「Lea Lea」と一致するもの

KRM & KMRU - ele-king

 ザ・バグ名義で知られるケヴィン・リチャード・マーティン(KRM)と、ケニア出身ベルリン拠点のアンビエント作家、〈Editions Mego〉からの作品で注目を集めたジョセフ・カマル(KMRU)とのコラボレイションが実現することになった。アルバム『Disconnect』はブライトンの〈Phantom Limb〉より6月14日にリリース。その後にはおなじセッションから生まれたEP「Otherness」も予定されているとのこと。興味深い組み合わせに注目です。

artist: KRM & KMRU
title: Disconnect
label: Phantom Limb
release: 14th June 2024
tracklist:

01. Differences
02. Arkives
03. Difference
04. Ark
05. Differ
06. Arcs

Tashi Wada - ele-king

 フルクサスとも関わった作曲家ヨシ・ワダの息子にして、ジュリア・ホルターのコラボレイターでもあるLAのタシ・ワダ。自身のレーベル〈Saltern〉や〈RVNG Intl.〉などで実験的な試みをつづけてきた彼のニュー・アルバムが6月7日にリリースされる。題して『What Is Not Strange?』、父の死から娘の誕生までの期間に制作された作品だという。現在、ジュリア・ホルターを迎えた新曲が先行公開中だが、いやこれはアルバムも大いに期待できそうです。収益の一部は国境なき医師団に寄付されるとのこと。

Tashi Wadaのニュー・アルバム『What Is Not Strange?』がRVNG Intl.から6/7にリリース決定。
Julia Holterをフィーチャーした新曲「Grand Trine」をリリース&Dicky Bahtoが手がけたMV公開。

フルクサスの中心人物でもあった故Yoshi Wada氏のご子息でもあるロサンゼルスを拠点とするコンポーザーTashi Wadaのニュー・アルバム『What Is Not Strange?』がRVNG Intl.から6月7日にリリース決定。
先行ファースト・シングルとして長年のコラボレーターでありパートナーでもあるJulia Holter(昨年12月には共に来日)をフィーチャーした「Grand Trine」をリリース。
この曲は当時生まれたばかりだったTashi WadaとJulia Holterの娘の星図に存在する、正三角形を形成する惑星の占星術的な配置にその名前が由来している。Tashi Wadaのきらめくリチューンされたハープシコード・サウンドが、Julia Holterの伸びやかなヴォーカル、Ezra BuchlaとDevin Hoffの流線形のストリングス、Corey Fogelのラウンチングでパワフルなドラムによって高められていく。まるで惑星間の宮廷音楽のようであり、生命のサイクルに対する野心的な賛歌である。

合わせてTashiとJuliaの長年のコラボレーターであるDicky Bahtoが手がけた印象派的な同曲のミュージック・ビデオも公開されました。

Tashi Wada new single “Grand Trine” out now

Artist: Tashi Wada
Title: Grand Trine
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Format: Digital Single
Listen/Buy: https://orcd.co/glwqb41

Tashi Wada – Grand Trine [Official Video]
YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=fIbkbwliaOU

Directed by Dicky Bahto

Tashi Wada new album “What Is Not Strange?” out on June 7

Artist: Tashi Wada
Title: What Is Not Strange?
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-216
Format: CD / Digital

※解説付き予定

Release Date: 2024.06.07
Price (CD): 2,200 yen + tax

“ドリーム・ミュージック” ロサンゼルスを拠点に活動する作曲家Tashi Wadaのニュー・アルバムであり、これまでで最も遠大で情熱的な音楽で構成されている作品が完成。父親Yoshi Wadaの死から娘の誕生までを含む期間にわたって書かれ、録音されたこのアルバムでは、ワダが新しい様式の恍惚とした歌をベースにした新しい表現方法を通して、「生きていること」、「死」、「自分の居場所を見つけること」といった広範な物語を探求するため、内面を見つめ直した作品となっている。濃密なフォルム、峻烈なコントラスト、明白な超現実性は、最小限の手段で知覚的効果を引き出した彼の初期の作品とは異なる重みを持っているかもしれないが、『What Is Not Strange?’』の核心は依然として実験と予期せぬ結果にある。

ワダは『What Is Not Strange?』をドリーム・ミュージックと呼び、”特定するのが難しい感情状態”と”瞬間から瞬間への変容”を宿している。自己の体験的知識によって生得的な真理を探求することは、ワダがアメリカのシュルレアリスムの詩人フィリップ・ラマンティアの著作に没頭していたことに影響されている。アルバムのタイトルをラマンティアの詩から取ったことに加え、彼は、私たちはまさに同じ世界の反映であるため、世界の秘密は私たちの中にあるという先見の明のある詩人の信念に触発された。しかし、このアルバムの基本的な前提は、そこに「そこ」は存在しないという感覚である。足元の地面さえ不確かなのだ。この内面性があるように見える『What Is Not Strange?』の理念と音楽は安易なカテゴライズを拒み、過去、現在、未来のビジョンのように展開する。

ミニマリズム音楽と、父Yoshi Wadaが中心人物であったフルクサス芸術運動の不朽の遺産を肌で感じながら育ったワダは、父の偉大な貢献によるインサイダーとして、また2人の移民の息子として、アジア系アメリカ人としてのアウトサイダーとして、アカデミーと90年代以降のアメリカのアンダーグラウンドを渡り歩いてきた。本作で彼は、この系譜を再文脈化し、推定される信条を無視し、より大きく、より複雑なアレンジメントで最大主義的アプローチを主張する。

既知の量の不安定性は、「What Is Not Strange?」の方法論に反映されている。ワダはキーボード演奏を自由にするために独自のパラメータを設定し、フランスの作曲家で音楽理論家のJean-Philippe Rameauが提案した18世紀初頭の音律に基づいたシステムにProphetとOberheimのシンセをチューニングした。「そこから、耳と感触で音楽を浮かび上がらせました」と振り返り、「チューニングの不規則なハーモニーと重なり合うキーボードの馴染みのある感触とその引きが私の演奏を導き、最終的にアルバムのサウンドとハーモニーの世界を形作りました。」と語っている。
『What Is Not Strange?』の参加メンバーは、実験音楽、ポップス、ジャズ、エレクトロニック・ミュージックなど、様々な分野のロサンゼルスのミュージシャンからなる結束の固いコミュニティから集められている。長年のコラボレーターでありパートナーでもあるJulia Holterは、彼女の特徴である高らかなヴォーカルでワダの作曲を高めている。パーカッショニストのCorey Fogelは 、パワフルでありながら繊細なオーケストラ・プレイでアルバム全体に貢献し、ヴィオラ奏者のEzra BuchlaとベーシストのDevin Hoffは 、拡散する弦楽器のテクスチャーとメロディックなインタープレイを提供している。このアルバムは、Chris Cohenが南カリフォルニアの様々なスタジオで録音し、Stephan Mathieuがミキシングとマスタリングを担当した。「この音楽はかなり直感的に書かれたもので、近年、家族や友人とライブ・グループを結成し、ツアーを数多くこなしてきたことに起因しています」とワダは言う。

オープニングのタイトル・トラックでは、立ち上がるシンセのパルスが、不穏でありながら吉兆なムードを醸し出し、バンドをフォーメイションへと誘う。アルバムの目玉である「Grand Trine」は、これまでの作品の中で最も輝かしい音楽である。ワダの重厚なハープシコードとJulia Holterの紛れもない声が組み合わさり、惑星間の宮廷音楽のように感じられる。タイトルは、ワダとホルターの娘の星座図にある正三角形を形成する3つの惑星の配置にちなんでいる。バンドは「Flame of Perfect Form」で原始的なサイケデリアへと融合し、トリオ編成の「Subaru」では、フォークと日本のシンセ・ポップが楽観的にブレンドされ、星に手を伸ばす。最後から2番目のトラック「Plume」では、彼のこれまでの音楽に存在していた哀愁漂うドローンが、楽しげでやんちゃなキーボード・ソロと一気に絡み合う。

ワダは『What Is Not Strange?(何がおかしくないか)』で、野性的な実験の基盤を確立し、決定的な声明を作り上げ、彼の身近な、そして拡大した音楽的ファミリーの助けを借りて、広がりのある新しい音世界を形作った。ルーツは深まり、増殖する。本作は、アーティストがコントロールを放棄し、得体の知れないものに語りかけるサウンドである。ワダが回想する:「まだ泳ぎに自信がない頃、海に入って、足の指先が地面につかなくなり、ゆっくりと浮き上がった幼い頃の記憶がある。恐怖と爽快感でいっぱいだった。底が抜けて、深いところに出て、広々とした開放感の中で、自分と、上空の空と下界の海の底知れなさを感じるんだ」。

