Home > Interviews > interview with Alex Paterson - “希望”と“自由”のオーブ
1992年、ブリクストン・アカデミーでピンク・フロイドがライヴをやるときに、ニック・メイソンが「オーブもいっしょにやらないかい?」と誘ってくれたんだけど、僕は「ファック・オフ」と言って断った。「死ね」と。「俺はパンクなんだ」と言った。
オーブ メタリック・スフィアーズ[Limited Edition] ソニー・ミュージック・ジャパン |
■あなたがプロダクションに関わったと言われているザ・KLFの『チルアウト』と『メタリック・スフィアーズ』を関連づけることは可能ですか?
アレックス:『チルアウト』はKLFだよ。
■部分的なんですけど、『メタリック・スフィアーズ』で、あなたのアンビエント・サウンドのうえにメロウなギターが入る箇所を聴いていると、『チルアウト』を思い出すんですよね、『チルアウト』はジャケもピンク・フロイドだし。
アレックス:オッケー、そういうことね。でも、『チルアウト』はサンプリング・ミュージックだよ。そういう意味では『メタリック・スフィアーズ』とぜんぜん違う。だから今回は、余計な(著作権をめぐる)トラブルも起きなかったからね。
■なるほど(笑)。まったく違いますか?
アレックス:うん。アンビエントという点では同じだけど、『チルアウト』はサンプリング・ミュージックで、『メタリック・スフィアーズ』は演奏している。そしてKLFはビル・ドラモンドとジミー・コーティによるもので、オーブは僕だ。僕はDJとして彼らにネタを提供した。そういう観点で言えば、2枚は完璧に違う。『メタリック・スフィアーズ』ではサンプリングによってプレスリーが歌うことはないけれど、ギルモアが本当に歌っている。
アレックス:(日本盤のライナーをしげしげと眺めながら)あれ、ここにもKLFと書かれているぞ!
■歴史について書いているんですよ。『チルアウト』はたしかにKLFの作品だけど、あなたの存在が大きかったからですよ。
アレックス:実はわりと最近、KLFが100万ポンドのギャラを得て、その自叙伝が出版されたんだけど、本のなかで「どうやって『チルアウト』という名作が生まれたのか」という章があってね、そこに詳しく記されている。ビルとジミーから頼まれて、僕も当時の話を細かく喋ったから読んでみてよ。DJとしてトランセントラル・スタジオに招かれて、ひと晩10時間のセッションをやった。それをカットアップして、そして名作が生まれたという、その伝説が描かれているんだよ。ちなみに本のなかには僕とスティーヴ・ヒレッジとの出会いについても描かれているよ。ある晩、僕は6枚のレコードを同時にかけていたんだけど、そのなかの1枚がスティーヴ・ヒレッジのレコードだった。その場にスティーヴもいて、それでいい友だちになったんだよね。
■なるほど。『メタリック・スフィアーズ』に戻しましょう。
アレックス:そうだね。
■作品がリリースされて時間が経ちますが、反応はいかがでしたか?
アレックス:ポジティヴで良い反応を得ているよ。
■とくに面白かった感想があれば言ってください。
アレックス:メディアの評判も良かったんだけど、マイスペースを通して知った、購入者からの意見が面白かった。興味深いことに、北欧、あるいはチェコやポーランドのリスナーからの感想が多くてね......これもピンク・フロイドのおかげかな?
■ハハハハ。
アレックス:ガイ・プラットってわかる?
■誰でしょう?
アレックス:ファースト・アルバムでベースを弾いている旧友だが、ロジャー・ウォーターズがピンク・フロイドを脱退したあとにベースを弾いたのが彼だった。今回のアルバムでキーパーソンがいるとしたら、彼だ。ユース、ガイ・プラッド、そして僕の3人は、子供の頃からの連れで、同じ学校に通っていたんだ。そんな彼がオーブのあとにピンク・フロイドに入って、今回のデヴィッド・ギルモアに繋がるわけだよ。
■なるほど。
アレックス:実は、いちどだけピンク・フロイドをサンプリングしたことがあって、ジョン・ピール・セッションで"ア・ヒュージ・エヴァー・グローイング・パルセイティング・ブレイン"をやったときに"シャイン・オン・ユー・クレイジー・ダイアモンド"を使ったんだよね。当時その演奏がすごく好評で、リクエストは最多だったそうだ。で、サンプリングの許可を得なければならなかったんだけど、そのときもガイ・プラットが話を付けてくれた。そして......1992年、ブリクストン・アカデミーでピンク・フロイドがライヴをやるときに、ニック・メイソンが「オーブもいっしょにやらないかい?」と誘ってくれたんだけど、僕は「ファック・オフ」と言って断った。「死ね」と。「俺はパンクなんだ」と言った。これはいままで誰にも言ったことがない秘話だよ。面白い話でしょ?
■ハハハハ。たしかに面白いですね。それでは、あなたとピンク・フロイドの関係をはっきさせたいので、敢えて訊きますね。あなたは子供の頃、ヒッピーが嫌いなパンクスでしたよね。パンクに傾倒し、ダブやレゲエが好きで、デトロイトやシカゴのアンダーグラウンドな音楽に関する知識が豊富なDJでした。しかし、『ウルトラワールド』では、ピンク・フロイドの『アニマルズ』のアートワークを引用しました。
アレックス:あの発電所は、たまたま同じ駅だったんだ。同じ街(バターシー)に住んでいたからああなったのであって、ピンク・フロイドの真似じゃないよ。クラフトワークだって発電所をアートワークに使っているよ。
■"バックサイド・オブ・ザ・ムーン"という曲もあります。そして、多くの人はその音楽のなかにピンク・フロイドと共通するものを感じました。90年代初頭は、オーブはレイヴ世代のピンク・フロイドなどど形容されていましたよね。
アレックス:20年前の話だね。
■そう、20年前の話。で、実際はどうなんですか? あなたとピンク・フロイドっていうのは。
アレックス:まったく興味がなかった。もし関連性があったとしても、それが売りになるとも思えなかった。しかし......当時乗らなかったボートに僕は19年目にして乗ってしまったわけだ。『メタリック・スフィアーズ』で残念なことは、すべてを自分でコントロールできなかったことだよね。
取材:野田 努(通訳:湯山恵子)(2011年1月31日)