「AY」と一致するもの

WAAJEED JAPAN TOUR 2023 - ele-king

 昨年、“ Motor City Madness”が話題になって、〈トレゾア〉からアルバム『Memoirs of Hi-Tech Jazz』をリリースしたデトロイトのワジードが来日する。

 日程は以下の通り。

 10.21 (SAT) CIRCUS TOKYO
 Info: CIRCUS TOKYO https://circus-tokyo.jp/event/waajeed/
 10.22 (SUN) ASAGIRI JAM ’23
 Info: ASAGIRI JAM https://asagirijam.jp

 ワジード(Waajeed)ことRobert O’Bryantは、ミシガン州デトロイト出身のDJ/プロデューサー、アーティスト。10代のとき、デトロイト・ヒップホップを代表するグループ、Slum VillageのT3、 Baatin、J Dillaと出会い、DJやビートメイカーとしてSlum Villageに参加。奨学金を得て大学でイラストレーションを学ぶ時期もあったが、Slum Villageのヨーロッパ・ツアーに同行しに、音楽を生業とすることを決めた。
 2000年にはSaadiq (Darnell Bolden)とPlatinum Pied Pipersを結成し、ネオソウルやR&B色強いサウンドを打ち出した。Platinum Pied Pipersとして、Ubiquityよりアルバム『Triple P』、『Abundance』がある。2002年からレーベル〈Bling 47〉を主宰し、自身やPlatinum Pied Pipers名義の作品のほか、 J Dillaのインスト・アルバム『Jay Dee Vol. 1: Unreleased』や 『Vol. 2: Vintage』をリリースしている。
 2012年、レーベル〈DIRT TECH RECK〉を立ち上げ、より斬新なダンス・ミュージック・サウンドを追求している。Mad Mike Banks、Theo Parrish、Amp Fiddlerとのコラボレーションを経て、2018年、ワジードとしてのソロ・アルバム『FROM THE DIRT LP』を完成させた。2022年、最新アルバム『Memoirs of Hi-Tech Jazz』をドイツのテクノ名門、〈Tresor〉から発表。

https://linktr.ee/waajeed
https://www.instagram.com/waajeed/
https://twitter.com/waajeed_

Waajeed - Motor City Madness (Official Video) (2022)

Dames Brown feat. Waajeed - Glory (Official Video) (2023)

Church Boy Lou - Push Em' In the Face (Official Music Video) (2023)

アフリカは自分たちのゴスペルを創出する - ele-king

 2020年、コロナ禍のさなか、多くの人が〈Jerusalema〉に合わせて踊るところを自撮りし、SNSに投稿した。南アフリカの歌手が歌ったこの曲は神への信仰を歌ったゴスペルであると同時に、サブサハラのダンス・ミュージックを取り入れたアーバン・ミュージックの範疇にある。アフリカ南部とコートジボワール、コンゴのゴスペル音楽シーンを概観する。

 1922年ロンドンで行われた世界初のアフリカ人歌手による宗教音楽の録音が大英図書館のアーカイブに保存されている。西アフリカに広く普及しているヨルバ語の「Jesu olugbala ni mo f’ori fun e」という歌詞は明解である。「われは救世主イエスに身を捧ぐ」という意味だ。この曲を歌い、作詞・作曲者でもあるジョサイア・ジェシー・ランサム=クティ(1855-1930)は、イギリス保護領ナイジェリアの英国国教会の聖職者であり、人々を教会に惹きつける強い力を音楽に見出していた(1)。彼は録音の8年後に亡くなったが、彼の血筋はアフリカの知的・文化的歴史に名を刻むことになる。孫のフェラ・ランサム=クティ(1938-1997)はアフロ・ビートのパイオニアであり、「ブラック・プレジデント」と呼ばれているが、1977年に録音されたアルバム『Shuffering and Shmiling』(2) の中で、ナイジェリア国民が盲目的に宗教を受け入れている様を非難している。しかし、これは無駄なことだった。2060年には、地球上のキリスト教徒の40%がアフリカにいるだろう。そして、アフリカの宗教音楽も同様に社会での地位が高まりつつある。まず、典礼聖歌のレパートリーが解放されて、礼拝堂や教会の外で、「霊的に生まれ変わった」歌手たちによって歌われた。彼らはサブサハラの福音派、ペンテコステ派の信者で、時として女性である。この新しいアフリカのキリスト教音楽のアーティストたちは、福音派信仰の特徴のひとつである、「新生」に(たと) えるべき回心を自ら体験しているが、教会の中だけで歌い報酬を受け取らない典礼聖歌の歌い手とは異なっている。

 コロナ感染症拡大が社会や経済に与えた影響と魂の癒やしへの欲求が、音楽配信プラットフォームで新しい世代の歌手たちが頭角を現す後押しとなった。彼らはリンガラ語で、ヌシの言葉で(3)、ナイジェリアのピジン英語で、神の言葉と家族の価値を説く。彼らのリズムは、サブサハラのアーバン・ビート(南アフリカのアマピアノ[ハウス・ミュージックのサブジャンルのひとつ]、ナイジェリアのアフロ・ビート)も、5千万人以上のアメリカ人が高く評価している、R&B、ポップ・ミュージック、大編成のオーケストラとバイオリンといった、信仰に結びついた音楽の規範的様式も同じように取り入れている。