Tashi WadaとRVNG Intl.を代表して、このリリースの収益の一部は、紛争、伝染病、災害、または医療から排除された影響を受けている人々に人道的医療支援を提供する非政府組織「国境なき医師団」に寄付されます。

TRACK LIST:

01. What Is Not Strange?
02. Grand Trine
03. Revealed Night
04. Asleep to the World
05. Flame of Perfect Form
06. Under the Earth
07. Subaru
08. Time of Birds
09. Calling
10. Plume
11. This World’s Beauty

Speed Dealer Moms - ele-king

 レッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシアンテは電子音楽好きの一面ももっていて、トリックフィンガー名義で作品を発表したりしている(インタヴューはこちら)。そんな彼とブレイクコアの代表格、ヴェネチアン・スネアズ(※英語では「ヴェニシャン・スネアズ」)ことアーロン・ファンクによるプロジェクトがスピード・ディーラー・マムズだ。
 これまで2010年と2021年に12インチを送り出している彼ら、当時はクリス・マクドナルドもメンバーだったが、今回フルシアンテとファンクのふたりによって再始動される。新作12インチ「Birth Control Pill」は〈Evar Records〉より5月10日にリリース。

artist: Speed Dealer Moms
title: Birth Control Pill
label: Evar Records
release: 10th May 2024
tracklist:
Side A - Birth Control Pill
Side B - Benakis

Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka - ele-king

 これは興味深い組み合わせだ。アンビエント/ドローン・アーティストの畠山地平と、近年多方面で活躍をみせるジャズ・ドラマー、石若駿によるコラボ・アルバム『Magnificent Little Dudes』がリリースされる。2部作だそうで、まずはその「vol.1」が5月24日にリリース。事前準備なしでおこなわれた即興演奏が収録されるという。日本先行発売。いったいどんな化学反応が起こっているのか、注目です。

Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka
Magnificent Little Dudues Vol.1
2024年5月22日(水)日本先行発売!

日本を代表するアンビエント/ドローン·ミュージック・シーンを牽引する存在となったChihei Hatakeyamaこと畠山地平が、この度ジャズ・ドラマーの石若駿とのコラボレーションを発表した。

ラジオ番組の収録で出会って以来、ライヴ活動などでステージを共にすることはあった2人だが、作品を発表するのは今回が初めて。『Magnificent Little Dudes』と名付けられた今作は、2部作となっており、2024年5月にヴォリューム1が、同夏にヴォリューム2がリリース予定となっている。

「その場、その日、季節、天気などからインスピレーションを得て演奏すること」をコンセプトに、あえて事前に準備することはせず、あくまでも即興演奏を収録。ファースト・シングル「M4」には日本人ヴォーカリストHatis Noitをゲストに迎えた。ギター・ドローンの演奏をしているとその音色が女性ヴォーカルのように聞こえる瞬間があることから、いつか女性ヴォーカルとのコラボレーションをしたいと思っていた畠山。「今回の石若駿との録音でその時が来たように感じたので、即興レコーディングの演奏中、いつもは使っている音域やスペースを空けてギターを演奏しました。ちょうどこのレコーディングの3週間くらい前に彼女のライヴ観ていたので、Hatis Noitさんの声をイメージしてギターを演奏しました」と話す。

世界を股にかけて活動する日本人アーティスト3組のコラボレーションが実現した『Magnificent Little Dudes Vol.1』は、日本国内外で話題となること間違い無いだろう。

アルバムはCD、2LP(140g)、デジタルの3フォーマットでリリースされる。

本日、収録曲の「M4」がファースト・シングルとして配信スタートした。

Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka - M4 (feat. Hatis Noit)

[トラックリスト]
(CD)
1. M0
2. M1.1
3. M1.2
4. M4 (feat. Hatis Noit)
5. M7

(LP)
Side-A
1. M0
Side-B
1. M1.1
Side-C
1. M1.2
Side-D
1. M4 (feat. Hatis Noit)
2. M7

アーティスト名:Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka(畠山地平&石若駿)
タイトル名:Magnificent Little Dudes Vol.1(マグニィフィセント・リトル・デューズ・ヴォリューム 1)
発売日:2024年5月24日(水)
レーベル:Gearbox Records
品番:CD: GB1594CD / 2LP: GB1594

※日本特別仕様盤特典:日本先行発売、帯付き予定

アルバム『Magnificent Little Dudes Vol.1』予約受付中!
https://bfan.link/magnificent-little-dudes-volume-01

シングル「M4」配信中:
https://bfan.link/m4

バイオグラフィー

[Chihei Hatakeyama / 畠山地平]
2006年に前衛音楽専門レーベルとして定評のあるアメリカの〈Kranky〉より、ファースト・アルバムをリリース。以後、オーストラリア〈Room40〉、ルクセンブルク〈Own Records〉、イギリス〈Under The Spire〉、〈hibernate〉、日本〈Home Normal〉など、国内外のレーベルから現在にいたるまで多数の作品を発表している。デジタルとアナログの機材を駆使したサウンドが構築する、美しいアンビエント・ドローン作品を特徴としており、主に海外での人気が高く、Spotifyの2017年「海外で最も再生された国内アーティスト」ではトップ10にランクインした。2021年4月、イギリス〈Gearbox Records〉からの第一弾リリースとなるアルバム『Late Spring』を発表。その後、2023年5月にはドキュメンタリー映画 『ライフ・イズ・クライミング!』の劇中音楽集もリリース。映画音楽では他にも、松村浩行監督作品『TOCHKA』の環境音を使用したCD作品『The Secret distance of TOCHKA』を発表。第86回アカデミー賞<長編ドキュメンタリー部門>にノミネートされた篠原有司男を描いたザカリー・ハインザーリング監督作品『キューティー&ボクサー』(2013年)でも楽曲が使用された。また、NHKアニメワールド:プチプチ・アニメ『エんエんニコリ』の音楽を担当している。2010年以来、世界中でツアーを精力的に行なっており、2022年には全米15箇所に及ぶUS ツアーを、2023年は2回に渡りヨーロッパ・ツアーを敢行した。2024年5月、ジャズ・ドラマーの石若駿とのコラボレーション作品『Magnificent Little Dudes Vol.1』をリリース。

[Shun Ishiwaka / 石若駿]
1992年北海道生まれ。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校打楽器専攻を経て、同大学を卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。2006年、日野皓正special quintetのメンバーとして札幌にてライヴを行なう。2012年、アニメ『坂道のアポロン』 の川渕千太郎役ドラム演奏、モーションを担当。2015年には初のリーダー作となるアルバム「Cleanup」を発表した。また同世代の仲間である小西遼、小田朋美らとCRCK/LCKSも結成。さらに2016年からは「うた」をテーマにしたプロジェクト「Songbook」も始動させている。近年はゲスト・ミュージシャンとしても評価が高く、くるりやKID FRESINOなど幅広いジャンルの作品やライヴに参加している。2019年には新たなプロジェクトAnswer To Rememberをスタートさせた。2023年公開の劇場アニメ『BLUE GIANT』では、登場人物の玉田俊二が作中で担当するドラムパートの実演奏を手がけた。2024年5月、日本を代表するアンビエント/ドローン·ミュージシャン、畠山地平とのコラボレーション作品『Magnificent Little Dudes Vol.1』をリリース。

Brian Eno, Holger Czukay & J. Peter Schwalm - ele-king

 昨夏お伝えした幻の発掘音源──ブライアン・イーノCANホルガー・シューカイ、J・ペーター・シュヴァルムによる驚きのライヴ盤『Sushi. Roti. Reibekuchen』が、5月24日に世界同時リリースされる。フォーマットはCD、LP、デジタル/ストリーミング配信の3形態。日本盤CDにはオリジナル・ブックレットの対訳つきの解説書が封入されるそうだ。限定日本語帯付LPも用意されているとのことで、これはしっかり確保しておきたい。

知られざる奇跡の邂逅
ブライアン・イーノ
ホルガー・シューカイ(CAN)
J・ペーター・シュヴァルム
貴重な発掘音源『Sushi. Roti. Reibekuchen』がまさかのCD化決定!

