「!K7」と一致するもの

interview with Mourn - ele-king


MOURN

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 この感覚、かつて体験したことがある、と過去の記憶をめぐらしてみて、あ、と思い出した。「僕はペイヴメントとかピクシーズが好きなだけ。ペイヴメントの歌詞をちゃんと理解できたらどんなにハッピーなんだろう! そんな気持ちで曲を作ってバンドで歌って……気がついたらいまここにいる。ほんとにそれだけなんだ」。1995年、最初のアルバム『グランポー・ウッド』を発表したベン・リーに最初に取材をしたときのことだ。彼は当時17歳、どんなにやんちゃな青年なんだろう、と想像して訊ねてみると、好きなバンドの影響を受けて、好きなように自分もギターを手にしてみただけなんだ、というあっけらかんとした回答。そのときの、肩すかしを食らいつつもどこか晴れ晴れとした感覚を、いま、このスペインの若き4人組を聴きながら思い出している。

 いや、もしかするとベン・リー以上に冷めているかもしれない。まだ全員10代というスペインはバルセロナを拠点にするモーン。結成からわずか2年でワールド・ワイド・デビュー、さらにはピッチフォークなどのメディアで高い評価を得るにいたった彼らにはたちまちのうちに注目が集まることとなった。パンクやオルタナティヴ・ロックに触発されたというそのスタイルだけ取り出せばたしかに稚拙ではある。成熟という言葉からはほど遠く、演奏を動画などで見るかぎりはあどけない様子も伝わってはくる。だが、どこまでむき出しにするのかと不安にさえなる荒削りな演奏、感情を闇雲に発露させる場所というより、感情を淡々と刻みつける場所といった感じで、不気味なまでに薄暗い表情を時折見せるヴォーカル、どこか冴えない生活や風景をひたすらに言葉に置き換えたような歌詞……これが果たして10代の姿か、と思えるほどに醒めた表情をうかがわせるのも事実。「ペイヴメントの歌詞を理解できるアイツはカッコいいな」と無邪気かつアイロニカルに歌っていたあの頃のベン・リーを部分的に思い出させるが、モーンは根底にもっと切実な何かを抱えている印象さえあるのだ。

 とはいえ、今回メールで取材をした際の下記回答を読んでもらえばわかるように、ほとんど難しいことを語らない、語りたがらない。その素っ気ない対応はモラトリアムとも思えるもので、この自我を包み隠したような態度がその成長と同時にどう崩壊し、再構築されていくのかを静かに見守っていたい、と、彼らの親世代である筆者は思うのだった。

■Mourn / モーン
バルセロナを拠点として活動する4人組バンド。〈キャプチャード・トラックス〉とサインし、2015年にファースト・アルバム『モーン』をリリース。デビュー前からメディアの高い評価を受けるなど注目を集めている。

ソニック・ユース、スーパーチャンク、アーチャーズ・オブ・ローフ、サニー・デイ・リアル・エステイト、カーシヴとかみたいな90年代のアメリカのバンドに浸かってたわね。

あなたがたはまだ15~18歳とのことですが、幼馴染みや学校の仲間同士なのでしょうか? いつ、どのようないきさつでバンドが結成されたのか教えてください。

カーラとジャズ(以下C&J):カーラとジャズは3年前から同じ学校で人文科学を学んでいたの。レイアとジャズは姉妹だからいっしょに育ってきたし、アントニオとジャズは11歳のときからの友だちなのよ。

あなたがたのホームタウンのバルセロナでは、あなたがたと同じ世代の友だちはどういう音楽をおもに聴いているのですか? スペインのドメスティックな音楽シーンはどういう状況なのでしょう?

C&J:うーん、地元のガレージ・ロックをたくさん聴いたけど、他にも商業的なものとか カタラン・ルンバ(catalan rumba)とかも聴いた……けどやっぱり、わたしたちはソニック・ユース、スーパーチャンク、アーチャーズ・オブ・ローフ、サニー・デイ・リアル・エステイト、カーシヴとかみたいな90年代のアメリカのバンドに浸かってたわね。他にもイギリス、スウェーデン、ベルギー、オランダのバンドも大好き。いまはインターネットがあるから、世界のどこにいてもそういう他国のバンドのレコードやニュースを簡単に見つけることができるでしょ。もちろん、スペインのミュージック・シーンもおもしろい。とくにバルセロナにはたくさんのクールなバンドがいるのよ。なかでもアニミック(Anímic)とBeach Beach(ビーチ・ビーチ)が好きだな。

わたしがある程度知っているかぎり、スペインには80年代頃から独自のインディ・シーン、インディ・レーベルがあり、日本でも古くは〈エレファント〉や〈マンスター(Munster)〉などがインディ・ロック・ファンの間で人気でした。最近では、〈マッシュルーム・ピロー(Mushroom Pillow)〉というレーベルや、デロレアン(Delorean)、ポロック(Polock)、エル・コルンピオ・アセシノ(El Columpio Asesino)、チャイニーズ・クリスマス・カーズ(Chinese Christmas Cards)などのバンドを個人的にはチェックしています。あなたがたはこうした他のスペインのインディ・ミュージック・シーンの中でどういうポジションにいるのでしょうか?

C&J:私たちは自分たちがバルセロナのインディ・ロック・シーンにいると思っているわ。私たち、町の小さなパブや会場で演奏をはじめたからね。マデイ(Madee)、オハイオス(Ohios)、レッド・ベアズ(Red Bears)、ザ・サワーズ(The Saurs)、ダ・サウザ(Da Souza)などとも共演したのよ。

私たちは自分たちがバルセロナのインディ・ロック・シーンにいると思っているわ。

スペインには「インディ・ミュージック・アウォード」という賞があるようですが、あなたがたの世代にとってもこうしたアウォードは一つの通過点、目標だったりするのですか? もしくは、もっと現場でホットなヴェニューやギグ、イヴェントやフェスなどがあれば教えてください。

C&J:賞は私たちにとってゴールではないわね。ただ曲を書いて演奏しているときに楽しみたいだけなの。ただ、〈アポロ(Apolo)〉という私たちのお気に入りの会場で演奏するのが本当に好きで、そこで演奏するときは気楽でいられるわ。前回そこで演奏したとき、本当にすばらしく魔法のようで、次にまたあそこで演奏するのが待ちきれないの。あと、〈プリマヴェラ・サウンド(Primavera Sound)〉っていう私たちが 好きなフェスの一つで演奏したときも興奮したわ。バルセロナには他にも〈ソナー〉っていうかっこいいフェスがあるんだけど、こっちはエレクトロ・ミュージック寄りね。

では、具体的にはどういうバンド、音楽にシンパシーを感じて楽器を手にしたりバンドを組もうと思ったのでしょうか? 

C&J:初めてわたしたちをギターを手に取って音楽を作るように駆り立てたのは、パンク・バンド。ラモーンズ、クラッシュ、セックス・ピストルズ……みたいな。私たちは本当にパンク・ミュージックが好きなの。わたしたちがいっしょに演奏をはじめたときは、PJハーヴェイ、ローリング・ストーンズ、ラナウェイズ、クラッシュ、エリオット・スミスなどのカバーをいくつかやっていたわね。でも、最終的に彼らのどういうところにインスパイアされたかっていうと、音と詩の力強さ、彼らが生きていた瞬間、彼らの働き方についての好奇心、彼らのいろいろな考え方、メッセージや彼らの感じ方、わたしたちができる見方、記憶に深く残って、素晴らしい! と思わせるいくつかのコード……それこそさまざまなの。それらのすべてがわたしたちを突き動かし、毎日楽器を弾かせつづけているんだと思うわ。

初めてわたしたちをギターを手に取って音楽を作るように駆り立てたのは、パンク・バンド。ラモーンズ、クラッシュ、セックス・ピストルズ……

あなたがたが実際にオリジナルの曲を作りはじめたとき、お手本にしたソングライターはいましたか? そして、いまのあなた方が最高と思えるソングライター、コンポーザーは誰ですか?

C&J:そうね、わたしたちはエリオット・スミスのようなリリックや、そしてパティ・スミスのパンク調のポエトリーが本当に大好きなのよ。後は、デヴィッド・ベイザン(ペドロ・ザ・ライオン)やマーク・コズレク(サン・キル・ムーン)なんかも本当にクールなリリックで大好きよ。私たちは物語を作るのが好きで、言葉で生活に対しての感じ方、不安感、いらだたせるものや話したいものについて表現しているの。もちろん、好きな映画や本、写真など影響されたものはなんでも曲にしたいけど、生活の中から感じることを歌にすることが好きなのよ。

それは、あなたがたの場合、スペインという国、バルセロナという町に暮らす一員としての社会への意識が活動のバネになっているということでしょうか?

C&J:そう。わたしたちはスペインのいまの状況に憤りを感じているわ。でも、政府に代わって主張しているつもりはないし、曲を書き演奏しているときはそういったことは避けているの。ただ、それが好きだからそうしているし、少なくともいままではそれが衝動的だったのは間違いないところ。私たちの必要性が評価されているとして、それがすべて社会に対してのそういう憤りの反映ではないとは思うけど、やっぱり社会に対して何かを感じてしまうのよ。おそらく、いつかわたしたちは音楽とこういう考え方、社会への見方を関わらせていくつもりよ。いままでは私たちはライヴではそういうことをとりあえずいっさい忘れて、演奏を楽しみたかったけど、いつかはちゃんとカタチにしたいわね。

僕たちは偽ることなしに誰よりもいいと思っているし、自分たちの音楽が好き、世界には好きなバンドも多くいるから演奏しているってだけなんだ。

あなたがたが〈キャプチャード・トラックス〉と契約することになったきっかけをおしえてください。マック・デマルコなど新たな世代のヒーローへのシンパシーもきっかけになりましたか?

C&J:きっかけはブランク・ドッグスのマイク・スナイパー(レーベル・オーナー)がニュースレターで私たちのスタジオでの映像を見てくれてね。興味を持ってくれてたらしいの。で、アルバムが出たときにわたしたちのスパニッシュ・レーベルである〈ソーンズ(sones)〉が連絡してくれたのよ。何が起こるかわからないわ。もし、彼が映像を見てくれてなかったらいまこうやって話せてないわね(笑)。

そのマック・デマルコには1月に日本に来たときに取材したのですが、そのときに彼はこのように話していました。「チープでロウ・ファイなサウンドにしているのには狙いがある。ウェルメイドな音作りに飽き飽きしてしまったのと、どこか“Weird”な音を出すことそのものが刺激的だから」。では、あなたがたの場合、たった2日間でアルバムを録音してしまうというようなその姿勢に、何か確信犯的な意識はありますか?

C&J:なるほどね。そうね、わたしたちの場合は多くの資金を持っていなかったからっていうのがまず一つめの理由。それとライヴを録音したかったからというのもあるわ。おかげでより楽しく、本当に新鮮で信頼のできるものができた。それはわたしたちのオリジナルなやり方であって、そこにいっさいの策略はないの。たしかにレコーディングはたった2日間だったんだけど充実していたし過不足もなくて。録音はバルセロナと私たちの町に近いアレニス・デ・マルという町の〈ノーチラス(Nautilus)〉というスタジオでしたわ。そこはとても美しくてたくさんのカーペットがあって、本当に高い天井の部屋で。ジャズの父親のバンドのドラマーでもある ルイース・コッツ(Lluís Cots)にプロデュースしてもらって、わたしたちはとても快適な雰囲気の中、作業をしたの。安心していられたわ。

ピッチフォークでも高い評価を得て、世界規模であなたがたのエネルギーが注目されるようになりましたが、そうした状況の変化についてどう受け止めていますか?

