Home > Interviews > interview with Richard H. Kirk (Cabaret Voltaire) - ノイズ・インダストリアルの巨匠、3枚同時再発!
僕は本当に、イラク戦争や大切な古代遺跡の破壊には反対していた。目的もなしに、それも誤った情報のもとに行われたんだよね。結局大量破壊兵器なんて見つからなかったし、イラクはいまや以前よりもっと危険なところになってしまった。
■『コード』(87)で初めて外部からプロデューサーを入れたのはなぜですか? あまり必要だったとは思えないのですが。『マイクロフォニーズ』(84)から『コード』まではファンクとインダストリアルのどちらに比重を置くかで延々と葛藤が続いていたようにも思えたので、その結論をエイドリアン・シャーウッドに委ねたとか、そういうことでしょうか。
RHK:『コード』に関しては、実はエイドリアンが参加する前にほとんどの形は出来上がってたいた。EMI/パーロフォンとの契約後、自分らのスタジオを24ch仕様にアップグレードし、そして、プロデューサーの起用も決めた。ポップスのフィールドではない人間を起用したかった。
エイドリアンは一緒にやるにはとてもよいプロデューサーだった。ダブやレゲエにも相当詳しかったから、参加すると面白くなるかなと思ったんだ。彼はシェフィールドに来てくれて、僕らと一緒に作業をしたあと、ロンドンのスタジオでミックスした。すごくいいサウンドのアルバムに仕上がっているよ。僕らのアルバムではいちばん売れたんじゃないかな。ちなみに僕らがEMIと契約した当時、EMIは世界で10番目に大きな武器製造会社でもあった。冷戦が解けて黙示録を迎えたら、我々は兵器類を安く買えるかもなどと言い合ったものだよ。
■シェフィールドから出てきたフラ(Hula)やチャック(Chakk)はキャバレー・ヴォルテールが育てた後輩ということになるんでしょうか。レコード制作ではマーク・ブライドンやマーク・ギャンブルがイギリスではハウス・ムーヴメントを先導したように見えるので、どういう関係だったのか気になります。
RHK:キャバレー・ヴォルテールは本当にたくさんのフォロワーを生んだよね、シェフィールドのなかだけじゃなく。チャックは僕らのスタジオで「アウト・オブ・ザ・フレッシュ」を録音し、それを僕らのレーベル、〈ダブルヴィジョン〉からりリースした。この作品がチャックをMCAのレーベル契約へと導いたんだ。それにフォン・スタジオ(Fon Studios)も誕生し、そこからいくつかの初期UKハウスが生まれた場所として知られることになった。その後、マーク・ブライドンやロブ・ゴードン(Fon Force)と『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』(90)で何曲かトラックを一緒にやったし、ロブ・ゴードンともゼノン名義で一緒にレコードを作った。
■サンプリング・ミュージックは現代のダダイズムだと思いますか? それともまったく別物?
RHK:サンプリング・ミュージックは、とくにヒップホップはカットアップ・テクニックのほうに繋がってると思うよ。ダダイズムというよりはむしろね。
■『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』で決定的に変わったのはベース・サウンドでしたが、それがハウス・ミュージックから学んだいちばん大きな影響ということになりますか? 曲によってはかなりファンキーで、テン・シティまで参加しているし、キャブスだと思えなかった人も多かったと思います。『ボディ・アンド・ソウル』(91)や『カラーズ』(91)では同じハウスでもストイックな曲調に戻っているので、あれはやはり一時の気の迷いということなのか。
RHK:『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』は、僕にとってキャバレー・ヴォルテールのアルバムのなかではお気に入りにはならなかったね。ホントに多くが外部からの影響でキャブスのサウンドが薄まってしまった。しかしながらマーシャル・ジェファーソンや当時のシカゴのハウス・ミュージックのパイオニアたちと一緒に出来たのは素晴らしい経験だった。アルバムと一緒に出した5曲入りのいい感じのアナログEPもあったよね。それらはウエスタン・ワークスでミックスされたから、キャバレー・ヴォルテールらしさが出てると思う(*アナログ初回のみに入っていた『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティEP』のこと)。
■ちなみにレイヴ・カルチャーのことはどのように受け止めていたのでしょう。
RHK:レイヴ・カルチャーはその初期は面白かったけど、すぐに商業的になってしまったよね。
■また、『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』(90)までキャブスがフォン・スタジオを使わなかったことや、〈ワープ〉から別名義でのリリースはあってもキャブス名義のアルバムをリリースしていないことも不思議に思います。『プラスティシティ』(92)や『インターナショナル・ランゲージ』(93)は〈ワープ〉のカラーにもピッタリ合っていたと思うのですが。
RHK:実はちょっとだけ『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』のときにフォン・スタジオを使ってるんだよね。「ザ・カラーEP」は当初〈ワープ〉からリリースの予定だったんだけど、結局自分らのレーベルからリリースすることになって、『プラスティシティ』や『インターナショナル・ランゲージ』も同様だった。これらのアルバムは当時からホントすごいアルバムだったし、その時代にたくさん出てた〈ワープ〉の作品とも相性が良かったと思うよ。
■DJパロットとのスウィート・エクスソシストはどのようないきさつではじめたのですか?
