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ファンクはつらいよ──ジョージ・クリントン自伝

ファンクはつらいよ──ジョージ・クリントン自伝

ジョージ・クリントン 著/押野素子 訳/ 丸屋九兵衛 監修

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野田努   Aug 20,2016 UP
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宇宙は場所であると同時にコンセプトであり、ジミ・ヘンドリックスのように常識を遙かに突き抜けていることを意味する隠喩だ。 ──本書より

 ついに読めるのか。正直な話、ぼくにとって、これほど待ち望んだ自伝もないと言える。ぼくが『ブラック・マシン・ミュージック』を書くうえで資料集めにもっとも苦労したのが、サン・ラーとPファンクだった。大きな影響力があり、哲学的で、未来的で、そして最高にぶっ飛んだ音楽はそうそうあるわけではないし、また当時は(日本ではあまり紹介されていないアンダーグラウンド・ミュージックを追いかけていたため)英語のメディアばかり読んでいたぼくは、なかば呪いのようにサン・ラーとPファンクという名詞を目にしていたのだが、いざまとまった資料を探そうとすると、サン・ラーに関してはデヴィッド・トゥープによるわりとまとまったインタヴュー記事があったものの、Pファンクに関してはデイヴ・マーシュが編集した1998年刊行の『Geroge Clinton & P- Funk』という未訳の発言集(デイヴ・マーシュって、やっぱすごい人だな。ちなみにその発言のいくつかは本書にも引用されている)、それからリッキー ヴィンセントの名著『ファンク』、日本で目に入ってきたものは湯浅学氏らが寄稿している『レコード・コレクター』の特集ぐらいで、とにかく名前は有名でも、実際の扱いはこんなものなのかと思ったほどだった。(ネットもいまほど発達しておらず、サン・ラーの自伝や河地依子さんの『P-FUNK』が出版される数年前の話です)
 Pファンクとは、60年代の哲学を継承し、ジミ・ヘンドリックスの精神を発展させ、ブラック・パワーでありながら人種を超越し、アメリカに抗いながら、ブラック・ロックからヒップホップ、トーキング・ヘッズからプライマル・スクリーム、ザ・ポップ・グループから!!!、そしてデトロイト・テクノにいたるまで、すさまじく広範囲にわたって影響を与えて続けている音楽集団であり、その中心人物がジョージ・クリントンだ。本書は、1941年に生まれ、ニュージャージーで床屋を営みながらDIYドゥワップ・グループとして音楽活動をはじめる初期の話から、デトロイトへと拠点を移し、ファンカデリック/パーラメントとしての全盛時代を送った日々、そしてケンドリック・ラマーと共演する最近の話までと、70年以上もの歴史が綴られている。もちろんその多くは、床屋時代からデトロイト時代という、駆け出しの音楽家からコンサート会場に宇宙船を飛ばすぐらい大成功をおさめるまでの、いまもさんざんと輝く多くの金字塔を発表した70年代に割かれている。そこにはスライ・ストーンやエディ・ヘイゼル、ブーツィー・コリンズやプリンス、天才画家のペドロ・ベル、あるいはデトロイト・テクノ・ファンには記憶されているエレクトリファン・モジョなど、多くの著名な登場人物が描かれている。重要作品の背景が解説され、エピソードが語られ、そしてドラッグとセックス、自分たちの曲がヒップホップにサンプリングされたことへの複雑な感情にも多くの言葉を要している。(巻末にはそのサンプリング・リストさえ載っている)

