「R」と一致するもの

SUGIURUMN - ele-king

 2023年の9月にリリースした『All About Z feat.遊佐春菜』から始まったSUGIURUMN 7年ぶりのアルバム『SOMEONE IS DANCING SOMEWHERE』のリリース・パーティが12月1日(日)に東京・渋谷の〈or MIYASHITA PARK〉にて開催。

 パーティー・トラックとしてだけでなくポップ・ミュージックとしての機能を獲得したダンス・ミュージックに対し、SUGIURUMNは『SOMEONE IS DANCING SOMEWHERE』制作時にビートという制約を一度忘れ、自分のなかにあるサウンドを紡ぎ出すことを目指したとのこと。それにともない、オーディエンスが自由を謳歌しつつ音楽を楽しめるリリース・パーティーを開催するようだ。

 SUGIURUMNのリリース・ライヴは、ゲスト・ヴォーカルとして1年以上に渡った『SOMEONE IS DANCING SOMEWHERE』プロジェクトのオープニング・トラックを歌った遊佐春菜とアルバムのオープニング・ナンバーを歌った黄倉未来、さらにスペシャル・ゲストを迎えた特別なセットとなる予定。また、オーストラリア出身のSSW/プロデューサー・ジミー・アームストロングによるライヴ・セットも披露される。
 DJには時と場所に合わせ変幻自在で唯一無二の空間を作り出す瀧見憲司、バレアリックすら越えようとするジャンルの横断者YODATARO、韓国・ソウルのKID-Bを迎え、SUGIURUMN自身もライヴでは引き出せない表現をDJセットにて探るようだ。
 
 本会のコンセプトは「クイックモーションでウィークデイを駆け抜けるあなたに向けた日曜午後のミュージック・ジャーニー」とのこと。ダンス・ミュージックが夜だけのものであったのもいまは昔、バンド・サウンドやヒップホップに比肩しうるほどの支持をクラブの外側でも獲得した現在ならではの日曜日の過ごし方として、ディープなサウンド・スケープを悠々と楽しむのはいかがだろうか?


2024.12.01(Sun)
SUGIURUMN SOMEONE IS DANCING SOMEWHERE RELEASE PARTY
@ or MIYASHITA PARK 3F
Open 16:00 - 23:00
Fee- Men 3000yen (1Drink), Women 1500yen (1Drink)

Guest DJ : KENJI TAKIMI
DJs : SUGIURUMN, YODATARO, KID-B(Seoul)
Guest Vocal : 黄倉未来, 遊佐春奈, and Special Guest
Live : JIMMY ARMSTRONG
https://www.ortokyo.com/top/

SUGIURUMN / スギウラム
ダンス・ミュージック・プロデューサー/DJ。〈BASS WORKS RECORDINGS〉を主宰し、世界各国のレーベルからも作品を発表。ミックスCD『LIVE AT PACHA IBIZA』シリーズやバンド・THE ALEXXでの活動、TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.のコレクション音楽でも知られる。8月7日に7年ぶりの初の日本語詞のアルバム『SOMEONE IS DANCING SOMEWHERE』をリリースした。

Jan Urila Sas - ele-king

 孤高のデュオ・jan and naomiやGREAT 3、GODでも活動する音楽家・Jan Urila Sas(ヤン・ウリラ・サス)が6年の歳月をかけて生み出した4曲入EP『Utauhone』。広島の〈STEREO RECORDS〉よりリリースされた本作の完成を記念した〈Utauhone Concert Tour〉ツアーが、2025年1月より福岡・広島・京都・東京の4都市5会場にて開催される。
 
 ツアー中のJanによるパフォーマンスは、『Utauhone』制作時に用いられた(半)自作楽器「清正」の後継機「清定」を使用したアルバム収録楽曲のパフォーマンスと即興演奏をハイヴリッドにブレンドした内容を予定しており、本作の内包するアンビヴァレンスな魅力を直接体感できる濃厚な一時となることに期待できそうだ。

 ツアーは1月11日(土)の小倉・BAR HIVEからスタートし、その後1月13日(祝月)に福岡・Kieth Flack、3月21日(金)に広島・CLUB QUATTRO、3月23日(日)に京都・UrBANGUILD、4月6日(日)に東京・SPACE新宿を巡る。いずれも固有の磁場を持つヴェニューであり、会場のチョイスからもJanと〈STEREO RECORDS〉のこだわりを感じさせる内容となっている。なお、広島公演は〈STEREO RECORDS〉の20周年を祝した特別な記念公演となり、Phewを迎えたツーマン・ライヴとして開催される模様。さまざまな面からも見逃せない今回のツアーのいずれかに、ぜひ足を運んではいかがだろうか?

【1月11日(土)小倉 BAR HIVE】
出演:Jan Urila Sas / Rinsaga / Rena / p.co / Masaya Takano / nagai
会場: DJ BAR HIVE
日程: 2025年1月11日(土)
時間:OPEN /START 21:00
料金: 当日 2500円 / 当日U23 2000円 / 予約 2000円 / 予約U23 1500 (いずれも1drink order)
チケット予約:info@stereo-records.com
問い合わせ:STEREO RECORDS / info@stereo-records.com

【1月13日(祝月)福岡 Kieth Flack】
出演:Jan Urila Sas / 愚鈍 / Godbird / SHOWY (KIETH FLACK ROCKS) / vvekapipo (hertz)
会場: Kieth Flack
日程: 2025年1月13日(祝月)
時間:OPEN 19:00 /START 20:00
料金: 前売り 2.500円 / 当日 3.000円 (1drink order)
チケット予約:https://kiethflack.net/ticket/
問い合わせ:Kieth Flack / https://kiethflack.net/

【3月21日(金)広島 CLUB QUATTRO】
出演:Jan Urila Sas / Phew
会場: CLUB QUATTRO
日程: 2025年3月21日(金)
時間:OPEN 18:30 /START 19:30
料金: 前売り 4.000円 / 当日 4.500円 (1drink order)
プレイガイド:e+ / チケットぴあ / ローソンチケット / STEREO RECORDS
問い合わせ:広島 CLUB QUATTRO / (082)-542-2280

【3月23日(日)京都 UrBANGUILD】
出演:Jan Urila Sas / 豊田奈千甫 / 仙石彬人 AKITO SENGOKU (TIME PAINTING, Visuals)
会場: UrBANGUILD
日程: 2025年3月23日(日)
時間:OPEN 18:00 /START 19:00
料金: 前売り 2.500円 / 当日 3.000円 (1drink order)
チケット予約:https://urbanguild.net/event/20250323_janurilasas_utauhoneconcerttour/
問い合わせ:UrBANGUILD / https://urbanguild.net/

