Home > Interviews > interview with Wataru Sawabe and Yusuke Satoh - いい大人と若者たちが捧げるカーネーション
本人もわからないくらいミツメの“Young Wise Men”のアレンジが変わっていて、それがすごい僕はおもしろかった。ある意味では、誰の思惑のなかにもなかったものができあがったんだという気がいして僕はよかったと思いました。(澤部渡)
■漠然とした話になりますけど、おふたりは日本の音楽史でカーネーションをどういうふうに位置づけています?
澤部:なんなんだろうな、とよく考えるんですけど、そのときそのときにいいレコードを残してきたバンドなんだなということになりますよね。屈強というか。メンバーが抜けても、そのときそのときにつねにいいものを残している、それはすごく恰好いいと思います。でも続けているバンドってそこが恰好いいんだよね。
■30年続けるというのは。
澤部:ねえ。
■おふたりは30年、音楽をつづけていくことを想像できますか?
澤部:僕は30年やりたいとは思うんですけどね。たいへんだと思います。どうなるんでしょう。不安になってきた(笑)。
■将来の不安はここでは置いておきましょう(笑)。
澤部:一度こうやってトリビュートで縁ができてしまったので、大先輩という感じになってしまいましたね。それまではただのファンでしたけど。……難しいですね。何いっても正解じゃない気がします。どう思います(と佐藤氏に)。
佐藤:単純に知られなさ過ぎているな、とは感じていたんです。こんなにいい曲をつくっているひとたちが知られていないのはすごくもったいないことだと思っていたし、知らないひとにとって「30周年」とかいわれると――
澤部:重いよね。
佐藤:重いし、若いひとたちに近寄りがたい存在になっちゃっている。それを危惧していたんです。でも最新作を聴いてもらえればわかりますけどいまでもすごくフレッシュじゃないですか。そんなバンドが知られていないのはすごくもったいないことだと思っていたんで。
■枯れていない感じはありますよね。
佐藤:そうですね。演奏も勢いがすごい。
澤部:“ジェイソン”でいまだにあんなにバリバリにギター・ソロを弾くひとはいないよ。
佐藤:ぜんぜん「ベテラン」っていうイヤな重みがないですよね。フットワークは軽いし。
■キャリアにものをいわせることはないですからね。
佐藤:それで敬遠されるようなことがあったら非常にもったない。だから今回若いひとたち、おもしろいことをできるひとたちに頼めたのはよかったと思います。
■30年、40年となると。
佐藤:知らないひとにとっては、関係ないところにいると思っているんじゃないですか。30年というのはそれぐらいの距離になってしまいかねない。
■それだけの作品数があるともいえるわけですからもっと端的に教えてくれよ、という気持ちは入門者にはあるかもしれないですね。
佐藤:だからカーネーションのファンよりも、僕はもっと広く知られてほしいと思ったので、ファンからしたら、もっと仲のいいベテランのひとがいるじゃないかという指摘もあるでしょうし、そのひとたちにやってもらってもすばらしいものになったと思うんですが、いま僕らが企画できることでいちばん広がりがある人選であり企画だったと思います。
■身内感がですぎると広がりがかぎられる可能性はありますね。
佐藤:身内だけで聴いちゃうことになってしまいますから。もっと広く知られてほしいという気持ちがありました。
澤部:『Wild Fantasy』のころカーネーションが謳っていた「大人の聴けるロック」というキャッチコピーには頭をかしげたことはあったんですね。大人に向けてアピールするより若い世代にとっても純粋にいいじゃないですか。
■佐藤さんがおっしゃった、瑞々しい感性がカーネーションの真骨頂なのだとしたら、それは逆のベクトルだったかもしれないですね。というか、カメマンもスカートも大人に受けのいいミュージシャンだという気もしますが。
澤部:そういわれるとそうかも(笑)。
佐藤:そうなの!?
澤部:僕は若者に聴かれている実感がないよ。この前昔の雑誌の記事に「高校生のムーンラーダーズファンが」というフレーズがあって、そうかムーンラーダーズにも高校生のファンがいたのか、と思いました。
■いつの話?
澤部:80年代です。それを読んでドンヨリした気分になりました。
■スカートには若いファン多いと思いますけどね。
澤部:いるんですかね(笑)。カメマンのほうが若いファンが多いでしょ。
佐藤:全然いないですよ。オッサンばっかりですよ(笑)。
■目の前をオッサンが埋めつくしているんですか?
佐藤:前にはいないです。壁際に。でも嬉しいんですよ。
■カーネーションはもとより、スカートもカメラ=万年筆も老若男女に聴かれるべき音楽だと思うんですけどね。
澤部:ほんとうにそうですよね。
■ここ最近、澤部くんたちの影響かはわからないですが、音楽そのものに力を入れている若いミュージシャンが増えた気がします。ここに入っているひとたちは比較的その系譜に置かれるひとたちかなという気がします。
澤部:そうですね。
じっさいはパッとやったもののほうがうまくいったりすることも多いんでしょうけど、さすがに今回は悩みました。(佐藤優介)
■ところで直枝さんたちにはいつの時点で作品を聴かせたんですか。
澤部:マスタリングが終わって、スタジオに来てもらったんですよ。トラックシートを見ないで聴いていて、1曲めが終わって次はミツメなんですが、曲がはじまってしばらくして歌がはじまって、直枝さんが「なんだっけこれ?」っていうんですよ。「ミツメです」っていったら、「いやそうじゃない。この曲なんだっけ?」って。本人もわからないくらいミツメの“Young Wise Men”のアレンジが変わっていて、それがすごい僕はおもしろかった。ある意味では、誰の思惑のなかにもなかったものができあがったんだという気がして僕はよかったと思いました。
■矢部さんや鳥羽修さんが参加しているのはどういういきさつですか?
澤部:僕は最初、“オフィーリア”をやろうとしていたんだけど、リストを見て、矢部さんの曲が入っていないから、「矢部さんの曲を、俺やりますよ」となった時点で、スタッフさんから矢部さんに参加してもらおう、と提案があってその人が連絡してくれたら即快諾していただいたんです。で、さらにその人のアイディアでうどん兄弟とカメ万のコラボには鳥羽さんに参加してもらったんです。発起人の曲にひとりずつ脱退したメンバーが参加するかたちになったんですよ。
■なるほど。でもカメマンは2曲やっているんだから。
澤部:“トロッコ”はマスタリング当日まで作業していましたから、誰かに参加してもらうのはムリでしたね。
■なぜそれほど時間がかかったんですか?
佐藤:ずっと試しちゃうんですよ。まとめるのはずっと後になってからで……
■でも考えてはいるんですよね。
佐藤:迷っているのが好きなんです。終わるのが好きじゃないんです。ずっとやっていたいんですけど、そうはいかないんですね。
■ひとの曲をカヴァーするのでも幾通りも方法論を模索するんですか?
佐藤:はい。じっさいはパッとやったもののほうがうまくいったりすることも多いんでしょうけど、さすがに今回は悩みました。
取材:松村正人(2014年1月04日)