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interview with Orbital

interview with Orbital

この先モンスター注意

──オービタル、インタヴュー

質問・文:三田格    通訳:青木絵美   Sep 19,2018 UP

俺にとって「Monsters Exist」というのは「この先、洪水注意」と書いてある道路表示のような、注意警告だ。中世の古い地図を見ていて、この先にはドラゴンやモンスターがいるから、その絵が描いてある、そんなイメージ。

タイトルにある「Monsters」と聞いて僕が最初に想像したのは、例の「GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)」というやつでした。ジョージ・グライダー(George Gilder)は最近の著作『ライフ・アフター・グーグル』でビーグ・データを解析するというビジネスモデルは終わると予言しています。シンギュラリティも起きないと。ちょっと楽観的かなと思いますが、「GAFA」とあなた方の「Monsters」観はズレますか?

ポール:ズレてはいないと思うよ。俺はその企業のことは全然考えていなかったけどね。俺にとっての「Monsters」は政治家やいじめっ子だ。だが確かに、いま挙げた4大企業も「Monsters」として捉えることができるね。俺にとって「Monsters Exist」というのは「この先、洪水注意」と書いてある道路表示のような、注意警告だ。中世の古い地図を見ていて、この先にはドラゴンやモンスターがいるから、その絵が描いてある、そんなイメージ。「モンスターはいるから気をつけなくちゃいけない。剣と盾を持って自分を守らなきゃいけない」。そんなメタファーだ。個人的に俺はモンスターが誰であるかということは言わないようにしている。「ドナルド・トランプはバカ者だ」というタイトルのアルバムを出すこともできるが、そんなことをしてもトランプ支持者を怒らすだけだ。「Monsters Exist」というタイトルのアルバムを出せば、トランプ支持者でも「そうだ、俺もグーグルは嫌いだ」と納得してくれる。人に鏡を向けているようなものだ。「君にとってのモンスターは誰だ?」と。君にとってのモンスターが誰であるか考えてほしい。君は「GAFA」を思いついて、それはそれで結構なことだ。アルバムを聴くとき、そのモンスターたちについて考えてほしい。それが君の聴き方であり、そうすることによってアルバムは君のモンスターについて語るだろう。そういう聴き方をしてもらいたい。

オービタルが紡ぎ出すメロディは古くは中世のジョン・ダウランドに通じる英国調というか、どことなく無常観が内包されていると感じますが、この世界の可能性をどこかで諦めているという感覚があるんでしょうか? 『Snivilisation』(94)などはその感覚が怒りとして出てきたのかなと。

ポール:その作曲家は知らないな。むしろレイフ・ヴォーン・ウィリアムズのような音が入っていると俺は勝手に思っているけれど。だがそれもフォーク音楽が大好きだということが共通していると思う。イギリスの古いものからの影響は多い。70年代のテレビ音楽や、BBCのラジオフォニックワークショップ(『IDMディフィニティヴ』P37参照)でかかっていた音楽などが、オービタルの音楽に反映されている。それらの音楽にはフォークな感じがあり、オールドイングリッシュな感じがしていたから。俺はフォーク音楽もよく聴く。その影響も俺たちの音楽に出ていると思う。俺は昔から中世っぽい音や、フォーク音楽が好きだった。レコーダーやパイプオルガンの音など、当時のインストラメンテーションが好きだ。管楽器のサウンドは魅力的だと思う。オーケストラの管楽器セクションも昔から好きだ。だからそういう時代や音の影響は確かにある。君が言ったジョン・ダウランドもイギリスの典型的な作曲家なら、彼の影響もオービタルの音楽に反映されていると思う。ジョン・ダウランドという名前だな? メモして後で調べてみよう。確かにオービタルの音楽には英国調な、フォークロア的な要素が含まれていると思う。そしてこのアルバムには怒りも含まれている。『Snivilisation』ではパンクロックやインダストリアル・ファンクのダークな過去に迫った作品だった。〈ファクトリー・レコード〉など、エレクトロニック音楽のムーディーな一面に対する俺たちの愛情を表現したアルバムだった。

ちなみにゴージャスな音作りは全体に楽しい響きがまさっていて、タイトルが示すような危機感はあまり喚起されませんでした。そういう聴き方じゃダメなんですよね?

