「!K7」と一致するもの

interview with Fat White Family - ele-king

 実存的な不安と戦いながら、根拠のない希望と根拠のある怒りを失わず、時代の波に乗ってやろう、尖ってやろうというパッションを持ったインディ・ロック、知性とユーモアと冒険心を持ったロック・バンドはいまどこにいるのだろうか? あ、いた。UKのファット・ホワイト・ファミリーのようにゴミ箱から這い上がってきたような連中を知るとちょっと安心する(笑)。

 彼らには、アウトサイダー、放蕩者、変人、ホームレス、元ドラッグ中毒者などなど……いかにもロックなエピソードがすでに多くある。それはいまどきオールドスクールでレトロ風味の伝説なのか、それとも、時代に風穴を開けることができるポテンシャルを意味しているのか。なにかと風紀委員化する日本という国にはとてもおさまりそうにない。が、こんな連中の音楽に、イギリスが世界にほこる『ガーディアン』をはじめ、あるいは本国の音楽メディアはかねてより共感と期待を寄せている。アークティック・モンキーズで有名な〈ドミノ〉レーベルは、ここ数年でもっともエキサイティングなロック・バンドだと評価し、彼らの新作をリリースすることにした。それが通算の3枚目の『サーフス・アップ!』である。

 ファット・ホワイト・ファミリーは、破天荒なバンドのようだが、音楽的にはじつに豊かで、じつに多彩だ。彼らのサウンドには、70年代初頭のソウルから70年代後半のポストパンク、サイケデリックからインダストリアル、クラウトロックからビーチ・ボーイズ、いろんなものの影響がミックスされている。歌はメロディアスで親しみやすく、ハーモニーがあり、アイデアの詰まった演奏とのバランスをうまく取っている。というか、基本どの曲もキャッチーだ。さあ、注目しよう、彼らはインディ・ロックの救世主か? ヴォーカリストであるリアス・サウジ、鍵盤担当のネイサン・サウジの兄弟ふたりにそれぞれ話を訊いた。最初はやはり、どうしてもブレグジットの話から──

俺たちは小さなグループで、俺たちのことを好きな連中は周りにほとんどいなかった。だから俺たちのほうも向こうとは関係を持たずに、ある意味孤立してたんだよ。で、向こうは……よくわかんないけど、モダンなインディ・ミュージックなんかを聴いてて、俺たちはそんなのクソじゃん、って思ってた。そういうんじゃなく、すごいのはブルース・スプリングスティーンだ!  とか(笑)。

ブレグジットのことですが、UKっていまけっこうカオスじゃないですか? 

ネイサン:誰にとってもよくわからないよ。混乱してる。なんていうか……右翼のリーダーたち、っていう小さなマイノリティが引き起こしたことが、大ごとになってる。いい気分はしないね。ある意味、絶望的でもある。まるでみんなが終末に向けて投票したみたいで。というか、人びとは何かしらの変化を求めて投票したのに、それはより悪い方向への変化だった。だから、『国民がそう投票したんだから、実現させろ』っていうのが合ってるとは俺には思えない。わからないけどね。

リアス:まあ、いま何が起こっているのか、何が起ころうとしているのか誰もがわかっていない状態ではある。イギリスってずっと昔からふたつの国がひとつの国に存在しているし、つねにカオスなんだけどね。あと、階級差が激しくて、ごく一部がディズニーランドみたいな生活をしていて、残りは労働者階級。俺の場合、親父はアルジェリア人の移民で、お袋は北アイルランド出身。だから、移民と移民を嫌う地域の中間で育ったんだ(笑)。
 でもまあ、いまUKがとくにカオスとは思わない。世界のいたる場ところで様々な出来事が起きているしね。お互いに耳を傾けることをしない状態が長く続いたんだろうな。自分の世界にこもって、狭い世界観のなかで皆が長い時間を過ごしすぎたんだと思う。いま、そのガタが来てるんだよ。トランプの当選だってその表れさ。彼も最低だけど、彼を選んだ人がそれだけいたということだからね。労働者階級の人びとの声がいま形になって見えてるんだ。ここまで表に出てきたんだから、もう目を背けることは出来ない。そういうカオスがいま起きているけど、それはいつだって起こりうること。生きていれば、そういうことは起こるのさ。

「Whitest Boy On The Beach」では、ジャケットもスロッビング・ギリッスルのパロディでしたが、そのサウンドにもそのPVにもTGの影がちらついています。と同時に、この曲においても“白人”ということがからかいの対象になっていますよね?

ネイサン:俺と兄のリアスとサウル(・アダムチェウスキー)の3人で、バルセロナに行ったんだ。バンドから抜けるって決めたときにバルセロナに行って、3人でビーチにいた。で、兄貴もサウルもかなり色白で、痩せてたんだよ。で、リアスがビーチ全体を眺めて、14歳くらいのやつでも自分たちより体もデカいし、日焼けしてる、って言ったんだ。「あいつらの方がずっとデカくていい体してる」って。ま、基本的に自虐的なギャグだったんだけど。『ヒョロヒョロの白人男がビーチにいる』って。まわりのラティーノのキッズはずっと健康的なのにね(笑)。そこから来てるんだ。つまり、俺たちはルーザーだ、っていうのから。

そもそもあなたがたの世代でロック・バンドをやろうなんて人はそれほど多くはないと思うんですけど、たとえば高校時代、音楽の話で気が合う友人はいましたか?

ネイサン:ていうか、俺たちは小さなグループで、俺たちのことを好きな連中はまわりにほとんどいなかった。だから俺たちのほうも向こうとは関係を持たずに、ある意味孤立していたんだよ。で、向こうは……よくわかんないけど、モダンなインディ・ミュージックなんかを聴いてて、俺たちはそんなのクソじゃん、って思ってた。そういうんじゃなく、すごいのはブルース・スプリングスティーンだ! とか(笑)。だから俺たちだけで孤立してた。
 ただ、ギター・バンドっていう話だけど、それっていちばん普通の楽器だよね? 最初に手に取る楽器って、大抵はギターだろ? で、「うわ、これなんだ? どうする? 何ができる?」って感じで。そこからサウンドを探っていって、レコードももっと聴いて、「この楽器はなんだ?」とか思うようになる。それで「あ、これなかなかいいじゃん」っていうのを見つけていくんだ。うん、鉄板焼き食べに行くときと同じ(笑)。最初はモヤシとか、ちょっとしたものからはじめるんだけど、だんだん「向こうのあいつが食べてるの、試してみよう」って、ナスを食べてみたり。好奇心ってやつだよ。

原口:まわりがそういう音楽を聴かず、バンドもいないなか、どうやってそういった音楽を発見したんですか? どんな音楽を聴いていましたか?

リアス:ボブ・ディラン、ジョニー・キャッシュ、レナード・コーエン。あとはちょっとだけどクラッシュとか。あの場所に住んでいたから、そういった音楽が、俺にとっては外の世界と繋がって入れる手段だった。兄貴がそういう音楽を聴いていて、俺に聴かせてくれたんだよ。それが大きかった。あとは、当時のガールフレンドの父親がでっかいレコード・コレクションを持ってて、彼もいろいろとおしえてくれたな。

あなたがたの音楽は雑食性が高く、たとえば“Fringe Runner”なんかのリズムはタックヘッドみたいだし、必ずしも約束通りのロックではないとは思います。ただ、形態はロック・バンドだし、やはりまわりのみんなはR&Bやラップ・ミュージックに夢中だったと思います。どうしてロック・バンドなどという、経済的にも人間関係的にも苦労するであろう表現形態を選んだのでしょうか?

