「R」と一致するもの

MALA IN JAPAN TOUR 2013 - ele-king

 UKダブステップ・シーンのオリジネイターのひとり、シーンの精神的支柱のひとり、アンダーグラウンドの栄光、ダブ/レゲエからの影響をミキシングしたドープなサウンドでファンを魅了し、そして昨年の『マーラ・イン・キューバ』が国際的にヒットしたマーラが4月の後半、来日します。待望の再々来日ですね!
 盟友、ゴストラッドも出演します。行きましょう。

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〈MALA IN JAPAN TOUR 2013〉
4/19(FRI) 沖縄 at LOVE BALL 098-867-0002
4/20(SAT) 東京 at UNIT 03-5459-8630 www.unit-tokyo.com
4/21(SUN) 大阪 at CONPASS 06-6243-1666 https://www.zettai-mu.net/ https://conpass.jp
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DBS presents
"MALA IN JAPAN"

2013.4.20 (SAT) at UNIT

feat. MALA - DIGITAL MYSTIKZ

with: GOTH-TRAD
Jah-Light
Helktram

Vj:SO IN THE HOUSE

open/start 23:30
adv. 3150yen door.3800yen

info. 03.5459.8630 UNIT
https://www.dbs-tokyo.com

★UKダブステップ界の最重要人物MALA-DIGITAL MYSTIKZ。その存在はシーンのみならずジェイムス・ブレイク、エイドリアン・シャーウッド、ジャイルス・ピーターソン、フランソワKら世界中からリスペクトされている。キューバ音楽の精髄を独自の音楽観で昇華した金字塔アルバム『MALA IN CUBA』でネクストレヴェルへ突入、UKベースカルチャーとキューバのルーツミュージックを見事に融合させた音楽革命家である!4/20 (土)代官山UNITで開催する"MALA IN JAPAN"は、MALAの音を200%体感すべくUNITが誇るハイパワー高品質サウンドに加え、超強力サブウーファーを導入決定!共演はMALAのレーベル、DEEP MEDiの主力となる日本の至宝GOTH-TRAD。"Come meditate on bass weight!!!!!!!!!!!!!!!!" one love

★MALA - DIGITAL MYSTIKZ (DMZ, Deep Medi Musik, UK)
ダブステップのパイオニア、そしてシーンの精神的支柱となるMALA。サウス・ロンドン出身のMALAは相棒COKIとのプロダクションデュオ、DIGITAL MYSTIKZとして名高い。ジャングル/ドラム&ベース、ダブ/ルーツ・レゲエ、UKガラージ等の影響下に育った彼らは、独自の重低音ビーツを生み出すべく制作を始め、アンダーグラウンドから胎動したダブステップ・シーンの中核となる。'03年にBig Apple Recordsから"Pathways EP"をリリース、'04年には盟友のLOEFAHを交え自分達のレーベル、DMZを旗揚げ、本格的なリリースを展開していく。そして名門Rephlexのコンピレーション『GRIME 2』にフィーチャーされ、脚光を浴びる。また'05年からDMZのクラブナイトを開催、ブリクストン、リーズでのレギュラーで着実に支持者を増やし、ヨーロッパ各国やアメリカにも波及する。'06年にはDMZから"Ancient Memories"、"Haunted / Anit War Dub"のリリースの他、Soul Jazzからのリリースで知名度を一気に高める。また同年にMALAは自己のレーベル、Deep Medi Musikを設立、以来自作の他にもGOTH-TRAD、KROMESTAR、SKREAM、SILKIE、CALIBRE、PINCHらの作品を続々と送り出し、シーンの最前線に立つ。'10年にはDIGITAL MYSTIKZ 名義となるMALAの1st.アルバム『RETURN II SPACE』がアナログ3枚組でリリース、壮大なスケールでMALAのスピリチュアルな音宇宙を明示する。MALAの才能はFRANCOIS K、ADRIAN SHERWOOD、GILLES PETERSONらからも絶賛される中、GILLESの発案で'11年、彼と一緒にキューバを訪れたMALAは現地の音楽家とセッションを重ね、持ち帰った膨大なサンプル音源を再構築し、'12年9月、GILLESのBrownswoodからアルバム『MALA IN CUBA』を発表(Beatinkから日本盤発売)、キューバのルーツ・ミュージックとMALAのエクスペリメンタルなサウンドが融合し、ワールド・ミュージック/エレクトロニック・ミュージックを革新する。『MALA IN CUBA』によって新次元に突入したMALA、一体どんな旅に誘ってくれるのか必聴の来日公演!"Come meditate on bass weight!"
https://www.dmzuk.com/
https://deepmedi.com/

Ticket outlets:NOW ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code: 193-594)、 LAWSON (L-code: 70189)
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia/https://www.clubberia.com/store/
渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、
TECHNIQUE (5458-4143)、GANBAN (3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、
Dub Store Record Mart(3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

UNIT
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com

David Bowie - ele-king

 昨年末、紙エレキングに「2012年のUKはパンク前夜のようだった」と書いた。
 そして2013年の年頭になり、3月に発売されるというボウイのアルバムのジャケットを見た時には少なからず動揺した。下敷きに使われているのが、1977年にリリースされた『HEROES』のジャケットだったからである。

 また、同じ記事のなかで、アラセヴ(アラウンド70)のアーティストたちについて、「前へ、もっと前へ進もうとする高齢アーティストを敬愛する。時間軸で言えば、前方とは老いであり、アンチエイジングは後退だ」とも書いた。だから、ボウイのジャケットにはいよいよ動揺した。中央の白いスクウェアのなかに『The Next Day』と記されていたからである。

 「Today, he definitely has something to say」
 と新譜発表の公式声明には書かれている。
 この時代に、ボウイが言いたいこととは、何なのだろう。

        *************

 ニック・ケイヴの新譜の後に聴いたせいか、1曲目の"The Next Day"が、剥き出しの骨太ロックに聞こえた。「ジョニー・ロットンっぽいと言えば言い過ぎだが、この曲のボウイにはアンガーを感じる」と、FMの深夜番組のDJは言っていた。
 そもそも、わたしはボウイのファンではない。同世代のロックを聴いた人びとにありがちな、一応は聴いておかないと。的な姿勢で学習はしたが、中年(の福岡人)によくいるような、酔うとギター片手に「ジギー・プレーイド・ギーッタアアアアー」と熱唱する元バンドマンでは間違ってもないし、もとより、ロック・スタアというもののアンチテーゼとして登場したジョニー・ロットンに生涯を捧げた女である。ボウイ様に心酔するタイプの娘ではなかったのだ。が、そのボウイ様が、アラセヴになって怒っているとはどういうことだろう。

 1977年のボウイは、UKにはいなかった。『ダブル・ファンタジー』のレノンを思い出すような美しい旋律の"Where Are We Now?"は、彼のベルリン時代を回顧した曲だが、このアルバムは、全編にわたって過去が散りばめられている。"Dirty Boys"がグラム・ロックのバッド・ボーイズを歌ったものであることは間違いないし、壮大なスタジアム・ロックの"The Stars (Are Out Tonight)"は『ヤング・アメリカン』を髣髴とさせる。"Love Is Lost"では、『ロウ』で使ったテクニックを再び使ってみたとトニー・ヴィスコンティが明かしているし、"Dancing Out In Space"は、"ビギナーズ"と"モダン・ラヴ"を思い出す。"(You Will Set) The World On Fire"がティン・マシーン風なら、"Valentine's Day"はどこかキンクスのようでいて、『ジギー・スターダスト』に入っていてもおかしくない。しかし、だからといって、ボウイ博物館のようなアルバムになっていないのは、現在のボウイの声と言葉が前面に出ているからだろう。
 トニー・ヴィスコンティは、『NME』のインタヴューで、「録音中のことで何が一番記憶に残っていますか」と訊かれ、「おかしなことに、ヴォーカルがやたらとラウドだったことだ」と答えている。ボウイは部屋の隅で、10年の沈黙を吹き飛ばすように、嬉々として歌っていたという。
 しかし、当然ながら、ボウイの声は加齢した。その声で、ときには弱々しい声音をわざと演じさえしながら、「Here I am. Not quite dying」、「Wave goodbye to life without pain」とボウイは歌う。これは、体のあちこちが壊れはじめる老年の言葉だ。人は老いる。というファクトの描写である。それはまるで、扉を開くと、『HEROES』の白いスクウェアの奥には、現在のボウイがいたということがわかるCD版のジャケットのようだ。
 過去はあった。しかし、それは過ぎて、『The Next Day』(現在)がある。
 50周年記念のコンサートで息切れしている爺さんたちとか、ツアーでストリップしている元セックス・シンボルの婆さんとか、所謂レジェンドたちがゴシップ広告と興行商売で稼いでいるこの時代に、いったい他の誰が、これほど聡明でクールな老いのロックを聞かせてくれるだろう。ボウイの含羞と美意識は、アンチエイジングという退行を受け容れない。「彼は、新譜の曲をライヴ演奏する気はない」とトニー・ヴィスコンティは言っている。

         ************

 最後になったが、この曲について書かないわけにはいかないだろう。
 「そして僕たちはミシマの犬を見た」
 という歌詞ではじまる"Heat"のボウイは、スコット・ウォーカーかと思った。
 というか、わたしにはスコット・ウォーカーへのオマージュにしか聴こえない。『Bish Bosch』のレヴューでも書いたが、このふたりは、やはり同じコインの裏と表だ。
 裏。のスコットは、異次元の世界の「もっと先へ」進んでいる。
 表。のボウイは、こちら側の世界に留まり、時間軸的な「もっと先へ」進んでいる。
 そういえば、ブライアン・イーノとボウイが、ウォーカー・ブラザーズの『Nite Flights』を聴いて「これ凄いよね」と騒いでいたのも、ベルリン時代だったはずだ。
 UKではパンクが多方面に発展しはじめていた。いろんなことがはじまった時代だった。
 だが、それも過ぎ、遠い日のことになり、わたしたちには現在(The Next Day)が残されている。

Masayoshi Fujita - ele-king

 周知のように、UEFAチャンピオンズリーグ、決勝トーナメント、ベスト16のFCバルセロナとACミランのセカンド・レグは、バルセロナが、鮮やかな、ドラマティックな大逆転劇を果たした。
 僕は、バカを売りにする狡猾なベルルスコーニを忌み嫌うあまり、バルセロナを応援したと先月の原稿で書いたことを後悔した。ミランの露骨なカテナチオ(イタリアの伝統的なガチガチの守備サッカーの呼称)は、アントニオ・ネグリによれば弱いモノが勝つためのイタリアらしい農民的なサッカー(https://chikyuza.net/modules/news1/article.php?storyid=25)らしい。
 実際、ミランの、アフリカ系だかトルコだか、とにかく雑食性豊かな、なりふり構わない戦いには、あり得ないほど華麗で、天才的なバルセロのサッカーにはない心が揺さぶられるものがあった。その雑食性、移民たちのサッカーのことを以前、水越真紀に話したら「それこそ帝国じゃん」と突っ込まれたが、不思議なことに、ネグリではないが、たとえばベルルスコーニが背後にいようと、インテルなんかよりもミランのほうが、いまでも魅力的に見えるのは、僕の過剰なアルコール摂取からくる幻覚なのだろうか。とにかく僕も最初は、メッシの神業レヴェルのゴールに興奮していたのだが、しかし、後半、一生懸命に攻め上がるミラン、トサカ頭のFWやロビーニョを見ながら、数十分だけだが、ミラニスタに情が移っていたのである。そして、テレビを消して、僕はマサヨシ・フジタの『Stories』を聴いた。まったくサッカーとは関係ないが、その試合と同じように超然としていて、寛容さがある。興奮は、清々しさのなかでチルアウトする。

 TMTを真似すれば、これは「エウレカ(ユリーカ)!」、すなわち「発見した!」といったところだろう。この音楽を「アコースティックなデトロイト・テクノ」と評している人がいるけれど、カール・クレイグ~ジョン・ベルトランあたりから導き出せる美麗な旋律をヴィブラフォンで演奏し、電子で味付けたのがこの作品だという紹介はアリかもしれない。僕は、クラスターのハンス・ヨアヒム・レデリウスの牧歌的なソロ作品やスティーヴ・ライヒにおける静謐さを引き合いに出したい。
 彼の内面から、どれだけのエロスを引き出せるか、美を醸成できるか......、そしてそれらは、ただそれを聴くことによって、人に予期しなかった喜びをもたらす。おそろしく見当違いのことを言うが、まるでベートーヴェンだ。僕は『快速マガジン』に投稿するために、先月、岩波文庫の『ベートーヴェンの生涯』を読んでいたのである。これを読むと、音楽は、ただそこにあるだけでも充分に意味があることがわかる。ただそこにあって、美しい熱情を創出できるなら、どんな窮地にいる人間の魂も癒すことができるかもしれない。自分でも思いもつかなかった思いが湧きあがるかもしれない。
 いずれにしても、考えてみれば、実は音楽のない世界を考えられないように、本来音楽は、ただそれだけで、充分なのだろう。マサヨシ・フジタという人は、ベルリンに住んでいるという。いったい、どれほどの日本人がベルリンに住んでいるのだろうかという話ではないが、この人の音楽から特定の都市は感じない。どこで暮らしていようと、この音楽は生まれたように思われる。

 クラシックとジャズとエレクトロニクスが静寂のなかで出会う。日本的な「間の美学」も注入されている。20世紀前葉の室内楽は、特権階級どものクソ忌々しい享楽として授与されていたかもしれないが、今日の電子リスニング・ミュージックは、その外側にいた人たちに受け継がれている。『Stories』に録音されているのは、ヴィブラフォンの演奏だけではない。少ない音数の広大な空間と音響、コンテンポラリーな電子処理がほどこされている。
 マサヨシ・フジタは、El Fog名義でヤン・イェリニクとも共作を果たしている。そちらの作品『Bird, Lake, Objects』は、電子音楽愛好家にとってはよりアプローチしやすい内省的なアンビエントを拡げている。それに対して、『Stories』における電子音は、空気のように控え目だ。ビーズやアルミホイルを用いたプリペアドも取り入れているという。僕には言わなければわからないが......。しかし、彼が演奏するヴィブラフォンにリズミックな躍動があることは感じる。ドラムのないダンス・ミュージック......。
 気むずかしくもなく、いやみったらしくも、すましている感じでもない。高踏的でも、散文的でも、無感動でも、苦悩でもない。コレクター的な趣味を満足させる音楽でもない......というような、ルサンチマン的な書き方、聴き方が我ながら嫌になる。なぜならこれは、とかく音楽とは、とくに大衆音楽は刺激的でなければならないというオブセッションからは数万光年離れている、ポジティヴな意味で厭世的な音楽であり、隠者の音楽であり、そういう意味でも、「ユリーカ!」すなわち「発見した!」なのだ。リコメンド。