C&J:いやあ、そんな実感もまだわからないし、野望とかを抱くような感情もまだ持っていないんだよ。高い評価をもらってどうですか? って訊ねられることもあるけど……本当にまだ何もわからないんだ。そういうことを考えて活動しているわけじゃないからなあ。ただ、僕たちは偽ることなしに誰よりもいいと思っているし、自分たちの音楽が好き、世界には好きなバンドも多くいるから演奏しているってだけなんだ。

Björk - ele-king

 つねに家庭崩壊の危機に瀕している先行き不安な人間が言うのもなんだが、これから先、日本でも離婚はどんどん増えていくだろう。一般論を振りかざして申し訳ないが、女性の社会進出が加速し、経済的にもどんどん自立して、家庭内における役割も相対化されていったとき、夫婦が何十年も一緒にいることの意味はさらにもっと厳しく問い詰められていくだろう。とくに慣習にあぐらをかいている多くの男性諸君は、ある時期が来たら必ずビビることになるので用心したほうがいい。人生における経験とは、ラヴソングのようにはいかないことを学ぶことなのだ……なーんて、ビョークのレヴューに相応しくない枕詞だな。
 そもそも『ヴァルニキュラ』は、かれこれ数ヶ月前(配信は1月? CDが4月?)にリリースされた作品。かくいう僕は5月に入ってアナログ盤で買ったぞ。熱心なファン(僕もそのひとりなんだけど)の方々はとっくに聴いている。そのなかには、満足した人も満足できなかった人もいるだろう。以下の文章は、それほど満足できなかった人間の与太話として聞き流してもらえたら幸いである。

 アルカ、そしてハクサン・クロークといった人たちの起用は、チルウェイヴ全盛期にウィッチな感性を打ち出した〈トライアングル〉系が脚光を浴びたのが2011年あたりだから、かつて流行に敏感だったビョークにしては、ずいぶん遅れた反応だ。
 別に早ければいいってものでもない。ウィッチ・ハウスとモダン・クラシカルの溝を埋めたのが、ジュリア・ホルターであり、ジュリアナ・バーウィックであり、さらにまたこの4年のあいだにローレル・ヘイローインガ・コープランドをはじめ、グライムスとかサファイア・スローズとか、宅録女子──性で音楽を括る愚行をお許しいただきたい──がシーンに与えてきたエネルギーを振り返ってみても、さすがビョーク、脇目もふらない力業の1枚だと思う。
 しかも、その貫禄ゆえかアルカとハクサン・クロークも自分たちの良さを出すというよりはビョークに合わせた感が強い。ビョークの熱い歌いっぷり、それをなかば演劇的に強調するトラック。夫婦仲の破局を描いた濃厚なメロドラマは、ストリングス系の調べの優麗な響きを重ねながらスピリチュアルに展開する。キャッチーな曲もなければ、離婚後の財産分与の心配などもない。僕自身もポップスターの恋の破局に同情を寄せるほど余裕があるわけではない。

 なにか別の視点があれば……マーク・ベルの不在を思う。ビョークのベストソングのひとつ“ヨーガ”においても、ベルの無機質なエレクトロニクス/ノイズが果たしている役割は大きかった。さもなければ、これまたビョークのベストソングのひとつ“オール・イズ・フル・オブ・ラヴ”におけるファンクストラングのプログラミングを思い出して欲しい。つまり、今回のような個人的で、重たい主題であればなおさらアントールドのような、感情移入はせずに、音の鳴りだけにしか関心のない人を起用するべきだったというのが僕の意見である。

 ローレル・ヘイローやインガ・コープランドなんかを聴いて、男のリアリズムを過信しているととんでもないことになるぞと思うのと違って、なんだかんだ言ってビョークは古風な人なんだと思う。僕も自分を古風だと思っている。そして、なにが正解なのか僕にはいまだにわからない。夫婦の破局/家庭崩壊──しかしこれらとて人生の新たな門出/家庭再構築と前向きに捉えることだってできる。が、理屈だけでは解決できないのところにファミリーというものの難しさがある。
 こと男女関係について言えば、僕に有益な情報を分け与えてくれるのは長年クラブ・カルチャーに関わっている人たちである。高次な精神性とは遠いかもしれないが、しかしときとして高僧並みに人間をよく見ているヤツだっている。男のリアリズムなんて嘲笑の対象。生身の男と女なんてある意味アブノーマルで、ネットで情報を拾っているだけでは、ぜんぜん真実には近づけないから。やはり早いうちにいろいろ学んでおくのが、悲劇/人生の新たな門出を避けるもっとも有益な方法だと思う。でも、それができたら苦労しないよな。

CLUB JAZZ definitive 1984-2015 - ele-king


小川充
CLUB JAZZ definitive 1984-2015

(ele-king books)
定価:2600円(+税)
※5月29日発売

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 ele-kingがお送りする好評ディスク・ガイド“definitive”シリーズ第4 弾は、『クラブ・ジャズ・ディフィニティヴ 1984-2015』。著者はこのジャンルの第一人者、小川充です。

 そもそもクラブ・ジャズとは何でしょう。実はこのターム、ネオアコと同様に日本でのみ通用する和製英語なのです。
 DJカルチャー以降のレア・グルーヴ、アシッド・ジャズ、トリップ・ホップ、アブストラクト、ニュー・ジャズ/フューチャー・ジャズ……をひと括りにクラブ・ジャズとするばかりでなく、ニューウェイヴ、ヒップホップ、R&B、ハウス、テクノ、ドラムンベース、IDM、ダブステップなどなど、クラブのスタイルにジャズ/ソウルが注がれたときにもこのタームは使われています。多かれ少なかれ、ブラック・ミュージック/ラテン・ミュージック/アフロ・ミュージックの要素が混ざっています。実に感覚的なタームですが、基本的にはレア・グルーヴ/アシッド・ジャズの流れから来ています。

 ナイトクラブでジャズで踊ることが若者文化として大衆化されたのは、UKが最初でした。ポップの土壌において、その重要なきっかけとなったのがスタイル・カウンシルとワーキング・ウィークであり、EBTGやシャーデーです。ここにレア・グルーヴが流れ込み、やがてセカンド・サマー・オブ・ラヴが絡んで来ます。それがアシッド・ジャズへと展開します。レア・グルーヴとはかんたんに言えばファンクですが、アシッド・ジャズとはクラブ・ミュージックの折衷主義のUKソウル的な表出でした。そこにはヒップホップ/ハウス/レア・グルーヴが混ざっています。
 アシッド・ジャズは、アシッド・ハウスとは別の、クラブ・ミュージックにとってもうひとつの重要な水脈を用意しました。日本ではテクノがすごかったとよく言われていますが、実はそのテクノと双璧をなすほど……いや、少なくとも1991年~1992年の時点ではテクノ以上に猛威となっていたのがアシッド・ジャズのシーンです。商業的にも成功していました。だから日本には国際舞台で評価されているアシッド・ジャズの作品が数多くあります。リキッドルームの大晦日を担当していたのは、石野卓球たちの前はUFOだったことを忘れないで下さい。

 『クラブ・ジャズ・ディフィニティヴ』を見れば、クラブ・ジャズ30年の歴史(縦軸)と一緒に、そのエクレクティックなさまの、横の広がりもよくわかると思います。90年代初頭の渋谷系にもヒントを与えたモッズ系ニューウェイヴ、温かくソウルフルなクラブ・サウンド、黒くファンキーなハウス・ミュージック、スタイリッシュで洒落たダンス、あるいはテクノにせよダブステップにせよ、そのスタイルが成熟していったときの成果の数々がクラブ・ジャズと括られました。
 増ページで1000枚以上を紹介する、小川充、入魂の一冊です。渋谷宇田川町のDMRのジャズのコーナーに足繁く通っていた人はもちろんのこと、近年のマーラの活動、あるいはフライング・ロータスやロバート・グラスパーあたりに興味を持っている人はぜひ手にとってください。(もちろん、初回は電子書籍アクセスキー付きです)

interview with OMSB - ele-king

 世界中を見回したうえで、なお天才と呼ぶにふさわしい(本気でそう思う!)OMSBが、セカンド・アルバム『Think Good』をドロップした。音楽ファンの期待と予想を軽々と超える、余裕の傑作だ! サウンドの鳴りかた、リズムの作りかた、ラップの乗せかた――どこを取っても、随所に「こんなの聴いたことない!」という驚きをもたらしてくれる。オリジナリティなど幻想? もはや新しいものなどない? OMSBを聴いてからもう一度考えて欲しい、マジで。フレッシュネスとユニークネスが詰まった本作には、未知の喜びが詰まっている。そして同時に、堂々たるヒップホップのたたずまいでもある。OMSB自身が口にした「なににも劣っていない」という言葉は、大げさではない。ナチュラルに「なににも劣っていない」。『Think Good』を中心に、天才・OMSBの、現時点でのスタンスや音楽に対する考えを聞かせてもらった。

■OMSB / オムスビーツ
日本のヒップホップの新世代としてシーンを牽引するSIMI LABのメンバー、Mr. "All Bad" Jordan a.k.a. OMSB。SIMI LABにおいてはMC/Producerとして活動。2012年にソロ・アーティストとしてのファースト・アルバム『Mr. "All Bad" Jordan』を発表。2014年には、自身も所属するグループSIMI LABとしてのセカンド・アルバム『Page 2 : Mind Over Matter』をリリース。多数のフリー・ダウンロード企画のほか、2014年には〈BLACKSMOKER〉よりインスト作品集『OMBS』も発表。その他、KOHH、ZORN、Campanella,、PRIMAL等、様々なアーティストへの楽曲提供・客演参加を果たしている。

ケンドリック・ラマ―はまだ聴けていないのですが、ぜんぜん負けているとは思っていないですね。


OMSB
Think Good

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新作『Think Good』は、かなりの傑作だと思いました。前作『Mr. “All Bad” Jordan』があって、SIMI LABのセカンド・アルバムも出て、『OMBS』というビート・アルバムも出て、そして、今作になるわけですが、なにか特別に意識したことはありますか。

OMSB:いつも通り、ヤバいのを更新したいという感じですね。全包囲的にヤバいのを。ただ、いまの段階だと、自分の内面についてのことが多かったかなと思います。

リリックとかビートとかは、作り置きが多かったんですか。

OMSB:ビートは普段から作っていて、その中で自分用と決めたものをストックしているんです。それで、そこからリリックを書いていって、曲になるやつとならないやつを決めていく感じです。

最近は、菊地凛子さんや入江陽さんの作品での客演など、他ジャンルとの関わりも印象的でした。そういう経験が作品にフィードバックするようなことはありましたか。

OMSB:少なからずありますけど、直接的ではないと思います。洋邦問わず、「やられた!」と思ったものに、刺激をもらっているということのほうが大きいです。菊地凛子さんや入江さんにも「やられた!」という感じがあって、そういうものからどんどん盗むというか、越えようとする。そういう意識のほうが強いです。

最近、「やられた!」というものはなにかありましたか? ケンドリック・ラマ―(Kendric Lamar)の新作など話題ですが、聴かれましたか?

OMSB:じつはまだ聴いていないんですよ。

ケンドリック・ラマ―の新作を聴いて「すごい傑作だ!」と思ったのですが、そのあとOMSBさんの新作を聴いたら、「余裕で匹敵しているよ!」と思って、うれしくなりました。

OMSB:まだ聴けていないのですが、ぜんぜん負けているとは思っていないですね。

その態度には、本当に説得力があります。ナチュラルに勝負していますよね。


ファーストで届きづらかったものがたくさんあると思うので、それを届けるのはどうしたらいいかと考えました。自分のことを歌っていても人に届く余地があるんじゃないか、とか。

今作を聴いたとき、すごく王道のヒップホップっぽいという気がしました。いままではジャンルの外へ外へ行く意識みたいなものを感じ取っていたのですが、今回は、ビートやリリックやスタンスなど、もう少しヒップホップのマナーみたいなものを意識されていたように思いました。

OMSB:ファーストも「外へ」というよりは、単純に好きなヒップホップがそれだった、という感じですよ。好きなヒップホップの感じを自分でトレースしていました。ただ今作に関しては、音の鳴りかたとかトラックの中での振る舞いとか、あと自分の内側について語っていたりもするので、ヒップホップらしさ――これは説明できないですけど――を感じる部分はたくさんあると思いますね。

“Think Good”とかもポジティヴですよね。ヒップホップ的なポジティヴさ、というか。SIMILABのアルバムには“Roots”という曲があって、メンバーがそれぞれ自分のルーツについてラップしています。“Think Good”も、その続編として聴いていたところがあります。そうやって自分の内側を語ろうというモードになっていることについては、理由はあるんですか。

OMSB:ファーストで届きづらかったものがたくさんあると思うので、それを届けるのはどうしたらいいかと考えました。自分のことを歌っていても人に届く余地があるんじゃないか、とか。ファーストは喚き散らしていたように受け取られていたようです、俺はそんなつもりはなかったんですけど(笑)。

ファーストは鮮烈だったし、たしかにそういう印象があったかもしれませんね(笑)。

OMSB:べつに隠居しているわけではないし、そのくらいガツンと行っていいと思うんですけどね。ファーストからすでに達観しているのも気持ち悪いと思うし。ファーストはそういう意味で、若気のいたりみたいですごい好きです。

もともとウータンに衝撃を受けたという話は、よくされていますよね。ファーストとかSIMI LABのトラックなどを聴いていると、僕なんかはRZAやカンパニー・フロウを思い出します。今回は、曲中にEL-Pの名前が出てきますよね。90年代のサンプリング主体のヒップホップと2000年代前後のビートがもっと変態的になっていくヒップホップと、同時に摂取していたんですか。

OMSB:周期がある感じですね。90'sなら90'sだけを聴く時期、サウスならサウスだけを聴く時期、ウエッサイならウエッサイを聴く時期……という周期がずっとあります。季節とかも関係なく、レゲエとかダブとか、ひとつ聴くとそれをずっと聴いています。それこそ、椎名林檎だったら椎名林檎だとか。そのサイクルがずっとあって、その中に新しいものが入ってきたりします。

なるほど。僕なんかからすると、「なんでこんなサウンドが出きちゃうんだ!?」って思ったりします。どういうサウンドに影響を受けて、どういうサウンドを目指すと、こういう音になるんだろう、と。

