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The Greg Foat Group

The Greg Foat Group

Dark Is The Sun

Jazzman/Pヴァイン

Amazon iTunes

野田 努 Aug 01,2011 UP

 このアルバムは2ヶ月近く前に都内の輸入盤店で噂となって、あっという間に売り切れている。クラブ系からインディ・ロック系にまで幅広く受け入れられていることからも、ある種の"時代の音"とマッチしたことは明らかだ。しかもそれがジャズの再発レーベルとして知られる〈ジャズマン〉からのリリースというのが驚きだ。UKのジャズ・ピアニスト、グレッグ・フォートのファースト・アルバム『ダーク・イズ・ザ・サン(太陽は暗い)』は、いま、チルウェイヴ世代/ポスト・ダブステップの世代にも拍手されているジャズの1枚である。

 ザ・グレッグ・フォート・グループは、本作の前にデビュー・シングルとなる10インチを限定で発表しているが、それがまず多くの耳と目を惹きつけている。ちょうどそれは、キティ・デイジー&ルイスとも似ているところがある。100%アナログ録音による反デジタル主義を完璧に遂行したもので、アートワークからその録音方法や音質など細部にわたって気を配っている。
 さてさて、先日僕はオッド・フューチャーやクラムス・カジノの無料ダウンロードにハマってハードディスクの容量が心配だと書いたら、親切な友人から「その認識は甘い」との指摘を受けた。そして、彼はダウンロード文化の現状を教えてくれたわけだが、僕としては自分の脳天気さを痛感するしかなかった。ああー、これかー、すごいなー。デジタル文化のそうした無法地帯を知れば知るほど、ミックステープもプロモーションというよりはどうせ無料で聴かれるんだから......という諦念がうながした切実な状況とも言えなくはない。USインディにおけるアナログ盤とカセットテープへの回帰もそういう意味ではミックステープと裏表の関係で、いずれにしてもデジタル文化が音楽産業にとって必ずしも前向きなものではなかったことを証明している。音楽とはいまや「何を表現するのか」のみならず、それをどのように伝達させるのかというところまで考えなければならない。面倒な話だが、80年代にアナログ盤工場を容赦なく閉鎖させていった日本にとっては輪をかけてゆゆしき問題だろう。
 よってキティ・デイジー&ルイスのような執念にも似たアナログ主義もデジタル消費への抵抗という点において意味がある。が、いっぽうではこうしたレトロ趣向には中道(MOR=Middle of the road)という落とし穴があるのも事実だ。これはいち部のジャズ系が陥ったパターンで、結局はイージー・リスニングやソフト・ロック、スムース・ジャズ、二流のボサノヴァ、あるいはオールディーズやアバといったいわばMORのコレクションへと展開する。それはまあ、責めるべきではないかもしれないが、極端な話、雑貨屋で売っている部屋の装飾物と変わりのないものだ。チルウェイヴにもそうしたリスクはある。ネオン・インディアンがもし最初に"シュド・ハヴ・テイクン・アシッド・ウィズ・ユー(アシッドを君とやるべきだったかい?)"を発表しなければ、本当にポスト・アバやポスト・デュラン・デュランの階段を上がっていっただけなのかもしれない。そこへいくと『ダーク・イズ・ザ・サン』は強い気持ちが入ったアルバムだ。チルウェイヴとも共通するメロウなフィーリングを有し、アンビエント・テイストも含まれているが......この音楽は基本的にはソウルフルに迫ってくる。

 ザ・グレッグ・フォート・グループは、ベース、ギター、ドラム、パーカッション、サックス、トランペット、トロンボーンなどの演奏者を従えてのバンドで、フォートはピアノ、ハモンド・オルガン、シンセサイザー、そしてハープシコードを演奏している。フリューゲルホルンやハープシコード、あるいは12弦ギターといっった古典的な楽器の美しい響きを際だたせながら、彼は『コスモグランマ』と同じような方向性を展開している。アートワークやタイトルが暗示するように、サン・ラーの宇宙旅行のようなコズミック・コンセプトが見える。
 ハープシコードとダブルベースを使ったドラマティックなオープニング・トラックの"タイム・ピース1"、12弦ギターのコード弾きからはじまるファンキーでグルーヴィーな"ダーク・イズ・ザ・サン・パート1"も素晴らしいが、フリューゲルホルンの温かい響きを擁した"ハロー・オールド・フレンド"と6/8拍子の"ダーク・イズ・ザ・サン・パート4"が出色のできだと思う。アルバムの録音はスウェーデンのほかロンドンのドリス・ヒルでもおこなわれていると記されているが、市の北にあるドリス・ヒルと言えば4ヒーローの本拠地だ。実際に彼らが関わっているのかどうか......そこはわからない。"敢えて"そうしているとしか思えないほど、ネットを検索してもこのアルバムに関する情報はないのだ。反デジタル、反ネット社会、反電子イクイップメント......それなりの気骨を感じるし、たしかにこのコズミック・ジャズはスタイルこそ違えど『パラレル・ユニヴァース』の感性とそれほど離れてはいない。

野田 努