知られざる奇跡的邂逅が蘇る──今から遡ること四半世紀前の1998年8月27日、ブライアン・イーノ、CANのホルガー・シューカイ、J・ペーター・シュヴァルムが繰り広げたインプロヴィゼーション・ライヴがこのたび、発掘音源『Sushi. Roti. Reibekuchen』としてリリースされる運びとなった。

1990年代といえばブライアン・イーノが「歓迎されないジャズ(Unwelcome Jazz)」と呼んだ「新種の音楽」としての独自のジャズにアプローチしていた時期でもある。その成果は名称を変えて1997年のアルバム『The Drop』にまとめられることになるのだが、翌1998年に彼はまさに自身がアプローチしていたジャズに近しい音楽と運命的な出会いを果たすことになる。それがJ・ペーター・シュヴァルムによるバンド・プロジェクト、スロップ・ショップのデビュー・アルバム『Makrodelia』(1998年)だった。意気投合した両者はコラボレーションを開始し、2000年に伶楽舎とディスクを分担した2枚組『music for 陰陽師』を、2001年にはCANのホルガー・シューカイを含む多数のミュージシャンを交えた『Drawn from Life』を完成させる──のだが実はそこには前日譚があった。

イーノがシュヴァルムと知り合って間もない頃、3回目に会ったのがこのたびの発掘音源のリハーサルだそうである。そしてそこにはスロップ・ショップのベーシストであるラウル・ウォルトンおよびドラマーであるイェルン・アタイのほか、シュヴァルムが初めて対面する、カンの創設メンバーでありベーシストとしても知られるホルガー・シューカイがいた。イーノとシューカイはすでに『Cluster and Eno』(1977年)および『After The Heat』(1978年)で共同作業していたが、いずれもシューカイが参加したのは1曲のみ、かつベーシストとしての客演だった。しかし発掘音源に収められたイーノおよびシュヴァルムとのセッションでは、シューカイが「ラジオ・ペインティング」と呼ぶような、短波ラジオとテープを用いたサンプリング/コラージュを行っている。ともかく、三者が揃ってライヴを披露するのは初めてのことだった。しかもウォルトン、アタイを含む5人のメンバーが揃って演奏を行う機会はその後ついに訪れなかった。奇跡的な邂逅と言っていいだろう。

ブライアン・イーノが当時ライヴを行うこと自体も珍しかった。だがこの発掘音源の元となった「Sushi! Roti! Reibekuchen!」なるイベントはやや特殊なものだった。食べ物をタイトルに掲げているように、主役は料理人なのである。というのも、ドイツ・ボンの美術展示館で開催されたイーノによるインスタレーション展のオープニング・パーティーとして野外で行われたイベントだったのだが、字義通りパーティーであり、会場では大勢の来場者に料理人たちが食べ物を振る舞っていた。そうした中、用意されたステージでドローンが鳴り始め、そして5人のミュージシャンが即興で演奏を行った。イーノによればこのイベントにおけるパフォーマーは料理人たちであり、自分たちが作っているのはバックグラウンド・ミュージック。つまり音楽のパフォーマンスではなく、バックグラウンド・ミュージック付きの料理のパフォーマンスなのだという。イーノらしいコンセプトだと思うが、しかし、ステージで魅せる音楽は少なくない観衆の耳を釘付けにした。イーノとシュヴァルムが作り出すミニマルでアンビエント/ドローンなサウンドに、ホルガー・シューカイのサンプリング/コラージュが色を添え、そしてラウル・ウォルトンとイェルン・アタイは時に人力ドラムンベースのごとく怒涛のグルーヴを生み出していく。演奏は2セット、計3時間にもおよび、最後は警察に電源を切られて強制終了させられたという逸話さえ残っている。

発掘音源『Sushi. Roti. Reibekuchen』に収められているのは、そのような計3時間のライヴから抜粋された5つのトラックである。「料理のパフォーマンス」に付随するバックグラウンド・ミュージックとして構想されたライヴは、こうして音源化されることで新たに主役の座に躍り出る。そこから聴こえてくるサウンドは、ブライアン・イーノ、ホルガー・シューカイ、J・ペーター・シュヴァルムという三者の一期一会の本格的なインプロヴィゼーションであるとともに、ただ貴重な記録というだけに留まらず、アンビエント経由の「歓迎されないジャズ」に類する音楽が生演奏で収められた作品として、四半世紀経った2024年現在も実に興味深く思えるのである。

Text by 細田成嗣

ブライアン・イーノ、ホルガー・シューカイ、J・ペーター・シュヴァルムによる『Sushi. Roti. Reibekuchen』は、5月24日にCD、LP、デジタル/ストリーミング配信で世界同時リリース。国内盤CDには、オリジナルブックレット対訳付の解説書が封入される。また限定日本語帯付LPも発売される。

label: BEAT RECORDS / GROENLAND RECORDS
artist: Brian Eno, Holger Czukay & J. Peter Schwalm
title: Sushi, Roti, Reibekuchen
release: 2024.05.24
CD 国内盤(解説書+ブックレット対訳付):¥2,600+tax
CD 輸入盤:OPEN
LP 限定日本語帯付 輸入盤:OPEN
LP 輸入盤:OPEN

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14008

TRACKLISTING:
01. Sushi
02. Roti
03. Wasser
04. Reibekuchen
05. Wei


interview with Yo Irie - ele-king

いま、恋愛リアリティ・ショー戦国時代で、自分は楽しく見ていたんですけど、興味を示さない人もいて、自分が恋愛ごとやオチのない恋バナに興味が強いタイプなんだなと理解したんですね。

 水、仕事、SF、FISHときて、恋愛。なんのことだかわからないかもしれないが、それが入江陽という異才シンガーソングライターのディスコグラフィである。

 デビュー・アルバム『水』(2013年)の発表からちょうど10+1年。大谷能生がプロデュースした『仕事』(2015年)、soakubeatsらとの『SF』(2016年)、自主レーベルからの『FISH』(2017年)と、入江は4作のアルバムをリリースしてきた。その間に、ネオ・ソウルやヒップホップやジャズやエレクトロニック・ミュージックを大胆にかき混ぜながら、滲みでる前衛性と溢れでる歌心と諧謔に満ちた歌詞とで彩られた異形のポップ・ソングを歌ってきた。

 異才、異形と似たような貧しい語彙で形容したものの、今回、『恋愛』での入江からは「異」がぽろっととれた、かもしれない。映画やドラマやゲームといった対外的な現場での音楽制作などを経て、ツイストした自我の中からストレートな志向を発見した入江は、まっすぐにポップへと向かった。ビースティ・ボーイズとの仕事で知られるマリオ・Cを筆頭に、あまりにも幅広いコントリビューターたちからの助力も得た結果、アルバムは清々しく、実に風通しがよい、群像劇のような作品に磨きあげられている。

 アルバムのタイトルでありコンセプトの「恋愛」は、自ら語るとおり、2010年代以降のジェンダーとセクシュアリティの多様性の(遅ればせながらの)認識の拡大、アロマンティックやアセクシュアルについてのそれを含む知識が広がった時代に、どこか古臭さと、古臭いがゆえの滑稽さを帯びている。それでも、少なからぬ人びとがいまも恋愛に心をかき乱されているし、それらが商品や見世物として流通してさえいる。その「恋愛」という不思議な共有性を通じて、入江がポップの鍵を掴んだことは想像に難くない。

 ところで、今回のインタヴューで入江の口からたびたび出てきたのは、「信用」や「信頼」といった言葉だった。それは、他者へのものであるのと同時に、音楽それ自体に向けられたものでもある。この歌い手は、「恋愛」というミクロなものを拡大し、なにか大きなものにアクセスしようと試みているようだ。

影響を受けたのは、「プロジェクトセカイ」というスマホ・ゲームの仕事に関わっていたことですね。その仕事で、20代や下手したら10代の若いボカロPの方々の曲をずっと聴いていたので、その素直さに影響を受けたんです。

入江さんの新作、7年ぶりですか!

入江陽(以下、YI):気づいたら、浦島太郎のように7年も経っていました(笑)。体感は2、3年……っていうと嘘で、さすがに5年くらい経っていそうな気がしたんですけど、7年も経っているとは思わなかったですね。「7年経っている」とみんなが言っていることが、嘘かもしれません(笑)。ただ正直、もっと早くつくればよかったって思ってはいます。

2019年から配信シングルを継続的に出していて、映画音楽の仕事もされていたので、それほどタイムラグを感じません。

YI:自分でおもしろいと思うのが、シングルを大量に出していたにもかかわらず、アルバムにほとんど入っていないことですね(笑)。

シングル集的なアルバムにはしなかったんですね。

YI:『FISH』やそれ以前のアルバムを聴き返すと、曲がバラバラすぎて、どういうシチュエーションで聴いたらいいのか悩むなって、リスナーとして客観的に思ったんです。それで、ジョン・コルトレーンの『Ballads』(1962年)のようなロマンティックなジャズ・バラード集が好きなので、「恋愛」というコンセプトのアルバムにまとめることで、聴くシチュエーションがわかりやすくなるかなと。……ですが、いま聴くと、意外と曲調がバラバラで(笑)。

いえ、入江さんの作品の中で最も統一感やコンセプチュアルなまとまり、完成度の高さを感じますし、最高傑作だと思います。ゲストも多いですし、入江さんがつくっていない曲もあって風通しがよく、それなのにこの統一感はなんなんだろう? と。

YI:アレンジャーさんも制作経緯もバラバラで、ドラマや映画への提供曲も収録していますからね。まとめる作業はストロング・スタイルで、曲をひたすら並べ替え、夜に散歩しながら聴きまくったんです(笑)。その作業をずっとやっていたら、自然と物語性が出てきました。前半は楽しげで恋愛のワクワク感があって、後半は切なげになってくる感じで。

そもそも、なんで恋愛がテーマなんだろう? と思ったんです(笑)。「はいしん狂」の入江さんだから、恋愛映画やドラマを見まくっていたのかな? とは考えましたが。

YI:まさにそれはあって、恋愛リアリティ・ショーを見まくっていたんです(笑)。『あいのり』や『テラスハウス』あたりがクラシカルなところだと思うんですけど、最近は各社乱立していて。ご覧になりますか?

