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先日、サックス/フルート奏者のチップ・ウィッカムのインタヴューをおこなったが、そこでも話題に上ったのがハープ奏者のアマンダ・ウィッティングだ。チップ・ウィッカムのアルバム『Blue To Red』(2020年)、『Cloud 10』(2022年)に参加しているが、彼と出会ったのはマシュー・ハルソール率いるゴンドワナ・オーケストラのツアーで、そこから親交がはじまっている。マシュー・ハルソールやゴンドワナ・オーケストラの作品においてはハープがとても重要な位置づけにあり、必ずと言っていいほどハープ奏者がフィーチャーされてきた。ハープはだいたい女性奏者が演奏することが多く、ゴンドワナ・オーケストラにおいてもこれまでレイチェッル・グラッドウィン、マディ・ロバーツ、アリス・ロバーツが務めてきており、現在それを担うのがアマンダ・ウィッティングである。ほかにもミスター・スクラフ、ジャザノヴァ、グレッグ・フォート、ヒーリオセントリックス、レベッカ・ヴァスマン、DJヨーダなどと共演してきた彼女は、自主製作で3枚ほどのアルバムをリリースした後、2020年に〈ジャズマン〉から『Little Sunflower』を発表。フレディ・ハバードの名曲をカヴァーしたこのアルバムにおいて一躍注目のハープ奏者となる。そうしてマシュー・ハルソールやチップ・ウィッカムなどとも交流を深め、『After Dark』(2021年)、『Lost In Abstraction』(2022年)にはチップも参加している。

Amanda Whiting
The Liminality Of Her
First Word
最初はクラシック・ハープを学び、その後ジャズの演奏をはじめるようになったアマンダ・ウィッティングだが、チップ・ウィッカムのインタヴューでは彼女について、1960~1970年代に活躍したジャズ・ハープ奏者の草分けのひとりであるドロシー・アシュビーに近いタイプの演奏家で、メロディアスでソウルフルな演奏が特徴にあると言っていた。そうしたところもあってか、ジャズにおいてもクラブ・ジャズ寄りのアーティストや、エレクトロニックなクラブ系アーティストにも起用されるのだろう。2023年には〈ファースト・ワード〉に移籍して、ヒップホップ/ソウル系のプロデューサー・チームであるダークハウス・ファミリーの片割れであるドン・レイジャーとの共演作『Beyond The Midnight Sun』をリリースしている。ジャズだけでなく幅広いタイプの音楽にアマンダのハープは見事にフィットすることを示したアルバムだった。
そして、それから1年ぶりの新作『The Liminality Of Her』がリリースとなった。編成はハープ、ベース、ドラムス、パーカッションで、今回もゲストでチップ・ウィッカムのほか、女流DJ/シンガー/プロデューサーのピーチが参加する。そのピーチをフィーチャーした “Intertwined” と “Rite Of Passage” は美しいメロディーと繊細なムードに包まれ、モーダル・ジャズとソウル・ミュージックが結びついた最高の作品と言える。“Liminal” はアフロ・キューバンとジャズ・ファンクが融合したようなリズムで、ドロシー・アシュビーの〈カデット〉時代の名作『Afro-Harping』(1968年)、『Dorothy’s Harp』(1969年)、『The Rubáiyát Of Dorothy Ashby』(1970年)を彷彿とさせる。“Nomad” のハープはまるで琴のような音色で、「遊牧民」というタイトルどおりのエキゾティックなムードを演出する。もっともダンス・ジャズ的な作品は “No Turning Back” で、アフロ・キューバン調の転がるパーカッションに乗った軽快な演奏を披露する。クラブ・ミュージック系アーティストからも彼女が支持される理由がわかる演奏だ。

Shabaka
Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace
Impulse! / ユニバーサル
シャバカ・ハッチングスは2022年にシャバカ名義でのソロ・アルバム『Afrikan Culture』をリリースしていて、今回リリースした『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』はその第2弾となるもの。『Afrikan Culture』はごく僅かのゲスト・ミュージシャンの手は借りるものの、基本的にはシャバカひとりの演奏のみで完結していた。従って非常にシンプルな楽器編成で、サウンドも原初的なものとなる。ほかのプロジェクトではサックスを演奏することが多いシャバカだが、このプロジェクトではフルート、クラリネット、尺八などで、それ以外にヴォイスも交えている。シャバカはいろいろなプロジェクトをおこなうなかでも、どこかに自身のルーツであるアフリカの音楽を感じさせる作品づくりをおこなってきたが、このソロ・プロジェクトはもっともアフリカ色が色濃く表れたもので、それも現代的なジャズへと行きつく遥か以前の民謡というか、原型的な音をそのまま抽出したようなものだった。
