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「ハテナ・フランセ」

「ハテナ・フランセ」

番外編:パリ郊外の灯は遠く

山田容子 May 26,2015 UP

  ボンジュールみなさん。本日のお題はフランスのお家芸のひとつ、デモとストライキ。

 ある日、フランスの国営ラジオの中でも若者向けでイケてるとされるLe Mouv’を聞きながら、そういや今日DJがしゃべんないなあと思っていた矢先「ただいまストライキのため、皆様のお聞きの放送は通常の放送ではありません。ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください」と流れた。
 あ、そういやフランスはラジオもストライキするんだったと思い出し、そんな時はどうなるんだっけと興味本位でしばらく放送を聴き続けると、ホワイト・ストライプス「Seven Nation Army」やら、最近テレビでもかかりまくってるブランディ&モニカの「The Boy is Mine」の恐ろしくダッサいフランス語カヴァーから、フランスの新人ラッパー、ジョルジオの曲までまあ脈絡のない選曲。
 というかそれすらしてなくて、局のライブラリーをランダムに放送してるだけかと思える曲たちが、数時間も聞いていると一回りしてもう一回掛かったりする、というどう見てもひどいとしか言いようのない放送が流れていた。
 フランスの国営ラジオはニュース/文化中心、クラシック中心、ジャズ中心、若者向けなど7局もの放送局を抱えているのだが、全部の局がその調子じゃいまだにラジオが重要なカルチャー発信源の一つとなっているフランスではオーディエンスのフランストレーションは結構なはず。しかもその時点で調べるとストライキは25日に突入です! とのこと。
 え? こんな放送なき放送が1ヶ月近く垂れ流されてるなんて、いい加減オーディエンスは怒るでしょ、と思いきや、周りのフランス人は「いや、これは彼らの権利だからね」とちょっと自慢げ。あれ、そこお国自慢のポイントだったっけ? と思ってハタとフランス人の権利好きを思い出した。

2012年5月1日メイデイ。労働組合は共産系が多い。cgtは炭鉱や工場など肉体労働者のための労働組合。photos by Cédric Gaury

 フランス人の子供が3〜4歳くらいから兄弟喧嘩で頻繁に使うようになる言葉の一つに「T’as pas le droit!」、直訳すると「おまえにそんな権利はないぞ!」というのがあり、意味合いとしては「やめろやい!」ということなんだが、ちびっこが権利なんて言葉使うんだ!? と最初は違和感を感じたものである。かようにフランス人は自分の権利に敏感でそれを主張するのが好きであり、その発露の一つがデモであり、ストライキなんである。
 ここでデモとストライキの簡単な定義を。この二つが違うのはわかってるけど、時々混同しちゃって「一緒にしちゃダメ!」とフランス人にプンスカ怒られる。デモは、日本でも反原発デモなどでも知られる通り、ひとつの思想なりスローガンなりの元に人が集まりその主張を行う行為で、フランス人のデモは行進とだいたいワンセット。5月1日はフランスでもメーデーであり、毎年パリでも労働組合を中心として労働条件の改善を声高に唱える大規模なデモ行進(祭りと密かに私は思っているが)が行われる。そしてストライキは労働者が雇用者に労働条件の改善などを求めて労働を行わないで抗議すること。デモで主張してもダメな場合は実力行使、と。

 ちなみに皆さんはもうご存知かもしれないが&日本もだいたい同じかもしれないが、このストライキの構造だが、まずは社員11名以上の会社では労働組合を組織することが義務付けられているのだが、その労働組合員代表は社員の投票によって決まる。そして、その組合員はフランスで正式に認められている労働組合連合に所属していることが多い。会社との交渉が行われる際はそういった労働組合連合を使ったほうがノウハウもあったり、ビラのコピーとか決起集会用ののぼりを作ってくれたりして便利らしい。そして交渉が決裂するとストライキをすることになるのだが、参加する社員は有給を使うことになる。ストライキをするかしないかはもちろんそれぞれの自由。しない人はしない人で主張があって、彼らも議論に応戦する体制はいつどんな時もバッチリできている。その時のよくある理論が「組合は自分たちと会社とのパワーゲームに勝つことに気を取られて、社員の利益を真に追求していない」というもの。

 旅行者がよく遭遇するストライキ体験は、航空会社エール・フランスのストライキで飛行機が飛ばないとか、タクシーがストライキで空港をぐるっと取り囲みパリ市内まで物騒なメトロに乗ってくるしか方法が無くて大変な思いをしたとか。世界一の観光地にして花の都パリは、綺麗かもしれない(あ、清潔とは違いますよ)がトラップがそこらじゅうに仕掛けてある刺激的な街でもあるのだ。
 そしてフランスの国民が日常的に遭遇するストライキ体験がメトロのストライキである。パリのメトロは東京のそれに比べると時間も正確じゃないし、故障やらなんやらで遅れることもしばしばだが、ストライキに入るとそれに加えて普段のダイヤの1/3やら1/2やらになる。そうなるともう通勤通学網は大混乱。それでもパリは山手線内にはいってしまうくらい小さいので、市内なら時間は多少かかっても最悪歩いて目的地まで行き着けることもあるが、郊外に住んでいるとそうはいかず、仕方なく普段の何倍もの時間をかけて通勤通学する羽目になる。
 そうするとフランス人のお得意のアレが出る。口を尖らせて「プー」と大げさにため息を吐くアレである。肩をすくめたり、目をぐるっと回したりするのと並んでのザ・おフレンチなゼスチャーのひとつ。ストライキ中の郊外の駅では「プー」の大合唱なのだ。もちろん私もここぞとばかりに張り切ってやる。まあ、権利権利というからには「ストライキ時にはぜったい文句は言わない」と豪語するフランス人もいるにはいるが、心の中では彼らだって「プー」なはずである。
 でもそうやって文句が言えなくなるとフランス人は生きていないので、彼らは生活が便利になりすぎるのを恐れているのでは、というのが私の持論だ。生活が味気なくなっちゃう、と。私に言わせればフランスでの生活は味気があり過ぎですけどね。

 兎にも角にもフランス人にとってストライキとはジュテーム・モア・ノンプリュな愛憎半ばする国民的行事なのではないかと思う。

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