まったく見ませんが、存在していることは知っています(笑)。

YI:たとえば、ふたつの島が舞台で、移動のタイミングが限られているから、その偶然性でカップルが成立するかどうかが決まる番組とか。元カレと元カノを集めて嫉妬させあう、醜悪な……「醜悪」は言い過ぎました(笑)。そういう練られた座組の番組とか。いま、恋愛リアリティ・ショー戦国時代で、自分は楽しく見ていたんですけど、興味を示さない人もいて、自分が恋愛ごとやオチのない恋バナに興味が強いタイプなんだなと理解したんですね。
あと、「恋愛」って言葉自体が古びてきていると思うんです。ジェンダー観が多様化し、アップデートされて、10年前と現在とでは『恋愛』というタイトルのアルバムを出す意味がかなりちがっているなと。そこで、「恋愛」という旗をあえて振る少数派になってみたらおもしろいかなって思ったんです。

たしかに、漢字で「恋愛」というタイトルのアルバムがどーんと出ると、すごくインパクトありますね。

YI:あえての「恋愛」なのか、単にやばい人なのか、わかりづらいですね(笑)。この古びた「恋愛」って言葉、ちょっと笑える感じがするんです。

昭和感がありますね。

YI:平仮名で「れんあい」とすることも考えたんですけど、そういう逃げはやめて、ストレートにわかりやすく「恋愛」としました。
過去のアルバムはコンセプトがわかりにくくて、内面的で抽象的なテーマだと思った理由もありましたね。ひねくれたことをやめて、自分を知らない方々にも興味を持って聴いてもらえ……るかはわからないんですけど、フックがある作品にしたかったんです。

亡くなった人の憑依というか、他人の思い出とか、もし前世があるとしたらその記憶とか、人類に共通する原初的な経験──恐怖や温かい気持ちにアクセスしたいなって。

入江さんって、井上陽水が好きですよね。入江さんにも井上陽水にも、滲みでる変態性と、どストレートなポップさがあると思うのですが、今回は後者が強調されていると感じました。そのぶん、エゴが抑えられているとも感じたんです。

YI:変な曲はなるべく外す方針でした。最近のシングルだと “Juice”(2023年)は気に入っていて、入れるかどうか迷ったんですけど、流れやバランスがよくならなかったので、泣く泣く外したんです。恋愛がテーマの曲なんですけど、それでも外すくらいアルバムの空気を尊重したんですね。変態さを抑えたサウンドにしたつもりなんですけど、“すあま” はピアノの即興演奏だったり、“Dracula” はアヴァンギャルドめだったり、匙加減がわからなくて不安になったので、ポップにかなり寄せたかもしれないです。

作品を客観視していたんですね。

YI:そうしつつ、実は、制作しながら素直な自分を発見しました。恋愛リアリティ・ショーをおもしろがって、キャッキャして見ている自分とか。あと、TikTokでバズっている曲を普通にいいなって思う自分とか。照れ隠ししていた素直な自分にアルバムの制作で出会えたというか、自分は難解なサウンド・プロダクションの曲が本当に好きだったのか? と疑問に思ったり(笑)。

ただ奇を衒っていただけなんじゃないかと。私が好きなエピソードで、入江さんとhikaru yamadaさんがエリック・ドルフィーのmixiコミュニティで出会ったというのがあるんです。でも今回は、エリック・ドルフィー成分は影を潜めているなと(笑)。

YI:変にしなきゃいけない、と思っていた部分もあったかもしれなくて。そこで音数を極力減らして、歌を聴かせるトライをしたんです。

TikTokのヴァイラル・ヒット曲の話がありましたが、参考にした曲はありますか?

YI:意識的に参考にはしていませんが、影響を受けたのは、「プロジェクトセカイ」というスマホ・ゲームの仕事に関わっていたことですね。その仕事で、20代や下手したら10代の若いボカロPの方々の曲をずっと聴いていたので、その素直さに影響を受けたんです。ストレートな初期衝動の強さを目の当たりにして、ハートに火がついたのはあったかもしれないですね。
“酔いどれ知らず”(Kanaria)って曲、わかります? TikTokの全動画についているんじゃないかってくらいバズった曲なんですけど、「プロジェクトセカイ」でその曲をボカロや声優さんにカヴァーしてもらうために聴いていたら、「みんなが好きな曲、自分も好きだな」と気づいて。抵抗なく自然に体が動いてる自分がいて、「俺、ひねくれていないかもしれない」と(笑)。

ところで、歌詞にご自身の恋愛経験は反映されていますか?

YI:当社比50%以上は入っているかもしれないですね(笑)。自分で歌う曲だと照れやひねくれたところがあって、実体験をさりげなく込めがちなんですけど、このアルバムにはドラマやほかのアーティストへの提供曲もあるので。たとえば、4曲目の “ごめんね” はNONA REEVESの奥田(健介)さんのZEUSというソロ・プロジェクトに提供した歌詞なので、「奥田さんが歌うんだったら」ということで赤裸々に書けたりしたんです。あと、ほかの方が作詞された曲で、自分の気持ちにも合っている曲を取り入れたり。実体験もなるべく込めたものにしたほうが、おもしろいかなと。
 ただ、自分の話をずっとされるのも、リスナーが聴いていてしんどいかなと思いました。生々しすぎてイヤホンを外されるなり、スピーカーをオフられるなり、再生を止められるなりされるのも怖かったので、メタ視点は心がけました。

“ごめんね” について、奥田さんが「彼の音楽って、ちょっと不吉じゃないですか。(中略)スイートな曲のなかにも不吉・不穏な部分を入れたくなる、そういうことをやってるのがラー・バンドだったりするんですけど、入江くんの魅力も良い意味で不吉なところなんですよね」、「すごくストレートなんですが、ちょっとコワい歌詞なんですよね」とMikikiのインタヴューで語っていました(笑)。

YI:「不穏」はいいんですけど、「不吉」というのはすごいですね(笑)。『水』を出したときに、柴田聡子さんから「もう死んだ人が歌っているみたい」って言われたんですよ。スピっているわけじゃないんですけど、それはちょっと意識しています。亡くなった人の憑依というか、他人の思い出とか、もし前世があるとしたらその記憶とか、人類に共通する原初的な経験──恐怖や温かい気持ちにアクセスしたいなって。そう考えると、なおさら自分が作詞作曲した曲じゃなくてもよくなってくる。そういう意味で、「自分がつくる」というエゴが薄まってきているかもしれないですね。

[[SplitPage]]

映画をつくりたいのかもしれないですね。映画って音楽とちがって、カメラに映りこんだものが全部映像に入っちゃうじゃないですか。たまたま映りこんだものをすべて肯定するというか、そういう意図はあるかもしれません。

入江さんってコラボレーションや他者に委ねる制作をしてきたわけですが、その傾向が近年は前景化したと思うんです。

YI:それはかなりありますね。他人に任せてできたものに修正希望を出して直したものより、最初の形のほうがおもしろいなって感じた経験が多くて。それで、任せた方の判断を尊重して信頼する傾向が強まりました。

先日、「これまで音楽に対して信じて倒れ込む、倒れ込み方がちょっと足りなかったかもしれません。次のアルバムでは完全にゆだねて、音楽をベッドと思って倒れ込んでおる気がします」とXにポストしていましたよね。いまのお話と関係しているのかなと。

YI:それ、忘れていました(笑)。そうなんですよ。以前は音楽を信じきれていなくて、ちゃんと倒れ込めていなかったんです。人類が音楽をずっと好きでいる事実――カラオケで歌うのが楽しいとか、子どもたちは歌うのが好きだとか、料理しながら歌をつい口ずさんじゃうとか、そういう音楽と人類の深い、ズブズブの関係に対する信用が足りなかったんですね。なので、個性的なものやエゴを込めないといけないと思っていたのですが、今回はそういうものをなるべく外して、人類と音楽のズブズブの関係に安心して倒れ込もうと。……なにを言ってるのか、自分でもよくわからなってきたんですけど(笑)。いろんなこだわりを脱ぎ捨てよう、という気持ちは強まっていますね。

