ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. フォーク・ミュージック──ボブ・ディラン、七つの歌でたどるバイオグラフィー
  2. Pulp - More | パルプ
  3. Cosey Fanni Tutti - 2t2 | コージー・ファニ・トゥッティ
  4. Derrick May ——デリック・メイが急遽来日
  5. Theo Parrish ──セオ・パリッシュ、9月に東京公演が決定
  6. サンキュー またおれでいられることに──スライ・ストーン自叙伝
  7. Adrian Sherwood ──エイドリアン・シャーウッド13年ぶりのアルバムがリリース、11月にはDUB SESSIONSの開催も決定、マッド・プロフェッサーとデニス・ボーヴェルが来日
  8. Little Simz - Lotus | リトル・シムズ
  9. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  10. 〈BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025〉 ——ノイズとレイヴ・カルチャーとの融合、韓国からHeejin Jangも参加の注目イベント
  11. Terri Lyne Carrington And Christie Dashiell - We Insist 2025! | テリ・リン・キャリントン
  12. interview with Rafael Toral いま、美しさを取り戻すとき | ラファエル・トラル、来日直前インタヴュー
  13. Swans - Birthing | スワンズ
  14. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  15. Columns 高橋幸宏 音楽の歴史
  16. Columns 高橋康浩著『忌野清志郎さん』発刊に寄せて
  17. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第3回 数字の世界、魔術の実践
  18. GoGo Penguin - Necessary Fictions | ゴーゴー・ペンギン
  19. 忌野清志郎さん
  20. Columns 6月のジャズ Jazz in June 2025

Home >  Reviews >  Album Reviews > Dialect - Under~Between

Dialect

AmbientExperimental

Dialect

Under~Between

Rvng Intl.

野田努   Apr 08,2021 UP

 リヴァプールの音楽家、アンドリュー・PM・ハントのダイアレクト名義としては4枚目のアルバムは、一見牧歌的だがどこか奇妙な抽象絵画を見ているようだ。水の音、金属の音、ピアノ、声、フルート、フリーケンシー、弦……、それらが音のカレイドスコープのように変化しながら、バラバラになっていた音たちが整理され、じょじょに曲としての体を成していく。その表題曲“Under~Between”の展開はみごとで、まるで魔法のような音楽だ。
 アルバム全体に、このようなずば抜けた曲ばかりが続くわけではないが、ダイアレクトのこの作品には澄んだトーンがランダムに鳴っているかと思えば曲となり、ふたたび崩れては形を成すかのような、予測のつかない展開のユニークなアプローチが随所にあってなかなか面白い。お決まりの反復もなければ、「これ、聴けや」といった強制もない。サウンド・コラージュであり、アンビエント・スタイルのフリー・インプロヴィゼーションとも言えるが、とにかく曲がその1分後には姿を変えているというか、つかみどころがないのだ。
 15人ほどのアーティストやミュージシャンが暮らす街のコミュニティ──20部屋あるという建物に住んでいる──の面々によってそれは演奏されているという。ゆえに本作にはじつにいろいろな楽器の音──ピアノ、サックス、ハーブ、クラリネット、木琴、笛、などなど──がその他いろいろな音といっしょに入っている。ちなみのその拠点からはほかにいろんな作品が発表されているので、気になる方は探してみましょう。

 ネットで拾い読みした言葉を見ると、「自然とテクノロジー、神話と魔法のあいだの絶え間ない対話による何かを作りたかった」とハントは言っている。それは人間の知性とコントロールの外側の領域を描くという試みだという。デジタルに生成された音とアコースティックな生楽器との共振はさして珍しいものではないが、しかしヴェイパーウェイヴのすぐその横にフォークソングがあるように、今日の我々の生活にはそのせめぎ合いがさまざまな場面である。ハントはそれを平穏さのなかに着地させようとしている。完成まで2年かかったという力作。コロナ禍において、いまだ強制的な隔離政策が続行中のイギリスとすでにゆるゆるの日本とでは、このアルバムのとらえ方が違うかもしれないが、家にいるときの時間を豊にしてくれることはたしか。控え目な幸せが見つかるかも。アンビエント・ミュージック・リスナーはぜひチェックして欲しい。

 なお、このリリースからの収益の一部は、亡命希望者と難民コミュニティのすべての女性のために英国で活動している慈善団体、Refugee Women Connectに寄付される。

野田努