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OMSB

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Mr.“All Bad”Jordan

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中里 友   Dec 12,2012 UP
E王

 自らを認めようとしないシステムや大人、偏見、閉鎖的なシーン、ひいては音楽業界......そのすべてにOMSBは中指を突き立てる。満を持してのリリースとなったOMSBのソロ・アルバム『ミスター"オール・バッド"ジョーダン』は、とてもエモーショナルで自身のパーソナリティに深く触れる内容だが、同時に外にも開かれた作品となった。力強いプライドを漲らせ、凄みすら感じさせる彼のラップからは、現状を変えたいと願う強い想いが伝わってくる。ここまで本作を熱量の高いものにしたのには、これまで、トラック・メイカーとしても多くの楽曲を発表する彼が、ラップ・アルバムにこだわったところに理由があるように思う。

 たとえば、ランDMCの"サッカー・Mcズ"のドラムからはじまる、その名もズバリ"ラッパー・エイント・クール"には、現行の日本語ラップに対する鋭い考察がある。「言葉遊びはもちろん大事だが/Flowの遊びは皆度外視(略)ストーリーテラーでもSlick RickみたいなFreakyさが無い(略)正統派のTake Over/つまり継承者なんて誰も居やしねぇじゃん」。「Flowの遊び」とは、ラップの抑揚や緩急のアクセントといった、おもに音楽性の部分を示し、その研鑽の無さを嘆いている。実際このアルバムで聴けるOMSBのラップの魅力は、ビートに即した性急なライミングとそのアグレッシヴなフロウにある。全曲トラックを手がける彼の別の顔が、ラッパーとしての彼にフィードバックを与えていることも強調しておくべきだろう。そのトラック群は、全体的にダークなトーンだが、上モノの豊富さや展開の妙でまったく飽きさせない。まるで、MFドゥームのファンクネスが、El-Pのインダストリアルで実験的なトラックに注入されているようだ。

 つづいて、ストーリー・テリングについて、物語としての飛躍力が足りないのではと言及する部分。稀代のリリシスト、スリック・リックと比べるのは少々酷かもしれないが、彼はUSラップと日本語ラップを対等の土俵に引き上げたいと思うからこそ、そうラップするのではないか。ケンドリック・ラマーに対してライバル心を燃やす男なのだから、そう考えても不思議ではない。ここで、USでのラップの聴かれ方について考えてみる。たとえば、前述のケンドリック・ラマーの最新作『グッド・キッド、マッド・シティ』がなぜあれだけ評論家筋に賛辞をもって受け入れられたのか。それは単に音楽として優れているというだけでなく、コンプトンでのどん詰まりな日々を自身への訓戒を込めて綴ったリリックがあったからこそである。つまりは詩と音楽性、そのどちらにも比重を置くラップをすることが、ストリートの詩人として、ラッパーに求められるものなのかもしれない。つまりは"ラッパー・エイント・クール"で客演をつとめるJUMAのウィットなパンチライン「オマエはラッパーじゃない!/ただのラップする人/ラッパーじゃなーっい!」に尽きる。

 とまれ、『ミスター"オール・バッド"ジョーダン』はその実、すばらしいコンセプト・アルバムにもなっている。ハーフで複雑なバックボーンを持つ彼の自伝的な作風であるにも関わらず、示唆に富んでいるという意味では普遍性もある。彼が抱えるドス黒い否定の情念は、おそらくは自分の居場所を求める気持ちの表れだ。クラブ、職場、いまの住まいであるアパート、ほとんどの曲で彼はその居心地の悪さをラップしている。自分の境遇を「生まれのハンディキャップ」と呪い、「あぁそうだ、ここは多分......」と回想を繰り返すなかでは気の触れた狂気にとりつかれる。しかし、クローザー・トラックの"ハッスル2112"が指し示すように、OMSBはこのアルバムが100年先も再生される明るい未来を想って、締めくくる。

 出自のコンプレックスをいたずらに刺激する警察官への反抗ソング"ファック・ザ・フェイク・ポリシア"。この曲の共演者であるDyyPRIDEの歌い出しはこうだ。「悪者風イメージ レッテル/張られた俺/道踏み外し走ってく」。奇しくもこれに、ECD著『いるべき場所』にあった「ラップに限らず音楽、芸術はむしろまともな人生を踏み外すためにあると僕は信じていた。」という一文を思い返した。道を踏み外した彼らが音楽によってむしろ逆説的に居場所を取り返そうとする行為は、マイノリティーの集合体としてのSIMI LABを最初に知ったときの印象だ。リーダーのQNが抜けて本隊にどう影響が及ぶか、危ぶまれた時期もあったが、いまではJUMAとUSOWAが穴を埋めて余りある強い存在感を出し、第2期SIMI LABを支えている(個人的に、JUMAは大好きなラッパーのひとりだ)。ラージ・プロフェッサーとの共演や、今作が耳にとまったレイダー・クランのメンバーからアプローチを受けるなど、OMSBを取り巻く周囲の状況は少しずつだが、望むべき方向へ進んでいっているようにみえる。話は戻るが、先に参照した「正統派のTake Over/つまり継承者なんて誰も居やしねぇじゃん」はじつにうまい名文句だと思う。エルヴィス・プレスリーもたしか、新たなスタイルは反逆のなかから出てくると言っていたけど、このゲームはいつだって意外なヤツが制するのだ。

 蛇足になるが、このアルバムの冒頭部分にはボーナスでマイナス・トラックが収録されており、PCでリッピングするだけではわからない仕掛けがある。さらに言うと、このボーナス・トラックの歌詞も、パッケージのどこかに隠されている。こうした細部に凝らした遊び心も忘れない、愛すべき名盤だと僕は思う。

中里 友