Madteo - ele-king

 僕の頭や体のなかではいつのまにかダンス・ミュージックと実験音楽は別々なものに分かれていた。ダンス・ミュージックに実験的なことを期待しても高が知れてるし、このところノイズ・ドローンからテクノへ鞍替えしはじめた流れを聴いていても笑っちゃうようなものが多いし......くらのすけ。アシッド・ハウスが初めてダンスフロアに注入された頃、それらはまさに実験的なものであり、ダンス・ミュージックそのものであった。どちらかではなく、不可分のものとして結びついていた。もっと以前、アート・オブ・ノイズが初めてツバキハウスに轟いたときもそうだったし、リキッド・ルームでプラスティックマンが鳴り響いたときもそれらはそのようであり続けた。アルヴァ・ノトもヤン・イエリネクもけしてベッドルームだけのものではなかった。それがいつのまにか場所と用途に応じて聴き分けるようなものになっていた。フォルダーがひとつでは済まなくなっていた。

 ......それはもっと早くからはじまっていたのかもしれないけれど、僕が「あれ」と思ったのは、昨年、シアトルの〈ファーサー〉やベルリンの〈パン〉といったレーベルを知ってからだった(後者はフリーダー・ブッツマンからNHKまで出している)。細かくいえばハード・ワックスが新設した〈ヒドゥン・ハワイ〉だったり、ダブステップから逸脱した流れもそれなりにぐちゃぐちゃとはあったものの、ミニマルやテクノといった確固たる分類のなかから一見「使えなさそー」なものが現れたという感触は(僕にとっては)久しぶりだった。なかでもリー・ギャンブルには頭を悩ませた。質感はアンディ・ストットと共通しているものの、音圧を上げる要素はほとんどなく、それこそアンディ・ストットから骨格だけを取り出してプラスティックマン仕様にしたようなものだったからである。

 元々はダンス畑ではなかったらしきギャンブルはドラムン・ベースからのサンプリングだけでつくった......にもかかわらず、どこにもその面影は残っていなかった『ディヴァージョンズ(娯楽) 1994-1996 』で話題を集め、そのコンセプトが消化されたとは言えないうちにサード・アルバム『ダッチ・トゥヴァッシャー・プルームス』へと辿り着く。テクノが勢いを持っていた時期のリッチー・ホウティンと違ってミュージック・コンクレートがグルーヴを持ったように聴こえる同作は、その通り、最初に思っていたよりもグルーヴはかなりしっかりとしていて、まるでリュック・フェラーリやフランシス・ドモンで踊っているかのような錯覚にも陥ってくる。オウテカがトッド・ドックステイダーを呼び寄せ、〈モダン・ラヴ〉がダフニー・オーラムを再発してしまうなら、なるほどこういうのもありだろう。モノレイクやポーター・リックスを輩出した〈チェイン・リアクション〉が第2章に突入したという印象もなくはない。

 ギャンブルが(このところミニマル・テクノへの参入が相次ぐ)イギリスからだとすれば、NYからはマテオ・ルツォンがヨーロッパ各地のレーベルを転々とし、4年ぶりとなるセカンド・アルバムは(なんと)ミカ・ファイニオの〈サーコ〉(電気!)からとなった。マイク・インクやフリースタイル・マンをリリースしていたこともあるとはいえ、もはやノイズ・レーベルと化していた〈サーコ〉がダンス・レコードに関心を持っていたこともそれなりに驚かされるけれど、スパークスのロン・メールみたいな風貌のマテオが『我々じゃない』と題したアルバムで解き放っているのはやはりダンス・ミュージックと実験音楽の境界に横たわる「あの一線」である。これまでにいわゆるダブ・テクノや、ときにはクールでソリッドなブレイクビーツを聴かせていたマテオはオープニングで「ドローン以後のジェフ・ミルズ」を構想し、続いてホラーじみたベーシック・チャンネルへと突入、以後、ダンス・ビートにノったり外れたりしながら、ヴォイス・サンプルを縦横に駆使し、それこそアンディ・ストット"ナム"を悪夢で包み込んだような展開へともつれ込んでいく。こんな曲でも使いこなしてしまうDJはもちろんいるんだろうけれど、そうなったらそうなったで、世界の果てで踊っているような気分になれるに違いない。「ガザ地区で盗聴された」という曲ではなるほど追い詰められたような気分は満点である。

 手法という観点を離れてもマテオの曲は不思議な安らぎを伴っていて、どちらかというと耳はまずそっちに囚われてしまう。建徳理論を確立したといわれるウィトルウィウスにちなんだらしき"ヴィトルヴィアン・ナイトメア"のような、終わりの来ない鬱屈でさえどこか心地よく、それが前衛的な手法と同居していることにはあらためて驚かされる。『我々じゃない』とはどういう意味なんだろうか。

interview with Lapalux - ele-king

 エイフェックス・ツイン"ウインドウリッカー"はとても悲しい曲だった。ポリゴン・ウインドウやコースティック・ウインドウなど、どうしても「窓」にこだわってしまう彼が最後にそれをリック=舐めて終わりになるというのも示唆的だった。ドアノブ少女ではないけれど、彼と世界の間に立ちはだかっていた「窓」を舐めることは、そのまま素直に受け取れば「(外に)出たいけれど、出られない」という感覚を伝えているようにも感じられた。出られないから悲しいのかどうかまではもちろんわからないけれど、あの悲しさはいまだに僕の耳から離れない。いつまでも尾を引いている。あれは一体、何だったのだろう。教えてチャタヌーガ・チュー・チュー。


Lapalux
Nostalchic

Brainfeeder / ビート

Amazon iTunes

 ラパラックスことスチュワート・ハワードがつくる曲はどれもうっすらと裏側"ウインドウリッカー"が貼り付いている......ように感じられる。同じようにR&Bをエレクトロニック・ダンス・ミュージックの中心部へと流し込んだディスクロージャーやインクといった優等生たちとはそこが決定的に異なっている(ぷんぷん丸こと橋元優歩がトロ・イ・モアも新作でR&Bに接近して......というようなことを書いていたけれど、たしかにソウルフルな印象はあるものの、あれはディスコの美学ではないだろうか?)。

 わかりやすくいえば、ジェイムス・ブレイク・オン・ドープとなるだろうか。それこそ優等生とははるかに縁遠い場所で彼のエレクトロニック・ソウルは鳴り響いている。窓の外に出たエイフェックス・ツイン。それだけではないけれど、ここでは少し偏った見方でアプローチしてみたい。

なんていうか解離性障害のような、薬をやってちょっと飛んじゃってるというか、そういう感じを音に表したかったんだよね。なんだろう......非日常的とかいうか......説明がとても難しいんだけど......

去年、「東京はクレイジー」とツイートしてましたけど、どこが?

スチュワート:あー、それね(笑)。去年、生まれて初めて東京に行ったんだけど、見るものすべてがクレイジーでビックリしたというか(笑)。もちろん本とかネットとか映画で日本を見たことはあるし、予備知識はあったと思ってたんだけど、実際、渋谷のホテルに泊まって窓から外を眺めたらあまりにもクレイジーな光景だなって(笑)。人の多さとかお店とか、とにかく何から何までなんていうのか......映画を見ているかのような、非現実な感じを受けたというか。うん、本当にいま考えてもクレイジーだよ(笑)。

DJ69には改名したんですか? DJはちなみに何年ぐらいやってますか?

スチュワート:爆笑! 違うよ、変えてないよ(笑)。その名前は僕が乗ったオーストラリア行きの航空券の番号で、なんか面白いなーと思っただけなんだ。自分がDJだと思ったことはないんだ、基本的にプロデューサーだしね。DJというより僕は自分の曲を演奏したいからライヴのほうが好きだし。ただときどき最近DJっぽい感じで回してる時もあるけど、基本的にDJではないよ。

自分の曲以外で、よくかける曲は何ですか?

スチュワート:うーん、そうだなぁ、基本的にいいテンポでミックスしやすいものを使うんだけど、例えばDJラッシュアワーとかDJスピンとかかけるかな。

そもそも音楽をやりはじめたきっかけは? 最初からいまのスタイルだった?

スチュワート:特別にきっかけというのはないんだけど......もう小さいころからずっと、ちょこちょこいろいろやってたからね。僕にとっては音楽を聴くことも作ることもとても自然に小さいころから生活のなかにあったというか。でも、スタイルは変わったかな。最初のころは僕、ラップとかしてたから(笑)。それから実験的なサウンド・デザインをやってみたり、アコースティック・ギターをやりはじめて音を重ねてみたり、オーバーダビングをたくさんやって音の質感に興味を持って。でも、いつもエクスペリメンタルな音は好きだったね。

音楽以外の道を考えたこともありますか?

スチュワート:スタジオ・エンジニアとかコンピュータ関係の仕事かな。というのも、小さいころから例えばラジカセを直すとか、家のオーディオ関係の配線とかそういうものに興味を持ってて、結構いじったりしてたんだよね。きっとこの仕事してなかったら1日中電気工事とかしてるかもね(笑)。

はは。ラパラックスは「lap of luxury (=富と快適さの状態)」 の意だそうですが、それを手に入れたいということ?

スチュワート:うん、そうだね、なんていうか音のラグジュアリーな質感とかを手に入れたいというのが元の意味なんだけど、基本的にこの意味が僕の音のイメージなんだ。

デビューEPを〈ピクチャー・ミュージック〉からリリースした経緯を教えて下さい。コアレスやシームスなどユニークな新人に目をつけるのが早いレーベルですよね。

スチュワート:僕がロンドンでいくつかライヴをやってたとき、友だちのジミーを介して、いまのマネージャーのアレックスがライヴを見に来てくれたんだけど、それでアレックス経由で〈ピクチャー・ミュージック〉のデイヴィッドからリリースしないかという話を貰ったんだ。いろんなことがタイミングよく回ってきたという感じかな。

デビュー・カセット「Many Faces Out Of Focus」が2時間で売り切れたというのは本当ですか? サウンドクラウドで聴く限り、初めから方向性に迷いがなかったという印象を受けますが、つくっ た本人はどれぐらい確信的だったのでしょう?
https://soundcloud.com/lapalux/sets/many-faces-out-of-focus

スチュワート:うん、そうなんだ。元々限定のカセットで出してみようという話があってリリースしたというのもあるんだけど、僕は音楽業界のこととかまったく知らなかったから売り切れたと聞いてものすごいビックリしたよ。確信的だなんてとんでもない! 売れるといいなーとは思ってたけど、僕は謙虚な性格だし、そんなスゴい売れるとは全く想像すらしてなかったから嬉しかったというよりショックだった方が大きいかも。

〈ブレインフィーダー〉には自分でEメールを送って、そのまま契約することになったそうですが、〈ブレインフィーダー〉のどこがそんなに魅力的だったのでしょう?

スチュワート:まず僕は元々、フライング・ロータスの大ファンだし、彼のことはスゴく尊敬している。それに〈ブレインフィーダー〉がリリースしている作品が好きだったのもあって彼らの目指すゴールと僕が進むべき方向が同じだというのは常々感じていて。だから僕にとってはここからリリースすることは夢がかなったという感じだね。

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僕は80年~90年初期が青春時代だからやっぱりカセットテープ世代だし、聴きたい曲をテープの中から探して早送りしたり、巻き戻したり、そのノスタルジックな雰囲気をこのアルバムでも感じ取って欲しかったんだ。

実は〈ブレインフィーダー〉からのファーストEP「When You're Gone」をジャケ買いして初めてあなたのことを知ったのですが、スリーヴに「She Is Frank」の写真を使うというのは誰のアイディアだったんですか? アルバムには"ケリー・ブルック"(イギリスのファッション・モデル)という曲もあるので、もしかするとあなたがファッション好きで、自分で考えたのかなとは思いましたが。

スチュワート:うん、実は彼女から連絡があったんだ。たぶん Radio1で僕の曲をなにか聴いてくれたようなんだけど、彼女はファッション業界とコネクションがあるし、僕も彼女の作品が気にってEPのジャケットをやってくれと頼んだんだ。それで「Some Other Time」と「When You're Gone」もやってもらったんだ。"ケリー・ブルック"は......理由というか、その...僕が彼女のファンだったっていうか......彼女が有名だからその名前にあやかろうというか(笑)。

あなたのつくる曲は一貫してメランコリックで、それが常にスウィートな響きを持っています。これは元からあなたが持っていた感情が自然と反映されたものなのでしょうか。それともブラック・ミュージックなどに親しむうちにあなたが表現したいと思うようになったものなのでしょうか。

スチュワート:基本的に音楽を作るとき、僕のなかにある過去の経験やその時の状況とか感情が反映されていると思うんだけど、なんていうか解離性障害のような、薬をやってちょっと飛んじゃってるというか、そういう感じを音に表したかったんだよね。なんだろう......非日常的とかいうか......説明がとても難しいんだけど、抽象的な感じのその雰囲気が好きだからそれを音に表わそうと思って、そうするとその懐かしさを表現するのにメランコリックな雰囲気が出てくると思うんだよね。僕のアルバムのどの曲にもそのメランコリックと哀愁は漂ってると思うんだけど、僕のなかにあるそういう感情を反映したら自然とこういう形になったんだ。

上がり下がりが激しくて、聴き応えもあるし、全体的にはなかなかヘヴィーなアルバムだと思います。自分では「ほこりと古傷だらけになったアンティークの金のライオン像(a gold antique statue of a lion covered in dust and scratches)」と喩えていましたけど、堂々とした感じはそうだとして、満身創痍というのはどこから来るイメージなのでしょう?

スチュワート:はは。言ったね、そんなこと(笑)。単純になんか言葉で説明した方がイメージがつきやすいかなというだけの意味なんだけどさ。音を説明するのはちょっと難しいし、少なくとも僕にとってはなんとなく説明されるとイメージを掴みやすいから自分の音を説明するのにこんな感じかなと思ったんだ。音とヴィジュアルは絶対リンクしてると思うから、音を説明するのにイメージがあった方がいいと思うし、我ながらいい表現と思うよ(笑)。

なんとなくディアンジェロ版"ウインドウリッカー"というか、"ウインドウリッカー"もあの映像とは裏腹に、とても悲しい曲調だったことが強く印象に残っているのですが、もしかして少しは影響を受けていますか"ガッター・グリッター"や"GUUURL"を聴いていると、とくにそう思うのですが。

スチュワート:うん、エイフェックス・ツインはいつも僕のインスピレーションの源でもあるし、影響は受けてるよ。ヒップホップと洗練されたデジタル音のミックスがスゴく好きだから、そのふたつを繋ぎ合わせることも多いね。

『ノスタルシック』が逆回しのような音ではじまるのはタイトル通り、過去に行くという意味ですか?