【4月6日(日)東京 SPACE新宿 】
出演:Jan Urila Sas / Jun Morita / wagot / Sota Shimizu
会場:SPACE新宿
日程:日程: 2025年4月6日(日)
時間:OPEN 17:30 / START 18:00
料金:前売¥2.000 / 当日¥2.500 (1drink order)
チケット予約:https://space.zaiko.io/item/368061
問い合わせ:SPACE新宿 / https://space-tokyo.jp/contact

TOTAL INFO
STEREO RECORDS
https://www.stereo-records.com/

Jan Urila Sas

2015年12月に、Jan Urila Sas名義によるソロ作品『Blue Angles Of Santa Monica』をリリース。 絶え間なく変化を続ける東京の中で研ぎ澄ましてきた独自の感性によって産み出される表現の世界観は、音楽だけにとどまらない芸術領域の世界の中で、孤高の存在感を示し、躍動している。また、Naomiとともに結成したデュオであるjan and naomiでは、“狂気的に静かな音楽”といった、新たなミュージック・スタイルを確立し、儚く切ないメロディーセンスで多くのリスナーを魅了し続けている。

aus, Ulla, Hinako Omori - ele-king

 昨年15年ぶりの新作『Everis』をリリースした音楽家・ausによるキュレーションのもと、東京国立博物館の庭園内に佇む4つの茶室「春草廬・転合庵・六窓庵・九条館」にてaus、Ulla、Hinako Omoriによるインスタレーション「Ceremony」が12月7日(土)に開催される。
 「Ceremony」はaus、Ulla、Hinako Omori の3組による、茶室における静寂と不在・作法から着想を得た音楽を公開する試みとのこと。畳の上でのサイレント・リスニングを模したフライヤー・デザインは三宅瑠人が手がけている。
 各回の観覧にともなう所要時間は約30分ほどと、音楽イヴェントとして捉えると一見コンパクトな印象を受けるが、東博の所有するすばらしい庭園と茶室にて先進的かつ実験性に富んだアンビエント・ミュージックを、通常のリスニングとは異なる形で体験できるまたとない機会であることは間違いないだろう。詳細は下記よりご確認を。

■aus, Ulla, Hinako Omori「Ceremony」

日程:12/7(土)
会場:東京国立博物館・庭園内 茶室「春草廬・転合庵・六窓庵・九条館」
時間:11:30〜14:30

参加アーティスト:
aus
Ulla
Hinako Omori

■イベント詳細
https://flau.jp/event/ceremony/

■Web予約
https://flau.stores.jp/items/6722eaf9df6a593750074418

※ Ulla、Hinako Omoriは当日会場におりませんので、ご了承ください。
※ イベントは30分ごとの予約制となります。

aus

東京を拠点に活動するアーティスト。 10代の頃から実験映像作品の音楽を手がける。 テレビやラジオから零れ落ちた音、映画などのビジュアル、言葉、 長く忘れ去られた記憶、 内的な感情などからインスピレーションを受け、 世界の細かな瞬間瞬間をイラストレートする。 長らく自身の音楽活動は休止していたが、昨年15年ぶりのニューアルバム「Everis」をリリース。同作のリミックス・ アルバムにはJohn Beltran、Li Yileiらが参加した。Craig Armstrong、Seahawksほかリミックス・ ワークも多数。

Ulla

ベルリンを拠点とする実験音楽家。Ullaのアルゴリズミックなテクスチャは精密なアンビエントとジャジーなエレクトロニクスの間を揺れ動く。彼女の作品はエレクトロ・アコースティックやグリッチに焦点を当てており、Quiet Time、Experiences Ltd、West Mineral Ltd、Motion Ward、Longform Editions、3XLといった人気レーベルからリリースされている。現行のアンビエント〜アヴァンギャルドにおける最重要アーティストの一人。

Hinako Omori

横浜出身、ロンドンを拠点に活動するコンポーザー。クラシックピアノを習い、サウンドエンジニアリングを学ぶ。クラシック、エレクトロニカ、アンビエントを取り入れたサウンドスタイルで、Houndstoothから2枚のアルバムをリリース。キーボーディスト / シンセシストとして、宇多田ヒカル、Ed O’Brien(レディオヘッド)、Floating Pointsなどのツアー、レコーディングに参加。ロンドン・ナショナル・ギャラリー、テート・モダン、バービカン・センター、ICA、Pola Museumなどパフォーマンス多数。

Tyler, The Creator - ele-king

 世のなかには、ラップしかできないがゆえに人びとを惹きつける人間がいるいっぽうで、ラップするだけが能ではない人間もいて、そういうタイプに関心を示すぼくのような人間もいる。強引ながら敢えてこの二分法に従えば、タイラー・ザ・クリエイターは後者だ。もっともタイラーも、ここでまた過去をほじくり返すのは良くないが、デビュー時は酷いもので、彼の女性蔑視や意味のない罵詈雑言がわからずサウンドのみで面白がっていたぼくのような人間は大いに反省を迫られた、という話は以前にも書いた。ただ、それでもタイラーの、ストゥージズをやってしまうようなセンス(2015年の『チェリー・ボム』というアルバム)が嫌いにはなれず、昔、N*E*R*D の『In Search Of...』を好んで聴いていた古株として言えば、その系譜にいるひとりはタイラーだと思うし、実際の話、『スカム・ファック・フラワー・ボーイ』(2017)以降の彼のアルバムはどんどん洗練されていって、ある意味『ゴブリン』時代の汚名を倍にして返上し、いまや押しも押されもしないアーティストとして広く知られていることは周知の通りである。

 彼にはおそらく、文化的破壊者の側面もあるのだろうけれど、ディレッタント的な側面もある。新作『クロマコピア』、このウィットに富んだ見事なアートワーク──60年代前半のソウル系のジャケットを彷彿させるレトロなイラスト、軍服と黒い仮面──からもその才がうかがえる(前作のジャケットではボードレールを引用していたよね)。要するに、タイラーは自らのなかから何か新しいものを生み出すタイプではなく(そんなタイプは滅多にいないのだが)、ダイアレクトのレヴューで編集部コバヤシが記述した、 “コラージュ” 的なセンスにおいて卓越していることを意味する。サウンド・デザインの巧さ、言うなれば、いろんなところからいろんなものを持ってきてそれでひとつのモノを作り上げるのがうまい。まあ、そもそもヒップホップはそういう音楽なわけだし。