OMSB:ビートを作るさいは、たとえばRZAとかEL-Pのトラックを真似ようというよりも、イズムみたいな部分を意識していますね。どうしてこの人たちがヤバいと言われるのかを考える、というか。あの人たちのヤバさは、変なところでループさせるとか奇怪なドラムだとか、そういうところだけではないと思うので、それを自分なりにやります。その人たちを頼りにしているんではなくて、自分の中で鳴らしたい音を、レコード聴いて刺激をもらいながら想像する感じです。


たとえばRZAとかEL-Pのトラックを真似ようというよりも、イズムみたいな部分を意識していますね。どうしてこの人たちがヤバいと言われるのかを考える、というか。

そういえば、“Ride Or Die”のサビで“Tom's Diner”のメロディが歌われていますよね。これも、すごく意表を突かれました。

OMSB:あれは、頭の中で鳴っていたから、「じゃあ、リリック付けよう」というノリですね(笑)。合いそうだったので。

そういう遊び心を感じて楽しかったです。ファンキーなネタも多かったですが、レア・グルーヴなどは好きなんですか。

OMSB:好きというか、好きなネタを探しているときにレア・グルーヴが多い、という感じですね。

今作はけっこうサンプリングが多めですよね。

OMSB:サンプリングばっかりですね。

具体的に、ネタとして抜きやすいミュージシャンとかはいるんですか。

OMSB:けっこう無理矢理抜くことが多いので、いちがいになにがいいとかは言えないですね。ラテンが入っているのが好きなので、〈フライング・ダッチマン(flying dutchman)〉レーベルとかは好きです。あとは、〈キャデット(Cadet)〉レーベルとか。

たとえば、元ネタの定番があって、定番の抜きかたがあって、そこにビートを重ねて……みたいな方法論が少なからずあったと思うんです。でも、OMSBさんに限らず、若い世代の人たちは、そういうものからすごく自由だという印象があって、とても新鮮です。これは、必ずしも世代的なものではないかもしれませんが。

OMSB:「自分は他とはちがう」という思いは誰でもあると思うんです。かぶりたくないからちがうものにする、というすごくシンプルな態度。ただ、ちがうものにしたらそれがかっこいいかといえば、そういうわけでもないので、今度はそれをかっこよくする。

聴いたことないようなかっこいいものを作る、ということですよね。そのときに、どういうところを重要視するんですか。

OMSB:音色とリズムと、あとは質感ですかね。でも、作っている段階で変わってきます。替えがきかないものを目指している感じです。

今作は、ラップもすごく多彩なスタイルに挑戦していますよね。

OMSB:そうですね。いろいろやりました。いろいろ挑戦した中でも、間を使って余裕を持たせるという意味では、“Gami Holla Bullshit”がいちばんバシっときたかなと思います。“Think Good”も尺が長いので、いろいろやりました。

“Gami Holla Bullshit”は、途中でテンポが変わっておもしろいですよね。この曲はMUJO情さんのトラックですが、今作はトラックメイカーの起用がいくつかありますね。

OMSB:MUJO情は、たまにトラックを送ってきてくれるんです。送ってもらった中で速攻リリックが書けたものがあって、アルバムに使いたいと思いました。それが“Gami Holla Bullshit”です。あと、Hi’Specのトラックなんかも、聴かせてもらった中でいいなと思ったやつです。

「Scream」ですね。あのギュルギュルなるトラックは、そうとうヤバいですよね。

OMSB:まともじゃない(笑)。

あれは、かなりいいグルーヴになっていましたよね。あのトラックにラップを乗せるのも、すごく楽しそうでした。

OMSB:あれは、自分の曲の中でもけっこう好きですね。


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「ここにいてどれだけ平静を保てるかゲーム」みたいな曲になりました。


OMSB
Think Good

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“Goin' Crazy”のトラックを手がけたAB$ Da Butchaさんは、どういう人なんですか。

OMSB:AB$は、Sound Cloudで見つけた外人さんです。自分のほうから「聴かせてほしい」って連絡して、トラックを送ってもらいました。

あのトラックも、ものすごくよかったです。サンプリングの気持ちよさと、すごく歪(ひず)んだ質感が最高でした。あのトラックを聴いたとき、どういうふうに思いましたか。

OMSB:「これはもうリリックを乗せるしかない!」という感じでした。というか、すぐにリリックが思いついて書けたので、もう「これ、ください」という感じです(笑)。

Sound Cloudで聴いて、「このトラックはもう俺がやるしかない!」という感じだったんですね。Sound Cloudはけっこうチェックしているんですか。

OMSB:そうですね。

しかも、“Goin' Crazy”はポッセカットみたいになっていますよね。あの曲のコンセプトは、どういうふうに出来上がったんですか。

OMSB:最初に考えていたことが、「人の前に出る人はおかしくなってしまうのかな?」っていうことだったんです。クスリやっちゃうとか奇行に走っちゃう、とか。でも、「そうはなりたくない」と思って。「というか、おかしくなっちゃうヤツのほうが普通だろう」とか。そんなことを考えていたから、「ここにいてどれだけ平静を保てるかゲーム」みたいな曲になりました。

この曲には、B.I.G. JOEさんのほかに、野崎りこんさんがラップで参加していますよね。僕も以前からYou Tubeなどで見ていたのですが、このトラックの野崎りこん映えはハンパないと思いました。今回、いちばんハッとしたかもしれません。

OMSB:喰いにきてくれたなと思いました。

野崎さんのラップって、けっこう繊細なイメージがありました。だから、きれいなピアノ・ループのトラックとかに映えるのかな、とか勝手に思っていたんです。でも、今回“Goin' Crazy”を聴いて、「このファンキーなトラックと相性のいいラッパーは誰だろう?」と思ったら、野崎りこんさんで驚きました。

OMSB:かなり、かましてくれましたよね。

しかも、かなりエグい言葉とか固有名を入れてきてますよね。「俺だってパスピエにフィーチャリング呼ばれたい」とか、ヒップホップ以外ではあまり歌詞にできないような内容じゃないですか。

OMSB:野崎くんに関しては、他人のネームドロップをできるのはいまだけだと思うので、今回は内容含めとてもよかったと思います。

なるほど。ところで、“Lose Myself”には、G.RINAさんと藤井洋平さんが参加していて、ラストは藤井さんのエレキ・ギターが入ってきます。あのギターもかなりドキっとするのですが、あのアイデアはどこから出てきたんですか。

OMSB:最初はひとりでやろうと思っていたのですが、そのままだと平坦な曲で終わっちゃう気がしました。それで、ギターが欲しいなと思ったときに、少しまえに紹介してもらっていた藤井さんに頼むことにしたんです。藤井さんは、今年の元旦にリキッドルームでソロをやっていて、それを観て「これだ!」と思ったんです。あと、女の人の声が欲しいとも思って、ここにフィットする声と言ったらやっぱりG.RINAさんだろうということで頼みました。

G.RINAさんも藤井さんも、すごくハマっていますよね。曲として聴くと、「こういう発想があったんだ!」と思って、すごくドキっとします。とくに、最後にギターソロでアガっていく展開は、本当に新鮮でした。それで、最後の“World Tour”にいくわけですが、ここでのOMSBさんのラップも新鮮ですよね。

OMSB:そうですね。この曲に関しては、フラットにラップしてもつまらないというところがありました。「自分にはこれが向いていない」「自分にはこれはできない」って言ってなにかをやらないのはもったいない、と思って、いろいろやりました。

そうですよね。「こういう引き出しもあるのか!」という感じで、すごく楽しかったです。ブルースっぽさもあるし、これはこれで黒いグルーヴ感がありますよね。

OMSB:ありがとうございます。いちばん好きなのが“World Tour”かもしれません。あと、それに近いくらい“Think Good”も好きです。もちろん、どの曲もかなり思い入れがあるのですが。

“World Tour”のたたみかけるようなラストは、すごく感動的ですよね。

OMSB:“World Tour”では、単純にピースで終わりたいと思いました。自分で言うのもなんですが、明るい曲なのに涙が出るものを作りたい、という気持ちがあって、自分の中のそういう部分を探しました。


“World Tour”では、単純にピースで終わりたいと思いました。自分で言うのもなんですが、明るい曲なのに涙が出るものを作りたい、という気持ちがあって、自分の中のそういう部分を探しました。

“World Tour”や“Think Good”を含め、リスナーは今作について、すごくポジティヴな感触を受けると思うんです。OMSBさんは、ここ数年で自分を取り巻く状況なども変わったと思うのですが、気持ちの部分で変わったこととかあったりするんですか。

OMSB:たとえば、SIMI LABのセカンドのときなんかはQNが辞めるとかいう話のあとだったから、すごく疑心暗鬼な部分があって――ファーストのときからそういう感じはあったのですが――「音楽作る以外なにをする必要あんの?」とか「頭下げる必要あんの?」とか思っていました。そういう気持ちは現在もなくはないですが、いまはもう少し、いろんな人とつながっていけたらいいな、という気持ちがあります。それが、変化と言えば変化かな。

なるほど。“World Tour”には、そういう雰囲気を感じます。作品を発表すれば、単純に人のつながりとかも出てきますもんね。そのような人との関わりについては、どのように感じていたんですか。

OMSB:単純に1対1で挨拶して話すときに、そういうことができない人もいて、それはめんどくさいと思ったりすることもあります。でも、基本的にはおもしろい人が多いと思いますね。ただ、やりたいことをやるだけで食える世界ではないように見えてきてしまっているのは、嫌ですね。人とつながって「どうも、よろしくお願いします」って言ったりとか、そういうのが少なからず必要だというのが、ちょっと……。やってもらっていてそういうふうに感じてしまうのは、申し訳ないですけどね。「作って、人に聴かせて、それがヤバい」で済む話ではない。そこは、夢を持ち過ぎていたかなと思います。

意外と社会的なつながりがあった、ということですね。

OMSB:すごい金持ちになったら会計士とかいうのが必要になるかもしれない。そういうことを考えると、「めんどくせー!」って思います(笑)。単純に、仲良いヤツとか大事な人とか、そういう人たちといろんなことを共有しながら、ヤバい音楽を発信できればそれだけでいいのにな、と。なんか、無駄が多すぎる気がしちゃいます。そういうことだったら、音楽抜きで関わりたいかもしれません。たまたま出会った人がめちゃくちゃヤバい人だった、みたいな。

“Orange Way”という曲も、ちょっとシリアスでちょっとポジティヴですよね。この曲も、“Think Good”や“World Tour”と同じようなモチヴェーションで書いたものですか。

OMSB:もう少し暗い気分だったかもしれません。

将来生まれてくるかもしれない子どもに対して、最後に「あと、MPCも教えたい」とあるのは、けっこうグっときました(笑)。

OMSB:それが、いちばん本音です(笑)。クソ生意気でも尊敬できなくても最悪しょうがないから、МPCを教えて、そこだけかっこよかったら「よし!」みたいな(笑)。


最近、わりと主流が生音っぽくなっていると思うんですよ。ヒップホップもそれ以外も、じわじわと生音が強くなってきて、それがけっこういい感じだなと思っています。


最近、おもしろい音楽はありますか。

OMSB:最近、わりと主流が生音っぽくなっていると思うんですよ。ヒップホップもそれ以外も、じわじわと生音が強くなってきて、それがけっこういい感じだなと思っています。このあいだのBADBADNOTGOODとGhostface Killahが組んだアルバムとか。そのへんの音の出かたは、気持ちいいなと思います。

バッドバッドノットグッド(BADBADNOTGOOD)とゴーストフェイス・キラ(Ghostface Killah)のアルバムは、ジャズっぽい質感とヒップホップっぽいビート感、それとラップの混ざりかたがおもしろいですよね。ケンドリック・ラマ―のアルバムにもロバート・グラスパー(Robert Glasper)が参加していたりとか、たしかに生音をいかに使っていくかという試みは、じわじわきているように思います。OMSBさん自身は、そういう生音の試みをやろうというつもりはあるんですか。これは、まさに質問しようとしていたことなので、そういう展開になって驚いているのですが。

OMSB:自分のアルバムやSIMI LABのセカンドでも、生音を出してもらっている部分はあるんですよね。だから、そういうプレイヤーともっといっしょにできれば、とは思っています。やっぱり自分が再現できない部分もあるので、トラックを作るうえで頼みたいという気持ちもあります。「自分でここまでやったから、あとはこうしてほしい」みたいな絡みかたをしたいです。世界標準みたいなものを考えたとき、ヒップホップの中に生音が入ることというのは、けっこう大きなポイントだと思います。

そこは本当に同感です。生音のヒップホップというのは、もちろんこれまでもたくさんあったわけですが、それはヒップホップっぽいビートを生音でギリギリまで再現する、という感じでした。いまはもう少し進んでいて、「生音でしか出ないヒップホップっぽいグルーヴ感」みたいな段階にきている印象があります。

OMSB:本当にそうですよね。おもしろい音になっていると思います。

OMSBさんって、ドラムを打ち込むときにクォンタイズは使うんですか。

OMSB:使うときも使わないときもあります。「ここはかっちりハメたいから使う」とか「ハズしたいから使わない」とか、いろいろです。「ハズしたいけど入れる」とか。

なるほど。あと、ドラムの位置や響かせかたとかも、自分が聴いてきたヒップホップの記憶からすると、やっぱりそうとう異質な感じがするんですよね。そのドラムの歪(ひず)みが、またよかったりするのですが。