 ジンバブエ、エスワティニ(旧スワジランド)と南アフリカは、アフリカ南部にあって、才能が育つ好環境の土地である。そこは合唱団が数多く存在する土地であり、ボーカル・ミュージックが重要な地位を占めて、サブサハラの文化産業のニッチにあるキリスト教音楽の中心地であり続けている。2015年に行われたある調査によると、南アフリカの国民の13%がゴスペルを聴くのを好むということだ。この数字は世界の平均の3倍以上の値である(4)。この国では、国内のゴスペル・ミュージック市場は「世俗」音楽市場と競い続けている。それは、ソウェト・ゴスペル・クワイア(5)のような国境を越えて評価されている大合唱団や、ベンジャミン・ドゥべ(6)のような歌う牧師、活気あるこの業界、毎年11月にゴスペル音楽の活況をテレビを通して祝う南アフリカ放送協会のクラウン・ゴスペル・アワードの放送などのおかげである。アパルトヘイトの間、ゴスペル音楽は批判をかきたて、希望を鼓舞してきた(7)。今日でも「大部分の南アフリカ人にとってゴスペル音楽は、自分が何者であるか、人生をどう考えているか、どのような試練を経てきたかを表現するよすがとなっている」と、ヨハネスブルクのウィットウォーターズランド大学の民族音楽学教員、エヴァンス・ネチヴァンベは指摘している。

 モータウン・ゴスペル・アフリカはデトロイトのソウル・ミュージック会社の子会社レーベルである。2021年、1994年に結成された南アフリカのゴスペル合唱団ジョイアス・セレブレーション(8)との契約からアフリカ大陸での活動を始めた。アビジャンにあるユニバーサル・ミュージック・アフリカの社屋内に本社を構えて(9)、最近アフリカの3つのキリスト教歌曲が成し遂げた国際的成功を再現しようと、新しい才能の発掘も行っている。3つの曲のうちのひとつである〈Jerusalema〉[原題の意味は「エルサレム」]は、メソジスト教会の信者で、DJでもありプロデューサーでもある、南アフリカ人のガオゲーロ・モアギ、別名Master Kgが制作し、ノムセボ・ズィコデが歌って、2019年末に発表された(10)。リンポポ・ハウス(アフロ・ハウスのサブジャンルのひとつ)に乗ったズールー語の歌詞の最初の部分は、聖書(新約聖書の最後の書である『黙示録』)から引用されている。国内で発表されたあと、SNSのTikTokのダンス・チャレンジに用いられて(11)、まずアンゴラでヒットし、ポルトガルで勢いを得て、2020年夏のヨーロッパにおけるヒット曲のひとつとなった。そして、ナイジェリアのスター歌手ブルナ・ボーイのリミックス(12)のおかげでアフリカ大陸に凱旋した。この曲は今までに、5億6400万回以上YouTubeで再生されている。


スィナッチ photo by Pshegs, CC-BY-SA-4.0

 同じ時期にアメリカ合衆国では、別のアフリカのゴスペル曲が話題になっていた。ナイジェリア人歌手スィナッチの〈Way Maker〉である(13)。彼女は、いろいろと批判を受けているナイジェリアの牧師、クリス・オヤキロメ氏(カルト的偏向が特に非難されている)が設立した福音派教会である「キリスト大使館」の合唱団出身で、この曲は教会のレーベルLoveworldから2015年末に発売された。4年後、アメリカの白人キリスト教徒の歌手マイケル・W・スミスにカヴァーされて、〈Way Maker〉は(14)、コロナ・ウイルスの世界的蔓延の中、癒やしの曲になった。それと同時に、アメリカ音楽産業のバイブル、ビルボード誌で、キリスト教歌曲部門の1位を占めた最初のメイド・イン・ナイジャ(ナイジェリア)のゴスペル曲となった。そして、国際的ヒットの3つめは、[10年以上も前に作られた]〈Comment ne pas te louer〉[原題の意味は「あなたをほめたたえずにはいられない」](15)がSNSで爆発的に話題になったことである。この曲は、カメルーン出身のベルギー人で、聖霊布教会の聖職者であるオーレリアン・ボレヴィス・サニコの作曲で、今年初め、ヨーロッパの隅々まで圧倒的な人気を博したカトリック歌曲となった。

 この3曲は、メディア・グループAudiovisuel Trace TVが2015年に開設したチャンネルであるTrace Gospelで何度も放送され、「フランス語圏アフリカのメンタリティの縛りを破り、自分たちの勢力圏に留まっていてはいけないと理解させることになりました」と、アビジャン在勤の番組編成者、カーティス・ブレイ氏は指摘している。「これまで私たちは実際のところ、英語話者に比べると、まったく保守的で伝統主義的でした。宗教音楽は教会でしか聴くことができませんでした」と彼は続ける。今では、ますます多くの、回心した若いフランス語話者のキリスト教信者が「自分の神への愛だけでなく、ミサを離れたコミュニティの中にあるアーバン・ミュージックへの情熱を正しいものだと認めることができる」この新しい考え方に従うようになってきているとブレイ氏は見ている。ブレイ氏はまた、「音楽クリップでわかるように、フランス語ゴスペルは明らかにプロフェッショナル化」しているとも指摘している。2019年、コンゴ人歌手、デナ・ムワナの〈Souffle〉[原題の意味は「いぶき」](16)のために制作されたクリップは、英語圏で制作されたクリップに比べても、まったく遜色がない。「目には見えないことを/聴くことができないことを/神の霊よ、あなたは知っている/そうあなたは知っている……」