 『クロマコピア』の最初の4曲を聴いてもそれがわかる。1曲目“St. Chroma”(feat. ダニエル・シーザー)は囁き声とマーチのリズムの催眠効果にアンビエント風シンセサイザーが入って、ゴスペルの断片、場面をぶった切るようにダンス・ビートとラップが舞台に上がってジャズ・ピアノが鳴る。この展開力と編集のうまさ、見事だ。続く2曲目 “Rah Tah Tah” ではダークサイドを変異したトラップ・ビートが走って、シンセサイザーをバックにラップする。これもまた格好いいんだよなぁ。ザンビアのロック・バンドのサンプリングが話題になった3曲目 “Noid” は、タイラーのロック趣味が出た曲で、まあ、派手でキャッチーな曲だ。何語かわからないがアフリカのイントネーションを強調したラップが入ることで、曲にエキゾティズムを加味している。そして、これに続く4曲目“Darking, I” (feat. ティーゾ・タッチダウン)のメロディアスなソウルがロックの熱狂を甘ったるい気持ちへと導いていく……この曲がぼくにとっては本作におけるベストだが、たんにこれは好みの問題だ。『クロマコピア』には、こうした佳作が多くある。どれを好きになるかは、人それぞれだろう。

 レトロなリズムボックスの音色を活かし、70年代フュージョン風のストリングスが背後で流れる“Hey Jane”、プリミティヴなパーカッションの上をギターや声の細切れの断片がカットインされる“I Killed You”(feat. チャイルディッシュ・ガンビーノ)、アコースティック・ギターの弾き語りめいたスローテンポの“Judge Judy”にも微細な音素材がエディットされている。賑やかなサイケデリア“Sticky”(feat. GloRilla、セクシー・レッド、リル・ウェイン)、ピアノとブラス、ゆったりとしたドラムと美しいコーラスから成る見事なプロダクション“Take Your Mask Off”(feat. ダニエル・シーザー、ラトーヤ・ウィリアムズ)、アシッド・フォーク調にはじまる“Tomorrow”、パーカッションとトランペットの妙技による愉快な“Thought I Was Dead”(feat. スクールボーイ ・Q 、サンティゴールド)……(以下、略)。

 かように、ぼくはサウンドを楽しんでいる。とくに今回は意識的にそうすることにした。いちいち歌詞を吟味する時間もなかったし、そもそも、やはり、外国語圏の自己言及型ミュージシャンについて語るのは、どうにも自分自身すっきりしないところがある。ことに海外メディアにおける本作のレヴューのほぼすべてが「タイラーが何をラップしているか」に焦点が当てられていて、モノによっては作家の新刊紹介に近い内容になってきている。それだけ言葉が面白いのだろうし、アートワークにある「仮面」というのは、往々にしてペルソナのメタファーであり、ブラック・カルチャーにおいては引き裂かれた自己、意識の二重構造のメタファーとして使われることも多いわけだから、本作にアイデンティティの問題や内的な葛藤ないしは内省が込められていることを察することはできる。数々の海外レヴューによれば、自己発見があり、(いまアメリカで大問題の)中絶をテーマにした楽曲もあるが、それも身の上話のようで、アメリカ社会における辛い人生に関しての言及はないようだ。33歳にもなってバカはできないと思ったのか、あるいは、ここ数年アメリカのラップ界やセレブリティに顕著な「自分語り/身内話」という時流にタイラーも乗っているのだろう。

 それをわかった上で、自分の英語聞き取り能力の欠如が、サウンド・デザイナーとしてのタイラーをわりとダイレクトに受け入れていることを思えば、これはこれでまたひとつの受容の仕方として良いかと思ったりもする、とくに今回のタイラーのように、その洗練されたセンスをもって魅了する作品の場合は。前作『Call Me If You Get Lost』に収録された“Wilshire” という曲における彼の切ない女性関係についての告白に関してぼくはいまいち、いや、自分がもうそういう歳でもないので、ピンとこないわけだが、かといってDJシャドウの“Midnight In A Perfect World” と同じサンプル素材を使っていることがクールだと主張したいわけではない……けど、自分のナードな部分がそこに反応してしまうのもたしか。音楽ライターとしてこれは自慢できる話ではない、間違いなくないそれはないが、タイラーにもその気質はあるでしょう。

Zamboa - ele-king

 まず、この音楽は「東京の音楽」ではない。それが素朴な印象だった。

 これまでのKlan Aileenは、ロック・バンドという表現形態の自信喪失と、そこからくる空転をいかに「クールなもの」にひっくり返すか、という大きな課題を持っていた。彼らがツーピース体制となって初のアルバム『Klan Aileen』は、彼らが大きく影響を受けていた00年代後半から10年代前半のインディ・ロックの覇権が完全に崩れた2016年にリリースされており、そこに詰め込まれた音像が過剰なまでにロック・バンド的な荒々しさを持っているのは、むしろその荒々しさが絶えず空振りしていることを彼らが自覚していたからだ。
 続く2018年作『Milk』も、ドローンやエクスペリメンタルなど、当時からすれば「いまっぽい」、「ロック・バンドっぽくない」音響感覚が、ロック・バンドらしい生々しい演奏と同居しており、ロック・バンドをやる他ないが、そこに安住することもできないような両義性のなかで引き裂かれている奇妙なアルバムだった。
 早く言えば、彼らは「ロック・バンド」という形式が「オワコン」になりつつある気配を読み取りながらも、そこから立ち去ることができず、かといって素朴に「ロック・バンド」を演じることもできず、自分たちが「ロック・バンド」であることに「照れ」ていたのだ。しかしその自信喪失こそが、Klan Aileenと音楽シーンをつなぐ通路となって、ロック・バンドという形態の定義を変質させるような挑戦がおこなわれていた。
 つまりどんな形を取るにせよ、以前までのKlan Aileenのアルバムには、音楽シーンの動向との距離で測れるパラメーターが少なからずあったということだ。実際彼らは、UK/USのインディ・ロックの国内盤(例えば、レディオヘッド、アークティック・モンキーズ、ジ・xx、ボン・イヴェール、ヴァンパイア・ウィークエンド、ザ・ナショナル、セイント・ヴィンセントなど)を大量にリリースしていた、〈Hostess Entertainment〉所属の数少ない国内作家のうちの一組だった。ときにそれが逆説にすぎないにしても、Klan Aileenは「東京的な」(そして「東京」が輸入しているUK/US的な)バンドだった。

