Home > Interviews > interview with STRANGE REITARO TRAVEL SWING ORCHESTRA - 酔っぱらい楽団
みんなに楽しんでもらいたいって気持ちの方が全然大きかったです。で、みんなに楽しんでもらいたいっていうことは、「俺こんなん好きやねん」ってことをプレゼンするっていうことじゃないですか。
■なるほどね。じゃあ安田さんがリーダーなんだよね、たぶん。
安田:そうです。
■......これ仕切るの大変ですね。
安田:いや、もう全然。みんな実はめっちゃマジメなんで。(メンバーに向かって)ありがとうございます、ほんま。
奇妙:もう日本の将来のことしか考えてないですからね、僕ら。
(一同笑)
安田:たまに居眠りしてしまったりしますけどね。
■歌謡曲とか、レトロ・スタイルにこだわる理由っていうのは何なんですか?
手島:好きなだけっすよね、これが。
奇妙:こだわるっていうとそうかな、って思いますし。みんなそれぞれけっこう忙しいんで、あんまり集まれないんですけど。ライヴはけっこうしてるんですけど。みんな知ってる曲のほうがライヴしやすいんです。あとは自分が好きやっていうのがいちばん大きいですけど。まあなんか、何でもいいんですよね。人前でやるっていうと......なんかシーンとしてない? だいじょぶ?
まいこ:いちばん盛り上がってたよ、だいじょぶ。
安田:いまいちばん盛り上がってたよ。
奇妙:何でもいいんですけど。
■芸人道みたいなものをすごく感じました。
安田:ありがとうございます!
奇妙:そう思ってたときがほんまにあるんですよね、ライヴのとき。
■エンターテイナーというか、芸人に徹するっていうか。
奇妙:それがほんまに凄いことやなって思ってました。でもそれはほんまに凄いことすぎて。僕、今年の最初ぐらいまで芸人さんみたいなものに憧れてたのもあるんですよ。
ここ1ヶ月ぐらいは全部取っ払って、舞台に出て人前にばっと出たときに自分はどうするんかみたいなんを整理せな他のこと何もできへんと思って。まあそういう感じっすね。全力で30分とか1時間とかを絶対やるっていう。3日連続ライヴあるとしたら、3日間を30%ずつで割るんじゃなくて、初日100%でやって――。なんて言うんですかね、気持ちは全部100%なんですけど、声の調子とか、どんどんやっぱ減っていくんですよ。それはすごい悔しいんですけど、しょうがないなとも思うんですよ。あれ、何が言いたかったんか......。
■まあ、芸人ですよ。
奇妙:明日のことを考えて今日は60%ぐらいでライヴしたとして、みんながそれで幸せってなったとしても、今日死んだら自分はやっぱそれは悔しいんですよね。お客さんが「めっちゃ良かった」って言ってくれて、バンド・メンバーが「今日いいライヴしたね」って言って、自分でも「いいライヴしたね」ってなっても、やっぱイヤなんですよね。もうそれ以降一生ライヴせーへんとしたら。それやったら、絶対全力でやりたいなと思って。で、全力でやった次の日が声出なくなって、次の次の日もっと声出なくなって、「あ、あ、あ」みたいな声なるんですけど。それはほんまに悔しいです、なんか。「別にお金払ってくれんでいいし」って思うし。でもそれも全力で絶対やるんですけど。まあやっぱ悔しいです。だから最近は、申し訳ないな、と思ってます。
(一同笑)
■はははは、なるほど。でも何て言うんだろう、ある種のプロ根性みたいなことだと思うんですけど。やってる音楽っていうのがポップスっていうか、原点回帰ってことをすごく意識していらっしゃる。
奇妙:そうですね。アルバムなんかはそれを意識してる。
■その原点回帰みたいなものっていうのは最初からあったんですか? 最初から昭和の歌謡曲みたいなものが好きだったんでしょうか? それとも、やってくなかで自分たちでいまのスタイルが定型になった?
奇妙:ほんまに最近までみんなに楽しんでもらいたいって気持ちの方が全然大きかったです。で、みんなに楽しんでもらいたいっていうことは、自分の好きなもの、「俺こんなん好きやねん」ってことをプレゼンするっていうことじゃないですか。別にバンドしてる・してないに関わらず。なんかそういうことやと思います。「こういうバンドおるから一緒に観に行こや」とか。
■エンターテインメントってことは強く意識していらっしゃいますよね。
奇妙:それは最終的にはやっぱ考えてますね。
■それがすごくいいなと思うんですよ。いまお酒でベロベロですけど(笑)。なんで自分たちが原点回帰みたいな方向性になったんだと思います?
奇妙:自分たちがそれを好きやってことやと思います。
■それは、いまの音楽にはなくて、それこそ美空ひばりとか加山雄三とかみたいなものにはあったものを発見したわけですよ。
奇妙:それはありますね。
■それは何だと思いますか?
