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Clive Tanaka Y Su Orquesta

Clive Tanaka Y Su Orquesta

Jet Set Siempre 1°

Tall Corn Music /パンチャ

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野田 努   Jul 06,2011 UP

 レーベルの説明によると「北海道生まれ、14歳で引きこもり」になった青年による宅録ディスコの、アメリカのインディ・レーベルから「逆輸入された」作品で、彼は現在は「アルゼンチン在住らしい」とあるが、傷ついた青年が古いディスコに癒されるというその物語は、なるほどなーと納得するものの、一歩引いて考えてみると白々しくもある。もともとは2010年、彼が自身のサイトにアップし、またカセットテープのみで流通したものをアメリカのインディ・レーベルがライセンス契約した......ということになっているようだが、「日本人」の「引きこもり」や「逆輸入」と、"ありがち"な言葉(クリシェ)もさることながら......ヴィジュアルの観点から言っても、「海辺の光景」という、ウォッシュト・アウトが作ったチルウェイヴのクリシェを微妙にダサくした感じで、それをさりげなく普通を装ってやっている点においてただ者じゃないかも......という風にも思わせる。70年代のアメリカの田舎っぽいB級センスを取り入れた裏ジャケなどは、昔の暴力温泉芸者のアートワークのようにいかがわしくもある。

 もっとも僕がクライヴ・タナカ・イ・ス・オルケスタのアルバムに興味を持った理由は、身近なところで「面白い」という意見と「吐き気がする」という両極の言葉を聞いたからで、「面白い」という人は、クライヴ・タナカ・イ・ス・オルケスタとは悪戯好きのアメリカ人のフェイクじゃないかという大胆な予想をしている。「吐き気がする」と言っている人は定番化しつつある「海ジャケ」と「引きこもり」と「ディスコ」という3点に反応しているのだが(たしかに英文の紹介文のなかにも「hikikomori」という言葉が強調されている点は気持ち良いとは言えない)、疑り深い前者の意見が僕は面白いと思った。先述しように、限りなく普通(保守的な美意識)を装ったこのアートワークは不自然にも見えるし、アメリカのサブカルにおけるキッチュの美学を感じなくもない。
 しかもこの音楽はレトロなポップ・ディスコないしはイージー・リスニングで、アルバムは"for Dance"(=ディスコ)と"for Romance"(=イージー・リスニング)というアホみたいな二部構成となっている。音はまことにチープだが、ところがどっこい確実にドリーミーでもあり、ロマンティックで、センチで、フィルインやブレイクなどビートの構成は凝っている。ベースラインや上ものに関してもディスコ・サウンドのパロディと思えるほどその研究の痕跡が見られるし、アレンジや曲の展開も考えられている。それなりの労力が注がれてはいるものの、時代錯誤のギター・ソロやヴィンテージ・ドラムマシンの音色、どう考えてもダサいハイハットの使い方などなど、やはりふざけているのだろうと思いつつも、アルバム後半の"for Romance"の何曲かは真剣にメロウだったりもするから困惑する。
 
 少し調べてみた。ネット上の文章を散見すると......1991年、札幌郊外の公立学校に通っていたタナカは、先輩や同輩からの度重なる嫌がらせを受けて「hikikomori」になったそうだ。あるとき姉の部屋から70年代~80年代のディスコのテープを発見したタナカは、夜、部屋で踊っていた姿を姉や両親に発見されたという。それを目撃した母親は、しばし考えた挙げ句、タナカにヤマハのDX7を与えた(90年代にDX7というのもなぁ......)。こうして痛々しいほど内気な青年は、アバやジョルジオ・モロダーで解放されたのだった......。あー、良かった。

 かつてブレイクコアがギャグによってダンス・ミュージックの価値を相対化したようなことを、クライヴ・タナカ・イ・ス・オルケスタはシンセ・ポップ(チルウェイヴ)の意匠を借りて再現しようとしているのだろうか......。あるいはバイオグラフィーが言うように、『ジェット・セット・シンプリ1』が、実在する元「北海道の引きこもり」=クライヴ・タナカによる音楽の逆輸入であるなら、ある意味では異能の登場かもしれない。だいたいこんなにもベタなポップ・ディスコを真面目にやっているのだとしたら相当なものだし、そんなわけでこれはいま静かに騒がれている1枚なのだ。さあ、君もこのジャケをじーっと眺めて、本気かフェイクか考えてみよう。

野田 努