 しかし、Klan AileenからZamboaにバンド名を改め、6年ぶりのリリースとなる今作『未来』にはそうした距離感が消失している。いまの彼らの音楽には、東京という「中心」に基づいた、順接的・逆説的つながりが存在せず、どの時代のどの場所の音楽なのかがもはやわからない。
 いままでは接し方が定まっていなかったように見えた、ブリティッシュ・プログレ的ないなたい湿っぽさや大仰さ、あるいは昭和歌謡/民謡的な節回しやコード感、それらの一歩間違えたら「懐古的なもの」に陥りかねないジャンルやアティチュードに素で接近している側面があるのは間違いない。しかしジャンルの再現性やジャンル間の横断的な結びつきを、ラフな録音とルーズな演奏がぎこちなく拒んでもいる。
 そのルーズさは、彼らがかつて「ロック・バンド」を生き延びさせるために使っていた、パフォーマンスとしてのルーズさというよりは、もっとストレートなルーズさだ。彼らはもはや、自分たちが「ロック・バンド」であることに照れてはいない。
 かつては亡霊のうめき声のように極限まで小さくミックスされていたヴォーカルは、大きくはっきりとしたものになり、ギターは弾き倒され、重ねられたシンセサイザーとベース(!)が和声を複雑化させていく。いまの彼らは音響的な実験とは無縁の、「いい曲」を作ろうとしているかのようでもあるが、しかし同時に、「クオリティ」の方にも収束していかない。彼らは「ちゃんと」することにしたわけでもない。
 ジャンルを再現するには拙い、ジャンルの「気配」だけをまとったフレーズやコード感が、ぎこちなく積み重なり、絡み合っていく。齟齬は摩擦を生み、グルーヴが力みと弛緩、ズレと遅れのなかでドライヴしていく。強く握りすぎたスティックが放つストロークが、つい手元を滑らせたようなフレーズが、「ニュアンス」として、あるいは「気迫」として、ポジティヴに転んだり、転ばなかったりする。

 ところで、彼らの新しいバンド名であるZamboaは、柑橘類の果物ザボン(別名ボンタン)を意味する語であり、このザボンはZamboaのふたりの出身地である鹿児島とも縁があるという。
 ザボンの原生地は東南アジア・中国南部・台湾で、日本には17世紀に伝来している。伝来の地については諸説あるようだが、広東と長崎を行き来する貿易船が難破して鹿児島に漂着し、そこから日本での栽培が始まったという説もあるようだ。いまでもザボンの栽培は鹿児島で盛んにおこなわれており、ボンタンアメ、ザボンラーメンなど、独特の仕方で地域文化に定着している。
 つまり、ザボンは舶来品である微妙さとともに、彼らの故郷、鹿児島につながっている。彼らが「ロック・バンド」であることに立ち返った今作から、バンド名をこのような語に改めたのは示唆的だ。

 そもそも、ローカルな場所(カッコつけずにいえば要は「地元」のことだ)、あるいはローカルな場所に宿る友人関係を抜きにして、「ロック・バンド」について語ることは難しい。偶然生まれた場所としての「地元」と、偶然出会うものとしての「友達」は、ロック・バンドを育むゆりかごだといってもいいくらいだろう。
 だが「友達」と「地元」をその胚とするために、ロック・バンドは、音楽を作ったり演奏するという「目的」に干渉するようなあらゆるノイズを抱え込んでしまうことにもなる。例えば、人間関係、演奏技術の偏差、思想上のギャップ、「方向性の違い」……。バンドという共同性はあらゆる「しがらみ」に束縛されている。
 しかし他方で、こうした「しがらみ」は、ロック・バンドの「気迫」を生み出すための燃料でもある。不揃いな身体感覚と演奏技術を擦り合わせようとするときに生まれるダイナミクスと白熱は、この「しがらみ」がなければ存在しない。だがかといって、素朴にその「しがらみ」の不自由さを謳いあげるだけでは、どんな「下手な」プレイも肯定しながら、ローカルな友人関係の「エモさ」に沈滞して済ます「開き直り」しか生み出さないだろう。

 翻って、『未来』というアルバムが持つある種の「ぎこちなさ」は、演出されているものでも、素朴に許容されているものでもない。恐らく彼らは下手な演奏を狙っているわけではなく、「失敗するかもしれない」という余白が残っている演奏にしか宿りえない気迫こそを、どうにかとらえようとしているのだ。「これは各々の身体(性)だから」と粗を素朴に肯定する代わりに、「失敗するかもしれない」という可能性の縁に肉薄することで、あくまで「結果として」ミスタッチがついてまわってしまう。
 「失敗するかもしれない」身体のままならさと、しなやかな自律性が背中合わせに圧着する隙間にマイクが立てられ、熱気と気迫を放ちはじめる「しがらみ」が、不自由が、ドキュメントされていく。その「現場」において、偶然性(互いの頑固な身体、たまたま出会ったという事実……)は優しく許容されることなく、火にくべられ、鍛えあげられるが、しかしその偶然性が消し炭と化す手前で、互いの存在への「あきらめ」に滑り込むようにして、「友達」との協働に形が与えられていく。
 この協働の形成と同期するようにして、舶来品たる「ロック・バンド」というフォーマットもまた、「厳しさ」と「あきらめ」を通じてローカライズされていく。たまたま流れ着いた「漂流物」が「現地」に根付き、地口と口語にさらされながら増え広がっていくように。

 不自由であることや、ローカルな関係性の「エモさ」に居直ることのないZamboaの音楽は、「東京的」でなくなってもなお、ニッチ/アンダーグラウンドとオーヴァーグラウンドのあいだで独特な「開かれ」を立ち上げている。その「開かれ」は優しい青空のような滑らかさを持っておらず、傷を覆うカサブタのような、あるいは堅く厚い果実の皮質のようなデコボコしたものかもしれない。しかしその「デコボコ」は、岩山のように厳しく屹立するばかりでなく、内側に蓄えられた身の充実を予感させる「匂い」を振りまいてもいる。
 無数の「かもしれない」を乗り越えた『未来』というアルバムの重い身体は、また無数の「かもしれない」をもたらすであろう観客たちを誘うようにして、その「匂い」を虚空に向かって、ひっそりと発散させている。

Ambience of ECM - ele-king

 「静寂の次に美しい音」のコンセプトで知られるミュンヘンのレーベル〈ECM〉。創立55周年(と「ECM New Series」40周年)を記念し、日本初のエキシビションが催されることとなった。題して「Ambience of ECM」。岡田拓郎、岸田繁、原雅明、三浦透子、SHeLTeR ECM FIELDの5組が選曲を務め、九段ハウスにて環境に合わせたオーディオ・システムのもと、それぞれ異なるリスニング体験を提供する。12月13日~21日の期間限定開催です。詳しくは下記より。

創立55周年を迎えた音楽レーベル「ECMレコード」の日本初のエキシビション「Ambience of ECM」が、九段ハウスにて12月に期間限定開催

1969年にマンフレート・アイヒャーがドイツ・ミュンヘンで創設したヨーロッパを代表する音楽レーベル、ECM(「Edition of Contemporary Music」の略)。"The Most Beautiful Sound Next To Silence (沈黙の次に美しい音) "をコンセプトに掲げ、他のレーベルとは一線を画す、その透明感のあるサウンドと澄んだ音質、洗練された美しいジャケット・デザインなどが世界の多くのファンを魅了してきた。

