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Home >  Interviews > interview with Kensuke Ide - サイケ詩人、空想の物語

interview with Kensuke Ide

interview with Kensuke Ide

サイケ詩人、空想の物語

──井手健介、インタヴュー

取材・文:細田成嗣    photo: mei ehara   May 07,2020 UP

 シンガーソングライターの井手健介率いる不定形バンド「井手健介と母船」による5年ぶり2枚めのアルバムがリリースされた。前作『井手健介と母船』が発表されたのは2015年。それまで吉祥寺の映画館・バウスシアターでスタッフを務め、「爆音映画祭」の運営にも携わっていた井手は、2014年6月の同映画館の閉館をひとつのきっかけとしてファースト・アルバムの制作をスタートさせたという。繊細に揺蕩う音響の襞が重なり合い、あくまでも「歌もの」の体裁を保ちながらも、聴き手にミクロなサウンド世界を顕微鏡で覗いているかのような感覚にさえ陥らせる作品内容は、石橋英子や山本達久、須藤俊明らジム・オルークのバンドでも活躍する当時の参加メンバーの音楽性とも決して無縁ではないだろう──なかでも際立つ8曲め “ふたりの海” で聴かれるミニマルなインプロヴィゼーションからは、カフカ鼾やザ・ネックスの即興性を想起することもできるはずだ。

 『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists (エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』と題したセカンド・アルバムは参加メンバーも音楽性もガラリと様相を変え、まったく新鮮な音楽として結実することとなった。とりわけ注目すべきはサウンド・プロデューサーとして参加している石原洋の存在だろう。石原はこれまでゆらゆら帝国をはじめ BORIS や OGRE YOU ASSHOLE などのプロデュースを手がけてきた一方で、自らもホワイト・ヘヴンやスターズといったバンドで音楽活動をおこない、サイケデリックなロック・ミュージックを発信し続けてきた。今年2月にはソロ・アルバム『formula』を発表し、本誌『ele-king』ウェブ版のインタヴュー記事で自身のロック哲学を披瀝したことも記憶に新しい。このたびリリースされた井手健介と母船によるアルバムも、テーマは他でもなくロックだという。

 だが取材を通じて筆者は井手健介の背景にロックというよりも映画の世界の広がりを強く感じた。もちろん彼にとってロックの文脈は欠かせないものであるに違いない。しかしながら同時に、ロックをアルバム・コンセプトとして取り上げるにしても、映画の構造なくしては生まれ得ないようなかたちを取っているのである。前作が映画における音響体験と関連性がある作品だとしたら、今作は映画における物語のありようと強く関わりを持っている。すなわち音楽としてアウトプットされる形態が音響的アプローチになろうとも物語的アプローチになろうとも、ものごとを映画的に捉え表現していくという思考と感性の枠組みがある点において前作と今作は一貫しており、そしてそれこそが井手健介というミュージシャンの特異な作家性であるとも言えるのではないだろうか。彼は映画の世界を構造的に把握することによって新たな音楽の世界を生み出していく。

 架空の人物エクスネ・ケディを井手が演じた今作では、歌詞やサウンドの節々に幽霊との接触の機会が訪れる。幽霊と接触することは、わたしたちの日常空間が一変してしまうような非日常的な体験だと言い換えることもできる。こうした体験の強度はおそらく、現実それ自体が非日常的な空間で覆われていたとしても変わらない。むしろ自由な移動が制限され、集会することもできず、多くの人々にとって〈いま・ここ〉に留まることを余儀なくされる状況であればこそ、別の時間と別の場所に対する想像力を秘めた作品に立ち会うことによって、〈いま・ここ〉から離れる経験を耳に焼きつけておく必要があるとも言える。インターネット上のビデオ通話を介して井手健介が語る言葉は、そのような想像力の在り処を指し示しているようにも思えたのだった。

オーガニックとか自然体な要素をなるべく排除した、人工的でギラッとしたロックをやろうという話になりました。そして出てきたのが「グラム・ロック」というキーワードでした。

ファースト・アルバム『井手健介と母船』(2015)は、井手さんが運営に携わっていた映画館・吉祥寺バウスシアターの閉館が制作の大きなきっかけになっていましたよね。今回のセカンド・アルバム『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists』はどのような経緯で制作がはじまったのでしょうか?

