ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns 超プロテスト・ミュージック・ガイド(基礎編+α) 約50曲 : selected by 野田努 (columns)
  2. Columns 超プロテスト・ミュージック・ガイド(二木編) (columns)
  3. interview with Tomoko Sauvage 楽器はボウル、水滴、エレクトロニクス (interviews)
  4. 悪女/AKUJO - 監督:チョン・ビョンギル『殺人の告白』 出演:キム・オクビン、シン・ハギュン、ソンジュン、キム・ソヒョン / The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ - 監督:ソフィア・コッポラ『SOMEWHERE』
    出演:ニコール・キッドマン、エル・ファニング、キルスティン・ダンスト、コリン・ファレル
    (review)
  5. 資本主義リアリズム - マーク・フィッシャー 著 (review)
  6. Various Artists - We Out Here (review)
  7. Random Access N.Y. vol.98:インターネット、ソーシャル・メディアで生活をめちゃくちゃにされた人びとに捧げる Interference AV festival with Jlin, Lightning bolt, Sun Ra Arkestra @AMC empire multiplex (columns)
  8. Mika Vainio + Ryoji Ikeda + Alva Noto - Live 2002 (review)
  9. interview with Toshio Matsuura UKジャズの現在進行形とリンクする (interviews)
  10. The Correspondents - Puppet Loosely Strung (review)
  11. Georg Gatsas - SIGNAL THE FUTURE (review)
  12. BPM ビート・パー・ミニット - (review)
  13. R.I.P.妹尾隆一郎 ありがとう妹尾隆一郎 (news)
  14. BESとISSUGIによる噂の『VIRIDIAN SHOOT』のTeaserが公開。iTunes Storeでのプレオーダー受付、2曲の先行配信もスタート! (news)
  15. Courtney Barnett ──コートニー・バーネットですよ!!!! (news)
  16. R.I.P. ECD (news)
  17. スリー・ビルボード - (review)
  18. Lea Bertucci - Metal Aether (review)
  19. special talk : BES × senninshou特別対談:BES×仙人掌 (interviews)
  20. Four Tet ──フォー・テット、7年半ぶりの単独来日公演が決定 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Thomas Brinkmann- A 1000 Keys

Album Reviews

Thomas Brinkmann

Thomas Brinkmann

A 1000 Keys

Editions Mego

Tower Amazon

デンシノオト   Sep 20,2016 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 トーマス・ブリンクマンの作りだす音は、はたして「音楽」なのか。ブリンクマンのサウンドは、そのような「問題=意識」をわれわれの感覚にむけて突き出してくる。おなじく〈エディションズ・メゴ〉からリリースされた前作『ホワット・ユー・ヒア(イズ・ホワット・ユー・ヒア)』(2015)もそうだったが、ブリンクマンは音の快楽度数を極限まで削いでいるのだ。
 音を単なる「音」として、即物的な触覚を全面化すること。聴き手に即物的な音を聴取するときに生じる「痛み」のような感覚を意識させること。この傾向はオーレン・アンバーチとの共作『ザ・モーティマー・トラップ』(2012)以降、ますます強くなっている。通常のミニマル(・テクノ)から逸脱し、例外的な存在へと変貌を遂げた、とでもいうべきか。

 2016年の新作『ア・1000キーズ』においては、その「痛み」が、さらに高められていた。「これは音楽なのか?」という問いは、前作以上にクリティカルである。
 なぜか。本作は、ほぼ全曲グランドピアノを加工したサウンドを用いている。しかもピアノによる演奏・旋律がはっきりと残っているトラックがほとんどで(1曲め、7曲め、9曲め、11曲めなど、ノイズ・トラックやリズム・トラックの曲もある)、低音を異様に響かせる「ミニマル・ノイズ・ピアノ・ミュージック」とでも形容したい音楽を展開しているのだ。
 そう、たしかに旋律やリズムらしきものはある。しかしそれがどうにも「音楽」には聴こえない。「音楽」の快楽は、ほぼ皆無に思える。ノイズにせよ電子音響にせよ「音楽の快楽」は聴き手のコンテクストに応じて存在するはずだが、本作の異様なピアノの響きにはそれが(まったく?)ないのだ。剥き出しになったピアノの音がゴロンと横たわっている、そんな感覚である。

 ブリンクマンは、そのような「音楽」と「音楽ならざるもの」の領域を攻めている。前作『ホワット・ユー・ヒア(イズ・ホワット・ユー・ヒア)』も、ノイズやドローン特有の快楽性が希薄であり、相当に異様な音だったわけだが、その「気持ち悪さ」の向こうに、かすかにリズムの残滓を散りばめることで「音楽」と「音楽ならざるもの」の領域を往復するような実験作品でもあった。極限まで「音楽」的な要素を削いだという意味で、音響的ミニマル・アートともいえるだろう。
 本作も同様だ。いや、それ以上だ。極限まで快楽の要素を削いだ新しい音響的ミニマリズムを、ピアノという300年以上の音楽史を背負った楽器で体現させてしまっているのだ。なんという「音楽」への批評性。そして破壊。
 「音楽」の破壊? いや、だからこそ新しい創作でもある。とくに異様な低音とノイズのむこうで、極限まで音を削がれたピアノの打鍵が強烈に鳴り響く12曲め“CGN”や最終18曲め“KIX”には、ただ、ただ、圧倒されるほかはない。「聴いたことがある音」と「聴いたことがない音」の領域を徹底的に揺るがしているのだ。まさに、「音楽」から遠く離れて、である。

 もはやベテランと称してもいいブリンクマンが、このように真に新しいアート/音楽を追求している姿勢に、私は深いリスペクトを感じてしまう。急いで付け加えておくが、ブリンクマンは新概念や方法論を追求することで「新しさ」を実現できるとは考えてはいないはず。彼が批評的な問題を突きつけるのは、受容=聴き手側の固まった感覚のほうではないか。
 ブリンクマンは本作を「ハーシュ・メディテーション」と語っていた。快楽度数が皆無の、剥き出しのピアノの音響に耳と身体を浸すことで得られる「破壊的=瞑想的」領域。それは「21世紀型のミニマル・ミュージック」の響きだ。透明な知性による狂気の構造化、その結晶が本作なのである。

デンシノオト