今年、レーベル創立55周年、そして1984年にスタートしたクラシック・シリーズの「ECM New Series」が創立40周年を迎えた。それを記念し、日本国内において初となるエキシビションを12月13日(金)から12月21日(土)までの期間限定で九段ハウスにて開催される。

「Ambience of ECM」をテーマにECMのサウンドを環境の響きで楽しむプロジェクトで、レーベル第1弾作品のマル・ウォルドロン『フリー・アット・ラスト』(1969年)から、ECM New Seriesのクラシック/現代音楽まで、多彩で広大なECMの世界を、5組の選曲家が九段ハウスのそれぞれのリスニング環境に合わせて選曲。環境に合わせてオーディオシステムも選定することで、全く異なるリスニング体験を提供する。

また、ECMレコードが保有する貴重なポスターアートをミュンヘンから輸入し特別展示。本邦初公開となる38点のアートは、今回のための限定公開となり、館内を回遊することでリスニングとビジュアルの両面でECMの世界観を堪能できる。

入場料は無料。
予約はPeatix特設ページにて受付
https://ambienceofecm.peatix.com

【開催概要】
名称:Ambience of ECM
日程:2024年12月13日(金)~21日(土)
時間:10:00/14:00/18:00 (所要時間:1時間程度、事前予約制)
※12月21日(土)はレセプションのため招待者のみ
入場料:無料 (要予約)
会場:kudan house (東京都千代田区九段北1丁目15-9)
注意事項:館内では一部裸足となるプログラムがございます。靴下等脱ぎやすいお履物でお越しください。

主催:東邦レオ
企画:石井りか、原雅明、玉井裕規
選曲:岡田拓郎、岸田繁、原雅明、三浦透子、SHeLTeR ECM FIELD (Yoshio + Keisei)
協賛:ユニバーサルミュージック合同会社
協力:株式会社ジェネレックジャパン、ADAM Audio、Audio-Technica、Oshima Pros、Qobuz、WHITELIGHT
企画協力:dublab.jp / epigram inc.

【コンテンツ】
◎Listening
ECMの広大な音世界を5組の選曲家が、九段ハウスのそれぞれのリスニング環境に合わせて選曲。部屋の建築様式とペアリングされたサウンド・システムでリスニングを楽しむ。

◎Exhibition
ECMが保有する貴重なポスターアートワークを特別展示。全館がまるごとエキシビションとなり、館内を回遊し、様々なリスニングスポットをECMの世界観で繋ぐ。

◎Event
最終日の12月21日には、トーク、DJセッション、レセプションが行われ、ECMを様々な角度から多角的に楽しめるイベントを開催(完全招待制)。

SOPHIE - ele-king

 2024年は『brat』の年だったと、さまざまなメディアが書き立てている。大統領選からプロモーションのあり方といった話題に至るまで、やや(社会)現象としての側面にばかりスポットが当たっているような印象もあるが、というのはつまりチャーリー・XCXが正しくポップ・スターになったということでもあって、それはそれでとても感慨深い。強度あるサウンドなだけに、作品それ自体の意義については今後長い時間をかけてさまざまな分析がなされていくだろう。中でも当作は、形骸化が進みはじめたハイパー・ミュージックの文脈において、ひとつの局面を打開したようにも思う。幅広く多彩な感情の掘り下げと、それらを逆説的に強調するようなミニマルなアートワーク。飽和した状況からクリティカルに脱し大衆の視線を獲得したという点で、見事な一手だったというほかない。

 もうひとつ言うなら、『brat』はもっと故・ソフィーの文脈で語られるべきだとも思う。『Number 1 Angel』(2017年)をはじめとして深い音楽的パートナーシップを築いてきたふたりだけあって、そもそも『brat』のサウンドにはソフィーの影がそこかしこに感じられる。特に “So I” はソフィーの “It's Okay To Cry” に対するオマージュが捧げられていて、深い感謝が綴られてもいる。刺激的なレイヴ・サウンドが炸裂する『brat』の中でちょうど中盤に位置する “So I” は、柔らかなテクスチャとともに「And I know you always said, "It's okay to cry" So I know I can cry, I can cry, so I cry(泣いてもいいんだよっていつも言ってたよね だから泣いてもいいんだ、泣いてもいいんだ、だから泣くんだ)」と歌われる。その後10月に出たリミックス盤『Brat And It's Completely Different But Also Still Brat』ではA・G・クックが前面に出てさらにドラマティックなアレンジが施されており、ソフィーの遺志を継いで未来を向くような想いが伝わり胸が熱くなってしまう。

 そして、ふたつの『brat』のあいだ、9月にリリースされたのがソフィーの遺作『SOPHIE』なのだった。彼女の生前にほとんどできていたという素材をもとにきょうだいのベニー・ロング(Benny Long)がアルバムとして完成させたもので、つまり完全なるソフィーのオリジナルではない。ただ、過去作においてもベニー・ロングはスタジオ・プロデューサーとして制作に携わってきており、本人を最も身近で知る者の手によって形になったアルバムであることは間違いない。

 特徴的なのは、数多くのコラボレーターが参加しているという点。プライベートにおいてもパートナーでありソフィーが事故にあったときも一緒にいたというエヴィタ・マンジや、2020年のパンデミックのさなかにレコーディングしたときが彼女に会った最後だったという〈PC Music〉のハンナ・ダイアモンドをはじめとして、ソフィーと親交があったアーティストで固められている。ゲストがヴォーカルを披露しているケースも多く、じつに多種多様な声が次々と現れては消えていく──このラインナップを見ればいかに彼女がたくさんの人に愛されていたかがわかるし、やはりクィア・コミュニティを象徴する人物として大きすぎる存在だったと再認識せざるを得ない。そういった意味では、『Brat And It's Completely Different But Also Still Brat』に加えて、『SOPHIE』に参加しているアーティストを並べていくだけでとんでもなく充実した相関図を作ることができる。ふたりが、現行の音楽シーンにおいていかにハブ的な存在となっているかということだ。

 ただ、『SOPHIE』はもちろん、全面的な肯定をもって受け入れられているわけではない。前作『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』と比較すると、サウンドのエッジはやや抑制されている印象がある。“Berlin Nightmare” や “Gallop” といった中盤の並びはソフィーであればもう少し変化に富んだテクスチャにしていたのでは、という気がしないでもないし、ミキシングのせいなのか何なのか、凡庸さを感じる曲もある。実際に彼女が最後まで完成させていたら……と何を言ってもifの話でしかないのだが、とはいえ、これはこれでありなのかもしれないとも思う。なぜなら、エッジが削れて丸くなった部分を活かすかのように、柔らかさやあたたかさを感じる曲が多数収録されているからだ。

