Home > Reviews > Album Reviews > Awich- 孔雀
ラッパーとして誰もが認めざるをえない絶対的な強さを持ちながら、一方で美しさや色気、母性などもしっかりと兼ね備え、さらに日本語と英語+沖縄の言葉であるウチナーグチもシームレスに織り交ぜて、ラップだけでなく歌も見事にこなし、トラップを含む最先端のヒップホップ・サウンドから四つ打ちやオルタネイティヴなものまで様々なトラックを網羅する、文字通りの唯一無二のアーティスト、Awich。男女問わず、ここまで死角のないラッパーは日本では非常に稀であろうし、LAを拠点とするアジア系のヒップホップ・コレクティヴである 88rising と Red Bull によるドキュメンタリー・ムーヴィー『Asia Rising - The Next Generation of Hip Hop』にて日本のヒップホップ・シーンを代表するひとりとして大々的にフィーチャされたことも、彼女の持つポテンシャルを考えれば、当然のこととも言えるだろう。そんな Awich の評価を絶対的なものにしたのが、“Remember” や “WHORU?” といった数々のヒット・チューンを放ったデビュー・アルバム『8』であるわけだが、そこから約2年が経てリリースされた待望のセカンド・アルバム『孔雀』もまた、『8』と同様に彼女の魅力を最大限に伝える作品になっている。
前作に続き、今回も YENTOWN の Chaki Zulu がトータル・プロデュースを担当しており、プロデューサーとしても半数以上の曲も彼自身が手がけている。その中でも核となっているのが、2018年にリリースされた2つのEP「Heart」と「Beat」にそれぞれ収録されていた “Love Me Up” と “紙飛行機” の2曲だろう。一見、ラヴ・ソングかのようにも思わせて、リリックを聴くと思わずニヤリとさせられてしまうメロー・チューンの “Love Me Up” に、EGO-WRAPPIN' の名曲 “色彩のブルース” をサンプリングするという絶妙なセンスで、昭和的なノスタルジックを醸し出しながら、Chaki Zulu と Awich という組み合わせならではの、他にない新しさを作り出した “紙飛行機”。この2曲をアルバムの冒頭と中盤に配置した時点で、すでに鉄壁の構えができ上がっている。そして、KANDYTOWN の IO をフィーチャしたシングル曲 “What You Want”、EP「Beat」に収録済みの kZm をフィーチャした “NEBUTA” など、今回もまたゲスト参加曲が粒ぞろいなのだが、DOGMA と鎮座Dopeness を従えた “洗脳” は個人的にはアルバム中でもダントツに好きな曲のひとつで、リリックのテーマといい、“紙飛行機” とも通じる昭和な空気感なども含めて実に中毒性が高く、Chaki Zulu の演出の上手さに感服させられる。さらにピリピリするようなパワーチューン “Poison” でのゆるふわギャングの NENE とのコンビネーションも想像を超える素晴らしさで、OZworld との “DEIGO” での沖縄の青空と海がそのまま頭の中に飛び込んでくるようなイメージの作り上げ方も実にお見事。インタールードを合わせて全20曲かつ1時間超という。いまどき珍しいボリューミーな内容ながら、上手に緩急つけて巧みに流れを作り、ラストの “Arigato” までリスナーを楽しませてくれる。
デビュー作ゆえの衝撃という意味も含めて、『8』というクラシックを超えるのは容易ではないが、アーティストとしての成長もしっかりと示してくれた今回のアルバム『孔雀』。Chaki Zulu との鉄壁の布陣で今後も作品を作り続けて欲しいと思う一方で、より様々なアーティストやプロデューサーとの組み合わせなどによって、いままでとはまた異なる彼女の新たな魅力を次作で知ってみたいとも思う。
大前至