『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』は参加ミュージシャンが増え、カルロス・ニーニョ、ブランディ・ヤンガー、ミゲル・アットウッド・ファーガソン、エスペランザ・スポールディング、ジェイソン・モランらアメリカのミュージシャンも加わっている。また、フローティング・ポインツ、アンドレ・3000などクラブ・ミュージックの分野のひとたちから、アンビエント/ニュー・ミュージック界の巨匠であるララージ、エスカ、モーゼス・サムニー、リアン・ラ・ハヴァスなどシンガー・ソングライター、ソウル・ウィリアムス、エルシッドなど詩人やラッパーと幅広い人脈が集まる。こうしたアルバムはともすると散漫な印象になってしまう危険性があるが、『Afrikan Culture』にあったような原初的な音楽性は損なわれていない。そして、基本的に音数や楽器はミニマルな構成となっていて、“End Of Innocence” や “As The Planets And The Stars Collapse” など静穏とした世界を展開する。ゲスト・ミュージシャンは多いが、個人個人の色は極力出さないようにしていて、あくまでシャバカの絵のなかの背景の一部となっているようだ。ハンドクラップのようなリズムの “Body To Inhabit” はエレクトロニクスを交えた作品ではあるものの、極めてプリミティヴな音像を持つもので、かつて1980年代にジョン・ハッセルがブライアン・イーノとやっていたアフリカ音楽とアンビエントの融合を思わせる。

Glass Beams
Mahal
Ninja Tune
グラス・ビームスはオーストラリアのメルボルン出身のギター、ベース、ドラムスのトリオで、覆面をしてパフォーマンスをするというミステリアスさが話題を集める。東洋音楽と西洋音楽を融合したエキゾティスズム溢れる音楽性を持つが、リーダーのラジャン・シルヴァの父親がインド出身で、幼少期からラヴィ・シャンカール、アナンダ・シャンカール、R.D.バーマン、カルヤンジ・アナンジなどのインドの音楽に親しんできたという背景がある。インドや中近東、東南アジア、北アフリカなどの音楽と、ジャズ・ファンクやサイケ・ロックなどが結びついたのがグラス・ビームスなのである。クルアンビンあたりと共通するところもあるが、より民族音楽の色合いが強いバンドと言えるだろう。
2021年にオーストラリアで「Mirage」というEPをリリースした後、2024年に〈ニンジャ・チューン〉と契約してミニ・アルバムの『Mahal』をリリースした。“Mahal” はインドや中東で宮殿を指す言葉で、その言葉どおりエキゾティックな旋律を持つジャズ・ファンクとなっている。基本的にはスリーピース・バンドであるが、“Orb” では尺八やフルートのような音色だったり、おそらくシンセで作ったミステリアスなSEを交えてサイケな空間を作り出している。“Black Sand” におけるギターもシタールを模したような音色で耳に新鮮だ。

Kenny Garrett & Svoy
Who Killed AI?
Mack Avenue
デューク・エリントン、アート・ブレイキー、マイルス・デイヴィスらジャズ界の巨星たちと共演してきて、一方でクリス・デイヴ、ジャマイア・ウィリアムス、シェドリック・ミッチェルら現代ジャズの精鋭たちを自身のバンドから輩出してきたサックス奏者のケニー・ギャレット。自身のリーダー・アルバムでは『Trilogy』(1995年)や『Pursuance: The Music Of John Coltrane』(1996年)のようなモードを追求した作品から、ファンクやソウル色の強い『Happy People』(2002年)、中国やアジアをモチーフとした壮大な『Beyond The Wall』(2006年)など多くの傑作を残している。ソロ・アーティストとして頭角を現したのは1990年代半ば頃からで、それ以降は現代で強い影響力を持つサックス奏者のひとりであり続けている。ロバート・グラスパーも修業時代に彼と共演し、いろいろ影響を受けたと述べていたことがある。
近年は『Sounds From The Ancestors』(2021年)などアフリカ回帰色の強い作品を発表していて、そんなケニー・ギャレットの最新作はスヴォイことミハイル・タラソフとの共演作。ロシア出身のスヴォイはアメリカのバークリー音楽院に留学し、ジャズ・ピアノを学ぶと同時にエレクトロニック・ミュージックも手掛けるようになった。これまでに『Automatons』(2009年)のようなダンス~エレクトロニカ的なアルバムをリリースする一方、ミシェル・ンデゲオチェロ、レニー・ホワイトなどジャズ・ミュージシャンとも度々共演している。ケニー・ギャレットのアルバムにも『Seeds From The Underground』(2012年)、『Pushing The World Away』(2013年)でそれぞれヴォーカル、ストリングス・アレンジを担当し、今回はアルバム丸ごとでコラボレーションを行っている。