パンツ一丁、いや、真っ裸になったという(笑)。

YI:まだパンツとタンクトップは着ちゃっていますね(笑)。それでも、だいぶ脱ぎ捨てられました。一時、軽い鬱っぽくなったりもしていたので、精神的にやばくなるのを予防するために、カウンセリングを定期的に受けるようになったんですよ。

“続・充電器” の歌詞にもありますね。

YI:歌詞にも出てくるスズキさんのカウンセリングを受けていて、内観するようになって、素直な自分を発見したことも影響があったかもしれないですね。日本のカウンセリングって、村の老賢者みたいな方が人生訓やアドバイスを授けるようなものも多いんです(笑)。西洋的なカウンセリングは、自分の話を鏡のようにずっとミラーリングしてくれて、自分のイメージが歪んだときにだけちゃんと映してくれるんですね。そういうスタイルのカウンセラーであるスズキさんにたまたま出会えたのは幸運でしたね。

“続・充電器” は内省的な歌詞ですよね。

YI:前半部分は元々の “充電器”(2019年)の歌詞で、後半に後日談を継ぎ足しました。

原曲の、バキバキのエレクトロニックなアレンジからも変わっています。

YI:あれは服部峻さんという狂気じみた……「狂気じみた」は言い過ぎかも(笑)。服部さんというかっこいいサウンド・クリエイターの方によるものでしたが、歌を活かしたアレンジにしたかったのと、「生のストリングスを録ってみたい!」って無邪気な願望があって。ストリングス・アレンジを廣瀬真理子さんという方にやっていただいています。
廣瀬さんが実は、このアルバムの隠れたエリック・ドルフィー性をかなり担っているんです(笑)。「廣瀬真理子とパープルヘイズ」というビッグ・バンドをやっていらっしゃるのですが、微分音を使ったり、かなり変態的なサウンドで。廣瀬さんに参加いただいたのは、“続・充電器” とシングルの “知ってる”(2023年)ですね。今回、ストリングスを入れた曲が増えました。

ストリングスが入っている曲では、“気のせい” の編曲がシンリズムさんで、“道がたくさん” が大沢健太郎さん(元・北園みなみ)。“道がたくさん” はフレスプの石上嵩大さんが作詞作曲をされていて、歌はsugar meさんとのデュエットですね。大沢さんの編曲は、スティーヴィー・ワンダーやシュガー・ベイブなんかのそれを感じさせるものです。

YI:“道がたくさん” は、石上さんのプロジェクトで10年ほど前につくったままお蔵入りになっていた曲のデータが残っていたので、サルヴェージしたんです。ずっと気になっていて、デモを聴きつづけていたんですけど、アルバムの締めくくりに合いそうだと思って。

“気のせい” のシンリズムさんの編曲は、冨田ラボの愛弟子感がよく出ている見事なシティ・ポップですね。

YI:エンジニアの中村公輔さんが京都精華大学でレコーディングの授業を受け持っていて、歌を録音する実践として、当時の生徒さんだった清田(尚吾)さんが書いた曲に、僕が急いで作詞した曲ですね。あとで聴き返したら、意外といい曲だな~と思って。ばーっと書いたから軽やかで、こだわりが希薄になったのかな。

「LINEの返事 書くだけで時間かけて」なんて、すごくいい歌詞だと思いました。

YI:「LINEの返事を返さない人にどうしたらいいの?」みたいな恋愛相談の動画がTikTokで流れてくるんですよ。それで「返事がこないってことは、大切に書いている可能性があるから待ってみて!」と言っていて、なるほど~! と思ったんですよね(笑)。

1曲目の “とまどい” は元々、NHK Eテレのドラマ『東京の雪男』(2023年)の挿入歌だったんですね。

YI:雪男と人間の女性が出会う話なんですけど、前半の歌詞がその出会いを描いたドラマに提供したもので、後半の藤岡(みなみ)さんパートはアルバム用に追加しました。

藤岡さんの声がすごく儚げで、それこそ霊界から響いてきているような歌ですね。藤岡さんは「タイムトラベル指南」ともクレジットされているのですが、これは(笑)?

YI:藤岡さんって、タイム・トラベルがすごく好きなんです。タイム・トラベル専門書店の「utouto」というのをやっているくらい。

タイム・トラベル専門書店ってすごいですね。

YI:明らかにタイム・トラベルしたであろう人も店に現れるらしくて(笑)。まったく同じ人が店の前を2回通過したり、侍が付近を歩いていたりするって、藤岡さんが言っていましたね。
以前、『ミュージック・マガジン』さんの連載(「ふたりのプレイリスト」)で藤岡さんにインタヴューしたとき、縄文土器とか藤岡さんが好きなものはタイム・トラベルに繋がっているとおっしゃっていたんです。それで今回、タイム・トラベル指南をレコーディングの際にしていただきました。僕は、タイム・トラベルはできなかったんですけど(笑)。

「指南」って、具体的にどういうことなんでしょうか(笑)?

YI:タイム・トラベルのおすすめ映画を教えてもらったりとか、それくらいです(笑)。タイム・トラベルという要素やテーマは僕も大切にしていて、時間軸を引き延ばしたり短くしたりするのが好きなんですね。なので、藤岡さんを今後のタイム・トラベルの師匠として招き入れたく、まず歌の客演でオファーしました。

他人のことなんてわからないと思っているんですけど、「目を見りゃわかる」と言いきる直感があってもいいのかなと。はぐれ者どうしって、なんとなく「あっ」って直感的に同じ属性だってわかる気がするんです。

“とまどい” は、若干ローファイ・ヒップホップっぽいプロダクションですよね。

YI:前半と後半でビート・チェンジする曲が好きで。“とまどい” では、商用利用OKのサンプリング素材を使って、エンジニアの林田涼太さんにミックスしていただいたんです。その素材と歌とのバランスをどうするかという点で、なるべく歌以外の音を減らしたかったので、楽しみながらつくって勉強になりました。

ミックスで歌を大きくしてど真ん中に置いたことも、アルバムをポップにしているのでしょうね。

YI:ドレイクをずっと聴いていたら、歌心やラップが生々しくて真に迫るから、みんなドレイクが好きなのかなって思ったんです。ドレイクの影響っていうと、恥ずかしいんですけど(笑)。ドレイクの影響で、どんどん「歌デカ」にしていこうと思ったんですね。

ビート・スウィッチの話がありましたが、近年の入江さんの作品の特徴ですよね。それもやはり、最近のヒップホップと関係していますか?

YI:かなりありますね。「別曲だと思って聴いてたわ~」みたいなビート・スウィッチの曲って最近、多いじゃないですか。ドレイクと21サヴェージの『Her Loss』(2022年)も、頻繁なビート・スウィッチの曲が多くて好きなんです。それをポップな歌ものでやれたらおもしろいんじゃないかなって。自分は多動傾向があるので、多動欲求を1曲で2曲分満たせるって理由もあるかもしれません(笑)。

あと、やはり気になるのが3曲目の “ときめき” で、マリオ・Cことマリオ・カルダート・Jr.が参加していることに驚きました。

YI:マリオさんから「入江くんの歌、おもしろかったから、なんか一緒にやってみない?」とフランクなメッセージをいただいて、送っていただいた曲に歌をのせてつくった曲です。OMSBさんとの “やけど”(2015年)で知ってくださったんだったかな? カクカクした譜割りじゃない、ふわっとのっている歌の気持ちよさをおもしろがってくれたようです。

作曲にマリオさんと並んでジョナサン・マイアさんという方がクレジットされていて、調べてみたところ、ラテン・グラミー賞を受賞しているブラジルのプロデューサー/エンジニアのようですね。

YI:全楽器をマリオさんとジョナサンさんが担当されている、としか書かれていないので、分担はわからないんですけど、たくさん演奏してくれているのかもしれません。

“ときめき” は「メロディの作曲」が入江さんと記されていますが、入江さんがトップラインだけを書いているというのが、いまどきのコライト的な作曲法だなと思いました。

YI:送られてきたトラックに歌をのせて、お互いの仕事を全尊重、全活かしで完成させたので、楽しかったですね。

ラブリーサマーちゃんとの “海に来たのに” は、シングルとして2023年にリリースされていましたね。

YI:元々、ラップ・デュオのOGGYWESTのメンバーであるLEXUZ YENさんとつくっていた曲です。それを下地に、僕と林田さんがつくり直して、ラブサマさんに歌をのせてもらったので、これもコライト色が強いですね。

ラブサマちゃんのヴォーカルが普段の歌い方とはちょっとちがっていて、90年代J-POP/J-R&Bっぽい発声がいいですね。

YI:ご本人はCharaさんのオマージュだと言っていました。

なるほど! グランジっぽいギターが途中から入ってきますが、これはラブサマちゃんの演奏ですか?

