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Torn Hawk

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Torn Hawk

Through Force of Will

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橋元優歩   Jun 10,2014 UP

 「いつの時代でもないものをつくりたい」というのは、何をつくってもいずれかの時代のレプリカになってしまうという時代の健康な夢のようでもあり、レプリカをよしとしない思考をますます袋小路に追い詰めてしまう病理のようでもある。ブルックリンを拠点に活動するプロデューサー、トーン・ホークことルーク・ワイアットは、とあるインタヴューにおいて「いつの時代でもないものをつくりたい」という旨の発言をしていたが、一目瞭然、彼が参照するのは80年代のヴィデオ作品やポップ・ミュージックだ。とくに映像作家でもある彼は、自身の試みを「ヴィデオ・マルチング」と形容し、さまざまな音や思考や感情を、ふるいヴィデオのマテリアルによってやわらかくラッピングする。ドラマやB級ホラー映画、日本のアニメなどのコラージュが中心だが、映像中の音がトラック自体に同期、干渉することも多く、その意味では映像だけでも音だけでも成立しない表現領域で彼の実験は行われている。長い間触れていると、自分がその奇妙な映像の藁床に浸りながら、少しずつ、心地よく、窒息していくような幻想を抱く。
 ノスタルジーなのか、反ノスタルジーなのか、筆者はその手つきを眺めながら、ポスト・ヒプナゴジックが嫡流を残すとすればここだ、というふうに思う。たとえばヴェイパーウェイヴが版権物からフリーな音源・映像まで、ネット上の屑マテリアルを楽しげに加工している──ディストピックな情報社会のストリートで楽しんでみせている──のとは別の原理がそこには存在し、批評や遊戯とも異なる、刺せば血の出る生身がうしろに横たわっているという感じがある。「コンピューターで音楽を編集することにうんざり」してVHSなどの素材へと向かい、サンプリングを軸にしておきながら「運命づけられたものしか存在しない」として必然(inevitable)を創作上の重要な概念に据えるワイアットには、インターネットの無限のつながりを謳歌できず、そのストリートから外れた者の手を引くようなところがあるのかもしれない。その優しげな夢の半身浴体験に筆者は安心と信頼をもって誘われる。

 〈L.I.E.S.〉や〈ノー・ペイン・イン・ポップ〉など複数のレーベルから、あるいはルーク・ワイアット名義で、この1、2年の間にハイ・ペースにリリースを重ねている彼だが、本作は〈ノット・ノット・ファン〉からのリリースとなり、『ティーン・ホーク』(2013)のように、エメラルズからマーク・マッガイアへと抜けるような、クラウトロック・マナーなアンビエント作品と、『10・フォー・エッジ・テック』(2013)のミニマリズムとのあいだをとるような作風になっている。しかし、本作を新しく特徴づけているのはゲート・リヴァーブ全開なスネアやシンセ・ポップ、あるいはEBM的なビートやサウンドなど80年代的なモチーフだ。そのことが各トラックに、より馴染みやすさやポップス感、楽曲らしいシークエンスを与えているかもしれない。“ハッチソン”のようなメディテーショナルなアンビエント/ドローンが間に挟まれたり、後半には“ア・ノヴェンバー・ミッション”や“スルー・フォース・オブ・ウィル”のようなダークなインダストリアル・トラックのによる乱調もあるが、それもやがてエモーショナルなギターが挿入されて調和を取り戻し、終曲のシンセ・ポップではピースフルに、感動的にチルアウトする。“ブラインド・サイデッド”でダックテイルズのマシュー・モンデナイルのようなギターにとろけながら、彼が「必然」と呼ぶものは、偶然性を避ける……作り込んだり、熟考したりすることで得られるものではないのだろうと思う。ワイアットのトラックメイキングは、さまざまなネタを探して引っぱってきて構成するというよりは、落ちていたものをそもそもあったはずの場所へかえしてやるというような作業に近いのかもしれない。

橋元優歩