを擁したファンク・バンド(当時としては極めて珍しい黒人ドラマーだった)でありながら、しかし音楽が発する空気は〈ファクトリー〉系のそれなのでした。お若い世代は『To Each... 』(81)もしくは『Sextet』(82)を聴いてくだされ。あまりの格好良さに腰を抜かすでしょう。また、レイヴ世代には、忘れがたい「the big E」(89)なんて12インチもありました。
 とくにその初期においては〈ファクトリー〉系では、かの三田さんも一目置くほどのお洒落さんバンドだった彼らも、今年の1月に見たときには当たり前の話それなりに年季の入った姿を披露してくれたものですが、演奏はACR印の冷たいファンクで、まったくクールでした。否応なしに12年ぶりの新作への期待も高まるし、そしてじっさい新作はACRのファンク&ソウルが極まっているといえるような素晴らしい出来です。発売は9/25なので当分先ですが、まずは新曲とそのリリック・ビデオを公開しましょう。


■新曲「Always In Love」リリック・ビデオ

https://youtu.be/

■Listen & Pre-Order
https://smarturl.it/acrloco

【A Certain Ratio】
ACRのメンバーは、ジェズ・カー、マーティン・モスクロップ、ドナルド・ジョンソンの3人組。マンチェスターで1977年に結成され、伝説のファクトリー・レーベルにとって最初のシングルは彼らのシングルであった。すぐさまポスト・パンクのパイオニアとして世界に知られるところとなるが、ファンク、ジャズ、エレクトロ、テープ・ループなどのアヴァンギャルド要素をポップソングの世界に持ち込み、それをポスト・パンクの美学で包み込んだのだった。その影響は、トーキング・ヘッズ、LCD サウンドシステム、ハッピー・マンデイズ、フランツ・フェルディナンド、ESG、ファクトリー・フロアー、アンドリュー・ウェザーオールに至るまで及んでいる。ガーディアン紙のデイヴ・シンプソンはこのバンドに敬意を払い「ひとたびARCを聞き始めたら、その音楽を止めことは難しい」と記事にして、「アシッド界のジェイズム・ブラウン」と評している。

このアルバムはこれまでの40年間、彼らの嗜好や表現してきたものを完璧なまでに一気に詰め込んだものとなった。「先日リリースしたボックスセットのために過去を掘っていったことが我々を目覚めさせ、今回のアルバムに影響したのは間違いないね」と語るマーティン・モスクロップ。「そのことが我々のイマジネーションに火をつけてくれたんだ。過去のことも上手くやろうという気になったのは、未来に向けて前に進もうとしたからだ」と。このことがジェズ・カーとこのバンドの歴史をも再びつなげることになったのであるが、それは文字通り単なる過去の栄光の焼き直しではなく、このバンド独特の大胆で風変わりなスタイルでスタートすることであった。「我々はこのバンドの初期において存在した“全能感”をようやく取り戻すことができたんだ」と彼が語る。「自分か参加しているバンドや自分が作っている音楽以外他に全く何も考えられないあの感覚なんだ」。


ア・サートゥン・レシオ (A Certain Ratio)
ACR ロコ (ACR Loco)

Mute /トラフィック
2020年9月25日(金)

Tracklist
1. Friends Around Us
2. Bouncy Bouncy
3. Yo Yo Gi
4. Supafreak
5. Always In Love
6. Family
7. Get A Grip
8. Berlin
9. What’s Wrong
10. Taxi Guy
11. Fat Ratio *
12. SupaFreaky *

*ボーナス・トラック

Listen & Pre-Order
https://smarturl.it/acrloco

LINK
https://www.acrmcr.com/
www.mute.com
www.trafficjpn.com

Adult Swim × Hyperdub × Ghostly - ele-king

 毎年あっと驚くエキサイティングな単曲リリース・シリーズを展開しているカートゥーン・ネットワークの番組「Adult Swim」が、レーベルの〈Ghostly International〉 および〈Hyperdub〉と手を組み、興味深いプロジェクトを始動している。その名も「Stimulus Swim」で、新型コロナウイルス感染症によって打撃を受けたアーティストを支援するためのものだ。