井手:実はファーストを出したあと、すぐにセカンドを作りたいという思いはあったんです。でも気づいたら5年くらい経ってしまいましたね。今回のアルバム制作に取りかかりはじめたいちばん大きなきっかけは、プロデュースをお願いした石原洋さんの存在でした。僕はもともと石原さんがプロデュースしてきたバンドが好きでしたし、石原さん自身の音楽活動も好きで、レコードを聴いたりライヴを観に行ったりしていたんです。そんなある日、石原さんがDJをしているイベントに行ったらお話しする機会があって。それからちょくちょく交流するようになりました。で、いよいよセカンド・アルバムを録ろうと動き出したとき、思い切って石原さんにプロデュースを依頼してみようと考えたんです。

それはいつ頃のことでしたか?

井手:アルバムのプロデュースを最初に依頼したのはたしか2018年です。その少し前、とある人から「養命酒のCM音楽を作ってほしい」って言われていたんですよ。面白そうだなと思って、たまたま石原さんと会ったときに「こんど養命酒のCM音楽を作るので、プロデュースしていただけませんか?」って言ったら、「いいよ」って引き受けていただけたんです。「これはめちゃくちゃサイケな曲が養命酒のCMで流れるぞ……」と思っていたんですが、あっさりその仕事が流れてしまって。でもいちどプロデュースのお願いをしてますし、せっかくの機会なのでアルバムのプロデュースをしていただこうと話を切り出したら「やりますよ」と言ってもらえた。早速デモ音源を送ろうとしたんですけど、なかなか曲ができなくて、本格的に始動したのは2019年の6月ごろでした。

今回のセカンド・アルバムでは、ファースト・アルバムの頃とはバンド・メンバーがガラリと変わっていますよね。どのように新メンバーを集めたのでしょうか?

井手:山本達久くんや石橋英子さん、須藤俊明さんたちと一緒にやったのはファーストのレコ発が最後でした。あの素晴らしいメンバーがいたからこそあのファースト・アルバムを制作することができたので、セカンド・アルバムへの道のりが険しくなるのは想像できました。ただ、時間がかかってもいいので、ファーストとは違う新しいアルバムが作れたらと考えていました。先程と矛盾するようですが、もともと僕は矢継ぎ早に作品を出していくタイプでもないので、納得がいくかたちを探してみようと。そこから、ライヴの現場ですごいなと思った人に直接声をかけて新しいメンバーを集めていきました。

ドラマーの北山ゆう子さんに声をかけたとき、どういったところに魅力を感じていましたか?

井手:ゆう子さんも生の演奏を観て「この人の音がいい!」と思って声をかけたんです。ゆう子さんのライヴは以前から観たことがあったんですが、2016年に神保町試聴室で見汐麻衣さんと一緒に「埋火の楽曲だけでライヴする」という企画をやったんですね。そのときに僕がギターで、ゆう子さんがドラムで、初めて一緒に演奏したんですよ。一打一打の音が、単純な音量的な意味だけではなく「デカい!」と感じて、驚いたのを覚えています。達久くんもそうなのですが、僕はロック・バンドの中でドラムがいちばんかっこいいと思っていて、ドラマーの音に触発されるようにバンドの勢いが上がっていく快感がゆう子さんの音にもあったんですね。

ファーストを出した直後からセカンドを作ろうと考えていたとのことですが、新しいメンバーを集める際にすでにセカンド・アルバムのビジョンはあったのでしょうか?

井手:いや、ビジョンはまったくなかったですね。曲すらできていない状態でした。

セカンド・アルバムはファースト・アルバムとは音楽性が大きく変化しましたよね。今回の作品はどのようなコンセプトで制作されたのでしょうか?