スチュワート:そうだね、アルバムのイントロだというのもあってアルバム全体のイメージを説明するのにわかりやすいものにしたかったっていうのもあるし、過去に行くっていうのもあるかな。それともうひとつは何度聴いてもまたアルバムの頭に戻って再度聞くという意味も含んでいるね。僕は80年~90年初期が青春時代だからやっぱりカセットテープ世代だし、聴きたい曲をテープの中から探して早送りしたり、巻き戻したり、そのノスタルジックな雰囲気をこのアルバムでも感じ取って欲しかったんだ。

"ワン・シング"から"スワロウイング・スモーク"まではいままでになく、ふわふわと幸せな雰囲気の曲ですが、デビュー当初よりも表現したい気分が少し変わってきたとか?("フラワー" は、しかし、かなりドープですね......)

スチュワート:うーん、どうだろう。つねに気分が変わるからとくにハッピーになってきたとかそういうのはないんだけど......今日はハッピーでも明日はまた違う気分かもだしね。特別意識してハッピーな感じを入れてるわけじゃないんだけど、アルバム全体に感情がブレンドされてる感じを出したつもりだよ。

ヴォーカル・サンプルと実際にヴォーカリストを起用した曲が混在していると、つくっていて混乱しないですか? それぞれに利点も違うのでしょうが。

スチュワート:どちらも一緒に出来ないものだよね、なんていうかサンプリングで必要なときもあれば生のヴォーカルが必要なときもあるし。だからそれを上手くミックスして使い分けようと思ったんだ。それぞれに良さがあるし、使い方が違うしね。だからアルバム全体を通してうまくバランスを取ったつもりだよ。

"ウイズアウト・ユー"の「ユー」は"ウェン・ユーア・-ゴーン"の「ユー」と同じ人のことですか?

スチュワート:ううん、違う人だね。ちょっと前に友だちを亡くしたんだけど......"ウェン・ユーア・ゴーン"はその友だちのことを歌ってて、誰か大事な人を失くすっていう歌なんだ......。"ウイズアウト・ユー"はとくに特定の思い描く人はいなくて、一般的にっていう意味だね。

最後にリミックスを手がけた曲の数がすでに尋常ではありませんが、自分で一番気に入っているのは?

スチュワート:リアンヌ・ラ・ハヴァス(Lianne La Havas)のリミックスが一番気に入っている。あとは自分のブートレグで、マリオがお気に入りかな。
https://soundcloud.com/lapalux/mario-let-me-love-you-lapalux

interview with 5lack - ele-king

たまにゃいいよな
どこか旅に出て
いまの自分を忘れて逃げるのも
東京は奪い合いさ、だいたい
パラサイトが理由をつけて徘徊
さよなら、fake friendsにバイバイ
本物ならまたどこかで会いたい
"早朝の戦士"(2013)

 先日福岡市を訪れて僕がもっとも驚いたのは、東京圏からの避難民の多さだった。「東京圏から福岡市への転入が急増 15年ぶり、震災避難が影響か」という記事は、2011年の東京圏から福岡市への転入者が前年比で31.5%増加し、1万3861人に上ったと報告している。その後も避難民は増え続けているようだ。
 福岡の友人夫婦は、彼らのまわりだけでも、震災以降(正確には、福島第一原子力発電所の事故が引き起こした放射能拡散があきらかになって以降)の本州からの避難民が30人はいると語った。さらに彼らの人脈をたどり範囲を拡大すれば、1000人は下らないのではないか、ということだった。最初は耳を疑ったが、実際に僕も福岡でたくさんの避難民と出会った。小さい子供連れの家族やカップル、ひとりで移住してきた若い女性らと話した。ラッパーや音楽家の移住者にも会った。福岡に居を移した友人は博多弁を巧みに使いこなし、繁華街の外れにあるアート・スペースのキーパーソンになっていた。彼らは新たな生活を営みはじめたばかりだったが、彼ら避難民と地元民の交流が町に新鮮な空気を送り込んでいるように感じられた。福岡は避難都市として、未来への静かな躍動をはじめていたのだ。

E王
5lack×Olive Oil - 50
高田音楽制作事務所 x OILWORKS Rec.

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 東京のダウンタウン・板橋から登場したスラックが最新作『5 0』を東京と福岡を行き来しながら、福岡在住のビートメイカー、オリーヴ・オイルとともに作り上げたというのは、それゆえに実に興味深い。制作は2012年におこなわれている。  
 スラックが2009年に放った『My Space』と『Whalabout』という日本語ラップの2枚のクラシック・アルバムは、東京でしか生まれ得ないポップ・ミュージックだった。多くの人びとが、シビアな巨大都市の喧騒のなかを颯爽と行き抜く20代前半の青年のふてぶてしく、屈託のないことばと音に魅了されている。そして、シック・チームのアルバムを含むいくつかの作品を発表したのち、この若きラッパー/トラックメイカーは、日の丸を大胆にジャケットのアートワークに用いた『この島の上で』(2011年)のなかで、震災以降の東京の緊迫と混乱をなかば力技でねじ伏せようとしているかに見えた。逃げ場のない切迫した感情がたたきつけられている作品だ。その後、センチメンタリズムの極みとも言うべき『』(2012年)を経て、最新作『5 0』に至っている。

 すべてのビートをオリーヴ・オイルに託した『5 0』が、スラックのキャリアにおいて特別なのは、東京にこだわっているかに思えたスラックが移動を創造の原動力にしている点にある。『5 0』は福岡に遊んだスラックの旅の記録であり、旅を通じてアーティストとしての新たな展開の契機をつかんだことに、この作品の可能性と面白さがある。移動が今後、日本の音楽の重要な主題になる予感さえする。東京への厳しい言葉があり、福岡への愛がある。
 僕が、はっきりとスラックの「変化」を意識したのは、2012年9月28日に渋谷のクラブ〈エイジア〉でおこなわれた〈ブラック・スモーカー〉の主催するパーティ〈エル・ニーニョ〉における鬼気迫るパフォーマンスだった。実兄のパンピーとガッパー(我破)、スラックから成るヒップホップ・グループ、PSGのライヴだった。スラックはパンピーをバックDJにソロ曲を披露した。彼は初期の名曲のリリックを、フロアにいるオーディエンスを真っ直ぐに見据え、毅然とした態度で攻撃的に吐き出した。オーディエンスに背を向け、気だるそうにラップする、聞き分けのない子供のようなデビュー当初のスラックの姿はそこにはなかった。オリーヴ・オイルと制作を進めていることを知ったのもそのときだった。

 インタヴューは、僕が福岡を訪れる前におこなっている。大量の缶ビールを両手いっぱいに抱え、取材場所の会議室に乱入してきた野田努の襲撃によって、ゆるやかな離陸は妨害され、墜落寸前のスリリングな飛行がくり広げられることとなったが、スラックは言葉を選びながら4年前のデビューから現在に至る軌跡について大いに語ってくれた。スラックのひさびさの対面ロング・インタヴューをお送りしよう。


なんでもいいってことになったら、死んでるのと変わらないから。だからこそ、ヒマを潰す。自由を一周したら責任が生まれて、社会の仕組みが見えてきた。それを理解しないで社会のことをやっててもダメだから、ちゃんとこなして文句言おうと思ってますね。

対面インタヴューはひさびさですか?

スラック:ひさびさですね。シック・チームで雑誌の取材とか受けましたけど。

僕がスラックくんにインタヴューさせてもらったのが、2009年末なので、約3年前なんです。セカンドの『Whalabout』を出したあとですね。

スラック:3年前ですか。早いっすね。

早いですよね。この3年間は個人的に激動だったんじゃないですか。作品もたくさん出してましたし。

スラック:たしかに。

野田:超若かったよね。

いまと雰囲気がぜんぜん違う(笑)。

スラック:そうですよね。22歳と25歳じゃぜんぜん違う。

そうか、25歳になったんですね。

スラック:ってことは次のインタヴューは30くらいかな。

ハハハ。

スラック:もう子供みたいにはしてられないですよね。

スラック(s.l.a.c.k.)って呼べばいいのか、娯楽(5lack)って呼べばいいのか、どっちですか?

スラック:あれでいちおうスラックなんですよね。

5がSと読めるということで、スラックと。

スラック:はい。まあ、名前なんかなんでもいいや、みたいな。オフィシャル感みたいなのをはめこもうとすると大変なんですけど、勝手に自分のあだ名を変え続けてる友達とかいたじゃないですか。

なるほどね。そうゆうノリだ。

野田:(『5 0』のCDをみながら)ああ、オリーヴ・オイルといっしょにやったんだ!

スラック:そうです。

野田:これは聴きたいなあ。オリーヴ・オイルといっしょにやってるってとこがいいと思うね。

スラック:めっちゃ気が合って。

このアルバムの制作で福岡にちょくちょく行ってましたもんね。

スラック:はい。最近はオリーヴさんとK・ボムさんと仲良いです。

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オレがラップする「適当」を、気を抜いてとか楽天的にとか、ポジティブに受けとられれば良いですけど、責任のない投げやりな意味として受けとるのは勘違いかなって。

僕が今回インタヴューさせてもらおうと思ったきっかけは、去年の9月28日の〈エル・ ニーニョ〉のスラックくんのパフォーマンスに感動したからだったんです。PSGのライヴでしたね。

スラック:はいはいはい、あの日、やりましたね。

これまで感じたことのない鬼気迫るオーラを感じて。

スラック:オレがですか?

うん。「適当」っていう言葉は当初は日本のラップ・シーンに対する牽制球みたいな脱力の言葉だったと思うんですね。もう少し気を抜いてリラックスしてやろうよ、みたいな。

スラック:はいはいはい。

それが、より広くに訴えかける言葉になってたな、と思って。

スラック:漢字で書く「適当」の、いちばん適して当たるっていう意味に当てはまっていったというか。要するに、良い塩梅ということです。だから、いいかげんっていう意味の適当じゃなくて、ほんとの適当になった。まあ、でも、最初からそういう意味だったと思うんですけど、時代に合わせるといまみたいな意味になっちゃうんですかね。ちょっと前だったら、もうちょっとゆるくて良いんじゃんみたいな意味だったと思う。

自分でも言葉のニュアンスが変わった実感はあるんですか?

スラック:オレがラップする「適当」を、気を抜いてとか楽天的にとか、ポジティブに受けとられれば良いですけど、責任のない投げやりな意味として受けとるのは勘違いかなって。

なるほど。

スラック:あの日のライヴは良かったっすね。

自分としても良いライヴだった?

スラック:そうそうそう。

どこらへんが?

スラック:楽しみまくりました。アガり過ぎて、終わってからも意味わかんなかった。

さらに言うと、スラックくんにとっても東日本大震災はかなりインパクトがあったのかなって思いましたね。スラックくんのライヴを震災後も東京で何度か観てそう感じたし、『この島の上で』のようなシリアスな作品も出したじゃないですか。実際、東京はシリアスになって、それはますます進行してると思うし、そういう緊迫した状況に対して、あの日のライヴの「適当」って言葉が鋭いツッコミになってるなって感じたんですよ。

スラック:いまやるとたしかに地震前とは違いますね。

野田:『この島の上で』を出すことに迷いはなかったの?

スラック:えっと......

野田:なんて真面目な人間なんだろう、って思ったんだけど。

スラック:そう言われますね。「真面目過ぎだよ」って。でも、自然に出しましたね。かなり混乱はしましたね。

混乱というのは、『この島の上で』を出すことについて? それとも東京で生きていくことに?

スラック:人の目はぜんぜん意識してなかったですね。たまたまああいう曲調の音楽が作りたかっただけだと思うんですよ。そこに自分の精神が自然にリンクした。自分が真面目になったイメージもなかったんですよ。

野田:わりと無我夢中で作っちゃった感じなの?

スラック:そうっすね。でも最近まで、「元々自分が音楽をどういう精神でやってたんだっけ?」ってずっと悩んでたような気がしますね。

野田:ぶっちゃけ、日の丸まで使ってるわけじゃない? 「右翼じゃないか」って受け取り方をされる可能性があるわけじゃない。

スラック:あの頃は、愛国心というか、「自分は日本人だ」みたいな意識が強くなってたんです。

『この島の上で』のラストの"逆境"はストレートに愛国心をラップした曲だよね。

スラック:なんて言ったらいいんですかね。あれはある意味ファッションですね。日本人がいまああいう音楽を残さないでどうするっていう気持ちがあった。歴史的に考えて、日本の音楽のチャンスだった思うんです。

野田:よく言われるように、国粋主義的な愛国心もあれば、土着的な、たとえば二木みたいに定食屋が好きだっていう愛国心もあるわけじゃない?

ナショナリズムとパトリオティズムの違いですよね。

野田:愛国って言葉はそれだけ幅が広い。いまの話を聞くと、あれだけ時代が激しく動いたわけだから、記録を残したかったっていう感じなの?

スラック:うーん、いろんな気持ちが同時にありました。いま上手くまとまりませんけど、全体的に描きたかったのは日本でしたね。

僕はタイトルの付け方が面白いと思ったんですよ。「この国」って付けないで、「この島」と付けたところに批評性を感じた。その言葉の違いは大きいと思う。

スラック:そうっすね。とりあえず、日本人がいまこういうことやってるぜっていうことを主張したかった。だから、音楽のスタイルも日本っぽい音を使いました。

国もそうだけど、震災以降、「東京」もスラックくんの大きなテーマになった気がしました。どうですか?

スラック:そうっすね。いろんな街に行って、東京って形がない街だなって思ったんですよ。

今回のアルバムにも東京に対する愛憎が滲み出ているじゃないですか。東京を客観的に見る視点があるじゃないですか。

野田:でも、"愛しの福岡"って曲もあるよ。

それは東京から離れて作ったからでしょ。

スラック:けっこう東京は嫌いではありますね、いま。

野田:おお。

スラック:嫌いっていうか、他の街に行くと、自分が実は騙されてんじゃないか、みたいに思うんです。

東京に住んでいてそう感じる?

スラック:はい。東京は「パラサイティスティック」ですね。

「パラサイトが理由をつけて徘徊」("早朝の戦士")っていうリリックがありましたね。ここで言うパラサイトってどういうことなの?

