「IR」と一致するもの

Tujiko Noriko - ele-king

 おもに〈Mego〉~〈Editions Mego〉からのリリースを中心に、00年代から活躍をつづける電子音楽家、ツジコ・ノリコ。その5年ぶりの日本ツアーが決定している。最新作『Crépuscule I & II』をもとにしたライヴになるそうで、京都、東京、福岡の3都市をめぐる。東京公演ではベルリンの映像作家 Joji Koyama がAVを手がけるとのこと。詳しくは下記より。

Tujiko Noriko Japan Tour 2024

1/09 Tue at Soto Kyoto
https://soto-kyoto.jp

1/11 Thu 18:30 at WWW Tokyo w/ Joji Koyama LIVE A/V
https://www-shibuya.jp/schedule/017371.php
TICKET https://t.livepocket.jp/e/20240111www *限定早割販売中

1/13 Sat at Artist Cafe Fuokuoka
https://artistcafe.jp

tour promoter: WWW / PERSONAL CLUβ

薄明かりのサウンドスケープ。エレクトロニカの伝説、フランス拠点のTujiko Norikoが5年ぶりの日本ツアーを開催。東京公演ではベルリンの映像作家Joji KoyamaとのライブA/Vを披露。

2001年のデビュー以来00年代のDIYなサウンドスケープのムーヴメントから生まれたエレクトロニカを始め、アートを軸とした電子音楽シーンで映像含む数多くの作品をリリースし、映画、パフォーマンス、アニメーション、インスタレーションの音楽制作含む数々のコラボレーションを果たして来たTujiko Norikoが、本年明けに老舗Editions Megoからリリースした映像作家Joji Koyamaとの大作『Crépuscule』(薄明かり)を基にしたライブを携え、京都、東京、福岡を巡る5年ぶりの日本ツアーを開催。

https://www.instagram.com/koyama_tujiko/


Tujiko Noriko

フランスを拠点に活動するミュージシャン、シンガーソングライター、映像作家。2000年、Peter RehbergとChristian Fenneszが彼女の最初のデモテープを発見し、アルバム『少女都市』でMegoからデビュー。アヴァンギャルドなエレクトロニカ周辺で高い評価を受け、Sonar、Benicassim、Mutekなどのフェスティバルに招かれ、世界中で演奏活動を行う。これまでにEditions Mego、FatCat、Room 40、PANから20枚のアルバムをリリースし、高い評価を得ている。2002年のアルバム「Hard Ni Sasete」はPrix Ars ElectronicaでHonorary Mentionを受賞。

映画、ダンス・パフォーマンス、アニメーション、アート・インスタレーションなどの音楽を手がけ、著名なミュージシャン、Peter Rehberg,、竹村延和、 Lawrence Englishらとコラボレーションしている。2005年には初の映像作品「Sand and Mini Hawaii」と「Sun」を制作し、パリのカルティエ財団や東京のアップリンクなどで国際的に上映された。2017年、Joji Koyamaと共同脚本・共同監督した長編映画「Kuro」はSlamdance 2017でプレミア上映され、Mubiでも上映された。2020年から21年にかけて、彼女の音楽作品はレイナ・ソフィア美術館で開催された展覧会「Audiosphere」(主要な現代美術館で初めて、映像もオブジェも一切ない展覧会)に出品された。

2020年にはサンダンスとベルリン国際映画祭で上映された長編映画「Surge」の音楽を担当し、2022年にはla Botaniqueでプレミア上映されたミラ・サンダースとセドリック・ノエルの映画「Mission Report」の音楽を担当した。

Joji Koyamaとの最新アルバム『Crepuscule I&II』をEditions Megoからリリースしている。

https://twitter.com/tujiko_noriko

ディスコグラフィー

'Shojo Toshi' 2001 (Mego)
'Make Me Hard' 2002 (Mego)
'I Forgot The Title' 2002 (Mego)
'From Tokyo To Naiagara' 2003 (Tomlab)
'DACM - Stereotypie' with Peter Rehberg 2004 (Asphodel)
'28' with Aoki Takamasa 2005 (Fat Cat)
'J' with Riow Arai 2005 (Disques Corde)
'Blurred In My Mirror' with Lawrence English 2005 (ROOM 40)
'Melancholic Beat' 2005 (Bottrop-boy)
'Solo' 2006 (Editions Mego)
'Shojo Toshi' 2007 (Editions Mego)
'Trust' 2007 (Nature Bliss)
'U' with Lawrence English and John Chantler 2008 (ROOM 40)
‘GYU’ with tyme. 2011/12 (Nature Bliss/ Editions Mego)
‘East Facing Balcony’ with Nobukazu Takemura 2012 (Happenings)
‘My Ghost Comes Back‘ 2014 (Editions Mego/ p*dis)
'27.10.2017' with Takemura Nobukazu 2018 (Happenings)
‘Kuro’ 2018 (pan)
‘Surge Original Sound Track Album’ 2022 (SN variations/Constructive)
‘Crepuscule I&II’ 2023 (Editions Mego)
‘Utopia and Oblivion’ 2023 (Concept compilation album from Constructive)


Joji Koyama

ベルリンを拠点に活動する映像作家、アニメーター、グラフィック・アーティスト。短編映画、アニメーション、ミュージックビデオ(Four Tet、Mogwai、Jlinなど)は国際的に上映され、ロンドン短編映画祭や英国アニメーションアワードで受賞。2015年には初の短編ビジュアルストーリー集「Plassein」を出版。Tujiko Norikoと脚本・監督を務めた長編映画「Kuro」はスラムダンス映画祭でプレミア上映され、MUBIで世界中に配信された。様々なメディアやコンテクストで活動し、最近のコラボレーションには、絶賛されたアルバム「Crépuscule I&II」に基づくTujiko NorikoとのツアーライブA/Vプロジェクトがある。

jojikoyama.com
instagram.com/jojikoyama
twitter.com/jojikoyama



Tujiko Noriko - Crépuscule I & II [Editions Mego / pdis]

まだEditions Megoになる前のMegoの初期、過激な作品群の中に思いがけない作品が登場しました。PITA、General Magic、Farmers Manualなどの歪んだハードディスクの中から、全く異なる種類のリリースが現れたのです。コンピュータで作られたものでしたが、よりソフトな雰囲気、雲のような音、そしてメロディーさえもありました。それは日本人アーティスト、ツジコノリコの記念すべきデビュー作『少女都市』(2001年)であり、彼女のキャリアをより多くの人々に紹介しただけでなく、Editions Megoの門戸をより幅広い実験的音楽形態に開くことになりました。

電子的な抽象性、メロディー、声、そして雰囲気というツジコノリコ特有の合成は、彼女の神秘的な言葉の周りを音が優しく回り、歌として構成された感情的な聴覚実験の連続へと変化していくため、他の追随を許さないものです。彼女はMegoからのデビュー作以来、ソロ作品やコラボレーションを重ね、また女優や監督として映画界にも進出するなど、進化を続けています。

PANから2019年にリリースされたサウンドトラック『Kuro』以来の新作となる本作では、映画というメディアが彼女の音楽に与えた影響を聴くことができ、視覚的な記号が手元にある刺激的なオーディオに呼び起こされます。インストゥルメンタルのインタールードは、タイトルと一緒に映画の風景を思い起こさせ、映画の形式を再確認させます。これは、深い人間的な存在感を持つ合成音楽です。内宇宙の幻想的な領域を彷徨う人間の心が、通常はそのような人間的な傾向を崩すよう促す機械を通して、絶妙に表現されています。その温もりと静寂、そして夢のような空間が、ツジコノリコという作家の個性であり、この『Crépuscule』は、その力を見事に証明しています。

「Crépuscule(薄明かり)」というタイトルこの音楽の夢遊病的な性質を見事に表現しており、夜行性の変化が広い意味での静寂を呼び起こします。「Crépuscule I」は短い曲のセレクションで構成され、「Crépuscule II」は3曲の長めの曲で構成され、これらの曲とムードが呼吸するためのスペースを提供しています。本作は、リスナーが彼女の目を通して世界を見ることを可能にし、機械に人間味を与える彼女の巧妙な手腕により、穏やかな不思議な世界がフレーム内にフォーカスされています。

Track listing:

Disc 1
1 Prayer 2′ 22”
2 The Promenade Vanishes 6′ 18”
3 Opening Night 4′ 30”
4 Fossil Words 8′ 10”
5 Cosmic Ray 3′ 26”
6 Flutter 4′ 18”
7 A Meeting At The Space Station 11′ 38”
8 Bronze Shore 6′ 46”
9 Rear View 3′ 22”

Disc 2
1 Golden Dusk 12′ 50”
2 Roaming Over Land, Sea And Air 23′ 58”
3 Don’t Worry, I’ll Be Here 18′ 45”

