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神聖かまってちゃん

神聖かまってちゃん

8月32日へ

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橋元優歩   Dec 21,2011 UP
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 神聖かまってちゃんに関しては、前作のレヴューをぜひとも読んでいただけたらと思う。ドキュメントとしてのかまってちゃんではなく、表現としてのかまってちゃんについて書ききっているつもりだ。
 さて、2枚同時リリースの傑作『つまんね』『みんな死ね』から非常に短いスパンで発表された本作『8月32日へ』は、さすがに前作をしのぐ作品とは言いがたい。むしろB面集といった位置づけで、これまで猛進させてきたキャリアにひとつの区切りをつけ、それを肉づけるものとして聴くのがよいのではないかと思う。かまってちゃんのドリーミー・サイド、ないしはの子のなかのやわらかい部分にあらためて触れることのできるアルバムだ。
 とはいえ、これまでの作品には含まれなかったモチーフが兆してもいる。本作のカギになるのは切なさである。もちろん本作ならずとも彼らのトレードマークとも言えるエモーショナルなキーボード・リフはいつだって切なさを大量消費するように鳴るのだが、その消費さるべき莫大な切なさが枯渇しつつあることへの哀切が『8月32日へ』においては歌われている。これはとても重要なポイントだ。

 "26才の夏休み"がその解題となるだろう。このアルバムには"◯◯才の夏休み"というタイトルの曲が3曲収録されている。これは『友だちを殺してまで』収録の名曲"23才の夏休み"を中心とした連作と考えてよいだろう。本作収録の同曲はミックスやヴォーカルが異なっていて、とくにコーラス・パートに派手にかけられたヴォイス・チェンジャーがアニソンを彷彿させながら旧テイク(実際どちらが古い録音なのか定かではないが)の切迫感をサイケデリックに加速させている。"22才の夏休み"は"23才の夏休み"の変奏ヴァージョンで、メロディなどはほぼ同じだ。22才や23才の人間に高校までのような夏休みなどめぐってはこないのだが、そうした「サイズ違いの気持ち」("22才の夏休み")を自覚しながらも、ここには「夏」ではなく「夏休み」という体験の濃密さに寄せる思慕がありありと刻まれている。それが「キラカード」の表象をとって両曲をつないでいると言えるだろう。の子が曲と分けられないほど大切だとするPVにも同様のことがみてとれる。画面を切るように自転車を走らせる彼らの様子が早巻きの映像で描き出される、このスピード感は夏休みのかけがえのなさの凝縮と言っていい。それを忘れないためにピアノのリフは執拗な切なさでもって繰り返されるのだ。というか、そもそもリフというものの性質は何かを記憶する方途として見つけ出されたものではないかとさえ思わせる。
 しかし、26才の夏休みは違う。「どこにも行かない」「きっと何もしない」けれど「チャリをこぎ続け」る、あの23才の夏休みとはちがう。「ろくでもないな」「帰りてー、が本音です」といいながらもバス停で君と待ち合わせる、あの22才の夏休みとも決定的にちがう。"26才の夏休み"にはそんな「夏休み」を忘れてしまうことが暗示されている。シャッフル・ビートをきかせたシンプルなアコギの弾き語りナンバー。しかしラフなライヴ・テイクか、あるいは風呂場でテープ録音したかのように奇妙なリヴァーブを施され、オーヴァー・コンプ気味で割れそうに伸びあがった音(あたかもそれは明るいハウ・トゥ・ドレス・ウェルだ)には、ゴーストの気配がただよっている。「なんだか僕は感受性ってやつが薄れている」。以前のように夏休みを感じることはできなくなり、夏休みはゴーストになったのだ。なぜか。大人になったとか童心を忘れたとか、皮相な説明はどのようにでもつけられるだろう。しかしの子は「千葉ニュータウンと僕は変化した」とだけ歌っている。ジャスコの街にはイオンができ、「僕」は髭を剃ることから26才の夏休みをはじめている......オクターブ上げて叫ばれるこのあたりの詞には目が覚めるほどのリアルがある。サビでは「僕はかけらをただひろい集めてる」という表白が何度も何度も繰り返される。かけらとは夏休みのかけらであり、なつかしさのかけらである。あのキラカードは、かけらになってしまったのだ。そのような切なさが詞、音ともにじつに高度に表現されている。彼には夏休みを前に何も感じなくなりつつあることが切ないのだ。だから「外に出て切なくなりにいこうぜ」というときの、意味が空洞化した「切なさ」には胸がうたれる。

 ではすっぱりと夏休みの記憶を消すのかといえば、その逆で、彼は8月32日を目指す。「大人になる」というような理屈を受け入れず、たとえ夏休みがゾンビ化しようとそのつづきを生きてみせるというのがの子の非凡さである。もしかしたらその直後に「まあどーでもいいんですけどねっ」("グロい花")などと言うかもしれない。しかしここには、意識的な逃避がオルタナティヴな回路をひらき得るというチルウェイヴのマナーにきわめて近い感性がある。
 そもそもの子の詞にはおおらかな空想性や世界把握がある。学校ネタやどぎついと思われがちな言葉の選択にそれが隠れてしまうことがあるというだけだ。"コタツから眺める世界地図"には"夜空の虫とどこまでも"に通じる世界の美しさの描出がある。"映画"などは少し驚くくらい素直なラヴ・ソングだが、けっして定型に陥らない上品で繊細な言語感覚を感じる。スクール・カーストを下地におのれという「気持ち悪い」存在を自虐的に歌うパンク・チューン"制服b少年"は、その意味では彼らにとってメジャーな作風であるが、「顔面」「っーツーの」「マジキモスギナンダケド」といった言葉のチョイスは同様に繊細なものである。もし「顔面がまじで気持ちわるい」が「顔がまじで気持ちわるい」だったら、まったくこの詞の価値は下がってしまうにちがいない。"僕は頑張るよっ"の「1日が続く中」という言い方にもオリジナルなセンスを感じる。こうした言葉たちは、それが彼のリアルから切り出されてきたのだという証拠のようなものだ。彼の曲には彼の命、彼の姿、彼のフォームがある。よってやはり、今作もとても好ましかった。軍配は前作に上がると書いたが、どの曲もとても良い。そして切なさを忘れることの切なさは、かまってちゃんをどのように変えていくのか。この命題をもって神聖かまってちゃん第1期終了、というように思った

橋元優歩