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interview with NRQ

interview with NRQ

異端の演奏者たち

──NRQ、リレー・インタヴュー 1

松村正人    Jan 22,2015 UP

僕は何にも飽きてはいないし失望もしていないんですね。何かに対してこれはダメだとも思わないですね。


NRQ - ワズ ヒア
Pヴァイン

RockJazz

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“門番のあらまし”のラテン調は新機軸だと思うけど、このアレンジに挑戦した理由はなんですか?

牧野:単純に安い3桁レコードばかり買っていると『ラテン・ベスト・ヒッツ』ばかりになってしまうんですよ。安くて曲がいっぱい入っているのはたいていペレス・プラードとかになっちゃうから(笑)。

だからってやんなくてもいいじゃない。

牧野:けどやっぱりいま現在揃っているものでしかインプットってできないじゃないですか。それにラテンはエレクトリック・ギターを弾く人には命題みたいなところはありますよ。ってありませんか?

ある人にはあるだろうね。

牧野:でもみんな一回は向き合わざるをえないというか向き合ったほうがおもしろいかなぁ、と。エレキが映える音楽だし。とはいえぜんぜんできていないですが。

エレキギターといわないまでもギター奏者として、NRQの3作およびほかでの活動もふくめて、個人的にどのような立ち位置にいると思いますか?

牧野:それはネガティヴな言葉でしか言い表せないですね。

なぜネガティヴ?

牧野:自分のことは客観的にはなれません。かといって主観的に考えてもネガティヴになりますね。だって圧倒的に足りないですもん。

理想が大きすぎるんじゃないの?

牧野:いや、どうでしょうね。わかんないですけど……、けどそれを埋める時間もない。リニアな努力でなんとかなる期間はとっくに終わってしまったので、あとはいわばそのときそのときの打率を上げるしかない。一般的にギタリストの方々がどのようにしているかまったくわからないんですけど、個人的には僕はそう思ってます。だからホールトーン・スケールを毎日練習するとかは止めてベンドの練習をがんばるとか(笑)。

技術への価値の置きどころがちがうということだよね。しかし技術を否定するわけでもない。

牧野:僕は何にも飽きてはいないし失望もしていないんですね。何かに対してこれはダメだとも思わないですね。

対抗意識のようなものもない?

牧野:いやそれはあるんですよ、既存のものに対してのカウンターのつもりではあります。それは強烈にあります。すでにあるものをもう一度やることには意味を見出せない。細かい話になりますけど“sui”とかはギター奏法的にいえば誰もやっていないことをやっている気がするんです。1度とオクターブ上の2度を5度とずっと同時に鳴らしているとかね。そんなことをやっているのはウルマーか僕かってくらいですよ(笑)。

既存のものに対してのカウンターのつもりではあります。1度とオクターブ上の2度を5度とずっと同時に鳴らしているとかね。そんなことをやっているのはウルマーか僕かってくらいですよ(笑)。

ずいぶんニッチかつハーモロディックな選択肢だね(笑)。

牧野:どうしてもナッティ・トークになっちゃいますね(笑)。

ジャン=ポール・ブレリーはどうなの?

牧野:大好きです(笑)。でもブレリーはなんでいま話題にならないんでしょうね?

冷静に考えてなると思うかい?

牧野:(笑)

この世の中じゃウルマーと同じようにならないですよ。

牧野:あー。

私はウルマーもブレリーも、好きなんだけどね。

牧野:松村さんが来日公演観たとき、ピッチが危うかったんですよね。

たぶん私のジャズベと同じでペグまわりの調子が悪かったんじゃないかな。

牧野:でもそれは基本的な姿勢が間違っていますね。使っている楽器のコンディションはつねに把握しておかないと(笑)。

ブラックとロックのあのブレンドの仕方は特異だと思うけど、牧野くんのギターの特異さもブレンドの妙みたいなところはあるね。

牧野:そうかもしれないですね。

でもそれがウルマーやブレリーを思わせるならやらないということでしょ?

牧野:すでにあるものを想起させるかたちでもう一回いま現在の規模や技術で何かをやることに僕は興味が湧かないんです。われわれは他には絶対にない、もっといえば過去も現在もわれわれみたいなバンドはじつは絶対にいない、という自負だけはあって、それをそうはっきりと言える勇気は吉田くんが与えつづけてくれているんです。ああいうふうに二胡を演奏する人はいないから。吉田くんが楽器の引力もあって大陸的に引っ張られそうなときは曲でそれを回避するとか、“門番のあらまし”とかもEQでフィドルのように音色を変えたんだけど、僕はそこはすごく気にしている。響きがエキゾチックに、あるいは大陸的になりそうだったら曲自体を取り下げる、とか。吉田さん自身もチューニングを下げているそうです。だから吉田さんみたいな人は吉田さんしかいないし、それがいわば勇気になってるんですね。それは絶対にいえるな。他にマジでありそうでマジでない。それは『ワズヒア』を何回か聴いてあらためて思いました。

われわれは他には絶対にない、もっといえば過去も現在もわれわれみたいなバンドはじつは絶対にいない、という自負だけはあって、それをそうはっきりと言える勇気は吉田くんが与えつづけてくれているんです。

NRQの人間関係は良好なの? 他のメンバーには言わないから教えてよ。

牧野:(笑)。いや、人間関係というほどの関係がじつはないんです。演奏する上での関係はもちろんありますが。

今日はバンドの忘年会だよね。

牧野:今日は特別です。一年のうち一日だけ。飲みに行ったりすることもないんですよ。折り入ってしゃべることもないだろうし……。いや、べつにネガティヴな意味でいってるんじゃないですよ(笑)。

わかるよ(笑)。

牧野: NRQはいわば、男性特有のホモソーシャルな蜜月期間=バンドが、終わった後にはじまったバンドなんです。男性のホモソーシャルな蜜月期間とロック・バンドは並行して進んでいって、それが花開くときにバンドも成功してその終焉とともに失墜していくじゃないですか。われわれはその期間が終わった後にはじまっているんです。失敗からはじまっている。

それは成熟なのかね?