OMSB:俺自身としては、そんなに異質だとは思わないです。ただ単純に、聴いてきてヤバいと思ったドラムを自分のMPCに取り込んだとき、どれだけ鍛えられるかだと思うんです。単純に、ガツンとくるかどうか。

もちろん、曲によってもちがいますしね。“Storm”とかはドラムがかっちりしていて、気持ちよかったですし。


自分の生活だけできればいいとか、そんなチマチマしたことを俺は言いたくないです。

“Touch The Sky”は、「これが売れねえとか認めたくねえ」というフックになっています。そういう「売れる/売れない」については、どのように考えていますか。

OMSB:「売れる/売れない」は、絶対に重要だと思っています。それが何人だろうが、野心があるヤツや自分がいちばんだと思っているヤツがいないと、どんどん縮こまってしまうので。自分の生活だけできればいいとか、そんなチマチマしたことを俺は言いたくないです。そういうクオリティに達しているから、そういう言葉が出るんだろうとも思っているし。

これが売れたら、最高ですね。普通に流れていてほしいですよね。

OMSB:違和感はたしかにあるんだろうと思うんです。でも、ポップスっていうのは、それがポピュラーなものとしてずっと流れているから「これがポップなんだ」って思っているだけですよね。仮に、血なまぐさい曲とかが茶の間で流れまくっていたら、みんな感化されているはずで、そんなものなんだと思うんですよね。

そうですよね。いま流れている音楽も、少しまえだったらエグかったかもしれません。そもそも、ディアンジェロ(D’Angelo)が売れまくっている現状とかすごいことですし。だから、売れるために曲を作ることと、自分が作った曲が売れることはぜんぜんちがいますよね。OMSBさんは、曲を作るときに宛先みたいなものは考えるんですか。

OMSB:宛先というか、自分がヤバいと思って消化しているものを、自分のフィルターを通して「こういうのありますよ!」と言っている感じです。「超ウケないっすか?」みたいな(笑)。

まさに、最初の“WALKMAN”のときなんて、みんなそういうふうに反応したのではないかと思います。僕自身も、若い友人に「すごいのありますよ!」という感じで教えてもらいました。SIMI LABの面々は、そういう感覚は共有しているんですか。

OMSB:だと思います。ただ、全員としょっちゅう遊ぶわけではないので、うまくは言えませんが。でもとにかく、楽しんでもらいたいですね。それで、めちゃくちゃ売れてほしいですね(笑)。すごくシンプルです。

単純に楽しいアルバムでもありますよね。僕がSIMI LABやOMSBさんを人に薦めるときは、「ユーモアがあって良いんだ」ということをよく言います。今回も、ふたつのインタールードがあって、とくに“Shaolin Training Day”の素と演技が入り交じった感じには笑っちゃいました。

OMSB:考えさせる部分ばかりを作りたくはないですね。考えないで聴いてもらっていいくらいです。そう思って、インタールードなんかは入れています。そこで楽しんでもらって、不意に入ってきた言葉が刺さって、その人のためになればいいのかな、と。

アルバム一枚の中にすごいフロウの振れ幅があるので、ふとしたときに引っかかりを感じてそのまま歌詞を聴いてしまう、ということがすごくありました。本当に、いろんな人に聴いてほしいですよね。

OMSB:というか、マジでかっこいいと思うんですよね! なににも劣っていない!
――随所に「こんなの聴いたことないよ!」という部分があるので、チェックしてほしいですよね。試聴機で聴くだけでもいいので、聴いてください!


入江陽レコ発にジンタナやOMSBも! - ele-king

 洗練されたソウルとおどろくべき表現力で“歌謡曲”を更新するシンガー、入江陽。JINTANA & EMERALDS、OMSB……ジャンルも個性も異なれど、彼の傑作アルバム『仕事』のレコ発イヴェントを急角度で祝福する、すばらしい顔ぶれが報じられた。ソウルとサイケとヒップホップがしなやかに香ぐわしく交差する夜をWWWで、ともに。

6月29日(月)に渋谷WWWにて開催される入江陽『仕事』レコ発に追加ゲスト発表!
入江陽バンド編成、OMSB [DJ SET]に加えて、横浜のネオ・ドゥーワップ・バンドJINTANA & EMERALDSが出演決定です!


仕事
入江陽

Pヴァイン

Tower HMV Amazon iTunes

ヒップ・ホップ以降のソウル感を感じさせる歌謡曲シンガー入江陽のセカンド・アルバム『仕事』のレコ発が6月29日(月)、WWWにて行われる。この日の入江陽のライヴは大谷能生やYasei Collectiveの別所和洋含む特別バンド編成で行われ、OMSB[DJ SET]の出演も決定している。

そしてこの日、追加で横浜発アーバン&メロウ集団PPPことPAN PACIFIC PLAYA所属のスティールギタリスト : JINTANA率いる6人組ネオ・ドゥーワップバンド、JINTANA&EMERALDSの出演が決定した!

世代もジャンルもクロスオーバーして芳醇なニオイたつこの3組が登場するのはまさに奇跡。忘れられない一夜を保証します。
チケット各プレイガイドにて発売中です!

■入江陽 “仕事” Album Special Release Party
2015年6月29日(月)@渋谷WWW
OPEN 19:00 / START 19:30
ADV ¥2,800 / DOOR ¥3,300(別途1ドリンク代)
出演:
入江陽バンド
・入江陽(vocal,keyboards)
・大谷能生(sax,pc,etc)
・別所和洋(keyboards) from Yasei Collective
・小杉岳(guitar) from てんやわんや
・吉良憲一(contrabass)
・藤巻鉄郎(drums)

JINTANA & EMERALDS
OMSB [DJ SET]

TICKET:
ローソンチケット[L:72333]
チケットぴあ[P:266-155]
e+

◎入江陽 プロフィール
1987年生まれ。東京都新宿区大久保出身。 シンガーソングライター、映画音楽家。
学生時代はジャズ研究会でピアノを、管弦楽団でオーボエを演奏する一方、学外ではパンクバンドやフリージャズなどの演奏にも参加、混沌とした作曲/演奏活動を展開する。
その後、試行錯誤の末、突如歌いだす。歌に関しては、ディアンジェロと井上陽水に強い影響を受けその向こうを目指す。
2013年10月シンガーソングライターとしての1stアルバム「水」をリリース。
2015年1月、音楽家/批評家の大谷能生氏プロデュースで2ndアルバム「仕事」をリリース。
映画音楽家としては、『マリアの乳房』(瀬々敬久監督)『青二才』『モーニングセット、牛乳、ハル』(サトウトシキ監督)『Sweet Sickness』(西村晋也監督)他の音楽を制作。
https://irieyo.com/

◎JINTANA & EMERALDS プロフィール
横浜発アーバン&メロウ集団PPPことPAN PACIFIC PLAYA所属のスティールギタリスト : JINTANA率いる6人組ネオ・ドゥーワップバンド、JINTANA&EMERALDS。リーダーのJINTANA、同じくPPP所属、最近ではあらゆる所で引っ張りだこのギタリスト : Kashif a.k.a. STRINGSBURN、媚薬系シンガー : 一十三十一、女優としても活躍するMAMI、黒木メイサなど幅広くダンスミュージックのプロデュースをするカミカオルという3人の歌姫達に加えミキサーにはTRAKS BOYSの半身としても知られる実力派DJ、CRYSTAL。フィル・スペクターが現代のダンスフロアに降り立ったようなネオ・アシッド・ドゥーワップ・ウォールオブサウンドで、いつしか気分は50年代の西海岸へ...そこはエメラルド色の海。エメラルド色に輝く街。エメラルドシティに暮らす若者たちの織りなす、ドリーミーでブリージンなひとときをお届けします。
https://www.jintanaandemeralds.com/

◎OMSB プロフィール
Mr. "All Bad" Jordan a.k.a. OMSB
SIMI LABでMC/Producer/無職/特攻隊長(ブッコミ)として活動。
2012年10月26日、ソロアーティストとしてのファーストアルバム「Mr. "All Bad" Jordan」を発表。
2014年3月には、自身も所属するグループSIMI LABとしてのセカンドアルバム「Page 2 : Mind Over Matter」をリリース。
兼ねてからフリーダウンロード企画でBeat Tapeを多数発表し、2014年11月にはBLACKSMOKER RECORDSよりインストビート作品集「OMBS」も発表。
その他、KOHH, ZORN, Campanella, PRIMAL等、様々なアーティストへの楽曲提供・客演参加もしている。
https://www.summit2011.net/


Yui Onodera - ele-king

 まるで深海の底にゆっくり沈みこむようなディープなアンビエント・ダブだ。霧のような音響の層がいくつも折り重なり、聴き込んでいくにつれて意識がゆったりと遠のいていく。同時にその音はシェルターのように私たちを包み込む。深く鳴り響くキックの音は、鼓動に包まれるような安心感すらもたらすだろう。音の海へと沈み込んでいくことへの畏怖、そして安堵。まさにアルバム名「深海=Shinkai」そのもののような壮大な音響の連鎖。
 本作はアンビエント/サウンド・アーティスト小野寺唯、8年ぶりのソロ・アルバムである。そして小野寺の決定的な「変化」を刻印している記念すべきアルバムでもある。リリースは注目の国内アンビエント・ダブ・レーベル〈アークティック・トーン〉から。

 小野寺唯はソロ・アルバム/コンピレーション・アルバムや建築空間などのサウンドデザイン(音響建築設計)などを通じて、ブライアン・イーノ直系の環境音楽=アンビエント・ミュージックの概念を現代的な環境への問題意識によってアップデートしてきた音楽家である。ここ数年も、世界中の電子音響作家などを召還し、ローカリズム(地域性)と音響作品との関係性を考察するコンピレーション・アルバム『ヴァナキュラー』をリリース、サウンド・アートと環境音楽の現代的な問題意識を提出し、BJニルセン、クリス・ワトソン、エックハルト・イーラーズなどと共に都市と環境の問題を思考する書物『ジ・アコースティック・シティ』にも参加するなど、まさに多方面から人・環境・音響の問題に切り込んできた。

 小野寺はソロ・アルバムのリリースに加え、コラボレーションも多く行っている。中でもアンビエント・アーティスト、セラーとの競演作『ジェネリック・シティ』(2010)は近年のアンビエント作品の傑作である。
 自分と他者という関係から生まれるコラボレーションという創作は、彼にとって、もっともミニマムな環境の創出でもあったのだろう。個人(自分自身)の内面の追求よりは、その個人が存在する環境を考察することで、人と社会との関係を、彼特有の優雅な音の連なりによって表現していくこと。その穏やかなアンビエントの向こうには、そのような強い意志も感じられた。

 だが、昨年あたりから音楽家、小野寺唯の作風に変化(の兆候)を感じることが多くなってきた。というのもこれまでのアンビエントな作風に加え、世界的な潮流でもあるインダストリアル/テクノへと接近しつつあるように聴こえるのだ。
 その最初の成果が昨年にリリースされたMizkami Ryuta(mulllr)とのユニット、Reshaftのアルバム『Decon』であろう。この作品は00年代後半を代表する日本人アンビエント・アーティストとエレクトロニカ・アーティストの競演作であると同時に、日本から世界の同時代的潮流であるインダストリアル/テクノへの応答とでもいうべき驚嘆すべきアルバムに仕上がっていた。ダークな雰囲気は、現在の暗い予想を見事に反映し、同時にそこに彼ら本来の資質ともいえる「優雅さ」が見事に加えられている。個人と世界のアンバランスを、硬質な音で疾走するかのようなトラックたちはじつにクールだ。このアルバムはオーストラリア・ウィーンのレーベル〈コンフォートゾーン(comfortzone)〉からリリースされた、エンジニアリングをラディアン/トラピストのメンバーであるマーティン・シーヴァートが手がけたことでも話題になった。いわば2000年代的な音響・エレクトロニカの文脈の交錯点にある現代的なインダストリアル/テクノなのだ。
 ソロ新作である『Sinkai』は、その『Decon』のダークな要素を引き継いでいる。本作には彼特有のワビサビのアンビエント感に加えて、まるで海外の〈モダン・ラブ〉などのインダストリアル/テクノの潮流と合流するような感覚のダークなアンビエント・ダブが交錯しているのだ。ここに小野寺の変化と新境地を聴くことは可能だろう。