ネイサン:それはいま言ったとおり、いちばんありふれてたから。それが結果的にどうなるとか、選んだわけでもなかった。それと、俺が聴く音楽はヒットしたやつだけなんだ。ゴールデン・ヒットってやつ。ジャンルは問わない。なんでもありなんだよ。ほんと、なんだっていい。その音楽がマジでファッキン・グッドであるかぎりは(笑)。昨日の夜はレギュレーターズを聴いてた。で、そこからヒプノティック・タンゴを聴いて、ソフト・セルを聴いて、エルヴィス・プレスリーを聴いて、締めにビートルズなんかを聴いたり。つまり、なんでもありなんだ。俺はバッハとか、クラシック音楽も聴くしね。セックスするときはいつも、なるべくクラシック音楽を流すようにしてる。五感が喜ぶような気がするからね。俺のお気に入りはヴィヴァルディとバッハだな。それに、ジャズでもなんでも……いいものは、なんでもいい! 音楽にはふたつのタイプがあるんだと思う。いい音楽と、悪い音楽。それだけだよ。

「アイ・アム・マーク・E・スミス」をやったのは、純粋に彼へのリスペクトもあったと思いますが、同時に、彼のことをよく知らないあなたと同世代のリスナーへのメッセージでもあったんでしょうか?

リアス:当時、俺がザ・フォールの真似をしているだけという批評があった。それへのレスポンスが「アイ・アム・マーク・E・スミス」。俺は、自分はある意味マーク・E・スミス(オールドスクールな)だと思ってる。たくさん彼の音楽を聴いてきたから、俺のなかにはマーク・E・スミスが強く存在している。俺はあの作品で、彼のキャラクターを演じたかった。あのタイミングでそれに挑戦するということは、俺にとってリスクだったけどね。ザ・フォールのファンに批判されるかもしれないし。でも俺は、あれを作って皆に封筒を差し出したんだ。

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いまの若くて貧乏な連中には、そういうアートを探るチャンスが与えられてない。金もゼロ、サポートもゼロ、方向性みたいなものもゼロだと、人が一番に求めるのは何かしらの安全、セキュリティになる。アートみたいなものは顧みなくなるんだ。

たとえばいまUKにはマーク・E・スミスのような人がいないことをあなたがたはどのように考えていますか? ひとつの解釈としては、労働者階級出身の良いロック・ミュージシャンが昔のようにはいなくなっているということがあると思いますし、もう昔のようにロックそれ自体が反抗の音楽でもないという考え方もあるんじゃないでしょうか?

ネイサン:どうかな……わからないけど、むしろ経済状況と関係してるんじゃないかな。いまの若くて貧乏な連中には、そういうアートを探るチャンスが与えられてない。金もゼロ、サポートもゼロ、方向性みたいなものもゼロだと、人がいちばんに求めるのは何かしらの安全、セキュリティになる。アートみたいなものは顧みなくなるんだ。すごく悲しいことだけど。とくに都市周辺はもともと物価が高いし、才能やマテリアル、すべての素晴らしいものへのアクセスにものすごく金がかかる。それに貧乏だと、金よりもまず、アートなんかかける時間がないんだよ。生活のなかにそのための時間がない。で、結局どんどんミドルクラスの連中が全部取りすることになるんだ。でも、ミドルクラスの連中が音楽を通じて表そうとするものは……なんていうか、多くの場合、そこには他の人びとに対して自分は何を意味するのか、みたいなものが欠けてるんだよね。本能的なもの、衝動みたいなものが。いまはほんと、そういうのばっかりで。それに対して俺が何を感じるかっていうと……失望だな。ロンドンとかで部屋を借りるのなんて、もう無理なんだよ。金がない連中はスクワットしてたけど、もう俺たちが最後くらいじゃないかな。残念な話だ。

そう、南ロンドンのペッカムって、なんかファッショナブルで、ちょっといまハイプになってきている感じもするんですけど、そんな場所であなたがたはスクウォットしていたという話を読みました。現代のロンドンは、物価も家賃も高くて、再開発されていて、もう貧乏人は住めない街で、昔のようにスクウォッターなんていない街だと思っていたので、意外に思ったのですが、ロンドンには、あなたがたのような生き方をしている人もまだいるってことですね?

ネイサン:いまはもうスクワットなんて無理だね。不可能だ。まあ、全部そういうもんなんだろうけど。浮き沈みがある。だろ? 都市が進化することもあれば、その進化ってやつが馬鹿馬鹿しかったり。まあ、俺としてはいい気分はしないよ。俺はもうロンドンじゃ部屋を借りる金なんてないし、まわりの友だちもみんなそうだし。

リアス:ここ何年かで、どんどん変わってきている。ニューヨークやベルリンと違っ、ロンドンにはレント・コントロールがないからね。どんどん高層ビルが建てられて、中国人の億万長者が建てているビルだから、建っても誰も住んでない。新しい建物が建っても、労働者階級の人びとは、そこに住めるわけがないんだ。そういう現象は起こっているけど、それでも南ロンドンは良い街だとは思う。俺たちももうブリクストンには住めないけどね。ブリクストンに遊びには行けるけど、住めはしないな。でも、遊びに行くには良い街だし、南ロンドンはいまも面白いと思うよ。

全裸なのは俺(笑)。しばらくやってたけど、やっぱトラブルになったから最近はやってない。俺はアートとして裸体に興味があるんだ。自分なりにGGアリンのライヴ・パフォーマンスを分析しているというか、そんな感じ。逮捕されたこともあるけどね(笑)。

メンバーに全裸の人がいますが、それって、ある種の開き直りというか、隠しごとなんてないからどこからでもかかってこい的な気持ちのあらわれだったりするのでしょうか?

リアス:全裸なのは俺(笑)。しばらくやってたけど、やっぱトラブルになったから最近はやってない。俺はアートとして裸体に興味があるんだ。自分なりにGGアリンのライヴ・パフォーマンスを分析しているというか、そんな感じ。逮捕されたこともあるけどね(笑)。

ネイサン:兄貴はただ、人から反応を引き出すのが好きなんじゃないかな。昔からああだったし。子どもの頃から、学校の教室でいきなり服を脱いで、机の上に立ってた。裸で他のキッズを見下ろしてね(笑)。だから、ずっとそうだったんだよ! まあ、どういう理由でやってるのか知りたかったら、きっとリアスと膝つき合わせて、あいつの精神分析をしないといけないだろうな。本当に本当の意味を知りたければ(笑)。ま、俺からすると、他人のリアクションを見るのが好きなんだと思う。あれがリアス的な人生の楽しみ方なんだよ。

『サーフス・アップ!』というタイトルが痛快でいいですね。この言葉を選んだのはなぜでしょうか?

ネイサン:サーフ(surf)っていうのは、いま、現在ってこと。で、いまって世界中で右翼ポピュリズムのムーヴメントが起きてる。で、人びとが共鳴して立ち上がってるんだけど、それこそが人びとをさらに抑えつけ、ひどい状況に引きずり込むものだっていう。あのタイトルはちょっとそれに言及してるんだ・

リアス:労働者階級がもっと自由になるために伸び上がるっていうのを表現したのがあの言葉。ブレグジット、トランプ、そういった現代の問題を総括したものがこのタイトルなんだ。ビーチ・ボーイズのアルバムをもじったと思われがちだけど、そうじゃない。たまたまそうなっただけだよ。

アルバムのアートワーク、これはいったい何なんでしょうか?