 6月9日に「Adult Swim」によるミックステープ『Stimulus Swim: Friends of Adult Swim Mix』が、6月10日に〈Hyperdub〉のキュレイションによる『Stimulus Swim: A Hyperdub Mixtape』が、6月11日に〈Ghostly International〉による『Stimulus Swim: A Ghostly International Mix』が、それぞれディジタル・オンリーでリリースされている。

 これがまた良い面子が揃っていて、〈Hyperdub〉のものには、ジェシー・ランザや(コード9のインスタレイションを手がけた)ローレンス・レックらが参加、ムーア・マザーとDJハラムから成るユニット=700ブリスや、クラインのすばらしい新曲も収められている。

 シゲトテレフォン・テル・アヴィヴスティーヴ・ハウシルトらの参加した〈Ghostly International〉版、800以上の応募作品のなかから選ばれた「Adult Swim」版も要チェックです。

https://www.adultswim.com/music/stimulus

TSUBAKI FM - ele-king

 めでたいお知らせです。新しい視点でさまざまな音楽を紹介してきた注目のインターネット・ラジオ TSUBAKI FM がウェブサイトをリニューアルしています。過去のアーカイヴも聴けたり、検索機能も強化、さらに、毎週日曜だった放送枠も日~水の週4日放送に拡大! すばらしい音楽に出会うためのすばらしいプラットフォーム、ぜひチェックしましょう。

 https://tsubakifm.com

インディペンデントミュージックを発信する音楽プラットフォーム『TSUBAKI FM』がウェブサイトをリニューアル。7月から京都、名古屋を含むレギュラー番組も新たに始動

ローカルからワールドワイドまでクオリティーの高いアーティスト/DJをキュレーションしながら日本のシーンに対して新しい風を送りつづける TSUBAKI FM。コロナウィルスの影響で無念の延期となった3月のアニバーサリーイベントを乗り越え、新しいウェブサイトと共に次のステージへ。

日本を拠点にするクリエイティブデジタルスタジオの Garden Eight が制作に携わり、過去のアーカイブがいつでも聴ける「RADIO」ページや、アーティストやジャンル毎のタグを追って検索できる「SEARCH」機能。そして「NEWS」ページで TSUBAKI FM の最新のニュースをチェック。もちろん今まで通りライブ放送も試聴可能に。

そして毎週日曜の放送枠から一気に拡大し、日曜日から水曜日まで週4日連続放送が決定。
日曜日は昨年の MUTEK.JP にも出演した Mayu Amano、そして新進気鋭のミュージックコレクティブ No Nations クルーが登場。月曜日は TSUBAKI FM のファウンダーでもある Midori Aoyama が毎週ホストを務め、翌日の火曜日は Souta Raw が自身のホームグラウンドである Tunnel を舞台にレギュラー放送を実施。そして水曜日はFMとの強い絆のある京都、そして名古屋は club GOODWEATHER を舞台に隔週で放送。他にも毎月スペシャルなプログラムや様々な都市での放送も予定しており、コロナ禍で変化した生活様式に向けて TSUBAKI FM が新たな音楽体験を提供する。

各番組ホストと放送日程は以下の通り

//No Nations//
毎月第1, 第3日曜日 19:00-21:00 (しぶや花魁)

//Mayu Amano//
毎月第2日曜日 19:00-21:00 (しぶや花魁)

//TFM Monday by Midori Aoyama//
毎週月曜日 19:00-21:00 (しぶや花魁)

//Tunnel Tuesday by Souta Raw//
毎週火曜日 21:00-23:00 (Aoyama Tunnel)

//Tsubaki fm Kyoto by Yoshito Kimura, Keisuke Dance, Masaki Tamura//
毎月第1, 第3水曜日 20:00-22:00 (会場は随時アナウンス予定)

//Tsubaki fm Nagoya by AGO, MUSICMAN, SAMMY the RIOT, S.O.N.E.//
毎月第2水曜日 20:00-22:00 (club GOODWEATHER)

KATE NV - ele-king

 80年代の煌めきのようなエクスペリメンタル/ポップ。それは未知とノスタルジアの結晶か。ポップ、環境音楽、アンビエント、ポップ。そう、この音は空気のように環境に効く。そう、ケイト エヌヴィー=ケイト・シロノソヴァの音は、自由で透明だ。