INFO https://www.inpartmaint.com/site/36264/

L’Rain - ele-king

 ブルックリン育ちのミュージシャン兼キュレーターのロレインことタジャ・チークは、3作のアルバムを通じて、彼女が「approaching songness(歌らしさへの接近)」と呼ぶ領域間で稼働してきた。その音楽は、記憶と連想のパリンプセスト[昔が偲ばれる重ね書きされた羊皮紙の写本]で、人生のさまざまな局面で作曲された歌詞とメロディーの断片が、胸を打つものから滑稽なものまで、幅広いフィールド・レコーディングと交互に織り込まれている。それはつねに変化し、さまざまな角度からその姿を現す。ニュー・アルバム『I Killed Your Dog』の “Our Funeral” の冒頭の数行で、チークはオートチューンで声を歪ませて屈折させ、息継ぎの度に変容させていく。焦らそうとしているわけではなく、一節の中に複数のヴァージョンの彼女自身を投影させるスペースを作り出そうとしているのだ。高い評価を得た2021年のアルバム『Fatigue』のオープニング・トラックは、「変わるために、あなたは何をした?」との問いかけではじまっている。ロレインは確かな進化を遂げながら、その一方でチークは、これまでの作品において、一貫性のある声を保っているのだ。ループするギター、狂った拍子記号、糖蜜のようににじみ出る、心を乱すようなドラムスなど、2017年の自身の名を冠したデビュー盤でみられた音響的な特徴は、『I Killed Your Dog』でも健在だ。同時にロレインは、これまでよりも人とのコラボレーションを前面に打ち出している。今回は、彼女とキャリアの初期から組んできたプロデューサーのアンドリュー・ラピンと、マルチ・インストゥルメンタリストのベン・チャポトー=カッツの両者が、彼女自身と共にプロデューサーとしてクレジットされているのだ。チークが過去の形式を打ち破ることを示すもっとも明白なシグナルは、気味が悪くて注意を引く今作のアルバム・タイトルに表れている。『I Killed Your Dog』の発売が発表された際のピッチフォークのインタヴューでは、これは彼女の「基本的にビッチな」アルバムであり、リスナーの期待を裏切り、意図的に不意打ちを食らわせるものだと語っている。また他のインタヴューでは、最近、厳しい真実を仕舞っておくための器としてユーモアを利用するピエロに嵌っていることに言及している。これは、感傷的なギターとピッチを変えたヴォーカルによる “I Hate My Best Friends(私は自分の親友たちが大嫌い)” という1分の長さの曲にも表れている。(念のため、実際には彼女は犬好きである。)
 メディアは、ロレインの音楽がいかにカテゴライズされにくいかということを頻繁に取り上げている。だが、チークが黒人女性であり、予期せぬ場で存在感を発揮していることから、これがどの程度当たっているのかはわからない。その点では、彼女には他のジャンル・フルイド(流動性の高い)なスローソン・マローン1(『Fatigue』にも貢献した)、イヴ・トゥモア、ガイカやディーン・ブラントなどの黒人アーティストたちとの共通点がある。「You didn’t think this would come out of me(私からこれが出てくるとは思わなかったでしょ)」と、彼女は “5to 8 Hours a Day (WWwaG)” で、パンダ・ベアを思わせるような、幾重にも重ねられたハーモニーで歌っている(「この歌詞の一行は間違いなく、業界へ向けた直接的な声明だ」と彼女はClash Musicでのインタヴューで認めている)。
 『I Hate Your Dog』 では、チークがこれまででもっともあからさまにロックに影響された音楽がフィーチャーされているが、彼女のこのジャンルとの関係性は複雑なものだ。最初に聴いたときに、私がテーム・インパラを思い浮かべた “Pet Rock” について、アルバムのプレス・リリースにはこう書かれている──2000年代初期のザ・ストロークスのサウンドと、若い頃のロレインが聴いたことのなかったLCDサウンドシステム──これには、一本とられた。
 彼女の初期のアルバムと同じくシーケンス(反復進行)は完璧で、各トラックを個別に聴くことで、その技巧を堪能することができる。これは、トラックリストに散りばめられたスキットやミニチュアに顕著で、アルバムのシームレスな流れに押し流されてしまいがちだ。33秒間という長さの “Monsoon of Regret” は、微かな焦らしが入ったような、混沌とした曲であり、“Sometimes” は、アラン・ローマックスがミシシッピ州立刑務所にループ・ペダルをこっそり忍び込ませたかのような曲だ。
 “Knead Be” がアルバム『Fatigue』の言葉のないヴォーカルとローファイなキーボードによる1分間のインタールードで、ヴィンテージなボーズ・オブ・カナダのようにワープし、不規則に揺れる “Need Be” をベースにしている曲だと気付くには、注意深く聴き込む必要がある。この曲でチークは、そのトラックに沈んでいたメロディーの一節を、小さい頃の自分に、物事がうまくいくことを悟らせる肯定的な賛歌へと拡大した。ただ、その言葉(「小さなタジャ、前に進め。あなたは大丈夫だから」)はミックスの奥深くに潜んでいるため、歌詞カードを見ないと、何と歌っているのか判別するのが難しい。
 初期の “Blame Me” のような曲では、チークはひとつのフレーズのまわりを、まるでメロディーの断片が頭の中に引っかかってリピートされているかのようにグルグルと旋回する。『I Killed Your Dog』では、何度かデイヴィッド・ボウイの “Be My Wife” のようなやり方で、一度歌詞を最後まで通したかと思うと、またそれを繰り返して歌う。あらためて聴き返すと、彼女が足を骨折した後に書いたバラード調の “Clumsy(ぎこちない・不器用)” ほどではないが、歌詞は、その歌詞に出てくる問いかけ自体に回答しているかのように聴こえる。“Clumsy” では曲の最後に、冒頭で投げかけた問いへと戻る。「想像もつかないような形で裏切られたとき、(自分が足をついている)地面をどのように信頼しろというの?」
 彼女はまだ、答を探り続けているのかもしれない。
 終曲の “New Years’ UnResolution” は、チークがアルバムを「アンチ・ブレークアップ(別れに反対する)」レコードと表現したことを端的に表している。この曲でも、歌詞がループとなって繰り返されるが、今回はその繰り返しの中で、歌詞が大きく変えられているのだ。彼女はその言葉には、別れた直後と、かなりたってから、後知恵を働かせて書いたものがあると説明している。バレアリックなDJセットで、宇多田ヒカルの “Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り-” と並べても違和感のない、ダブ風のキラキラと揺れる光のようなグルーヴに乗せて、チークは、陰と陽のような、互いを補いあう2つのヴァースを生み出している。

ひとりでいるのがどんな感じか忘れてしまった
雨を吐いて 雪を吐き出す。
日々は、ただ古くなっていく
何も持たないということがどんなものか知っている?
どんなものかは知らないけれど
あなたは今夜ここに来る?
私から電話するべきか あるいは無視するべき? 私は……する
恋をするということがどんな感じか忘れてしまった
太陽を飲み込んで 雪を吐き出す
日々は、古くはならない。
何かを持っているということがどんなことか知っている?
ふたりともそれを知っている。
ただ真っ直ぐに私の目を見て
あなたから私に電話するべきか あるいは私を無視するべき? あなたは……する

 彼女はいまや、人生を両側から眺めることができたのだ。


L’Rain - I Killed Your Dog

written by James Hadfield

Across three albums, L’Rain – the alias of Brooklyn-raised musician and curator Taja Cheek – has operated in an interzone that she calls “approaching songness.” Her music is a palimpsest of memories and associations, interleaving fragments of lyrics and melodies composed at different points in her life, with field recordings that range from poignant to hilarious. It’s constantly shifting, revealing itself from different angles. During the opening lines of “Our Funeral,” from new album “I Killed Your Dog,” Cheek contorts and refracts her voice with AutoTune, morphing with each breath she takes. It isn’t that she’s playing hard to get, more that she’s making space for multiple versions of herself within a single stanza.

“What have you done to change?” asked the opening track of her widely acclaimed 2021 album “Fatigue.” L’Rain has certainly evolved, but Cheek has maintained a consistent voice throughout her work to date. Many of the sonic signatures from her self-titled 2017 debut – looping guitar figures, off-kilter time signatures, phased drums that ooze like treacle – are still very much present on “I Killed Your Dog.” At the same time, L’Rain has become a more collaborative undertaking: She’s quick to credit the contributions of producer Andrew Lappin – who’s been with her since the start – and multi-instrumentalist Ben Chapoteau-Katz, both of whom share producer credits with her this time around.

The most obvious signal that Cheek is breaking with past form on her latest release is in the album’s lurid, attention-grabbing title. As she told Pitchfork in an interview when “I Killed Your Dog” was first announced, this is her “basic bitch” album, pushing back against expectations and deliberately wrong-footing her listeners. She’s spoken in interviews about a recent fascination with clowns, who use humour as a vessel for hard truths. In this case, that includes a minute-long song of gooey guitar and pitch-shifted vocals entitled “I Hate My Best Friends.” (For the record, she loves dogs.)

Media coverage frequently notes how resistant L’Rain’s music is to categorising, though it’s hard to say how much this is because Cheek is a Black woman operating in spaces where her presence wasn’t expected. In that respect, she has something in common with other genre-fluid Black artists such as Slauson Malone 1 (who contributed to “Fatigue”), Yves Tumor, GAIKA and Dean Blunt. “You didn’t think this would come out of me,” she sings on “5 to 8 Hours a Day (WWwaG),” in stacked harmonies reminiscent of Panda Bear. (“That line is definitely a direct address to the industry,” she confirmed, in an interview with Clash Music.)

“I Hate Your Dog” features some of Cheek’s most overtly rock-influenced music to date, although her relationship with the genre is complicated. According to the press notes for the album, “Pet Rock” – which made me think of Tame Impala the first time I heard it – references “that early 00’s sound of The Strokes and LCD Soundsystem that L’Rain never listened to in her youth.” Touché.

Like her earlier albums, the sequencing is immaculate, and it’s worth listening to each track in isolation to appreciate the craft. That’s especially true of the skits and miniatures scattered throughout the track list, which can get swept away in the album’s seamless flow. The 33-second “Monsoon of Regret” is a tantalising wisp of inchoate song, reminiscent of Satomimagae; “Sometimes” is like if Alan Lomax had snuck a loop pedal into Mississippi State Penitentiary.

It takes close listening to realise that “Knead Be” is based on “Need Be” from “Fatigue,” a one-minute interlude of wordless vocals and lo-fi keyboards that warped and fluttered like vintage Boards of Canada. Here, Cheek takes the wisp of melody submerged within that track and expands it into a hymn of affirmation, in which she lets her younger self know that things are going to work out – though her words of encouragement (“Go ’head lil Taja you’re okay”) lurk so deep in the mix, you’d need to look at the lyric sheet to know exactly what she’s singing.