リアス:あれは、ニーチェ(※マーク・E・スミスのお気に入りの哲学者でもある)の”力への意志”と、スーパーマンのアイディアを表したものなんだ。ドイツのヒロイズム(※英雄的資質)。あとは、俺たちのお気に入りのバンド、ライバッハへの同意でもある。最終的に、俺たちは皆愛すべき利己主義者なんだよ。

ネイサン:俺たちはヨーロッパ的で古い感じの、自然のイメージが欲しかったんだ。どこか神話的なイメージ。何か誇れるような、いいものがね。でも必ずしも……うん、そういうイメージを好きになるのに、ナショナリストである必要はない。美しいものを誇りにしたっていいんだ。たしかに自然主義的な絵画、イメージを右翼は好んできたし、左寄りだとそういうイメージを使っちゃいけないことになってるのかもしれないけど、「なんでいけないんだ?」ってこと。誰だって使っていいんだよ。シンボルそのものは右翼でも、左翼でもないよね? ただのシンボルなんだ。そしてそれが表現すべきものを表現してる。なのに無理やり意味を付加されて、袋小路的な思考に押し込められてて。でもそれに従ってたら、もうトライバリズムしかなくなる。だろ?

“Tastes Good With The Money”(※イアン・デューリーの息子、バクスター・デューリーが参加))のような曲は、曲名からしてきっと新自由主義的なことをからかっているんだろうなとは推測するんですけど、アルバム全体で、メッセージのようなものはあるんですか?

リアス:曲それぞれでメッセージは違う。あまり歌詞の内容やメッセージを明確にはしたくないんだ。でも、英雄的苦しみ、男らしさのイメージの崩壊、ポピュリズム、自己愛とアート、そういったものが主なテーマだとは言えるかな。

“I Belive in Somthing Better”は、ろくでもないことばかりこのご時世でも良いことあるよっていう希望の曲なんですか? 

リアス:あの曲では、俺たちなりに環境保護について書いてみたかったんだ。セオドア・カジンスキーみたいな奴のことをいろいろな奴らがプロぶって崇めているけど、カジンスキーが爆弾で多くの人びとを殺し、負傷させた事実には触れもしない。俺たちはそれが馬鹿げていると思うし、そんな奴らが語っている理にかなっていない社会問題を超えた素晴らしいものがこの世のなかには存在しているということを書きたかった。

いまいちばん頭に来ていることといまいちばん楽しいことは?

リアス:頭に来ているのはブルジョア。あと、非現実的な希望を掲げて活動する政治家たち。あと、俺自身に十分な金がないことだな(笑)。ブリクストンに住めないくらい(笑)。楽しいことは、音楽で食べていけてはいること。アルバムを作れるくらいの余裕はある。あと、ドラッグ中毒じゃなくなったことと、アメリカ人の彼女がいないこと(笑)。

ネイサン:人間が環境崩壊に突き進んでることに対しては、すごく憂慮してる。ある日は考えたくもないし、また別の日には何かしなきゃいけない気持ちに駆られるし。落ち込むね。で、ハッピーになれることは、もしすべての終焉が来るとしたら、もうちょっと暑くなる(=温暖化)、ってわかってることかな。で、それを生き延びる動物もいるだろう、ってこと!

あなたがたの考える、イギリスのいちばんいいところってなんだと思いますか?

リアス:それは俺だな(笑)。俺を作ったこと(笑)。何事にもオープンで、人種も混ざっている。つまりは、自分自身を持ちながらも、さまざまな文化や要素が混ざっているということさ。

ネイサン:いまUKでいちばんいいところ? ファック、回答不可能な質問だな! ま、俺たちが日本に行けるかもしれない、って思うといちばん嬉しいね、いまは(笑)。

萩原:まあ言っておくと、日本もかなりのカオスですよ。わけのわからないことも起きてるし、そこははっきりさせておきます(笑)。

ネイサン:まあどこでもクソってことだよね? きっと必要なのは、第四の産業革命なのかも。たぶんね」

萩原:あと経済と、民主主義では何かしないといけないかもしれないですね。

ネイサン:うん。まあ、もがくのをやめちゃダメだ、ってことなんだろうな。みんな一人じゃないんだし。じたばたしつづけないとね!

 10年以上にわたり、アート・パンク・バンド、ノー・エイジのヴィジュアル・ワークを担当してきたロサンゼルスを拠点に活動するグラフィック・アーティスト、ブライアン・ローティンジャーの個展が本日より開催される。
 ノー・エイジだけでなく、ジェイ・Zやマリリン・マンソンといったアーティストのジャケット・アートワークを手がけてきたブライアン・ローティンジャー。なかでもノー・エイジの『ノウンズ』とジェイ・Zの『マグナ・カルタ...ホーリー・グレイル』では、グラミー賞の最優秀レコーディング・パッケージ賞にノミネートされるなど、きわめて高い評価を受けている。また、サンローランやヘルムートラングといったファッション・ブランドにグラフィックを提供している。
 本展のキュレーションはローティンジャー、およびノー・エイジの二人、ディーン・スパントとランディ・ランドールと交流の深いカトマン(ドットラインサークル)が担当。
 また、本展では2018年に400部限定で発行され、完売となっていたローティンジャーとノー・エイジのコラボレーション作品アーカイヴ集『Graphic Archive 2007-18』が日本限定で再販される。
 5月5日(日)にはライヴで来日しているノー・エイジの二人が在廊予定。
 併設するマスタードホテル渋谷のエントランスサイネージでローティンジャーのアーカイヴ作品が展示されるほか、1階のBAR & PATISSERIE Meganにて彼のプレイリストを聴くことができる。

《展覧会情報》
No Age & Brian Roettinger Graphic Archive 2007-18 Exhibition
4月18日(木)~5月6日(月)12:00-19:00
会場:渋谷 CONNECT
〒150-0011 東京都渋谷区東1-29-3 渋谷ブリッジ B 1F
定休日:日・月曜日(5月5日、5月6日を除く)
“No Age & Brian Roettinger Graphic Archive 2007-18 Exhibition”

Loski - ele-king

 「グライムのゴッドファーザー」と呼ばれるワイリーの自叙伝『Eskiboy』に、ワイリー自身がこのように語っている箇所がある。

いまのUKのブラック・ボーイがもっともやってはいけないのは、殺し合うことだ。社会はそれをプログラムしている──ドラッグ──実際のところ、何かクソみたいなものに巻き込まれるように仕向けるものが多い。でも違ったようにもできるんだ、もしお前が俺のブラザーだって分かったら、なぜだってお前にパンチしたり、ナイフや銃を抜いたりしなきゃいけないんだ?

 ワイリーはここで、ロンドンのギャング同士のビーフのことを問題にしている。本作『Mad Move』でデビューした Loski も、そんな南ロンドン・ケニントンを本拠とする「ハーレム・スパルタンズ(Harlem Spartans)」というギャングのメンバーだ。彼らは、410、150 といったギャングと敵対し、67 や 86 といったギャングとは協力関係を結んでいると言われている。そうした南ロンドンの敵対関係の中で、お互いのラッパーは、インスタグラムライブで、あるいはYouTubeビデオやラップ・チューンで、敵対するギャングを挑発し合っている。彼らがビデオ中にフードやダウン、マスクで顔を隠しているのは、言うまでもなく同じエリアの中で襲われるのを防ぐためだ。

 モノトーンで、どれも「似たような」ドリル調のトラックは、ビーフを演出するための舞台装置である。また、ホットな挑発・ビーフの裏側には冷たく悲しい現実がある。ギャングスタのメンバーの中で、10代や20代はじめで命を落とす者がいる。例えばハーレム・スパルタンズのラッパー、SA/Latz は道端で何者かにナイフで刺されて運ばれた病院で亡くなった。ワイリーが言っているのは決して比喩ではなく、本当の意味で「殺し合って」いるのだ。
https://www.thesun.co.uk/news/6876884/camberwell-stabbing-victim-pictured/