YI:そうです。ラブサマさんだったらギターと一緒にじゃないと、って気持ちがあって。シューゲイザー的な音も好きなので入れたかったんです。
こういうコライト的なつくり方は自分の頭の中と合っているようで、楽しいんですよね。完成したCDを送るために関係者リストをつくったら、70、80人ぐらいいて(笑)。みなさんには感謝しているんですけど、思ったより多かったのが自分でもおもしろかったですね。逆に、全部自分だけでつくったアルバムもおもしろいかなと思うんですけど、多動傾向にあるので、おそらく今後もこのスタイルだろうと思います。海外の作品のクレジットを見ると、作曲者がめちゃくちゃ多くて笑っちゃいますよね。

カニエ・ウェストの作品とか、そうですよね。そこに近づきつつあると。

YI:20人くらいで作曲するスタイルは、いつか挑戦してみたいですね(笑)。

息を吸って吐いているだけで、どんどん時間を食いつぶしているというか、人生に残された時間が減っていっているんだなって、ふと気づいて。呼吸しながらだんだん死に向かっていくって、実はリッチな体験だなと。

6曲目の “interlude(映画「街の上で」より)” は、サウンドトラックから収録されたのでしょうか?

YI:ミックスは直しましたが、そうです。今泉力哉監督の『街の上で』は下北沢を舞台にした若者たちの恋愛映画なんですけど、そのオープニングで流れる曲だったので、遊び心でアルバムに入れました。
曲として気に入っているのもあるんですけど、今泉監督は映画に参加した作家や俳優を活かそうとするタイプで、僕もすごくのびのびと音楽をつくらせていただいたことが楽しかったんですね。あと、映画音楽をやっている自分と歌を歌っている自分をもうちょっと繋げていきたいというか、壁を溶かしていきたので、アルバムに入れたのもありますね。

そう考えると、『恋愛』というアルバム自体が映画のようで、先ほど関係者リストの人数が多いという話があったとおり、たくさんの出演者やスタッフが関わっている群像劇のように感じますね。

YI:たしかに、自分は映画をつくりたいのかもしれないですね。映画って音楽とちがって、カメラに映りこんだものが全部映像に入っちゃうじゃないですか。たまたま映りこんだものをすべて肯定するというか、そういう意図はあるかもしれません。

8曲目の “あ・ま・み” は元々、姫乃たまさんがnoteで発表した曲ですよね。作詞作曲はスガナミユウさんで、入江さんが編曲しています。姫乃さんが精神的にしんどかった時期に、スガナミさんから贈られた曲だという経緯がありますね。

YI:スガナミさんって、LIVE HAUSの店長をされていて、コーディネーターやイベンターとして世間的に知られていると思うんですけど、ソングライターとしての顔をもっとムキムキ出していってほしい、という思いを勝手に抱いているんです。もちろん、この曲が純粋に好きだったので収録しました。

私も最近、LIVE HAUSのカウンターでしかスガナミさんと会っていなくて、しばらくちゃんとお話ししていないし、ライヴも見にいけていないんです。でも、ソングライターやパフォーマーとしてすごいんですよね。

YI:そうそう! パフォーマーとして最高なんですよね。すごく派手で、エルヴィス・プレスリーばりのステージングをしますからね。
アルバムの流れとして、“続・充電器” で辛い気持ちになって気絶して、“あ・ま・み” は夢の中、“すあま” でみんなが「入江さん!」と呼んで起こそうとしている、というひとつの解釈があります。

たくさんの人びとの声が入江さんに呼びかけている “すあま” は、このアルバムを象徴する曲だと思うんです。どうしてこの曲をつくったんですか?

YI:ポップなアルバムをつくりたかったので、実験的な要素を抑えてたのですが、それを発散しようと思って “すあま” と “Dracula” に込めました。ちょっと自分を解放するというか、こういう変なことをする自分も忘れずにいようと。

入江さんの活動に関わっているKotetsu Shoichiroのええ声なんかも聞こえますが、関係者や友人が参加しているのでしょうか?

YI:姉や甥のような家族、制作期間に会った友だち、恩師や同級生、〈P-VINE〉の前田(裕司)さんとか、全方位的に入江と関わってくれている方々の声です。あと、飼っている猫のすあまも「入江さん」と言っています(笑)。「プロジェクトセカイ」でお世話になっている初音ミクさんの声も入っていますね。

LPはヴァージョンちがいで、CDと配信が “にぎやかVer.” となっているのは?

YI:LPは尺がちょっと短くて人が減っているんです。単純にCDのほうが納期が長かったので、その間に人が増えたんですね(笑)。LP版でフィックスしてもよかったんですけど、諦めきれなくて。

次の “Dracula” はヴォーカルの変調が特徴的ですね。それこそ初音ミクのようにも聞こえますが。

YI:ムーグのアナログ・ヴォコーダーを入手して、そのリッチな音と自分の声を重ねています。ジョルジオ・モロダーの “E=MC²” なんかで使われているヴォコーダーの復刻版らしいですね。林田さんがセッティングに詳しいので、お力添えいただきました。

ポップなアルバムの中で、“Dracula” は最もエレクトロニックで実験的ですよね。

YI:この曲もビート・スウィッチさせるために、前半と後半で音の作家さんが別々なんです。前半が黄倉未来さんで、後半が耶麻ユウキさんというhikaru yamadaくんのサークルの先輩で、アンビエントをつくっている方ですね。おふたりにはどうなるかを知らせずにつくってもらって、それを強引に繋ぎました。歌詞もぐちゃぐちゃしているので、やりたい放題、楽しんだ曲ですね。

“Dracula” の歌詞、すごいですよね。「ウーバー」という言葉が耳に残ります。

YI:Uberで知り合った人たちをモチーフに、いろいろな意味でのマイノリティ、社会からちょっとはぐれている者たちの出会いを描きたかったんですよね。あと、「目を見りゃわかる」って暴力的な表現が好きで。僕は他人のことなんてわからないと思っているんですけど、「目を見りゃわかる」と言いきる直感があってもいいのかなと。はぐれ者どうしって、なんとなく「あっ」って直感的に同じ属性だってわかる気がするんです。“ときめき” でも、そういうことは歌っているんですけど。

恋愛に引きつけるなら、一目惚れがありますよね。

YI:一目惚れとか、気が合うと思っていたけど全然そんなことなかったとか、そういう勘違いを含めて豊かなことだなと思うんです。
よく考えたら、息を吸って吐いているだけで、どんどん時間を食いつぶしているというか、人生に残された時間が減っていっているんだなって、ふと気づいて。呼吸しながらだんだん死に向かっていくって、実はリッチな体験だなと。

4月6日にタワーレコード渋谷店のTOWER VINYL SHIBUYAで、4月13日にタワーレコード梅田NU茶屋町店でインストア・ライヴの開催が予定されていますね。

YI:ライヴはリハビリも兼ねてなんですけど、自信がなくなってきたので、ギタリストの小金丸慧さんにサポートしてもらいます。小金丸さんは「プロジェクトセカイ」でもお世話になっているし、このアルバムでも “ごめんね” のアレンジとか、かなりがっつりといろいろな形で参加してもらっています。“海に来たのに” では、ラブサマさんのギター・テックもやってもらっていますね。ほんとに、小金丸さんなしでは成り立っていない作品です。

小金丸さんって、メタラーでありながらジャズ・シーンでも活躍されていて、ユニークなミュージシャンですよね。先日、ちょうど取材しました(https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/36890)。

YI:もともと音大を次席で卒業するくらい優秀なミュージシャンなんですけど、ジャズ科の卒制がメタル作品だという破壊的な部分もあり、人柄はすごく優しくて、最高におもしろい方ですね。

入江さんのひさびさのライヴ、楽しみですね。

YI:今年からは、ライヴもやっていけたらと思ってます。全然やっていないくて、今回のインストアはかなりひさしぶりなので、入念に準備して、「絶対にできる!」って確信した状態じゃないとできない(笑)。

【入江陽『恋愛』 リリース記念 ミニライブ&サイン会】
◎TOWER VINYL SHIBUYA
日時:4/6(土) 15時~
場所:タワーレコード渋谷店6F
出演:入江陽(Vo./Key)、小金丸慧(Gt.)
イベント詳細
https://towershibuya.jp/2024/04/06/193759

◎タワーレコード梅田NU茶屋町店
日時:4/13(土) 14時~
場所:タワーレコード梅田NU茶屋町店(NU茶屋町 6F)
出演:入江陽(Vo./Key)、小金丸慧(Gt.)
イベント詳細
https://tower.jp/store/event/2024/4/096003
※ミニライブ・サイン会の参加方法は各店のHPをご参照ください。

【ライヴ情報】
「入江陽 New Album「恋愛」Release Event in 愛知」
日時:4/14(日)open18:00 start18:30
会場:金山ブラジルコーヒー
https://kanayamabrazil.net/index.html

出演:
・入江陽(れんあいset)
・森脇ひとみ(その他の短編ズ)
・The Kota Oe Band

予約:¥2500(+1d¥600) 当日¥3000(+1d¥600)
予約窓口:nqlunch@gmail.com(金山ブラジルコーヒー)