ケニー・ギャレットもかつてQ・ティップの『Kamaal The Abstract』(2001年録音)に参加するなど、ヒップホップやクラブ・ミュージック系アーティストとの共演に対して寛容なスタンスを持つ人で、スヴォイとの共演についてもチャレンジングな気持ちで臨んでいる。『Who Killed AI?』というタイトルが示すように、AI時代の現代を表現したもので、スヴォイの作るエレクトロニックなトラックをバックにケニーのサックスが即興演奏を繰り広げる。マイルス・デイヴィスがAIを通じてコーチェラで演奏したらという “Miles Running Down AI” や、ケニーのソプラノ・サックスがスヴォイのシンセを通じてエレキ・ギターのような音色へ変調する “Divergence Tu-dah” など、これまでのキャリアからまた大きく飛躍する斬新なアイデアに満ちた作品集となった。
1980年代なかばの、黎明期のシカゴ・ハウスにおいて、ラリー・ハードはディスコの変異体であるこの音楽を地球外の幻想的な境地へと導いた。その当時、ラリー・レヴァンの〈パラダイス・ガラージ〉やデイヴィッド・マンキューソの〈ザ・ロフト〉でもプレイされた“Mystery of Love”というその曲は、いま聴いてもなお、ミステリアスな妖しさをまったく失っていない。時代を超越した曲のひとつだ。遅めのピッチと不安定なシンセサイザー音のなか、ブライアン・イーノにいわく「官能的で流動的なブラック・ミュージック」の本質を内包し、ジョン・サヴェージにいわく「ジョー・ミークが60年代初頭に目指した不気味なサウンド」にも近接している。リヴァーブのかかったロバート・オウェンス(のちのFingers Inc. のメンバー)の声は奇妙でありセクシャルで、ドラムマシン、意表を突いたクラップの残響にピアノ、すべてが異次元で乱舞し、こだましている。これほどハウス・ミュージックが持っている音楽的な可能性が凝縮されたトラックは、当時はほかになかった(まあ、アシッド・ハウスのことはひとまず置いておこう)。同じことが“Can You Feel It”にも言える。キング牧師の演説ともミックスされることになる、ディープ・ハウスを定義したあの曲のアンビエントなフィーリングとミニマリズム、そしてモノ悲しいメロディがデトロイト・テクノ(とくにデリック・メイとカール・クレイグ)に与えた影響はあまりにも大きい。
ハードは、それから40年近くの時間を経て、15枚のソロ・アルバムと50枚以上のシングル盤を出している。アンビエント、ダウンテンポなジャズ、R&B、アシッド・ハウスからテクノ……。高校時代はジャズ・フュージョンのバンドのドラマーとして奇数拍子を叩くのが好きだったハードは、卒業後、市の社会保障局での夜間勤務をはじめたため、当時街を席巻したハウス・ミュージックをクラブではなくラジオで知った。彼は最初、ドラムマシンを買い、しばらくしてからローランドのJupiter 6を買った。そしてカセットレコーダーで録音したのが、“Mystery of Love”(そして “Washing Machine” )だった。1985年、自身のレーベル〈Alleviated Records〉を設立し、ハードはその曲の12インチ・シングルを自分で売った。
クラブ・ミュージックの歴史では、素人が偶発的に作ったモノが大受けし、ものすごい影響力を持ってしまうことがある。ラリー・ハードにそれはない。すべての曲は彼が意図をもって創造したものだった。『Another Side』(1988)と『Ammnesia』(1989)という決定的なアルバムのあと、メジャーからの2枚のアルバム『Introduction』(1992)と『Back To Love』(1994)ではR&Bからニュー・ジャック・スウィングまで披露したハードだが、彼はメジャーで稼ぐことよりも自分の音楽道を優先することにした。ゆえにハードは、数年のあいだは、仕事をしながら音楽制作をするというライフスタイルを選んでいる。彼にとって重要なのは、その音楽が自分にとって純粋であるということなのだ。それはいまでも一貫している(1994年から2005年にかけて、ハードは自身の名義で9枚のアルバムを出しているが、それはメジャーに「Mr.Fingers」という名義を買われてしまったからだった)。
だが、2018年、20年ぶりにミスター・フィンガーズ名義のアルバム『Cerebral Hemispheres』を〈Alleviated Records〉からリリースし、昨年と一昨年には『Around the Sun』を連続でリリースして、世界のいろんなところにいる彼のファンを喜ばせた。ここにきて精力的な展開を見せているハウス・ミュージックから登場した眩い巨星の、以下、来日直前インタヴュー。どうぞ。
シカゴはときどき恋しくなります。 何年も住んでいたから、シカゴの人びとや物事、そして全体的な雰囲気が恋しい。 しかし、私は別のところへと進化してきた。
■まだメンフィスに住んでいますか?
LH:はい、いまもメンフィスに住んでいます。引っ越しというのは、住む場所を変えるという大きな仕事だ。だから、いつも遊び半分でやっているわけじゃない。だから、メンフィスに定住して楽しんでいます。
■シカゴが恋しいですか?