RHK:パロットのことは、80年代半ばのシェフィールドのクラブシーンで知ったんだ。ウエスタン・ワークスに彼を誘って、僕がやっていた初期ハウス・ミュージックのトラックをいくつか手伝ってもらってたんだよね。そのちょっと後、彼がファンキー・ワームをはじめて、そのプロジェクトを終えてから、僕に「テストーン」を一緒に作らないかと誘ってきたんだ。その前、1986年に僕がキャバレー・ヴォルテールのライヴで彼にDJをやってくれるように頼んでたりもしたし。
■「ヤッシャー」(83)や「ジャスト・ファッシネイション」を20年後にリミックスしているのは、やはり愛着がある曲だったからですか? リミックスがジ・オール・シーイング・アイ(=DJパロット)というのはわかりますけど、オルター・イーゴにリミックスさせるというアイディアはどこから? ジョン・ロビー同様、オルター・イーゴもあまりいいリミックスには思えませんでしたが……
RHK:オルター・イーゴのリミックスは〈ノヴァミュート〉からの提案だったんだ。僕はいいと思うけどね、(オリジナルとは)全く違うものだし。
■同じく自分でリミックスを手掛けていた「Man From Basra Rmx」というのはイラク戦争と何か関係があるんですか?
RHK:それはその通り。それにこの曲はプリンス・アラーとタッパ・ズッキー(*ともにルーツ・レゲエのアーティスト)による「Man From Bosrah」にも掛けてたんだ。僕は本当に、イラク戦争や大切な古代遺跡の破壊には反対していた。目的もなしに、それも誤った情報のもとに行われたんだよね。結局大量破壊兵器なんて見つからなかったし、イラクはいまや以前よりもっと危険なところになってしまった。
■キャブスのスリーヴのデザイナーは、ネヴィル・ブロディ、ポール・ホワイト、デザイナー・リパブリックと一流どころが揃っていますけど、個人的にいちばん好きなデザイン・ワークはどれですか?
RHK:とくに好きなものはないね。しかし『#8385』(*今回、再発された3枚のアルバムを収録したボックス・セット)の新しいデザインはなかなかいいんじゃないかな。
■いま、現在、ライヴァルだと思うミュージシャンは誰ですか?
RHK:ライヴァルはいないよ。
■キャブスの活動停止後、30以上の名義を使って活動されていますが、その理由について教えて下さい。
RHK:過去にとらわれることなくオリジナルな音楽を作って行くためにやったことさ。
■最後に、キャブスの再活動についてお話いただけますか?
RHK:キャバレー・ヴォルテールは“再活動”はできない。何故なら、いままでいちども活動をやめたわけではないからだ。つまり、メンバーが去って行っただけさ。クリス・ワトソンが1981年に脱退し、ステフェン・マリンダーが1993に脱退した。いまでは僕がただひとりのメンバーで、もっと多くのライヴやレコーディングもこれからやっていくと思うけど、懐かしい曲はやらないつもり。すべては新しいものになると思う。
是非日本でもまたライヴしたいね。1982年の東京、大阪、京都でのキャバレー・ヴォルテールのライヴはすごくいい想い出でいっぱいで、それにライヴ音源を収録したんだ。結局そのライヴ・アルバムのミックスでその後3週間も東京にいることになったけど(笑)。
*日本でのライヴを収録した『ハ!』はマスター紛失のため、91年にミュートから再発されたものは、いわゆるアナログ起こしだったりする。ちなみにツバキハウスでライヴを終えたキャブスはその後、六本木のクライマックスに現れ、ナンパしまくりだったと(その時、DJをやっていた)メジャー・フォースの工藤さんが教えてくれた。そりゃあ、いい想い出でいっぱ……(後略)
Cabaret Voltaire The Crackdown MUTE / TRAFFIC |
Cabaret Voltaire The Covenant, The Sword and the Arm of the Lord MUTE / TRAFFIC |
取材・文:三田格(2013年11月11日)
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