 前置きが長くなったが、ハーレム・スパルタンズ所属の Loski のソロ・デビュー・アルバム『Mad Move』がリリースされた。Loski のラップのトーンは常に一定で、トラックに対するメロディの置き方は非常に独特で耳に残る。2016年リリースの“Hazards”など、ドリル・トラックで一躍ヒットした Loski のフル・アルバムは待望であった。

 シングルで先行リリースされた DigDat とのコラボ・チューン“No Cap”は、8小節ごとにヴァースを交代していき、掛け合いのようにラップを披露していく。「No Cap」という言葉(正直に話す、といった意味である)自体はUSヒップホップから生まれたスラングだが、そこにUS/UKの垣根はないようだ。UKギャングスタの界隈で人気を博するストリート・ブランド「トラップスター(trapstar)」から、フェンディ、オフ・ホワイトといった高級ブランドへと着こなしをクールにアップグレードし、ガルウィングをあけて走る Loski は、DigDat とともに、いかに自分のギャングが上か、また服やナイフ、銃について、淡々とラップしていく。そのあまりに淡々としたフロウには彼の冷静さ、余裕さが感じられるが、冷静さの中には常に Opps (敵対するギャング)への脅し文句が散りばめられている。

[DigDat]
トラップシーズン2だ、太い客をデトックスさせないようにな
80年代みたいに街角でトラップ、ビギーと D-Roc みたいに
束がシューズボックスに入りきらない、リーボックしか入ってなかったのを思い出す

 ここでは札束を入れるシューズボックスの話からスライドして、Loski の次のヴァースでシューズの話が繋げられる。

[Loski]
ディースクエアード、 ルイヴィトン、あと少しのフェンディ、
クールなキッドにはギャルが寄ってくる
俺のエリアを荒らすなよ、もしやっていいならこの若僧はスプラッシュ*してる
スニーカーに500以上つかう、ジェット・リー以上

 アルバムには“Hazards”の続編“Hazards 2.0”などドリル・チューンが半分、そしてもう半分はアフロビーツ・トラックが収録されている。

 アルバム後半に収録されている“Boasy”。アップテンポなドリル・トラックに乗っかる Loski の中でとりわけ耳を引いたヴァースがあった。

[Loski]
Amiri jeans、洒落たキッズ、スワッグニュー
じゃあなんで俺がリアルかって、俺には人生を変えられる瞬間があった
でもブロックに戻れば、それがドリルを犠牲にやることかどうか
他のラッパーにはきっとわからないだろう
すごくうまくいっているときですら、あれ**が流れるんだ

 1本10万円は下らないアミリジーンズ。成功したキッズである Loski がなぜかその人生を肯定しているように聞こえないのは、そのあとのラインで、Tiggs Da Author が「俺たちはみんな友達がシステムにロックされてしまう」と歌っているからだ。ここではシステムを警察と読み替えられるし、ロックするとは刑務所に入れられてしまうことだと読める。Loski の苦悩とは過去の記憶に苛まれたり、大切な仲間を失ってしまう状況からの逃れられなさだろうか。彼はこの状況を音楽で表現し、ブロックを抜けだそうとする。ドリル・チューンは単に敵対するギャングを脅すだけではない。彼が歩んできた人生を必死に描くアートであり、おそらくこの現実を肯定するための手段であるのだ。Loski の冷たくハードなラップからは南ロンドンの現実が滲み出てしまう、このアルバムはそんな生生しい感覚をまとったアルバムである。


* 「スプラッシュ」とは「ナイフで刺す」という意味。
** 前後の流れから「血」ではないかと推測した。

Rupert Clervaux - ele-king

 昨年来日を果たし、この5月には再来日も決定しているロンドンのプロデューサー、ベアトリス・ディロン(Beatrice Dillon)。彼女との共作で知られる音楽家にして詩人のルパート・クレルヴォー(Rupert Clervaux)が、ソロ名義としては初となるアルバム『After Masterpieces』を5月24日にリリースする。同作は古代の神話や認識論、言語や音楽の起源などをテーマに扱っているそうで、〈RVNG〉からのリイシューが話題となったLAのシンセ奏者アンナ・ホムラー(Anna Holmer)や、かつてルパートが創設/プロデュースしたUKのポストロック・バンド、シアン・アリス・グループ(Sian Alice Group)のメンバーであり、その後オー(Eaux)の一員としても活動していたシアン・エイハーン(Sian Ahern)、サックス/トランペット奏者のエベン・ブル(Eben Bull)が参加しているとのこと。リリース元がロンドンの気鋭のレーベル〈Whities〉というのが最大のミソで、『After Masterpieces』は同レーベルにとって初のフルレングス作品となる。これは期待。

https://whities.bandcamp.com/album/after-masterpieces

魂のゆくえ - ele-king

 未来に希望が持てるかどうかは、次の世代のことを想像してみるとわかる。ますます肥大化する高度資本主義経済、広がる格差、暴走する政治、止められない気候変動……。2020年に生まれた子どもが働き盛りになる2050年をおもに科学の力で予想したときに、様々なデータが示すのは絶望的なものばかりだ。つまりたんなる主観とか思いこみではなくて、客観的な事実や計算で証明されたものだということ。それを知りながら、子どもをこの世界に産み落とすのは現代の罪なのだろうか? いま、思想やカルチャーなど様々な層でダークなムードが立ちこめているが、多くの人間が明るいイメージを未来に抱くことができないのは間違いない。

 『タクシードライバー』や『レイジング・ブル』といった70年代からのマーティン・スコセッシ作品をはじめとして、シドニー・ポラック、ブライアン・デ・パルマといった大物との仕事(脚本)で知られる映画作家ポール・シュレイダーの監督・脚本作である『魂のゆくえ』は、現代というのがいかに憂鬱な時代であるかを語るのに、トランプ政権以降ますます重くのしかかってくる環境問題をまずその入口にしている。主人公はニューヨーク郊外にある小さな教会「ファースト・リフォームド」の牧師を務める男トラー(イーサン・ホーク)。教会は小さいものの由緒正しい歴史を持ち、長くそこにいるトラーはそれなりに信頼を得ているようだ。あるとき、彼は信徒の女性メアリー(アマンド・セイフライド)から夫がひどくふさぎこんでいるから話を聞いてやってほしいという相談を受ける。実際に夫マイケルに会って聞くところによると、夫婦は環境活動家であり、そのため授かった子どもが産まれることは喜ばしいことと思えないと吐露し始める。未来はどう考えても破滅的だろうと。マイケルは鬱を患っていた。
 そこからトラーがたどる心境の変化や行動は、『タクシードライバー』を現代にアップグレードしたものだと言っていい。つい最近もプロットだけ見れば同作を彷彿とさせるリン・ラムジー『ビューティフル・デイ』があったばかりだが、『魂のゆくえ』はそちらよりも精神的に近い。すなわち脚本家本人の手によって、70年代後半のアメリカを覆っていた閉塞感を見事に捉えた名作を想起させる物語が生み出されているのだ。だがはっきりと異なる点があって、『タクシードライバー』が持っていたスコセッシが得意とするところのロック感覚がここには(当然だが)まったくなく、ひたすら静謐かつ重々しい空気に覆われている。髪をモヒカンにして鏡に映る自分とにらみ合ったロバート・デ・ニーロは当時における反社会的ロック・ヒーロー像に他ならなかったし、社会の底辺で犠牲になっている少女を救うというヒロイズムがそこにはいくらか乗っていたはずだ。ベトナム戦争の後遺症を引きずっていた作品とはいえ、その根底には、世界はより良い方向に変えられるはずだというカウンター・カルチャーからの精神がまだ流れていたように思う。しかし、『魂のゆくえ』のトラーの姿がTシャツにプリントされたり、ロック・バーの壁にポスターで貼られたりすることは絶対にないだろう。彼はひとり、よく整頓された清潔な部屋で酒に浸るばかりだ。『タクシードライバー』においてトラヴィスがベトナム帰還兵だったことと、本作のトラーがイラク戦争で息子を失くしていることも示唆深い対比だ。どちらもアメリカ政府の横暴の被害者なのだが、トラーの場合それが直接な体験と身体性を伴っていなかったためだろうか、ひたすら孤独に閉じこもっており、自身も抑鬱状態にある。