LH:そうですね、シカゴはときどき恋しくなります。 何年も住んでいたから、シカゴの人びとや物事、そして全体的な雰囲気が恋しい。 しかし、私は別のところへと進化してきた。そのほうが自分にとって平和だし、自分の考えを聞いたり、自分のアートに集中するために必要な静けさが得られるんです。
■2022年〜2023年、2年連続で『Around the Sun』をリリースしました。この2作には、ハウス、ソウル、ジャズ、フュージョンなど多彩な音楽性があり、あなたの集大成的な作品のように感じました。
LH:ああ、これらのレコーディングはすべてロックダウン中に完成しました。そしてそれはいつも......作品の集大成なのかどうかわからないけど......以前は別々に使っていたプロジェクト名が、いまはひとつの場所に集まったような感じなんです。
そう、だから、そういうことなんです。 ジャズもあれば、クラシックもあるし、トライバルな要素もある。いろんなところに行ける。 音楽は冒険です。
■家ではどんな音楽を聴いていますか?
LH:なにか特定の音楽というよりは、ほとんどすべてのスタイルの音楽を聴いています。自分のリスニングを自分で記録はしてないので、それが何かは……、そんなことを考えること自体が私には不自然なんです。私は本当に、いま自分が楽しんでいることを楽しんでいるだけです。その瞬間にいるのであって、そのことを記録したりはしていません。でも、じつはメンフィスでラジオ番組をやっているんです。誰でもそれを知ることができるように、あらゆる種類の音楽をブラウズしています。WYXR.org、 そこに私の番組がアーカイヴされています。ここにはプレゼンターという仕事をしているときの私の仕事があります。自分のためだけでなく、つねに人びとのために音楽をかけています。
■あなたは、ここ数年は、聴力器官の関係でDJとしての活動はあまりしていないのでしょうか?
LH:ツアーはいくつかやりました。 2017年からロックダウンがはじまるまでのあいだは、ライヴ・ツアーをしました。自分の聴覚は、いまでも守る必要があるんですけど。できるだけ気をつけようと思っています。
■日本のツアーに関してコメントをいただけますか?
LH:日本に戻れてうれしいです。そして、私が来ることを喜んでくれていることもうれしく思います。
誰かに何かを感じろと言うつもりはありません。「それ」とは、人それぞれです。 何を感じるかを人に指図するのは、ある意味支配的です。
■「Can you feel it?」は、ハウス・ミュージックの本質を言い表しているような言葉ですよね。今回の日本ツアーを通じて、もちろん音楽を楽しんでもらうことが前提ですが、リスナーに何を感じてもらいたいと思いますか?
LH:誰かに何かを感じろと言うつもりはありません。「それ」とは、人それぞれです。 何を感じるかを人に指図するのは、ある意味支配的です。 そう、ひとびとには自由が必要です。参加することで、その人が個人として何を感じるかを感じることができます。すべての人が同じ人間ではありません。だからひとりひとりが違う何かを感じることになります。私はつねに最高の音楽をプレイしようと心がけています。 可能な限り最高のものをです。 そして、オーディエンスが何に反応するかに注意を払います。そして、必要に応じて調整します。
■あなたは数年前に、ようやく自分の曲の権利をTRAXから得ることができましたが、あなた自身の過去の作品のアーカイヴ作業は進んでいるのでしょうか? コンピレーションを出す予定はありますか?
LH:ええ、そうです。 何百曲も何千曲も作ってきましたが、私の音楽カタログの大部分は〈TRAX〉とは関係ありません。3、4曲はあるかもしれません。とんでもないことになっていましたが……。とにかく、過去の曲を使っていろいろなことができるようになるにつれて、私は、自分の作品のカタログの大きな部分に焦点を当てなければならないでしょう。ただ、いまはまだその予定はありません。
■あなたのシカゴ時代、80年代に作った作品で、いまでもとくに思い入れがあるのはどの作品でしょうか?
LH:“Mystery of Love”は初期の曲だけど、いまも特別な曲です。あの曲にはロバート(オウェンス)も参加しています。いま、私たちは一緒に交流し、創造しはじめています。だから特別なんです。 この曲のヴォーカル・パートは私にとっては画期的な出来事でした。なんとかうまくいったし、素晴らしいことでした。ただ、どの曲にも特別な思い入れがあります。プレハブのサンプルをただ寄せ集めたようなものではありません。長い年月と進化を経ていま振り返れば、前時代的な方法で作られたものです。それでも私から生まれたものであって、私の小さな小さな手で演奏されたものなんです。
■“Mystery of Love”がカニエ・ウェストにサンプリングされたことで、あなたのリスナーは増えたと思いますか?
LH:そうは思いません。 ビッグネームが来て、突然自分の大ファンになったからといって、感動することはないでしょう。 名前が重要ではありません。その名前と一緒に去っていくことが問題です。誰かの宣伝に頼りたいとは思いません。 トレンドや誰かの影響などではなく、私が出会いたいのは、自分の音楽に真摯に向き合ってくれる人たちです。
■シカゴの若い世代が生んだ、フットワークのような音楽は聴かれますか?
