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Interview

interview with Eiko Ishibashi

interview with Eiko Ishibashi

暗い道の濃い霧のなかから……

――石橋英子、インタヴュー

取材:野田 努   photos by Yasuhiro Ohara   Jan 13,2011 UP

石橋英子
キャラペイス

felicity/Pヴァイン・レコード E王

Amazon iTunes

 孤独を好む少女だったのだろう。同世代が子供に見えて仕方がなかったのかもしれない。エレガントなピアノとこの音楽のアトモスフィアが伝えるものは、より濃密なひとりの時間である。真夜中の永遠の物思いに耽るように、石橋英子の『キャラペイス』はゆっくり流れていく。美しい響きをもった控えめなこの音楽は、ただ何も思わず聴き流しこともできるが、こちらが熱心に耳を傾ければ強く応えてくる。
 女性でピアノで歌と言えばジョニ・ミッチェルだろうというのはあまりにも早計だ。彼女の音楽はカンタベリーやクラウトロックといった1970年代の偉大なる冒険の系譜にある。つまりジャズやクラシック、現代音楽などさまざまな要素がなりふりかまわず混在している。ジム・オルークがプロデュースした今作では、そうした彼女の音楽性のなかに彼女自身の歌がミックスされている。一見、シンガーソングライターを装っているようにも聴こえるが、声は透明でピアノの音が耳にこびり付く。そして、こちらがより熱心に耳を傾ければ『キャラペイス』はまったく別の世界を見せてくれる。要するにこれは、奥が深いアルバムなのだ。
 何よりも秀逸なアートワークが雄弁に中身を教えてくれる。暗い道の濃い霧のなかから、エレガントなピアノが聴こえてくる......。

人から「あー、プログレや変拍子が好きだね」って言われることはありますけど、でも、作っているときはそういうものを作ろうと思って作ってないんですよ。自分では、大きく見て4とか8だと思ってやっている場合もあって、でも達久くんから「これ9じゃないの」って言われたり(笑)。

前作も好きだったんですけど、新作はさらに好きです。

石橋:ありがとうございます。

ここ1~2年、石橋さんのプレイは、七尾旅人くんやphewさんのバックでの演奏を聴いているんですけど、なんか四六時中ライヴをやっているような印象があるんですよね。

石橋:そうですよね(笑)。

:いろいろな方々のサポートをしたり、コラボレートしていますよね。年間100本以上のライヴをこなしているという話ですが、そうなると1週間に2回というか、3日に1回はステージに立っていることになります。

石橋:今年(2010年)はそうでもなかったんですけどね。でも、前の年は本当にそんな感じでしたね。今年は......数えてないけど、ヨーロッパで1ヶ月で22公演というのはありましたね(笑)。

ヨーロッパへは何で行かれたんですか?

石橋:向こうで、イタリアのサックス奏者といっしょに即興のセッションがあって。現地でいろんな人たちとセッションしたり。

石橋さんは本当にいろんな方とそうしたセッションをされていますが、ご自身で思う自分の属性としては、他人とコラボレートしたりサポートにまわるほうが自分らしく思えるのか、あるいは、今回の作品のように自分がフロントに立っているほうが「らしく」思えるのか、どちらなんでしょうか?

石橋:自分らしいと思えるのは、家で録音しているときですね。人に見られることなく、誰もいない空間で曲を作っているのが自分らしいかなと思うんですよね。それが誰かのサポートであれ、自分がフロントに立つのであれ、いまでも人前に出ることには抵抗があるんですよ。

その発言は誰も信じないですよ(笑)。

石橋:実はそうなんですよ(笑)。で、人前に出ることを前提とするなら、サポートであったり、バックで演奏しているほうが自分らしいのかなと思っています。

演奏行為そのものはお好きですか?  ピアノを弾いているときがいちばん幸せだとか?

石橋:ぜんぜんそれもないですね(笑)。演奏が大好きって感じではないんですよ。楽器自体にも興味がないし。

それはとても意外ですね。

石橋:ピアノの種類も知らないし、演奏することが「楽しい!」っていう感じじゃないんですよね。演奏する前も演奏した後も、「楽しかった」という感じじゃないんです。それはライヴで私の様子を見ればわかると思いますが、なんか淡々としている......。

ハハハハ。新作を聴かせていただいて、資料を読むと「歌に挑戦した」みたいなことが書かれているんですけど、曲を聴くとどうしてもピアノの音のほうが耳に入ってきてしまって、たとえば1曲目のようにピアノのリフが踊っているような演奏を聴くと、やっぱ演奏することに快楽を感じてらっしゃるのかなと思ってしまうんですけどね。

石橋:いや、もし自分がそれを感じてしまったら寒いと思うんですよね。そこでカタルシスみたいなものを得てしまったら自分に対して寒いというか......。今回のアルバムも、曲を作っているときに気持ちいいものを求めたいと思っていると絶対にしっぺ返しをくらって、ピアノから「違うよ」と言われて、それで何回も曲を捨ててはまた作ってと、そんなことを繰り返しながらできがあった感じです。

4歳のときからピアノを習っていたという話ですけど、幼稚園の年少ですよね。英才教育じゃないですけど、小さい頃から楽器演奏を追求してきたという経験から来るいまの言葉なんでしょうかね?

石橋:たしかに小さい頃からふたりの先生について習ってきたんですけど、どちらも近所のおばちゃんみたいな感じの人たちで、いわゆる"音大を出てます"という感じの先生とはちょっと違った先生だったんです。ふたりとも変わった先生でした。で、16歳までクラシックをやるんですけど、16歳でピタッと止めてしまったんです。それから10年以上人前でピアノを弾かなくなってしまって。弾かなかった時期も長いんです。バンドをやっていたときもドラムだったし。

クラシックを止めたのは、練習が厳しいから?

石橋:単純に飽きてしまったんです。高校生になったら、何だか急に無気力になり、ひたすら音楽聴いたり、映画をみているばかりでした。

コンクールには出てたですか?

石橋:コンクールには出ましたが、そういうところで賞を獲ることに興味がなかったし、音大に行くことにも興味がなかった。ピアノを弾くことやクラシックに単純に飽きてしまったんです。

16歳というと高校生ですよね。

石橋:そうですね。

取材:野田 努(2011年1月13日)

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