 心を壊していたマイケルが銃で自殺してしまい、彼に少なからず同調していたトラーは遺言に従い環境汚染が進む港湾のほとりで葬儀をおこなう。合唱団がニール・ヤングの“Who's Gonna Stand Up?”を歌う――「地球を救うのは、立ち上がるのは誰だ? そのすべては、わたしとあなたからはじまる」――。そのことがメディアに報じられると、皮肉にも自身が所属する教会が環境汚染の原因を作っている大企業の寄付を受けていることがはっきりする。未亡人となったメアリーと交流を続けながらも、ますます内省を深めていくトラー。そして……。
 この世界で子どもを持つことに深い罪悪感を抱くマイケル、自分の所属する組織が環境破壊に加担しているのは間違いだと気づくこととなるトラー、両者は世間的な価値観から言えば狂ってしまった人間だということになるのだろう。けれどもふたりは、良い世界であってほしいと――とりわけ次の世代にとって――願っているだけだ。現代で生き抜くためにはその願いを「なかったこと」にするしか方法はない。いま鬱は大きな社会問題だとよく言われるが、もしかすると、世界が良くあってほしいと思い悩む人間のことを「鬱」と呼ぶシステムになっているだけなのかもしれない。主人公が宗教に関わる人間であり、彼が壊れていく物語だということも、現代において何かを信じることの困難をよく表している。

 映画は終盤のクライマックスに向けてスピリチュアルな問いに向かっていくのだが、これもまた、科学やデータでは絶望を乗り越えられない時代であることを示しているだろうか(トラーが神秘的な体験をするシーンはタルコフスキーの『サクリファイス』からの引用が指摘されている)。けれども癒着にまみれたキリスト教(教会)もまた、アメリカの民の救いにはならない。音楽を手がけたラストモードのアンビエントもまた厳かさを増していくが、当然キリスト教的な響きとはかけ離れたものだ。そのムードのなかいくらかドラマティックに訪れるラスト・シーンがトラーにとっての救済だと言えるのか、あるいはどこまでも世界を変えることの不可能性を示しているのか、その判断は難しい。
 しかしながら、少なからずカウンター・カルチャーやアメリカン・ニューシネマの時代の当事者であったポール・シュレイダーがいま70歳を過ぎ、わたしたちが直面しているもっとも重い問題を見据えながら、軽々しい希望を抱くことができない映画を産み落としていることには恐れいる。いま次の世代のことを思いやることは、未来を良くしたいと願うことは、どこまでも絶望し、狂うことである。その重さを、静かな怒りを、わたしたちはここでただ受け止めるしかない。

予告編

Flying Lotus - ele-king

 問答無用、この春最大のニュースの到着だ。フライング・ロータスが5年ぶりとなるニュー・アルバムをリリースする。読者の皆さんは覚えているだろうか? アンダーソン・パークとのコラボが報じられたのはすでに2年前。長かった。じつに長かった。散発的に新曲の発表はあった。フライロー自らが監督を務める映画『KUSO』の公開もあった。昨年のソニックマニアでのパフォーマンスも圧倒的だった。彼の主宰する〈Brainfeeder〉は10周年を迎えた。それを記念してわれわれele-kingは1冊丸ごと特集を組んだ。そして最近では渡辺信一郎の新作アニメ『キャロル&チューズデイ』への参加が話題を呼んだ。長かった。じつに長かったが、いよいよである。タイトルは『Flamagra』。これはもしかして「フライング・ロータスによるドグラ・マグラ」という意味だろうか? 詳細はまだわからないけれど、どうやら炎がコンセプトになっているようで、とりあえずは熱そうである。くだんのアンダーソン・パークに加え、ジョージ・クリントン、デヴィッド・リンチ、トロ・イ・モワソランジュと、参加面子もものすごい。発売日は5月22日。嬉しいことに日本先行発売だ。もう何も迷うことはない。

[4月24日追記]
 昨日、待望の新作『Flamagra』より2曲が先行公開されている。“Spontaneous”にはリトル・ドラゴンのユキミ・ナガノが、“Takashi”にはサンダーキャット、ブランドン・コールマン、オノシュンスケが参加。フライローいわく、オノシュンスケについては坂本慎太郎のリミックスを聴いて知ったのだという。なんでも Spotify でランダムにその曲が流れてきたのだとか。2曲の試聴は下記リンクより。

https://flying-lotus.ffm.to/spontaneous-takashi

FLYING LOTUS
FLAMAGRA

フライング・ロータス待望の最新作『FLAMAGRA』堂々完成
自ら監督したトレーラー映像「FIRE IS COMING」を解禁
27曲収録の超大作に、超豪華アーティストが集結!

アンダーソン・パーク|ジョージ・クリントン|リトル・ドラゴン|ティエラ・ワック|デンゼル・カリー|デヴィッド・リンチ|シャバズ・パレセズ|サンダーキャット|トロ・イ・モワ|ソランジュ

credit: Renata Raksha

グラミー賞候補にもなった前作『ユー・アー・デッド!』から5年。ケンドリック・ラマーの傑作『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』におけるコラボレーション、カマシ・ワシントンの大出世作『ジ・エピック』の監修、サンダーキャットの出世作『ドランク』では大半の楽曲をプロデュースし、ここ日本でも上映されたコミック・ホラー長編映画『KUSO』の監督・脚本を手がけ、主宰レーベル〈ブレインフィーダー〉が10周年を迎えるなど、底なしの創造力でシーンの大ボスとして君臨するフライング・ロータスが、マグマのごとく燃えたぎるイマジネーションを詰め込んだ27曲(*)の超大作、その名も『フラマグラ』を完成させた。(*国内盤CDにはさらに1曲追加収録)

発表に合わせてフライング・ロータスとデヴィッド・ファースが手がけたトレーラー映像「FIRE IS COMING」が公開された。
https://www.youtube.com/watch?v=aTrTtzTQrv0

本作は、12年に及ぶキャリアの中でロータスが世に提示してきた革新性のすべてを掻き集め、それをさらに推し進めている。ヒップホップ、ファンク、ソウル、ジャズ、ダンス・ミュージック、トライバルなポリリズム、IDM、そしてビート・ミュージックが図解不可能なほど複雑に絡み合い、まるでロータスの頭の中に迷い込んだような、もしくは宇宙に漂う灼熱の惑星の上にいるかのような、驚異的独創性が発揮された傑作だ。

いつも頭の中では一つのテーマが浮かんでいて、火にまつわるコンセプトが燻り続けていた。ある丘の上に永遠の炎が鎮座しているんだ。 ──フライング・ロータス

過去作品でも豪華な参加アーティストが話題を呼んだが、今作のラインナップは数もインパクトも過去作を上回るものとなっている。アンダーソン・パーク、ジョージ・クリントン、リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノ、ティエラ・ワック、デンゼル・カリー、シャバズ・パレセズのイシュマエル・バトラー、トロ・イ・モワ、ソランジュ、そして盟友サンダーキャットがヴォーカリストとして参加。さらに、デヴィッド・リンチの不気味なナレーションが今作の異様とも言える世界観を炙り出している。