On earlier songs such as “Blame Me,” Cheek would circle around a single phrase, like having a fragment of a melody stuck in your head on repeat. Several times during “I Killed Your Dog,” she runs through all of a song’s lyrics once and then repeats them, in the manner of David Bowie’s “Be My Wife.” Heard again, the words sound like a comment on themselves – no more so than on the ballad-like “Clumsy” (written after she broke her foot), when she returns at the end of the song to the question posed at its start: “How do you trust the ground when it betrays you in ways you didn’t think imaginable?” It’s like she’s still grasping for an answer.

Closing track “New Year’s UnResolution” – which best encapsulates Cheek’s description of the album as an “anti-break-up” record – also loops back on itself, except this time the lyrics are significantly altered in the repetition. She’s explained that the words were written at different points in time, both in the immediate aftermath of a break-up and much later, with the earned wisdom of hindsight. Over a shimmering, dub-inflected groove that wouldn’t sound out of place alongside Hikaru Utada’s “Somewhere Near Marseilles” in a Balearic DJ set, Cheek delivers two verses that complement each other like yin and yang:

I’ve forgotten what it’s like to be alone
Vomit rain spit out snow.
Days, they just get old.
Do you know what it’s like to have nothing?
I don’t know what it’s like.
Will you be here tonight?
Should I call you or should I ignore you? I will...
I’ve forgotten what it’s like to be in love
Swallow sun spit out snow
Days, they don’t get old.
Do you know what it’s like to have something?
We both know what it’s like.
Just look me in the eye.
Should you call me or should you ignore me? You will...

She’s looked at life from both sides now.

ele-king cine series 2023年間ベスト&2024注目映画 - ele-king

様々な話題作・注目作が公開された2023年を振り返り、さらには公開が待たれる2024年の注目作の数々を情報通たちが厳選して紹介。

見逃してしまった2023年の重要作に改めて出会い、見逃せない2024年の注目作に備えよう!

目次

対談 ハリウッドの現在、そして映画の未来 町山智浩×宇野維正
Pick Up Review
 ただ走る映画――『レッド・ロケット』 上條葉月
 #MeToo ムーヴメントに連なる重要作――『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』 児玉美月
 スクリーンの向こう側にも楽園などなかった――『Pearl パール』讃 高橋ヨシキ
 ハラスメント加害者の視点――『TAR ター』 戸田真琴
 配信で絶大な人気を保つアダム・サンドラー――『バト・ミツバにはゼッタイ呼ばないから』 長谷川町蔵
 令和のグラインドハウス映画―― 『プー あくまのくまさん』 ヒロシニコフ
 昼メロ世界が描き出す映画とドラマの複雑な隔たり――『別れる決心』 三田格

アンケート 2023年間ベスト&2024年の注目作
 伊東美和/宇野維正/大久保潤/大槻ケンヂ/片刃/上條葉月/カミヤマノリヒロ/川瀬陽太/北村紗衣/木津毅/児玉美月/堺三保/佐々木敦/佐々木勝己/侍功夫/品川亮/柴崎祐二/城定秀夫/高橋ターヤン/高橋ヨシキ/田野辺尚人/月永理絵/てらさわホーク/戸田真琴/Knights of Odessa/中沢俊介/夏目深雪/ナマニク(氏家譲寿)/西森路代/長谷川町蔵/はるひさ/樋口泰人/ヒロシニコフ/藤田直哉/古澤健/堀潤之/町山智浩/真魚八重子/三田格/三留まゆみ/森直人/森本在臣/柳下毅一郎/山崎圭司/吉川浩満/涌井次郎/渡邉大輔

鼎談 「観たい映画を観るだけだから」――2023年総括&2024年の展望 柳下毅一郎×高橋ヨシキ×てらさわホーク

2024年の注目作
 2024年注目アクション映画 高橋ターヤン
 2024年の注目ホラー映画 伊東美和
 2024年注目のSF映画 堺三保
 2024年注目のアメコミ映画 てらさわホーク
 2024年公開予定 ヨーロッパ映画注目作 渡邉大輔
 アジア映画2024年注目作 夏目深雪

対談 反=恋愛映画の2023年 佐々木敦×児玉美月

*レコード店およびアマゾンでは12月15日(金)に、書店では12月25日(月)に発売となります。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
12月15日発売
amazon
TOWER RECORDS
12月25日発売
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
ヨドバシ・ドット・コム
HMV
honto
Yahoo!ショッピング
7net(セブンネットショッピング)
紀伊國屋書店
e-hon
Honya Club

【P-VINE OFFICIAL SHOP】
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
 ※書店での発売は12月25日です。
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
紀伊國屋書店
三省堂書店
旭屋書店
有隣堂
くまざわ書店
TSUTAYA
大垣書店
未来屋書店/アシーネ

interview with Lucy Railton - ele-king

 ルーシー・レイルトンのライヴではひとつの音を構成する複数の「聴こえない音」がある。それが突如可聴域にあらわれる。増幅されたバイオリンの旋律が会場の壁や床、観客の手元にあるビールグラスに共振することで、モノフォニックな音のハイフンが生まれ、不安定な声部連結が起こる。またあるときはノンビブラートで演奏する持続音から汽笛のようなハーモニクスがあらわれて空間と調和する——弦楽の特定帯域を加減すると別帯域にあった潜在的な音が幽霊のように漸進してくる現象と似ている——その西洋音楽の語彙だけではとらえきれないライヴの数ヶ月後、ルーシーから新作が届いた。

「実験音楽」という用語はまさに「市場」を目的としたものであり、カテゴリーとはそのためのものに過ぎないと思います。

TW:MODE(https://mode.exchange/)3日目のソロ・ライヴとても印象に残りました。まず、日本滞在中のことなどお伺いできればと思います。

LR:今回の日本での旅では、とても素晴らしい時間を過ごすことができました。フェスティヴァルの主催者であるロンドンの33-33と東京のBliss Network、そしてベアトリス・ディロンYPYカリ・マローンスティーヴン・オマリー、エイドリアン・コーカーという素晴らしい仲間たちと東京で過ごしました。それから、藤田さん(FUJI||||||||||TA)の田舎にある自宅を訪問し、自然のなかで彼の家族と静かな時間を過ごすことができました。日本に来たことはありましたが、今回は特別でした。

TW:新作『Corner Dancer』は何かしらのコンセプトに基づいているのでしょうか。それとも音楽的直感を起点として作られたのでしょうか。

LR:今回はさまざまなアプローチをとりました。私はときに構造、空間、美学について明確なアイデアを持っていて、多くの意味を持つ身近な素材から音のイメージを構築していくこともあれば、表現の衝動から自由に音楽を作ることもあります。また、私の音楽は自分がいま感じていることを表しているので、このアルバムは私が昨年経験してきた様々な状態をトレースしたものでもあります。

TW:作曲をするとき特定の音色または音響を想定していますか。その場合、演奏行為の結果を確認しながら進めていくのでしょうか。

LR:このアルバムを作りながら、私は音楽を作るときに様々なアプローチを取るのが心地よいことに気づきました。私の音楽家としての存在は多岐に渡るので、創作に対する方向性も興味も多様です。スタジオでもステージ上と同じように、アイデアや表現を即座に伝達するような演奏をすることもありますが、そういうときはあなたが言うように特定の音響を探求しているのかもしれません。アルバムの楽曲 “Rib Cage” や “Held in Paradise” では、私にとってまったく新しいプロセスで作業しています。新しい美学や形、色、アイデンティティに取り組んでいます。ほかの創作と同様、究極的には展開するイメージ、あらわれる声、形成される形への執着です。チェロだけを使って作業をすることもありますが、この楽器は私にとって非常に馴染みのある音で身体の経験です。チェロは私の血であり故郷であり古い友人と話しているようなものなので、創造性が別の意味を帯び、深く個人的で古いものと繋がろうとする試みになります。

TW:作曲をする際に典拠、文脈は重要ですか? 文脈は時代と共に再解釈されていく面もありますが。

LR:私は音の抽象的な同一性、音そのもの、そして音の由来となる歴史的、物語的背景双方に関心がありますが、どちらか一方が重要というわけではありません。私のチェロは所有している楽器の中で最も高価なものですが、今回のアルバムではiPhoneで録音した(チェロの)音も聴くことができます。日本製のBOSS SP-303デジタル・サンプラーとエフェクト、GRMのツール、壊れた弓の毛、Buchlaのサンプル、アーカイブ録音によるチーターの声などを使っています。私は音のエネルギーとキャラクターに夢中になっていて、それは私の創作方法の道標にもなります。ほとんどの場合、音そのものに直接心を奪われ、その音がどこから来たかよりも音自体の物語りに耳をかたむけています。

TW:超低周波音(周波数100Hz以下の音)を楽曲に使用することと、近年の音楽再生環境やエンジニアリングの変化は関係していますか?