 この変化は何を意味するのか。私見だがそこに「環境から個人へ」というドラマチックな視点(聴点)の変化が起こっているように思えてならない。事実、本作には個人の内面にある光を深く見つめるような音楽が横溢しているのだ。まるで後期マーラーのアダージョのようにロマンティックな色彩とでもいうべき何か……。
 1曲め“Sigure”の朝霧のような音の層と、インナースペースに遡行するような淡いビート。心臓の鼓動のようなキックとシンセのオーケストレーションが見事な2曲め“Syakkei”。荒涼とした光景を描写するような3曲め“Mon”。その光景から逃走するかのようなキックの4つ打ちが響く4曲め“Matou”。微かな光が刺しこむような5曲め“Akatsuki”。どこかオリエンタルなリズムに水の音などが細やかにレイヤーされ聴き手の意識を深海の底へと連れていく6曲め“Sinkai”。そして、7曲め“Kasumi”においてアルバムはクライマックスを迎える。アンビエントな電子音/持続音は、まるでロマン派の交響曲の管弦楽のようにオーケストレーションされ、雄大にして個の内面に光を与えるような圧倒的な音楽が展開するのだ。ドラマチックな前曲を引き継ぐかのように8曲め“Kaori”では、穏やかにアルバムのコーダを奏でる。深海の底から宇宙の光までを一気に内容・解凍するかのような、じつに見事な構成と終局だ。

 本作はコンセプト・アルバムのように構成されているが、私はアルバム1枚で電子音楽の交響曲のように聴いた。つまりサウンド・アーティストである小野寺唯の「音楽家」としての側面が、これまで以上に濃厚に、前面化している印象を受けたのだ。環境から個人へ、である。
 この変化は、彼が時代の無意識を鋭く感じとった結果ではないかと思う。いま、世界は途轍もない変化の只中にある。それはこれまでの社会構造を根本から変えていく変化だろう。常に環境を思考してきた小野寺が、この変化に鈍感なはずはなく、むしろ変化の只中にあるからこそ環境と個人の関係を問い直し、それらをより密接なものとすることで音楽へと変換する作品が必要である、と考えたとしても何ら不思議ではない。
 だからこそ、この壮大なパーソナル・スペースのような音楽/音響は、2015年の「新しい環境音楽」とはいえないか。つまり環境音楽はよりパーソナルな心理に効く=聴く必要があるのだ、というように。ほぼ同時期にリリースされたアルヴァ・ノトの新作『ゼロックスVol.3』とも呼応するアルバムであり、まさに世界的な無意識や潮流とリンクする作品といえよう。

 最後に小野寺の、さらなる新リリース作品についてもひとこと。ロシア・マリインスキー劇場管弦楽団のクラリネット/ピアノ奏者ヴァディム・ボンダレンコとのコラボレーション・アルバムがデジタル/フィジカルがリリースされている(CD盤の国内入荷はもう少し先か?)。この作品は、ピアノとアンビエント融合によって「新しいアンビエント・ミュージック」を追求しているように思える。ヴァディム・ボンダレンコの澄んだピアノの音色が、どこまでも耳に涼しい。このアルバムも素晴らしいので、ぜひとも聴いていただきたい。

interview with Jaga Jazzist - ele-king


Jaga Jazzist
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 加齢にしたがって人のハッピー度が下がっていくものである。シニカルになりがちなのも、新鮮味という感覚を得る機会がどんどん減っていくからである。あれほど驚きに満ちた世界も、どんどん既視感に埋められていく。ゆえに、環境の変化が必要になってくる。問題は、その変化に身体がついていけるかどうか……だ。

 ジャガ・ジャジストって良いよと僕に教えてくれたのはたしかハーバートだった。彼がジャズにアプローチしていた時代、2002〜2003年あたりの話だ。ノルウェーで出会った大所帯のバンドの何が、無闇に他を褒めないイギリスの左翼系電子音楽家のハートを捉えたのだろう。ハーバートはリミックスも手掛けているし、「マシュー・ハーバート・ザ・ビッグ・バンドのノルウェー公演へサポート・アクトとして出演したときの盛り上がりは、伝説的なステージ・パフォーマンスとして高い評価を得た」とビートインクのサイトにも記されている。

 僕は、バンドのリーダー、ラーシュ・ホーンヴェットの『Pooka』(2004年)が好きだった。このアルバムは、その年、もっともよく聴いた1枚だ。ジャガ・ジャジストが交響楽団だとしたら、こちらは室内楽団といった趣だが、同じように茶目っ気あるエレクトロニクスが散らばっている。

 ジャガ・ジャジストは、基本、ハッピーなバンドだ。エクレクティックなところはこのバンドの特徴だが、音楽のなかに何を混ぜようが彼らは最終的には桃源郷に向かっていく。イギリスのプログレッシヴ・ロックやクラウトロックへと大接近した前作『ワンアームド・バンディット』を経てリリースされる新作『スターファイヤー』も、いろんなものが混ざっているけれど、彼らの旅の出口は、最終的には明るい。トッド・テリエのリミックスもご機嫌である。
 誰にでもうまくいく話ではないのだけれど、ジャガ・ジャジストの場合は、変化を与えたことでまたひとつ若返ったようだ。人生もこうありたいものである。

LAでは免許なしではやっていけないから、免許をとったんだ。で、それをきっかけにハウス・ミュージックをたくさん聴くようになったんだよ。運転中にはちょうど良いよね。いまでは運転が大好きだ(笑)。

LAでの生活はいかがですか? またなぜオスロからLAに越されたのですか?

ラーシュ:とても気持ちいいよ。明日からまたノルウェーに帰る。で、また寒くなったらLAに戻ってくる。ノルウェーの冬は、ずっと暗くて気がめいるからね。
 LAに越したのは、アルバム制作を新たな気持ちでスタートさせるためだったんだ。これまでも曲作りのためにいろいろと場所は変えてきたけど、普通滞在するのは1、2ヶ月。でも今回は休暇で訪れたLAがすごく気に入った。人がたくさんいる場所でもあるけど、一人にもなれるし、集中できる。毎日太陽を浴びれるっていうのもすごくポジティヴになれるしね。ノルウェーの冬から逃げるっていうのが一番の理由だけど、マネージメントやブッキングエージェント、レーベルのみんながこっちをベースにしてるっていうのも理由のひとつだよ。

このアルバムにおける重要なポイントのひとつに、LAというはありますよね? LAを選んだ理由について訊きます。オスロの外で録音することが重要だったのか、それともLAという場所が重要だったのでしょうか?

ラーシュ:そうだな……自分でもわからない。環境や自然が音に大きく影響してるとは正直思わないね。でも、LAって、作業ひとつひとつにすごく時間がかかるんだ。すごく広いから移動に時間がかかるし、渋滞もすごい。だから、ゆっくりなペースのプロセスっていう意味ではLAが影響していると思うし、もしかしたらそれが音にも出ているからもしれないね。あと、こっちに越してきたばかりの時は、車の免許をもっていなかったんだけど、LAでは免許なしではやっていけないから、免許をとったんだ。で、それをきっかけにハウス・ミュージックをたくさん聴くようになったんだよ。運転中にはちょうどよいね(笑)。それで曲の尺が長い曲を聴くようになった。だから今回は、自分が運転中に楽しめるような曲を作りたいっていう気持ちもあったんだ。音の中を旅しているような気分になれる、長めの曲を意識したね。

通訳:運転するようになったことが影響しているっていうのは面白いですね。

ラーシュ:いまでは運転が大好きだ(笑)。オスローから地元までの1時間半のドライヴだったらすごく長く運転しているように感じるけど、LAでのドライヴは全くそれを感じない。こっちでは、1時間の運転なんて当たり前だからね。わざわざ友だちとコーヒーを飲みにいくのに1時間かけて行くこともあるくらいさ。それを普通にやってるっていうのは変な感じもするけど(笑)。

どんな偉大なバンドにも難しい時期というのがあると思うので訊きますが、大所帯のバンドを長続きさせるコツを教えて下さい。

ラーシュ:この人数でこれだけ長い間活動を続けるというのは、決して容易ではない。でも僕たちはスタートした時点からいろいろなアイディアに対してオープンだったから、それも長く続いている理由のひとつだと思うし、それがあるからこそワンパターンに収まらず新鮮さを保てているんだと思う。メンバー全員がアルバムを作る度に何か新しい要素をいれようと心がけているし、ライヴでも即興や自分たちが面白いと思うものを取り入れて、自分たち自身も飽きないように心がけているしね。だからこそ、1回2時間という長い公演を何度もこなして経験を積んでこれた。
 あと、メンバーそれぞれがJagaだけではなく他のプロジェクトに参加していることも鍵のひとつだと思う。ずっとJagaだけではうんざりしてしまうかもしれないけど、他のプロジェクトにも参加することで気分転換ができるんだ。他のこともやりつつ、活動が楽しいと思う気持ちを持ち続けるっていうのがいいんじゃないかな。

通訳:20年以上も活動しているわけですが、その中で危機というか、いちばん大変な時期はありましたか?

ラーシュ:2006年くらいだったかな。続けようか、それとも止めようかっていう時期はあった。重要なメンバーたちがバンドから出て行ってしまった時で、当時はどうしていいかわからなくなってしまった。『What We Must』(2005年)のあとだね。でも、『One Armed Bandit』(2009年)を作りはじめて、また新たなスタートをきることができた。その2作品のあいだ、たぶん4年くらい何もしてなかったんだじゃないかな。重要なメンバーが去ってしまうことは危機ではあるけど、同時に、これだけ長く活動してるんだからメンバーが変わっても大丈夫だとも思えた。新しいメンバーが抜けたメンバーと全く同じことができるわけではないけど、逆にそれで新しいことができるならそれはそれでいいと思ったんだ。

やり続けることの難しさということもありますよね? 

ラーシュ:たしかに難しいとは思う。とはいえ、同じメンバーで違うことをやり続けるっていうのは、やはりその分やりがいがある。僕はとくにメロディーに対して決まったテイストを持っているんだけど、過去のJagaの作品を聴いてもらうとそれがわかると思うし、同時にそのテイストを保ちながらも様々なプロダクションが試されていることもわかると思う。……元々の質問はなんだったっけ(笑)?

通訳:(笑)やり続けることの難しさについてです。

ラーシュ:そうだそうだ。20年かけて、このバンドでは本当にたくさんのことを試してきた。だからいまでは、完全に新しいことを見つけるのがすごく難しくなってきている。アルバムを作る度に、前とは違うもの、前とは違うバンドからインスピレーションを受けようと努力している。僕ら自身もそうだし、Jagaのオーディエンスも定番の音楽を聴き続けたいタイプのオーディエンスだとは思わない。みんな、常にオリジナルで新しいものを求めていると思うんだ。活動を続けていく上で大切なのはそれだね。自分たちをリピートしないことが長続きに繋がるとも思うし、それをやるからこそアルバム作りにどんどん時間がかかるようになるんだよ。

そうやってアルバムごとのに新しいことに挑戦したり、いろいろと乗り越えてきたわけですが、今回のアルバムは、完成まではスムーズに進行した作品なのでしょうか?

ラーシュ:少なくとも僕個人にとっては、今回はいつもよりスムーズだった。このアルバムでは1回もリハーサルしなかった。僕が曲のアウトラインを書いて、それをメンバーそれぞれに渡して演奏してもらった。8人、9人同時に演奏してレコーディングするより、少人数でレコーディングするほうがそれぞれからいろいろ引き出せると思って。だから時間も長くかかったんだ。それぞれのアプローチをまとめるのにも時間がかかったしね。

通訳:それはこれまでにない初めて挑戦したプロセスだったんですよね?

ラーシュ:そう。完全に新しかった。いままではレコーディングの前に4、5ヶ月リハーサルしてきたから。レコーディング前に全てが書き終わっていたし、演奏が難しい部分はとことんリハーサルした。レコーディングの時も、大人数で一斉にレコーディングすると、かならず誰かが浮いてしまったり埋もれてしまったりする。だから今回は、バラバラにレコーディングすることでそれぞれの特徴を活かしたかった。その中でも、とくにギターのマーカスとキーボードのオイスタインは他のメンバーよりも長くスタジオに入って、いろいろと試してみたよ。

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ジェントル・ジャイアントっていうプログ・ロックのバンド知ってる?  彼らのジャケに妖精をデザインしたものがある。そこからインスピレーションを受けたのが前作。対して、今回のアルバムはもう少しダークなサウンドにしたくて、あまりユーモアの要素は入れたくなかった。


Jaga Jazzist
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今回のアルバムの推進力は何でしょうか?

ラーシュ:そうだな……何だろう……自分自身にとってオリジナルなものを作るっていう気持ち。このアルバムのサウンドをどういったサウンドにしようかと考えるのに結構時間がかかったんだけど、さっき言った長旅のフィーリングというか、そういうアイディアを思いついてからはそれに従って制作を進めていった。だから、いままで以上に尺が長くなってる。
 このバンドにせよ、他のプロジェクトにせよ、いつも僕は新しい何かを求めていて、いちど何か面白いものを思いつくと、できるだけそれに従って制作を進める。いろんなやり方で、自分の好きな音楽、そしてその演奏の仕方を広げて行く。それを見つけ出すのは容易ではないし、長いプロセスだね。

たぶん、スタジオ録音盤としては、いままでもっとも曲数が少ないアルバムになったと思います。曲をたくさんつくることよりも、1曲のなかの展開やアレンジの濃密さを重視しているというか。

ラーシュ:このアルバムは、いままでのアルバムと形式が違う。収録されている曲のほとんどが、まるで1曲の中に曲が2〜3曲入っているような作りになっている。トラックを作るために15〜20くらいセッションをやって、プレイリストを作ってその中から重要なアイディアをピックアップしていくうちに、それを繋ぎ合わせて曲にしたら面白いんじゃないかと思ってね。アルバムに収録されているのは5曲だけど、実際はそれ以上に曲が入っているようなものなんだ(笑)。

過去にはユーモアの込められた、IDM的なアプローチに特徴があったと思いますが、今回はもっと優雅な感覚を感じます。このアルバムが大切にしているものは、何でしょうか?