フライング・ロータス待望の最新作『フラマグラ』は5月22日(水)に日本先行リリース。国内盤にはボーナストラック“Quarantine”を含む計28曲が収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。初回生産盤CDは豪華パッケージ仕様。またTシャツ付セットも限定数販売決定! 2枚組となる輸入盤LPには、通常のブラック・ヴァイナルに加え、限定のホワイト・ヴァイナル仕様盤、さらに特殊ポップアップ・スリーヴを採用したスペシャル・エディションも発売。Beatink.comでは50部限定で、スペシャル・エディションのクリア・ヴァイナル仕様盤が販売となり、本日より予約が開始となる。

なお国内盤CDを購入すると、タワーレコードではオリジナル・クリアファイル、Beatink.com、HMV、diskunion、その他の対象店舗ではそれぞれオリジナル・デザインのロゴ・ステッカー、Amazonではオリジナル肖像画マグネットを先着でプレゼント。また、タワーレコード新宿店でアナログ盤を予約するとオリジナルB1ポスターが先着でプレゼントされる。

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: FLYING LOTUS
title: FLAMAGRA

日本先行リリース!
release: 2019.05.22 wed ON SALE

国内盤CD:BRC-595 ¥2,400+tax
初回盤紙ジャケット仕様
ボーナストラック追加収録 / 歌詞対訳・解説書付
(解説:吉田雅史/対談:若林恵 x 柳樂光隆)

国内盤CD+Tシャツセット:BRC-595T ¥5,500+tax
XXLサイズはBEATINK.COM限定

TRACKLISTING
01. Heroes
02. Post Requisite
03. Heroes In A Half Shell
04. More feat. Anderson .Paak
05. Capillaries
06. Burning Down The House feat. George Clinton
07. Spontaneous feat. Little Dragon
08. Takashi
09. Pilgrim Side Eye
10. All Spies
11. Yellow Belly feat. Tierra Whack
12. Black Balloons Reprise feat. Denzel Curry
13. Fire Is Coming feat. David Lynch
14. Inside Your Home
15. Actually Virtual feat. Shabazz Palaces
16. Andromeda
17. Remind U
18. Say Something
19. Debbie Is Depressed
20. Find Your Own Way Home
21. The Climb feat. Thundercat
22. Pygmy
23. 9 Carrots feat. Toro y Moi
24. FF4
25. Land Of Honey feat. Solange
26. Thank U Malcolm
27. Hot Oct.
28. Quarantine (Bonus Track for Japan)

Amgala Temple - ele-king

 ノルウェイの音楽的良心たるジャガ・ジャジストですが、その中心人物であるラーシュ・ホーンヴェットによるプロジェクト、アムガラ・テンプルが来日します。ジャガ・ジャジストはライヴも高い評価を得ているバンドだけに、初となるアルバム『Invisible Airships』をリリースしたばかりのアムガラ・テンプルがいったいどんなパフォーマンスを披露してくれるのか、気になるところです。5月18日から21日のあいだに都内3箇所をめぐるツアー、詳細は下記よりご確認を!

ジャガ・ジャジストから派生したジャズロック・プロジェクト、アムガラ・テンプル待望のジャパンツアー決定!

ジャガ・ジャジストのコア・メンバーである Lars Horntveth を中心に Amund Maarud、Gard Nilssen というノルウェーの異能プレイヤーが集結したアムガラ・テンプルは、ジャズ・ロックの系譜を受け継ぎながらもプログレからサイケ、クラウトロックまで飲み込んだまさに2020年代を迎えるに相応しい先鋭的なサウンド! ライヴの半分近くはインプロ(即興)で構成されるなど二度と同じ演奏をしないライヴ・アクトとしても熱狂的な支持を集めている彼らのパフォーマンスをお見逃しなく!

「Avenue Amgala」(ライヴセッション映像)
https://youtu.be/G-Lb29r7A24

Amgala Temple:
Amund Maarud (electric guitars)
Gard Nilssen (drums, gongs, bells, melodic drum)
Lars Horntveth (bass, keys, lap steel, guitar & vibraphone)

Amgala Temple (with member of Jaga Jazzist) JAPAN TOUR 2019

2019年5月18日(土) CROSSING CARNIVAL'19
会場:TSUTAYA O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、clubasia、WOMB LIVE、TSUTAYA O-nest
時間:Open / Start 13:00(時間予定)
チケット料金:¥4,800 (税込 / ドリンク別)

チケット ※枚数制限4枚
イープラス:https://eplus.jp/crossingcarnival19/
問い合わせ:SOGO TOKYO(03-3405-9999)

2019年5月20日(月) 六本木VARIT
Live :
・Amgala Temple (with member of Jaga Jazzist)
・東京ザヴィヌルバッハ・スペシャル
(坪口昌恭:Keys / David Negrete:Alt. Sax, Flute / 宮嶋洋輔:Guitar / 角田隆太:Bass (from ものんくる) / 守真人:Drums)
時間:Open 18:30 / Start 19:00
チケット料金:Adv. ¥2,800 / Door ¥3,300 (+1 drink order)

チケット発売/予約受付開始日:4月20日(土)
イープラス:https://eplus.jp
購入ページ:
https://eplus.jp/sf/detail/2939610001-P0030001
問い合わせ:六本木VARIT(03-6441-0825)

2019年5月21日(火) Shibuya 7th FLOOR
Live :
・Amgala Temple (with member of Jaga Jazzist)
・guru host (坂口光央+一樂誉志幸)
・角銅真実
時間:Open 18:30 / Start 19:00
チケット料金:Adv. ¥2,800 / Door ¥3,300 (+1 drink order)

チケット発売/予約受付開始日:4月20日(土)
イープラス:https://eplus.jp
7th FLOOR メール予約:4/20 (土)~5/20 (月) (nanakaiyoyaku+0521@gmail.com)
件名に公演名、本文にお名前(フリガナ)、予約人数をご記入ください。
ご予約の確認がとれましたら返信いたします。
*入場順:①イープラス(整理番号順)、②メール予約/その他のご予約の順番となります。

[アルバム情報]
タイトル:インヴィジブル・エアシップス / Invisible Airships
アーティスト:アムガラ・テンプル / AMGALA TEMPLE
レーベル:P-VINE
品番:PCD-24818
定価:¥2,400+税
発売日:2019年3月6日(水)
日本語解説:山﨑智之

-収録曲-
1. Bosphorus
2. Avenue Amgala
3. Fleet Ballistic Missile Submarine
4. The Eccentric
5. Moon Palace

https://p-vine.jp/music/pcd-24818

 この世から真っ先に消し去るべき概念のひとつに「男らしさ」がある。学校や会社に通っている男性は少なくとも一度は体験したことがあるはずだと思うのだけれど、これだけアイデンティティ・ポリティクスが猛威をふるう昨今においてさえ、男性にたいし暗に「男らしさ」を要求してくる連中のなんとまあ多いことか。しかもたいていの場合、当人たちは無自覚だから厄介だ。もしかしたら僕自身、誰かにたいしそのような身ぶりを強制してしまっているかもしれない。そのときは、ごめんなさい……としかここではいえないが、とまれ家父長制と呼べばいいのかマッチョイズムと呼べばいいのか、あるいは体育会系というのかホモソーシャルというのか、状況によってあてがうべき言葉は異なるだろうけども、ほんとうに因習というのは根が深い。

 2017年にリリースされたファースト・アルバム『Yesterday's Gone』によって大きな躍進を遂げたUKの若きラッパー=ロイル・カーナーは、とにかく「男らしさ」から遠ざかろうともがいている。ように見える。彼はいつもくよくよし、なよなよしている。ように見える。無論、褒め言葉である。彼の簡単な略歴についてはこちらを参照していただきたいが、そのリリックはドラッグ体験の自慢や血塗られた抗争とは無縁であり、トラックもまた雄々しさや猛々しさから距離をおいている。トラップのようなUSのメインストリームでもなく、ストリートを反映したグライムでもなく、あるいはルーツ・マヌーヴァに代表されるような、UKの音楽に特有のジャマイカからの影響を忍ばせたスタイルでもない、いわば「第四の道」を模索し続けているのがロイル・カーナーというアーティストではないだろうか。