デナ・ムワナ photo by Missionnaire2013, CC-BY-SA-4.0

 このデナ・ムワナは、モータウン・ゴスペル・アフリカのサポートを受けた最初のフランス語話者アーティストのひとりである。コンゴの福音派教会の合唱団で名を高めた後に、Happy Peopleレーベルと契約した[この契約を継続しつつ、モータウン・ゴスペル・アフリカのサポートを受けている]。このレーベルは、彼女の夫のミシェル・ムタリ氏が、モバイル決済サービスのマネージャーを経験した後、Canal+ Afriqueのセールス・ディレクター を経て立ち上げたもので、そのLinkedIn[ビジネス向けSNS]のページによると、「キリスト教の文化活動・感化活動の企画・実行に特化している」としている。ムタリ氏によれば、「新しいゴスペルにはふたつの目的がある。福音伝道と、アーティストが自分の才能によって生活することを可能にすることである」。アビジャンのゴスペル音楽業界に端的に表れているように、今やMP3のシステム、すなわち、3カ月ごとに1曲発表する、ということが大切である。


Femua15開会式のKSブルーム photo by Aristidek5maya, CC BY-SA 4.0

 コートジボワールの経済の中心地アビジャンでは、キリスト教ラップを歌う売出し中のラッパー、スレイマン・コネ、別名KS・ブルームが「人々を神の御許に導く(17)」ために歌っている。彼は2017年に「万物の創造主」と出遭ったという。それ以来、2021年に発表されたアルバム『Allumez la lumière』[原題の意味は「光をともせ」]とシングル曲〈C’est Dieu〉[原題の意味は「 神がお始めになった」](18)の発売にも支えられて、彼の人気は急上昇した。昨年の夏には、フランスの一般メディアの注目は集めなかったが、カジノ・ド・パリ[コンサート・ホール]を満員にした。4月の終わり、マジック・システム(19)のリーダー、サリフ・トラオレが創設したコートジボワールのFemua フミュア(アヌマボ・アーバン・ミュージック・フェスティバル)の第15回フェスティバルで、KS・ブルームはラッパーのブーバ(20)と並んで、出演者の一角を占めた。この26歳の若いアーティストの航跡には、コートジボワールの音楽シーン「クーペ=デカレ[ダンス・ミュージックのひとつの流れ]」の離脱者の驚異的な成功を見ることができる。多くの者が2019年8月のDJ アラファト(21)の事故死の後、[彼がいなくなった]クーペ=デカレから離脱して、それぞれ国内に4千ある福音派教会のひとつへと戻っていったのだった。

 新しい世代の出現があっても、新しいゴスペルも仲間内の足の引っ張り合いや意見の対立から免れているわけではない。「気をつけていなければ」とコンゴ人のキリスト教徒のラッパー、エル・ジョルジュ(22)は2022年7月に警告している。「キリスト教徒のアーバン・ミュージックは[主流のアーティストの模倣となってしまって]実のないものになってしまうだろう……。もしアーバン・ミュージックを通して神に仕えるように神が本当に君を呼んでいるのなら、君は同様に、独創性を発揮するビジョンももっているはずだ。独創性を伸ばせ(23)

 救世軍の一員で、ジンバブエのゴスペルの父である80歳のギタリスト、マカニック・マニエルーケ(24)は、これまでに約30のアルバムを出してきた。その彼は独創性をどう伸ばすかという問いを自らに問うたことはない(25)。「歌っている内容に自分が納得できているかだけが重要です」と、2018年に彼は説明している。若い人への彼のアドバイスはどういうものか? 「神を信じて、罪を犯さぬよう立派に行動しなさい。私たちが今日生きている世界は、まったくのところ、誘惑に満ちています」。今やそのひとつに、神を賛える歌を歌うことで財産を築くことができるという誘惑がある。

出典:ル・モンド・ディプロマティーク日本語版9月号

(1) Janet Topp Fargion, «The Ransome-Kuti dynasty », The British Library, janvier 2016. [このサイトで〈Jesu olugbala ni mo f’ori fun e〉(「 われは救世主イエスに身を捧ぐ」)を聴くことができる]
(2) [訳注]Fela Ransome-Kuti - Shuffering and Shmiling https://youtu.be/kjEObOMRJJE
(3) [訳注]nouchi:コートジボワールで主に若者によって用いられている、ジュラ語・マリンケ語・フランス語が混交した言葉。ラルース仏語辞典による。
(4) Darren Taylor, « In South Africa, Gospel Music Reigns Supreme », VOA, 8 octobre 2015.
(5) [訳注]Soweto Gospel Choir https://youtu.be/fjiVG1QKZJs
(6) [訳注]Benjamin Dube https://youtu.be/jkAcQs39fuA?list=RDcs0mtACUd58
(7) ヨハネスブルクのメソジスト宣教団がもつ学校の合唱団のために、教員のエノック・ソントンガが1897年に作曲した〈Nkosi Sikelel’ iAfrika〉(神よ、アフリカに祝福を)は、アフリカ民族会議(ANC)の賛歌となり、[アパルトヘイト反対運動の中でさかんに歌われ]のちに新生南アフリカのふたつの国歌のうちのひとつとなった。
(8) Murray Stassen, « Universal Music Africa and Motown Gospel sign superstar South African music group joyous celebration », Music Business Worldwide, 19 mars 2021. [Joyous Celebration - Ndenzel’ Uncedo Hymn 377 https://youtu.be/g-4QAtOrIoA]
(9) [訳注]モータウン・グループはユニバーサル・ミュージックの傘下にある。
(10) [訳注]Master KG - Jerusalema [Feat.Nomcebo Zicode] https://youtu.be/fCZVL_8D048
(11) [訳注]Jerusalema Dance Challenge https://www.youtube.com/watch?v=mdFudLPyqng
(12) [訳注]Master KG - Jerusalema Remix [Feat. Burna Boy and Nomcebo] https://youtu.be/9-RhCvYpxqc
(13) [訳注]Sinach - Way Maker https://youtu.be/QM8jQHE5AAk
(14) [訳注]Michael W. Smith - Way Maker https://youtu.be/iQaS3KudLzo?list=RDiQaS3KudLzo
(15) [訳注]Aurélien Bollevis Saniko - Comment ne pas te louer https://youtu.be/Wv_KsPW0tIY
(16) [訳注]Dena Mwana - Souffle https://youtu.be/NM-eXztJFc4
(17) « En Côte d’Ivoire, l’engouement pour le rap chrétien », Radio-France Internationale, 30 avril 2023.
(18) [訳注]KS Bloom – C’est Dieu https://youtu.be/m0N965nXmXY
(19) [訳注]Magic System - Anoumabo est joli https://youtu.be/oPK3-ogvAqI
(20) [訳注]Booba - Préstation Femua 15 Abidjan 2023 https://youtu.be/XRDes6dEipU
(21) [訳注]DJ Arafat - Ça va aller https://youtu.be/SfMd87D16a8?list=PLuD1V5DZjZV7uoReuPNyF2e1jPhbbWe3e
(22) [訳注]El Georges – Jubiler https://youtu.be/9l7fW_A9k2c
(23) « El George[sic] agacé par les artistes urbains qui imitent Tayc, Hiro», Infos Urbaines, 19 juillet 2022.
(24) [訳注]Machanic Manyeruke - Madhimoni (“Demons”) https://vimeo.com/452912642
(25) Sur cette figure zimbabwéenne, on peut voir Machanic Manyeruke : The Life of Zimbabwe’s Gospel Music Legend, de James Ault, https://jamesault.com

