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Interview

interview with Phil Parnell

interview with Phil Parnell

ニューオリンズのジャズ、ロンドンのIDM、北欧の香気

――フィル・パーネル、インタヴュー

取材:野田 努   通訳:沢井陽子   Sep 20,2011 UP

Phil Parnell Trio(pp3)
Blue

Pヴァイン E王

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Phil Parnell
Ambient Jazz Electronic -Romance & Ruse-

Pヴァイン

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 フィル・パーネルがどれだけ型破りなジャズ・ピアニストであるのかは、彼のバイオグラフィーを見れば一目瞭然だ。20代からジャズの故郷ニューオリンズのホテルやジャズ・クラブで演奏を続け、アストラッド・ジルベルトやボ・ディトリーなど著名な音楽家のバックのために世界をまわっていかたと思えば、マシュー・ハーバートの重要なパートナーとして数々の作品や舞台でピアノを弾き、そして〈パーロン〉〈アクシデンタル〉〈マンティス〉といったテクノ/ハウスのレーベルからもソロ作品を発表している......彼はいわゆるクラブ系の"jazzy"な人ではなく真っ当な"jazz"の演奏家だが、懐古的なスタイルでは飽きたらず、ジャズにおけるポストモダンを探索するひとりでもある。
 この度〈Pヴァイン〉からフィル・パーネルの2枚のアルバムがリリースされる。1枚は、フィル・パーネル・トリオ(pp3)名義による『ブルー』。ハーバートのカヴァー曲にはじまり、彼らの8曲のオリジナル曲を経て、セロニアス・モンクのカヴァーで幕を閉じるこのアルバムは、いま現在彼が拠点としているデンマークで録音されている。pp3は、ふたりのデンマークのジャズ・ミュージシャン(ベースのトーベン・ビョーンスコウとドラムのエスペン・ラウブ)とのプロジェクトで、ジャズの伝統的な構成だが、ライナーに記されているように「しかしながら絶妙なバランスでエレクトロニクスを操る彼の音楽は、一般的なジャズ・トリオとは一線を画す。ビョークがポップ・ミュージックと戯れるような方法で、彼はジャズと戯れる」のである。『ブルー』は昨年、ヨーロッパでリリースされている。
 もう1枚は、フィル・パーネル名義による『アンビエント・ジャズ・エレクトロニック――ロマンス&ルース』、彼のエレクトロニクスが『ブルー』よりも前面に出ている作品で、"アンビエント・ジャズ"という言葉が相応しい音楽が展開されている。実はこのアルバムは今年の春にUKの会社の配信のみのリリースだったので、今回が初めてのCDリリースになる。アートワークに使われているイラストは、ロンドン時代にフィル・パーネルと個人的に親交のあった赤塚りえ子さんが手掛けている。また、UKのベテランのハウスDJ、チャールズ・ウェブスターが2曲のリミックスを提供している。
 『ブルー』も『アンビエント・ジャズ・エレクトロニック』もどちらも豊かなアルバムだ。さまざまな試みが曲ごとにはっきりとある。と同時に、このメロウでドリーミーで、そして優しくエレガントな響きの背後からは、上昇と下降、予感、喜び、悲嘆、怒り、愛の絶望、そして愛の損失......が聴こえるだろう。ライナーノートに記されているように「そこでわたしたちは美に触れ、静けさを味わい、胸をかき乱され、魅了される」のである。

どんな音楽スタイルのなかにも良いものそして悪いものがあります。創造的なものがあり、物真似もあります。ハイエナジーで静かなものもあれば、空っぽでラウドなものあります。きれいな音楽が人を嫌な気持ちにさせることもあります。ラウドで怒ったような音楽が希望を感じさせることもあります。

『ブルー』も『アンビエント・ジャズ・エレクトロニカ』もそれぞれスタイルは違いますが、ともに感動的なアルバムだと思いました。美しくメロウなだけではなく、心が揺さぶられるような音楽です。ようやくこの2枚が日本でもリリースされて嬉しく思います。最近はどんな活動をされているのですか?

パーネル:最近は新しいピアノ・スタイルのCDに取り掛かっています。頭のなかには聴こえているけれど、まだ実際にプレイできないんです。なので、うまく弾けるように新しい練習をしているところです。そうしたら自分の聴こえた音が弾けますからね。新しい曲のアイディアがこうしているあいだにどんどん湧いてきて、練習しているときにハマっているアイディアを試しながら録音しているんです。いま入れ込んでるアイディアがたくさんあって、どのように発展させ、そして切っていくか決めています。ここ何年かはブラジルの音楽とリズムにはまっていて、ピアノをドラムセットや鉄琴のように使っていこうとしています。

日本に関する思い出はありますか?

パーネル:いままで3回日本に行ったのですが、とても良い思い出があります。いちばん最初の来日は、1990年か1989年だったと思います。ニューオリンズ・バンドのメンバーとして釧路に1週間ぐらい滞在しました。そのなかの1日は街のお祭りのパレードで、大きなトラックに乗って演奏し、私たちは日本のコスチュームを着ました。最初の曲が終わったあと電子ピアノが壊れたので、演奏をストップして音がなくなりました。私は「ああ、ギグは終わってしまったんだな」と思って、ビールを開けました。10分後、電子ピアノを頭の上に乗せたふたりの男の人が、オーディエンスのなかに見え、自分たちのトラックに近づいてきました。世界中でこんなことが起こる場所は多くはありません。日本人は最優先すべきことに最善を尽くしています。だって考えて下さい、楽器屋はその時間には閉まっていただろうし、どうしたら彼らはこんなにもすぐにピアノが用意できたのでしょう。それはそれは深く感動しました。

取材:野田 努(2011年9月20日)

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