Home > Interviews > interview with Friendly Fires - ユートピストの逆襲
Friendly Fires Pala XL Recordings/ホステス |
オルダス・ハックスリーといえば、自ら幻覚剤の実験台となって著述活動を続けたイギリスの作家で、ザ・ドアーズがバンド名に引用した『知覚の扉』が有名であるように、サイケデリックな60年代のサブカルにおいて広く読まれたひとりだ。
UKのインディ・ロック・バンド、フレンドリー・ファイアーズのセカンド・アルバム『パラ』は、ハクスリーのユートピア小説『島』の舞台となる島の名前から引用されている。そればかりか、このアルバムのオープニング・トラック"リヴ・ゾーズ・デイズ・トゥナイト"にいたっては、どう考えてもセカンド・サマー・オブ・ラヴへの記述がある。
かつて、フランキー・ナックルズとジェイミー・プリンシプルのシカゴ・ハウスのクラシック"ユア・ラヴ"をカヴァーしたこの若いバンドは、これだけまわりの同世代の誰もがディストピアを描いている現代において、ほんとんど浮いているんじゃないかと思えるほど理想主義を強調する。いったいこの20代は何を想っているのだろう......僕は訊かなければならなかった。
ヴォーカルとベースのエド・マクファーレン、ギターのエド・ギブソン、ドラムのジャック・サヴィッジ(彼はDJ活動もしている)が3人はワインを飲みながら話してくれた。
最近のインディ・ミュージックは、まるで『ピッチフォーク』に好かれるためにやってんじゃないかってくらい、知的で、ウィットに富んで、いろいろ複雑にしようとしているでしょ。そういう状況に対する僕なりのリアクションでもあるんだよね。
■ダブステップ全盛の2006年に、よくシカゴ・ハウスのクラシック"ユア・ラヴ"をカヴァーしたなと思ったんですよね。ダブステップに支配されたUKでハウス......っていうのが驚きだったんですよ。
エド・マクファーレン:ハハハハ。
■まわりから「何コレ?」って感じだったでしょ?
エド・マクファーレン:いや、わからないけど......あ、でも、直接ジェイミー・プリンシプルからメールもらったんだよ。
■良い電話だった?
エド・マクファーレン:うん、とても。もう、それで気持ちが解き放たれたね。
■あの曲を選んだ理由は?
エド・マクファーレン:歌詞が素晴らしいと思ったんだ。歌も良いし......、誠実で、直接的で、「僕には君の愛が必要」だなんて、そんなストレートなメッセージを歌う歌詞なんていまどきないだろ? しかも音的にも美しいし、切ないし、あれをダンス・ミュージックだと意識して聴いたわけじゃなかったんだ。だけど、あれをクラブで聴いたらきっとすごいんだろーなと思ってインスパイアされてカヴァーしたんだ。
■へー、歌詞なんだね。
エド・マクファーレン:そうだね。あと、最近のインディ・ミュージックは、まるで『ピッチフォーク』に好かれるためにやってんじゃないかってくらい、知的で、ウィットに富んで、いろいろ複雑にしようとしているでしょ。そういう状況に対する僕なりのリアクションでもあるんだよね。僕はもっと......なんていうか、クラシカルなサウンドでも良いと思っているし、昔のメッセージはまだ生きていると思っているんだよね。
■ダンス・ミュージックにどうして興味を持ったんですか? たとえば、アンディ・ウェザオールにリミックスを頼んだんでしょ?
エド・マクファーレン:いや、アンドリュー・ウェザオールにお願いしたのはリミックスだけじゃないよ。実はいま共同で制作しているぐらいなんだよ。
ジャック・サヴィッジ:まだ完成してないけど、いっしょにスタジオに入ったんだよ。
■アンディ・ウェザオールなんて僕らの世代のヒーローだけど、あなたがた若い世代なんかにしたら、もう忘れられた存在じゃないかとも思ってたんで。
エド・マクファーレン:アンドリュー・ウェザオールは僕らの世代(現在27歳)にとってもヒーローだよ! 実は何回もリミックスをお願いしているんだ。それで、ようやくそれが実現した!
ジャック・サヴィッジ:彼のDJセットも大好きだしね!