スラック:自分で生み出す感じじゃないということですね。

たとえば、誰かに乗っかってお金を儲けるとか。

スラック:そうですね。

もう少し具体的に言うと?

スラック:言い辛いんですけど。

他人をディスらなくてもいいので(笑)。

スラック:そうっすね。多くの人が自分発祥のものじゃないことをやっている気がするんです。

それはたとえば、日本にオリジナリティのある音楽のスタイルが少ないと感じる不満にも通ずる?

スラック:それもそうですし、市場とかを考えても......、うーん、何か落ち着か なくなってきた......

野田さんがいきなりディープな話題に行くからですよ! もうちょっとじっくり話そうと思ってたのに(笑)。

野田:そんなディープかねぇ?

ディープでしょう。

スラック:いや、ぜんぜん大丈夫です。

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人の目はぜんぜん意識してなかったですね。たまたまああいう曲調の音楽が作りたかっただけだと思うんですよ。そこに自分の精神が自然にリンクした。自分が真面目になったイメージもなかったんですよ。

ちょっと仕切り直しましょう。まず、今回のアルバムについて訊かせてください。オリーヴ・オイルといっしょにほぼ全編福岡で作りましたよね。作品を聴いて、東京を離れて感じたり、考えたことが反映されてるんだろうなって思ったんです。

スラック:そうですね。普通に落ちちゃうぐらい、東京にいたくなくなりましたね。

去年、それこそ〈エル・ニーニョ〉で会ったときに、「東京、離れるかもしれませんよ」って思わせぶりな言い方してましたもんね。

スラック:ハハハ。

野田:東京生まれ東京育ちじゃない。でも最近は、東京村みたいにもなってきてない? 「スラック以降」、とくにそういう感じがするんだけど。

スラック:だから、オレみたいな位置の人がいっぱい出てくればいいなって思う。なんかこうサービス業になってるんですよ。

野田:でも、それは東京だけに限らないんじゃない?

スラック:でも、スピード感があるからこそ、スピードが遅いことに対して文句を言うんですよね。

情報の速さに慣れてるんだよね。便利さに慣れてるっていうことですよね。

スラック:それもそうですし。

野田:それは東京じゃなくて、ネットじゃない?

スラック:ネットはありますね。ネットも携帯も超アブナイと思う。いつか電気と人間がひっくり返るときがくる気がしますね。

震災が起きた直後に"But This is Way / S.l.a.c.k. TAMU PUNPEE 仙人掌"をYouTubeにアップしましたよね。で、3月20日に〈ドミューン〉の特番に出てくれた。そのときに「情報被曝」っていう言葉を使っていて、それがすごく印象に残ってる。『この島の上で』の1曲目"Bring da Fire"でもその言葉を使ってたよね。どういうところからあの言葉が出てきたの?

スラック:起きなくていい争いが起きる可能性が何百倍にも増えてると思うんです。昔は恋人ともすごい距離歩かなかったら会えなかったのに、電話ができる回数分ケンカが増えて別れる率が上がってるとか(笑)。たとえば、そういうくだらないことが超増えてる。だから、もうちょっとシンプルに人間になって、五感を使っていきたい。

野田:フリーでダウンロードして音楽聴く人間は、意外と文句ばっか言うんだよ。サービス業じゃないんだっていうのにね。

スラック:料理人とかもそうですけど、客から文句があったら、「帰れ!」って言えばいいんじゃないかなって。それで潰れるのは店なわけだし。

この数年間でスラックくんに対する周りの見方も大きく変化したと思うんですよ。いろいろ期待もされただろうし、プレッシャーを感じているんじゃないかなって。

スラック:いや、それはないですね。みんなは新しく出てくるアーティストに盛り上がってるけど、オレはまるでよくわからないアーティストばっかりなんで。

ハハハ。つまり、スラックくんが評価できるアーティストが少ないってことですか?

スラック:日本のリスナーのハードルがそんなに高くないんじゃないかって思いますね。音楽を聴いてんのかな?って。

それに似たようなことを3年前のインタヴューでも言ってたね。「無闇にタレント化したり、ブログを頻繁に書いてみたり、そういうのが目立ってて。なんでそこを頑張ってんだよ」って(笑)。

スラック:音楽のスタイルや実力で出てきたヤツもそっちに流されてる気がする。

インターネットやSNSの弊害なのかもしれないですよね。SNSで発信したり、表現したりしないといけないという強迫観念に縛られているのかもしれない。ただ、それは音楽産業の構造の問題でもあると思う。経済的に厳しいから、ミュージシャンが、プロデューサーやプロモーターの役割も担わなくてはいけない現状があるから。

スラック:というか、ネットとカメラを使うDIYみたいのが主流になって、誰でもプロっぽく作れるから、リスナーが本物を見抜けないんじゃないすかね。まあ、どちらにしろ、プレッシャーの感じようがない。

自分に脅威を感じさせる存在がいない、と。

スラック:数人しかいないですね。

野田:本人を目の前にして言うのもなんだけど、スラックはぶっちゃけ、下手なメジャーよりも売れちゃったと思うんだよね。自分が売れて、周りからの反応ではなく、自分自身に対するプレッシャーはなかったの?

スラック:うーん。

野田:そこは動じなかった?

スラック:動じませんでしたね。だから、『この島の上で』の話に戻ると、「こういうアルバムもオレは出すんだよ」くらいでの気持ちでしたね。

野田:ハハハハハッ。

スラック:「このデザイン、ハンパなくない?」、みたいな。

野田:なるほどね。『My Space』と同じような気持ちで作ったということだ。

スラック:ある意味ではそうです。自然に真面目にやったんです。

『この島の上で』のような誤解をされかねない作品を出して、その評価や反響に賛否あっても、ぶれることなくいままで通り音楽を続けていく自信があったと。

スラック:そうっすね。でも、無意識ですね。それと、Ces2と出した『All in a daze work』を『この島の上で』のあとに出したんですけど、『この島の上で』の前に完成してましたね。

スラックくんの作品を昨日一晩で聴き直したんですよ。『情』がとくに象徴的だけど、ある時期から、泣きの表現、センチメンタルな表現に力を入れはじめた印象を受けたんですよ。

スラック:『情』では景色を描きたくて、映画を作るようなイメージで作ったんです。日本人の誰もが共感できるものっていうか。

叙情や情緒になにかを託していると感じたんですよね。

野田:サンプリングのアレもあるだろうけど、フリーダウンロードで配信したのはなぜなの?

スラック:あれはなんででしたっけ?

マネージャーF:『情』は、いままでお客さんがCDを買ってくれてたり、ライヴも観てくれたりすることへのお返しっていう意味があったんでしょ。

スラック:そうだ、そうだ。まあ、ネタのこともあるけど、かなりの赤字になるのが決まってたんですけど、正規の作品ばりにガッツリ作ったんですよ。

マスタリングもばっちりやってますよね。

スラック:そうです。行動で示したかったですね。

野田:律儀な男だね(笑)。

自分のファンに対して、愛があるんですね。

スラック:そうっすね。いや、でもファンに対して、愛はたぶんないです。

えぇぇー(笑)。ファンががっかりするよ。

スラック:でもやっぱり両想いは難しいですよ。オレのことを理解しきれるわけがないし。

厳しいね。

野田:いやいや、そりゃそうでしょ。

スラック:もちろん感謝はしてますけど。

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いろんな街に行って、東京って形がない街だなって思ったんですよ。けっこう東京は嫌いではありますね、いま。嫌いっていうか、他の街に行くと、自分が実は騙されてんじゃないか、みたいに思うんです。

ここまでの話を聞いて思うのは、スラックくんはひとりひとりの音楽リスナーに音楽を聴く耳を鍛えてほしい、育ててほしいという意識があるんだなって思いましたね。

スラック:それもありますね。

野田:あるんだ!? オレは、どっちかって言ったら、スラックはまったく頓着しないタイプなのかなって思ってた。

いや、あるんじゃないですか。

スラック:真面目とふざけが同時にあって、どうでもいいっちゃどうでもいいんですよね。でも、なんでもいいってことになったら、死んでるのと変わらないから。だからこそ、ヒマを潰す。自由を一周したら責任が生まれて、社会の仕組みが見えてきた。それを理解しないで社会のことをやっててもダメだから、ちゃんとこなして文句言おうと思ってますね。

それは3年前にインタヴューしたときには感じてなかったことなんじゃない。

スラック:感じてませんでしたね、たぶん。

ハハハハハ。22歳でしたもんね。

スラック:そうですね。だから、あのときはもう文句ばっかでしたね。

野田:ヒップホップってアメリカの文化じゃない? 日本人もアメリカ的なものに憧れて、ヒップホップにアプローチしていくところがあるでしょ。スラックはアメリカから押し付けられたアメリカに満足できないということを暗に主張したいのかなって感じたんだけど。

スラック:でも最近、オレはアメリカの自然なヒップホップをやるんじゃなくて、オレらの自然な生活感のあるヒップホップじゃないと無理があると思ってますね。これ、ちょっと話が違いますか?

野田:いやいや、そういうことだよね。あと、必ずしもアメリカが良いわけではないでしょ。日本以上に過酷なところがある社会だからさ。

スラック:そうですよね。

野田:アメリカに憧れる気持ちは、音楽好きのヤツだったら、若い頃は誰にでもあったと思う。でも、海外をまわってから日本をあらためて見直すってこともある。たとえば、幸いなことに、アメリカほどひどい格差社会は日本にはまだないと思うからさ。そういう意味での日本の良さだったらオレは理解できる。

スラック:そうですね。愛国心というか、オレが日本人であることが問題なだけで。

野田:それは思想とかじゃなくて......

スラック:自分のチームを立てるしかないってことですね。

野田:自分の親や町内や地元が好きなようなもんなんだね。しょうがないもん、そこで生まれちゃったんだから。

スラック:そうそう。だから、楽しみたい。日本の道路をアメリカやイギリスの国旗を付けた車が走ってるのを見て、「なんだろう?」、「日本はどこに行ったんだろう?」って思うときがある。「日本にももっと楽しむところがいっぱいあるはずなのに」って。そういう意味で、ファッションって言い方をしたんです。

たとえば、日本文化のどういうところを楽しもうと思ったの?

スラック:ガイジンが面白がる日本を楽しんでみたり。

ガイジンのツボを突く日本ははこういとこなんじゃないか、と。

スラック:ガイジンというか世界に対してですね。それが日本の金になっていくって発想だと思います。

シック・チームは海外のラッパーやトラックメイカーと交流があるし、スラックくんの周りにもいろんな国の友だちがいますよね。そういった人たちとの会話のなかで生まれた発想ですか?

スラック:いや、オレがひとりで走ってましたね。ただ、地震のあと、スケーターの仲良いヤツと話しても、スケボーの世界も海外に対して、「日本人ならどうする?」、「オレらはなにを作る?」って方向に向かっていったらしい。

国を大きく揺るがす大震災や原発事故が起きて、日本人のアイデンティティを問い直す人たちが多かったってことなんですよね。

スラック:多いんじゃないすかね。どうなんすかね?

野田:多かったとは思うけど、K・ボムやオリーヴ・オイルはそういう意味では、ずば抜けた日本人でしょ。言ってしまえば、日本人らしからぬ日本人でもあるじゃない。

スラック:逆にオリジナル、本物はこれだよって。

野田:みんなが思う日本人のパターンに収まりきらない日本人だよ。

スラック:怒られるかもしれないけど、Kさんもオリーヴさんも友だちっぽいんですよね。良い意味で気をつかわないし、怒らしたら恐いんだろうなっていうところが逆に信用につながっている。

K・ボムの凄さは、あの動物的な直感力だと思うんだよね。

スラック:運動神経なんですよね。オリーヴさんも音作りの運動神経がすごい。一気に作って、完成してるんです。速いんですよ。

スラックくんは、K・ボムというかキラー・ボングのアヴァンギャルドな側面についてはどう思う? ある意味で、ヒップホップから逸脱してるじゃないですか。〈エル・ニーニョ〉のときも、PSGのライヴのあとに、メルト・ダウン(キラー・ボング、ジューベー、ババ、オプトロン)の壮絶なライヴがあって、〈ブラック・スモーカー〉は、そういう異色な組み合わせを意図的に楽しんでやってると思うんだよね。

スラック:もちろんKさんには音楽の才能を感じますし、Kさんが違うジャンルの音楽をやっていても理解できる。むしろ、リスナーからは似たようなシーンにいるように見られていても、オレはぜんぜん感じないヤツもいますよ。

そこの違いみたいなものはリスナーやファンにわかってほしい?

スラック:まあ、わかったほうがいいとは思いますけど、半々ですね。理解してほしいっちゃほしいけど、それでみんなが傷つくのはかわいそうっちゃかわいそうですよね。迷いがありますね。だから、日本のシーンってまだぜんぜん形になってないと思います。これから20代以下の若いヤツらがたぶんすごいことになる気がします。

スラックくんの活動を見てると、自分が100%出せるイベントやパーティにしか出演しないというか、けっこうオファーを断ってるじゃないんですか?

スラック:そうですね。みんながどんぐらい受けてるかを知らないけど、たとえばモデルにしろ、嫌いな服は着れないし、完全に自然が良いですね。

安易に手を取り合わなかったり、オファーを断ることで守りたい自分のスタイルや信念はなんなんですかね?

スラック:けっこう生々しい東京の話になってきちゃいそうですね、そうなると(笑)。単純にだるい人間関係とか良くないものとの関係とか、ニセモノやイケてない関係とかが多いですよね。そういうのはあんまり信用してない。

スラックくんの攻撃性みたいなものはそこまで曲に反映されてないですよね。

スラック:そうなんすかね? 意外と出してますよ。

そうか、意外とラップしてるか(笑)。

スラック:次出すやつとかヒドイなあ。

野田:トゲがある?

スラック:そのときの気持ちはもう忘れてる感じですけど、イライラして曲書いて発散しましたね。

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みんなは新しく出てくるアーティストに盛り上がってるけど、オレはまるでよくわからないアーティストばっかりなんで。日本のリスナーのハードルがそんなに高くないんじゃないかって思いますね。音楽を聴いてんのかな?って。

少し話を変えると、3年前にインタヴューさせてもらったときに〈ストーンズ・スロウ〉から出すのが、ひとつの夢でもあるという話をしてましたよね。久保田利伸を例に出したりして、ディアンジェロみたいなブラック・ミュージックを消化して、表現したいと。その当時語ってた理想についてはいまどう考えてます?

スラック:〈ストーンズ・スロウ〉はいまは興味ないですね。オレはいまそっちじゃないですね。オレはただJ・ディラが好きだったんだなって思いますね。

野田:J・ディラのどんなとこが好きだったの? サンプリングをサクサクやる感じ?