LR:それらのトラックは再生システムに依存しているため、サブ周波数を聴くことができるのは一部の人だけかもしれません。なのでこれは少し意地悪なトリックです。私は音楽が大きな空間、劇場やクラブ、洞窟などで演奏されることを想像しているので、多くの人にとって聴こえない音であるにもかかわらず、サブ周波数を使用しています。私は、サブ周波数の物理的な影響と私たちの生理的な反応に興味があり、そういった感覚を呼び起こすためにサブ周波数を使用しています。そして、私のミックスダウンの方法は少々型破りで、ときに完全にアンバランスで奇妙なものですが、それによって挑戦的なリスニング体験を生み出すので、私にとっては非常に魅力的です。

Lucy Railton ‘Blush Study’ from album 'Corner Dancer'

チェロは私の血であり故郷であり古い友人と話しているようなものなので、創造性が別の意味を帯び、深く個人的で古いものと繋がろうとする試みになります。

TW:サブ周波数に関連してもう少しお伺いできればと思います。音の現象といいますか、聴こえない音が聴こえるというような音のパラドックスに関心があるのでしょうか? “Suzy In Spectrum ”では完全四度を繰りかえし聴いているうちに様々な倍音が聴こえてきました。

LR:もちろんチューニング・システムを扱う音楽家として、音の現象学は私がやっていることの大部分を占めています。『Suzy In Spectrum』では、和音(とその倍音)を分析しパラメーターの選択によって設計されたハーモニーを生成するスペクトル変換ツールを使っています。つまりある意味では、チェロの和音から自然な倍音(これを「現象」と呼ぶこともできますが)を聴いていることになるわけですが、それに加えて合成された和声素材を聴いていることにもなります。これを音の中のゴースト、背景のフェード、オーラのように扱っています。

TW:ライヴ・パフォーマンスでは演奏をする環境だけではなく、オーディエンスにも影響を受けますか。

LR:そうですね、ライヴでは空間にこだわります。ライヴ会場のWall&Wall(http://wallwall.tokyo/)はドライな音の四角い空間で、素晴らしい音響システムがあることは知っていました。とてもシャープで構造的なサウンドを会場に持ち込みたかったし、クラブスペースで予想される大音量に逆らうような音量を工夫しました。音のステレオイメージを美しくする一方、会場全体をとても静かにしなければなりませんでした。私はそのようにして人々を近づけるのが好きです。そうすることで自分がどこに誰といるのか、どのように聞いているのかを感じ取ることができます。

私は「巨匠」や「専門家」にはあまり興味がありません。伝統は厳格さや俗物主義につながるものであり、私は創造する上でこのふたつの要素にアレルギーがあります。

TW:主要楽器ではないツールやソフトウェアを使って作曲をする際に困難やジレンマを感じることはありますか。またどんな楽器であれその特性や性質を知っておく必要はありますか。

LR:私の楽器であるチェロに関しては、非常に規律ある技術的立場から取り組んできました。もう30年も演奏しているので、どのように音作りのツールとして使うかは熟知していますし、チェロの音の可能性を探求することはやめたというか、もう十分に知っていると思います! チェロに比べれば多くのことに関して私は初心者ですが、ほかの楽器の技術やプロセス、テクノロジーにおける新しさや好奇心が、私の創造性の多くを駆り立ててもいます。私は「巨匠」や「専門家」にはあまり興味がありません。伝統は厳格さや俗物主義につながるものであり、私は創造する上でこのふたつの要素にアレルギーがあります。私は慣れていない方法も自由であると感じる場合は採用しますし、創造の妨げになるようなことがあれば直ちにその道具を使うのをやめます。例えば“Held in Paradise”では、ヴァイオリンを膝の上に置き、チェロのような持ち方でシンプルなコードを弾いています。チェロであそこまで高い音域を弾くのは技術的に難しいので、ヴァイオリンという選択肢が高音域を自由に演奏することに役立ちました。これは私が困難にどのように対処しているかを示す好例です。私は苦労するのではなく、創造的になるための流動的な方法を見つけるようにしています。テクニカルで複雑なメソッドには興味ありませんが、そういったことも時間が経つと出来るようになったので、実際は簡単に作業できるものだけを使っていると思います。

TW:ジャンルというのは普段意識することがない一方で、音楽史上厄介かつ複雑な問題でもあります。そこであえてお伺いしたいのですが「実験音楽」がひとつのジャンルにもなった現在、音楽における実験とは.……?

LR:その用語はまさに「市場」を目的としたものであり、カテゴリーとはそのためのものに過ぎないと思います。私は、声を使ったりクラシック音楽の解釈を通じて実験しているオペラ歌手たちに会ったこともありますが、私はそれを文字通りなにか新しいものを探求しているという理由から「実験的」であると言います。ジャズのドラマーがシンバルで新しいサウンドを実験することも同じく重要です。民俗の伝統や古代の宮廷音楽に根ざす人びとも同様に実験していました。実験なしにはなにもはじまりません。問題なのは、ほとんどすべての音楽が実験的であるのに、なにがほかのジャンルと実験音楽を分けるのでしょうか? その質問には正確に答えることはできませんが、このラベルを付けられている私が知っている音楽家たちは、そのこと自体あまり気にしていないと思います。私たちは新しいことに挑戦し、自分を追い込む個人であるという考えがアーティストの特性だと思いますし、これをやっていないなら何をしているのでしょう?

TW:最近はどんな音楽を聴いていますか?

LR:今週は. . . . Tirzah『trip9love...??? 』、Wolfgang von Schweinitz『Plainsound Study No. 1, Op. 61a』、 Kendrik Lamar 『Mr. Morale & The Big Steppers』、Matana Roberts 『Coin Coin Chapter Five in the Garden』、Ellen Arkbro and Johan Graden『I get along without you very well』。

Alvvays - ele-king

「聞いたよ、帰ってきたんだって」フィードバックのノイズの上でモリー・ランキンがそうやって歌いはじめるとそこにあった時間の隔たりが消えたような感じがした。まるで子ども時代の友だちと久しぶりに会ったときみたいに思い出といまとがあっという間に繋がる。

 カナダのインディ・ポップ・バンド、オールウェイズの久しぶりの来日公演、エンヤの “The River Sings” を出囃子にちょっとかしこまって、だけどもリラックスしてステージに現れたオールウェイズはそんな風にライヴをはじめる。昨年、5年ぶりにリリースされた素晴らしい3rdアルバム『Blue Rev』のオープニング・トラック “Pharmacist”、この曲以上に今回のライヴをはじめるのにふさわしい曲はきっとないだろう。2018年以来のジャパン・ツアーだ。東京からはじまって名古屋、大阪、そしてまた東京、今日の追加公演の会場となった神田スクエアホールの空気もあっという間に暖かなものに変わっていく。その名の通りスクエアホールは四角く天井が高くて、それが体育館や地元の小さなホールを思わせなんだか余計にノスタルジックな気分になる。
 2分と少しで曲が終わってMCなんてなくバンドはちょっとぶっきらぼうに次の曲に入る。続くのは同じく3rdから “After The Earthquake”、最初のギターのフレーズできらめくように空気が揺れる。そうして “In Undertow”、“Many Mirrors” と2分台、3分台名曲たちが次々に繰り出されていく。ハンドマイクに持ち替えしゃがみこみエフェクトをかけながらモリーが歌う “Very Online Guy”、1stアルバムに戻って “Adult Diversion”(この曲を聞くといつも口元に手をやったあのジャケットが浮かんでくる)、全ての曲に心の奥底をなでるような力強くも美しいメロディがあって、ギターとシンセサイザーのフレーズと相まり目の前の光景がノスタルジックなものに変わって行く。そう、待ち望んでいたものがここにはあるのだ。

 それにしてもオールウェイズはイメージする以上に不思議なバンドだ。 およそインディ・ポップと呼ばれるバンドとは思えないくらいに、シェリダン・ライリーのドラムが力強く主張し、アレック・オハンリーのギターがかき鳴らされ、強度はあるのに1曲1曲が短くて、4分に到達することはほとんどない。曲が終わった後も軽いやりとりだけで余韻を残さずすぐに次の曲にいってそれもなんだかちょっとパンク・バンドみたいだなと思った。いままでまったく結びついていなかったけれど開演前にSEでバズコックスの “You Say You Don't Love Me” が流れていて、あぁ『Blue Rev』のオールウェイズにはこの要素が確かにあるなって思ったりもした。素晴らしいメロディを持っているというのは両者に共通していることだけど、オールウェイズは、さらにそこにシンセとコーラスがあってそれがインディ・ポップの部分を大きく担っているのかもしれない。確かに存在するパンク・スピリットを胸にシューゲイザーに寄せてキラキラと水面の光が反射するインディ・ポップを奏でたみたいなバンド、この日のオールウェイズはそんな印象で、まったく一筋縄ではいっていなかったけど、でも全体として出てくる音はとても優しく幸福感がまっすぐに入ってきた。それがなんとも不思議で淡々と幸せな時間がずっと流れていっているようなそんな感じがした。

 だが、やはり全ては曲の良さに集約されるのかもしれない。中盤の “Tom Verlaine”、“Belinda Says” の素晴らしい流れ、アーミング奏法でギターが鳴らされ、浮遊感が体を駆け巡る。モリー・ランキンのヴォーカルは地に足を着けその中心に存在し、ケリー、シェリダン、アビー、3人のコーラスが陶酔感をプラスする。楽曲の真ん中に歌があるからこそ、こんなにも輝きが拡散されていくのだろう。それは決して神秘的なものではなくて、とりとめなのない日常に接続しそれ自身を輝かせるようなもので、そこにきっと淡さと幸福感が宿っている。

 アンコール、リクエストに応えるみたいな形で “Next of Kin” が演奏される。そうして間を置き、ツアーの感謝の言葉が述べられた後に演奏された “Lottery Noises” は曲自体が美しい余韻のように思えて、心が満たされていくのを感じた。そうやってまた日常に帰っていく。明かりがついてパッツィー・クラインの “Always” に送り出されて会場を後にする。外はもちろん夜空だったけどそれもなんだか違って見えた。


Alvvays Japan Tour 2023 at Zepp Shinjuku Setlist 11/28/23

Alvvays Japan Tour 2023 at Kanda Square Hall Setlist 12/01/23

Alvvays Japan Tour 2023 at Zepp Shinjuku Setlist 11/28/23

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ele-king vol.32 - ele-king

2010年代──音楽は何を感じ、どのように生まれ変わり、時代を予見したのか
いま聴くべき名盤たちを紹介しつつ、その爆発的な10年を俯瞰する

『ele-king vol.32』刊行のお知らせ

目次

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
インタヴュー再び「2010年代を振り返る」(小林拓音+野田努/坂本麻里子)