 彼女の新譜『Room for the Moon』はまさにそのようなアルバムに思えた。水滴のように透明でミニマル・ポップだった前作『для FOR』から2年ぶりの作品だが、制作自体は以前から進められていたという。まさに満を持してのアルバムといえよう。リリース・レーベルは前作と同様に現代のニューエイジ/エクスペリメンタルの総本山〈RVNGIntl.〉。 

 シロノソヴァはファースト・アルバムを『Binasu』を、ジャイアント・クローなどで知られる〈Orange Milk Records〉から2016年にリリースして以降、ほぼ2年ごとにアルバムを発表してきた。本作はサード・アルバムとなっている。
 〈Orange Milk Records〉からリリースされた『Binasu』は、2010年代中期のヴェイパーウェイヴ的な作品の中に位置づけられていたように思えるが、セカンドの『для FOR』以降、ニューエイジ・リヴァイヴァル的なものともつながっていく。そして2020年代最初のリリース作である本作は、そんなケイト エヌヴィーの音楽的な嗜好/思考が全面的に展開されていた。最高傑作」と言っても過言ではない。

 まず、全体に非常に洗練されたサウンドだ。音と音のかさなりはナチュラルでありながらも、フツーではない。制作には苦労したようだか、じじつトラックに横溢する音色の選別からミックスまで、細やかな部分にまで気を使ったしあがりである。くわえてベースやサックスなど生楽器の効果的な導入がオーガニックなグルーヴを生んでいた。やわらかなシンセサイザーとのアンサンブルも抜群。
 とくにサウンドの面で深化に注目したい。それは80年代的なサウンドの追求という意味でもある。ここ数年、細野晴臣から吉村弘まで、80年代から90年代初期の日本環境音楽が世界的に再評価が進んだことはよく知られている。そのムーブメントを牽引する存在としてヴィジブル・クロークスの存在と作品が重要だが、彼らのサウンドは80年代型の環境音楽を、00年代・10年代以降の緻密なサウンド・レイヤーに置き換えることを主軸している。
 いっぽう『Room for the Moon』のサウンドは、まるで80年代のフェアライトのような絶妙な音の硬さとタイミングをはなっているのだ。たとえば1曲め“Not Not Not”の軽やかなリズミックなシーケンスからして、どこか『エスペラント』などの80年代の坂本龍一のサウンドのようだし、その瀟洒なアンビエンスには『花と水』など80年代の細野晴臣の音楽を思わせもする。つづく2曲め“Du Na”は、80年代の清水靖晃を思わせる環境音楽とジャズの融合のごとき曲だ。そして3曲め“Sayonara”は日本語の「さよなら」が反復され、80年代日本への不思議なノスタルジアすら感じさせる名曲である(私は日本盤ボーナストラックとして収録された“Arogato song“にも深く感動した)。

 この『Room for the Moon』冒頭の3曲だけで、このアルバムがめざす方向性がわかる。80年代の環境音楽やアンビエントの質感を、そのまま再現することではないか。過去の再解釈の解像度を上げて、「それそのもの」であること、とでもいうべきか。
 なかでも8曲め“Plans”は、80年代中期~末期のムードが濃厚で、本作を象徴する1曲である。彼女なりのポップミュージックの理想形ともいうべき曲だ。往年のVHS的な質感のヴィジュアルを展開する凝りに凝ったMVにも注目したい。

 ロシアはモスクワ出身のシロノソヴァは、モスクワを深く愛しているという。そんな彼女が遠く離れた異国である日本、それも現在から数えて30年から40年前の日本の環境音楽や電子音楽に惹かれ、自身の音楽の重要な参照点としている。
 ロシアと日本、ふたつ国が「80年代の音楽」をとおしてつながっていくという感覚。それはもしかすると「失われた20世紀/80年代ヨーロッパ」への郷愁ではないか。その意味で本作を細野晴臣が主宰したレーベル〈ノンスタンダード〉からリリースされたミカド『MIKADO』のパスティーシュと位置付けることは可能だろう。つまりは距離と時間をこえる未知のノスタルアジアの生成。これこそがケイト エヌヴィー=ケイト・シロノソヴァの音楽の不思議な魅力である。

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