ラーシュ:さっきと同じ答えになってしまうけど、大切なことは、前回のアルバムと逆のものを作ることだった。たしかに2009年の『One Armed Bandit』では、60年代後半〜70年代前半のプログ・ロック・シーンっぽい要素に加えてユーモアがあったね。ただオシャレなだけな音楽は作りたくないから、面白くしたり、キャッチーにするためにユーモアっぽい要素を入れた。例えばあのアルバムに収録されている「Prognissekongen」っていうのも作った言葉で、“プログレッシヴのノーム(妖精)の王"って意味がある(笑)。
 ジェントル・ジャイアントっていうプログ・ロックのバンド知ってる?  彼らのアルバムのジャケにノームをデザインしたものがあって、そこからインスピレーションを受けてそのタイトルにした。そういう意味でのユーモアはあった。対して、今回のアルバムはもう少しダークなサウンドにしたくて、あまりユーモアの要素は入れたくなかった。さっきも言ったようにこれまでとは違ったものからインスパイアされたものを作りたかったし、正直これまでの作品にも果たして実際どの程度ユーモアが入っていたか自分でもわからない。曲のタイトルはジョークだったりするけど、音自体はそこまで面白おかしくはないから。

今回に限らずですが、あなたのソロをふくめ、ジャガ・ジャジストにはロック的な雑食性も感じます。今回はギターの演奏が前面に出ているので、とくにそう思うのかもしれませんが、ソフト・マシーンのような60年代末〜70年代初頭のプログレッシヴ・ロックのことは意識しましたか? 

ラーシュ:それを意識したのは『One Armed Bandit』だよ。ソフト・マシーンやジェントル・ジャイアントからはインスピレーションを受けている。あとはクラウトロックからもね。カン、ノイ!、ファウスト、クラスター、そういったバンドから影響を受けているんだ。
 こういうことは、自分たちよりも周りの方がそれに気づくことが多いんだよね。フランク・ザッパと似てるって言われるけど、実は僕たちはあまりフランク・ザッパのファンじゃない。だからとって、みんながなぜそう言うかはわかるんだ。彼らのジャンルとある意味同じものを作ろうとしているからね。キャッチーでありながらも新しく、驚きのある音楽を意識している。だから、そういった昔のプログ・ロック・バンドの要素が感じられるのは自然なことだと思うよ。僕にとってはそれはいいことで、その要素が入っていることで『One Armed Bandit』ではオーディエンスの幅が広がった。これまではもっとエレクトロニック・ミュージック・シーン寄りだったけど、リアルタイムでそういったプログ・ロックを、とくにイギリスの作品を聴いてきた自分たちよりも年上の人たちが僕らの音楽を聴いてくれるようになった。あれはよかったね。

ここ数年、日本では排外主義が目に見えるようになりました。ノルウェーでは、数年前に移民に対する連続テロ事件がありましたよね。あながたの音楽は、むしろいろいろな文化を受け入れことで成り立っています。それはノルウェーにおけるある種の理想郷のようなものを描こうとしているとも言えるのでしょうか?

ラーシュ:あれは移民に対するテロというか、テロを起こした犯人がかなりの人種差別者だったと言ったほうがいいかもしれない。あれは政府に対する攻撃で、ノルウェーの労働党に対するものだったから。30年も力を持ち続けて来た政党だから、犯人は彼らがやってきたこと全てに対して鬱憤がたまっていたんだ。彼はかなりイカレていたから、あれは例外で、ノルウェーとはあまり関係がないと思う。みんなにかなりショックを与えたし、政治に対して考え直すきっかけを与えたというのはあるかもしれないけど。理想郷を描こうとしているっていうのはちょっと考え過ぎかもね(笑)。
 僕はいま35歳なんだけど、20〜26歳くらいの時は、もっと音楽に対して堅かったし、好みが偏っていたと思う。26歳くらいから、もっと音楽に対してオープンになっていったんだ。自分があまり好きだと思っていなかったものにも耳を傾けるようになったし、それを自分のやり方で作ってみたりするようになった。それは自分でも良いことだと思うし、たしかに前よりも柔軟で、いろいろな要素を取り入れるようになってるとは思う。だから理想郷っていう言葉は褒め言葉ではあるね。ありがとう(笑)。

透明感のあるサウンドといえば、とくにノルウェーのジャズ。ドイツのECMが有名だけど、僕はそれを聴いて育ってきた。いまだに好きな音楽のひとつさ。でも、そういった音楽はロマンティックすぎるとも思う。

LAという土地にも関わる話ですが、フライング・ロータスに触発されたところはありますか? あるいは、彼らの周辺の音楽とか。

ラーシュ:ビート・ミュージックとサイケデリック・ジャズがミックスされた音楽にとってはすごく良い時代が来ていると思う。フライング・ロータスはそのマスターだと思うし、彼の作品は素晴らしいと思う。曲の作り方は彼と僕では全然違うけどね。彼はもっとサンプルを使うし、即興をよくやる。でも僕はもっと曲っぽいから。でもフライング・ロータスがやっていることは好きだよ。お互いの音楽にはジャズ要素が常に存在しているし。フライング・ロータスと僕が影響を受けてきた音楽も共通していると思う。

『Starfire』とはどんな意味が込められたタイトルなのですか?

ラーシュ:音楽を作りはじめる時は、その作品がどんな内容になるのか全く見当がつかない。だから、よく適当に意味のない仮のタイトル=呼び名をつける。あと、特定の意味を持たないオープンなタイトルが好きでもある。例えば”Starfire"っていう言葉は、宇宙のイメージがある。そこからみんな、銀河とか惑星とか、いろいろなことが想像できる。長い旅っていうイメージもあるし、良いタイトルだと思ったんだよね。しかし、元々は、「Starfire」の曲を"starfire"っていうギターで書いたからそのタイトルになった。理由はそれだけさ(笑)。でも、みんながそれぞれに理解してくれたらそれでいいんだ。

SMALLTOWN のコミュニティはいまも継続されているのようですね。今回もデザインはキム・ヨーソイ(Kim Hiorthøy)? 今回はトッド・テリエ(Tod Terije)によるリミックスがあります。

ラーシュ:僕自身はもうSMALLTOWNには関わっていないんだ。今後はまたソロ作品をSMALLTOWNからリリースする可能性はあるよ。今回のデザインはキムじゃなくてMartin Kvammeなんだ。彼は『Live With Britain Sinfonia』のデザインも手掛けてくれている。ちなみにKimは、今もSMALLTOWNで働いている。
 トッド・テリエのリミックスに関しては、僕はトッド・テリエのライヴ・バンドでプレイしているんだけど、彼とはノルウェーの音楽フェスティヴァル、オイヤ・フェスティヴァルのためにコラボレーションをはじめたんだ。だから彼の音楽は本当に良く聴いて知っていたし、彼も僕たちの曲を長い間聴き続けてくれていた。そういうわけで、彼が一番最初にリミックスを依頼したかったのが彼だったんだ。彼とはその前から共演していたけど、このリミックスに関しては去年の夏から話していたと思う。彼のスタイルが大好きだし、リミックスを初めて聴いたときも素晴らしいと思った。大満足だったね。

いまでもクラブ・ミュージックは好きですか? 

ラーシュ:大好きだね。いままでで一番聴いていると思う。このアルバムは、実はそれに影響されてかちょっとダンスできるような作品を作りたかった(笑)。結果的にはそうならなかったかもしれないけどね(笑)。元々そういうアイディアはあった。少なくとも、もう少しハウスっぽくしたいっていう気持ちはあったんだ。ハウスという点で特に聴いていてインスピレーションを受けたのは、トッド・テリエとジョン・ホプキンス。とくにジョン・ホプキンスは、曲を盛り上げて、少ない要素で音を面白くする天才だと思う。それを自分でも試してみたいと思ったんだ。
 Jagaは違うタイプのバンドだし、人数も8人だし、かなり楽器を使うから、それを再現するのはすごく難しかった。でもそういった音楽が持つ、ひとつのソウルに入り込んでいくようなフィーリングというか、長い時間をかけて盛上がっていくようなものは少なからず表現出来たんじゃないかな。ある特定の時空じゃなくて、宇宙空間に放たれるような、そういうエンドレスなフィーリングはあると思う。彼らの音楽よりも、トラックの構成はもっと”曲っぽい”けどね。

昨年出したライヴ盤では、クラークやマシンドラム、ティーブスなどクラブ系のプロデューサーのリミックスがありましたが、これはあなたがたの希望でしょうか? それともレーベル側からの意見でしょうか? 

ラーシュ:半分は僕がオファーしたし、半分はレーベルやマネージメントの意見だった。いろいろなアーティストによるさまざまなヴァージョンが聴けて、すごく面白かったよ。

いま、あらためて「ジャガ・ジャジストのコンセプトは?」と訊かれたら、あなたはなんと答えますか?

ラーシュ:ワーオ(笑)。バンドのコンセプトは、ゆっくりと進化し続けて、新しいスタイルを常に試みていくことかな。あとはたくさんの種類の音楽をブレンドすること。そして、自分たち自身にとってオリジナルなものを作り続けていくことだね。だから、もちろん影響を受けている音楽はたくさんあるんだけど、それをなるだけわからないようにしている。そうやってオリジナルのものを作ろうと心がけているんだよ。

ノルウェーらしさというと、我々は小綺麗で透明感のあるサウンドを思い浮かべますが、あなた方のように、実際そこに住んでいる者にとってそれは何だと思いますか?

ラーシュ:ノルウェーの音楽シーンは、すごく幅広い。エレクトロ・シーンも盛んだし、個人的にはロイクソップが大好きで、彼らはエレクトロのシーンでは一番ビッグだと思う。すごくクリーンなサウンドが特徴的だよね。あと、トッド・テリエのようなハウスやディスコのアーティストがたくさんいるのと同時に、良いロックバンドやジャズ・バンドもたくさんいるんだ。僕もそのシーンにハマっているんだけど、小さい国だからそれぞれのアーティスト同士が近い。だから、何か面白いことをやっていて自分がコラボしたいと思うアーティストが見つかったら、電話一本でオファーが出来る。そういう意味では、すごくオープンなシーンなんだ。
 透明感のあるサウンドっていうのは、とくにノルウェーのジャズかな。そういうサウンドで言えばドイツのECMっていうレーベルが有名だけど、僕はそれを聴いて育ってきた。いまだに好きな音楽のひとつさ。でも、そういった音楽はロマンティックすぎるとも思う。次に何が起こるかがわかるっていうか、ちょっとお決まりなんだよね。だから自分の音楽を作るときは、もっとエッジの効いたものを作るよう意識しているんだ。

オスロの音楽シーンは、10〜15年前とはどのように変化しましたか?

ラーシュ:10年前のオスロの音楽シーンは全然違ったよ。当時はBlå(読みはブローみたいです。英語でブルーという意味だそうです)っていうクラブがあったんだけど、僕たちはそのクラブやジャズ・シーンに大きく関わっていたんだ。ジャズとはいえエレクトロもあったし、すごくオープンなシーンだった。そのクラブは今もありはするんだけど、前とは違う。前はもっとミュージシャン達の場所って感じで、オーディエンスがたくさん入っていたからね。今はもっとクラブ・シーンが盛んかな。ハウスなんかもそうだし、それはそれで面白い。良いジャズ・シーンもあるよ。とくにエレファント9っていうバンドは面白いし、僕自身のお気に入りでもあるんだ。もっとプログレッシヴ・ジャズっぽくて、エッジが効いてるんだよね。前よりもシーンは広がっていて、バンドもたくさん出て来ているし、徐々に大きくなっていってると思うよ。

夏で楽しみにしていることは何でしょう?