LH:フットワークが何なのか正確には知らないのです。だから、それについて何か言うには、実際に見たり聞いたりする必要があります。それに、ジャンル用語というものは、世代から世代へと移り変わるものです。私は引退した人間ではないし、音楽を聴く以外は何もせずに座っているわけでもありません。 音楽以外のことをする生活もあります。家事や育児も自分でしています。だから、あらゆるスタイルやムーヴメントを研究する時間がないのです。
私はそして、その状況に美を吹き込み、穏やかさのなかにセラピー効果のある音楽を吹き込もうとしています。 躁鬱で怖くて抑圧的とか、そういうものではありません。つねに問題があるからこそ、私は安らぎを注入しています。世界は完璧ではないし、これからも完璧にはならないでしょう。
■あなたが若かった80年代、90年代のアメリカに比べて、現代のアメリカ社会は良くなっていると思いますか?
LH:政治的な質問ですね。 私はミュージシャンです。ミュージシャンとして、いま起こっていることにポジティヴな何かを吹き込もうとしています。私がいる場所、他のみんながいる場所のために。みんなここにいるんです。だから、何が良いのか、何が悪いのか、すべてを議論しています。悪いと思うのなら、良くするために何かしているのでしょうか? 悪くするようなことをしているのでしょうか? ポジティヴなことをしているのなら、それ自体が良くしようとしていることになります。アメリカが良くなろうが悪くなろうが、私にはどうすることもできません。 私はひとりの人間に過ぎない。ここには何億人もの人びとがいます。他の人たちが何をしようと、私にはどうすることもできない。私がコントロールできるのは、私がすることだけです。私はそして、その状況に美を吹き込み、穏やかさのなかにセラピー効果のある音楽を吹き込もうとしています。 躁鬱で怖くて抑圧的とか、そういうものではありません。つねに問題があるからこそ、私は安らぎを注入しています。世界は完璧ではないし、これからも完璧にはならないでしょう。しかし、音楽や芸術のような、ちょっとした楽しみや癒しみたいなものがあるんです。。
■いま、あなたが音楽を制作するうえでのインスピレーションはどこから来るのでしょうか?
LH:哲学的な質問のひとつですね。 実際に音楽家になっている人たちが、インスピレーションがどこから来るのかを考えているのか、あるいは、別のシナリオとして、インスピレーションを受けるたびに、横道にそれてドキュメントを書き始めるということもないでしょう。音楽をやりながら自分の伝記作家にもなるという、これらふたつのことは同時にできません。私は、作曲、クラフト、エンジニアリング、そして最近必要とされている他のすべてのことに100パーセント集中したいと思っています。新しい音楽テクノロジーやその他もろもろに。 そんなことをしていると、 宇宙のなかで物思いにふける時間もないのです。私はスタジオにいなければならないんです。
■最後に、日本のファンにメッセージをください。
LH:愛しています。 私のことを気にかけてくれてありがとう。 また日本に来て音楽を分かち合えることを楽しみにしています。そして、特別な経験をしましょう。まだ経験したことがない、その経験が何であるかは言えない経験を。いいものになると期待しています。

【Larry Heard aka Mr.Fingers Japan Tour 2024】
4.26(Fri) 名古屋 @Club Mago
music by
Larry Heard aka Mr.Fingers
ayapam D.J. (WIDE LOOP)
Longnan (NOODLE)
2nd room DJ:
xxKOOGxx (Raw Styelz, VINYL)
HIROMI. T PLAYS IT COOL.