特集:2010年代という終わりとはじまり

2010年代の記憶──幽霊、そして新しきものたちの誕生(野田努)
 ・入眠状態、そしてアナログ盤やカセットのフェチ化
 ・OPNからヴェイパーウェイヴへ
 ・「未来は幽霊のものでしかありえない」とはジャック・デリダの言葉だが
 ・フットワークの衝撃
 ・ナルシズムの復権とアルカ革命
 ・シティポップは世界で大流行していない
 ・そしてみんなインターネットが嫌いになった
 ・アナログ盤がなぜ重要か
 ・音楽市場の変化
 ・巨匠たち、もしくは大衆運動と音楽
オバマ政権以降の、2010年代のブラック・カルチャー(緊那羅:Desi La/野田努訳)
カニエ・ウエストの預言──恩寵からの急降下(ジリアン・マーシャル/五井健太郎訳)
絶対に聴いておきたい2010年代のジャズ(小川充)
活気づくアフリカからのダンス・ミュージック(三田格)
坂本慎太郎──脱力したプロテスト・ミュージック(野田努)
ジェネレーションXの勝利と死──アイドルとともに霧散した日本のオルタナティヴ(イアン・F・マーティン/江口理恵訳)
あの頃、武蔵野が東京の中心だった──cero、森は生きている、音楽を友とした私たち(柴崎祐二)
ネットからストリートへ──ボカロ、〈Maltine〉、tofubeats、そしてMars89(小林拓音)
ポップスターという現代の神々──ファンダムにおける聖像のあり方とメディア(ジリアン・マーシャル/五井健太郎訳)
マンブルコア運動(三田格)
BLMはUKをどう変えたのか(坂本麻里子×野田努)

ライターが選ぶ いまこそ聴きたい2010年代の名盤/偏愛盤
(天野龍太郎、河村祐介、木津毅、小林拓音、野田努、橋本徹、三田格、渡辺志保)
2010年代、メディアはどんな音楽を評価してきたのか

2023年ベスト・アルバム30選
2023年ベスト・リイシュー23選
ジャンル別2023年ベスト10
テクノ(猪股恭哉)/インディ・ロック(天野龍太郎)/ジャズ(小川充)/ハウス(猪股恭哉)/USヒップホップ(高橋芳朗)/日本ラップ(つやちゃん)/アンビエント(三田格)

2023年わたしのお気に入りベスト10
──ライター/ミュージシャン/DJなど計17組による個人チャート
(天野龍太郎、荏開津広、小川充、小山田米呂、Casanova. S、河村祐介、木津毅、柴崎祐二、つやちゃん、デンシノオト、ジェイムズ・ハッドフィールド、二木信、Mars89、イアン・F・マーティン、松島広人、三田格、yukinoise)

VINYL GOES AROUND PRESENTS そこにレコードがあるから
第3回 新しいシーンは若い世代が作るもの(水谷聡男×山崎真央)

菊判218×152/160ページ
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André 3000 - ele-king

 数ヶ月前、渋谷のど真んなかにある高いタワーで開催されたWeb3のイベントに参加していたとき、私は、そこにいた何人かの人びとのあいだの小さな騒ぎを感じた。目の前にはフルートを持った背の高い黒人の後ろ姿があった。世界各地において幽霊が訪れたかのごとき「目撃(sitting ) 」情報は何度か耳にしていたが、私は幸運にもアンドレ3000を目の当たりにすることができたわけだ。もっとも怖気づいた私は舌を噛むだけで、彼に何かしたわけではなかった。だいたい特段アウトキャストのファンではなかった私は、ノスタルジーからスターストラック(スターに夢中) になったわけではないのだ。彼のことを意識するようになったのは、アウトキャストの最後の2枚のリリースと、その後何年にもわたってアンドレがランダムに発表したゲスト作品がきっかけだ。まあ、いまとなってはファンかもしれない。みんなと同じように私も彼の精神状態を心配していたのだから。

 アンドレ3000の17年ぶりとなるアルバムが、パレスチナのガザで大虐殺が起こっているのとまったく同じ時期にリリースされたのは偶然の一致だろう。だが、ほんとうにそうなのだろうか? 宇宙はおかしなものだ。彼は「No Bars(小節はない)」とはっきり言っているので、この音楽のアクアティックな性質に驚く人はいないだろう。瞑想的、アンビエント、シンプル、リラックス、退屈などなど。誰も予想していなかったこのレフトフィールド作品を形容する形容詞はまこと多い。フランク・オーシャンの古典 (クラシック) 『Blonde』収録の“Solo (Reprise)”で、息もつかせぬ勢いを見せた男の作品だ。クラシック (古典) のさらにそのうえのクラシカル (古典的) なミュージシャン。

 2024年、文字通り指先ひとつでどんな音楽にもアクセスできるようになったいま、1970年代と聞いてもピンとこないかもしれない。ファラオ・サンダースの『Thembi』(1971)を彷彿させる緑色の服を着たジャケット写真は、多くの人が西洋社会の侵略に抗議するために着ていた、インドの影響を受けたスピリチュアルな服装に似ている。だが、そんなことをもう多くの人が理解しようとすることはないし、憶えていないかもしれない。フリー・ジャズやスピリチュアル・ジャズの伝説的なジャズの多くが、高次な意識に到達するためにフルートを演奏していたことを多くの人は理解していないし、憶えていないかもしれない。

 『ニュー・ブルー・サン』はラップの世界にとっては驚きだが、70年代のジャズの名人芸を排した黒人的伝統に完璧にフィットしている(インドから音楽的、精神的に影響を受けたことは注目に値する)。マイルス・デイヴィスの『In a Silent Way』を思い出せばいい。絹のようなメロディ、スローモーションのヴァイブ、リズムが飛び込んでくるまでのムーグ演奏によるゴージャスな地図。あるいは、コルトレーンの『A Love Supreme』における感情的な呪文。そして、数多のサン・ラー作品で聴ける、インストゥルメンタル神秘主義の奇妙な響き。アンドレは、経済的な状況を顧みることなく非商業的でエキセントリックな道を受け入れ、かれこれ50年以上にわたって継続されている、フォロワーたちにカーブボールを投げることを決めた黒人アーティストの系譜をたどっているのだ。

 各トラックに付けられた凝った皮肉たっぷりのタイトルは、誰もが面白がるだろう(*)。だけどジャズ・ヘッズは音楽のシンプルさにがっかりするかもしれない。しかし、それでいいのだ。皮肉屋は、この太陽の下に新しいものは何もないと言うだろう。しかし、そんなことはない。アンドレ3000のレフトフィールド・リリースは、いまのところ唯一、インスタグラムのストーリーやソーシャルメディア上で伝染していく実験的音楽だ。あたかもビートとフローがあるかのように、ほとんどビートのないニュー・アルバムにうなずくアトランタのヒップホップ・ファンのユーモアを反映したミームがインターネット上には溢れかえっているのだ。CD/レコード店の実験的ジャンルの売り場には足を踏み入れたこともない、つまりこのようなアルバムを手に取ることもないような人たちが、アンドレ3000が作ったこのチルな新世界について、友人たちに(私がそうだったように!)チェックしておくべきだと吹聴しているのは明らかな事実だ。

 ときに歴史は繰り返されるものだが、重要なのは文脈なのだ。セラピーの適切さが広く認識されるようになったいま、ブラック・ライヴス・マターであれガザ占領の終結であれ、人びとが抗議のために通りに飛び出す準備が整っているいま、自殺や深刻な精神疾患は治療や予防が可能だと多くの人が感じているいま、『ニュー・ブルー・サン』は、みんなの重たい心を休ませるために作られた、この戦争の年の最後の 鎮静剤 (レッド・チル・ピル**) であり目印である。


訳注 *たとえば1曲目は “本当に "Rap "アルバムを作りたかったんだけど、今回は文字通り風が吹いてきた”。2曲目“俗語であるプッシーは、正式表現であるヴァギナよりも遥かに簡単に舌を転がす。同意する?” /**レッド・ピル=『マトリックス』に出てくる現実が見える薬/チル・ビル=リラックス剤。


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Andre 3000 - New Blue Sun

by Kinnara : Desi La

Several months ago, while attending a web3 event in a tall tower in the center of Shibuya, I felt a small commotion among some of the people there. In front of me was the back of a tall Black man carrying a flute. Having heard the stories numerous times of these “sitings” around the world, like a ghost visiting, I was lucky enough to witness Andre 3000 myself. Intimidated, I bit my tongue and let him be. Never an OutKast fan, I wasn’t star struck from nostalgia. I came to him late with their last 2 releases and then the scattered guest drops he popped up on randomly over the years. A fan, yes but also concerned of his mental state knowing other people had similar concerns.

The release of Andre 3000`s first album in 17 years at exactly the same time as a genocide is occurring in Gaza, Palestine is a coincidence. Is it? The universe is funny that way. He's said very clearly “No bars” so no one is surprised by the aquatic nature of the music. Meditative, ambient, simplistic, relaxing, boring, etc. There are numerous adjectives that could be used to describe this left-field work that no one was expecting. This from the man that killed “Solo (Reprise)” on Frank Ocean`s classic Blonde breathlessly. A classic musician upon a classic.

2024 with access to any type of music at ones finger tips literally, heads may not connect the dots to the 1970`s. Or the jacket photo`s resemblance to Thembi by Pharaoh Sanders with green clothing similar to the Indian influenced spiritual garb that many wore to protest the aggressions of western society. Many may not understand or remember that many Jazz legends of free jazz or spiritual jazz took on the flute to reach higher consciousness.