スラック:彼のスタイルが、90年代後半以降のヒップホップのスタンダードになったと思うんですよ。

最近、トライブの『ビーツ、ライムズ&ライフ~ア・トライブ・コールド・クエストの旅 ~』って映画が上映されてて、すごい面白いんだけど、あの映画を観て、あらためてトライブからJ・ディラの流れがヒップホップに与えたインパクトのでかさを実感したな。

スラック:セレブっぽいっていうか。音楽としてヒップホップの人が追いつけないところに行こうとしはじめると、結果的にモデルがいっぱいいるようなオシャレな音楽になっていく。そうやってブレていく人たちが多いと思う。そうなるとあとに引けなくなるし。

それこそ漠然とした言葉だけど、スラックくんは「黒さ」に対するこだわりが強いのかなって。

スラック:黒さだけじゃないんですよ。自分もアジア人ですし。

野田:白人の音楽で好きなのってなに?

スラック:ラモーンズとかですね。

一同:ハハハハハ。

スラック:なんでも好きですよ。ピクシーズとかカート・コバーンも好きだし。

野田:ラモーンズって、けっこう黒人も好きなんだよね。

スラック:極端にスパニッシュっぽいものとかラテンっぽいものも好きです。

いま、スラックくんが追ってる音楽はなんですか?

スラック:ディプセットとかジュエルズ・サンタナとか聴いてますね。中途半端に懐かしい、あの時代のヒップホップにすごい癒されてて。いま聴くと、オレが好きなヤツらって、ここらへんの音の影響を受けてんのかなーって思ったりして。

シック・チームでもひと昔前に日本で人気のあったアメリカのラッパーをフィーチャーしてましたよね? えー、誰でしたっけ?

マネージャーF:エヴィデンス。

そうそう、エヴィデンス! あのタイミングでエヴィデンスといっしょにやったことに意表を突かれましたね。

スラック:ダイレイテッド・ピープルズですね。

そう、ダイレイテッド・ピープルズ! 日本でもコアなリスナーの間で人気あったじゃないですか。面白い試みだなと思いましたね。

スラック:だから、「これはもしかして日本人がいまちょっと来てるんじゃねぇのか」って思った。でも、いままでの日本の打ち出し方ってイケテないのが多いから、そこは慎重にかっこよくやりたいんですよ。

野田:ダイレイテッド・ピープルズに、90年代の『ele-king』でインタヴューしましたよ。

スラック:マジすか?

野田:マジ。当時はパフ・ダディがポップ・スターだったじゃない? ダイレイテッド・ピープルズやエヴィデンスは、そういうものに対するカウンターとしてあったよね。

スラック:オレの周りは年齢層も30歳ぐらいの人が多くて、ナインティーズ推し派が多いんですけど、オレはネプチューンズとかも好きなんですよ。オレはサウスが流行ってた時代に育ってるけど、その中でナインティーズっぽいことをやってた。だから、「ファレルとかも良くない?」って思う。

日本では、90年代ヒップホップとサウス・ヒップホップの溝はけっこう深いしね。

スラック:深いし、ナインティーズ推し派の人たちはやっぱ固いっつーかコアですよね。あと、オレの世代でもまだやっぱ上下関係が残ってて、オレはそれを否定して少数派になっちゃった。だから、もうちょっとやりやすい環境を求めて、いま動き回ってますね。

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動じませんでしたね。だから、『この島の上で』の話に戻ると、「こういうアルバムもオレは出すんだよ」くらいでの気持ちでしたね。「このデザイン、ハンパなくない?」、みたいな。

良い音楽を作るためにはしがらみを取っ払わないといけないときもあるよね。

野田:いや、良い音楽を作るためには独善的でなければならないときもあるんだよ。ジェイムズ・ブラウンみたいに、「おい! ベース、遅れてるぞ。罰金だ!」って言うようなヤツがいないとダメなときもある。

スラック:たしかに言えてますね。だから、人と上手くやるのって難しいですね。とくに日本のお国柄とか日本人の精神もそこにリンクしてくるから。日本はいますごい絶望的だと思うし、そのなかでポジティブに楽しんで生きていけるヤツがある意味勝ち組だと思う。社会的に勝ち組と思ってるヤツらもいきなり明日にはドン底になって動揺する可能性だってある。親父とも最近、そういう日本のことを話したりするようになって。

野田:お父さん、すごい音楽ファンなわけでしょ?

スラック:そうですね。

野田:スラックは、『My Space』と『Whalabout』を出したときにメジャーからも声をかけられたと思うのね。「うちで出さない?」って。

スラック:はいはい。

野田:それを全部断ったわけじゃん。断って自分のレーベル、高田......、なんだっけ?

スラック:高田音楽制作事務所(笑)。

野田:でも、いわゆるアンダーグラウンドやマイナーな世界に甘んじてるわけでもないじゃない。

スラック:はい。

野田:だから、「第三の道」を探してるんだろうなって思う。アメリカの第三のシーンみたいなものが、ダイレイテッド・ピープルズとかなんじゃない。

あと、レーベルで言うと、〈デフ・ジャックス〉とかね。

野田:そう、〈デフ・ジャックス〉とかまさにね。

〈ストーンズ・スロウ〉も精神としては近いでしょうね。

野田:まあそうだね。そのへんの「第三の道」というか、いままでにない可能性に関しては諦めてない?

スラック:うーん、どうですかね。自分の立場が変わって、シーンをもっと良くすることができる位置にきた気はします。元々の人には嫌われたりするかもしれないけど、シーンを自分の色にできる影響力を持った実感もちょっと出たし。やらないことも増えたり、変なことやるようになったり。「第三の道」っていうの探してるかはわからないですけど、元の自分のままでいることはけっこう無理になりましたね。いまの自分の立場になって、昔の自分みたいなヤツが出てくるのを見て、「オレはこんなことしてたんだ」って思うこともある。そういう経験をしてきたから、後輩には良くしようって。そういう変化をもたらすきっかけにはなれるんじゃないかなってたまに思っちゃう。

シーンについて考えてるなー。

スラック:「なんでオレがこんなことしなきゃいけないんだよ!?」って思いながら、「オレがやってんじゃん」みたいな。

ハハハ。

スラック:いまオレが言ったようなことをやる専門のヤツがいっぱいいたらいいのにって思う。でも日本人は、有名なラッパーに「なんとかしてください」ってなっちゃうんですよ。アナーキーくんみたいに気合い入れて自分を通してやり遂げて、曲もちゃんと書くってヤツがもっと存在していいと思う。言い訳ばかりはイヤですね。

野田:日本の文化のネガティブなことを言うとさ、やっぱり湿度感っていうか、ウェット感がある。たぶんそういうところでけっこう惑わされたのかなって思うんだけど。

あと、派閥意識みたいなのも強いですからね。それがまた面白さなんだけど。

野田:日本人がいちばんツイッターを止められないらしいんだけど、なぜ止められないかって言うと、そこで何を言われているか気になって仕方がないというか、人の目を気にしてるからっていうさ、そうらしいよ。

スラック:ああ。

野田:自分が参加しないと気になってしょうがないんだって。二木はとりあえず、そういう人の目を気にしちゃってる感じをファンキーって言葉に集約してなんとか突破しようとしてるわけでしょ。あれだね、スラックは理想が高いんだね。

スラック:理想はたぶん、高いかもしれない。

そういう意味でもスラックくんの存在はすごい重要だと思う。

スラック:あとオレは、カニエやファレルに負ける気で音楽は作ってないすね。

野田:カニエとファレルだったらどっち取る?

スラック:ファレルですね。

野田:あー、オレと同じだなあ。じゃあ、ファレルとカニエの違いはどこ?

スラック:まあ、いちばん簡単に言えば、最初は見た目なんですよ。あと、ファレルは最終的に音が気持ちいいし、器用だし、音楽だけに留まってない。音楽のセンスが違うところに溢れちゃってる。あの人とかもう、究極の楽しみスタイルじゃないですか。チャラい上等じゃないですけど。

野田:それって逆に言うと、実はいちばんずるい。

スラック:ずるいですね。

野田:バットマンの登場人物でいうジョーカーみたいなヤツじゃん。人を笑わせといて、実は殺人鬼っていうようなさ。

すごい喩えだ(笑)。

スラック:ネプチューンズというか、ファレルは作る音で信用得てますよね。それは周りからのディスで止められるものじゃない。

野田:フランク・オーシャンとかはどうなの?

スラック:フランク・オーシャンは好きっすよ。

野田:オッド・フューチャーは?

スラック:オッド・フューチャーも最終的に好きになりましたね。

野田:あのへんはファレル・チルドレンじゃない。

スラック:そうですね。メインストリームの良いものを真似して、でも惑わされずに、あの世代のアングラ感やコアな感じを出してますよね。だから、信用できる。

考えてみれば、フランク・オーシャンも「第三の道」を行ってるアーティストですよね。

野田:そうだね。

スラック:彼はなんか人生にいろいろありそうな音してますよね。

野田:そうそう。で、オッド・フューチャーにレズビアンがひとりいる。

たとえば、日本のヒップホップで「第三の道」って言ったら、やっぱりザ・ブルー・ハーブじゃない。

スラック:よく聴いてたし、オリジナルだし、彼らのはじまりを思うとすごいと思いますね。「ガイジンもなにこれ?」って思うような、日本っぽいことをやって、それをやり通してるし。

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日本はいますごい絶望的だと思うし、そのなかでポジティヴに楽しんで生きていけるヤツがある意味勝ち組だと思う。社会的に勝ち組と思ってるヤツらもいきなり明日にはドン底になって動揺する可能性だってある。親父とも最近、そういう日本のことを話したりするようになって。

スラックくんの言う「日本っぽい」っていうのがなにを意味するのかもう少し訊きたいな。たとえば、『この島の上で』の"まとまらない街"や"新しい力"では、日本の伝統音楽というか邦楽をサンプリングしたようなトラックを作ってるでしょ。

スラック:たとえば、久石譲の音楽をCMや映画で聴いたりして、オレらだけが本当の意味で楽しめることに、みんな気づいてると思うんですよ。しかも、それでかっこ良ければ、ばりばりガイジンに対しても自信満々で行けるって。

「日本っぽい」オリジナルな音楽を作るというのは、いまでもスラックくんのひとつのテーマ?

スラック:ああ、でも、もう、ぶっちゃけいまはゆるいです。いろいろやってみて、疲れてきて、いまはもういいや、みたいな。地震のあと、坊さんの話を勉強したり、善について考えたりもして。でも、オレには無理だなって。全部を動かすスタミナはオレにはなかった。だから、いまはそっちは放置プレイです。

野田:でも、日本っていうのはAKBとか、オレはよく知らないけど、アニメとかさ、そういうのもひっくるめて日本だからさ。

スラック:そうすね。

野田:そういう意味で言うと、いまスラックが言ってる日本ってすごい偏った日本だと思うんだよね。

スラック:だから、オレはオレで、自分の好みをもっと広めたい。

野田:スラックの同世代の他の子はやっぱりアニメを観てたりしたでしょ。

スラック:そうですね。

野田:携帯小説を読んだりとかさ(笑)。

スラック:オレの世代はめっちゃ携帯世代ですね。でも、若いヤツらって意外と真面目で、時代は大人たちの裏で変わっていると思う。

野田:オレもなんか、スラックより下の世代と話が合うんだよね。

それぐらいの世代ってフランクだよね。

スラック:タメ語っぽいヤツは多いですね。

野田:オレなんかスラック以上に先輩後輩の上下関係のなかで育ってるから。

スラック:若いヤツらはオレの立場とかどうでもよくて、みんなはっきり言ってくるんで。「それ違くない?」って。それがけっこう当たってたりして、自分の邪念に気づけるし、面白いすね。だから、20歳未満の世代にも期待してますね。

野田:そのぐらいになると、「インターネットは単なる道具っしょ」っていう距離感なのね。

スラック:たしかに。

野田:さっぱりしているよね。

スラック:いまの若いヤツに対しては「プライドなんて育てない方がいいよ」って言いたいっすね。東京はダメだし、警察はギャングだし。もうちょっと賢い、本当に強い選択をしないと。暴力は損することも多いから。うまくなかに入り込んで壊すような、風穴を開けるようにならないとダメだと思う。ダメっていうか、そうしないと良くはならない。

東京の状況を良くしたいって気持ちもあるっていうことなのかな。

スラック:ありますね。最近、けっこう自分が良くねぇ時代にいるんじゃないかって気づき出して。オレらの親世代とかはちょうどバブルの子供世代だったりして、地震ではじめて動揺した世代だと思う。

野田:お父さんは何歳なの?

スラック:50中盤ぐらいなんで。

野田:えー、じゃあ、ぜんぜんバブルじゃな......い......いや、バブルか。

スラック:バブルの若者で、戦争にも当たってないし、なんにも触れてなくて、めっちゃ平和ボケ世代なんですよ。

野田:運がいいんだよ。

ある意味羨ましい。

スラック:そうそうそう。だから、その子供世代とかがまさにオレらとかで、いま大変な不景気に立たされてる。オレら世代はけっこうクソ......、クソっていうか、自由を尊重する気持ちだけは育って、でも手に入れる腕もないし、趣味もなけりゃ、ほんとにみじめだなって思ったりもします。好きなことがないとかは、大変だろうなって思いますね。

いやあ、すごいおもしろいインタヴューだけど、野田さんの襲撃によって話がとっ散らかったなあ。......あれ、野田さん、どこ行くんですか?

野田:トイレですよ!!

一同:ダハハハハハッ。

『5 0』のことも訊きたくて。いちばん最後の曲、"AMADEVIL"ってなんて読めばいいんですか?

スラック:これはオリーヴさんがつけましたね。

意味はわかります?

スラック:いや。

ラストのこの曲の音が途中で消えて、そのあとにまた曲がはじまるでしょ。僕はその曲がアルバムのなかでベストだと思ったんですよね。

スラック:"BED DREAMING"だ。なんかベッドの上から一歩も出ないような日に書いた曲なんですよね。

福岡と東京を行ったり来たりしながら録音したわけでしょ。

スラック:行ったり来たりして、あっちで書いて、家で録ったり、それを送ったりしてましたね。去年の夏からですね。

そもそもどうしてオリーヴ・オイルとやろうと思ったんですか?

スラック:アロハ・シャツ着て過ごしたいなって。東京を置いといて。で、金にしちゃえって。

なるほどー。

スラック:長いラップ人生、なにをしちゃいけないもクソもねぇだろと思って、いろいろやろうかなって。あと、音を違うフィールドの人に任せたかったんですよね。これまで全部自分で仕切ってたから、任せれるアーティストとあんまり出会ってなかったんで。

2曲目に"愛しの福岡"ってあるじゃないですか。福岡の東京にはない良さ、面白さってどういうところですか?

