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Masayoshi Fujita

Masayoshi Fujita

Stories

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野田 努   Mar 14,2013 UP
E王

 周知のように、UEFAチャンピオンズリーグ、決勝トーナメント、ベスト16のFCバルセロナとACミランのセカンド・レグは、バルセロナが、鮮やかな、ドラマティックな大逆転劇を果たした。
 僕は、バカを売りにする狡猾なベルルスコーニを忌み嫌うあまり、バルセロナを応援したと先月の原稿で書いたことを後悔した。ミランの露骨なカテナチオ(イタリアの伝統的なガチガチの守備サッカーの呼称)は、アントニオ・ネグリによれば弱いモノが勝つためのイタリアらしい農民的なサッカー(http://chikyuza.net/modules/news1/article.php?storyid=25)らしい。
 実際、ミランの、アフリカ系だかトルコだか、とにかく雑食性豊かな、なりふり構わない戦いには、あり得ないほど華麗で、天才的なバルセロのサッカーにはない心が揺さぶられるものがあった。その雑食性、移民たちのサッカーのことを以前、水越真紀に話したら「それこそ帝国じゃん」と突っ込まれたが、不思議なことに、ネグリではないが、たとえばベルルスコーニが背後にいようと、インテルなんかよりもミランのほうが、いまでも魅力的に見えるのは、僕の過剰なアルコール摂取からくる幻覚なのだろうか。とにかく僕も最初は、メッシの神業レヴェルのゴールに興奮していたのだが、しかし、後半、一生懸命に攻め上がるミラン、トサカ頭のFWやロビーニョを見ながら、数十分だけだが、ミラニスタに情が移っていたのである。そして、テレビを消して、僕はマサヨシ・フジタの『Stories』を聴いた。まったくサッカーとは関係ないが、その試合と同じように超然としていて、寛容さがある。興奮は、清々しさのなかでチルアウトする。

 TMTを真似すれば、これは「エウレカ(ユリーカ)!」、すなわち「発見した!」といったところだろう。この音楽を「アコースティックなデトロイト・テクノ」と評している人がいるけれど、カール・クレイグ~ジョン・ベルトランあたりから導き出せる美麗な旋律をヴィブラフォンで演奏し、電子で味付けたのがこの作品だという紹介はアリかもしれない。僕は、クラスターのハンス・ヨアヒム・レデリウスの牧歌的なソロ作品やスティーヴ・ライヒにおける静謐さを引き合いに出したい。
 彼の内面から、どれだけのエロスを引き出せるか、美を醸成できるか......、そしてそれらは、ただそれを聴くことによって、人に予期しなかった喜びをもたらす。おそろしく見当違いのことを言うが、まるでベートーヴェンだ。僕は『快速マガジン』に投稿するために、先月、岩波文庫の『ベートーヴェンの生涯』を読んでいたのである。これを読むと、音楽は、ただそこにあるだけでも充分に意味があることがわかる。ただそこにあって、美しい熱情を創出できるなら、どんな窮地にいる人間の魂も癒すことができるかもしれない。自分でも思いもつかなかった思いが湧きあがるかもしれない。
 いずれにしても、考えてみれば、実は音楽のない世界を考えられないように、本来音楽は、ただそれだけで、充分なのだろう。マサヨシ・フジタという人は、ベルリンに住んでいるという。いったい、どれほどの日本人がベルリンに住んでいるのだろうかという話ではないが、この人の音楽から特定の都市は感じない。どこで暮らしていようと、この音楽は生まれたように思われる。

 クラシックとジャズとエレクトロニクスが静寂のなかで出会う。日本的な「間の美学」も注入されている。20世紀前葉の室内楽は、特権階級どものクソ忌々しい享楽として授与されていたかもしれないが、今日の電子リスニング・ミュージックは、その外側にいた人たちに受け継がれている。『Stories』に録音されているのは、ヴィブラフォンの演奏だけではない。少ない音数の広大な空間と音響、コンテンポラリーな電子処理がほどこされている。
 マサヨシ・フジタは、El Fog名義でヤン・イェリニクとも共作を果たしている。そちらの作品『Bird, Lake, Objects』は、電子音楽愛好家にとってはよりアプローチしやすい内省的なアンビエントを拡げている。それに対して、『Stories』における電子音は、空気のように控え目だ。ビーズやアルミホイルを用いたプリペアドも取り入れているという。僕には言わなければわからないが......。しかし、彼が演奏するヴィブラフォンにリズミックな躍動があることは感じる。ドラムのないダンス・ミュージック......。
 気むずかしくもなく、いやみったらしくも、すましている感じでもない。高踏的でも、散文的でも、無感動でも、苦悩でもない。コレクター的な趣味を満足させる音楽でもない......というような、ルサンチマン的な書き方、聴き方が我ながら嫌になる。なぜならこれは、とかく音楽とは、とくに大衆音楽は刺激的でなければならないというオブセッションからは数万光年離れている、ポジティヴな意味で厭世的な音楽であり、隠者の音楽であり、そういう意味でも、「ユリーカ!」すなわち「発見した!」なのだ。リコメンド。

野田 努