Lawrence English & Lea Bertucci - ele-king

 2023年、アンビエント・アーティストのローレンス・イングリッシュは、〈Kranky〉からロスシルとのコラボレーション・アルバム『Colours Of Air』と〈Room40〉からデイヴィッド・トゥープとのコラボレーション・アルバム『The Shell That Speaks The Sea』をリリースしている。
 そして、ローレンス・イングリッシュとリー・ベルトゥッチとの共作である、『Chthonic』は、イングリッシュにとっては2023年、3作目のアルバムにあたる。このアルバムはローレンス・イングリッシュが追及してきたフィールド・レコーディング作品の極地、いや完成形といえるほどに見事な出来栄えであったのだ。音に満ちた世界が音楽の断片と交錯し、より深く、より大きなサウンドスケープが生成れている。

 『Chthonic』ではイングリッシュがフィールド・レコーディングとエレクトロニクス、テープ操作を担い、ベルトゥッチがチェロやフルート、ヴァイオリン、ラップスティールまでも演奏し、壮大かつ緻密な音響空間を織り上げている。マスタリングはニューヨーク在住のアンビエント・アーティスト、ラファエル・アントン・イリサリが手がけていることも付け加えておきたい。リリースはシカゴの〈American Dreams〉からである。
 リリース元の〈American Dreams〉は、シカゴのチェロ奏者リア・コール(Lia Kohl)、フィラデルフィアの実験音楽家/作曲家のルーシー・リヨウ(Lucy Liyo)、イラン・テヘラン出身のアンビエント・アーティスト、シアヴァシュ・アミニ(Siavash Amini)などのエクスペリメンタル・ミュージックのみならず、「アメリカのレディオヘッド」と評される12RODS『We Stayed Alive』、ポスト・ブラック・メタルともいえるAnti-God Hand『Blight Year』までもリリースするなど、多様なラインナップが魅力的なレーベルとしてマニアには一目遅れている。アンビエント作品とブラック・メタルが並ぶラインナップはまさにこのレーベル独自のものだろう。

 話を本作『Chthonic』に戻そう。イングリッシュによる環境録音は自然現象そのもののように力強いが、環境音に溶けるように交錯されていくベルトゥッチによるチェロやフルート、ヴァイオリンなども実に見事だ。まるで音響の中に溶け込み、まるで霧のような音を生成しているのだ。見事なサウンドスケープである。よく聴き込んでみると、環境音と聴こえていた音が、エディットされたリズムを発していることに気がつきもする。繰り返し聴き込むたびに、そのダイナミックかつ緻密な音響空間に驚きを得ることになるはずだ。
 まずは、1曲目 “Amorphic Foothills” を聴いて頂きたい。環境音が生のまま音のように鳴っているかと思いきや、明らかに周期的なリズムも聴こえてくる。そこに弦楽器の折り重なり、環境音と一体化していく。自然と楽器音、無編集と人為的な編集が曖昧に交錯し、ひとつより大きな(深い)サウンドスケープを形成しているのである。私はこのアルバム冒頭のトラックを聴き、世界の音が交錯し、重なり合い、溶け合っていくさまに衝撃を受けた。もちろんこの種のサウンドの作品は他にも多くある。だが、『Chthonic』は環境音それじたいが音楽的に持続し変化していっている。そんな印象を持った。素材を選択と編集が絶妙だからではないかと思う。
 ローレンス・イングリッシュはアンビエント・アーティストでもあるので、自身のサウンドとコンポジションを持っている。環境録音に対しても同じような意識で編集・加工していると思われる。音が線的に変化しているのだ。シアヴァシュ・アミニの弦楽器もイングリッシュのアンビエント作家的なサウンドに共鳴しているように思えた。チェロやヴァイオリンが環境音と共に変化しているように聴こえるのだ。
 ふたりは2019年に出会い、その後、オーストラリアとニューヨークのあいだをリモートで制作をしたという。時期的にみても2020年のコロナ禍も挟んでいる。いわば世界的な危機の状況で、この超自然的な音響作品が制作されたことはやはり重要と思える。このアルバムに満ちている自然のうごめきのようなサウンドは、まるで地球の地殻変動や気候の変化などを体現するように聴こえてくる。