New Blue Sun is a surprise to the world of rap but fits perfectly in the Black tradition of 70`s out Jazz minus the virtuosity (which notably was influenced musically and spiritually by India). You only need to look back at Miles Davis` In a Silent Way. A gorgeous map of silky melodies, slow motion vibes and Moog vistas before the rhythms jumps in. Or the emotional incantations of Coltrane`s A Love Supreme. Numerous Sun Ra albums too many to mention evoke the quirky side of instrumental mysticism. Andre follows a lineage stretching over 50 years of Black artists who decided to throw curve balls to their followers embracing noncommercial eccentric pathways regardless of economic fallback.

The elaborate tongue in cheek titles of each track will amuse anyone. Jazz heads may be disappointed in the simplicity of the music. But that’s ok. The cynic will say there is nothing new here under the sun. But that’s not what is happening. Andre 3000`s left field release is probably the only experimental music that is viral across instagram stories and otters social media. Memes have flooded the internet reflecting humor of Atlanta hip hop fans nodding to the almost beatless new album as if there were beats and flows. Its a clear fact that people who would never venture into the experimental aisle of a music store (if there were one) and pick up such an album are dming their friends (as happened to me!) about this chill new world made by Andre 3000 which I should check out. Though history sometimes repeats itself, the context is most important. In a time of wider recognition of therapy’s relevance, in such a time when people are ready to run out into the street to protest, whether for Black Lives Matter or the end of occupation in Gaza, in such times that many feel that suicides and severe mental illness is treatable and preventable, A New Blue Sun is a red chill pill last earmark in this year of war made to lay everyone’s heavy heart to rest.

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明治から昭和30年代まで製造された日本のSPレコード(78rpm)
空前絶後のビジュアル本ついに発売!

明治時代の海外出張録音盤をはじめ、大正時代のはやり唄、昭和の流行歌やジャズソング、歴史的音源や演説などの特殊盤、更には「エロ歌謡」から「夜店レコード」と「へたジャズ!」まで、ぐらもくらぶでヒットしたアルバムカテゴリーを含むビジュアルでたどるレコードの歴史本。

レコードのデザインをテーマとし、歌謡曲レコードの鮮やかなレーベルと歌詞カードなど印刷物をカラー・ページで多数掲載。

お笑い芸人から映画俳優のレコード、2023年の朝ドラのモデルである服部良一や笠置シズ子、100年を迎える浅草オペラと忠犬ハチ公の肉声レコードなど、注目のラインナップ多数。

A5判464ページ(圧巻の2300枚のSP盤、カラー・ページ)

保利透(ほり・とおる)
1972年、千葉県生まれ。アーカイブ・プロデューサー、戦前レコード文化研究家、ぐらもくらぶ代表。過去と現代の対比を検証するというテーマのもと、戦前の音楽の素晴らしさと、録音による時代の変化をイベントやメディアを通じて伝えている。プロデュースしたSP復刻CDに『花子からおはなしのおくりもの』『踊れ!ブギウギ ~蔵出し戦後ジャズ歌謡1948-55』(ユニバーサル)、『日本の軍歌アーカイブス』『KING OF ONDO ~東京音頭でお国巡り~』『ザッツ・ニッポン・エンタテインメント・シリーズ』(ビクター)など多数。近年は戦前の録音風景を再現したCD『大土蔵録音2020』をリリースし、2021年度のミュージック・ペンクラブ音楽賞ポピュラー部門最優秀作品賞に輝いた。ラジオ出演にTBSラジオ『伊集院光とらじおと「アレコード」』など。

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interview with Waajeed - ele-king

 もしあなたがハウスやテクノといったダンス・ミュージックを愛していて、まだワジードの存在を知らなければ、ぜひとも彼の音楽に触れてみてほしい。
 ワジードは00年代にヒップホップの文脈で頭角をあらわしながら、ここ10年ほどはハウスやテクノの作品を多く送り出しているデトロイトのプロデューサーだ。2022年秋に〈Tresor〉からリリースされた現時点での最新アルバム『Memoirs of Hi-Tech Jazz』のタイトルを最初に目にしたとき、古くからのデトロイト・テクノ・ファンはこう思ったにちがいない。これはギャラクシー・2・ギャラクシーを継承する音楽だろう、と。
 たしかに、一部のシンセやジャジーなムードにはG2Gのサウンドを想起させるところが含まれている。が、本人いわく同作はとくにマイク・バンクスから触発されたわけではなく、父の思い出から生まれたアルバムなのだという。タイトルの先入観を捨て去って聴いてみると、なるほど『Memoirs of Hi-Tech Jazz』にはシカゴ・ハウスやダブの要素も盛りこまれていて、デトロイトに限らずより広く、ハウスやテクノがどこから来たのかをあらためて喚起させてくれる作品に仕上がっていることがわかる。先日の来日公演でも彼は、ブラック・ミュージックとしてのハウスを大いに堪能させてくれるすばらしいDJを披露したのだった。
 2週間後に発売となる紙エレ年末号(2010年代特集)には「BLMはUKをどう変えたのか」という記事を掲載している。音楽業界におけるホワイトウォッシュへの意識が高まったことの背景のひとつにBLMがあることはほぼ疑いないといっていいだろう。BLMはそして、デトロイトも「少なからず」変えたとワジードは述べる。音楽がコミュニティの一助となることを強調し、かつてNAACP(全米有色人種地位向上協会)が所在していたのとおなじ建物でアンダーグラウンド・ミュージック・アカデミーなる音楽教育機関を運営してもいる彼は、『Memoirs of Hi-Tech Jazz』が2020年のジョージ・フロイド事件のころ制作しはじめたものであり、BLMの流れを汲むアルバムであることを明かしている。
 といってもその音楽はけして堅苦しかったり気難しかったりするものではない。それはどこまでもダンスの喜びに満ちていて、スウィートでロマンティックな瞬間をたくさん具えている。「ジャズもテクノも、比喩表現ではなく革命のための音楽」だと言いきる彼の、美しいダンス・ミュージックをまずは知ってほしい。(小林)

(ラジオでエレクトリファイン・モジョが)いつも「玄関の灯りをつけろ!」ってMCで言うんだよ。そうするとまわりの家々が一斉に明るくなっていく。そうでもしないと真っ暗で、町が物騒な雰囲気に包まれてしまうからさ。そういう思い出から、アンダーグラウンドの音楽がいろんなコミュニティの助けになって、なにかしら変革につながるってことを俺は学んできたんだ。

日本に来るのは3回目ですよね。

Waajeed(以下W):3回以上のような気もするけど、たぶんそうだね。

日本にはどんな印象を持っていますか?

W:そりゃもう、ぶっ飛ばされてるよ(笑)。文化にせよテクノロジーにせよ。クラブではブラック・ミュージックへの感謝をいつも感じるな。すべてにおいて好きな国だ。ホームにいるよりいいかも!

あなたはデトロイトに対する愛情をいつも表現していますが、(日本とは)あまりにも違いすぎて変に感じることはないんでしょうか。

W:たしかにそうだね。デトロイトはハードな環境だし。昨日、俺は携帯をタクシーに忘れてしまって、「見つけるのは絶対無理だな」って凹んでたんだけど、タクシー会社に連絡したらあってさ。そんなことはデトロイトだとありえない(笑)。

最近の日本だと見つからないことのほうが多いと思いますよ。

W:ラッキーだったんだな。でも、やっぱり日本のことは安心できる国だと思ってるよ。

あなたが音楽シーンに認知されたのはスラム・ヴィレッジが最初で、ワジード名義の初期の作品もすごくヒップホップ色が強かったですよね。でも2010年代からはハウスやテクノに急接近していきました。そのきっかけはなんだったんでしょうか。

W:ジャンルとしてはまったく違うけど、自分の注目しているようなゾーンはつねに未来にあったんだ。スラム・ヴィレッジにいたころも、未来を見ていた。1999年ごろから、すでにテクノへの意識はあったな。

ぼくも何回かデトロイトに行ったことがあるんですが、2000年代の初頭ごろにスラム・ヴィレッジの “Tainted” が流行っていたのをいまでも覚えています。ラジオをつけるたびにかかっていて。デトロイトといえば、ヒップホップがすごくメジャーなものじゃないですか。そのなかでアンダーグラウンドな文化でもあるテクノやハウスへ接近していった理由というのは?

W:なんだっけ、(エレクトリファイン・)モジョのラジオをよく聴いてたからかな? アンダーグラウンド・カルチャーはスピーディに動いていて、つねになにかが先にはじまるんだ。だから、そこから発生するものはなんでも吸収しようとしてたな。

モジョのラジオを聴いていたのはホアン・アトキンスなど上の世代ですよね。あなたはもっと若い世代なのに、なぜ追いかけていたんでしょうか。

W:いや、ホアン・アトキンスとはそんなに変わらないんじゃないかな(笑)。

彼は50代か60代で、ぼくとそんなに変わらないはず(笑)。

W:ああ、そうなんだ。

俺のなかではジャズもテクノも、比喩表現ではなく革命のための音楽だから、そういう思いを込めた。

ちなみに、あなたはデトロイト時代にどのような少年時代を過ごしていましたか?

