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木津 毅   Feb 18,2015 UP
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 なにしろ“Bored in the USA”である。“Born in the USA”の字面もメロディももじって男が歌うのは、「やつらが俺に与えたものは、役に立たない教育と、職人風の家のサブプライム・ローン!」「アメリカにはうんざりだ」……一瞬直球なのかと思ったが、そこに典型的なシットコム風の録音された笑い声が挿入されれば、なんとも居心地の悪い皮肉な空気で覆いつくされる。何よりアメリカの人気TVショウ『レターマン』でのライヴ出演が決定的だった。ひげ面でスーツ姿の男が自動演奏のグランドピアノに座り、くねくねと身悶えしつつ切なげに歌いあげる……笑っていいのか戸惑っていると、まさにそこであの死んだような笑い声が響き渡るのである。その不思議空間。『ピッチフォーク』がアンディ・カウフマンの名前を挙げるのもわからなくはない、妙な芸風のスタンドアップ・コメディアンのようなシンガーだ。

 その男、ファーザー・ジョン・ミスティことジョシュア・ティルマンのセカンド・フル『アイ・ラヴ・ユー、ハニーベア』が笑って泣けて、ひどく熱い一枚だ。フリート・フォクシーズの元ドラマーの……という冠はむしろ余計かもしれない。僕はフリート・フォクシーズも大好きだし、どちらも大きくフォーク・ロックと言えばそうなのだが、なんというか反応する神経がぜんぜんちがう。なんでいたの? と訊きたいぐらいだ。フリート・フォクシーズにおける、少しのミストーンも許されないような完璧に構築されたハーモニー=調和の厳格さはまるでなく、エモーショナルで人間くさく、枠から大らかにはみ出る豪放さがあり……平たく言えば、暑苦しい。音楽的にもフリート・フォクシーズがビーチ・ボーイズのいた60年代の語り直しを負っていたとすれば、ファーザー・ジョン・ミスティは70sシンガーソングライター風のざっくばらんさとスウィートネスを纏っている。バンド以前もかなりのキャリアがあったそうなのでこのひと個人の味がより出せるようになったということだろうが、その路線は前作『フィア・ファン』よりわかりやすくドラマティックに開放されている。おもにピアノとアコースティック・ギターによる演奏に合わせて情熱的にソウルフルに歌唱されるナンバーがほとんどで、“トゥルー・アフェクション”のようなエレクトロニカ・ポップ風の曲もあるが、すべての曲でティルマンの歌が中心に置かれている……身体の奥から噴出するような歌が。

 そしてここでティルマンが歌っているのは、(おそらく)虚実入り乱れる彼の人生と愛についての物語である。ワン・ナイト・スタンド体験を私小説風に綴ったのだと思われる“ザ・ナイト・ジョシュ・ティルマン・ケイム・トゥ・アワ・アパートメント”、ティルマンの愛妻にちょっかいを出そうとした(?)男へのイチャモン“ナッシング・グッド・エヴァー・ハプンズ・アット・ザ・ゴッダム・サースティ・クロウ”。ドラッグでのトリップとセックス、怒りと悪態と、自虐に皮肉……まさにドタバタ・コメディの様相だ。より人物像を怪しげにしたスフィアン・スティーヴンスか、あるいはシンガー版『シンプソンズ』? だがとくに中盤、ジャジーでゴージャスなアレンジのオーケストラル・ポップ“ナッシング~”、スタンダード・ポップス風の“ストレンジ・エンカウンター”や 荒々しくスイングするロック・チューン“ジ・アイディール・ハズバンド”での熱唱を聴いていると、これがギャグなのか本気なのかよくわからなくなってくる。

 いや、“ボアド・イン・ザ・USA”にしたって、何もミドルクラスの白人の倦怠感への皮肉とからかいだけではないのだろう。リーマン・ショックのタイミングで浮上したフリート・フォクシーズの理想主義的な音が示唆していたのはかつてのアメリカン・ドリームの斜陽だったが、ティルマンがそのコミュニティのなかではややだらしないタイプだったとしても、彼とて新しい世代の行き止まり感を嗅ぎ取っていたにちがいない。そのシリアスなはずの感覚がジョークとして表出するところに彼のウィットを見いだせるだろう。僕たちは“ボアド・イン・JAPAN”が仮にあったとしてどんな歌詞になるか想像するといいが、それは本来「ぜんぜん笑えない」はずなのだ。だが、そこに乾いた笑いを乗せることで彼は「タフになれ」と告げているようだ。

 それに、ふいに彼の本気がしっかりと輪郭を持つ瞬間もある。“ボアド・イン・ザ・USA”を経ての“ホーリー・シット”がビリー・ジョエルが歌っていてもおかしくないような甘いピアノ・バラッドで、しかしこれが衒いなく直球で迫ってくるラヴ・ソングなのだ。現代のライフスタイルにまつわる事象をランダムに羅列しながら、やがて「ああ、誰も本当のきみを知らないし、人生は短い」、「愛は人間の弱さに支えられた制度に過ぎないんだ」というラインに辿りつき、そしてティルマンは、向き合うべき「あなた」をそこに見出そうとする。僕たちの世代が生きるのはどうひっくり返しても貧しい世のなかだと、それは変えられない宿命だとしても、それでも湧き上がるものがあるのだ……と、この男の奇妙に熱を持った歌は懸命に示そうとするようだ。

木津 毅