 アルバムには全5曲が収録されている。2曲目 “Dust Storm” ではより激しい、まさに豪雨のような音響空間を形成し、アルバム中もっとも長尺(12分25秒)の4曲目 “Fissure Exhales” ではアルバム全体の音響が統合されたようなスケールの大きいサウンドを展開する。そしてアルバム最終曲 “Strata” では、すべてが過ぎ去った後の不思議な空虚感を漂わせてアルバムは終わっていくのだ。
 どれも長尺だが、しかしその音の変化、質感、レイヤーを意識的に聴き込んでいくと、われわれリスナーの時間もまたローレンス・イングリッシュとシアヴァシュ・アミニの音の中に漂うようになり、やがて溶け合っていくような感覚を得ることになるだろう。音と音楽。環境音と楽器。時間と無時間。その交錯。実に高品質なエクスペリメンタル・ミュージック/フィールド・レコーディング作品/アンビエントである。音と音楽の境界線がここには鳴っている。

PJ Harvey - ele-king

PJハーヴェイのいくつもの声

 2001年、PJハーヴェイはロックの女神としての絶頂期を迎えていた。前年にリリースされた『Stories from the City, Stories from the Sea』は、これまででもっとも洗練された、理解を得やすいアルバムとなり、1998年の緊張感をはらんだ『Is This Desire?』でつきまとわれた暗い噂を一掃するような自信に満ちた一撃となった。その年の9月にマンチェスター・アポロでのハーヴェイのライヴを観たのは、彼女がマーキュリー賞を受賞してから数週間後のことで、私がこれまでに観た最高のロック・ギグのひとつとなった。ラジオ向きの、煌びやかな加工がされていない “This Is Love” や “Big Exit” のような曲は、より記念碑的に響き、まるで彼女がブルース・ロックの原始的な真髄にまで踏み込み、マッチョ的な要素や、陳腐なエリック・クラプトンのような、このジャンルにありがちなものすべてが刈り取られたかのようだった。

 だが、そのショウは、ほとんどウィスパーといえるほどの小声で始まった。ハーヴェイは単独でステージに上がり、ヤマハの QY20 でのハーモニウム風の伴奏に合わせ、子どものような、物悲しいメロディを歌った。私はその曲を判別できなかったが、サビのコーラスに差しかかると、客席でクスクス笑いが起こった。バブルガム・ポップのグループ、ミドル・オブ・ザ・ロードの1970年のヒット曲 “チピ・チピ天国” の有名なリフレイン「Where’s your mama gone? (あなたのママはどこへ行ったの?)」をとりあげたからだ。ポリー・ジーンにはユーモアのセンスが欠如しているなんて、誰にも言わせない。

 昨年リリースされたコンピレーション『B-Sides, Demos & Rarities』を聴くまで、このことはすっかり忘れていた。“Nina in Ecstasy 2” は、『Is This Desire?』のセッションで録音され、結果的には「The Wind」のB面としてリリースされたものだ。当時は珍品のように見做されていたに違いないが、この曲はハーヴェイの、その後のキャリアの方向性を示す初期におけるヒントだったのではないかと思い当たった。この曲で使われた、浮遊感のある、ほとんど肉体から切り離されたような儚い高音域の声は、2007年の『White Chalk』や、2011年の『Let England Shake』などのアルバムで再び使われた種類の声だ。さらに、今年の『I Inside the Old Year Dying』でも聴くことができる。この作品をハーヴェイのフォーク・アルバムと呼びたい衝動にかられるものの、それは、私がこれまでにまったく聴いたことのないフォーク・ミュージックなのだった。

 熟練したアーティストが、自分の強みを離れたところで新たな挑戦をするのには、いつだって心惹かれる。彼女のレコード・レーベルにとってみれば、『Stories from the City, ~』の路線を継承し、クリッシー・ハインド2.0へと変化を遂げてほしかったことだろう。だが、彼女は2004年に、セルフ・プロデュースしたラフな感じを楽しむようなアルバム『Uh Huh Her』 を発表した。アートワークは、セルフィ(自撮り写真)と自分用のメモをコラージュしたもので、そのひとつには、「普通すぎる? PJHすぎる?」との文字があり、彼女の創作過程を垣間見ることができる。「曲で悩んだら、いちばん好きなものを捨てる」という一文は、ブライアン・イーノとペーター・シュミットの「オブリーク・ストラテジーズ」のカードからの引用ではないかとググってしまったほどだ。

 ハーヴェイにとって「いちばん好きなもの」とは、彼女自身の声、あるいは少なくとも彼女の初期のアルバムで定義づけられた生々しい、声高な叫びを意味するのではないか。それは、驚くべき楽器だ。1992年のデビュー作『Dry』のオープニング・トラック “Oh My Lover” を聴いてみてほしい。歌詞はかなり曖昧なトーンで書かれているのに、彼女の歌声には驚くべき自信とパワーが漲っている。このアルバムと、それに続く1993年のスティーヴ・アルビニによる録音の『Rid of Me』にとって効果的だったことのひとつは、荒涼としたパンク・ブルースのおかげで、ヴォーカルに多くのスペースが割り当てられたことだった。ハーヴェイの喉の方が、当時のグランジ系が好んで使用したディストーションの壁よりも、より強力だったのだ。1995年の豊穣なゴシック調の『To Bring You My Love』では、彼女は自分の声をさらに先へと押し出し、BBCスタジオでの “The Dancer” のパフォーマンスでは、ディアマンダ・ガラスとチャネリングしているかのように聴こえたし、そう見えた。実際に彼女は自身の声の形を変える実験も始めていた。最近のNPRとのインタヴューでは、プロデューサーのフラッドに、閉所恐怖症的な “Working for the Man” の録音の際、毛布をかぶされ、マイクを喉に貼りつけて歌わされたことを回想している。