W:モジョを聴いてた子どものころは、母親がやんちゃな兄貴のことを心配してたな。銃声なんかもバンバン聴こえるしさ(笑)。だから、ラジオをかけて気分を落ち着かせようとしてたんじゃないかな。モジョのラジオ・ショウにチューニングすると(彼の番組の)「ミッドナイト・ファンク・アソシエイション」が聴けるんだけど、彼はいつも「玄関の灯りをつけろ!」ってMCで言うんだよ。そうするとまわりの家々が一斉に明るくなっていく。そうでもしないと真っ暗で、町が物騒な雰囲気に包まれてしまうからさ。そういう思い出から、アンダーグラウンドの音楽がいろんなコミュニティの助けになって、なにかしら変革につながるってことを俺は学んできたんだ。

ラジオDJが社会的不安の支えになり、街の治安を守っていた、と。すごいエピソードですね。話は戻りますが、〈Dirt Tech Reck〉というあなたのレーベルについて教えてください。

W:ダーティ・テクノ、つまりはそういうこと!

(笑)。どんなコンセプトではじめたんでしょうか?

W:もちろん、ダーティなテクノだよ(笑)。コンセプトはエクスペリメンタルでありながら、ダンス・ミュージックでもあることかな。2013年にニューヨークからデトロイトに戻ったタイミングで立ち上げたんだ。

ニューヨークにいた時期があるんですね。どのぐらいの期間ですか?

W:むちゃくちゃ長いよ。2005年から2013年まで、8年間だ。

エレクトリック・ストリート・オーケストラという名義でアルバムを2枚出していますよね。面白いコンセプトで。すごくアシッドでいろんな要素が入り混じっていて、まさにダーティなテクノで。

W:自分だけのプロダクションではなく、ほかのプロジェクトに関わることで、外から見られている自分のステレオタイプを潰すようなコンセプトがあったかな。ブーンバップだったり、そういうことではない、違うことに挑戦したかった。

なるほど。ちなみにあれは2枚で終わりなんですか? 次を楽しみにしていたんですが。

W:まあね(笑)。基本的には俺は別のプロジェクトは、2枚ぐらいで終わらせるんだ。

ではアルバムについての質問を。『Memoirs Of Hi-Tech Jazz』、これはURに捧げたものなんでしょうか。

W:そうなのかな、たぶんそうじゃない(笑)。あまり関係ないかな。基本的には、亡くなった俺の父親との思い出がコンセプト。ちなみに、今日は彼の誕生日なんだ。親父は俺が小さいころ、ウィードを吸いながらライトを消して、ジャズをよく聴いていたな。グローヴァー・ワシントン・ジュニアとか、ハービー・ハンコックとか、ジョージ・デュークとか。俺の少年期は、家の片側からは親父のジャズが聞こえてきて、もう片側ではモジョのラジオが流れているような状況で、それが音楽の知識になっていった感じだな。初期衝動的なね。そういったことがアルバムを形作っている。だからURの影響下にあるわけじゃないんだ。もちろんマイク(・バンクス)のハイテック・ジャズもいいと思うけど、直接的なつながりはないね。

シングルのリミックスをURが手がけていますが、UR側からタイトルについてなにか言われなかったんでしょうか。

W:いや、だからリスペクトも込めて、URにリミックスを頼んだんだよ(笑)。名前についてはまったく訊かれてないかな。

まさにギャラクシー・2・ギャラクシーの続きを聴いているようなアルバムだな、という感想を最初は抱きました。

ポスト・ギャラクシー・2・ギャラクシーということですね。

W:おお、それはいい表現だ。

なので、直接的には関係がないという話を聞いて驚きました。ところで3曲目の “The Ballad of Robert O’Bryant” というのは、だれのことを指しているんでしょうか。

W:俺だね。父の名前でもあるし、そのまた父の名前でもある。俺は3世なんだ。亡くなった親父に向けたバラードだよ。俺が1989年、ハイスクールに通っていたころ車で親父が学校へ送ってくれてたんだ。俺はバック・シートでよく居眠りしてたんだけど、そういう思い出を込めた曲さ。たぶん、車のなかではURとかテクノ、ジャズなんかが流れてたんじゃないかな。

サイレンの音からはじまる曲なので、なにか事件などと関係があるのかなと思ったんですが。

W:ああ、この曲は2020年のコロナ禍のはじまりのころ制作しはじめたんだけど、その時期にジョージ・フロイドの事件があっただろう。あのときに起こったプロテスト、つまりBLMの流れを汲んだドキュメンタリーでもあるんだ。俺のなかではジャズもテクノも、比喩表現ではなく革命のための音楽だから、そういう思いを込めた。

制作中にあの事件が起きて、BLM運動がはじまっていったとのことですが、それ以降デトロイトの状況は変わりましたか?

W:ああ、少なからずは。(事件を機に)なぜ自分は音楽をつくっているのかということも考えるようになったし、同じブラックたちの抗議活動の重要性もあらためて認識した。けど、実際に抗議活動に参加するのもいいが、やはり俺の仕事は外に出るより、スタジオで音楽をつくることなんだ、とも思ったね。そういうスピリットをあらためて実感したよ。彼らが抗議活動に行くように、俺は音楽をつくる。それはおなじことなんだ。

他方であなたはアンダーグラウンド・ミュージック・アカデミーという音楽教育機関をやっていますよね(https://www.undergroundmusicacademy.com/)。あれはどういうコンセプトのプロジェクトなのでしょうか。

W:コロナイズド、植民地化されたブラック・ミュージックや黒人文化をディゾルヴ(克服)するためのプロジェクトだね。ただバシバシとやってるだけのダンス・ミュージックを、もう少しオリジンへ、つまりデトロイトが培ってきたものへと戻すためのものだ。


アンダーグラウンド・ミュージック・アカデミーのサイトより。

日本に来るといつもあらゆる場所がきれいに整理されていて、完璧な状態が保たれている。でも、デトロイトはもう少しロウな感じなんだ。物騒で、汚れていて。だから、自分がなにをしたいかをはっきりと意識して自分を強く保たないと、生きていけないんだ。なにをするにも大変な街だけど、だからこそ人びとは生き生きとしている。(日本と)完全に真逆だよな(笑)。

ディフォレスト・ブラウン・Jr. のことを知っていますか?

W:ああ、もちろん。美しい青年だ。

すごく彼の考え方と似ているな、と思って。テクノをブラックの手にとりもどす、という。

W:そうだね。音楽のつくり方やDJのやり方を教えるだけじゃなくて、真実を教えるための場所さ。

ブラック・ミュージック・アカデミーは、むかしNAACP(全米有色人種地位向上協議会)があったのとおなじ建物を使っているのですよね。

W:キング牧師も来たことがある場所だし、俺たちもエレクトロニック・ミュージックでおなじことをしようとしてるから、深い意味合いがあるんだ。16歳ぐらいのころにも行ったことがあったな。3階建てで、1階はマイクが借りててミュージアムになってるんだ。アフロ・フューチャリズムについてのね。2階はレコード屋。DIYでペンキを塗ったりしてな(笑)。

アルバムではデトロイト・サウンドと同時に、シカゴ・ハウスやダブの要素もブレンドされていました。それはやはりサウンド面においてもブラック・ミュージックの歴史を継承していく、というような意志があったのでしょうか?

W:いや、そういうわけではなく、音楽的にそうなっただけ。ただ、自分の方向性や興味は、過去のものを継承して新しいものをつくりだしていくことにあるのは間違いない。けっしてシカゴ・ハウスやダブをつくろうと思って完成させたわけではないんだ。そういった要素はもちろんブレンドされているけどね。

なるほど。では最後の質問です。あなたが感じるデトロイトの文化的なよさとは、なんですか? 

W:真実と情熱に満ちあふれていて、正直さがあることかな。それはほかにはないものだ。たとえば、日本に来るといつもあらゆる場所がきれいに整理されていて、完璧な状態が保たれている。でも、デトロイトはもう少しロウな感じなんだ。物騒で、汚れていて。だから、自分がなにをしたいかをはっきりと意識して自分を強く保たないと、生きていけないんだ。なにをするにも大変な街だけど、だからこそ人びとは生き生きとしている。(日本と)完全に真逆だよな(笑)。デトロイトは剥き出しの街なんだ。そこが俺は好きなんだ。

R.I.P. Shane MacGowan - ele-king

野田努

 2002年の日韓ワールドカップのときのことだ。抽選でチケットの買えた試合が、横浜国際総合競技場(現・日産スタジアム)で行われたアイルランド・サウジアラビア戦だった。緑色のユニフォームを着た大勢のアイルランド人たちのほぼひとりひとりが、缶ビール500mlの6缶入りのパックを手にぶら下げて、あるいは、スタジオ周辺の道ばたで試合開始の数時間前から座って飲んでいる。道中にあった立ち食いそば屋も缶ビールを手にしたアイルランド人たちで占拠され、なかばパブと化していた。こうなれば頭のなかはザ・ポーグスだ。このバンドからはいくつかのアイルランド民謡を教えてもらった。“ウイスキー・イン・ザ・ジャー”、それから“アイリッシュ・ローバー”。初めてロンドンを訪れたときは、ソーホーを歩きながら“ソーホーの雨の夜”を思い出した。映画『ストレート・トゥ・ヘル』も忘れられない。ご多分に漏れず、クリスマスには何回も“フェアリー・テイルズ・オブ・ニューヨーク”(数年前、歌詞の一部がPC上問題ありと削除された)を聴いた。もうだいぶ昔の話だけれど。
 シェイン・マガウアンは過激なヒューマニストであり、怒りのアイリッシュ・ディアスポラだった。天才的な詩人で、力強いメロディを作れる優れたソングライターでもあった。彼の歌詞は、アイルランドという故郷を離れた人たちの視点で描かれた故郷への思慕、そして放浪や喪失、失意や後悔、すなわち人生の苦難についての思いや感情だった。ハッピーな詞ではないが心に響く言葉で綴られ、人生のつらさを笑い飛ばすかのように曲はたいていダンサブルだった。

  夏のそよ風のなかを歩くのが好きだ
  ダリングロードの枯れ木のそばを
  そして友人と飲む
  ハマースミス・ブロードウェイで
  わが愛する汚れて愉快な酔っぱらいの日々

