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RIP

R.I.P. U-Roy

R.I.P. U-Roy

野田努 Feb 20,2021 UP

 2月17日、ジャマイカのキングストンでEwart Beckford──音楽の世界ではU-ロイの名前で知られる偉人が亡くなった。没年78。
 U-ロイは、ジャマイカのDeeJay(DJ)カルチャーのオリジネイター──厳密にオリジナル=いちばん最初ではないが、もっとも最初にその人気と影響力をもったことからほぼオリジネイターと言われている。U-ロイとは、マイクを握って音楽に合わせて喋る(トースティングする/ラップする)ことの古典である。
 実際の話、ジャマイカのDeeJay(DJ)カルチャーは今日ぼくたちが親しんでいる音楽の始原と言える。そもそもDeeJay/ディージェイは、サウンドシステム(=強力なスピーカーとアンプを擁する、レコードに合わせたダンス・パーティ)において場を盛り上げるために喋りを入れる司会者めいた役のことで、マイクを手に取り曲間に曲を紹介したりキャッチフレーズを入れたりしたという。ちなみにレコードをかけながら最初に喋った人物=厳密な意味でのオリジネイターはカウント・マチューキである(もちろんキング・スティットも忘れてはならない)。ジャマイカでは座談風にラップすることはトースティングと呼ばれている。
 「ディージェイをやるようになったのは14歳のときだった」、2006年に来日した際、U-ロイはぼくの取材でこう話してくれた。「サウンドシステムにはもっと小さい頃から通っていた。おばあちゃんに行ってもいいか訊いてから行った。もちろんいつでも行かせてもらえるとは限らない。そんなときは寝たふりをして、みんなが寝静まってから家を出たものだ。当時のサウンドシステムは、夜の8時にはじまって朝の4時ぐらいに終わる感じで、とにかくたくさんの人がそこに集まっていたんだよ」
 マチューキを崇拝していたU-ロイだったが、ディージェイになった理由は歌うよりも喋るほうが簡単に思えたからだという。とはいえ、レコードに合わせて喋りを入れるということを客をさらに呼び込むためのひとつの芸にして、しかもそれ自体をあらたな作品/表現としてしまうことはそう誰にでもできることではないだろう。U-ロイはラップの先祖とも言われている。
 彼がマイクを握りはじめたのは60年代初頭だが、ディケイドの後半、つまりロックステディ時代に残したいま聴いてもまったく素晴らしい記録は──世界初のディージェイ・アルバムとして知られる『Version Galore』(1971)で聴ける。ここでは、ロックステディの名曲(ヒット曲)の数々のリディムに合わせてのU-ロイのトースティングがミックスされているわけだが、そのなかにはディージェイ音楽としては空前のヒットとなった“Wear You To The Ball”も含まれている。彼の最初の3枚のシングルは、もとの歌手が歌っているレコードよりも売れたのだ。それは衝撃であり事件である。
 つまりディージェイの台頭は、大衆音楽史における変革でもあった。先にも述べたように、音楽で歌わなくても喋りが面白ければ人は集まるということが証明されたこと、既発の録音物はそれで完結ではなく使い回しができるということが実証されたこと、そして、ディージェイの喋りをより効果的に演出するためには既発の録音物から歌を削除したインストゥルメンタルのほうが向いていること、しかもそのインストゥルメンタルの音の抜き差しによる空間の創出によってさらに喋りが際立つこと──サウンドシステムというブロック・パーティ/レイヴ・パーティの青写真のなかでラップという手法は胎動し、それとリンクしてダブという既存の曲を再構築するという、すなわち今日ぼくたちがリミックスと呼んでいる手法もほぼ同時に生まれたのだった。U-ロイはそうしたダンスホール文化のパイオニアのひとりであり、そして彼の初期のパートナーこそダブの王様キング・タビーその人だった。
 「キング・タビーのシステムでディージェイをはじめて人気が出てくると、ジャマイカ中から人が集まってきた」、ジャマイカのダンスホールを制覇することなる当時の様子をU-ロイはこのように語った。「数あるシステムのなかでもタビーのアンプとスピーカーはすごい技術力で作られていて、とにかく抜きんでいていた。当時はまだ彼のメインの仕事はウォーターハウス地区のゲットーで働く電気技師だった、修理なんかをやるようなね。彼のシステムはほかでは聴いたことのない大音量だったけれど、スピーカーを飛ばしたことはいちどもないんだ。エコー・マシンなど最新の機材も輸入したり、アンプもかなりハイパワーだった。タビーはみんなが寝静まったくらいの時間にヴォリュームを上げるんだけど、それぞれの家庭で電気をあまり使わなくなった時間帯を待って、町中の電気をそこに流れ込ませるためにね」
 U-ロイはその後、〈Virgin〉にライセンスされたソウル・シンジケートとの『Dread In A Babylon』をはじめ、デジタル時代になっても多くのオリジナル作品を残している。90年代はかねてから大ファンだったというマッド・プロフェッサーの〈Ariwa〉から数枚のアルバムを発表しているが、2018年にも同レーベルから『Talking Roots』を出している。また、ベスト盤『The Originator』をはじめとする数々のコンピレーション盤も残しているが、サウンドシステム文化からも離れず、シャバ・ランクスやランキン・ジョー、チャーリー・チャップリンといった次世代のディージェイたちの育成に力を注いでもいた。
 最後まで精力的に活動的していたU-ロイは、2019年にはアルバム『Gold: The Man Who Invented Rap(ゴールド:ラップを発明した男)』をレコーディングしたそうだ。そこには元ザ・クラッシュのミック・ジョーンズ、キリング・ジョークのユース、シャギー、サンティゴールド、ジギー・マーリーらが参加している。夏になる頃にリリース予定だという。

 あらためて言おう。たとえばポップ・ミュージックのファンであれば誰もが知っている“Tide Is High”という曲がある。ザ・パラゴンズの曲で、ブロンディのカヴァーも有名だ。このレコードにU-ロイのトースティングがミックスされると、しかしそれはU-ロイの曲になってしまうのだ。すごいことだと思う。ぼくはこの偉人に取材したとき、限られた時間でついついキング・タビーのことばかり訊いてしまったのだが、U-ロイはこの失礼な日本人相手に始終穏やかに、事細かにタビーの話をしてくれた。持って来たレコードにサインをもらったのだけれど、このDJカルチャーの大大大先輩は、「peace(平和)、love(愛)」と書いてくれた。ゲットーのサウンドシステムで長年マイクを握ってきた先達からの重みのある言葉だと思う。
 最後に『ガーディアン』に掲載された追悼記事のなかの彼の言葉を引用しておきます。「私はただ人びとがユニティするよう呼びかけていただけだ。私は決して人を見下したりしなかった。暴力はじつに醜く、愛はじつに愛らしい。私は大学に行ったことなどないが、常識はある。自分が学んだことを最大限に活用している」
 
 なお、これからU-ロイを聴いてみたい人にぼくからのおすすめは、まずは何よりも『Version Galore』。これがディージェイというスタイルを最初に確立した作品である。古典中の古典だが、いま聴いても充分輝いている。ロックステディ時代(Treasure Isle時代)を網羅している編集盤『Super Boss』もおすすめ。ここではもうひとつの初期の大ヒット曲“Rule De Nation”も聴ける。ベスト盤では I Am The Originator』が曲数も多くおおすめ。キング・タビーとの絡みでは『U-Roy Meets King Tubbys』がある。

野田努

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