 テクノ・アーティスト/DJであるニーナ・クラヴィッツが参加する “The Dome’s Protection” あたりの柔らかさはまだ以前のソフィー作品にあっても違和感がないような質感だが、終盤はがらっとムードが変わる。つねに生と死のあわいを漂っていたようなサウンドがソフィーの特徴だったとしたら、生が前提にあるような図太くて楽観的な音が鳴っているのだ。リアーナの “Bitch Better Have My Money” や “Higher” を手がけたビビ・ブレリー(Bibi Bourelly)がパワフルなヴォーカルを聴かせる “Exhilarate” は驚くべきヴァイブスに満ちているし、これまでも多く協働してきたセシル・ビリーヴが参加する “My Forever” では「You'll always be my forever」と歌われ、ソフィーへの愛がある種の素朴さをもって提示される。彼女の周りでともに音楽を作っていた人たちが目一杯の感情を閉じ込めることによって、本作はあのバブルガムでタフな音が、優しくほぐされているような感覚があるのだ。

 ソフィーのファンとしては、やはりキム・ペトラスとBCキングダムが参加する “Reason Why” は何度も何度も聴いてしまうし、本作にぴったりハマっていると思う。ずっとライヴではプレイされていた曲で、ソフィーのディスコグラフィの中でも特に情感豊かな曲だ。YouTubeに上がっているライヴ映像でもいくつか見ることができるが、“Reason Why” はキム・ペトラスがステージ上で共演することも多々あり、そこから名曲 “1,2,3dayz up” へとつながれる。タバコをふかしながら楽しそうにプレイする彼女を見ていると、“Reason Why” はじめ、キムとの曲はだいぶお気に入りだったんだろうという気がする。実際、ソフィーの魅力がたっぷりと凝縮されているナンバーだ。金属的で硬質だけどキュートなサウンドに、人工甘味料たっぷりの甘い声が乗る──繊細なのにダイナミック。つくづく、すばらしい相性だと感心する。

 ソフィーの音楽は未来的かつ機械的で、ポスト・ヒューマンといった形容をされてきた。既存のサウンドを分解し異なる形へと再編集する手法は、ジャンルという既存の枠組の解体であり、脱構築的だと。けれども同時に、彼女の音楽はヒューマニズムに満ちているとも思う。『SOPHIE』を聴くと、そういった人間くさい面が誇張されているし、より彼女のキャラクターを近くに感じられる。だからこそ、『SOPHIE』を経てから前作『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』をもう一度聴くと、この音楽家の実像がますます立ち上がってくる気がするのだ。

 ソフィーは、音楽を通して何をしたかったのだろう? 彼女は、わたしという人間について徹底的に自己探求し続けていいのだ、ということを言っていたのだと思う。どんな手を使ってでもいいから探求し続けよ、と。自らを形作る構成を解体し、あらゆる要素を切り刻み、それでも残ったものがわたしであると。解体し切り刻んでしまったら、それはもう破片だ。脆弱な、あまりに脆弱なそれを、しかし彼女は再び新たな音楽にしてしまった。わたしをもとに、わたしをつくりあげたのだ。果てしない自己探求の果てに、彼女のルーツであるオウテカと、彼女が目指していたメインストリーム・ポップは一本の線で繋がった。声のピッチを大きく変え加工した “Immaterial” から、生声を披露する “It’s Okay To Cry” は円環し、ひとつのストーリーで接続されることとなった。流動的でありながら、ひとつの自分自身であること。ゆえに、非-人間的あることと人間的であることは両立する。それはとんでもない発見だったからこそ、ソフィーが自己探求によって発見した音楽は、2010年代における最大のイノヴェーションとしてメインストリームとアンダーグランドの双方で大きな影響力を波及していった。『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』ののち、奮い立たされた多くのアーティストによって数多の作品が生み出された。本当に、本当にたくさんの作品が。そして今年、『brat』と『SOPHIE』、『Brat And It's Completely Different But Also Still Brat』が “その後” のマイルストンとして提示された。ソフィーにインスパイアされて以降生み出された、すべての音楽を称えるかのごとく。

 偉大なる彼女が亡くなってから、チャーリー・XCXはSNSで「ソフィーはわたしがいまのわたしであることに多大な影響を与えたアーティストであり、親友だった」と発言していた。「泣いてもいいんだよっていつも言ってたよね だから泣いてもいいんだ、泣いてもいいんだ、だから泣くんだ」と歌う “So I” の、肌を優しく撫でるような柔らかさ。自己探求とは、人間にしか成し得ない行為である──少なくとも、いまのところは。言い換えるなら、脆弱な自分と見つめ合えるのは自分しかいないのである。だから、泣いてもいい。結局のところ、ソフィーはそう言っているのだろう。泣きながら、生きるしかないのだと。

Famous - ele-king

 フェイマスはアルバムを出す以前からずっと有名だった。デスクラッシュのティエナン・バンクスや、ヨルゴス・ランティモスの映画『哀れなるものたち』のスコアでオスカーにノミネートされたジャースキン・フェンドリックスがメンバーとして名を連ねていたバンド、ブラック・カントリー・ニュー・ロードの “Track X” の曲のなかで「ジャック、君でも良かったのに」とBC,NRのヴォーカルに冗談めかして誘われているジャック・メレットを擁するバンド、そしてコロナのロックダウン直前にノースロンドンのビルの屋上で信じられないくらい素晴らしいルーフトップ・ライヴをおこなったバンドとして。
 そこで最後に演奏された新曲のタイトルは “The Beatles” と名付けられていた。ふざけた名前のバンドのふざけた名前の曲、しかしその曲はまっすぐにこちらに向かい、体の内にあるものを震わせ、屋上から遠くに見えるビルの群れと同じように哀しみと愛を漂わせていた。サンプラーとベース、ドラムとヴォーカル、ちょっと変わった編成でどこか欠けたものがあるということを匂わせる演奏は強制的な離別というシチュエーションと相まって、だからこそ完璧に胸を打ったのだ。いまとなっては懐かしさを感じるようなコロナ禍のミュージシャンたちの画面越しの方策のなかでフェイマスのルーフトップ・ライヴ以上のものはおそらくなかっただろう。日が暮れ夜に向かう街、青春時代の終わり、それでもその先の人生が待っている、街での暮らしを肯定するかのように、あるいは思い出を慈しむかのように、どこかの街のパーティのなかでこの曲がかかるたび、そこに意味が重ねられていく……。