  いま、冬がやって来る
  クリスマスになると街をおおう
  その寒さが俺は耐えられない
  天罰が下るのを待つばかりだ
  俺は1ペニーも持たずに
  ロンドンの暗い通りを彷徨っている
“ダーク・ストリーツ・オブ・ロンドン”

 アイルランド人の両親のもとに生まれ、5歳から酒を飲みはじめた生涯を通じての大酒飲みは、その音楽と同時に破壊的な人生も語りぐさとなっている。たとえば、文学の才を見出された彼は名門校に進学するものの校内でドラッグを売って退学となり、施設に収容されたばかりか18歳を精神病院で過ごしている。そして、退院後のシェインにとっての居場所がパンク・ロックの現場だった。彼はパンクのドキュメンタリー映像に映り込むほど、最前列で踊る狂う目立ったパンクスのひとりだったが、周知のようにやがてパンクは廃れ、彼はまたしても行き場を失う。しかしシェインはこの逆境のなかで、パブでビールを飲みながらアイルランド民謡の生演奏で踊っているディアスポラの文化とパンクを融合させるというアイデアを思いつく。ザ・ポーグスの誕生だ。先に紹介した“ダーク・ストリーツ・オブ・ロンドン”は、1984年のデビュー・シングル曲である。
 それからシェインは、ザ・ポーグスの歌手として、この先も聴かれ続けられるであろう2枚の傑作、『ラム酒、愛 そして鞭の響き(Rum Sodomy & The Lash)』(1985)と『堕ちた天使(If I Should Fall From Grace With God)』(1988)をリリースする。とくに後者は80年代後半のアイリッシュ・ディアスポラを完璧に表現した作品として知られており、バンドの音楽的な探究(カントリーをはじめとするアメリカーナなどとの合成)が頂点に達したアルバムでもある。シェインの作詞ではないが収録曲“サウザンツ・アー・セイリング(海を渡る幾千人)”は、アメリカに渡ったアイルランド移民の物語として“フェアリー・テイル・オブ・ニューヨーク”と並ぶ人気曲だ。それにこのアルバムには、アイルランド独立運動とその惨劇を主題にしたド“ストリート・オブ・ソロー/バーミンガム・シックス”もあるし、また、美しい“ララバイ・オブ・ロンドン”もある。

  灯りが消えても歌は続いた
  北風が優しくため息をついた
  東からの夕風が川辺にキスをした
  俺は祈っている
  この子守唄を聞くとき
  呪われた墓場から吹く風が
  決して不幸をもたらさないように

 シェイン・マガウアンは11月30日の早朝に息を引き取った。1957年生まれの65歳。2022年12月、彼はウイルス性脳炎で入院し、2023年の数ヶ月間を集中治療室で過ごしていた。妻ビクトリア・メアリー・クラークはシェインを「もっとも美しい魂であり、美しい天使であり、太陽であり月でもある」と喩えている。
 「魂」だの「天使」だのという言葉は、使い方を間違えると安っぽくなるが、シェインに関しては違和感を覚えない。この社会そのものが、かつて彼を収監した病院のようになっているのだとしたら、彼の方から去っていったのではないかと思ったほどだ。ぼくは、“ダーティ・オールド・タウン”も好きでよく聴いた。これはカヴァー曲だが、「ガス工場の壁で愛に出会った」という歌い出しはシェインに相応しく、「古い運河のそばで夢を見た/工場の塀のそばでキスをした」というフレーズは、ザ・ポーグスの世界そのものだ。アイルランド独立の話に関しては、ぼくに何か言えるとは思えない。が、シェインにとっての理想の人生とは、難しい話じゃない、素朴なことだったように思う。パブで老若男女が人生を積極的に楽しんでいるように騒いでいる、おそらくは、ただそれだけのことなのだ。
 最後にもうひとつ。根性がなくてIRA に入りたくても入れなかったとか、言いたいことを言ってきたシェインは、1991年にはこんなことまで言っている。「酔っ払いについて覚えておくべきもっとも重要なことは、酔っ払いはそうでない人よりもはるかに知的だということだ。彼らはパブで多くの時間をおしゃべりに費やしている。高次の精神的価値を開発することもなく、酔っ払いのように頭のなかを探検することもない、上昇志向だけのワーカーホリックたちとは訳が違うんだ」

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市原健太

 ザ・ポーグスの最初のアルバム『Red Roses for Me』に収録された、イギリスの監獄のなかで響く鐘の音を歌ったバラッド “The Auld Triangle” を作った人物。IRAの闘士、劇作家にしてレンガ職人、聖なる酔っ払いたるブレンダン・ビーハン。その男がニューヨークの街角をコートの襟を立てのしのし歩く姿を自らに引き付けて活写した詩を書いたのは、シェインではなく(ギタリストの)故フィリップ・シェブロンだった。パンキッシュなフォーク・バンドから名実とも世界的な人気を勝ち得た3枚目のアルバム『堕ちた天使(If I Should Fall from Grace with God)』に収録された“サウザンツ・アー・セイリング(海を渡る幾千人)” のなかで歌われている。きっとシェインがこれを歌えば映えるだろうという魂胆もあったかもしれない。いま思うとちょっとできすぎな映画のワンシーンのように美しい曲である。。
 名うてのトラッド・ミュージシャン、テリー・ウッズが加入した『堕ちた天使』が名盤であることは間違いない。アイルランド人たちのエグザイルという大きなテーマは90年代初頭のケルト・ミュージック・ブームにも大きな影響を与えた。世界に散らばったアイルランド人たちの音楽博覧会的な集大成は、当時カルチュラル・スタディーズやワールド・ミュージックの時流にものり、大ヒット・アルバムとなった。
 しかしそのリリース以降、二度の来日公演で観たザ・ポーグスのライヴでのシェインは、力強く歌うことはなかった。よれよれのシェインはスパイダーに肩を抱かれて一曲ごとに出たり入ったり。もちろん酒のせいではあったのだろう。しかしやはりどうしても表現者としての逡巡がなかったとは思えない。風景画のように人生のある一瞬を描くような美しいバラッドや、ポーグ・マホーン=ケツくらえ的なパンキッシュな曲ばかりを期待されること、アイリッシュ・ミュージックの立役者としての大きな括られ方がどんなに苦しかっただろうかと思う。その後脱退をし、ポープスなるバンドを作るけれども、ほんとうに作りたかった音楽はやはりポーグスでなくてはできなかったのかもしれないと考えるととても悲しい。

 カタカタカタとタイプライターを打つ音からはじまる、脳性麻痺者にして作家、そして聖なる酔っ払い、映画化もされた自伝『マイ・レフトフット』で広く知られる(アイルランドの作家)クリスティ・ブラウンのことを歌った “Down All The Days” という歌がぼくはとても好きだ。何度でも繰り返し聴きたくなる。『堕ちた天使』のあとリリースされた4枚目のアルバム『Peace and Love』に収録されている。
 停滞を歌った歌。一日中ベッドに横たわり、唯一動く左足のつま先でタイプをカタカタ鳴らし、世に出るあてもない文章を書き散らし、鼻からストローで酒をすする。停滞は沈鬱で寄る辺ないけれど、でもこの曲のさわやかさはすてきだ。シェインはちゃんといままでの過剰な大きすぎる高揚から抜け出す術を持っていたんじゃないかと思えるほどに、この曲は治癒的に聴こえるし、そして美しすぎない美しさを持っている。
 クリスティ・ブラウンは疑り深く健常者に悪態をつき悪びれずなかなかに付き合いにくいやつだ。もちろんそれでは生きていかれないからかわいいところもある。すぐに女を好きになるけどフラれてツラいばっかりの人生を送る。でも文章を書くことをやめない。停滞のなかでずっとタイプライターをカタカタ鳴らしている。その反復・反応をシェインは音楽に表現する。ザ・ポーグスのタイトな演奏もすばらしい。
 聖なる酔っ払いは過剰な美しさを宿す。いまではニューヨークの警官たちがやさぐれたラヴ・ソング “フェアリー・テイル・オブ・ニューヨーク” を合唱するくらいにその美しさは波及・大衆化している。しかしそんな大衆化に逆転反撃、無意味な反復もやはりシェインが出自を持つ国、司馬遼太郎が〈百敗の民〉と形容した場所の心性なのだ。『Peace and Love』、『Hell's Ditch』、そしてシェインがいなくなった後の『Waiting for Herb』へと続く後期ポーグスは佳曲というべきロック・ナンバーとトラッドをベースにした疾走感のある彼らにしか演奏のできないフォーク・ロックな曲が交互に並ぶ。なにか高みに達することをわざと避けるような軽さがいい。その彼らの潔さがうれしくて、毎年夏が終わった頃、無性に彼らの音楽が聴きたくなるのだ。そしてシェインの訃報。もう仕事にならなくてずっとユーチューブを観ていたが、シェインではなく、まるで禅僧のようなジェイムズ・ファーンリーの顔を観ていたら涙が止まらなくなる。

 シェインが酔っ払ったふりをして話さなかったこと。そのことについてこれから考えようと思っている。以前インタヴューで「ぼくらのバンドは民主主義だから」とぽろっと話したことがあった。ほんとうにそうだったんだろう。誰かに頭を押さえつけられることの大嫌いなシェインであればそうするほかはない。彼は歴史や文学を決して蔑ろにしなかった。そうでなければトラッドにかかわることなどできないし、あの美しい詩を書くことなどできなかったはずだ。
 しかしそんなこともいまはどうでもよいかな。猪木さんのように衰えていく姿をSNSでシェインは逐次伝えてきた。その上での訃報だった。潔いんだな。まったくかっこいい男だったとぼくのなかで歴史がひとつ積み上がる。

   
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