 10枚のソロ・アルバムと、長年のコラボレイターであるジョン・パリッシュとのデュオ・アルバム2枚というハーヴェイのディスコグラフィを貫く共通項は、おそらく、頑なに繰り返しを拒んできたことだろう。多くのアーティストが同じことを主張しがちだが、ハーヴェイは暴力的なほどの意志の強さでこれを貫き、デイヴィッド・ボウイと匹敵するほど、自分をコンフォート・ゾーン外に意図的に追いやってきた。『White Chalk』では、ギターを、ほとんど弾くことのできないピアノに替え、元来の声域外で歌った(彼女は当時のKCRWラジオのインタヴューで「多分、自分が得意なことをやりたくなかっただけ」と語っている)。歌詞においても、それまでの自分には、手に負えないだろうと思うようなテーマに努力して取り組んでいる。『Let England Shake』は主にオートハープを使って作曲されたが、第一次世界大戦の歴史を考慮に入れて、自らをある種の戦争桂冠詩人に変身させた。2016年の『The Hope Six Demolition Project』 では、写真家のシェイマス・マーフィーと世界中を旅した経験から、現代政治と外交政策の意味を探ろうと試みた。

 『I Inside the Old Year Dying』は、もうひとつの、ドラマティックな変化を示している。この作品は、2022年に出版された、彼女の生まれ故郷のドーセット地方の方言で書かれた長編の詩集『Orlam』が進化したもので、歌詞カードには、曲を彩る難解な言い回しの意味の説明の脚注が付いている。「wilder-mist(窓にかかった蒸気)」、「hiessen(不吉な予感)」、「femboy(フェムボーイ=少女のような少年)」、「bedraggled angels(濡れた羊)」などだ。それらの言葉の馴染みのなさは、音楽にも反映され、音楽の元の素材から連想できるようなフォークの作風は意識的に避けられている。ハーヴェイはこのアルバムを、パリッシュとフラッドというもっとも信頼するふたりのコラボレイターに加え、フィールド・レコーディングをリアルタイムで操作した若手のプロデューサー、アダム・バートレット(別名セシルとして知られる)と共に制作した。フラッドは、より伝統的な楽器編成を古風なシンセサイザーで補い、「sonic disturbance(音波の攪乱)」としてもクレジットされている。これは、温かいが、尋常ではない響きのアルバムであり、ハーヴェイの成熟した作品を定義するようになった、どこにも分類することのできないクオリティを保っている。この音楽は、時間や場所を超えて存在するようなものではあるが、彼女にしか創り得なかったものなのである。

The many voices of PJ Harvey

written by James Hadfield

In 2001, PJ Harvey was at the peak of her rock goddess phase. “Stories from the City, Stories from the Sea,” released the previous year, had presented her slickest, most accessible album to date – a confident blast to dispel all the dark rumours that had accompanied 1998’s fraught “Is This Desire?”. The show I saw her play at the Manchester Apollo that September, just weeks after winning the Mercury Music Prize, was one of the best rock gigs I’ve ever seen. Without their radio-friendly production gloss, songs like “This Is Love” and “Big Exit” sounded even more monumental, as if she was tapping into some primal essence of blues rock, shorn of all the macho, Eric Clapton cliches you’d normally associate with the genre.

Yet the show had started almost at a whisper. Harvey took the stage alone and sang a plaintive, childlike melody, over a harmonium-style accompaniment played on a Yamaha QY20. I didn’t recognise the song, but when she reached the chorus, a chuckle rose from the audience: she’d lifted the “Where’s your mama gone?” refrain from “Chirpy Chirpy Cheep Cheep ,” a 1970 chart hit by bubblegum pop act Middle of the Road. Let nobody say that Polly Jean doesn’t have a sense of humour.

I’d forgotten about this until I heard the song again on the “B-Sides, Demos & Rarities” compilation, released last year. “Nina in Ecstasy 2” was recorded during the sessions for “Is This Desire?” and ended up getting released as a B-side to “The Wind.” It must have seemed like a curio at the time, but in retrospect it strikes me as an early hint of where Harvey would head later in her career. The voice she used on that song – floating, almost disembodied, delivered in a fragile higher register – is one that she would return to on albums such as 2007’s “White Chalk” and 2011’s “Let England Shake.” You can hear it again on this year’s “I Inside the Old Year Dying,” which I’m tempted to call PJ Harvey’s folk album, except that it doesn’t sound like any folk music I’ve heard before.

It’s always striking to hear an accomplished artist play against their strengths. Harvey’s record label probably would have loved her to continue on the trajectory of “Stories from the City…,” morphing into Chrissie Hynde 2.0. Instead, she delivered 2004’s rough, self-produced “Uh Huh Her,” an album that seemed to revel in its imperfections. The artwork, a collage of selfies and notes-to-self, offered glimpses into her creative process. “Too normal? Too PJH?” reads one of the notes. “If struggling with a song, drop out the thing you like the most,” reads another – a quote that I had to Google to check it wasn’t actually from Brian Eno and Peter Schmidt’s Oblique Strategies cards.