Gastr del Sol - ele-king

 1991年、ポスト・ハードコア・バンド、バストロを継承するかたちでデヴィッド・グラブスにより結成されたバンドは、93年にファースト・アルバムを発表、ガスター・デル・ソルと名乗ることになる。同年、ジョン・マッケンタイアとバンディ・K・ブラウンがトータス結成のために脱退すると、入れ替わるようにジム・オルークが加入。デュオ体制となった彼らは94年から98年にかけ3枚のアルバムを残し、ポスト・ロックを代表する1組となった。
 そんなガスター・デル・ソルの、じつに26年ぶりのリリースがアナウンスされている。これまでまだまとめられたことのないスタジオ・ワークと未発表のライヴ音源から構成される『We Have Dozens of Titles』は、〈Drag City〉より5月24日に発売。90年代のデヴィッド・グラブスとジム・オルークによる冒険を、いまあらためて確認するチャンスだ。

artist: Gastr del Sol
title: We Have Dozens of Titles

label: Drag City
release: 24th May 2024
format: 3LP Box Set / 2CD / digital
tracklist:
01. The Seasons Reverse (live)
02. Quietly Approaching
03. Ursus Arctos Wonderfilis (live)
04. At Night and at Night
05. Dead Cats in a Foghorn
06. The Japanese Room at La Pagode
07. The Bells of St. Mary's
08. Blues Subtitled No Sense of Wonder (live)
09. 20 Songs Less
10. Dictionary of Handwriting (live)
11. The Harp Factory on Lake Street
12. Onion Orange (live)

https://www.dragcity.com/news/2024-03-27-gastr-del-sol-reforged

exclusive JEFF MILLS ✖︎ JUN TOGAWA - ele-king

 子どものころTVを観ていたら「宇宙食、発売!」というコマーシャルが目に入った。それは日清食品が売り出すカップヌードルのことで、びっくりした僕は発売初日に買いに行った。ただのラーメンだとは気づかずに夢中になって食べ、空っぽになった容器を逆さまにして「宇宙船!」とか言ってみた。カップヌードルが発売された2年前、人類は初めて月面に降り立った。アポロ11号が月に降り立つプロセスは世界中でTV中継され、日本でもその夜は大人も子どももTV画面をじっと見守った。翌年明けには日本初の人工衛星が打ち上げられ、春からの大阪万博には「月の石」がやってきた。秋にはイギリスのTVドラマ「謎の円盤UFO」が始まり、小学生の子どもが「宇宙」を意識しないのは無理な年となった。アポロが月に着陸した前の年、『2001年宇宙の旅』が1週間で打ち切りになったとはとても思えない騒ぎだった。

 ジェフ・ミルズが2008年から継続的に続けている「THE TRIP」は宇宙旅行をテーマにしたアート・パフォーマンスで、日本では2016年に浜離宮朝日ホールでも公演が行われている。COSMIC LABによる抽象的な映像とジェフ・ミルズの音楽が混じり合い、幻想的な空間がその場に満ち溢れていた。このシリーズの最新ヴァージョンがブラックホールをテーマにした「THE TRIP -Enter The Black Hole-」で、ヴォーカリストとして初めて戸川純が起用されることとなった。公演に先駆けてアルバムも録音されることになり、戸川純は2曲の歌詞を書き下ろし、ジェフ・ミルズがあらかじめ用意していた4曲と擦り合わせる作業が年明けから始まった。レコーディングはマイアミと東京を結んでリモートで行われ、ジェフ・ミルズによる細かい指示のもと〝矛盾〟と〝ホール〟の素材が録音されていく。当初は〝コールユーブンゲン〟のメロディが検討されていた〝ホール〟には新たなメロディがつけられることになり、様々なエデイットを経てまったくのオリジナル曲が完成、オープニングに位置づけられた〝矛盾〟には最終的にギターを加えたミックスまで付け加わった(それが最初に世の中に出ることとなった)。
 レコーディングを始める前からジェフ・ミルズに戸川純と対談したいという申し出を受けていたので、本格的なリハーサルが始まる前に機会を設けようということになった。ジェフ・ミルズがオーストラリアでトゥモロー・カムズ・ザ・ハーヴェストのライヴを終えて、そのまま日本に到着した翌日、2人は初めてリアルで顔を合わせた。戸川純がソロ・デビューして40年。ジェフ・ミルズが初めて日本に来て30年。2人にとってキリのいい年でもある2024年に、2人はしっかりと手を取り合い、短く声を掛け合った。初顔合わせとなるとやはりエモーションの渦巻きが部屋中に満ち溢れる。それはとても暖かい空気であり、2人の話はアポロ11号の月着陸から始まった。

ブラックホールについて考えたことはしばしばあります。何度も考えました。でも、それについて問題点とか、よくないことはあんまり考えませんでした。今回、焦点を当てたのは「恐れと憧れ」ということです。――戸川純

ジェフにコンセプトを訊く前に、戸川さんはこれまで宇宙についてどんなことを考えたことがありますか?

戸川純:いまの宇宙について、どんなことが問題かとか、そういうことは考えたことがありませんでした。子どものころの宇宙観と変わらないままです。私は1961年生まれだから、60年代の未来観のまま来ちゃいました。

今回、「ブラックホール」というテーマで歌詞を書いて欲しいというオファーがあった時はどんな感じでした? オファーがあった日の夜にすぐ歌詞ができましたね。

戸川純:はい。ブラックホールについて考えたことはしばしばあります。何度も考えました。でも、それについて問題点とか、よくないことはあんまり考えませんでした。今回、焦点を当てたのは「恐れと憧れ」ということです。

「恐れと憧れ」でしたね、確かに。ジェフはどうでしょう。同じ質問。ブラックホールに最初に興味を持ったきっかけは?

ジェフ:もともと宇宙科学にはすごく興味があったし、僕は1963年生まれなんだけど、僕が子どもの頃、アメリカはNASAとかアポロ計画とか、アメリカ人には避けて通れない騒ぎとなっていて、子ども心にすごく影響を受けました。あと、アニメとかコミックス、映画やSFにと~~~っても興味があった。ブラックホールについて具体的に考え始めたのは、92年にマイク・バンクスとアンダーグラウンド・レジスタンスというユニットをやっていて、その時にX-102名義で土星をテーマにしたアルバム『Discovers The Rings Of Saturn』をつくって、その次に何をやろうかと考えた時、ブラックホールはどうだろうという話をしたんです。その時から企画としては常に頭にありました。

最初にかたちになったのは〝Event Horizon〟ですよね(DVD『Man From Tomorrow』に収録)。

ジェフ:どうだったかな。曲が多過ぎてもうわからない(笑)。

戸川純:63年の生まれなんですね。60年代の終わりまでにアメリカは月へ行くと大統領が宣言していて、ぎりぎり69年にアポロ計画が遂行されました。あれを中継で観ていて、宇宙ブームが全世界で起きて、日本も同じでした。NASAもそうだし、60年代の風景はアメリカと同じじゃないかな。日本はアメリカの影響をすごく受けてますから。子ども向けの「宇宙家族ロビンソン」とか「スター・トレック」(*当時の邦題は「S.0401年 宇宙大作戦」)、あと、私は観てはいけないと言われてたけれど、遅い時間に起きてTVでこっそり観た『バーバレラ』とか。

お二人はSFを題材にすることが多いですよね。ジェフの『メトロポリス』へのこだわりと戸川さんが参加していたゲルニカは同じ時代を題材にしていたり。

ジェフ:SFというのは特別な科学のジャンルで、イマジネーションが教育や勉強よりも大切だということを教えてくれる分野だと思う。自分のヴィジョンやアイディアを具現化することによってミュージシャンになったり、作家になることを可能にしてくれます。自分の経験を有効活用することができるんです。アポロが月面着陸した時は学校中の子どもが講堂に呼び出されて、みんなでTVを観ました。

戸川純:Me too.

ジェフ:僕はそれにとても感銘を受けたんですけれど、ほかの子どもたちは全然、興味なくて。

戸川純:ええ、そう?

ジェフ:まったく違う方向に行ったりと、受け取り方は人それぞれですよね。僕はその時のことが現在に繋がっていますね。

2人とも月面着陸を観た時は宇宙旅行に行ってみたいと思いました?

戸川純:Of course.

ジェフ:小学生にはそれがどんなに大変なことだったかはわからなくて、マンガとかSFではもうどこにでも行くことができていたから、僕はやっと本当の人間が行ったんだなと思いました。

戸川純:大変なことだというのは私もわからなかった。宇宙旅行に行くにはどれだけ訓練しないといけないとか、耐えるとか、何年も地球に帰ってこれないとか、精神が持たないとか、そういうことはわからなかった。

ジェフ:うん(微笑)。

〝矛盾〟の歌詞では宇宙旅行が「13度目」ということになっていますけれど、この数字はどっちから出てきたんですか?

