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中川裕貴

中川裕貴

──新作コンサート『アウト、セーフ、フレーム』公演直前インタヴュー

Jul 27,2020 UP

 京都を拠点に活動するチェロ奏者・中川裕貴による新作コンサート『アウト、セーフ、フレーム』が、7月31日から8月2日にかけてロームシアター京都・サウスホールで開催される。未曾有のパンデミックを受けて、当初の予定よりも広い会場へと開催場所を変更し、感染拡大を防ぐための措置を講じたうえでコンサートの形式を拡張することに挑むという。人々が密集することによって空気の振動を分かち合うという、従来の一般的なライヴやコンサートの形式がそのままでは成立し難い状況となったいま、フィジカルな空間でイベントを開催するにあたっては、人々が接触することの問題と否応なく向き合わざるを得ない。すなわち音楽の場においてどのように「距離」を確保することができるのか。だが中川はソーシャル・ディスタンシングが叫ばれるようになる以前から、音楽に対して「距離」を取ることについて考え続けてきたという。

 昨年2月に京都芸術センターを舞台に開催された『ここでひくことについて』で、中川は「演奏行為」をテーマに、まるで奇術師のように観客の視覚と聴覚を撹乱し、あるいはパフォーマンスと演出によってコンサートという形式の制度性を明らかにし、さらには受け手の聴取体験の自由と制約を同時多発的な出来事を通じて提示した。そこでは音楽が音によって立ち現れるばかりでなく、音を取り巻く音ならざる要素によってもまた音楽と言うべき体験が成立していたのだった。それは作り手と作品と受け手のそれぞれのあいだにある「距離」を見出すことによって、通常意識されることのない音楽にまつわる関係性を再構築する試みだったと言うこともできる。それはまた、独自の演奏法を開拓することでチェロという楽器の可能性を拡張し、即興演奏家としてさまざまなセッションをこなす一方、劇団「烏丸ストロークロック」の舞台音楽にも携わってきた、演奏と演出の両分野の経験に根差した彼ならではの実践だったとも言えるだろう。

 『アウト、セーフ、フレーム』では、こうした「距離の音楽」がさまざまなレベルで展開される。たとえば「声」という人間にとって根源的に思える響きをチェロから引き出し、実際の人間による発声や聴覚研究に関するテキストと組み合わせることによって、「声」の直接的な現前性に揺さぶりをかけること。あるいは美術家の白石晃一に協力を仰いで廃物と化したチェロを自動演奏機械へと改造し、あたかも自らの分身のような楽器とのセッションを通じて、演奏家として代替不可能なはずの個性を複数化してしまうこと。さらには音響作家の荒木優光とコラボレートし、コンサートをステージから客席へと作品を届けるための一方通行的な場とするのではなく、むしろこうした関係性が宙吊りとなるような音の空間的なデザインへと向かうこと。接触の不安が社会を覆っている状況下において、こうしたさまざまな「距離」の取り方を経験することは、音楽におけるソーシャル・ディスタンシングの在り方を根本的に問い直す契機にもなるだろう。少なくともそこに、パンデミック以前から探求されてきた「距離」に対する批評的な眼差しが潜んでいることは疑いない。

今回の『アウト、セーフ、フレーム』というイベント・タイトルにはどういった意味が込められているのでしょうか?

中川裕貴(以下、中川):音の周りで「セーフ」とされることは何なのか、どこまでいったら「アウト」とされてしまうのか。そこには判断をするための枠組み=フレームの存在が浮かび上がってきます。「フレーム」という言葉は映画的な意味を念頭に置いています。僕は映画音楽に最近ハマっていて、エンニオ・モリコーネの1970~80年代のサントラをずっと聴いていたタイミングで訃報が飛び込んできて驚いたんですが……ともあれ、映画って「フレーム」を基本的な単位として構成されていますよね。これは昨年末に刊行された映画批評家の赤坂大輔さんによる著書『フレームの外へ』を読んで受けた影響もあるのですが、「見える/見えなくなる」「聴こえる/聴こえなくなる」「やって来る/去っていく」「意識の内部/意識の外部」といった、内と外を区画する枠組みとしてのさまざまな「フレーム」について表現を通して考えてみたい。なんだか高尚に聞こえるかもしれませんが、一方で「アウト、セーフ」というフレーズには野球拳を彷彿させる非常に俗っぽい響きもあって、そうした両義的な意味合いも含めてこのタイトルにしました。

さまざまな「フレーム」を設定することによって、枠組みの内(セーフ)と外(アウト)を提示することが、今回のイベント全体を通じたテーマということでしょうか?