スラック:人間ぽいすね。なんかこう、厳しいところと、緩いところがあって、日本人ぽい。また日本人出てきちゃった。

タハハハハッ。

野田:また口挟ませてもらってもうしわけないけど、福岡は日本の歴史において重要なところだよね。やっぱオリーヴ・オイルとやったっていうのが今回すごく面白いと思ったのね。オリーヴ・オイルもK・ボムもオレはリスペクトしてるトラックメイカーだけど、2人とも311があって、いわゆる感情的に涙の方向に行かなかった人たちじゃない。だから、そういう意味で言うと、『情』の叙情感とぜんぜん違うものじゃない。

スラック:たしかにそうです。

野田:『情』のあとだからさ、涙の路線の延長っていうのもあったわけじゃない。

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オレら世代はけっこうクソ......、クソっていうか、自由を尊重する気持ちだけは育って、でも手に入れる腕もないし、趣味もなけりゃ、ほんとにみじめだなって思ったりもします。好きなことがないとかは、大変だろうなって思いますね。

E王
5lack×Olive Oil - 50
高田音楽制作事務所 x OILWORKS Rec.

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今回のオリーヴ・オイルとのアルバムには一貫したテーマは最初からありました?

スラック:まず、オリーヴさんとの組み合わせがオレは最高だったんですよね。それと個人的には旅ですね。

たしかに旅はテーマだね。

スラック:東京側にも福岡みたいな街があるっていうのを伝えたかった。東京の身内に「おまえらもちゃんとやれよ」みたいなことも説明して、身内のことをディスすることによって、みんなの環境にもリンクすると思った。

たしかに、さりげなくディスってますよね。

スラック:そうですね。けっこう身内のことばっかり否定してて、オレもカッコ悪いかもしれないけど、ただ身内だからとりあえず「カッコいい」ってなってる状態も変だと思うから。そこで調子に乗っちゃってる友だちも危ないとオレは思うから。

いや、でも、それは勇気あるディスだと思いますよ。やっぱり福岡と東京を行き来したり、旅をしながら、東京や東京にいる仲間や友だちを客観的に見たところもあるんですかね。

スラック:そうですね。もちろんどこの街に行っても同じ現状があるけど。福岡にはオリーヴ・オイルっていう素晴らしくスジの通った人がいて、そこでKさんとも出会うことができた。たまたま福岡って街も良くて、あったかくて。

へぇぇ。

スラック:運ちゃんがまずみんなめっちゃ話しかけてきて。

野田:ガラ悪いからねー。九州のタクシー。

スラック:東京って街は最先端っていうよりは日本の実験室ですよね。東京が犠牲になって、周りを豊かにしてる気がしました。

地方が犠牲になって、東京を豊かにしてるって見方もあると思うけどね。原発なんてまさにそうだし。ただ、スラックくんの地方の見方を聞いていると、生粋の東京人なんだなーって思う。悪い意味じゃなくてね。

スラック:そうですね。たとえば、揉め事があったとして、他の地域だったらその場でケリがつくんじゃないかってことも、東京は引っ張って、引っ張って、引っ張って、みたいな。音楽のやり取りでも問題が起きると、じゃあ、本人同士で話し合って、決別するならして、仲良くするならすればってところまでが複雑。すごい街だなって思いますね。

どうなんだろう、大阪にしても、京都にしても、物理的に街が小さいっていうのもありますよね。人口も少ないし。たとえば、音楽シーンだったら、ヒップホップとテクノの人がすぐつながったりするし、シーンっていうより街で人と人がつながってる感じもあるし。人間の距離感が東京より近いんですよね。

スラック:ああ。

札幌に行ってもオレ、そう感じましたよ。ともあれ、板橋の地元で音楽をやりはじめたころと、付き合いが広がりはじめてからでは、なにかしらのギャップを感じてるってことなんだ。

スラック:オレは家で勝手に音楽をやりはじめただけなのに、そこを忘れちゃうんですよね、都心に出てやってると。しかもそこが重要なのに。なんか人がどうこうとか、責任が出てきて。地元帰ってくると、「いや違う。そうじゃない」ってなるんです。都心はシンプルじゃなさすぎて。

「鳴るぜ携帯/今夜は出れない/社会人としてオレはあり得ない/理由は言えない」("BED DREAMING")ってラップもしてますもんね。

野田:ハハハハハッ。

スラック:そう、電話の束縛も超苦手で。

このインタヴューの日程決めるやり取りも超スローでしたもんね。

スラック:電話出なかったりとかで、人と揉めたりしたんですよ。

たしかに揉めると思う(笑)。

スラック:そうなんすよね。揉めたり、怒られたりしましたね。でも、オレはそういうスタイルにマインドはないんですよ。彼女だってキレてこないのにって。

「社会人として失格」とか「だらしない」って言い方されたら終わってしまう話なんだろうけど、スラックくんには強い拒絶の意思を感じますね。そこに信念がある。

野田:信念あると思うね(笑)。

たぶん「第三の道」っていうのはそういうところからはじまると思うんだよね。社会的なしがらみから自由にやりたいわけでしょ。

スラック:そうですね。だから、そこは逆にわからせたいですよね。悪気はないし、ちゃんとやってる人に敬意もあるんです。ただ、こういうやり取りのなかでは敬意を表せないって思うときがあるんです。オレは自分のペースを保ってやりたいし、ストレスはやっぱりダメですね。

野田:まあ、アメリカはすごい孤立しやすい社会で、たとえばJ・ディラみたいな人でさえも、放っとけば孤立しちゃう。日本って逆に言うと孤立し辛い社会でしょ。

スラック:そうですよね。

放っといてくれない。

野田:「オレは独りになりたいんだ」って言っても。

スラック:それはそれで幸せなんだなって思いますけどね。

野田:そうだよ。

スラック:でも、まあ、そこも塩梅ですよね。そういう意味でも上手くできるヤツといるようにしたい。一般的には難しいことなんだと思いますけど。いまは、そういうこと考えまくった上で、生きてるときは気を抜いてますね。

野田:ところで、311前に愛をテーマにした『我時想う愛』を出したじゃない? あれはなんでだったの? しかも、ジャケなしで、いわゆる透明プラスティックのさ。

スラック:あれ、裏にジャケがあったんですよ。そういう意味でも、みんな、固定概念に縛られ過ぎだよって。

野田:ダハハハハ。

虎の絵があったよね。

スラック:あれがレーベル・ロゴで、黄色い人種ってことですね。

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けっこう身内のことばっかり否定してて、オレもカッコ悪いかもしれないけど、ただ身内だからとりあえず「カッコいい」ってなってる状態も変だと思うから。そこで調子に乗っちゃってる友だちも危ないとオレは思うから。

それで思い出したけど、あのアルバムに"I Can Take it(Bitchになった気分だぜ)"って曲があったでしょ。スラックくんが男と女の一人二役やるじゃない。

スラック:はいはいはいはい。ビッチ本人と説明にまわってる自分という設定でやったやつですね。

そうそうそう。ビッチになりきって女の子の気持ちをラップして、フックでスラックくん本人が出てきて、「オレはそうとは思わない」って優しく語りかけるでしょ。歌謡曲だと、男が女の恋心や気持ちを歌うパターンがあったりするけど、ヒップホップで男が女の気持ちをああいう形でラップをするっていうのはなかったことでしょ。あれは革新的な試みだと思った。

スラック:ビッチになった気分だったんですよね。

しかも、ビッチっぽい女の子の心の機微を上手く表現してるんだよね(笑)。

スラック:そうなんですよね。あの曲、いわゆる自称ビッチみたいな娘たちに評判が良くって。

いい話だなあ。

スラック:「わかる~」みたいになっちゃって。

野田:ねぇなぜ、あのときに愛っていうテーマを持ち出したの?

スラック:愛情を感じてたんだと思いますね。いろんなものから。しかもその後、めっちゃ地震とリンクしていったことは、まったく不意だった。

野田:そうだよね。よく覚えてるのが、ちょうどあのアルバムが出て、しばらくして311があって、〈ドミューン〉に出演してくれって頼んだ。それこそ、シミラボ、パンピー、K・ボムが出てくれた。

そう考えると、あのメンツはすごかったなあ。

スラック:そうですね。

野田:あのとき、1曲目で、アルバムの1曲目("But Love")をやったじゃない。

スラック:うんうん。

野田:あのときはすごく力を感じた。

スラック:そうっすね。愛っていうか、愛って言葉自体、たぶんあのときはもう日本化してたんですよね。

野田:ふぅーん。

スラック:愛っていう言葉が、響きとしてもいいだろうって思ったんです。オレ的には『我時想う愛』で一周した感じだったんですよ。あそこで『My Space』くらいに戻ったなって。『我時想う愛』を作ってるときは、「死ぬ気でやってないと後悔するぜ」ってことに仕事柄気づいたんです。そういう哲学は常に考えちゃうタイプなんです。そしたら、地震がたまたま起きて、ほんとに死ぬ気がしたから、あのアルバムと気持ちがリンクしたんじゃないかなって思うんですよ。だから、そうですね、うん、そういう本気で生きる、みたいなタイトルだと思うんですよね。タイトルはちょっと邦楽っぽいですね。東京事変じゃないけど。

野田:アハハハハ。

スラック:ニュアンスで言えば、中島みゆきとかウルフルズとかエレカシとかの言葉に近いのかもしれない。エレカシとか好きっすね。エレカシとかの言葉のニュアンスをラップで使いたかったんですよね。そこに日本人としての自然さ、侍とか忍者とかじゃない、日本人のオレらの自然さを出したかった。

なるほどね。

スラック:ブラック・ミュージックとかソウルで「~オブ・ラブ」って言葉やタイトルがあるじゃないですか。

うんうんうん。

スラック:それを日本で表現したら、ああなった感じです。ソウルのバラードにはバラの絵があったり、そういう時代のソウルのイメージですね。

へぇぇ。

野田:アナログ盤にしなかったのはなぜだったの? 

スラック:たしかに出そうと思ってたんですけど、この島が動いてそれで忘れてましたね。アナログにするっていう話はあったんですよね。いま自分の行動を振り返ってみても、やっぱり地震のあとは熱くなり過ぎたなーって思うんですよね。


大きなベッドにダーイブ
オレは人生を変える夢を見た
ふざけてる現実に手を振り
イカしたデザインの船で目指すのさ
そこは東京、アメリカ、中国にコリア、UK、ジャメイカ、帰り道、レイバック
光る星の近くを通る
クソも離れて見れば光るらしい
だけど本物も転がってる
そいつに触ると目が覚める
ここがトゥルーだぜ
まだオレはベッドの上
まだオレはベッドの上
"BED DREAMING"(2013)


5lack x Olive Oil 「- 5 0 -」 のrelease party

-平日にもSPECIALは転がっている!!―

この街、福岡で生まれた奇跡のSESSION !!

5lack x Olive Oil 「- 5 0 -」 のrelease partyを本拠地BASEで開催!!

第3月曜日はO.Y Street で祝福の杯を交わしましょう!!

*終電をご利用の方も楽しめるタイムテーブルとなっています*

2013.03.18 monday@福岡CLUB BASE
open 18:00 - close 24:00
ADV : 2,000yen (w1d) 【LIMITED 70】
DAY : 2,000yen
** 20:00までにご来場の方には1drinkをプレゼント!!

RELEASE GUEST: 5lack x Olive Oil

GUEST VJ: Popy Oil

CAST:
HELFGOTT
WAPPER
LAF with PMF
ARCUS
DJ SARU
MOITO
DJ KANZI

上映: 『LATITUDE SKATEBOARD』

** 当日「- 5 0 -」アイテム販売あり!! **

<WEB予約>
当日の18:00までに contact@club-base.netヘ『件名:5O release party』『本文:代表者名と予約人数』
をメールしていただいた方は前売料金での入場が可能に!!

【チケット取扱店舗】
Don't Find Shop 福岡市中央区大名1-8-42-4F 092-405-0809 https://www.oilworks-store.com/
TROOP RECORDS 福岡市中央区大名1-3-4シェルタービル3F 092-725-7173 https://trooprecords.net/
DARAHA BEATS 福岡市中央区天神3-6-23-203 092-406-5390 https://darahabeats.com/
TICRO MARKET 福岡市中央区大名1-15-30-203 092-725-5424 https://www.ticro.com/
famy 福岡市中央区警固1-4-1 2F 092-732-6546 https://www.portal-of-famy.com/

CLUB BASE
福岡県福岡市中央区天神3-6-12 岡部ビル5F
MAIL : contact@club-base.net
TWITTER : @BASEfukuoka

特設HP:https://0318-50-releasepartyatbase.jimdo.com/

Dan Friel - ele-king

 春だ。木の芽どきの騒がしさが、心や肌ばかりでなく髪にまで感じられる。日本ではちょっとした別れや出会いのシーズンでもある。ちょうど感じやすくなっているところへ、しばらくぶりの知己の顔を見つけるようにダン・フリールのソロ・アルバムが届けられた。パーツ・アンド・レイバーのコアとしてすでに10年以上のキャリアを持つキーボーディストの、2枚目のソロ作品である。彼の音色は、このざわざわとした春のノイズにとてもよく似ている。

 どんなにディストーションやファズをきかせた曲でも、また『ステイ・アフレイド』のようなハードコア・パンク色の強い作品にあっても、パーツ・アンド・レイバーにおいてフリールのシンセがもっともノイジーだった。ということをいまにして思った。音響的に本当にそうなのかはわからない。だが、歴代にわたるあの手数の多いドラミングの隙間からどんどんと伸びてきて、まるでなにか言葉を話しつづけるように鳴りまくる彼の音をノイジーという以外に形容できない。本当に、彼のシンセは歌う。声を加工しているんじゃないかと思うほど、いつまでたってもしゃべりやまない。そして今作は彼史上最高に「歌う」アルバムだ。

 フレージングが独特で、鍵盤楽器というよりはギターの発想に近い演奏をするように思う。しかも頭から尾までソロをやるというテンションに近い。メロディに次ぐメロディが、層になり渦になったカラフルな電子ノイズを突き抜けていく。このカラフルさは、2000年代にはボルチモアやブルックリンの同系統のバンドにおいてトライバルな表象をともなって出てきていたように思うが、そうしたかつてのトレンドが抜けて、プレーンな印象になった。けっして丸い音楽ではないのだが、ウォーミーだ。ポニーテールやデスセット、あるいはブラック・ダイスやライトニング・ボルトでさえ、そうした2000年代性をどこかで払拭しなければ、さらに若い耳に届くことは難しいのではないかと思う。