 もっともジョージ・クリントンが自分の影響力の大きさをいまだにはっきりと認識しているとは言えない。たとえばザ・クラッシュの『ロンドン・コーリング』に収録されている“ジミー・ジャズ”がファンカデリックの『コズミック・スロップ』に収録されている“ノー・コンピュート”のパクりではないのか……という説もあるのだが、何はともあれ1977年にエレクトリファン・モジョがラジオでかけた“フラッシュライト”が当時15歳だったデトロイトの黒人少年の心を打ちのめした話は加えておかなければならない。ホアン・アトキンスのことである。今日、人が“テクノ”というタームを使うときの、言い出しっぺだ。それはモジョが(ジョージ・クリントンが黒人でありながらビートルズやクリームへの愛を隠さなかったように)、クラフトワークやリエゾン・ダンジュルーズを黒人音楽と並列してかけたこととも大いに関係している。そしてUR、アンプ・フィドラー、ムーディーマンにいたるまで、モジョで育った世代は、どんなにPファンクが盛り下がっている時期においてもリスペクトを忘れることはなかった。デリック・メイはゼロ年代になっても“ワン・ネーション・アンダー・ア・グルーヴ”をスピンしているよね。
 もう二点、余談をお許しいただこう。まず、ファンカデリックの『フリー・ユア・マインド~』『マゴット・ブレイン』時代、つまり1970年代初頭、同じくデトロイトにはブラック・メルダ(Black Merda)やデス(Death)といった、ジミ・ヘンドリックスやクリームの影響を受けたブラック・ロック・バンドが活動していたということ。デスに関しては、数年前にシカゴの〈ドラッグ・シティ〉がリイシューしているので、そのスジのマニアの記憶には新しい。それはプロト・パンクであり、MC5とファンカデリックの溝を埋める存在でもある。本書においてジョージ・クリントンは「ユーモアを使っているからといって、俺たちが革命を起こすつもりがなかったわけではない。ただし、俺たちが起こそうとしていた革命は、平和かつ快楽主義的で、鏡に映る自分の姿に向かってウィンクをしているような、茶目っ気のあるものだった」と書いているが、逆に言えばそのユーモアと茶目っ気こそ当時の他のデトロイト・ブラック・ロックにはなかったものである。
 もう一点、どうしても書かずにいられないのは、ディスコに関する下りだ。基本的にジョージ・クリントンのディスコに関する認識は、たとえばファンクは貧乏人で、ディスコはなかば金持ちの物質主義者の音楽と決めつけているのだが、それはシカゴの野球場でディスコのレコードが焼かれた時代のロック・ファンの認識とあまり変わらないと言わざる得ない。ジョージ・クリントンと同じように60年代の精神に触発された孤児院育ちの貧しい青年が、やがて自宅でパーティをはじめたことがNYのディスコ・アンダーグラウンドの発端にある。その、デヴィッド・マンキューソからラリー・レヴァンへと連なるコンテキストにおいて、パーラメントの“バップ・ガン”もミックスされている。で、DJカルチャーにおけるミックス・テクニックが誕生したストーンウォールは、いまではシヴィル・ライト・ムーヴメントの象徴のひとつともなった(多少、ハイプが入っていたとしても素晴らしいと思う)。
 まあ、上記のほかにも、詳しい人ならいろいろ出てくるだろう。繰り返すが、Pファンクの物語は、ジョージ・クリントン本人が思っている以上にでかいのだ。だからこそ、その核となるクリントの思考には、いまでも参照されるべきことがある。大バカをやりながらじつは鋭く立ち回ること、これはかなり高度なワザだが、本書を読んでいていちばん嬉しいのは、そのヒントを確認できることである。たとえば次のようなフレーズ──

 俺はプロテスト・ソングとは別の方向に進んだ。俺には、社会的・心理的な事柄、特にその中でも生、死、社会統制といった最もシリアスな考えには、可笑しさがあるように思えた。そして、そこに留まり、喜劇と悲劇、現実と非現実の間のスペースに漂うと、一種の知恵のようなものが生まれてきたのだ。

 これはジョージ・クリントンがビートルズとボブ・ディランから学んだことでもあった。Pファンクの宇宙船が(楽園ではなく)ゲットーに着陸することは、よく知られている。「そこに留まり、喜劇と悲劇、現実と非現実の間のスペースに漂うと、一種の知恵のようなものが生まれてきた」──もっともシリアスな状況に置かれていたデトロイトの黒人少年たちは、この発想を我がモノとしたわけだが、それを彼らだけのものにすることはない。河地依子さんにお会いしたときに、「Pファンクの歌詞では何が好きですか?」というベタな質問をした。そのとき彼女はしばし考えながら「“Think! It Ain't Illegal Yet!(考えろ! それはまだイリーガルじゃない!)”かな」と言った。なるほど。素晴らしい言葉だ。
 いずれにせよ、これは最高の音楽であると同時に床屋の社会学であり、精神解放であり、ファンク哲学である。ファンク、全ファンク、無ファンク、されどファンク、それをステージに上げよう。

野田努