井手:サウンドのコンセプトとしてはロックです。最初に石原さんと話をしたときにT・レックスやルー・リード、デヴィッド・ボウイが好きだという話題で盛り上がったんですよね。ファーストのときはサイケデリックやアシッドフォークをやりたいという気持ちがあったんですが、セカンドは石原さんと会話を重ねていくうちに、オーガニックとか自然体な要素をなるべく排除した、人工的でギラッとしたロックをやろうという話になりました。そして出てきたのが「グラム・ロック」というキーワードでした。制作を経てもっと広がって、70年代の黄金期のブリティッシュ・ロックを意識するようになりました。

デヴィッド・ボウイのように、ジギー・スターダストという架空の人物の物語をアルバム全体を通じて構成していくというのは、非常に映画的なものでもありますよね。自分にとってのそれがエクスネ・ケディだったということです。

先日『ele-king』に掲載されたインタヴューでも、石原さんは「僕はどうしてもロックの属性からは逃れられない」とおっしゃっていましたけど、井手さんにもそうした側面はあるのでしょうか?

井手:そうですね。ファーストも、あくまでロックの文脈で作ったつもりです。

井手さんは以前吉祥寺バウスシアターの運営に携わっていましたが、映画についてもロックとの関わりから考えていらっしゃるのでしょうか? たとえば爆音映画祭という、ライヴハウス並みの音響設備で映画を観るという試みもありました。

井手:いや、映画はそこまでロックとの関わりを考えている訳ではないですね。「ロックとは何か」という話にもなるので表現が難しいですが、爆音映画祭に関して言うと、実は「繊細さ」にフォーカスした上映の仕方だと思っています。音量を大きくするのは、単純に音量を上げるというよりも、音の繊細な部分を持ち上げるためなんですよね。通常の映画館では聴こえてこないような小さな音がはっきりと聴こえてくることによって、映画そのものの見え方まで変わってしまうという、本来ありえない体験。なので爆音映画祭はロックというよりも、もっと繊細なものとして考えています。もちろん、元々大きな音がさらに爆音になり、こちらを圧倒するような音の壁が現れてくる瞬間も、ロックに触れたときのような快感があることも確かです。

なるほど、つまり爆音映画祭はむしろファースト・アルバムにおける「小さな音の繊細な重なり合い」というところに通じるんですね。

井手:そうですね。「音の繊細さ、その重なりから大きなうねりへ流れ込んでいく快感に面白さを見出す」という意味では、爆音映画祭で自分が培った感覚はファースト・アルバムと繋がりがあるかもしれません。

それは映画での経験が音楽に活かされているということのようにも思います。セカンド・アルバムに関して、映画の経験からフィードバックしたものはありますか?

井手:実はセカンドの方が映画との繋がりがあると思っています。今回のアルバムは一本の映画のような作品にしたいなと思って制作したんです。映像のない映画と言ってもいいかもしれないです。たとえばビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』やデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』みたいに、架空のバンドがアルバムの中に登場するような、コンセプチュアルな作品にしようと考えていました。デヴィッド・ボウイのように、ジギー・スターダストという架空の人物の物語をアルバム全体を通じて構成していくというのは、非常に映画的なものでもありますよね。自分にとってのそれがエクスネ・ケディだったということです。

取材・文:細田成嗣(2020年5月07日)

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Profile

細田成嗣/Narushi Hosoda細田成嗣/Narushi Hosoda
1989年生まれ。ライター/音楽批評。佐々木敦が主宰する批評家養成ギブス修了後、2013年より執筆活動を開始。『ele-king』『JazzTokyo』『Jazz The New Chapter』『ユリイカ』などに寄稿。主な論考に「即興音楽の新しい波 ──触れてみるための、あるいは考えはじめるためのディスク・ガイド」、「来たるべき「非在の音」に向けて──特殊音楽考、アジアン・ミーティング・フェスティバルでの体験から」など。2018年5月より国分寺M’sにて「ポスト・インプロヴィゼーションの地平を探る」と題したイベント・シリーズを企画/開催。

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