ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. Bonna Pot ──アンダーグラウンドでもっとも信頼の厚いレイヴ、今年は西伊豆で
  4. Neek ──ブリストルから、ヤング・エコーのニークが9年ぶりに来日
  5. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  6. アフタートーク 『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』
  7. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  8. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  9. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  10. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  11. MODE AT LIQUIDROOM - Still House Plantsgoat
  12. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  13. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  14. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  15. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  16. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(後編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  17. interview with Jon Hopkins 昔の人間は長い音楽を聴いていた。それを取り戻そうとしている。 | ジョン・ホプキンス、インタヴュー
  18. KMRU - Natur
  19. Columns 「ハウスは、ディスコの復讐なんだよ」 ──フランキー・ナックルズの功績、そしてハウス・ミュージックは文化をいかに変えたか  | R.I.P. Frankie Knuckles
  20. Fabiano do Nascimento and Shin Sasakubo ──ファビアーノ・ド・ナシメントと笹久保伸によるギター・デュオ・アルバム

Home >  Regulars >  借りパク音楽反省会 > 第2回:“ちょいヤン”になっちまったあいつから

借りパク音楽反省会

借りパク音楽反省会

第2回:“ちょいヤン”になっちまったあいつから

文:アサダワタル Oct 07,2015 UP

 みなさん、いかがお過ごしでしょうか? 
 連載が開始した9月内に早くも数件、借りパク音楽エピソードをいただきました。読者の皆さん、ありがとうございます!! ご紹介の前に、まずはアサダワタルの借りパク音楽全集より、渾身の作をお届けして参りたいと思います。

 さて! 本日ご紹介するのはこちら。


(注:手書きポップに書かれているイニシャル「W.A」とは僕のこと。このポップを書いた2012年当時は33歳だったが現在はもう少し歳をとっている。以後すべて同。)

 僕は、南大阪の某ニュータウンで育ち、なかなかのヤンキー養成中学に通っていたのですが。中一のときに引っ越ししてきて中二でいっしょのクラスになった守屋くん(たぶん、この字。ひょっとして守谷かな?)は、一見大人しく、人見知りの激しい朴訥とした少年だったんだけど、実はものすごく音楽好きで熱い男でして。洋邦問わず、最新のポップ・チューンに詳しかった彼のミュージック・リソースは、関西屈指のFM局「FM802」。いわゆる月一の「ヘビーローテーション」で流れる曲はもちろんのこと、当時夜22時から放送されていた『ミュージックガンボ』という番組をこよなく愛していた彼。曜日ごとにさまざまなミュージシャンがパーソナリティを担当するこの番組を欠かさず聴きながら、「金曜のちわきまゆみってじつは芸歴長いよね」とか「日曜のKANと槙原は本当はあんまり仲がよくないんじゃないか」とかそんな痴話話も交えて、いろいろと音楽を聴き合っていたのだった。

 そして、そんな彼がもっとも愛していたのが、当時水曜日のパーソナリティを担当していた谷村有美嬢。昼休みに放送部のクラスメイトに頼み込んで、名曲『一番大好きだった』を流してもらうようネゴしたり、近所のCD屋で不要になった有美嬢のポスターをもらってくるなど、精力的なファン活動を遺憾なく発揮してきた彼から、「アサダも絶対好きになるから、有美聴いてや。な!?」と言われて、アルバム『Docile』を借りることに。そして、僕もまんまとはまってしまい、毎朝目覚めはアルバム1曲め「ありふれた朝」からスタートし、昼休みはダビングしたカセットをウォークマンに入れて3曲め「たいくつな午後」を聴くというお決まりコースを確立。(いま思えば、なんとも「終わりなき日常」感漂う気だるいタイトルの曲たち……)。すっかり有美の内面(わかりもしないのに)にまで惚れ込んでしまったのだった。

 そうこうしているうちに、徐々に守屋くんはヤンキーの友だちに囲まれはじめ、ある日気づけばすっかり「ちょいヤン」(ちょっとだけヤンキーにかぶれた、質(たち)の悪い状態のこと)へ。そして、僕に向かって「おい! お前さ、いつまで有美のCD持ってんねん! ええ加減返せや!」って言われたので、なんだかカチンと来て、「お前も、俺のE-ZEE BAND持ったままやんけ!」ってやりあって、そのまま返せず終いに……。

 それから十年近くたった2002年、有美嬢が当時Appleの社長だった原田泳幸と結婚するという話を聞いて仰天。「じつは有美ちゃん、年齢サバ読んでた?」って話にもなってW仰天。そして思い出したわこのCD。守屋、ごめんな。キミはちゃんとE-ZEE BANDのCD、返してくれたのにね。


Illust:うまの

パクラーのみなさまからのお便り

お名前:バッドアップル
性別:女性
年齢:34

借りパクした作品:
Guns N' Roses / Use Your Illusion I(1991)

借りパクした背景、その作品にまつわる思い出など:

アサダワタルさん、はじめまして。
15年ほど前になります。大学1年生の頃、学校にはまだ親しい友人もおらず、語学の授業で顔を合わせる人たちとのあいだにかろうじて薄い縁がありました。その中のひとりが貸してくれたのがGuns N' Rosesの『Use Your Illusion I』です。私は洋楽を聴きはじめで、「音楽を知ってる」という感じのその子と仲良くしようと思いました。ただ、当時はレディオヘッドがいちばん知的なバンドだと思っていたので、ガンズを聴くというその子に対して意味不明ながら優越感を抱いていました。彼氏の趣味かなぁみたいな……(相手も女性です)。その後すぐに試験期間と夏休みに入ってしまい、お互いにサークルの仲間もできたりして、自然とつきあいが消滅しました。それでなんとなく返すタイミングを見失ってしまったのですが、いまから思えば、それは「べつにガンズは返さなくてもいっか」みたいなありえない傲慢や若さのせいだったようにも思います。

借りパク相手への一言メッセージ:
本当に傲慢でした。いまではガンズを聴けるようになり、“November Rain”のPVで泣けるようになりました。いまなら語れます! ご結婚とかされてますか。いまでも音楽聴いてますか!

※文字表記等は一部編集部にて変更させていただいております


Guns N' Roses ?/ Use Your Illusion I (1991)


アサダからのエール

バッドアップルさん、お手紙ありがとうございます!! いやぁ、僕と完全同世代の方ですね。

僕も『Use Your Illusion』のワンとツーともどもよく聴いてましたよ。僕の場合は姉貴がハードロック好きで、いつも隣の部屋からガンズやらデフレパードやらヨーロッパやらがガンガン聴こえてきて勝手に拝借してた(借りパクはしませんでした)……という思い出がありますね。そして、何よりも『Use Your Illusion』については、『T2(ターミネーター2)』でサラ・コナーの息子役ジョンが、不良少年とつるんでバイクぶっ放しているところで、爆音で“ユー・クッド・ビー・マイン”が流れるシーン、あれめっちゃ覚えてますよ。僕らの世代はガンズが洋楽を聴くきっかけって人、けっこう多いんじゃないかな。

で! 何よりも……、おっしゃっているその「優越感」。それって中2くらいで芽生えて大学1回生くらいでピークを迎える「私だけがほんとにいい音楽知ってるんだよ」っていうあの捻くれた自意識ですよね。それってこじらせると大人になってもけっこうその空気感が出ちゃうんですよねー苦笑。その昔『PATi PATi』(雑誌)で渋谷系の某アーティストがBY-SEXUALのメンバーが髪の毛立てるのに数時間かけるって話を思いっきり小馬鹿にしながらニヤニヤ話しているのを読んだ記憶がありますが……。それとともに、女性の場合(もちろん男性の場合もあるんですが)「明らかに彼氏の影響だろ!」ってことがけっこうあるんでしょうかね。付き合う相手によって急にゴスロリになったり、急にリネン系になったりする方がいるように、音楽的な影響を明らかに恋人から受け取っているなぁと思われる現象を見れば、なんだか余計に優越感を抱いて、こっちもさらにイヤな奴になってしまうというバッド・サイクルに……。

もちろんタイミング問題もあったとはいえ、その感覚が「べつにガンズ“は”返さなくてもいっか」に繋がったというのはまさにそういった謎の傲慢さが煮えたぎった若気の至り! でも、大丈夫です。まだブックオフに売らなかっただけましだと自分を鼓舞しながら、相手に償いの思いを馳せましょう。
“November Rain”。たしかにもうすぐ11月ですね。


■借りパク音楽大募集!

この連載では、ぜひ皆さまの「借りパク音楽」をご紹介いただき、ともにその記憶を旅し、音を偲び、前を向いて反省していきたいと思っております。
 ぜひ下記フォームよりあなたの一枚をお寄せください。限りはございますが、連載内にてご紹介し、ささやかながらコメントとともにその供養をさせていただきます。

Profile

うまのうまの
兵庫県在住。人物の絵が得意です。さまざまなタッチでイラストを描いております。
http://aoeuia.tumblr.com

Profile

アサダワタル/Wataru Asadaアサダワタル/Wataru Asada
1979年大阪生まれ。作家、ミュージシャン。2000年代初頭より「越後屋」(NMR)や「SjQ」 (HEADZ)でのドラム担当、「大和川レコード」名義でのソロ活動にて、ライブやリリースを行う。その後、表現活動を"音"から"場/事"に拡張し、スペースの運営や教育・福祉現場における音楽ワークショップの実施、それらに纏わる文筆活動を開始。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『コミュニティ難民のススメ 表現と仕事のハザマにあること』(木楽舎)など。2013年に、ドラムを担当する「SjQ++」が、アルス・エレクトロニカ2013デジタルミュージック部門にて準グランプリ受賞。

COLUMNS