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木津 毅   Apr 04,2011 UP
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E王

 アメリカにおいて必然として9.11以降という言葉が使われるようになったように、日本においても今後3.11以降というタームが使われるようになるのだろうか。そのことを思うと、何だかいたたまれない気持ちになってくる。音楽の聴かれ方も変質していくのだろうけど......いまはまだ、それがうまく想像できない。

 フリート・フォクシーズは9.11以降の文脈で語られ、そして高く評価されたバンドだ。つまり、2000年代のブッシュ政権下の荒廃したアメリカで育った世代――それはレディオヘッドの『キッドA』を聴いて育った世代と言い換えられるかもしれない――の青年たちが鳴らした、高潔な純然たるフォーク・ロックである、と。ブッシュ政権が終わっていく2008年はまさに彼らの登場にふさわしいタイミングであったし、ビーチ・ボーイズ、ボブ・ディラン、グレイトフル・デッド、サイモン&ガーファンクル......などの遺産の輝きを集めるようにして作られた彼らの音楽は、イラク戦争でボロボロになっていたアメリカで称賛されるのに十分だった。「こういう音楽はもう持ってるよ」と取り合わなかったある程度年のいった評論家もいたが、フリート・フォクシーズの音楽は新世代のものであることには間違いがなかった。そのハーモニー=「調和」は、9.11以降の世界において混沌とした現実に対する批判ないしは抵抗として鳴っていた......というわけだ。
 21世紀のクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングであるフリート・フォクシーズの最大の魅力とは何か、と問われればやはりその完璧なコーラス・ワークということになる。ソングライターのロビン・ペックノールドの書く曲はアコギ1本で弾き語っても十分通用するだろうしっかりとした骨格を持っているが、彼はそれをポリフォニックなものとして鳴らすことにこだわっている。それは彼らバンドがひとつの共同体を体現していることの表れであるし、ある種の厳格さを伴った理想主義が反映されているということでもある。彼らの潔癖とも言えるコーラスとアンサンブルは、心地良くレイドバックしたものと言うよりは、研ぎ澄まされているためいくらかの緊張感を保ったものだ。その敬虔さ、高潔さが苦手だというひとがいるのもわかる。他の多くのインディ・バンドのような優しいドリーミーさは、ない。徹底して醒めている。
 そしてまた、彼らの美しいアンサンブルの底には不穏さやシュールな不気味さがあって、それを僕は見過ごすことができない。たとえば、バンドの代表曲である"ホワイト・ウィンター・ヒムナル"では輪唱を取り入れてその非凡なコーラス・ワークを遺憾なく発揮しながら、「マイケル 君は倒れてしまって 白い雪をまるで夏の苺みたいに真っ赤に染めた」と繰り返していた。あるいは、ブリューゲルの絵を使った、細部までよく見るとぞっとするような奇妙さに彩られたジャケット。それらは、音楽には完璧な調和を求める彼らが抱える不安や戸惑いを表現するものだったのかもしれない。

 そういうわけで、たった1枚のアルバムとEPで新世代の希望となったフリート・フォクシーズの待望のセカンド・アルバムが『ヘルプレスネス・ブルーズ』である。その期待を裏切ることなく、これまで評価された自分たちの長所を無理なく発展させ、洗練された1枚となっている。アンサンブルは抑揚のつけ方が巧みでさらにダイナミックになっており、生音の柔らかい響きを生かしたプロダクションは耳を喜ばせてくれる。もちろん、リッチなコーラス・ワークも健在だ。彼らはよりバンドとしての結束を強固なものとし、ここでも調和に満ちた共同体として存在している。
 抜本的な変化がない分、このセカンド・アルバムには先に挙げたような彼らの特徴がより色濃く出ているように思う。自然の描写が多かった前作に比べて、本作ではより内面の揺らぎのようなものを歌詞に反映させている。アルバムは目が覚めるように清廉なフォーク・ソング"モンテズマ"で幕を開けるが、そこで歌われているのはそれまでの自分の生き方に対する鈍い後悔と罪悪感である。前作の"ホワイト・ウィンター・ヒムナル"に当たるウォームな"バッテリー・キンジー"はこんな風にはじまる。「ある朝 目を覚ますと/自分の指が一本残らず腐っていて/僕は突然死の床にあった/回復の見込みはない」......死のイメージは彼らの歌詞にしばしば登場するものだ。そうした緊張感は"ザ・シュライン/アン・アーギュメント"で、音としてピークを迎える。ロビンは高音をなかば強引に振り絞り、曲のアウトロでは突如として管楽器のフリーキーなソロが整ったアンサンブルを切り裂くように挿入される。この曲は、彼らのアンビヴァレントな魅力を見事に表現した本作でのもっともスリリングな瞬間だと言えるだろう。

 フリート・フォクシーズの音楽に何らかの理想を求める態度というのは、アニマル・コレクティヴやグリズリー・ベアのようにブルックリン勢にも共通するものであるが、それをもっとも純化したものとして表現しようとしているのが彼らである。その分、現実に幻滅することも多いのだろう、このアルバムには無力感がところどころで顔を覗かせている。「つまり、君にとって僕は昔の話に過ぎないんだ」、「僕が何をしようと太陽の光は降り注ぐ」、「いつか死ぬだけなのになぜ人は生まれてくるんだろう?」......そしてその歌を、彼らは「ヘルプレスネス・ブルーズ」、すなわち無力のブルーズと名づけている。力強い歌が聴けるタイトル・トラックでロビンは「ヘルプレスネス・ブルーズを歌うことが、何かの役に立つんだろうか?」と自問している。もちろん、役立つことなどないと彼は知っているだろう。だが、それでも歌うのだ。
 無力さを噛み締めながら、役に立たない歌を、しかし理想を追い求めながら歌うこと。音楽のなかでしか達成されないハーモニー。フリート・フォクシーズはだから、過去の遺産への無邪気な憧憬ではなく、とても切実なものとしてこの21世紀に鳴らされている。そしてそれは......きっと、日本にいる僕たちにもいま説得力を持って響くことだろう。

木津 毅

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