ラーシュ:ツアー以外では、オスロのビーチでのんびりすること。夏はオスロの中で一番いい時期だからね。水はあったかくて綺麗だし、オスロの人たちは休暇で外に行ってるから空いていていい。それが楽しみだね。まあでも、メインはツアーだよ。Jagaのショーはもちろん、トッド・テリエとのパフォーマンスもあるし。今はLAにも住んでるから、オスロにいるのが前よりも楽しめているんだ。

トアン ホチュウエッキトウ - ele-king

 僕たちはからだとこころに悪い毎日を送っている。そうだとわかっていても、その毎日から逃れられないでいる。僕たちは毎日、犠牲を払っている。からだとこころが悲鳴を上げても気がつかない。著書『からだとこころの環境』で伊達トモヨシはそんなことを言いたいのだと思う。せめて自分に与えられたからだとこころの悲鳴ぐらいは自分自身で聞こえるぐらいになろうと、そのための漢方なのだろう。
 ゆにえアンビエントは、いや、アンビエントこそ、この東京でもっともやかましい街が必要としている。

 6月6日午後16時〜、原宿のVACANTで開催の「トアン ホチュウエッキトウ」は、その伊達トモヨシも出演するアンビエントのコンサート。
 音楽のライヴだけでなく演劇団体「マームとジプシー」のふたりや、舞踏をはじめ無数の表現媒体を経て現在ダンサーとして新境地に達しつつある朝吹真秀氏を迎え、融合的セッションを軸に、さらには食と香も取り入れ空間を彩っていく全感覚的なイヴェントだ。
 会場では靴を脱ぎ、寝転ぶもよしな自由な体制で鑑賞する形式で、食事ではあんこお菓子、日本食ごはん、日本酒やどぶろくのも用意される。ごろんろ寝転びながら、「からだとこころ」を解放しよう。

2015/06/06
Open/Start 16:00
Close/ 21:00

Vacant 2F
https://www.vacant.vc/

Ticket
Adv/: ¥3,500
Door/: ¥4,500

ドリンク代別途/全自由席/再入場可◎

会場では、靴を脱いでお上がりいただきます。

出演:
花代
夏の大△(大城真、川口貴大、矢代諭史)
青葉市子
MUI
Tomoki Takeuchi
朝吹真秀
藤田貴大・青柳いづみ(マームとジプシー)
Tomoyoshi Date

DJ : Satoshi Ogawa,Yoshitaka Shirakura
PA : zAk

Drink&Food:

あんびえん(最中)
こくらさんのひねもす食堂(おかずとごはん)
あぶさん(貝つまみと日本酒)
ぽんぽこ屋(どぶろく)

空調 : ono
照明 : 渡辺敬之
会場協力:御供秀一郎、うるしさん
イラスト:伊吹印刷

イベントページ : https://www.facebook.com/events/1649012321994600/
予約ページ : https://www.vacant.vc/d/207

Info/Reserve

Profile:

花代 / HANAYO
東京ベルリンを拠点に活躍するアーティスト。写真家、芸妓、ミュージシャン、モデルなど多彩な顔を持つ。自身の日常を幻想的な色彩で切り取る写真やコラージュ、またこうした要素に音楽や立体表現を加えたインスタレーションを発表する。パレ・ド・トーキョーなどの個展、展覧会多数。ボーカルとしてdaisy chainsaw、Panacea、Kai Althoff、Mayo Thompson、Jonathan Bepler、Terre Thaemlitz、秋田昌美、中原昌也となどとコラボレーションする。tony conrad と舞台音楽で共演したり、bernhard willhelmのショウでライブパフォーマンス、そしてJürgen Paapeとカバーしたjoe le taxiはSoulwaxの2ManyDjsに使われ大ヒットした。写真作品集に『ハナヨメ』『MAGMA』『berlin』、音楽アルバム『 Gift /献上』『wooden veil』などがある。ギャラリー小柳所属。
www.hanayo.com

夏の大△
大城真、川口貴大、矢代諭史の3人による展示/ライヴ・パフォーマンスを行うグループ。2010年大阪の梅香堂での展示「夏の大△(なつのだいさんかく)」を発端に、活動を始める。
www.decoy-releases.tumblr.com

大城真 / MAKOTO OHSHIRO
音を出すために自作した道具、または手を加えた既製品を使ってライブパフォーマンスを行う。またそれと平行して周期の干渉を利用したインスタレーション作品を発表している。近年は川口貴大、矢代諭史とのユニット”夏の大△”としても活動している。
主なイベント、展覧会に”夏の大△”(2010、大阪 梅香堂)、”Mono-beat cinema”(2010、東京 ICC)、”Cycles”(2013、東京 20202)、Multipletap(2014、ロンドン Cafe OTO)、Festival Bo:m(2014、ソウル Seoul Art Space Mullae)、"Strings"(2014、東京 space dike)等。

川口貴大 / TAKAHIRO KAWAGUCHI
主に音のなるオブジェクトやさまざまな光や風、身の回りにあるモノを自在に組み合わせることで、空間全体をコンポーズしてゆくようなライブパフォーマンスやインスタレーションの展示、音源作品の発表を行う。ソロの他の活動では、大城真、矢代聡とのトリオ“夏の大△”、アキビン吹奏楽団“アキビンオオケストラ”、スライドホイッスルアンサンブル“Active RecoveringMusic”が今でもアクティヴ。最近では今までのリリース作品をお金だけでなくモノや出来事とでも買うことが出来るようにするプロジェクトを行っていて、ポルトガルの購入者から郷土料理のレシピを手に入れたり、メキシコに住む購入者の母親の育てた多肉植物を輸入しようと試みている。あとはTEE PARTYでTシャツ作ったり(www.teeparty.jp/products/list.php?mode=search&artist_id=92)DMM.MAKEでコラム書いたり(www.media.dmm-make.com/maker/293/#)もしてます。
www.takahirokawaguchi.tumblr.com/

矢代諭史 / SATOSHI YASHIRO
2003年より自走するウーハーや自作の装置による展示や演奏を始める。同時期より東京墨田区の『八広HIGHTI』の運営などを行い始める。ドラムと動くウーハーのバンド『Motallica』などの活動も行っている。
最近の主な展示:
2010年 「夏の大△」(梅香堂 大阪)
2011年 「Extended Senses」(Gallery Loop 韓国)

青葉市子 / ICHIKO AOBA
音楽家。1990年生まれ。2010年アルバム『剃刀乙女』でデビュー。
これまでに4枚のソロアルバムを発表。2014年には舞台「小指の思い出」でkan sano、山本達久と共に劇伴・演奏を担当。12月にはマヒトゥ・ザ・ピーポーと結成したユニットNUUAMMの1stアルバム「NUUAMM」をリリース。2015年夏にはマームとジプシーの舞台「cocoon」に女優として参加予定。その他CM音楽、ナレーション、作詞家、エッセイ等さまざまな分野で活動中。
www.ichikoaoba.com

MUI
tomoyoshi date, hiroki ono, takeshi tsubakiからなるアンビエントバンド。数多の諸概念・主義主張を融解する中庸思想を共有しながら、所作と無為を心がけ活動中。
www.facebook.com/mui61mui

tomoki takeuchi
幼少より音楽に興味を持ち4歳からバイオリンを始める。バイオリンを中心としたライブパフォーマンスで様々なイベントに出演し国内外の音楽家と共演する。また、バイオリン奏者としても様々な音楽家とのコラボレーションを重ねる。2013年から音楽レーベル「邂逅 (kaico)」を主宰。
www.tomokitakeuchi.tumblr.com

朝吹真秀 / MASAHIDE ASABUKI
「思い返せば26才に発病した28年周期の躁鬱二型に振り回されていただけ」と語る朝吹氏は絵画、デザイン、彫刻、舞踏、舞台美術、音響、照明、フリークライミング、家具制作、パートドベール、とんぼ玉と多岐に渡る活動を経てきたが一環して続いたのは15才からのオートバイだけである。いま60才に60台めのバイクに乗り、舞踏家ではなくダンサーとして鬱から脱出しつつある。

青柳いづみ / IZUMI AOYAGI
女優。東京都出身。2007年マームとジプシーに参加。翌年、チェルフィッチュに『三月の5日間』ザルツブルグ公演から参加。以降両劇団を平行して活動。2013年今日マチ子(漫画家)の代表作『cocoon』、2014年川上未映子(小説家)の書き下ろしテキストでの一人芝居『まえのひ』に出演。近年は飴屋法水(演出家)や金氏徹平(現代美術家)とも共同で作品を発表。2015年6月から8月にかけて全6都市を巡る全国ツアー『cocoon』に出演予定。

藤田貴大 / TAKAHIRO FUJITA
演劇作家/マームとジプシー主宰。北海道伊達市出身。2007年マームとジプシー旗揚げ。2012年「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で26歳の若さで第56回岸田國士戯曲賞受賞。同じシーンを高速でくり返すことで変移させていく「リフレイン」の手法を用いた抒情的な世界で作品ごとに注目を集め、2ヶ月に1本のペースで演劇作品の発表を続ける。自身のオリジナル作品と並行して、2012年より音楽家や歌人、ブックデザイナーなど様々なジャンルの作家と共作を発表。2013年5月「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」にて初の海外公演を成功させ、翌年ボスニア・イタリア5都市を巡るツアーを行う。2013年8月漫画家・今日マチ子の原作である「cocoon」の舞台化に成功。

Tomoyoshi Date
1977年ブラジル・サンパウロ生まれ。3歳の時に日本へ移住。 ロック、ジャズ、ポスト・ロックなどを経て90年代後半より電子音楽を開始。 ソロ作品に加え、Opitope、ILLUHA、Melodiaとして活動するほか、中村としまる、KenIkeda、坂本龍一、TaylorDeupreeとも共作を重ね、世界各国のレーベルから14枚のフルアルバムをリリース。 西洋医学・東洋医学を併用する医師でもあり、2014年10月にアンビエント・クリニック「つゆくさ医院」を開院 (https://tsuyukusa.tokyo)。随筆家としてelekingで「音と心と体のカルテ」連載中(https://www.ele-king.net/columns/regulars/otokokorokaradakarte/#004182)。漢方と食事と精神の指南書「からだとこころと環境」をeleking booksより発売。
www.tomoyoshidate.info

小川哲​ / SATOSHI OGAWA
イラストレーター。風景やモノを中心に、パターンワークやシンプルな形を使用したミニマルでリズミカルな作画で書籍や雑誌、CDジャケットを中心に活動。また音楽制作会社での勤務経験をもとに、ミュージックガイド「5X5ZINE」の制作/刊行を定期的におこなっている。
https://satoshiogawa.com/

YOSHITAKA SHIRAKURA
ノイズ・アヴァンギャルド、テクノとの混合、前衛的な”間”とビートの高揚感が、空間を特異に歪ませていく。 テクノとノイズを越境するパーティー”Conflux”を、代官山Saloonにて主催している。写真家としても活動し、様々なライブ、アーティストを撮影し、制作担当として映画『ドキュメント灰野敬二』にも関わる。
https://ysrn13.wix.com/yoshitaka-shirakura

Drink&Food:

あんびえん
餡子作りという限られた材料を元に独自の配合を研究し、日々理想の餡子を模索し続ける小豆研究家、池谷一樹によるケータリング餡子屋。一丁焼きたい焼き屋を目指し日々試行錯誤を繰り返している。今回は最中をまた同時にadzuki名義で活動する音楽家でもある。
https://adzuki-music.tumblr.com/

こくらさんのひねもす食堂
本業とは別に、生活の大切な一部として食に向かう。なんてことない料理でひねもす(一日中)おもてなしします。

あぶさん
高円寺の「あぶさん」、鴬谷の「うぐいす」、恵比寿の「あこや」と伝説を創りつづけてきた貝料理専門店より、この日限りの絶品貝つまみと日本酒を提供していただきます。

ぽんぽこ屋
手造りどぶろく屋。
無農薬自然農法のお米、神社の御神水から醸される、生きた微生物達の小宇宙は、全細胞が喜び踊る、奇跡の酒。まずは一杯どうぞ。


Pファンクとは何か? - ele-king

 先ごろ来日したばかりのPファンクが、日本ツアーを終えた直後の4月18日、レコード・ストア・デイ2015の限定商品のひとつとして、高額ボックス・セット『Chocolate City: London~P-Funk Live At Metropolis』を発売した。14年のロンドン公演を、DVD1枚、CD2枚、12インチ・シングル2枚という3種類のメディアに収めた作品で、パーラメント名義の75年作品『Chocolate City』の40周年記念にかこつけた豪華装丁版。品のある茶色の外箱はチョコレート・ボックス風の仕様、アナログ盤はマイルドとビターのチョコレート・コーティングをイメージした彩色が施されている。ふと思いついて今年の限定商品を価格順でソートしてみたら、案の定、一番の高額商品だった。買うんだから高いの出さないでよ~、と泣く泣く購入したが、公式ライヴ作品ならではのカメラ・ワークと鮮明な映像で、いつも通りの“Ain't no party like a P-Funk party(Pファンクのようなショーをやるバンドは他にない)”な楽しいライヴと、画面いっぱいに弾けるジョージ・クリントンの笑顔を見たら、なんかもう高かったけどいいやという気持ちになった。
 さて、いつも普通に「Pファンク」と言っているが、冒頭に紹介した高額ボックス・セットは「ジョージ・クリントン」名義だ。それ以外にも、長いキャリアの中で行なわれたツアーや発表された作品は、「ファンカデリック」名義、「パーラメント」名義、それに「Pファンク・オールスターズ」名義もある。こうした名義の多さはPファンクの実体をわかりにくくしている要因のひとつだと思うので、今回はこれらの名義に着目しながら、Pファンクの軌跡を大まかに辿ってみよう。