 まもなく発売される彼のセカンド・アルバム『Not Waving, But Drowning』は、そのような「第四の道」をさらに推し進めたものとなっている。昨年、男性が弱さを吐き出すことについて議論を提起したのはジェイムス・ブレイクだったけれど、カーナーもまた自らのナイーヴでフラジャイルな「内面」や「感情」を臆することなく表現するラッパーだ。とはいえその題材は必ずしもミクロな恋愛や友情に限定されているわけではなく、たとえば“Loose Ends”や“Looking Back”では、これまで白人には黒人とみなされ黒人には白人とみなされてきたという彼の、混血としての社会的な葛藤が吐露されている。そんなふうにぼろぼろになっている自分をさらけ出し、ラップすること。そのスタンスにはブレイクとの親和性も感じられるが、それ以上に、カーナーをフックアップしたUKのソングライター=クウェズからの影響が大きいのではないか。

 日本ではなぜかそれほど人気のないクウェズだけど、彼は歌い手であると同時に特異なサウンドの作り手でもあって(昨年ひさびさにリリースされたEP「Songs For Midi」も良かった)、にもかかわらず近年は裏方にまわりっぱなしの印象があるが、たしかに彼の手がけたソランジュティルザなんかを聴いているとプロデューサーとしての才に恵まれていることはわかるので、もしかしたらそっちで食っていこうと考えているのかもしれない。まあなんにせよ『Yesterday's Gone』に引き続き本作でも5曲に参加しているクウェズは、カーナーのセンシティヴな言葉の数々を活かすべく大いに尽力している。その奮闘は“Still”や“Krispy”におけるピアノの響きや細部の音選びに、あるいは著名なイタリアン・シェフであるアントニオ・カルッチョの名が冠された“Carluccio”の奥行きに、あるいはカーナー同様クウェズがフックアップしたシンガーであるサンファ、彼による美しいヴォーカルが堪能できる“Desoleil (Brilliant Corners)”の旋律や残響によく表れている。

 しかし、このセカンド・アルバムにおける最大の功労者はじつはクウェズではない。本作の鍵を握るひとりは、2曲で作曲とプロダクションを務めるトム・ミッシュである。彼はカーナーに飛躍の機会を用意した人物であり、これまでふたりは幾度もコラボを重ねてきた。ミッシュの2016年のミックステープ『Beat Tape 2』やシングル「Reverie」、あるいは昨年大ヒットを飛ばしたアルバム『Geography』にはカーナーが客演しているし、逆にカーナーの『Yesterday's Gone』にはミッシュが招かれている。まさに盟友と呼ぶべき関係だろう。そのミッシュが手がけた“Looking Back”はもたつくビートの映える1曲で、他方“Angel”も背後のもこもこした電子音が耳をくすぐるのだけど、ベースをはじめとする低音部も魅力的だ。ここでドラムを叩いているのがユナイテッド・ヴァイブレイションズのユセフ・デイズだというのは見逃せない。おそらくは南ロンドンという地縁によって実現されたのだろうこのコラボは、カーナーとUKジャズとの接点をも浮かび上がらせ、じっさい、カーナーは5月にリリースされるエズラ・コレクティヴの新作にも参加している。

 そして、ミッシュ以上に重要なのがジョーダン・ラカイの存在である。本作全体を覆うメロウネスや叙情性は、6曲で作曲とプロダクションを担当するラカイによって誘発されている感があり、たとえばジョルジャ・スミスを迎えた“Loose Ends”や“Sail Away Freestyle”のアダルト・オリエンテッドな音像は、いわゆるクワイエット・ウェイヴの文脈に連なるものといえる。なかでも決定的なのは“Ottolenghi”だろう。これまた高名なシェフであるヨタム・オットレンギを曲名に持ってくるあたり、もしラッパーでなければシェフになりたかったというカーナーの料理好きな一面が強く表れているが、背後にうっすらと敷かれたシンセの持続音はそれこそイーノ=ラノワを彷彿させ、とにかくせつなさとはかなさが爆発している。すべてが過ぎ去っていくことを電車の進行と重ね合わせるリリックも、それを写真というテクノロジーによる時間の切断と結びつけるMVも印象的で、ほかの曲でも「過去」という単語がキイワードになっていることから推すに、この“Ottolenghi”こそが『Not Waving, But Drowning』を代表する1曲なのではないだろうか。

 ここで忘れてはならないのが、インタールード的な役割を与えられたスポークン・ワードの小曲、アルバムのタイトルにも採用された“Not Waving, But Drowning”だ。カーナーの祖父によるものだというこの言い回し、20世紀前半のイギリスの詩人スティーヴィー・スミスに着想を得たこの一句は、僕たちにとてつもなく残酷な現実を突きつけてくる。

溺死した男についての記事を読んだ
その男の仲間は、彼が海から手を振っていると思ったらしい
でも彼は溺れていたんだ

 手を振っているんじゃない、溺れているんだ(Not Waving, But Drowning)──。文字どおり死にそうなくらい苦しんでいるのに、楽しそうにしていると受けとられてしまう、そのようなリアルを毎日毎日毎日毎日生き続けなければならない人びと、頼れる友もいなければ帰るべき場所もないような人びと、つまりはあなたに向けて、ロイル・カーナーは丁寧に言葉を紡いでいく。まるで、それもいずれは過去になると、慰め、そっと寄り添うかのように。そう、僕たちは「自分たちで新たな過去を作らないといけない」(“Carluccio”)。
 社会の要請する「男らしさ」から遠く離れ、ヒップホップの王道からも距離を置き、己のか弱き魂を吐き出しながら、ミッシュやラカイに協力を仰ぐことで今日的な音像にアプローチしたカーナーのセカンド・アルバムは、彼の「第四の道」がオルタナティヴであることを証明すると同時に、そんなふうに規範に苦しめられている人びとをときに涼やかに、ときに暖かく包みこむ。これほど優しくて愛おしいラップ・ミュージックがほかにあるだろうか。

The Comet Is Coming - ele-king

 エレキングの紙媒体で2018年の年間ベスト・アルバムのトップ2に輝いたのが、シャバカ・ハッチングスの参加するサンズ・オブ・ケメットの『ユア・クイーン・イズ・ア・レプタイル』だった。アフリカ系女性活動家たちの名前をそれぞれ曲名につけたこのアルバムは、アフリカをルーツとするディアスポラを立脚点に、音楽を通してアフロフューチャリズムを表現した作品だ。南ロンドンのジャズ・シーンを、コンピの『ウィ・アウト・ヒア』のプロデュースなどを通じて文字どおり引っ張るシャバカ・ハッチングスにとって、ディアスポラ的な視点やアフロフューチャリズムはたびたび作品に投影されてきたものであるが、サンズ・オブ・ケメットの音楽面や演奏面を見ると、ブラス・アンサンブルとアフロ・カリビアン・サウンドの融合ということがまずある。『ユア・クイーン・イズ・ア・レプタイル』については、そのカリビアン系の中でもジャマイカのサウンドシステム文化と結びついた点が顕著で、コンゴ・ナッティなどのラガマフィン~ジャングルMCを交えていた。ディル・ハリスのミキシングも通常のジャズのアルバムとは異なるレゲエ~ダブ的な録音スタイルで、個人的にはかつてのザ・クラッシュとかザ・ポップ・グループ、ピッグバッグやマッドネスあたりを想起させたわけだが、ジャズというよりもそうしたポストパンクとかニューウェイヴに近いアルバムだったと思う。シャバカが関わるユニットでは、メルト・ユアセルフ・ダウンもパンク~ノーウェイヴ色の強い演奏だが、彼のもうひとつのユニットであるザ・コメット・イズ・カミングの新作『トラスト・イン・ザ・ライフフォーズ・オブ・ザ・ディープ・ミステリー』は、もはやジャズという音楽的形式を完全に形骸化させてしまうような作品と言えるだろう。

