ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Wool & The Pants - Not Fun In The Summertime | ウール&ザ・パンツ
  2. PAS TASTA - GRAND POP
  3. Nujabes Metaphorical Ensemble & Mark Farina ──ヌジャベスの音楽を未来につなげるイヴェント「flows」、会場ではマーク・ファリナのミックステープが先行販売
  4. ele-king vol.34 特集:テリー・ライリーの“In C”、そしてミニマリズムの冒険
  5. Albert Karch & Gareth Quinn Redmond - Warszawa | アルベルト・カルフ、ガレス・クイン・レドモンド
  6. Columns Squarepusher 蘇る00年代スクエアプッシャーの代表作、その魅力とは──『ウルトラヴィジター』をめぐる対話 渡辺健吾×小林拓音
  7. Columns エイフェックス・ツイン『セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2』をめぐる往復書簡 杉田元一 × 野田努
  8. Tyler, The Creator - Chromakopia | タイラー、ザ・クリエイター
  9. Shabaka ──一夜限り、シャバカの単独来日公演が決定
  10. interview with Wool & The Pants 東京の底から  | 德茂悠(ウール&ザ・パンツ)、インタヴュー
  11. patten - GLAQJO XAACSSO
  12. PAS TASTA - GOOD POP
  13. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2024
  14. interview with Kelly Lee Owens ケリー・リー・オーウェンスがダンスフロアの多幸感を追求する理由
  15. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  16. interview with Neo Sora 映画『HAPPYEND』の空音央監督に(主に音楽の)話を訊く
  17. Jabu - A Soft and Gatherable Star | ジャブー
  18. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2
  19. Wool & The Pants ——新作を出したウール&ザ・パンツが、年明けの2月には初のワンマン・ライヴを新代田FEVERにて開催
  20. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」

Home >  Reviews >  Album Reviews > Matthew Halsall & Gondwana Orchestra- Into Forever

Matthew Halsall & Gondwana Orchestra

Contemporary Jazz

Matthew Halsall & Gondwana Orchestra

Into Forever

Gondwana

Tower HMV Amazon

小川充   Oct 20,2015 UP

 マンチェスターのジャズ・レーベルの〈ゴンドワナ〉は、ナット・バーチャル、ゴー・ゴー・ペンギン、ママル・ハンズと、UKの新世代ジャズを牽引するアーティストを生み出してきた。中でもトランペット奏者のマシュー・ハルソールは、2008年のレーベル設立第1号アーティストであり、現在はレーベルを離れたサックス奏者のナット・バーチャルとともに、レーベルの屋台骨を背負ってきた。デビュー作の『センディング・マイ・ラヴ』を皮切りに、これまでに5枚のアルバムを発表しており、そこにはテナー・サックスのバーチャルが参加していた。一方、バーチャルの〈ゴンドワナ〉時代のアルバムにはハルソールが参加し、同時にプロデュースも手掛けるなど、両者は名コンビの間柄だ。このコンビは、英国ジャズの伝説的な楽団であるドン・レンデルとイアン・カーの双頭クインテットを現代に置き換えた存在と言え、彼らが1960年代中盤から後半にかけて行っていたモード奏法を咀嚼した演奏スタイルだった。そんなモーダル・ジャズが開花したのが2011年の3作め『オン・ザ・ゴー(On The Go)』である。

 ハルソールのバンドのもうひとつの特徴として、女性ハープ奏者のレイチェル・グラッドウィンの存在が挙げられる。彼女は2009年のセカンド・アルバム『カラー・イエス』から参加しており、これまた昔のミュージシャンにたとえるならアリス・コルトレーンのような存在だ。次第にハルソールの楽曲には東洋的なモチーフの作品が増えていくのだが、そうした場面では彼女のハープが琴や箜篌(中国のハープにあたる楽器)のような役割を果たしている。2012年の『フレッチャー・モス・パーク』ではヴァイオリンやフルート奏者も加わり、2014年の『ホェン・ザ・ワールド・ワズ・ワン』はゴンドワナのミュージシャンが結集したゴンドワナ・オーケストラとの共演。実際はオーケストラ編成ではなくセプテットを基本に、邦人の琴演奏家も交えて「清水寺」「嵯峨野竹林」のような和をテーマとした楽曲があり、アリス・コルトレーンに捧げた作品も披露している。ハルソールは作品を重ねるごとにディープでスピリチュアルな色彩を強めていったが、そんな彼の集大成と言える作品だ。

 それから1年ぶりの新作『イントゥ・フォーエヴァー』は、基本軸としては『ホェン・ザ・ワールド・ワズ・ワン』の延長線上にあるスピリチュアル・ジャズとなっている。バーチャルは不参加だが、ママル・ハンズのジョーダン・スマートがトランペットを演奏し、ハープと琴に加えてチェロ、ヴァイオリン、ヴィオラと弦楽器が厚みを増し、パーカッションも加わるなどして、今回は本当にオーケストラに近い編成へと進んでいる。そして、最大の特徴はシンガーをフィーチャーしている点だ。いままでは完全なインスト作品のみだったが、今回はジャマイカとリベリアをルーツに持つ女性シンガー・ソングライターのジョセフィーヌ・オニヤマ、ウェルカの作品にも参加する女流画家/インスタレーション作家/シンガーのバイロニー・ジャーマン=ピントをフィーチャー。ジョセフィーヌはもともとファンクなどを歌っており、“バッダー・ウェザー”や“オンリー・ア・ウーマン”に顕著だが、楽曲自体もソウルフルな歌声を生かしたものへと変化している。レイチェル・グラッドウィンのハープもアリス・コルトレーンと言うより、〈カデット〉時代のドロシー・アシュビーに近いイメージだ。全体の雰囲気としては、ノスタルジア77が2007年に残した傑作『エヴリシング・アンダー・ザ・サン』を思い起こさせる。また、US産ジャズとは異なるダークな雰囲気、品格の髙さが英国ジャズの伝統を引き継いでいる。カマシ・ワシントンの『エピック』を2015年のUS産スピリチュアル・ジャズの最高峰とするなら、本作はUK産のその最高峰となるだろう。

小川充