 そして何といっても本作の命は"ヴァレディクトリアン"や"サンパー"などのメロディの強度に尽きる。たくみなリズム構築や音の配置、「ニンテンドー」的なものまで含めた多彩な音色によって別物のように見えるが、シンセ版のレス・ザン・ジェイク、アンドリューW.K.、あるいはバズコックスやザ・コーズだとも言える。あきらかにメロコアやポップなメタル・バンド、あるいはオブスキュアなパンク・バンドの影響を含んでいる。タイタス・アンドロニカス、ファング・アイランド、それからグウォーなどとも非常によく似たヴァイブを持っている。エクスペリメンタルでハッピー、鮮やかな火薬が詰まっているように、彼らの音はいつも着火のときを待っている。そしてフリールのキーボード・プレイは、(言葉による)歌がないことのためにより一層のメロのきれや熱量を求めて跳ね回る。"スカヴィンジャー"は少しUKロック的な節回しを持っているが、中盤以降のメリスマのような大熱唱には胸も熱くなる。全編いち度も歌は登場しないが、秀でてシンガロングなアルバムだ。

 いくつか挿入される"インターミッション"はどれもやや実験志向な性格で、アナログ・シンセの太い音にフィールド・レコーディングを対照させながら、可愛げすら感じさせる異形のミュージック・コンクレートを半身さらしている。"ウィンドミル"や"ヴェロシピード"のようにビート感を出した曲もすばらしく、彼や彼らが培ってきたものの奥にプリミティヴなダンスの要素があることをほのめかしている。今回は〈スリル・ジョッキー〉から。同レーベルのカラーとして意外に感じられる部分もあるが、ダブル・ダガーという先例もあり、懐の深さを感じさせる。

 それにしてもこの臆することなきメロディ。空気のなかにちりちりと電流がまじるようなこんな晴れた3月には、しばらく着重ねてきたアンビエントやドローンの衣を脱いで、ダン・フリールとともに外へ出ていきたい。

Gold PandaとStar Slingerが春を運んでくる - ele-king

「とってもかわいらしいIDMスタイルですよ」「初期のマウス・オン・マーズと初期のエイフェックス・ツインが一緒にスタジオに入ったと想像してみてください」
(野田努 https://www.ele-king.net/review/album/001097/

 フル・アルバムをたった一枚リリースするばかり(2010年)なのだが、ゴールド・パンダには日本においてもしっかりとファンがついている印象がある。リリカルなメロディを持った彼のIDMにはそれほどの存在感があった。フォー・テットのファンからJディラのファンにまで快く迎えられているだろう。ダンス・フロアとベッドルームのはざまからじつにやわらかいエレクトロニカを届けてくれる。

 ゲストもまた注目である。CD、ヴァイナルともに日本でもよく売れたスプリット作『チームスvs スター・スリンガー』を手に取り、気になっていた方も多いはずだ。チームスは2011年にプロパーなリリースがあるが、スター・スリンガーは自主盤以外はリミキサーとしてさまざまなアーティストとの仕事の上にその名を見るばかりだ。洒脱にして繊細なエディット、心地よいドリーム感覚。彼の全貌があきらかになるとあれば、この機会を逃す手はない。

ゴールド・パンダの1年4ヶ月振りとなる来日公演が決定!
スペシャル・ゲストは現在題沸騰中のスター・スリンガー!!

傑作デビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』から2年半、海外ではヴァイナル/ デジタルのみで発売される『トラストEP』に未発表曲他を追加収録した日本企画盤CDを3月にリリースし、年内には待望のセカンド・アルバムのリリースもアナウンスされているゴールド・パンダの1年4ヶ月振りとなる来日公演が決定! 更にスペシャル・ゲストとしてゴールド・パンダを始めウォッシュト・アウト、ゴー! チームなどのリミックスを手掛け注目を集め、2011年にメキシカン・サマーよりリリースしたUSノックスビルのプロデューサー、チームスとのスプリット作『チームスvs スター・スリンガー』が日本でもコアなレコード店を中心に大ヒットを記録したスター・スリンガーが待望の初来日!!

次世代のエレクトロニック・ミュージックを担う2 アーティストのカップリング・ツアーにご期待下さい!!!

■GOLD PANDA JAPAN TOUR 2013 SPECIAL GUEST STAR SLINGER

[東京公演]
2013/04/12(FRI) 代官山UNIT
OPEN/START:23:00
ADVANCE:¥3,500 / DOOR:\4,000
出演:GOLD PANDA, STAR SLINGER AND MORE
*20歳未満の方はご入場できません。また入場時に写真付身分証の提示をお願いしています。

[大阪公演]
EXTRA~Gold Panda Japan tour 2013 special guest Star Slinger~
2013/4/13(SAT) LIVE SPACE CONPASS
OPEN:20:00 / START:20:30
ADVANCE:¥3,000 (D別) / DOOR:¥3,500(D別)
出演:GOLD PANDA, STAR SLINGER AND MORE

主催/ 企画/ 招聘 : 代官山UNIT 協力 : YOSHIMOTO R and C CO., LTD.
MORE INFORMATION : UNIT / TEL 03-5459-8630 www.unit-tokyo.com


■GOLD PANDA (ゴールド・パンダ)

バイオグラフィー
英エセックスのチェルムズフォード出身で現在は独ベルリンに住むゴールド・パンダは、UKのインディ・レーベル、Wichitaがマネージメントとして手掛けるアーティストで、過去に日本に数年住んでいたこともあり、日本語の読み書きもできる。2009年に『Miyamae』『Quitters Raga』『Before』といったシングルをリリースし頭角を現し、2010年3月には初の来日公演を敢行、4月には先のシングルをまとめた日本オリジナル編集アルバム『コンパニオン』で日本デビューを果たした。2010年10月にはシミアン・モバイル・ディスコのジェイムス・ショーがミックスを担当したデビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』をリリース。彼の長年の活動が凝縮されたこのアルバムは大きな評価を獲得。年末には各媒体の年間ベスト・アルバムの1枚に選ばれ、英ガーディアン紙の「ガーディアン・ファースト・アルバム・アウォード2010」の獲得に至った。また同年10月には朝霧JAM 出演の為、再度の来日公演もおこなった。その後、ゴールド・パンダは世界中をツアー。2011年にはDJ Kicksのコンピレーションをリリース。同年9月にはメタモルフォーゼ2011に出演の為、来日。メタモルフォーゼは台風により中止となったが、札幌で単独公演をおこない、12月には東京/ 大阪で来日公演もおこなっている。

アーティスト・オフィシャル・サイト:https://www.iamgoldpanda.com/
ジャパン・オフィシャル・サイト:https://www.bignothing.net/goldpanda.html

 
■STAR SLINGER (スター・スリンガー)

バイオグラフィー
スター・スリンガーことダレン・ウィリアムスはマンチェスター出身のプロデューサー。2010年にビート集『Volume 1』をセルフ・リリースし、本作がピッチフォーク・メディア、スピン、デイズド&コンフューズドといったメディアから取り上げら注目を集める。2011年にはUSノックスヴィルのプロデューサーであるTEAMSと手を組んだ傑作スプリットEP『TEAMS vs. STAR SLINGER』をMexican Summerよりリリース。本作は限定プレスとの事もあり瞬く間にソールドアウトした。またスター・スリンガーはこれまでJuicy J、Project Pat、Lil B、Reggie BやTeki Latexとコラボレーションし、Gold Panda、Jessie Ware、Washed Out、Daedelus、The Go! Team、Broken Social Sceneといったアーティストのリミックスを手掛けている。

アーティスト・オフィシャル・サイト:https://starslinger.net/
ジャパン・オフィシャル・サイト:https://www.bignothing.net/starslinger.html

■新譜情報
ゴールド・パンダ『イン・シーケンス』
傑作デビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』から2年半、ゴールド・パンダの新しい作品が遂にCDリリース。
海外ではヴァイナル/デジタルのみで発売される『トラストEP』に未発表曲他を追加収録した日本企画盤(全9曲初CD化)。

2013.03.13 ON SALE
¥1,260(税込)
日本企画盤(海外発売の予定はなし)
■収録曲目
1. MPB / MPB
2. MOUNTAIN / マウンテン*
3. FINANCIAL DISTRICT / ファイナンシャル・ディストリクト*
4. TRUST INTRO / トラスト(イントロ)**
5. TRUST / トラスト**
6. BURNT-OUT CAR IN A FOREST / バーント・アウト・カー・イン・ア・フォレスト**
7. CASYAM_59#02 / カシャム59#02**
8. MORE TRUST 8 / モア・トラスト8
9. HEALTH TOUR / ヘルス・ツアー
*taken from 『Mountain/ Financial District』(7”)
**taken from 『Trust EP』

山本精一 - ele-king

 まいどまいど、とりあげるのが遅くなったのを詫びてばかりいるので今回はあやまらない。とりあげる時期で作品の価値が変わるわけでなし、もし変わると思うならあなたはメディアリテラシーという言葉にいいように踊らされた半可通にすぎないとか偉そうなこといってもうしわけありません。
 このアルバムが出たとき、私はレヴューを一本も書けないほど忙しかったのだろうか、もう思い出せない。何日か前のことはおろか、昨晩何を食べたかのかもあやふやになっている。私は子どもが保育園に通うので、園に渡す日誌を書くが、そこに昨晩何を食べたか書く欄があり、そこで筆が止まり、「昨日の夜何食べたっけかね?」と訊ねてみると娘はムッツリだまっている。気分を害したのではない。質問の意味が飲み込めないのだ。「昨日」という概念が定かでないのである。子どもにとっては2日前も3日前も過去として等しく昨日であるようである。一昨年、日弁連が出した子どもの司法参加を求める意見書にも「誘導・暗示に陥りやすい子どもの特性に配慮し、子どもからの聴取りは専門的訓練を受けた面接者が行う」という一文がある。外的要因に左右されがちな子どもの供述を司法に組み入れるための指針が提案されているが、大人だからといってつねに記憶が定かなわけではあるまい。

 山本精一がカヴァー・アルバムをつくろうと思ったとき、彼の記憶のどこからこれらの歌は呼ばれてきたのだろうか。『山本精一カバー・アルバム第一集』と題した本作の収録曲は"ターン・ターン・ターン"(ピート・シーガー)、"アイ・ビリーヴ・イン・ユー"(ニール・ヤング)、"サークル・ゲーム"(ジョニ・ミッチェル)、"フォー・アブセント・フレンズ"(ジェネシス)、"オーブル街"(ザ・フォーク・クルセイダーズ)、"失業手当"(高田渡)、"そして船は行くだろう"(あがた森魚/岡田徹)、"ランブリン・ボーイ"(トム・パクストン/高石友也/岡林信康)、"からっぽの世界"(ジャックス)、"ウィ・シャル・オーヴァーカム"(ピート・シーガー)の10曲、ライヴでもおなじみの曲を洋楽/邦楽(とひさしぶりに書いたが)半々選んでいる。フォーク・ソングといい条、それは音楽のスタイルとしてだけでなく、フォークをより言葉の元の意味に近い場所へ、匿名の民衆の歌であり、プロテスト・ソングであるフォークへと遡行させていくことは、本作がピート・シーガーではじまり終わることをほのめかしている。間に入る曲は50~60年代中心だが70年代初頭もある。たとえば「そして船は行くだろう」は去年、岡田徹のムーンライダーズ休止後の初のアルバム『架空映画音楽集II erehwonの麓で』の収録曲で、さきごろ岡田とYa-To-Iを再開した山本精一もこのアルバムに参加している。だからこのカヴァー・アルバムは第一集と銘打っているが厳密には愛唱歌を古い順にまとめたものではない。私は「カバー」の「第一集」とうたわれることで、自然とそれが編年的なものであるかのごとく、気をまわしてしまうが、むしろ一貫しているのはフォークに範をとった演奏による音の響きであり、山本精一は70年代をひとつの境に、今日ではとくに、オリジナリティを求めるがゆえに語りの主体と方法とを問題にせざるを得ないフォークの潮流を、50~60年代のそれと向き合わせることで異化するかにみえる。単にノスタルジーであれば昭和を懐かしむ輩と変わらない。たしかにシンプルだが。かそけ さを帯びている。フラットな歌唱と抑制したギターの底でハレーションを起こしかけた音の粒が泡立っている。基調となるのは「白」であり、「光」であり、だから「昼」である、と私は思う。そんなもの曲解だ、とおっしゃらないでいただきたい。いやむしろ山本精一の解釈が光をあてる。

 ジャックスの"からっぽの世界"は彼らのファースト『ジャックスの世界』(1968年)の収録曲で、山本のカヴァー・アルバムでも山になっている。『ジャックスの世界』はいうまでもなく日本のロック史上もっとも重要な作品のひとつである、ということになっている。私も学生のころから何度となく聴いた。だけでなく、2011年の湯浅学氏監修によるファースト・アルバムを復刻するシリーズ「EMI ROCKS The First」ではライナーさえ書いた。そのときも聴き直したが、印象は昔とさほど変わらなかった。というか、白状すると重たくも感じた。それはこのアルバムが早川義夫の「嵐の晩が好きさー」("マリアンヌ")ではじまるからであり、この距離感のない、森敦流にいえば密蔽した世界に入って行くには私には余裕がなかった。つまり「夜」が広がっていて、その後の"時計を止めて"のいかにも60年代フォーク的な抒情性、"からっぽの世界"の歌詞と相反する洒脱なアンサンブルに耳が届く前に、黒々とした闇に塗り込められ鼻をつままれてもわからない気がした。それが山本精一のフィルターを通すと白々と明けてくる。茶谷雅之とのカオス・ジョッキーの"Asph"を思わせる潮の満ち引きのような山本のエレクトリック・ギターとフラットな歌唱は混沌としてサイケデリックではあるが、70年代以降、つまりブルース/ハード・ロック的なファズを利かせたサイケではなく、ヴェルヴェッツや西海岸の60年代のそれに近い。だが歌詞にはラヴもピースもあらわれない。むしろ愛と平和に対抗するように死をあつかっている。ジャックスの、早川義夫の歌唱では死が鈍器のようであった。ジャックスのころの世界ではその現状に対抗するためにそのように声を上げなければならなかったのはよくわかる。ところが山本精一のヴァージョンでは歌詞はサラリと歌い過ぎ、歌い手のエモーションが蒸発した"からっぽの世界"の真空状態はニヒリズムさえたやすく招き寄せない。
 まるでジャケットにあしらった山本精一が撮った写真のように山本精一はそこで影になっているようである。影は実体と相似だが実体そのものではない。そして影はまた昼の産物であるが昼のなかに闇をうむ。