 そもそもの始まりは、まだ学生だったジョージが50年代後半に結成したドゥーワップ・グループ「ザ・パーラメンツ」だ。当初はバック・バンドともどもスーツでキメていたが、60年代半ばくらいまでにバンドに定着した十代の若者たち(ビリー・ベースや故エディ・ヘイゼルなど)は、当事、流行していたブリティッシュ・ロックの影響を受けてサイケなファッションに身を包み、クリームやジミ・ヘンドリックスなどを好んで聴いていた。ジョージもさすがにドゥーワップはもう時代遅れだと感じていたため、若い彼らの志向性を全面的に取り入れることに決め、その上で“Go crazy!”と号令を掛けた。これを境に、メンバーは競うように奇抜な衣装を着用するようになり、ジョージに至っては顔を出す穴を開けたシーツを全裸の上にはおるだけなど、クレイジーさに拍車をかけていった。つまり“Go crazy!(クレイジーになれ!)”の号令こそが、“Ain't no party like a P-Funk party”なライヴを展開するPファンクの現在の姿に直結する基盤を築いたのだ。
 そのうちバック・バンドには「ファンカデリック」という名前がつき、相前後して契約上の問題で「ザ・パーラメンツ」名義が使えなくなったため、ヴォーカル陣とバック・バンドはひとまとまりのサイケなファンク・ロック・バンド「ファンカデリック」となって、この名義でツアーをし、60年代終盤にはこの名義でレコード契約も結んで、年1作ペースでアルバムを発表するようになった。一方の「ザ・パーラメンツ」も名義の使用権が戻ったが、あまりに古臭いという理由で「パーラメント」に改名。70年には単発契約ながら『オズミウム』を出し、「ファンカデリック」名義の作品での音楽性を、もう少しポップにしてみたが、その試みはそれっきりになった。
 そして時は70年代半ば。ジョージはブーツィー・コリンズとの協力体制の下で、もはや有名無実化していた「パーラメント」をファンク部門の名義に仕立て直して再始動させた。これ以後、総がかりでレコーディングした曲を、「ファンカデリック」にはギター重視のファンク・ロック、「パーラメント」にはヴォーカルとホーンズを前面に立てたファンク、という基本方針にしたがって振り分け、それぞれの名義のアルバムを発表するという二本立ての体制が整い、一気に全盛期に突入する。当時のツアーは「パーラメント/ファンカデリック」名義で回り、ライヴ盤でも有名な「アース・ツアー」をはじめ、ステージ上にマザーシップが降り立つ壮大なショーを全米各地で展開。それが宗教的な熱狂を伴って迎え入れられたのはご存知のとおりだ。
 だが80年代に入ると比較的安価なシンセサイザーが普及したため、猫も杓子もエレクトロ化して人員削減するようになり、この風潮は大所帯のセルフ・コンテインドが基本で経費がかさむファンク・バンドにとって、大きな逆風となった。ちょうどその頃、ジョージが新たに立ち上げたレーベル、アンクル・ジャムの頓挫という事情も重なって、Pファンクは一派離散という最悪の状況に陥った。しかしいつの間にかエレクトロにも対応していたジョージは、自分の名前でソロ契約を結ぶと“Atomic Dog”の大ヒットを出して鮮やかに蘇り、「Pファンク・オール・スターズ」名義の大所帯バンドによるツアーを再開。この時の驚異的にタイトなライヴの記録は、ライヴ盤『Live At The Beverly Theater』に残されている。しかし“Atomic Dog”級の大ヒットが続かなかったため、大所帯バンドでのライヴは続行不可能となり、活動は再度、停滞した。80年代後半には、Pファンクはこのままフェイド・アウトしてしまうのかと思われたが、そんな矢先、当事、急速に人気を高めていたヒップホップのサンプリングによって、にわかにPファンクの再評価が進み、欧米のみならず日本でも、予期せぬPファンク・ブームが巻き起こった。そうした中で迎えた89年の初来日公演は、「うわ大勢いる。ジョージどれ? うわ音大きい。うわ全然、終わらない」と、生まれて初めて体験するPファンクの長尺ライヴの間中、興奮しっ放しだった。
 この頃は「Pファンク・オールスターズ」名義を使うことが多かったが、94年になると、ジョージは唐突に「パーラメント/ファンカデリック」名義を復活させた。何か重大な意味が? と、当時はいろいろ深読みしたが、たぶんその時その時で権利がクリアーになっていて使える名義の中で、最もインパクトのある名義を使う、というくらいのことだったのだろうと今は思っている。その後は「Pファンク・オールスターズ」だったり「パーラメント/ファンカデリック」だったり、わりと適当な感じだったし、要は名義が何であろうと実体はひとつ、難しく考えて振り回されることはない、ということだ。試みに、現在の形態に最も沿った呼称を考えるとすれば、「ジョージ・クリントン&ファンカデリック」になるだろうか。その理由は、「ザ・パーラメンツ」に端を発する「パーラメント」名義はヴォーカル・グループ、もしくはブーツィーを巻き込んだレコーディング・プロジェクトに使うのが相応しく、バンドのメンバーたちは今も、自分たちは「ファンカデリック」である、という意識が強いからだ。
 では「Pファンク」という名義は? ということになるが、これは「パーラメント/ファンカデリック」や「Pファンク・オールスターズ」などと同様、ジョージと彼が率いるグループの総体の呼称。だがたぶん商標登録が関わってくるような正式な名義ではなく、カジュアルな呼称だと思うので、厳密な区別が必要ない時は、いつでも使える便利な言葉だ。余談ながら、この言葉が公式に使われたのは、76年にパーラメント名義で発表された『Mothership Connection』収録曲の“P-Funk”が最初だが、もともとは単に「パーラメント」+「ファンカデリック」を略した通称的なものだったのではないかと思う。「ファンカデリック」名義でひとまとまりになっていた頃の67年には、“Parliafunkadelicment Thang”というマネージメント会社が設立されているので、たとえば“Parliafunk”→“Parfunk”→“P-Funk”とかいう具合に変化しながら、会社の通称として始まった可能性もある。“P”の意味を問われたジョージが“Pure”、“Perfect”、“Pee”など、“P”で始まる単語を列挙して、「最高のものから最低なものまで全部さ!」などと言うのを聞いたり読んだりしたことがあるかもしれないが、たぶんそれは、サーヴィス精神旺盛なジョージの、楽しい後付けだろうと思っている。
 蛇足ながら最後にもうひとつ。昨年秋に出版されたジョージの自伝『Brothas Be, Yo Like George Clinton Ain't That Funkin' Hard On You?』にも書かれていたので、もう言っていいと思うが、ジョージは長年の悪癖だったドラッグをついに断ち切った。そのため、直近の4度の来日、つまり09年の東京ジャズ、11、13、15年のビルボード・ライヴでの公演では、そのたびに前回より元気になっているという信じられない事態が起こっている。さらには40ポンドだったかの減量にも成功して、動作のひとつひとつも目に見えて身軽になった。00年、02年の来日時、そして06年に米東海岸のライヴを見に行った時には、話しかけるのもはばかられるくらい、傍目にも健康状態の悪さがわかって気掛かりだっただけに、近年のジョージの健康的な姿を見ると感慨もひとしおだ。今年7月の誕生日で74歳になるが、次回の来日でも今回よりさらに元気な姿で現れて、“Ain't no party like a P-Funk party”な、とびきり楽しいショーを見せてほしい。それもできれば3時間超のヤツを!

「ハテナ・フランセ」 - ele-king

  ボンジュールみなさん。本日のお題はフランスのお家芸のひとつ、デモとストライキ。

 ある日、フランスの国営ラジオの中でも若者向けでイケてるとされるLe Mouv’を聞きながら、そういや今日DJがしゃべんないなあと思っていた矢先「ただいまストライキのため、皆様のお聞きの放送は通常の放送ではありません。ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください」と流れた。
 あ、そういやフランスはラジオもストライキするんだったと思い出し、そんな時はどうなるんだっけと興味本位でしばらく放送を聴き続けると、ホワイト・ストライプス「Seven Nation Army」やら、最近テレビでもかかりまくってるブランディ&モニカの「The Boy is Mine」の恐ろしくダッサいフランス語カヴァーから、フランスの新人ラッパー、ジョルジオの曲までまあ脈絡のない選曲。
 というかそれすらしてなくて、局のライブラリーをランダムに放送してるだけかと思える曲たちが、数時間も聞いていると一回りしてもう一回掛かったりする、というどう見てもひどいとしか言いようのない放送が流れていた。
 フランスの国営ラジオはニュース/文化中心、クラシック中心、ジャズ中心、若者向けなど7局もの放送局を抱えているのだが、全部の局がその調子じゃいまだにラジオが重要なカルチャー発信源の一つとなっているフランスではオーディエンスのフランストレーションは結構なはず。しかもその時点で調べるとストライキは25日に突入です! とのこと。
 え? こんな放送なき放送が1ヶ月近く垂れ流されてるなんて、いい加減オーディエンスは怒るでしょ、と思いきや、周りのフランス人は「いや、これは彼らの権利だからね」とちょっと自慢げ。あれ、そこお国自慢のポイントだったっけ? と思ってハタとフランス人の権利好きを思い出した。

2012年5月1日メイデイ。労働組合は共産系が多い。cgtは炭鉱や工場など肉体労働者のための労働組合。photos by Cédric Gaury

 フランス人の子供が3〜4歳くらいから兄弟喧嘩で頻繁に使うようになる言葉の一つに「T’as pas le droit!」、直訳すると「おまえにそんな権利はないぞ!」というのがあり、意味合いとしては「やめろやい!」ということなんだが、ちびっこが権利なんて言葉使うんだ!? と最初は違和感を感じたものである。かようにフランス人は自分の権利に敏感でそれを主張するのが好きであり、その発露の一つがデモであり、ストライキなんである。
 ここでデモとストライキの簡単な定義を。この二つが違うのはわかってるけど、時々混同しちゃって「一緒にしちゃダメ!」とフランス人にプンスカ怒られる。デモは、日本でも反原発デモなどでも知られる通り、ひとつの思想なりスローガンなりの元に人が集まりその主張を行う行為で、フランス人のデモは行進とだいたいワンセット。5月1日はフランスでもメーデーであり、毎年パリでも労働組合を中心として労働条件の改善を声高に唱える大規模なデモ行進(祭りと密かに私は思っているが)が行われる。そしてストライキは労働者が雇用者に労働条件の改善などを求めて労働を行わないで抗議すること。デモで主張してもダメな場合は実力行使、と。

 ちなみに皆さんはもうご存知かもしれないが&日本もだいたい同じかもしれないが、このストライキの構造だが、まずは社員11名以上の会社では労働組合を組織することが義務付けられているのだが、その労働組合員代表は社員の投票によって決まる。そして、その組合員はフランスで正式に認められている労働組合連合に所属していることが多い。会社との交渉が行われる際はそういった労働組合連合を使ったほうがノウハウもあったり、ビラのコピーとか決起集会用ののぼりを作ってくれたりして便利らしい。そして交渉が決裂するとストライキをすることになるのだが、参加する社員は有給を使うことになる。ストライキをするかしないかはもちろんそれぞれの自由。しない人はしない人で主張があって、彼らも議論に応戦する体制はいつどんな時もバッチリできている。その時のよくある理論が「組合は自分たちと会社とのパワーゲームに勝つことに気を取られて、社員の利益を真に追求していない」というもの。

 旅行者がよく遭遇するストライキ体験は、航空会社エール・フランスのストライキで飛行機が飛ばないとか、タクシーがストライキで空港をぐるっと取り囲みパリ市内まで物騒なメトロに乗ってくるしか方法が無くて大変な思いをしたとか。世界一の観光地にして花の都パリは、綺麗かもしれない(あ、清潔とは違いますよ)がトラップがそこらじゅうに仕掛けてある刺激的な街でもあるのだ。
 そしてフランスの国民が日常的に遭遇するストライキ体験がメトロのストライキである。パリのメトロは東京のそれに比べると時間も正確じゃないし、故障やらなんやらで遅れることもしばしばだが、ストライキに入るとそれに加えて普段のダイヤの1/3やら1/2やらになる。そうなるともう通勤通学網は大混乱。それでもパリは山手線内にはいってしまうくらい小さいので、市内なら時間は多少かかっても最悪歩いて目的地まで行き着けることもあるが、郊外に住んでいるとそうはいかず、仕方なく普段の何倍もの時間をかけて通勤通学する羽目になる。
 そうするとフランス人のお得意のアレが出る。口を尖らせて「プー」と大げさにため息を吐くアレである。肩をすくめたり、目をぐるっと回したりするのと並んでのザ・おフレンチなゼスチャーのひとつ。ストライキ中の郊外の駅では「プー」の大合唱なのだ。もちろん私もここぞとばかりに張り切ってやる。まあ、権利権利というからには「ストライキ時にはぜったい文句は言わない」と豪語するフランス人もいるにはいるが、心の中では彼らだって「プー」なはずである。
 でもそうやって文句が言えなくなるとフランス人は生きていないので、彼らは生活が便利になりすぎるのを恐れているのでは、というのが私の持論だ。生活が味気なくなっちゃう、と。私に言わせればフランスでの生活は味気があり過ぎですけどね。

 兎にも角にもフランス人にとってストライキとはジュテーム・モア・ノンプリュな愛憎半ばする国民的行事なのではないかと思う。

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