ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. K A R Y Y N - The Quanta Series (review)
  2. 柴田聡子 - がんばれ!メロディー (review)
  3. 中原昌也 ──作家デビュー20周年を記念し最新小説とトリビュート作品集が2冊同時リリース (news)
  4. Vince Staples - FM! / Earl Sweatshirt - Some Rap Songs (review)
  5. ビール・ストリートの恋人たち - (review)
  6. ポスト・ミューザック考 第二回:俗流アンビエント (columns)
  7. Reeko Squeeze - Child’s Play 2 (review)
  8. Columns What’s the point of indie rock? インディー・ロックの核心とは何か (columns)
  9. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  10. ポスト・ミューザック考 第一回 (columns)
  11. 闘魂 2019 - 出演:cero、フィッシュマンズ (review)
  12. interview with IO KoolBoyの美学 (interviews)
  13. 《《》》 - Relay (review)
  14. GRADIS NICE & DJ SCRATCH NICE - Twice As Nice (review)
  15. Sharon Van Etten - Remind Me Tomorrow (review)
  16. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第2回 マグカップは割れ、風呂場のタイルは今日も四角い (columns)
  17. talk with Takkyu Ishino × Stephen Morris 特別対談:石野卓球×スティーヴン・モリス(ニュー・オーダー) (interviews)
  18. NHKラジオ第一の「すっぴん!」、4月3日の宮沢章夫さんの日に戸川純が生出演! (news)
  19. The Comet Is Coming ──UKジャズのキイパーソン、シャバカ・ハッチングスのザ・コメット・イズ・カミングが新作をリリース (news)
  20. 空間現代 ──空間現代が〈Editions Mego〉傘下のレーベルよりアルバムをリリース (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Various Artists- Aus Music Present Selected Works

Various Artists

Various Artists

Aus Music Present Selected Works

Pヴァイン

Amazon

野田 努   Jul 20,2011 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 紙ele-kingのベース・ミュージック特集の飯島直樹さんの原稿には、このわずか半年のあいだにダブステップという言葉が消え、ベース・ミュージックという言葉に統一されつつある現状が書かれていたが、考えてみればダブステップというサブジャンル用語が登場してから、僕が知ってるだけでも8年は経っているので、まあ、そろそろ寿命なのかなという気がしないでもない。初めてダブステップという言葉を聴いたときは、それ以前の「スピード・ガラージ」や「2ステップ・ガラージ」という用語があまりにも短命だったがゆえに、ダブステップも同じ運命を辿ると思っていたから、いまはよくここまで拡大したものだと思う。ダブステップという言葉にはその出自である「2ステップ」と「ガラージ」が含まれているという点において良かったと思うが、さすがにこの1~2年における拡張された姿をみると、あれもこれもダブステップと括るには無理が生じてきているのも事実だ。とくにシーンにジョイ・オービソンのような、積極的に4/4のキックドラムを用いる作り手が出てくるとハウス・ミュージックとの境界がまず曖昧になる。そしてそれはこの音楽がいま間口を広げていることを告げている。ダブステップのごっついビートには、多くの女性が入って行きづらいという指摘がかねてからあったが、これなら貴婦人も踊れる。

 ロンドンの〈アウス・ミュージック〉を運営するウィル・ソウルは、もともとハウス・ミュージックの文脈にいた人で、その耳を惹きつけた新世代のプロデューサーが、ラマダンマン、アップルブリム、ジョイ・オービソン、そして最近ではジョージ・フィッツジェラルドといった連中である。このレーベルにおける大きな輝きのひとつはジョイ・オービソンの「The Shrew Would Have Cushioned The Blow」だが、ちょうど彼が〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉から出した目の覚めるような「Hyph Mngo」(2009年)に続いたこの12インチのタイトル・トラックは、あぶくのようなチョップド・アップ・ヴォーカルと波打つシンセ、そしてガラージを最小限の音数で表すビートとベースで構成されている。それから温かいアンビエント系のコードがクラクラするループのなかに途中から挿入されるという、極上のディープ・ハウスの質感とメソッドが応用されたトラックだ。シングルに収録されたもう1曲の"So Derobe"は――個人的にはもっとも気に入っているトラックのひとつだが――、シカゴ・ハウスのバウンスするベースラインとミニマル化した2ステップ・ビート、控えめなパーカッション、そしてアシッディなチョップド・アップ・ヴォーカルによって構成されている。それはハウシーだがハウスではなく、完璧なまでに〈ヘッスル・オーディオ〉と〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉にリンクしている。
 コンピレーション・アルバム『アウス・ミュージック・プレゼンツ・セレクテッド・ワークス』をもっとも特徴づけるのは、ラマダンマンとアップルブリムとの共作「Void 23 EP」に収録されたカール・クレイグによるエディット・ヴァージョンだろう。それはポスト・ダブステップがデトロイト・テクノと本格的に出会った記念碑的なトラックで、クレイグはこの若いダンス・ビートにメリハリを与え、勢いを強調している。
 また、レーベルの看板アーティスト、リー・ジョーンズのトラック"As You Like It"をリクルーズがリミックスしているが、それもこのレーベルの趣向を象徴している。それは......オールド・ファンにはお馴染みのペーパークリップ・ピープルにおける、あの長いイントロを経てあわてることなくアップリフティングしていくハウス・ミュージックで、途中から挿入されるジャズのコードのループといっしょにグルーヴが生まれていく......そうしたソウル・ミュージックの感覚こそが、ウィル・ソウルがもっとも愛するところである。
 アルバムには、他に〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉の主宰者スキューバ、それからラマダンマンのもうひとつの名義、ピアソン・サウンド、そしてオービソンに次ぐ期待の若手、ジョージ・フィッツジェラルドらの曲が収録されている。フィッツジェラルドの"Silhouette"の、ミュート気味のシンセのループによるイントロは、まあもろにアリル・ブリカというか、ウィル・ソウル自身のトラックにも共通するスタイルの、いわばデリック・メイ好みともいえる美しいアトモスフィアを持っているが、ミニマルなビートにはUKベース・ミュージックの痕跡がある。後半に重ねられるR&Bヴォーカルのスムーズなループはブリアルのようにスリリングではないが、しかしより多くの人には馴染みやすい軽やかさを持っている。それは〈アウス・ミュージック〉にとって大きな魅力なのだ。

野田 努