food: ボヘミ庵
Open 22:00
Advance 3,000yen(https://club-mago.zaiko.io/item/363289)
Door 4,000yen
Info: Club Mago http://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818
4.27(Sat) 東京 @VENT
=ROOM1=
Larry Heard aka Mr.Fingers
CYK
=ROOM2=
SHOTAROMAEDA
SATOSHI MATSUI
Pixie
Hikaru Abe
Open 23:00
DOOR: 5,000yen
ADVANCE TICKET: 4,500yen (優先入場)
(https://t.livepocket.jp/e/vent_20240427)
SNS DISCOUNT: 4,000yen
Info: VENT http://vent-tokyo.net
東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1 TEL 03-6804-6652
4.28(Sun) 江ノ島 @OPPA-LA
- the ORIGINAL CHICAGO -
DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ IZU
artwork SO-UP (phewwhoo)
supported Flor de Cana
Open 16:00 - 22:00
"Limited 134people" Mail Reservation *SOULD OUT*
5,000yen / U-23 : 3000yen (http://oppa-la.net)
Door
6,000yen / U-23: 4,000yen
Info: OPPA-LA http://oppa-la.net
神奈川県藤沢市片瀬海岸1-12-17 江ノ島ビュータワー4F TEL 0466-54-5625
5.2 (Thu) 大阪 @Club Joule
DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ Ageishi, YAMA, Chanaz (PAL.Sounds)
PA: Kabamix
Coffee: edenico
Open 22:00
Door 5,000yen
Advance 4,000yen (e+ 3/22~販売
https://eplus.jp/sf/detail/4073520001-P0030001)
U-23 3,000yen
Info: Club Joule www.club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F TEL 06-6214-1223
Larry Heard a.k.a Mr.Fingers (Alleviated Records & Music)
ゴッドファーザー・オブ・ディープハウス、シカゴハウスのオリジネーター、Mr.FingersことLarry Heardはシカゴのサウスサイドで生まれ、両親のジャズやゴスペルのレコードコレクションから音楽に興味を示すようになる。ローカルバンドでドラムを演奏していたが、シンセサイザーに魅かれ、1984年からシンセサイザーとドラムマシンでの音楽制作を開始する。1985年、Mr.Fingersとして”Mystery Of Love” でレコードデビュー。シカゴではハウスミュージックが全盛期を迎える中、1986年にリリースされたMr.Fingers ”Can You Feel It”は説明不要のハウスミュージック名曲として知られる。
1988年にリリースされたMr.Fingersファーストアルバム『Amnesia』や、Fingers Inc.(Larry Heard、Robert Owens、Ron Wilson) アルバム『Another Side』ではハウスミュージックの創造性を追求し、シカゴハウス最高峰アルバムとして評価されている。1992年、ディープハウスを背景にR&Bやジャズ、コンテンポラリーな要素を取り込んだ、Mr.Fingers アルバム『Introduction』でMCAよりメジャーデビュー。
1994年、Black Market Internationalよりリリースされた、Larry Heard名義としてのファーストアルバム『Sceneries Not Songs, Volume One』では、フュージョンやニューエイジをLarry流に昇華し、チルアウトやダウンテンポに傾倒した作風によってアンビエントハウスという言葉を産んだ。
作品はその後もコンスタントにリリースされながらもLarryは突如シーンからの引退を宣言し、コンピュータープログラミングの仕事に専念するためにメンフィスに移る。
Track Mode主宰のBrett Dancerを筆頭に、アトランタのKai AlceやデトロイトのTheo Parrishらの功労によって、アンダーグラウンドなネットワークを通じてLarryは再度シーンと接触し、2001年にLarry Heard名義のアルバム『Love's Arrival』のリリースを伴いカムバックする。
現在もメンフィスを拠点に活動し、Mr.Fingers名義での最新アルバム『Around The Sun Pt.1』(2022年)、『Around The Sun Pt.2』(2023年)を自身主宰のレーベルAlleviated Records&Musicからリリース。
彼の過去の作品が数多く再発されている近今、13年振りの来日となる。
橋本徹手がけるコンピ・シリーズ「Free Soul」がスタートしたのは1994年。つまり今年で30周年を迎える。このアニヴァーサリーを祝し、VINYL GOES AROUNDからTシャツの登場だ。なんとヴァリエーションは30! しかも昨年発売されたときとは異なる30色だという。さらにトートバッグも3ヴァージョンが展開。完全受注生産とのことで、早めにチェックしておいたほうがよさそうだ。
今年もやります。Free Soul Tシャツが昨年とは違うカラーバリエーションで30色展開。加えてレコード収納できるトートバッグも3色で販売!