 ザ・コメット・イズ・カミングはキング・シャバカを名乗るシャバカのほかに、シンセサイザー演奏やエレクトロニクスを操るダン・リーヴァーズ(ダナローグ)とドラマー兼ビートメイカーのマックスウェル・ホウレット(ベータマックス)がいる。ダナローグとベータマックスはもともとサッカー96というユニット名で、エレクトロ・ジャズ・ファンク~コズミック・シンセ・ブギーとでも形容すべき音楽をやっていたが、成り立ち的にはそのサッカー96とシャバカが合体したものと言える。プロデュースやアレンジはダナローグとベータマックスがだいたいおこなっていて、どちらかと言えば彼らふたりが主導権を握るユニットと言えそうだ。メルト・ユアセルフ・ダウンはポストパンクやノーウェイヴ的な演奏と述べたが、同じ〈リーフ〉からリリースとなるザ・コメット・イズ・カミングの方は、シンセやエレクトロニクスがサウンドの軸となっており、そのあたりが違いと言えるだろう。ファースト・アルバムは2016年の『チャンネル・ザ・スピリッツ』で、“ジャーニー・スルー・ジ・アステロイド・ベルト”や“スペース・カーニヴァル”といった楽曲名に示されるように、サン・ラーの精神を継承するようなエレクトリック・ジャズ・ファンク、サイケデリック・ジャズ・ロックを展開していた。スペイシーなSEとシンセによるアシッドなベース・ラインを持ち、シャバカ関連のユニットの中でもエレクトロニック度がひときわ強いので、クラブ~DJサウンドともっとも親和性が高いとも言える。2017年のEP「デス・トゥ・ザ・プラネット」に収録された“アセンション”という曲などは、デリック・メイによるスエノ・ラティーニョのジャズ版とでも言うような輝きを放っていた。

 『トラスト・イン・ザ・ライフフォーズ・オブ・ザ・ディープ・ミステリー』はその『デス・トゥ・ザ・プラネット』以来の新作となるセカンド・アルバムだが、サンズ・オブ・ケメットと同様にジャズの名門〈インパルス〉へ移籍してリリースしている。とは言っても『ユア・クイーン・イズ・ア・レプタイル』がそうだったように、一般的なジャズからはかなり乖離したものとなっている。録音は少し前の2017年2月と8月にトータル・リフレッシュメント・センターのスタジオでおこなわれ、〈ビッグ・ダダ〉からアルバムも出していたシンガー・ソングライターのケイト・テンペストがゲスト参加。そのほか面白い繋がりとして、ロウ・エンド・セオリーを主催していたダディ・ケヴがマスタリングをやっている。
 SF映画のサントラのようにアトモスフィアリックなビートレス・ナンバーの“ビコーズ・ジ・エンド・イズ・リアリー・ザ・ビギニング”でアルバムは幕を開け、続く“バース・オブ・クリエイション”もまるで異星人が奏でるようなスペイシーなダウンテンポ。このあたりはサン・ラー譲りのコズミックな感覚が支配しつつ、1960年代にディック・ハイマンとかピエール・アンリあたりがやっていたスペース・エイジ・ジャズの面影も感じられる。ここまではシャバカのテナー・サックス、もしくはバス・クラリネットも控えめだが、“サモン・ザ・ファイア”では曲名どおりに火を噴く。地響きのように不穏な唸りを上げるシンセ・ベースは、ベルギーのマルク・ムーランがテレックス以前にやっていた伝説のジャズ・ロック・バンド、プラシーボの“バレク”を彷彿とさせるもので、思いっきりエフェクトをかけたシャバカのサックスはまるでサイレン音のようだ。“スーパー・ゾディアック”はアンビエントな出だしながら、律動的なジャズ・ロックのビートへと変わる。グループ名どおりハレー彗星を思わせる曲で、シャバカのエモーショナルなサックスのブロウで終わる。そこから浮遊感に満ちた“アストラル・フライング”へという動と静の対比も見事だ。ベータマックスの変幻自在のドラミングが映える変則ブロークンビーツ調の“タイムウェイヴ・ゼロ”、ケイト・テンペストのスポークンワードをフィーチャーした重量級コズミック・ジャズ・ファンクの“ブラッド・オブ・ザ・パスト”、アフロ・リズムとアンビエントが出会ったニュー・エイジ的な“ユニティ”、そしてファラオ・サンダースを想起させるシャバカのサックスによる“ザ・ユニヴァース・ウェイクス・アップ”でアルバムは幕を閉じる。かつてアフリカ・バンバータがクラフトワークの影響を受けて“プラネット・ロック”を作り、ヒップホップとエレクトロの道を切り開いていったが、そうした異文化の衝突から新しいものが生み出されていく初期衝動に満ちたアルバムである。


 シークレット・プロジェクト・ロボット(SPR)は、20年前にはじまった。当初はマイティ・ロボットという名前だった。マイティ・ロボット場所であり、ヴィジュアル・グループであり、DJ、プロジェクトの名前だった。コンタクト・レコーズから彼らのショーやヴィジュアル作品などを収録したDVDをリリースした後、その精神を引き継ぐ次の冒険としてシークレット・プロジェクト・ロボットがはじまった。
 NYに引っ越して来たばかりだった私は、マイティロボットを発見してからというもの毎日のように通った。彼らはブルックリン(ウィリアムスバーグ)のDIYバンド(ヤーヤーヤーズ、ライアーズ、アニマル・コレクティブ、!!!、オネイダなど)を積極的にブックした。フェスやパーティ、アートショーを開き、毎日のように人を集まる場を作った。
 彼らがシークレット・プロジェクト・ロボットとなってからは、最初はウィリアムスバーグ、次にブッシュウィックと場所を移した。こうして彼らは20年間DIY精神を保持したまま、生き延びてきている。新しい場所に引っ越して1年、彼らはあらたな決断を持った。それは2019年4月末、いまの場所を別のビジネスに譲ることだった。

 アートスペースからはじまった彼らは、ブッシュウィックに移ったときからアートスペースだけでやっていくのは厳しいと感じていた。しかしアートは売れなくてもアルコールは売れることに気付くと、彼らはバー、カフェを続けてオープンした。シークレットを維持することができたのはそのおかげだ。なので、新しいシークレットもアートギャラリー兼バーとしてオープンした。アンダーグラウンドなDIYギャラリーから合法的なバーとなったわけである。が、バーによって金はまわせるが、彼らは自分たちのやりたいことはこれではないと気づいた。で、今回の決断へと至ったのである。

 現シークレット・プロジェクト・ロボットは閉店するが、同所はデス・バイ・オーディオ・アーケードというゲーム制作会社が、ワンダーヴィルと改名して引き継ぐことになった。キックスターターで資金を募り、目標金額を達成した(https://www.kickstarter.com/projects/markkleeb/wonderville-arcade)。ゲームやピンボールがあるヴェニューになる予定で、いままでジプシーのようにいろんなDIY会場を転々としていた彼らだが、ようやく自分の場所を見つけたというわけ。。
 ライトニング・ボルトのブライアンGもゲームを作っているし、ブルックリンのDIYシーンはゲームへと向かっているって? 

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