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KANDYTOWN

Hip Hop

KANDYTOWN

ADVISORY

ワーナーミュージック・ジャパン

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木下 充   Dec 26,2019 UP

 いまさら言うまでもないことだが、KANDYTOWN は世田谷の喜多見をベースにするグループで、15人強のメンバーはみな学生時代からの地元の友だち。メジャー・デビューとなった前作『KANDYTOWN』での、90年代ニューヨークとのつながりを感じるソウルフルなサンプリング・ヒップホップ、クールでレイドバックしたラップ、またクールな洒落者としての存在感などから、男女問わずヘッズたちから大きな支持を得ている。
 10年代を代表するグループのひとつで、関連作もふくめると作品も山ほどある。なんといってもラッパーが7名、ラッパー兼ビートメイカーが2名、ラッパー兼映像ディレクターが1名、ラッパー兼俳優が1名、ビートメイカーが1名、DJが3名いて、それぞれがなにかしらリリースをしている。初期のミックステープやストリート・アルバムも含めた KANDYTOWN のアルバム4枚をはじめ、各メンバーのソロ・アルバム、EP、ミックスCD、ライヴ・アルバムなどは、2015年からでも30枚を超える。KANDYTOWN の面々がいかにハードワーカーなのかを感じるが、たとえば今年2月に出ている Neetz のアルバム『Figure Chord』は、KANDYTOWN の最新作でのトラップへの挑戦の前哨戦を楽しみつつ、KANDYTOWN よりもダンスやポップであることにも挑んでいて、興味深い内容になっている。

 最新作の『ADVISORY』で KANDYTOWN は、これまでのソウルフルでレイドバックしたサンプリング・ヒップホップから、現行ヒップホップの主流のひとつであるトラップに挑んでいる。でもそれは、たとえばケンドリック・ラマーが『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』から『ダム.』でやったように、大胆に舵を切ったという類のものではなく、あくまでトラップを自分たちなりにうまく消化しているといった印象だ。この音楽を聴きながら KANDYTOWN の地元の喜多見にも行ってみたのだが、行き帰りの道中で、最新作が夜の東京をドライヴするサウンドトラックとしてとてもしっくりくるな、という発見があった。アルバムの15曲中10曲を手がけている Neetz による、その打ち込みビートの立ちや力強さが、そのまま車のサウンドシステムでの鳴りの良さにつながっている。またアルバム収録曲の “Last Week” のMV、それにアルバムとは別曲が聴ける今年のEP「LOCAL SERVICE」のジャケットにも黒塗りの車がフィーチャーされているのも、それと無関係ではないかもしれない。

 そのサウンド面の変化が大きく影響しているのは、むしろラッパーたちの方かもしれない。前作までは、バックトラックに合わせラップもレイドバックした雰囲気を楽しんでいた印象だったけれど、それが打ち込みに変わったことで、(KANDYTOWN のラップの通奏低音であるクールさは保ちつつも)新しいヒップホップのモードにラップを乗せていくのを、アグレッシヴに楽しんでいるみたいだ。たとえば Gottz は収録曲でもっとも多くラップをしているひとりだが、KANDYTOWN のなかでは珍しく以前からソロでトラップを取り入れていた彼は、その経験を存分に活かしている。

 一方でこれまでと変わらず楽しめる部分もある。Neetz 以外の5曲のバックトラックを手がけた Ryohu は、前作までのサンプリング・ヒップホップを踏襲、アルバムにドラマチックな印象を加えている。また Ryohu による “Cruisin’” は、ミッドナイト・スターの名曲 “Curious” を思い出させる佳曲だが、タイトル通りこちらも夜の東京を車でクルージングするのにぴったりの曲でもある。

 新作関連で個人的なベストを選ばせてもらうとすれば、アルバムからの最新のシングルカット「In Need」に収録されている、Neetz と Ryohu のリミックスだろうか。Ryohu は “Last Week” を、スクリュー一歩手前と言いたくなるような重たいビートに差し替え。Neetz は、“In Need” にあらたにメランコリックなギターをフィーチャー、クールなオリジナルをドラマチックに生まれ変わらせている。両リミックスともすでに次のステップに進んでいる印象で、早くも次作への期待が煽られる。

 最後に、冒頭で「洒落者」と書いたけれど、それはユナイテッド・アローズの企画によるこちらの動画(https://youtu.be/lYdSKrB44Eo)を見てもらえれば一発でわかる。もう5年も前の映像だけど、マイクリレーの冒頭で KANDYTOWN の IO、DONY JOINT と YOUNG JUJU(KEIJU)が放つ存在感は、続く KOHH にも引けをとらない。シビれる。また、ファッションとヒップホップ、東京とヒップホップという話でいうと、上の映像で、マイクリレーのバックでブレイクビーツをつなぐ MURO(および、MICROPHONE PAGER の『DON’T TURN OFF YOUR LIGHT』)と KANDYTOWN をつなげて考えると、また見えてくるものがあるのではと思いついたりもしているのだが、それはまた別の機会にかな。

木下 充