エド・マクファーレン:僕はもともとエイフェックス・ツインやスクエアプッシャーみたいなエレクトロニック・ミュージックを聴いていたんだよね。ポスト・ロックとかさ、ああいう複雑な音楽とか、あと、クリス・クラークがベッドルームで音楽を作ってそれで生計を立てているとか、そういったことにすごくインスピレーションを得ていたんだ。10代の頃はそうした、いわゆる〈ワープ〉サウンドを聴いていたんだけど、やがてそうしたものにも飽きてきて、そのときにハウス・ミュージックに興味を持つようになったんだ。
■そうだったんですね。
エド・マクファーレン:僕ら、みんな最初はインディ・ミュージックばっか聴いていたんだ。それでクラブに行くようになって、音楽に関して新しい体験をした。自分もそこに参加して聴くっていうか、ステージやミュージシャンを眺めるんじゃなくて、音楽だけを聴くっていう。それで音楽をインディ・ロックとは別の観点から見るようになった。ちょうどそういったきっかけのひとつが、アンドリュー・ウェザオールのロンドンのパーティだったんだよね。彼のイヴェントにはホントによく通ったな。
■なるほどね。今回の『パラ』は、タイトル自体はハクスリーのユートピア小説からの引用ですが、アルバムのコンセプトには20年前のUKにあったレイヴ・カルチャー、セカンド・サマー・オブ・ラヴといったものに対するあたがた若い世代の複雑な感情が込められたものとして捉えていいですよね?
エド・マクファーレン:そうだね、僕はその時代のことを知らない。僕が重要だと思っているのは「いまを生きる」ってことなんだよ。僕がいま生きていて、そして僕のまわりで、人びとが微笑んで踊ってくれて、それでしかも一体感を感じてくれたら、それがひょっとして20年前のレイヴ・カルチャーだったんじゃないのかなと思う。
■2011年から見て、あの時代の音楽文化のなかにはいまも有効だと思える事柄があると考えるんですね?
エド・マクファーレン:スピリット、とくにダンスさせるっていうところには共感があるし、そもそも僕らの音楽ってなんかの祝祭っていうか、お祭みたいな音楽なんだよ。
エド・ギブソン:あの時代のピアノ・コードなんかもすごく良いよね。ああいうのは自分たちと似ているなーと思う。
エド・マクファーレン:でも、僕らは、いろんな時代の音楽に影響されているんだ。どれか特定の時代の音楽に影響されているってわけじゃないんだよ。たとえば"ユア・ラヴ"は、いまダンスフロアでDJがかけたとしても絶対に良い曲だ。時代は関係ないと思っているんだ。
■そうは言っても、"リヴ・ゾーズ・デイズ・トゥナイト(あの日々をいま生きろ)"の"ゾーズ・デイズ(あの日々)"は20年前のことでしょ?
エド・マクファーレン:過去への敬意をもっていまを生きようって意味でそういう言葉にした。あの曲の歌詞は、すごく複雑な意味をはらんでいるんだ。僕たちはもう、どんなことがあっても、ダンスの黄金時代に戻ることはできないっていう認識と、そして、いまはそれなりに喜ぶべきことだってある。あの時代に戻ることはできないけど、あの時代のアティチュードはいまも取り入れることができる。だから、「昔には戻れっこない」という一般論を実はディスってもいるんだ。いまを生きようっていうメッセージそれ自体が、あの時代のアティチュードとも重なるんじゃないのかな。そういうことを言いたいんだよ。
ジャック・サヴィッジ:たまに勘違いされるんだけど、あの曲はノスタルジーじゃないんだ。
エド・マクファーレン:そう......ホント、あの曲の歌詞はすごく考え抜いたんだ。さっき「昔には戻れっこない」という一般論をディスったと言ったけど、ホントは誰にも攻撃していないんだ。そういう、誰かを批判するような歌詞にはしたくなかった。過去への大きな思いもあるけど、でも、最終的には現在というものについての思いを伝えたかったんだよ。だから、ものすごく慎重に言葉を選んだつもりなんだけどね。
■へー、そうだったんですね。言葉の選び方まではわからなかったけど、あなたがたの深いエモーションはしっかり伝わる曲だと思いますよ。
エド・マクファーレン:それは良かったよ。
取材:野田 努(2011年8月18日)
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