ポール:そんなことないよ。どんな聴き方をしてもいいんだ。このアルバムには、ニヤリとしてしまうようなサウンドは確かにある。元々は怒りのこもったアルバムを作ろうという話をしていた。政治的にもこの世の中は怒りであふれている。その一方で、その混乱から逃避できるようなものをつくりたいという気持ちもあった。そのふたつの意図のちょうど真ん中くらいに着地できたと思う。タイトルは『Monsters Exist』で、アルバム・アートもそれらしいイメージが描かれている。だがモンスターが誰であるかということは明確にしていない。俺にとっては、現代のサウンドトラックみたいなものだ。映画音楽やテレビ音楽を手がけるアプローチと一緒で、現代の状況に合った音楽を作るような感じで今回のアルバムをつくった。だから恐ろしい部分もあるし、爆笑してしまう部分もある。この時勢において、イギリスがEUを脱退したのは、狂気の沙汰としか言いようがない。政治家やブレグジット支持者は何をやりたいのかまったく分かっていない。いや、彼らは、古き良きイギリス帝国に戻ろうとしていたんだ。それは本当にバカげたことだ。イギリスがどれだけ保守的でちっぽけな諸島だということが分かるだろう。“Hoo Hoo Ha Ha”や“P.H.U.K.”などの曲はアッパーで楽しい曲だけどそこには歪みもある。ピエロが乗っている車や、車輪がいまにも取れそうなジェットコースターのような歪みがある。「わーい! ジェットコースターだ! でも本当に死ぬかもしれない!」そんな感じ。そこには奇妙にひねくれた感じがある。それが現在のヒステリックなイギリスを表している。イギリス国民は、ブレグジットという崖っぷちへ喜び勇んで走っている。だが、その先はどうしたら良いのか誰も分からない。本当に話にならないよ! 俺はヨーロッパに行くと、「俺はブレグジットを支持しなかった。あれとは一切関係ない」と、まずみんなに謝らないといけないから本当に恥ずかしいよ。とにかく、アルバムは現状を表現したサウンドトラックだ。そこには“Monsters Exist”や”The Raid”などダークな雰囲気の曲もあれば、最後には大学教授であるブライアン・コックスが深い真理を語っている曲もある。現在の世界の状況やそれに対する忠告が含まれている。“Vision OnE”は「これは一体何を意味するんだ?」という感じもあるし、英国調のフォークっぽい感じもある。“Vision OnE”は比較的今回のアルバム制作段階の初期にできた曲だ。「何が起こっているの? 俺たちは何をやっているんだ?」という警告がなされている。

『Monsters Exist』を聴いてもしょうがないと思う人は誰かいますか? ロシア叩きに忙しいテリーザ・メイを除いて。

ポール:テリーザ・メイが聴いたら、少しは彼女の役に立つんじゃないかな? いや、むしろ鏡を見て自分に聞いてほしい。「私はブレグジットを実現した間抜けとして歴史に残って良いのだろうか?」と。それは冗談で、すべての人がアルバムを聴くべきだ。そしてすべての人がアルバムを買ってくれたら嬉しい。

ちなみに10日ほど前、フランス政府が環境問題に取り組む気がないことに反発してフランスのユロ環境相が電撃辞任しました。こういう政治家は信用できますか?

ポール:この政治家については知らないから、いま、君が言ったことに対するコメントしかできないけど、それは正しいことをしている人のような気がする。政治家がそういう形で辞任するときは、信条があってそうすることが多い。最近の政治家は、政治家としての仕事をする人よりも、キャリア志向で政治家をやっている人が多い。政治家なら状況が良くなっても悪くなっても自分の信条を貫くべきだ。権力を保とうとするゲームをしているやつらが多すぎる。だからそのフランスの政治家には、正しいことをやろうという姿勢が感じられる。そういう人がたくさん政治に参加してくれたら良いと思う。

今回、ゲストで参加しているのは物理学者のブライアン・コックスだけですか?

ポール:そうだ。彼の、人生を肯定する「何をやってもOK!」という内容のスピーチを最後に入れた。彼のテレビ番組が大好きで、彼に連絡を取り、最終的に、俺が話してもらいたかったそのままのことを話してくれたから最高だったよ。彼と話し合って、最近、彼が読んだ本からの結論部分を彼が読んでくれた。そしてそれを持ち帰り、素敵な曲になるようにまとめた。

ちなみに前作『Wonky』でレディ・レッサー(Lady Leshurr)を起用したのはなぜですか? グライム嫌いにも届いてしまう彼女の才能はすごいですよね。

ポール:彼女は素晴らしいよ。友人を介して彼女を知ることになった。俺たちは女性のラッパーを探していたんだ。彼女の名前が挙がったから、“Lego”という彼女の曲を聴いて「彼女は最高だ! 俺たちにぴったりだ!」と思った。まさに俺たちが求めていた人材だった。何年か前、BBCの「アーバン・プロームス(URBAN PROMS)」というテレビ番組に出演していたときも出演者の中で圧倒的に彼女が上手かったよ。

君にとってのモンスターが誰であるか考えてほしい。アルバムを聴くとき、そのモンスターたちについて考えてほしい。それが君の聴き方であり、そうすることによってアルバムは君のモンスターについて語るだろう。