 だがフェイマスは決して順風満帆だったわけではない。一貫してバンドに在籍し続けるメンバーはついにジャック・メレットひとりになり、パンデミック以降、2021年5月に “The Vally” というEPをリリースした後はほとんど沈黙していた。その間にデスクラッシュは素晴らしいアルバムを2枚出し、ジャースキン・フェンドリックスが劇伴を務めた映画が2作公開されて、メレットの名前を唄ったアイザック・ウッドはBC,NRを脱退した。音楽のシーンの季節がひとつ、ふたつと変わるくらい、あまりに長い時間が経った。

 そんななかでの1stアルバムだ。EPから3年、いまも心に残り続けているルーフトップ・ライヴからは4年が過ぎて、ついにリリースされたこのアルバムにはこれまでのフェイマスの歴史の全てが詰め込まれている。エレクトロニクスのけたたましい喧騒に、演劇風のスポークンワードとフックの効いたメロデイが交差するヴォーカル、ギターは肌を引っかくように鳴らされ、ピアノの音が孤独に意味を加えていく。長い時間を経て作られたこのアルバムは音の隙間から立ち上ってくる私的な日記や自伝のようであり、ある種感情が混迷しているとも思える。しかしその混迷にすら意味があると感じられるのだ。例のごとく皮肉をこめて『Party Album』と名付けられた本作が描くのは享楽ではなく、いずれパーティが終わってしまうという空しさだ。いくら楽しくとも、でも結局、最後にはひとりになるのだから……フェイマスはそんな孤独を31分間の逡巡として描き出す。

 シンセサイザーが生み出す希望と期待が入り交じったようなメロディに、それが裏切られ泣き叫ぶかのように声を荒げるメレットのヴォーカルがのる “What Are You Doing The Rest Of Your Life”、“God Hold You” はスクラッチされたサウンドがそのまま夢を失い激しいショックを受けて情緒不安定になった心をなぞる。続く “It Goes On Forever” ではボロボロになりながらもそれでもステージに上がり続ける悲哀が穏やかなアコースティックのサウンドとエレクトロニクスの不穏な低音の上を漂いながら唄われ、“Love Will Find A Way” ではピアノとギターのフィードバック・ノイズをもって直接的に心のゆらぎを表現する。声を荒げ、時おり自嘲気味に笑い、傷つき、ロマンティクな心を捨てきれず夢のなかで苦しんでいるようなジャック・メレットのヴォーカルは、混迷するサウンドに差し込む光のような一本の筋を通しこの音楽を特別にする。ともすれば安っぽくなってしまいそうな暗く悲劇的なロマンティシズムを自嘲と皮肉、ユーモアを込めて語ることで決してそうさせずに、その先のナイーヴな心の吐露へとたどり着かせるのだ。

 ジャック・メレットの声が震える度に、それにあわせて聞いているこちらの胸も震える。まるで映画のなかの登場人物に感情移入するように音楽を聞かせるそのスタイルはBC,NRアイザック・ウッドのスタイルにも似ていて、アルバムを聞いているうちに「ジャック、君でも良かったのに」という彼の言葉が冗談ではなく本気だったのではと思えてくる。ウッドがBC,NRの1stアルバムで「ブラック・カントリー」という言葉になくしてしまった特別なバンドの影を重ねたように、ここでジャック・メレットは「You」という言葉に失ったかつてのバンドの姿とそこに存在した時間を投影する。表面的には離れていってしまった恋を後悔する曲、だがその裏に消えてしまった夢の姿が見え隠れする。「君は夢のようなもの/決して手の届かないもの /そうでなければ記憶の中に鮮明に存在する」 “God Hold You” で繰り返される「another」という叫びにもここにない、他の何かの色がのる。メレットは『The Quietus』のインタヴューでこのアルバムについて人生の大きな変化とバンドにおけるポジションの変化のドキュメントだと語っているが、そのニュアンスはたしかにアルバムのなかに漂っている。

 ジャック・メレットは決してバンドをやめなかった。そこに存在する唯一の人間になっても彼は解散することもソロになることも選ばなかった。
 フォンテインズD.C.が唄うようにロマンスが場所なのだとしたら、きっとバンドはそこに存在するのだろう。自分の外側にいる他の誰か、共有する記憶と時間が結びついた場所。それはフットボールのクラブや、読んでいた雑誌の名前やTV番組のタイトルと同じように形を変え、たとえ別物になったとしても変わらずそこに存在し続ける。メレットは自らの手でその場所を消してしまうことを認めなかった。このアルバムを聞いているとそんなことが頭に浮かぶ。いつの日か終わりを迎えるパーティ、音楽やその他の表現が人の暮らしのなかにある美しいものやそこにある意味を見出すことを求めるならば、フェイマスのこのアルバムはきっとその答えにたどり着くだろう。メレットが言うようにこのアルバムには全てを理解したと感じた次の瞬間に消えてしまうようなひらめきが散りばめられている。完璧ではないかもしれないが、しかしだからこそ混迷のなかに差し込む一筋の光を見つけることができるのだ。とにもかくにもメレットの震える声を聞くたびに、胸が震える。

写楽 & Aru-2 - ele-king

 かたや97年生まれ、数々のMCバトルで名を馳せ、2021年にファースト・アルバム『MIMISOJI』を発表しているラッパーの写楽。かたや93年生まれ、これまでISSUGIやJJJなどの楽曲を手がけ、今年最新作『Anida』を送り出しているビートメイカーのAru-2。両者によるジョイント・アルバムが一昨日リリースされている。写楽による独特のことば選びと心地いいフロウ、Aru-2による生々しくも情感豊かなビート──注目の才能同士による化学反応を楽しみたい。

最新ソロアルバム『Anida』のリリースも記憶に新しいDJ/プロデューサー、Aru-2と2021年発表のファース『MIMISOJI』が話題となったラッパー、写楽によるジョイント・アルバム『Sakurazaka』がついにリリース!

JJJ、C.O.S.A.、Daichi Yamamoto、KID FRESINO、ISSUGI、小袋成彬ら多数のアーティスト作品に参加し、ニューアルバム『Anida』のリリースも記憶に新しいDJ/プロデューサー、Aru-2。「高校生RAP選手権」を筆頭に数々のMCバトルへの出演で界隈で名を馳せながら2021年にリリースしたファースト・アルバム『MIMISOJI』も話題となり、Aru-2『Anida』にはNF Zesshoとともに表題曲へ参加していたラッパー、写楽。この両者による話題のジョイント・アルバム『Sakurazaka』が本日ついにCDとデジタルでリリース!

