Home > Reviews > Sound Patrol > East Asian Bass & Trap 7選
コロナのせいか、不動産バブルが終わったせいか、それとも〈SVBKVLT〉が上海からイギリスにリロケートしてしまったからか、〈Do Hits〉を主宰するハウイー・リーの新作を聴いてももうひとつ勢いが感じられない中国のベース・ミュージックに対して、領海問題で中国に脅かされているフィリピンやTHAAD配備以降、中国との関係が悪化した韓国からはフレッシュなベース・ミュージックが相次いで登場し、これと絡む日本人のベース・ミュージックにも豊かな響きが豊富に感じられるようになって。あまりに暑くて集中力が持続しないので適当に7曲ほどピック・アップ!
(日本)これまでに〝How you doing〟や〝Utopia〟をリリースしてきたSunny Only1がフィリピンにルーツを持つitsKohkiらと新たに組んだ4人組ユニット、イッツ・アスのセカンド・シングル。7月にリリースされたデビュー・シングル〝走れ〟とはまた異なり、実に軽やかなリズムにのせて「お金がないよ 仕事もないよ」と地方の労働状況をラップする様はフィッシュマンズが「なんにもないよ~」と歌っていたことさえ重苦しさを感じさせるほどあっけらかんとしている。いや、これは素晴らしい。楽しいです。「ハナプ・タヨ」というリフレインはタガログ語で「みんなで一緒に探そう」という意味だそう。新宿の外国人労働者を様々な角度から描いたNHKドラマ『東京サラダボウル』の主題歌はこれがよかったな。
(フィリピン)3年前に〝YUH〟をフィーチャーしたEP「ELMNT」(タガログ語)で頭角を現した時はレイジーでスローなジャジー・ヒップホップがメインだったのに、一転して新曲はアフロスウィングを取り入れたヒップ・ハウス(英語)に。アフロスウィングは10年代なかばからイギリスで流行っている西アフリカ由来のパーカッシヴなリズムで、アフロウェイヴやUKアフロビーツなどとも呼称される。FKAトゥイッグス"Honda"、リトル・シムズ"Point and Kill"などがヒット。シャンティは少し重いアレンジでフィジェット・ハウスとも絡ませ、アーバンな感性を強調。
(日本)2月に上海の〈SVBKVLT〉からリリースされたクールでリリカルな響きのEP「Tokyo Ice Age(東京氷河期)」に続いてフランスの〈Polaar〉からリリースされたコンピレーション『Polaarized』のオープニング曲。乾いたスネアが実に気持ちよく、複数のドラム・ビートを絡ませながら猥雑さのかけらもない不思議。詳しくは→https://www.ele-king.net/review/sound_patrol/dj_file/002844/。
(フィリピン)K–ポップならぬP–ポップの8人組で基本的にはトラップ・ソウルやコンテンポラリーR&Bがメインのアイドル・ガール・グループ(タガログ語でビニビニは若い女性のこと)。はっきりいってどの曲も全部つまらないのに、シャンティと同じタイミングでパーカッシヴ・サウンドに手を出し、DJ Kで知られるブラジルのファンク・マンデラオやフェヴェーラ・ファンク(バイレ・ファンキ)を取り入れたこの曲だけはとてもいい感じ。紛れ当たりなのか、それともこのまま路線変更なのか。
(韓国)イェジ(Yaeji)やサラマンダとは異なり、タイトで疾走感のあるDJや女性2人組のセ・ク(C’est Qui)としても活動するテック–ハウスのプロデューサー。2年前に〈Honey Badger Records〉からリリースした「Point of Hue EP」が話題となり、ブレイクビーツはそれ以前から取り入れていたものの、本格的にUKベースを炸裂させた8作目のEPからタイトル曲。ストイックな作風はそのままに不穏なSEなどで強迫的なムードを高め、韓国に多い宗教的な儀式を連想させる。〝 Cloudborne 888〟は部分的にキューバのリズムも感じさせる。
(日本)南アのゴムやアマピアノを皮切りに様々なベース・ミュージックを展開し、デビュー7年目となったデビュー・アルバム『遠慮のかたまり』からタイトル曲。UKガラージの王道を行くサウンドで、細かいリズム・パッセージが実に小気味いい。アルバム全体の歌詞は水曜日のカンパネラの偉人路線に対抗して食べ物のことばかり(つーか、シャンユーのマネージャーは水カンのDir.Fこと福永泰朋です)。アルバムには七尾旅人も参加。
(韓国)バブルガム・ベースやハイパーポップを自在につなぎ合わせ、曲によってはドリルやインダストリアル・ヒップホップなど神経症的なアクセントも豊富に盛り込む跳ね返り娘。作風が多岐にわたるなか、EDMにも接近し、ここではファヴェーラ・ファンクを取り入れて爽快なんだか不快なんだかよくわからない世界観をこれでもかとぶちまけている。猿の鳴き声でビートをつくるとは……
(日本)過去にはBガールだったり、ゴシックだったりと、ありとあらゆる様式性を無効化していくリルニーナがついにカワイイ全開モード。選択肢の多い世界を好きなだけ駆け抜けていく。これぞジャパニーズ。小悪魔アゲハの古典『月曜日のユカ』は不滅です。続く"ANATA"では浴衣姿にも。こっちの方がいまは世界に近い?
三田格