 山本精一はカヴァー・アルバムという形式を利いた風に使うのではなく、歌に主導権を譲りわたし、しかし存在の痕跡をそこに刻み、歌の歌うがままにする。もちろん曲を選んだのも歌も演奏も山本精一であるのだから彼らしささはゆるがないが、曲はそれぞれ自律している。そして響き合っている。すべてが移ろうと歌った"ターン・ターン・ターン"からニール・ヤングの"アイ・ビリーヴ・イン・ユー"へ。さらにヤングと同じ時期トロントに居合わせたジョニ・ミッチェルの"サークル・ゲーム"へ歌はめぐり、「For Absent Friends(不在の友のために)」歌ったジェネシスへ。2009年にみずから世を去った加藤和彦の「オーブル街」から、多くのフォーク・ソングを日本語の息吹をあたえた高田渡の"失業手当"(この曲も原曲はラングストン・ヒューズである)へ。"ランブリン・ボーイ"は"失業手当"と共鳴し、"失業手当"のひしゃげたギターが"からっぽの世界"の先触れとなる。
 歌に何かを託し言葉がメッセージとなることを、私たちはよく知っているが、生と死を遍歴し彷徨する山本精一の世界はひとつの価値観に収斂するものではない。19世紀初頭、老境のゲーテが人妻マリアンネと、14世紀のペルシャの詩人ハーフィズの詩を元に交わした詩が『西東詩集』となったように、過去とも現在とも、そして未来とも唱和し暗示する。そしてこのアルバムが"ウィ・シャル・オーヴァーカム"で終わるとき、私は去年、紙「エレキング」の水玉対談で水越さんが「"ウィ・シャル・オーヴァーカム"は『We Shall Overcome』のところじゃなくて『Some Day』ってのがいいんだよ」といっていたのを思いだした。
 いますぐ実現しっこないと思えたことがいつか実現するとき、そこから過去になった現在をふりかえった私のおぼつかない記憶はこのアルバムを聴いている今日をどのように思いだすだろうか。
 今日は3月11日である。

shinjuku LOFT presents SHIN-JUKE vol.2 - ele-king

 控えめに言っても野菜マシマシ。このイヴェントのヴォリュームは、近隣のラーメン二郎(歌舞伎町店)を遥かに超えた大きさだった。
 まず、会場は日本のジュークシーンを成さんとするひとたちの集大成。日本でジュークを着実に広めている〈ブーティー・チューン〉のひとたちはもちろんのこと、昨年の『ゲットー・ギャラクシー』が最高に笑かしてくれたペイズリー・パークス/『アブソルート・シットライフ』が発売したばかりの主役であるクレイジーケニー(CRZKNY)/ジュークスタイルの自作曲から選り抜きしたコンピレーション『AtoZ!!!!!AlphabetBusterS!!!!!』がリリースされたばかりでなぜか入手困難になっているサタニックポルノカルトショップ(Satanicpornocultshop)らミュージシャンをはじめ、ジュークのイヴェントでは必ず見かける若いフットワーカー(ダンサー)たちも踊っていた。
 それだけではない。このイヴェントの特徴は、ジューク勢だけでなくスタイルの異なる出演陣が混合している点にある。ザ・モーニングス/掟ポルシェ/どついたるねんといったライヴハウスでは名の知れたバンドをはじめ、炭酸を抜ききったコーラで踊り狂ってみる感じのディスコ・バンド=ハヴ・ア・ナイス・デイ!/ハイパーヨーヨ(hy4_4yh)という女性アイドル・ユニットまで混ぜこぜになって出演していた。

 開場から3時間も遅刻して僕が到着したすると、ホール・ステージでは〈Shinkaron〉のDJフルーティーがジュークの爆低音を唸らせている。そのままバー・ステージを覗いてみる。3人の女性が無味乾燥のギターロックに合わせて元気に歌って踊っている(註1)。おお.....訳が分からない。その2つの風景がクロスオーヴァ―もなにもなく分断していたのは明らかだったが、そこから先の心配は杞憂であった。

 程なくしてホール・ステージには、日本においてゴルジェ(#gorge)を先駆けたハナリがライヴを開始した。以前、六本木ではゴルジェ勢とジューク勢が訳もなく抗争を繰り広げていたことは本誌でも伝えたが、おなじくゴルジェの作家であり〈アナシー〉の主宰=ウッチェリーも今回駆けつけていたものの、今回ゴルジェの出演者はハナリのみ。
 ゴルジェを自称するルールのひとつとしてタムを用いるという条件があり、それがゴルジェというタグ概念をサウンドの面で特徴づけている。ハナリのサウンドも然り、体育館で大量のバスケットボールを一斉にドリブルしたかのようなタムの乱れ打ちは山岳や岸壁の険しさを表現しているといわれるが、そのゴツさと険しさはインダストリアルなノイズの延長線上で生まれた音にも聞こえる。
 ハナリが両手でMPCを叩き打ち、シンバルやSEが騒がしく響き渡る。一切の照明を消した暗闇の奥、何台ものデカいウーファー・スピーカーの向こう側でヘッドスコープを着用しているハナリは、洞窟のなかを進むように、ポスト・ダブステップ的なビートやジュークのテイストをそれとなく織り交ぜながら、ひたすらMPCでノイズを出し続けていた。そのコミカルさに、オーディエンスも呆れ半分、こういうものかと見守り始める雰囲気があった。
 思うに、デス・グリップスやレッド・ツェッペリンのドラムソロにまでゴルジェと言ってしまうくらい貪欲なタグなのだから、ジュークとしてタグ付けされプレイされる音楽のパターンがより多様性を得て、そのライヴやDJぼんやり見ている層まで惹きつけるようになったとき、ゴルジェはより予期しない方向に発展する.....かもしれない。ゴルジューク(Gorjuke)などいう試みは、踊れるという意味でも、そのよい例であるのではないだろうか。僕からすれば、ジャム・シティなんかとも遠からず共振する無機質な合成感がゴルジェにはあるのではと思う。

 DJヤーマンのドラムンベース/レゲエのあとには、どついたるねんがいつも通りといった感じの悪ノリでフロアの湿度を上げていた。途中、唐突にジュークタイムを2分ほど挟んでフロアを駆けずり暴れていたのはとても分かりやすく、つまりはジュークのサウンド/リズムエディットに悪ノリっぽさを見出し、幼稚な意匠として利用したということだ。と同時に、音楽的な味わいどころをまったく放棄して「俺の友達面白いっしょ!」と押しつけがましく暴れてるどついたるねんのステージのなか、ジュークが音楽としていかにフレッシュで刺激的であるかが浮き彫りになった瞬間にも見えた。

 DJクロキ・コウイチがニーナ・シモンの名曲"シンナーマン"のジューク・エディットなどでホール・フロアをクールに煽り、機材準備の完了したペイズリー・パークスにそのままの勢いでなだれ込んだ。
 MPCやルーパーでザクザクとジュークを料理していくライヴ・エディットを披露した。レコーディング音源にも共通していえることだが、ペイズリー・パークスのエディットは、高速のBPMでダンス・ミュージックとしてフィジカル(脚)を直接ダンスへ鼓舞するというよりも、ダークかつ扇動的なサウンドと、脳味噌を右左に揺さぶり方向感覚を失わせる不安定なエディットで、訳のわからないトランス感のなか脚をガタガタさせるような作用があり、いわば脊髄反射ではないという意味においてはヘッド・ミュージック的に楽しませるところがある。リスナーの脳をぶっ壊さんばかりのエディットは、トランス感とダンスへの昂揚を同時にオーディエンスに湧き立たせる。フロアの多くのひとが熱狂していたというのに、わずか10数分あまりで終わってしまったことが本当に惜しいが、そう欲しがりにさせるほど、ペイズリーのトラックは中毒性が高い。アルバムを制作中だというが、ガッチリ完成させて、一刻も早くリリースしてほしい。

 その後のサタポ、ステージ上に現れたのは5人。全員が仮面を終始被っており、名の通り、ややカルティックな気味の悪さを演出している。ジョークめいたラップと歌を披露する2人と、トラックマスター1人、ほかにステージ上をゆっくり動きまわりながら、突如ほかのメンバーをプロレスよろしく張り倒しはじめる2人(どうやらDJフルトノとクレイジーケニーだったらしい)。
 急に仰々しいバラードを熱唱し始めたり、ひよこのオモチャを弾きまくったり、練習中っぽいフットワークを披露したり、アンダーワールドの"ボーン・スリッピー"を堂々とジュークエディットしていたり、ちゃらんぽらんの英語で歌ったり、歌の途中、うろつくメンバーにいきなり張り倒されたり、チーズのお菓子を気まぐれに投げ始めたり、尻に貼っていた湿布を渡されたり(受け取ってしまったが、心の底から要らなかった).....およそ1時間、大阪弁のMCも含めとにかく笑わせてくれたし、音楽もしっかり聴かせる、素晴らしいショーケースだった。
 これはペイズリー・パークスにもすこし言えることだが、サタポがポップな諧謔性をジュークに見出しているのがよくわかった。まだまだフレッシュなジュークの音楽にのっかって、これからも多くの人にライヴで発見されていってほしい。あなたの街にサタポが来たら、とにかく腹筋のトレーニングだと思って観てほしい。

 オーディエンスも長丁場と連続する低音にかなり疲れていた様子のなか、ペイスリー・パークスのケントに煽られながらクレイジーケニーは登壇した、が、いきなり機材トラブルで音が出ない。酔っ払いながらここぞとばかりに本気出せよと捲くしたてるケント。広島弁のヤクザな態度で怒鳴り返すケニーは、愛嬌はありながらも、もしかしてマジでその筋から出てきた人なのではと思ってしまうほど恐かった。
 新譜のなかの"ナスティー・ティーチャー"に顕著だが、徹底的にロー(ベース)に腰を据えたサウンドは、この日の聴いた中で最もシブく逞しいものだった。一番むさかったとも言える。
 ローの熱く張り詰めた空気と中和するように、本人がイジラれキレる様子はとてもコミカル。サンプリングもユニークで、『キューピー3分クッキング』のテーマ曲がリズミカルに乗っかっていたり("3minute 2K13")、ヤクザ映画の言葉を織り交ぜたり("Midnight")、なかでも昨年の夏にツイッター上の何気ない提案から制作された"JUNJUKE"は最高に笑かしてくれた。稲川淳二の声がリズミカルにリピートされ、何重にも折り重なっていくさまは痛快だった。「ユウユウオワオワオワオワオワ」「ガタガタガタガタガタガタ」「ハアッハアッハアッハアッハアッハアッハアッハアッ」「ヒー! バババババババ」といった擬音がパーカッシヴに生かされ、ジュークのリズムをMADの枠組みとしてうまく活用している。
 サタポとおなじく、クレイジーケニーのセットにも笑いの解放感があった。

 クレイジーケニーが深々と頭を下げてイヴェントは終了した。
 特別にいくつもレンタルした低音スピーカー=ウーファーの片づけを会場に残っていたみんなで済ませ、競技を終えた体育祭のあとのような、わるくない疲労感に浸った。

 僕はこの日、気の向くままに踊り、と同時に大いに笑かされたことで、スカッとしたし、生きていてよかったなあとさえ思った。ダンスミュージックであるジュークを、笑いを生むリズムとして解釈して遊びきってしまう出演者たちの姿は、観ていて清々しいものがあった。ウーファーはいささかブーミー気味でもあったし、音響がベストだったとは思わないが、フットワーカーがよじ登り、そのスピーカーでさえステージとして活用していたのもカッコよかった。とにかく遊びきっていた。イヴェントのむさくるしさ(男臭さ)を笑う声もあったが、女性も少なくはなかったと思うし、フットワークを披露した女性もいるので、とくに気にすることもないだろう。
 それに第一、今回のイヴェントのもっとも有意義な点は、〈新宿ロフト〉というライヴハウスで、ふだんクラブに来ない人たちまでもがジューク&フットワークを目撃し体感したことだろう。どついたるねんのメンバーも、ハヴ・ア・ナイス・デイ!のメンバーも、ペイズリー・パークスやサタポのライヴ中、ジュークに感銘を受けたように踊っていたし、それこそがこのイヴェントのもっとも象徴的な画だったかもしれない。打ち込みの音楽とはいえ、バンドマンもといライヴハウスの人間を圧倒させる力がジュークには確かにある。笑って遊びきる感覚を武器に、ジュークにはこれからもどんどん広まっていってほしい。この思いきったイヴェントを主催した〈新宿ロフト〉の副店長=望月氏には拍手と感謝を送りたい。当日も現場で送ったが、まだ足りないくらいだ。

 最後に大事なことをひとつ。この日はフロアでも頻繁にフットワークのサークルができ、先に述べたように、スピーカーまでもがダンスのステージとして活用され、転換中、スクリーンにはフットワークのレッスン動画が流されるほど、フットワークへの注目が高まりつつある。
 ただし、この日フットワークを披露してい(るとこを僕は初めて観)たDJクロキ・コウイチ氏も言うように、ジュークのDJのなかでフットワークを踊るひとは少ないし、こうしてイヴェントに集まるフットワーカーもまだ多いとはいえない。筆者は、トラックスマン来日エレグラゴルジェとジュークの全面抗争につづいて、イヴェントでジュークを聴いたのは4回目。若いフットワーカーもイヴェントのたび増えている印象があるが、それでもまだ少ないダンサーが切羽詰まったローテーションで踊り、サークルの流れが途絶えてしまうのも事実。
 もちろん会場のみんなが踊れるべきだとまでは思わないけども、このジュークという音楽をすこしでも多くのひとがダンス・ミュージックとしてもエンジョイできたら、どんなに楽しいパーティになるだろうか。ダンスできる/できないの壁をどれだけ払拭していけるかが、ジュークのこれからを考えたとき、ひとつ大きなポイントであるのではないかと思う。
 
 ということで、レッスン会のようなものがないうちは、夏頃に開催されるだろう〈SHIN-JUKE vol.3〉に向けて、以下のレッスン動画でチャレンジしてみましょう。犬の声はサンプリング?
 ほかにいい動画や練習の集まりがあるぞーというひとはぜひ僕宛てに教えてください。

 

 
(註1)あのとき鳴っていたのはファンコット(FUNKOT)だったというご指摘をたくさんいただきました。筆者のまったく記憶違いでしたらまことに申し訳ありません。(斎藤辰也 3/12 13:12)

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