Aru-2が手掛ける生々しく重厚で情緒あふれるサウンドが織りなすビートの上を、豊かなメロディセンスで歌もまじえて淡々とリリックを紡いでいく写楽のラップは強烈な化学反応を巻き起こしている。アートワークは『Backward Decision for Kid Fresino』などAru-2関連作品を手掛けている鹿児島のデザイナー/アーティスト、Yoshito Ikedaが担当。CDはスペシャルなボーナストラックを収録して見開き紙ジャケット仕様となっており、P-VINE SHOPなど一部店舗では非売品のプロモーション用ステッカーが先着特典として付属。また2025年2月にリリース予定の限定アナログ盤をP-VINE SHOPで予約すると非売品のプロモーション用ポスターが先着特典として付属になります。

<アルバム情報>
アーティスト:写楽 & Aru-2
タイトル:Sakurazaka
レーベル:P-VINE, Inc.
仕様: デジタル | CD | LP
発売日: デジタル、CD / 2024年11月6日(水) LP / 2025年2月19日(水)
品番: CD / PCD-25429 LP / PLP-7503
定価: CD / 2,750円(税抜2,500円) LP / 4,500円(税抜4,091円)
*P-VINE SHOPにてCDが発売&LPの予約受付中!
https://anywherestore.p-vine.jp/collections/aru-2
*Stream/Download:
https://p-vine.lnk.to/EtCu3F

<トラックリスト>
01. No Rush
02. Nice Choice
03. Cut Off
04. Sabaaidheel Freestyle
05. Sannomiya Daydream
06. Summer Blanco
07. Sorrows
08. Thankfully
09. Sakurazaka
10. Good Latency
11. Party Finale
12. Millefeuille (CD Bonus Track)
※LPはM1~6がSIDE A、M7~11がSIDE Bになります

<写楽:プロフィール>
97年生まれ愛知県育ち。ラッパー/ビートメイカー。
高校生ラップ選手権に出演し活躍の後、2021年アルバム「MIMISOJI」を発表。
「独自の歌詞世界」という表現では収まらないオンリーワンな言葉選びや心地良さを追求したフロウで、自然の美や自己の内面世界を描いた楽曲は、ヒップホップヘッズに留まらず幅広いファンを魅了する。

<Aru-2:プロフィール>
1993年生まれ、埼玉県川口市出身の音楽プロデューサー/ビートメイカー/DJ。
これまでソロアルバムやコラボ作品を愛と縁のあるレーベルから次々と発表、最新アルバム”Anida”を2024年リリース。
ISSUGI、JJJ、DAICHI YAMAMOTO、小袋成彬、C.O.S.A、KID FRESINO、NF ZESSHOなど数多くの国内アーティスト達への楽曲プロデュースに携わる。
近年では小村昌士監督作映画「POP!」の劇伴音楽も手掛け、サウンドエンジニアとしても様々なアーティスト作品を支える音楽ミュータント。

Dialect - ele-king

 はたしてアンビエントの分野にはまだ冒険の余地が残されているだろうか。パンデミックを機にあまりにもリリース量が増え、独創的とはいいがたい音源と遭遇する頻度も増した今日。あるいはストリーミング全盛の時代にあって、それは作業BGMや商業施設の環境音楽と区別がつきにくくなっている。
 たんに無視できるだけではなくて、集中もできること。忘れられがちだが、それこそがアンビエントの出発点だった。深い聴取に耐えうるためには、都度そこになにかしら新しい発見がなければならない。アンビエントがその条件を満たし、以後発展をつづけることができたのは、そもそもそれがテープ・ループの実験として誕生したからではないだろうか。切ったり貼ったりするわけだから、テープ編集それ自体がサウンド・コラージュである。つまり、アンビエントはマイルス・デイヴィスとテオ・マセロ、あるいはカンとホルガー・シューカイの文脈につらなる、編集の音楽でもあるのだ。

 リヴァプールのアンドリュー・PM・ハントは、現代においてサウンド・コラージュとしてのアンビエントを拡張しようと奮闘する挑戦者のひとりだ。サイケデリックなポップ・バンドのアウトフィット、ミニマリズムを探求するインストゥルメンタル・アンサンブルのエクス・イースター・アイランド・ヘッド、その主要メンバーと組んだランド・トランスなど多くのグループに参加する彼は、ダイアレクト名義のソロ・プロジェクトでさまざまな具体音や生楽器、電子音を切り貼りし、独自の夢想的なサウンドを紡いでいる。すでに4枚のアルバムが送り出されているが、彼の名をもっとも広めることになったのは、室内楽の要素も導入した前作『Under ~ Between』(2021年)だろう。
 通算5枚目のアルバム『Atlas Of Green』も創意工夫に満ちている。再生ボタンを押すとリラックスしたギターの演奏に導かれ、素っ頓狂な笛らしき音が乱入してくる。どことなく中世的なものを想起させるこの笛の音は全体のイメージを決定づけていて、次第に加算されていく弦やら鍵盤やら電子音、謎めいた人声、鳥の鳴き声なんかのなかでも際立った存在感を放っている。あるいは “Late Fragment” で主役を張る弦楽器。これまた古楽的な響きを携えているし、古びた電子機器のような音の反復が耳に残る8曲目のトラックは “Archaic Quarter Form” なんて題されている。インタヴューによれば、「グリーン」なる名前の主人公が過去の壊れた断片に遭遇しながら未来世界を案内する、というのが本作のアイディアのようだ
 コンセプトの面でこのアルバムは、三人の人物からインスパイアされている。ひとりはアメリカの作家ジーン・ウルフ。冒頭 “New Sun” の曲名はおそらく、寒冷化した未来の地球が舞台となる小説『新しい太陽の書』からとられたものだろう。もうひとりもアメリカの小説家で、『ゲド戦記』で有名なアーシュラ・K・ル=グウィン。彼女は「わたしたちは資本主義のなかに生きていて、その力から逃れられないように見えます。でも、かつて王権神授説もそうでした」なんて鋭い寸言を残していることでも知られている。三人目はフェデリコ・カンパーニャなるイタリアの哲学者。検索してみると、「想像の深みを掘り下げて、現在の技術主義と国家資本主義の神話にたいしてオルタナティヴな現実を創造することができるような、新しい構造を探す必要があります」なんて発言が見つかる。ようするに、三人ともそれぞれのやり方で、未来についてあれこれ考えている、と。

 振り返れば、ドレクシアのアフロフューチャリズムには奴隷船という過去と海底で高度に発達した文明という未来が同居していたのだった。アンドリュー・ハントは白人ではあるものの、彼もまた近代以前の古き民衆的なものを呼び起こしながら他方で未来を想像するという、大胆な冒険を試みているわけだ。深く惹きこまれる音のコラージュによりアンビエントの可能性を広げる本作は、他方で「失われた未来」のような考え方からの脱却をはかってもいる、と。
 ここ数日、米大統領選の速報に翻弄されながらも不思議と平常心を保っていられたのは、このアルバムが表現する「ポスト未来」のサウンドに接していたからかもしれない。

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