奇妙:それはまず、難しい言葉は使わないということです。僕が好きな友だちの曲とかもそうです。サンデーカミデさんの曲を僕はすごく歌うんですけども、そのひとの曲も小学生でもわかる単語しかないんですけど。
■ああ、大阪で活動されてる。
奇妙:そうです。なんかびっくりするんですよ。言葉はわかりやすいのに、テキトーに「みんなで仲良くしていこうや」みたいな曲じゃなく。
■簡単な言葉で深いことを言ってくれるっていう?
奇妙:うーん......そうです。
■はははは(笑)。
奇妙:なんかやっぱり、根本的に、根本的に......根本的に。
■はははは(笑)。あとさ、ラヴ・ソングを追求してるでしょう?
奇妙:どうすかね、全部ラヴ・ソングですけど。
■なにゆえラヴ・ソングなんですか?
奇妙:わかんないです。不安なんじゃないですかね。ラヴ・ソングをいっぱいやったほうが、みんなこっちを向いてくれるんじゃないかみたいな、バンドをやる人間の最初の不安があるんじゃないですかね。だからこんなにしょうもない曲が世界中に......。
(一同笑)
奇妙:でもしょうもない曲って結局ないと思うけどね。「うわ、ほんまにあいつクソやったな」みたいな対バンのひとの曲とかも、真剣に聴いたわけじゃないし。でもま、クソみたいなんやけど。でも心底嫌いかって言われたら、まあそんなことないなって思うんですけど。でもなんか、そいつが解決せなあかん問題がそこに含まれすぎてて、そんなん聴くわけないやんっていう。
(一同笑)
奇妙:でもサンデー(カミデ)の曲はそういうのが一切なくて。僕がどこ行ったときでも、全身全霊で歌った後も、その曲をやってくれて。これは自分にとって悔しいことなんですけど、ひととしての凄さがあるなって。自分でもわかりますし。
■なるほど。僕はもういいオッサンで、中学校のときにパンクがやって来た世代なんですよね。ちょうど中1のときにセックス・ピストルズがデビュー・アルバムを出したばかりの頃で。
奇妙:いちばん羨ましいけどな。
■ちょうどその頃RCサクセションっていうバンドも日本で人気が出てきたんですよね。で、僕はそのときRCサクセションっていうのは、みんなすでに年取ってるしね、パンクの真似してるけど全然パンクじゃないし、「こんなの誰が聴くかよ」みたいな感じでいたんですよ。でも友だちがすごく好きで、静岡に来たときに「一緒に行くやついないから一緒に行こうよ」って無理矢理誘われて。
奇妙:(笑)めっちゃ羨ましいけど!
■それで行ったんですよ。で、そのときに彼らの歌う"ラプソディー"とかにむちゃむちゃ感動して。生まれて初めてヴ・ソングというものが好きなれたことをいまでもよく覚えています。
奇妙:それがたぶん、人生でいちばん贅沢なことですよね。
■まあある意味ではね。
奇妙:絶対そうですよ。もうそれ以上のことないんちゃうかと思うぐらい贅沢な。
■いやいや、でもそれを目指してるでしょ? やっぱみんなも。
奇妙:わかんないですけどね。
■でもそのときは童貞だったし、色恋なんてわからないわけじゃない。でも彼らが歌うラヴ・ソングの世界に引き込まれて。パンクにはそういうのはなかったから。
奇妙:ふふ、すごいね。
まいこ:すごいね。
(一同笑)
■ラヴ・ソングっていうものを取り戻そうとしてるでしょ? ポップスの中心の歌として。
奇妙:実は、してます。
全員:ははははははは!
■そういう歌詞を書くときっていうのはどうなんですか?
奇妙:歌詞とか書かないですか、逆に?
■あ、僕!? 歌詞?
奇妙:絶対書いたらいいのにと思う。書いてほしいもんね。
■急に振らないでください(笑)。歌詞は実体験なんですか、それともフィクションとして書きます?
奇妙:僕は基本的に完全フィクションです。まあそうなっちゃうかな、みたいな。内容自体にどうでもいいと思ってるとこがありますね。ま、フィクションというか、そのときに腹立ったこととかもたぶん入ってるとは思うんですけども。それが伝わるようには書いてないですね、全然。自分しかわからないと思います、たぶん。
■ラヴ・ソングもフィクション?
奇妙:ラヴ・ソングはノンフィクション......いや、フィクションですね。
■いや、ノンフィクションでしょう。安田さんがたぶんいちばんわかってる(笑)。
奇妙:安田くんは知らないですよ(笑)。
安田:ははははは(笑)。
奇妙:あんまりないですね、別に。そういう歌詞が好きなんですよね。「誰かのことが忘れられへん」とか、だいたいそういう歌詞じゃないですか。ああいうのを聴いてたら、別に悲しいことなかったのに悲しいことあったみたいな気してくるし。でもそれでいいんや、と。山ですれ違ったら「こんにちは」って言う、みたいな。
安田:山にポテトチップスを運ぶひとやろ。
まいこ:そんな仕事あるんや?
取材:野田 努(2012年7月13日)