若手で気に入っているのはネイサン・フェイクだとか。ほかに若手のプロデューサーでひとり、同世代のプロデューサーでひとり、それぞれ気になる人を挙げて下さい。

ポール:同世代のプロデューサーで好きな人と若い世代のプロデューサーだね。同世代だと俺はエイフェックス・ツインの音楽をいまでも楽しんでいる。彼は本当に笑わせてくれるよ。ミステリアスに見せているペルソナも好きだし、彼の音楽はいつも興味深い。彼の音楽のすべてが好きというわけではないけれど、興味はそそられる。彼は最高だよ。新鮮味を失っていない。あとは誰かな? 若い世代だとネイサン・フェイクと同世代でジョン・ホプキンスが好きだ。そんなに若くもないけど、俺にとっては若い世代だ(笑)。彼はつねにダンス・ミュージックやエレクトロニック音楽の構成が何であるかという限界に挑戦していると思う。だから彼には興味がある。“Emerald Rush”という最近の彼の曲は素晴らしい。とても面白い曲で、この曲を聴くと、「これはどうやってつくっているんだ?」と気になる。エレクトロニックな音で、俺に「これはどうやるんだろう?」と疑問に思わせることができるというのは良いことだ。

ローレル・ヘイローがゴールデン・ガールズ名義の“Kinetic”を『Minutes From Mirage』でミックスしていて、ちょっと驚きました。最近、あなた方の曲を若手が使って、その使い方などで驚かされたというようなことはありますか?

ポール:ないね(笑)。

青木:あるでしょう!

ポール:“Belfast”がミックスされたのをどこかで聴いたけど、それももう8年くらい昔のことだ。俺は最近はもう踊りに行ったりしない。フェスティバルやレイヴには行くけど出演者として行く。これはあまり言いたくないけど、50歳になった俺はもうあまりレイヴしなくなってしまったんだ。クラブにも行かない。嫌いなわけじゃないけど、もう興味がなくなってしまった。俺には子どもが3人いる。彼らと家でホラー映画を見ている方が楽しい。だがフェスティバルやレイヴに行くときは会場を歩き回り、どんなイベントなのか自分でも体験するようにしている。最近のイベントがどんな感じかを見るのは楽しいし興味深い。俺も実はどこかで最近、ゴールデン・ガールズがかかっているのを聴いたんだ。どこだったかな? 嫌だな、思い出せない。どこかでかかっていて、この曲がまだかかっているなんて面白いなと思った記憶がある。“Kinetic”は変な曲で、あの感じがずっと続く。

さらに新作から離れてしまいますが、個人的にはニコラス・ウィンディング・レフンの『Pusher』でサウンドトラックを手掛けたことも驚きでした。あれはどんな経緯で手掛けることになったのでしょう。

ポール:昔からの友人でロル・ハモンドという奴がいて、彼はドラム・クラブというバンドをやって、ドラム・クラブというクラブもロンドンで経営していた。

行ったことあります。地下鉄の廃線にあったクラブですね。

ポール:そう。彼が『Pusher』の音楽監督をやっていて、俺たちに合う仕事だと思ったらしい。彼が連絡をくれて「やらないか?」と聞いたとき、俺たちはちょうど『Wonky』をミキシングしているところだったから「時間がない」と答えた。だが、彼から再び連絡が入り、「頼むからやってくれよ!」と言われたので、それならオービタルとしてやることにして、フィルにも参加してもらうことになった。『Wonky』のアルバムをミキシングしにロンドンに通う電車の中で、サウンドトラックの作曲のスケッチをすべて完成させ、アルバムをミキシングしている傍ら、サウンドトラックの作曲を進めた。サウンドトラックのスケッチを数週間で完成させ、『Wonky』のミキシングが終了した後、2週間かけてサウンドトラックをミキシングして完成させた。すごく楽しい企画だったし、参加できたことは光栄だったよ。

最後の質問です。あと何回ぐらい解散する予定ですか?

ポール:数週間後には解散する予定だよ。それは冗談で、もう解散はしないと思う。俺たちは約束をしたんだ。どんな馬鹿げた事情や理由があっても、バンドは解散させないと。バンドはこの先ずっと続ける。それが俺たちの計画だ。

青木:ありがとうございました! 日本に来るのを楽しみにしています!

ポール:ありがとう! 日本には来年の夏まで行く予定がないんだけど、もっと早く行きたいからそれが実現できるようにプッシュしているんだ。いまはライヴで忙しいから詳しくはまだ分からないけど、早くまた日本に行きたいよ!

青木:お待ちしています!


質問・文:三田格(2018年9月19日)

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