1994年に始まったコンピレーション・シリーズの“Free Soul”30周年を記念して、VINYL GOES AROUNDでは、昨年に引き続き“Free Soul”のロゴをプリントしたTシャツを販売いたします。昨年同様30種類のカラーバリエーションですが、昨年の色の組み合わせとは全く異なるバリエーションでお届けいたします。またレコードの収納が可能な“Free Soul”オリジナル・トートバッグも3色で展開いたします。
完全受注生産になりますのでお早めにどうぞ。
※1万円以上のお買い上げで日本国内は送料が無料になります。
※商品の発送は 2024年6月上旬ごろを予定しています。
https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-1041/
VGA-1041
Free Soul Official T-Shirts
Military Green / Mint Green / Light Blue / Lime / Safety Green / Dark Chocolate / Charcoal / Natural / Cardinal Red / Gold / Cornsilk / Sapphire / Stone Blue / White / Black / Navy / Ash / Indigo Blue / Purple / Pistachio / Red / Royal / Olive / Orange / Sand / Sky / Sport Gray / Irish Green / Prairie Dust / Maroon
S/M/L/XL/2XL
¥3,000 (With Tax ¥3,300)
VGA-1042
Free Soul Official Tote Bag
Natural / Blue / Pink
H40cm × W33cm × D15cm (Handle 58cm)
¥3,000 (With Tax ¥3,300)
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。
※期間限定受注生産(~2024年5月12日まで)
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
1977年のCANとはいえ、興味深いことこのうえない。とくにクラブ・ミュージック・リスナーからは圧倒的に支持されている『Flow Motion』(1976)を経てからのライヴ。つまり、ディスコ、ダブ、レゲエの影響を吸収してからのCAN、しかもここにはベースでロスコー・ジーが参加、ホルガー・シューカイはエレクトロニクスに集中している。早く聴きたい。本シリーズもいよいよ佳境にですな〜。

CAN (CAN)
ライヴ・イン・アストン 1977 (LIVE IN ASTON 1977)
発売日:2024年5月31日(金)
TRCP-310 / JAN: 4571260594425
2,500円(税抜)
紙ジャケット仕様
元セックス・ピストルズ/ グレン・マトロックによるオリジナル・ライナーノーツ
及びその日本語訳付
Tracklist
1 Aston 77 Eins
2 Aston 77 Zwei
3 Aston 77 Drei
4 Aston 77 Vier
■プロフィール
CANはドイツのケルンで結成、1969年にデビュー・アルバムを発売。20世紀のコンテンポラリーな音楽現象を全部一緒にしたらどうなるのか。現代音楽家の巨匠シュトックハウゼンの元で学んだイルミン・シュミットとホルガー・シューカイ、そしてジャズ・ドラマーのヤキ・リーベツァイト、ロック・ギタリストのミヒャエル・カローリの4人が中心となって創り出された革新的な作品の数々は、その後に起こったパンク、オルタナティヴ、エレクトロニックといったほぼ全ての音楽ムーヴメントに今なお大きな影響を与え続けている。ダモ鈴木は、ヴォーカリストとしてバンドの黄金期に大いに貢献した。2020年に全カタログの再発を行い大きな反響を呼んだ。2021年5月、ライヴ盤シリーズ第一弾『ライヴ・イン・シュトゥットガルト 1975』を発売。同年12月、シリーズ第二弾『ライヴ・イン・ブライトン 1975』を発売。2022年10月、シリーズ第三弾『ライヴ・イン・クックスハーフェン 1976』を発売。2024年2月、ダモ鈴木 逝去。同月、ダモ鈴木が在籍していた黄金期のライヴ盤『ライヴ・イン・パリ 1973』を、続いて本作『ライヴ・イン・アストン 1977』を5月に発売。
www.mute.com
http://www.spoonrecords.com/
http://www.irminschmidt.com/
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ちょうど1年ぐらい前に公開された映画『レッド・ロケット』は落ちぶれたポルノ男優がテキサスに戻り、別居していた妻の家に転がり込むところから話は始まる。サイモン・レックス演じるマイキー・セイバーは虚勢だけで生きている男で、けして弱みは見せず、マリファナを売りさばく仕事にありつくとまたたく間に勢いを取り戻していく。そして、ドーナツ・ショップで働くストロベリーちゃんをロサンゼルスで売り出せば業界でもう一花咲かせられるという野心を抱くようになり、計画を実行に移そうとする……。マイキーはエネルギッシュで猥雑、デリカシーのかけらもなく、とてもパワフルな男として描かれる。この作品が何を表現しているかは明確で、作品の冒頭、マイキーが故郷に足を踏み入れると、そこにはくたびれた看板が置いてあり、彼の背中を見送るようにして「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」の文字が大写しになる。そう、マイキー・セイバーとはトランプ支持者のことであり、『レッド・ロケット」が提示するのは「アメリカをもう一度偉大にする」とは具体的にどんな人がどんな動機で何をするのかという一例なのである。タイトルに使われた「レッド・ロケット」とは犬のペニスが勃起している状態を指すスラングで、監督のショーン・ベイカーがその前に撮った『フロリダ・プロジェクト』と同じくラスト・シーンはマイキーの願望が凝縮されたファンタジー・ショットで締めくくられる(前作では泣かされたけれど、今回の幻想は大笑い)。
