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Live Reviews

RockShoegaze

きのこ帝国

きのこ帝国

@代官山UNIT

May 6, 2013

文:野田 努  
photos : Yuki Kawamoto   May 10,2013 UP
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 GW真っ直中のこどもの日の夕刻、初夏の香りの漂う下北沢は、びっくりするほど若者たちで賑わっている。人混みを避けるように、僕は菊地祐樹と茶沢通りのコンビニで待ち合わせた。「しかしあれだね、この爽やか休日の、幸福そうな若者で溢れている町中を、若きニート=菊地と廃人のおっさん=僕が一緒に歩いているのも、面白いというか、なんというか」「ハハハハ、そうですね」......とか笑いながら、下津光史の弾き語りを聴くために風知空知へと向かった。
 下津は、「俺はいま禁酒しんてるんや。もう2週間もやで」と言って、我々を迎えた。席について、演奏を聴きながら、しばらくして僕は言った。「キクリン、下津の禁酒がいつまで続くか賭けないか?」「いいですよ」「俺はさ、もってあと1週間。今週末には飲んでいると思うね」「僕は、実はすでに飲んでいるに賭けます」......と話していたちょうどそのときだった。数曲歌え終えた下津は、ステージの脇にギターを置くと、足下に置いてあったミネラルウォーターのボトルを指さして、「なんやねん、この液体は。なんで透明なんやねん」とわめきながら、「俺が欲しいのは、もっと色がついているやつや」と声を荒げたあとに、子猫のような声で「すんません、コロナ、1本もらえますか」とスタッフに言った。

 翌日の6時過ぎ、場所は代官山UNIT、若者とおっさんは、きのこ帝国のワンマン・ライヴを見に行った。チケットはソールドアウトだったので、当たり前だが、ものすごい人だった。酸素が薄く感じるほど、超満員である。
 自分たちがどう見られるかばかりを気にするバンドが多いなか、きのこ帝国は、人目など気にせずに自分たちのやりたいことをやってきている。それがこのバンドの最大の強みだと思う。
 僕がこのバンドを初めて見たのは、およそ1年前の、5月26日の下北沢GARAGEだった。小さいライヴハウスに、お客さんが20人いるかいないか、しかもその場にいる20人は対バンのお客、そんななかでの演奏だった。それでも8月に下北沢のERAで見たときには、50人以上はいただろうか、それなりに埋まっていた。
 だいたい、100人も入れば埋まるようなライヴハウスで演奏を見ていると、身内の多いバンドかそうではないバンドかがわかるものだが、きのこ帝国は後者だった。いつもの取り巻きがいるわけではないし身内でわいわい盛り上がっている感じもない。そんなきのこ帝国は、この1年で、代官山UNITをチケット売り切れの満員にするほどのバンドとなった。地道なライヴ活動と2枚のCD、自分たちの音楽だけで。

 ドアを開ければそこは人垣だった。フロアの、僕は前へと突進して、最初はステージの近くで聴くことにした。ライヴは、テルミン(あらかじめ決められた恋人たちへのクリテツさんによる)電子音を響かせながら、"足首"ではじまった。じっくりと音を重ねがら、ゆっくりとアップリフティングしていく。さあ、ノイズ・ギターにまみれた魂のドラマのはじまりだ。
 ステージにいるのは1年前と変わらないきのこ帝国だった。愛想のない佐藤がいて、愛想の良いギターのあーちゃんがいる、物静かでシャイなふたりの青年がリズムを支えている。たまにあーちゃんが喋るくらいで、ほとんどMCはなく、淡々と演奏は続く。
 変わったのは、聴きに来ている人たちの数だったが、バンドはその夜もまた、ストイックだった。しかし、3曲目の"夜鷹"の孤独な思いが反響すると、おそらくは多くのオーディエンスの感情は、ゆるみはじめ......、ストロボの激しい点滅のなかで演奏された"暇つぶし"でたくさんの耳と心は釘付けにされた。我慢できずに、大粒の涙を流している人もいた。

 きのこ帝国が素晴らしいのは、血みどろの恋愛劇、傷つけあい続ける人間関係を勇気を持って描いているからである。傷つけ、傷つき合うことを忌避するあまりだろうか、歌のなかでも、あるいは休日の下北沢でも、オブラートに包んだような人間関係ばかりが目につくようになった。しかしときには、当人たちの望んだことではないにせよ、それが真剣であればあるほど、こと恋人同士とは傷つき合うことから逃げられないものだ。それは心を重層的なものにさせる。佐藤の歌には、その重層性がある。魂の地層をほじくり返すように彼女が歌うとき、オーディエンスの内部もほじくり返され、自らのそれに気がつくのだ。
 途中、僕は前列から退避して、後半は最後列で聴いた。"春と修羅"はアルバムよりもライヴ演奏のほうが、僕にはよく聴こえた。わめき散らされる感情は、生で聴いたほうがいい。いちばん後ろまでいって立っていると、すぐ隣には、色のついた液体を片手に持った下津光史がいた。
 1時間半ほどの演奏が終わるとアンコールが2回あって、2回目のアンコールでは新曲をやった。フロアを埋め尽くしている多くが若く、男女比率6:4ぐらいだったろうか、それほど女性客が目に付き、開演中にツイッターをしているような輩はものの見事ひとりとして見なかった。

追記:きのこ帝国から涙を完璧に吸い取って、歯切れ良くポスト・パンク
へと変換するとサヴェージズになるのだろうか......というのは飛躍し過ぎだろうねぇ。

文:野田 努