For Harvey, “the thing you like the most” can mean her own voice – or at least the raw, full-throated holler that defined her earlier albums. It’s a formidable instrument: just listen to “Oh My Lover,” the opening track on her 1992 debut, “Dry.” There’s a startling confidence and power in her delivery, even as the lyrics strike a more ambiguous tone. Part of what made that album and its 1993 follow-up, the Steve Albini-recorded “Rid of Me,” so effective was that their stark punk-blues left so much space for the vocals. Harvey’s larynx was more powerful than the walls of distortion favoured by her grunge contemporaries. On 1995’s lushly gothic “To Bring You My Love,” she pushed her voice even further: in a BBC studio performance of “The Dancer,” she sounds – and looks – like she’s channelling Diamanda Galas. But she had also begun to experiment with altering the shape of her voice. In a recent interview with NPR, she recalled that producer Flood recorded the claustrophobic “Working for the Man” by getting her to sing under a blanket with a microphone taped to her throat.

If there’s a common thread running through Harvey’s discography – 10 solo albums, as well as two released as a duo with longtime collaborator John Parish – it’s a stubborn refusal to repeat herself. Plenty of artists claim to do this, but Harvey has shown a bloody-mindedness to rival David Bowie, deliberately forcing herself out of her comfort zone. For “White Chalk,” she switched from guitar to piano – an instrument she could barely play – and sang outside her natural vocal range. (“I just didn’t want to do what I know I’m good at, I guess,” she told an interviewer on KCRW radio at the time.) Lyrically, too, she has made a deliberate effort to engage with themes that had seemed out of her grasp. “Let England Shake” – written mostly on autoharp – found her transformed into a kind of war laureate, reckoning with the history of World War I. 2016’s “The Hope Six Demolition Project” attempted to make sense of modern politics and foreign policy, based on her experiences travelling around the world with photographer Seamus Murphy.

“I Inside the Old Year Dying” marks another dramatic shift. It evolved from “Orlam,” a book-length poem that Harvey published in 2022, written in the dialect of her native county, Dorset. The lyric sheet comes with footnotes explaining the meanings of the arcane terms that pepper the songs: “wilder-mist” (steam on a window), “hiessen” (a prediction of evil), “femboy” (a girly guy), “bedraggled angels” (wet sheep). The unfamiliarity of the language is mirrored by the music, which consciously avoids the folk idioms which the material would seem to encourage. Harvey created the album with Parish and Flood, two of her most trusted collaborators, along with the younger producer Adam Bartlett (otherwise known as Cecil), who supplied field recordings that were manipulated in real-time. Flood complemented the more traditional instrumentation with archaic synthesisers, and is also credited for “sonic disturbance.” It’s a warm but also uncanny-sounding album, with an unplaceable quality that has come to define Harvey’s mature work. It’s music that seems to exist out of time, out of place, but could only have been created by her.

Metamorphose ’23 - ele-king

 メタモルフォーゼが帰ってくる。2000年にスタートしたこのエレクトロニック・ダンス・ミュージックを中心とする祭典が最後に催されたのは2012年。じつに11年ぶりの復活だ。しかも富士山の裾野で実施されるのは20年ぶりとのことで、眼前に富嶽広がるソーラーステージ、巨大ウェアハウス・パーティを再現するオールナイトのルナーステージともに充実のラインナップ。テクノからクラブ・ジャズ、ヒップホップ、ロックのレジェンドたちが大集合しているが、そんな大ヴェテランたちに混ざってGEZANや羊文学といった新進気鋭、若手アーティストが加わっている点は要注目だろう。テント・エリアもあり自分のペースで楽しめるフェス、開催はもう間もなく。


Metamorphose ’23
2023年10月14日(土)~15日(日)

OPEN 14日 10:00 / CLOSE 15日 21:00

https://www.metamo.info/

会場
御殿場市 遊RUNパーク玉穂

主催
Metamorphose 実行委員会

後援
御殿場市
御殿場市観光協会
J–WAVE
K-MIX

10/14 (土) SOLAR STAGE
Afrika Bambaataa / Dorian Concept / GEZAN
JAZZANOVA (DJ SET)/ paranoid void / 富岳太鼓

10/14(土) LUNAR STAGE [ALL NIGHT]
Carl Craig / CYK / Darren Emerson / DJ KRUSH
DJ YOU-KI / Joaquin“Joe” Claussell / MAYURI
ManoLeTough / Q’HEY / Timmy Regisford

10/15(日) SOLAR STAGE
DUENDE / Los Hermanos / Nai Palm / Ovall
SMTK / toconoma / 羊文学 / 家主

Ray Cranshaw - ele-king

Daybreak - ele-king

ROLAND HAYNES - ele-king

Tirzah - ele-king

 ティルザの格好良さは、そりゃあ、いろいろある。何気にトリップホップを更新し、R&Bにさりげなく前衛を持ち込んでみせるところとか。彼女が、派手なメイクや衣装やリリース前の政治発言なんかで自己アピールすることはない。なにせ昨年リリースしたリミックス・アルバム『Highgrade』のアートワークは洗濯物が入った洗濯機だった。これはセカンド・アルバム『Colourgrade』の裏ジャケットから来ているわけで、ぼくが所有しているアナログ盤のインナーには、さらに生活感がにじみ出ている台所(あるいは女性の居場所は台所という父権社会へのアイロニー)の写真がデザインされていると、つまりこれはもう、彼女にとっては人生が実験であり政治であり前衛であるべきものだという、フルクサス的なことなのだ、とぼくは勝手に思っている。ミカ・リーヴィ、そしてコビー・セイ、あるいはディーン・ブラントといった、女性とブラック・ブリティッシュが彼女の音楽仲間であることも、現代の新しい物語にリンクしていると言えるんじゃないだろうか。
 そうそう、ちゃんと紹介しなかったけれど、昨年のリミックス・アルバム『Highgrade』も良かった。リミキサーが超豪華で、アルカにロレイン・ジェイムス、天才肌のアクトレスラファウンダ、ウー・ルー、スピーカズ・コーナー・カルテット、期待のAnja Ngoziや新作が待ち遠しいスティル・ハウス・プランツ……とか(三田さんはアクトレスのリミックスがいちばんだね、と言ってたな)。で、それに続いて早くも3枚目のアルバムが配信のみとはいえ、こんなに早く聴けるとは望外の喜びである。そう、喜びではあるのだが、しかし『trip9love...?』は微笑みかけるような種類の音楽ではない。むしろ、人生が必ずしも自分の思うようにはうまくいかないということ、あるいは、自分がほんとうにいちばん欲しいものこそ手にすることができないというザ・スミス的なその空しさ、そして諦め切れなさに焦点が当たる。
 そこでは「時間」がひとつのキーワードだ。「時間は存在しない」というイタリアの物理学者の本が数年前に流行ったけれど、ティルザの「時間」は物理学では計れない感情的な時間だ。時間はないし、時間はある。しかしやはり時間はない。