敗者としてテキサスに戻ってきたマイキー・セイバーがトランプ支持者の心情を映し出しているとしたら、テキサス出身のビヨンセがアメリカ3部作のパート2にあたる『Cowboy Carter』でテキサスやアメリカ南部を再び視野に入れる時、それは民主党支持を表明する勝ち組の視点から見えているものがここには潜んでいると疑うべきだろう。ビヨンセがパンデミックを機に制作を始めた「アメリカ3部作」のパート1にあたる『Renaissance』が都会の風景だったとしたら、自身の本名とリベラルを代表するジミー・カーターの名を掛け合わせたらしきタイトルの『Cowboy Carter』が描き出すのはカントリー・サイドの眺めであり、幼少期の記憶を更新しながら、それこそデヴェロッパーのような改造が南部の音楽に施されたものとなっている。カントリーやブルースやロックンロール、あるいはブルーグラスやザディコやニューオリンズ・ファンクがトラップやコンテンポラリーと接続され、モダンにつくり変えられた南部の心象風景として展開されている。ビヨンセ自身はそれらをクロスオーヴァーとは捉えていず、白人の音楽だと考えられているカントリー・ミュージックなどにブラック・ルーツを見出す作業だったと発言している。いわば「見落とされてきた歴史」を顕在化させる試みということだけれど、どうだろう? 実際、リンダ・マーテルを始め、カントリーと深く関わってきた黒人ミュージシャンが多数起用され、歴史の教科書を正確に書き直す性格を持たされていることは確かだけれど、ビヨンセの検証は音楽史を隅から調べ上げたように厳密なものではないし、僕にはむしろビヨンセが幼少期に聞いていたカントリーやサザン・ソウルの影響でアルバム全体に70年代のトーンを帯びていることが興味深かった。オープニングからしてザ・フーみたいだし、全体に幼少期のビヨンセがラジオを聴いているという設定らしく、ノイズの合間からチャック・ベリーが流れ、配信オンリーの “Ya Ya” ではナンシー・シナトラやビーチ・ボーイズがサンプリングされている。あるいはデラニー&ボニーやデレク&ドミノスといった70年代のサザン・ロックがダブって聞こえる曲も少なからずで、70年代に白人のロック・ミュージシャンがブラック・ミュージックに入れ込んでいた時と裏返しの心情が投影されているような気がしてくる。オリジナルの “Protector” だけでなく、 “Jolene” のようなカントリーの代表作をビヨンセがカヴァーしているというと、ふざけているとか、共和党=カントリーという図式にビヨンセが殴り込みをかけているような印象を持ちがちだけれど、70年代にエリック・クラプトンなどがやっていたことが搾取というよりは憧れに基づく行為だったように、いずれの作業も単純に音楽で人種という壁を乗り越えていたと感じられる要素の方が強い。少なくとも僕にはそう感じられた。ビヨンセが何を意図していたにせよ、『Cowboy Carter』には無意識に滲み出してしまう部分に予想外の面白さがあり、取り込んだ要素に逆に侵食されている面もあるのではないだろうか。民主党支持を表明する勝ち組ならではの平和的なヴィジョンが無邪気に展開され、単純にそれを楽しめるか、もしくは不快に感じるかは聴く人のポジションによって様々に異なることも容易に想像できる。アメリカの政治的な風土から遠く離れた日本列島で聴く限り、 “Bodyguard” は折衷派の先駆けであるスライにも聞こえるし、チャック・ベリーのカヴァー “Oh Louisiana” はレジデンツかオート・チューンを使ったスワンプ・ドッグにも聞こえてくる。ちなみに参加ミュージシャンもスティー・ワンダー、マイリー・サイラス、ポール・マッカートニー、ウイリー・ネルソン、ポスト・マローンと、どこかで線を引いて分断することがしにくいメンツになっている(そういう人たちがわざわざ選ばれている?)。また、3部作のパート2だからか、 “II Most Wanted” や “Riiverdance” のように “i” と表記すべき部分がすべて “ii” と表記され、ポール・マッカートニーのカヴァーも “Blackbiird” となっているのに、なぜか “Oh Louisiana” だけは例外的に “i” のままである(?)。
ビヨンセはアメリカ3部作で彼女なりの『音楽図鑑』のようなものをつくりあげるつもりなのだろう。まさかのハウスやまさかのカントリーの次は、まさかのジャズか、まさかのメタルだろうか。それともパート1が東海岸でパート2が南部だったからパート3は西海岸?
冒頭で「すべてを失ったトランプ主義者と、すべてを手に入れた民主党支持者」を対比させ、共和党支持者に僕は言及しなかった。トランプ支持者には共和党の支持者ももちろん含まれるだろうけれど、カニエ・ウエストとドナルド・トランプを繋いだキャンディス・オーウェンズのように元々は民主党支持だったという人が少なからずいて「トランプ対民主党」という構図はリベラル同士で反目し合っている内ゲバのような面も強いと僕は思っている。現在、トランプにもバイデンにも投票したくない人たちはアメリカでダブル・ヘイターズと呼ばれている。アメリカに住む僕の友人はオバマ以前からすでにそうした気持ちになっていると話してくれたことがあるし、コメディ作家のティナ・フェイは彼女の代表作『30ロック』で「(次の選挙で)みんなにはオバマに入れると言っているけれど、私は入れないもんね」とウィンクし、「民主党を信用できない」という空気を2000年代初頭に早くもギャグにしていたことはさすがだというしかない。共和党にも民主党にも入れたくない。その頃からこれが正解だったはずなのに、新自由主義に舵を切った民主党に絶望し切れなかったリベラルが単にもう一方の選択肢だったトランプや共和党支持に反転してしまったことはどう考えても視野の狭い判断でしかない。与えられたものの中からしか選べない。自動販売機の外側に選択肢を持たないとしたら、あなたは民主党を支持するビヨンセの『Renaissance』を聴きますか? それとも『Cowboy Carter』を聴きますか?
