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BADBADNOTGOOD

Jazz

BADBADNOTGOOD

IV

Innovative Leisure / ビート

Tower HMV Amazon

小川充   Jul 14,2016 UP

 デビューしてから自主制作のフリー・ダウンロードでアルバムを出していた2011年から12年頃、バッドバッドナットグッドは良くも悪くもヒップホップをジャズでインスト・カヴァーするバンドという印象が強く、それは彼らの音楽性を限定していたように思う。オッド・フューチャー、MFドゥーム、Jディラ、ナズ、ATCQ、カニエ・ウェストなどいろいろカヴァーし、またヒップホップ以外でもジェイムズ・ブレイク、ファイスト、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどの楽曲を取り上げていた。それによって大きな注目を集めるようになったのは事実だし、ジャズを聴かないような若年層のファンも獲得した(ジャズ・ファンよりも、むしろヒップホップやロック・ファンの間での認知が高かった)。ただ、演奏自体はわりと同じアプローチのものが多く(悪く言えば一本調子)、あくまでネタのチョイスと、それとジャズとの取り合わせの意外性で勝負している感じが強かった。ライヴ自体も粗削りで、若いパワーとパンキッシュな初期衝動でとにかくデカい音を出す、そんな感じのバンドだった。

 ところが、〈イノヴェイティヴ・レイジャー〉と契約し、アルバムに向けた楽曲制作を意識するようになった2014年頃から、彼らの演奏や作風にも変化が表われる。まず、作曲そのものを意識するようになり、それによっていままでは即興的なアプローチによるジャム・セッションが多かった彼らの演奏に、コンポジションに基づいて構築する面が現れていった。また、あくまでピアノ・トリオである3人がメインで、サックスやギターがほんの一部でサポートする程度だった演奏が、より多くの楽器をフィーチャーして膨らみを増していった。実際に2014年リリースの『III』では、サックス奏者のレランド・ホイッティが第4のメンバー的な扱いとなり、彼はテナー・サックス、バリトン・サックス、バス・クラリネットのほか、ヴァイオリンも演奏している。ほかにもトランペット、チェロなどがフィーチャーされたこのアルバムは、全てオリジナル曲で構成されていた。管楽器や弦楽器が入ることにより、それらのアレンジが作曲面にも作用し、より空間を意識した繊細で叙情的な作品が増えていった。もともと演奏能力は高かったが、それを生かすコンポジションを得ることによって、彼らの本当の魅力が開花していった。ある意味で、本当のジャズ・バンドっぽく洗練されていったのだ(それまでは、どちらかと言えばヒップホップ・バンドがジャズをやっているようなイメージだった)。

 そして、通算4枚目のアルバム『IV』では、レランド・ホイッティ(サックス、クラリネット、フルート、ヴァイブ、ギター、シンセ)が正式メンバーとなり、マシュー・タヴァレス(ピアノ、エレピ、シンセ、ベース)、チェスター・ハンセン(ベース、ピアノ、エレピ、オルガン)、アレックス・ソウィンスキー(ドラムス、パーカッション、ヴァイブ)の4人へとBBNGは改まった。彼らは『IV』の前にゴーストフェイス・キラーとの共作『サワー・ソウル』(2015年)を制作しているのだが、そこではゴーストフェイス・キラーはじめいろいろなラッパーたちと共演し、インスト・バンドからの脱皮も図っていた。その成果は『IV』にも表われ、ミック・ジェンキンス、サム・ヘリング、シャーロット・デイ・ウィルソンの歌やMCをフィーチャーした作品が収められる。同じカナダのケイトラナダがパーカッションとシンセ演奏でコラボした“ラヴェンダー”もあり、“コンフェッションズ・パート2”ではアーケイド・ファイアやボン・イヴェールの作品やツアー参加で知られるコリン・ステットソンがバリトン・サックスで参加している。

 楽曲は多重録音したものが多く、たとえば“アンド・ザット、トゥー”でリランドはテナー・サックス、ソプラノ・サックス、フルート、クラリネット、バス・クラリネット、ヴァイブ、シンセを演奏する。この楽曲は彼のブラス・アンサンブルがもたらす重厚で荘重な雰囲気が鍵となっており、その編曲はギル・エヴァンスやジョージ・ラッセルの作品のように複雑な表情を与えている。“スピーキング・ジェントリー”も個々の演奏というより作曲や編曲が興味深く、かつてのデヴィッド・アクセルロッドを想起させるようだ。“ストラクチャー・ナンバー4”や“チョンピーズ・パラダイス”もそうだが、一種のライブラリー・サウンドやサントラ的な味わいもあり、彼らがいかに「ムード」を大切にしているかがわかる。“IV”はアップ・テンポのジャズ・ロック系作品で、この手のサウンドが熱かった70年代初期の空気感を孕んでいる。疾走するリズムが途中でスロー・ダウンするなど動と静の切り替えが鮮やかだ。こうした音は昔のレコードなどを聴かない限り体得できないものなので、恐らく彼らもいろいろと聴いて研究しているのだろう。“カシミア”は70年代でいくと、スティーヴ・キューンのブッダ盤や、アルチュール・ヴェロカイのアルバムに通じるところを感じさせる。ジェイムスズーは彼らのこのアルバムからインスピレーションを受け、『フール』に2人をゲストとして招いた。ほかにもフローティング・ポインツなど、キューンやヴェロカイの影響を受けたアーティストはクラブ・シーンには多いが、BBNGについてもそれは言えるのだろう。

小川充