費やした時間は必要のない時間だった
“Promises”

嘘だと思いながら、時間をかける
君を連れ戻すよりは近いだろう
君のガラクタ、時間のかけら
間違いを数え、領収書を保管する
“u all the time”

 にべくもなく魅力的というか、『trip9love...?』は冷たい月夜の美しさにも似ている。ここには、これまでのティルザ作品にはなかった、荒々しさもある。前作にもあった攻撃性と甘美さ、冷たさと愛とのコントラストはここにもある。ただ、今回はよりダークだし、ややもすればハードで、不協和音があって、しかし陶酔的だったりもする。ひずんだリズムの“F22”、そして続く“Promises”、さらに続く“u all the time”……まず最初の3曲がキラー過ぎる。サウンド面での協力者は今作もミカ・リーヴィだが、『trip9love...?』は過去2作よりもラフな音響で、ギター・ループがフィーチャーされ、トリップホップというよりはヒップホップ化したコクトー・ツインズというか、インディ・ロックの暗いムードの疾走感に近い。その寒々しいテクスチャーを後ろに歌われるソウルフルな“their love”のなんと美しいことか。

彼らの愛はただの夢
失うのは愛だけ
“their Love”

 ティルザとミカは、1年のあいだ互いの家を行き来しながらレコーディングをし、本作を完成させた。壊れたピアノとひずんだ機械音に溶け込むスウィートな歌声は“today”という曲となり、トラップめいたリズムとインダストリルの洪水に、ちょっとグルーパー風の彼女のメランコリーが立ち上がるのは“stars”という曲だ。ディストーション・ギターが唸りをあげるMBV風の“2 D I C U V”も悪くないが、静寂のなかティルザが自由に歌っている“6 Phrazes”のほうがおそらく光っている。しかし、最後の曲“nightmare”の歌詞におけるよるべない気持ちと、サウンドにおけるヴェルヴェッツ風の冷たさを聴いたら、テュルザがこのアルバムを生ぬるい感情におさめるつもりなどさらさらないことを思い知るのだ。

時は過ぎ去り/語られないことの多く/ とても近い
私は知らない /私がもっているすべてのこと
君はもっている/いま時間がある、抱きしめる時間
時間がない、語られないことの多く、近い、とても近い
君の愛をもっと見せてくれないか
“nightmare”

別冊ele-king アンビエント・ジャパン - ele-king

日本のアンビエント~環境音楽を大特集

featuring
細野晴臣/坂本龍一/吉村弘/横田進/畠山地平/冥丁/SUGAI KEN
interview
デイヴィッド・トゥープ/スペンサー・ドーラン/ZAK

日本のアンビエント名作選125
AMBIENT KYOTO 2023
Off-Tone/みんなのきもち

菊判220×148/192ページ

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AMBIENT KYOTO 2023開催
2023.10.6─12.24
ambientkyoto.com

目次

「環境音楽」からクラブ・カルチャーを経て多様化の時代へ──日本のアンビエント概説 (三田格)
【インタヴュー】デイヴィッド・トゥープ (野田努+坂本麻里子)

■細野晴臣と坂本龍一における「アンビエント」を温ねる
アンビエント・アーティストとしての細野晴臣と坂本龍一 (三田格)
細野晴臣、アンビエントの旅行者 (ポール・ロケ/五井健太郎 訳)
細野晴臣 ambient works (三田格)
坂本龍一 ambient works (三田格)
「非同期」から聴こえてくるもの──音楽・サウンド・ノイズ (高橋智子)

【インタヴュー】スペンサー・ドーラン (小林拓音/青木絵美 訳)
「kankyō ongaku」の発明 (ポール・ロケ/五井健太郎 訳)
アール・ヴィヴァンとその時代 (立花幸樹)

横田進とレイヴの時代 (野田努)/横田進 selected discography
アンビエントの精神を具現化する、野外フェスティヴァル〈Off -Tone〉 (野田努)
トランス集団「みんなのきもち」が試みるアンビエント・パーティ (yukinoise)
日本のヒップホップとアンビエント (二木信)

【インタヴュー】畠山地平 (三田格)/畠山地平 selected discography

特別寄稿 冥丁/SUGAI KEN
五・七・五を聴く──ケージの音楽と俳句 (高橋智子)
たゆたう、アンビエント/環境・ミュージック/音楽 (北條知子)
アンビエント・ジャパン選書 (野田努)

■日本のアンビエント・ディスクガイド78選
(三田格、野田努、小林拓音、デンシノオト、河村祐介)

■AMBIENT KYOTO 2023 ガイド
【インタヴュー】中村周市/ZAK

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