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The Pop Group

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久保正樹   Apr 02,2015 UP

 90年代に青春のようなものを過ごした筆者にとって、ちょうどザ・ポップ・グループの音源はどれもこれも入手困難につき、中古レコード屋の壁に鎮座する高嶺の花だったわけで……。なので、彼らの作品をようやく手にすることができたのは、たしかセカンド『ハウ・マッチ・ロンガー(われわれはいったいどれだけの大量殺戮を見逃すんだ)』が日本だけでCD再発されたときだから、1994年だったと記憶する。その1曲め“フォース・オブ・オプレッション”の衝撃たるやこれいかに! 長らくしたためすぎて溜まりに溜まり濡れに濡れてパンパンに膨らんだグループに対するこちらの妄想。それをゆうに越えた破壊力に、度肝どころか五臓六腑すべてを抜かれたものだ。

 そんな破壊力や初期衝動といった当時を思わせる若さなんてはなっから期待していなかったのだけれど、ザ・ポップ・グループの35年ぶりの新作にはなかなかに驚かされた。こちらは実際に体験していないので勝手な想像に終わってしまうが、2010年の再結成、そして2011年の〈サマーソニック〉出演時などの動画をみると、精彩を欠いたおっさんたちが懸命にかつてのザ・ポップ・グループのコピーに勤しんでいるという残念さでいっぱいだったのが正直なところで……。また、同時期に再結成&来日を果たしたノイエ・ドイチェ・ヴェレの雄、パレ・シャンブルクの抜群のキレのよさと比べてしまい、さらにがっかりしたものだ。

 しかしどうだ。ザ・ポップ・グループの新作『シチズン・ゾンビ』は、そんな失望を嘘ごとのようにはるか向こうに吹き飛ばす強烈なエナジーに満ちあふれているではないか。1曲めのタイトル曲“シチズン・ゾンビ”からマーク・スチュワート印の拡声された声のアジテーションが飛び出し思わず「おおぅ」となる。ほどよくダブ処理されたブルース・スミスのドラムと、ダン・カツィス(2代めベーシスト)のパンキー・レゲエなベースがずっしりとバンドの骨格を支え、ギャレス・セイガーのギターはエッジの効いた単音リフを刻んで空間を切り裂く。まぎれもなくザ・ポップ・グループの音だ。キレもある。ただ、そこにはかつてあった触るものみな傷つけるような暴力さはなく、しかし、尖ったナイフを捨てて胡座をかいているような生ぬるさも微塵もない。勢いというよりも、説得力を増した音と絶叫は相も変わらず傍若無人でワガママ。年をとるのも悪くない。そして、リード・シングル“マッド・トゥルース”では、1980年にリリースされたザ・スリッツとのスプリットEPに収録されていた“ホエア・ゼアズ・ア・ウィル・ゼアズ・ア・ウェイ”を思い起こさせる変則ジャズ・ファンクを聴くことができて、つづく“ノーウェア・ガール”ではいつになく緻密なアレンジと大胆なサウンド・プロダクションが同居する演奏をバックに、マークがロマンチシズムたっぷりに歌い上げたりする。本作のプロデュースに、アデル、U2、ポール・マッカートニーらを手掛けたポール・エトワースを起用するという開かれた試みも功を奏し、よい意味で彼らのごった煮スープのような音の具材一つひとつにクリアなうま味が加えられ、騒々しくも全体のピントがくっきり締まりのあるものになっている。また、本作の聞きどころとして、全編に顔を出す女性コーラスの存在も大きい。華やかな添えものとしてではなく、意表とツボをつくコーラスは作品に妖しい色気とゴージャスなグルーヴを送りこむ。その効果は“イマキュレイト・ディセプション”のなかでとくに顕著である。それにしてもギャレスのトリッキーなギターは最高だ。リップ・リグ&パニック時代にも冴えまくっていた不協和音混じりのザラついたカッティングに、ぎょいーんと曲の中心をずらして鋭利に切りこむスライド・ギター。なんだか、ザ・クラッシュのダンス・クラシック“ロック・ザ・カスバ”ばりのキャッチーな躍動感をもつディスコ・ファンク“ソフィア”や『ハウ・マッチ・ロンガー』収録の“ブラインド・フェイス”を思い出させるベースラインやフリーキーなサックスが印象的な、アルバム中もっとも混沌をきたす“ボックス・ナイン”で鳴らされるそのギターは、ザ・ポップ・グループがいつまでもザ・ポップ・グループであることを確かなものにする。

 グループ解散後にリリースされた3枚めのアルバム『ウィ・アー・タイム』(1980)で作り上げた発想と破壊の果ての巧みなバンド・アンサンブル。それを洗練とも熟練ともちがう、気迫あふれるラディカリズムで引き継いだ本作。彼らの過去の作品が35年もの月日に風化されることなく、いつまでもセンセーショナルに聴かれつづけてきたように、この『シチズン・ゾンビ』も聴くほどに新たな突破口を見出せる作品となっている。
 老いてなお燃ゆる。ブリストルの恐るべき10代たちは、自ら仕掛けた最大級の反語=「ポップ」の罠に陥ることなく、50代となったいまなおグループの革新性を更新しているのだ。

久保正樹