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カナダのアンビエント・アーティスト、ロスシル(スコット・モーガン)の「Sails」シリーズは、ダンス・プロジェクトのための楽曲を集めた連作である。リリースはロスシルのセルフ・レーベル〈Frond〉。
「Sails」は、まず2022年3月に『The Sails p.1』がリリースされ、同年5月に『The Sails p.2』も発表された。これらの曲は振付師によって委託されたものであり、なかには未発表のトラックもあるという。
『The Sails p.1』と『The Sails p.2』の二作を聴いた印象としては、楽曲としての統一感があったことに驚いた。単に提供曲をまとめたコレクション・アルバムというよりは、聴き手に対して一貫したムードを提供しているのだ。その意味では「p.1」と「p.2」を合わせて「二枚組アルバム」のように聴くのがよいのかもしれない。
特に『The Sails p.2』においては、サウンドメイカー/作曲家としてのロスシルの魅力がこれまで以上に横溢しているように思えた。薄暗い光のような、もしくは霧のような質感のアンビエント/エレクトロニック・ミュージックとでも形容したくなるようなサウンドスケープが実現されていた。ムードとしては2021年に〈Kranky〉からリリースされた『Clara』に近いのかもしれない。
なによりこのようなアブストラクトな電子音楽(アンビエント)を「ダンスのための音楽」としたスコット・モーガンの大胆さに驚いてしまう。「身体と音の対位法」を描くことで、独自の異化効果を狙ったのではないか。
この『The Sails p.2』には全9曲が収録されている。どれも音の快楽性と繊細さとロマンティシズムが渾然一体となった楽曲だ。加えてアンビエント/ドローンとシーケンシャルでオーセンティックな電子音楽が混在するアルバム構成にも惹かれてしまった。
個人的にはシーケンシャルな音とアンビエンスが交錯する1曲目 “Blue” と、透明と穏やかさのアンビエンスが、心と身体の両方に沈静を与えてくれるアンビエント4曲目 “Century” の対比が実に印象的だった。なかでも “Century” の鎮静的なトーンはアルバム全編に共通するもので、『The Sails p.2』において肝となる曲ではないかと思った。
さらには1曲目 “Blue” のシーケンス・サウンドが、8曲目 “Downstream” などで変奏されている点もよかった。まるでアルバムの曲と曲が変奏曲のように反復されているのだ。9曲目 “Ink” も、“Century” を変奏するかのように、不穏さと静謐さが交錯する美しいアンビエントに仕上がっていた。どこか宙吊りになったような感覚を残してアルバムは終わるのだが、この曖昧な感覚がとても良い。音楽は終わっても「世界」は続く、とでもいうように。もしくは音が終わっても、生ある限り肉体は「運動」を続ける、とでもいうかのように。
いずれにせよ身体と音響。抽象と具体の交錯。ほの暗い光と微かな光。そんなイメージとムードが交錯するこのアルバムは、つい何度も繰り返し聴いてしまう魅力があった。いつの日か『The Sails p.3』がリリースされることを期待しつつ、何度も何度も「Sails」シリーズをリピートし、その「音の海」と「音の霧」に耽溺することにしよう。
デンシノオト