牧野:わかんない……ですけど、関係としてはいっしょに演奏するという関係しかない。

資料のプロフィールには「今後もこの四人」と書いていますね。

牧野:プロフィールは僕が書いたんだけど、それは「誰かがそのうち死ぬだろうな」ということなんです。牧野、吉田、服部が死んで、ピクサーの『ウォーリー』みたいに全部が朽ち果てた世界で中尾さんだけが生きている、その可能性だって、というかその可能性がいちばんでかい気もするんですけど(笑)、つまりそれは誰かがいつか死ぬという意味なんです。バンドとしての絆や今後のバッファがあるという話ではなくて、単なる生き死にの話なんですよ(笑)。

終わった未来から現在をふりかえる視点、そういったものがNRQはタイトルのつけかたにはあるじゃない? 今回の『ワズ ヒア』だってそうだよね。

牧野:タイトルはやっぱり東日本大震災と原発事故……のその後なんです、またこういうこといっちゃったけど……。いま現在僕らは「あのときあの場にいたよね」とのちのちの未来にいえてしまうような現実を生きていると思うんです。どういうことかというと、実際に現場で活動している人たちを僕は尊敬しているということを前提としたうえで、しかし活動というのはものすごく難しくて、一回一回達成感を得たり、目標を立ててはいけないものなのかもな、とも最近は思っていて。失望することがあまりに多くて長続きしないこともあるじゃないですか。政治活動をするうえで何がもっとも重要かといえば、諦めない、ということと、いちいち絶望しないこと。それに、居つづける、ということと、忘れないこと。そのように最近は思っています。今回のタイトルはいってみれば“見張り塔からずっと”ということなんですよ。
 けどここでたとえば、NRQのサードできました! 『見張り塔からずっと』です! だと死ぬほどクソサブいし一枚も売れないだろうし、というかもうPOS登録の時点ではじかれるかもしれないし(笑)。それと有名なアラン・ムーアのコミック『ウォッチメン』に「誰が見張りを見張るのか」というテーマがあって、ヒーローがいて、でもヒーローが暴走したら誰がそれを止めるんだという、それもちょっと頭にあった。最初は吉田くんの曲にちょうど“門番”というのがあったのでそれをアルバムのタイトルにしようかとも思ったんですが、ある一定の既得権益がある領域やテリトリーを守るのが「門番」だから、それだと個人的には僕が思うのとはちょっと違う。

いま現在僕らは「あのときあの場にいたよね」とのちのちの未来にいえてしまうような現実を生きていると思うんです。

門には外があるからね。

牧野:その場合、僕らは外にいることになる。それと、着想の元がもう一個あって、それは米軍が戦争中にいろいろな場所に描いていた「キルロイ・ワズ・ヒア(Kilroy was here)」という落書き。キルロイは特定の誰かを指しているのではなく、匿名の似顔絵とともにその文句を、米軍はベトナムの壁とか原爆ドームとかに描き残している。ともかくも、あのとき僕もその場にいたと後々の未来にいえてしまうような状況にいま現在我々はいる、ということと、とはいえいちいち絶望しないで居つづけなきゃ、ということ。大袈裟な喩えをするとケネディが撃たれたときに僕もテレビで観ていたよ、というのと同じようなことだと思うんです。「あのときあの場にいたよね。原発が爆発したときPCの前でYoutubeで見てたよね」とか「秘密情報保護法が施行したときに◯歳だったよね~」とか「安倍政権が解散総選挙で延命したその日に◯◯したよね~」とかそういう状況。それでこのタイトルをつけたんです。あぁまたこういうこといっちゃた……。売れなくなる……。
 とにかく言葉は悪いけど、一回一回うまくいったとかいかなかったとか、一人ひとりが集まれば大きな力になるとか、向こうも使っているような感情の揺り動かし方をこっちは使わない、ということが大事だと思うんです。僕は地震があって原発が爆発したとき、これでファンタジーは終わったと思った。少なからずみなさんそう考えたと思うんです。これで幻想の出る幕はなくなり物語が有効じゃなくなる、なぜなら現実のほうが物語よりすごいことになっているから。なんだけど、それからおのおのが選択をはじめていて、たとえばある人は、どうせ風呂敷を広げるならより大きな風呂敷を広げる、それでよりいままでとはちがった意味での何か強いものを示そうとしている。それはその人たちにしかできない選択だと思うんです。その一方で物語をまったく破棄する人もいる。僕はどちらかといえば後者だった。政治的な活動を考えると、たとえリベラルな立場であっても使っている物語の力学がなにかしら劇的なものになっていることがある。その引力に、僕は引っ張られたくないんです。それが悪いといっているわけじゃないですよ。僕が思っているのとはちがう、ということなんです。その場にいて、傍観しているわけではもちろんなく、けれど達成感は必要ない。そうしないといざというときに頓挫する気がするんです。いれるかぎりは居つづけないと。

しんどい選択ともいえるね。

牧野:ですかね(笑)。アガるポイントがあんまりないですものね。

まわりの人たち、NRQと対バンする人たちの現状や変化について、いいたいことはないだろうし、いうべきでもないだろうけど、あえてなにか感じるとしたら何だろう?

牧野:対バンでいっしょに演奏している人たちはおのおの身を捧げていると思います。いまそう口に出しちゃって自分でもかなり気持ち悪いな、と思っているのですけれど。ともかくも必死こいてやってます! 以上!

取材:松村正人(2015年1月22日)

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