中川:そうですね。それともう一つのテーマとして「再生」ということを考えています。これは「もう一度何かになろうとすること」と言い換えることもできるかもしれません。たとえば今回は壊れたチェロを改造して自動演奏させる予定です。そのチェロは僕が以前使用していたものなんですが、もと通りに修復するのではなく、何か別のやり方で再び機能を取り戻すというか、楽器に外科手術を施すことで以前とは別の状態で演奏の場に呼び戻す。それを受けて僕自身の演奏行為もまた変容して別の何かになっていく……ということを考えています。他にも俳優によるいびつな日本語の再生とその反転、チェロの演奏音が人間の声になろうとする、あるいは演奏という行為が音楽と呼ばれるものになろうとする、といったことにも「再び何かになる」というテーマが関わっていますし、ある楽曲がコンテクストを外れて意図せざる受け手に届いてしまうということも、その誤配のうちに「再生」の瞬間が訪れると言えるはずです。そうしたテーマに関わる表現に取り組もうと思っています。そしてそのすべてにおいて「音像」をいかに構築するか、ということが重要な課題としてあるなと思っています。

「音像」を構築するというのは、具体的にはどういうことでしょうか?

中川:今回は音響作家の荒木優光さんとコラボレートして、ロームシアター京都のサウスホールというコンサートホール然とした会場で、通常のコンサート形式のイベントをおこなうと同時に、いかにそこから遠いものを「音像」によって生み出すことができるかを考えています。より具体的には「サウスホールそのものを再生する」ということをテーマに、無観客の状態であらかじめ会場を複数のマイクで空間ごと録音し、それを上演時に再生すること(つまり二重のサウスホールの音場が現れる)や、通路を移動する巨大なスピーカーの存在など、お客さんの視聴環境を踏まえたサウンドデザインを検討しています。ただ単に変な方向から音が出てくるとか、一般的な意味でのサラウンドとは異なるかたちで、音を空間内でどう配置/構成していくのかを考えています。通常のコンサート形式にこれらの「音像」が多層的に重なって進んでいくことが、今回の公演の大きな特徴になると思います。

チェロの自動演奏楽器は、中川さんご自身が改造を手がけているのでしょうか?

中川:いや、技術的な部分は美術家の白石晃一さんに協力していただきました。白石さんとはもともと2017年に美術家の故・國府理さんの『水中エンジン』の再制作プロジェクトではじめてお会いしたんですが、昨年12月にYCAM(山口情報芸術センター)で開催されたミュージシャンの日野浩志郎さんによる『GEIST』という公演に参加したときに久しぶりに再会して。そのときに白石さんが日野さんの自動演奏装置を制作していたんですね。それで「これはすごい!」と思って、今回のイベントでコラボレーションできないか打診したら引き受けていただけたんです。壊れたチェロにさまざまな部品を装着して、プログラムを走らせて何らかのトリガーで自動演奏されるというものになっているんですが、僕の演奏方法と似たようなことができるように白石さんが調整しているので、僕としては自分自身と対話するというような感触があります。

それはまるで自分の「亡霊」とセッションするような感じで面白そうですね。

中川:そうですね。ただ、やっぱり自動演奏楽器が観れるとか、特殊なサウンドデザインのスペクタクルがあるとか、そういったこと自体は僕にとっては表現の本質ではないんですよね。キャッチコピーとしてそうしたポイントを強調した方が人目を引くかもしれないんですけど、自動演奏楽器もサウンドデザインもあくまでも手段であって目的ではないんです。それらを方法として用いたことで結果的に生まれる作品こそが重要なものだと思っていて。こういうことを言うとわかりにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれないんですが、別に難解なことをしようとしているわけでもないんです。むしろ誰にでも開かれた作品であるとも思っていて。いまは移動すること自体にどうしても感染のリスクが発生してしまうので余計に難しいのですが、会場に足を運んで時間をともにしてもらえれば、たとえ実験音楽や前衛音楽の文脈をまったく知らなくても何かしら呼応していただける部分があるのではないかなと思います。

(取材・文:細田成嗣)

インタヴュー記事全文はこちら(https://note.com/hosodanarushi/n/na66da38dd44a

公演情報

ロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム”KIPPU”
中川 裕貴「アウト、セーフ、フレーム」
日時:2020年7月31日(金)~ 8月2日(日)
会場:ロームシアター京都 サウスホール
https://rohmtheatrekyoto.jp/event/59027/

出演・スタッフ
作曲/演奏/演出:中川裕貴
出演:中川裕貴、菊池有里子、横山祥子、出村弘美、穐月萌、武内もも(劇団速度)
サウンドデザイン:荒木優光
舞台監督:北方こだち
照明:十河陽平(RYU)
音響:甲田徹
技術協力:白石晃一
宣伝美術:古谷野慶輔
制作:富田明日香、阪本麻紀

チケット料金
一般 3,000円
ユース(25歳以下)2,000円
高校生以下1,000円
12歳以下 無料(要予約)
※ユース、高校生以下は入場時証明書提示
★リピート割
2回目以降のご鑑賞は、各種料金の半額にてご覧いただけます。
※当日受付にてチケット半券をご提示ください。
※以下の予約フォームより各回の前日までご予約も可能です。
※チケット完売の回につきましては、ご利用できませんのであらかじめご了承ください。
https://www.quartet-online.net/ticket/out_safe_frame

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