戸川純:(手を挙げる)

どうして13だったんですか。

戸川純:不吉だから。

ジェフ:初めて知った(笑)。

戸川純:謎めいた感じにしたかったんです。

ジェフ:アポロ13号は事故を起こしたよね。

戸川純:ああ。

ジェフ:アメリカにはエレベーターに13階がないんです。

戸川純:日本のホテルにもそういうところはあるかもしれない。リッツ・カールトン・東京は13階には人が泊まれなくて、会社が入っています。

[[SplitPage]]

SFというのは特別な科学のジャンルで、イマジネーションが教育や勉強よりも大切だということを教えてくれる分野だと思う。自分のヴィジョンやアイディアを具現化することによってミュージシャンになったり、作家になることを可能にしてくれます。――ジェフ・ミルズ

前回の「THE TRIP」では「地球がもう住みにくくなった」から宇宙旅行に行くという設定でしたよね。

ジェフ:どちらかというと地球が住みにくくなって宇宙に出ざるを得なかったというよりは宇宙に出ればもっといろんな答えが出てくるという考えでした。

戸川純:うん。

ジェフ:宇宙に出て、ここまで来ちゃったら、もう戻れない。「THE TRIP」というのはそのポイントから先のことを指しています。地球と自分がまったく別の存在になっちゃって、そこから何が起きるのか。リアリティとフィクションを混ぜ合わせることが「THE TRIP」のコンセプトなんです。

戸川純:もっとポジティヴなんですね。

ジェフ:そう、そう。でも、ノー・リターンなんです。帰ることはできないと悟った時点で、そこから冒険が始まる。進むしかないんです。

ノー・リターンは厳しいな(笑)。

戸川純:そこがどんな場所か、ですよね。帰りたくないと思うような場所かもしれないし……

ジェフ:いまはまだ空想上の話にしているけれど、現実的に片道切符で宇宙に行くという必要は出てくるんじゃないかな。

戸川純:そうですよね。

ジェフ:ワン・ウェイ・ジャーニーだとわかっていても火星に行きたい人を募集したら、けっこう集まってたでしょう。地球上でもたとえばイギリスからオーストラリアに島流しにあった人たちは、そこまでたどり着かないと思っていたのに、たどり着いた人たちは生き残ってオーストラリアという国をつくったじゃない?

戸川純:そうなんだ。へえ。

ジェフ:昔から地球規模では起きていたことですよ。

戸川純:面白いですね。ポジティヴでいいですね。

ジェフ:うん。

戸川純:私はネガティヴに考えているところがあるなと反省しました。

ジェフ:いや、それはある意味、当然のリアクションじゃないかな。やっぱりすごく大変なことですから。現実的に宇宙には酸素がないわけだし、酸素がなければ人間は生きられないし。

戸川純:うん。

ジェフ:そういうことを全部克服していかなければならないから。

じゃあ、イーロン・マスクが進めている火星移住計画には賛成ですか? 同じ質問をブライアン・イーノにしたら、そんな金があったら地球環境をよくするために使えと怒っていました。

ジェフ:僕は賛成です。火星に行くことによって地球のこともわかると思うし、地球環境の研究も進むんじゃないかな。

戸川純:なるほどね。

ジェフ:火星も昔は地球みたいな星だったから、どうしてああなったのかという変遷がわかれば地球を救えるかもしれないし。

戸川純:興味深い考え方ですね。

イーロン・マスクはロケットの名前をすべてイアン・バンクスのSF小説からつけていて、SFが現実になっていくという感覚はジェフと似ているかも。

ジェフ:そうなのかな。

では、なんで、今回は行き先がブラックホールになったんですか?

ジェフ:僕にとってブラックホールは自然な現象で、スパイラルというものに僕は関心があるんです。地球が回っているように、太陽系も回っているし、銀河系も回っているし、物理的に回ってるだけでなく、時間や自分たちのライフ・サイクル、昔の考え方ではリーインカーネション……?

戸川純:輪廻転生。

ジェフ:そう、輪廻転生。すべてがサイクルになっていて、その大元はなんだろうと考えた時に、もしかしたらそれはブラックホールなんじゃないかと。ブラックホールがすべての源だとしたら、それに影響を受けない人は誰もいないんじゃないかということをテーマにしています。

壮大ですね。

戸川純:ビッグ・バン。

ブラックホールとビッグ・バンにはなんらかの関係があると多くの学者は考えています。

ジェフ:そうです。こういうことを考える人はほかにもいると思うんですけれど、この世の中にあるものが全部回りながら動いているのは事実ですから。

戸川純:それは科学的根拠に基づいた事実だと思うんですけれど、私が思う矛盾のひとつに、死んだら意識が闇のなかに消えてしまって、何にもなくなってしまうという感情を持ちつつ、お寺では亡くなった人に祈ったりもするんですね。そういうところが私は矛盾しているんですよ。信じているのか信じていないのか。

ジェフ:そうですね。両方あるのかも。

素粒子の性質も矛盾していますよね。物質なのか、波なのか。

ジェフ:生まれる前に何もなかったとしたら、死んだら何もないと考えるのは自然な考えだし、すべてのものが回っているなら、命も回っていると考えるのも自然なことです。古代のマヤ文明とかで輪廻転生が信じられていたのも何かしら理由があるんじゃないかな。

戸川純:マヤ文明にしても、科学的に立証されている事実として物事が回っているにしても、私はさみしいなと思っていたんですよ。自分が死んだらすべてが終わってしまうということは、自分がこの世に未練が何もないみたいで。また、生まれ変わってこの世に生まれ落ちたいと思う自分の方がポジティヴだから。そうなりたいと思ってはいたんですよ。だからジェフさんの哲学には、すごく影響を受けます。

ジェフ:実際に自分たちの感覚とかサイエンスでは本当のことはまだ知り得ないと思うんですけれど、古代の人たちの知恵というのは無視するべきじゃなくて、そこには何かしら理由があったんじゃないかと思うから。すべてのものが回っているということは、みんなで考えるに値するテーマじゃないかなと思います。

私はジェフさんの90年代の音源を聴いて非常にアグレッシヴだなと思ったんですけど、東京フィルハーモニー交響楽団とコラボなさっているやつではまったく違ったことをやっていて、それはそれでアグレッシヴだし、ジェフ・ミルズさんの表現なんだけど、違う驚きを与えてくれて、それが「THE TRIP」でまた違う驚きを与えてくださって、すごくわくわくしました。――戸川純

ジェフから年末に「戸川純とコラボレートしたい」というオファーが届いた時、あまりに意外な組み合わせでびっくりしたんだけど、ある種の根源的なものというか、戸川さんのヴォーカルに生きる力みたいなものを感じたのかなと。実際に戸川さんとコラボレートしてみて、オファー前と印象が変わったということはありますか。

ジェフ:いや、思っていた通りでした。ジュンさんのことはかなりリサーチして、音楽を聴いて、映像もたくさん観たんですけれど、複雑な事情をうまく表現できる方だと思いました。そのことはコラボレーションして、さらに実感が深まりました。

戸川純:ありがとうございます。私はジェフさんの90年代の音源を聴いて非常にアグレッシヴだなと思ったんですけど、東京フィルハーモニー交響楽団とコラボなさっているやつではまったく違ったことをやっていて、それはそれでアグレッシヴだし、ジェフ・ミルズさんの表現なんだけど、違う驚きを与えてくれて、それが「THE TRIP」でまた違う驚きを与えてくださって、すごくわくわくしました。

ジェフ:ジャンルで差別するようなことはしないようにしていて、なんでも聴くようにしてるから、ひとつのことだけをやっていればいいとは思っていないんです。

常にチャレンジャーですよね。

ジェフ:人によってはそういうのは好きじゃないとか、がっかりしたという反応も当然あるんですけど、カテゴライズされたものをやるよりは自分のクリエイティヴィティはいつもチャレンジすることに向かわせたい。

戸川純:ジェフさんほどスケールは大きくないですけれど、私もチャレンジしてきたつもりです。ポップだったり、前衛的だったり。それでがっかりされることもあったのは同じですね。でも、新しく支持してくれる人を発見して、その都度やってきたつもり。私もチェンジしていく方が好きです。たまたまだけど、いま着ているTシャツは21歳ぐらいの時に撮った写真で、いまはこんなことはしないんですけど(と、舌を出している図柄を見せる)、リヴァイヴァルというか、チェンジし続けていたら、それこそまわりまわって、ここにまた戻ってきて。いまの若い人たちがこの頃の、80年代の私を支持してくださるので、その人たちにありがとうという気持ちでつくったTシャツなんですね。そういう回帰みたいなことはありますね。

ジェフ:いいものは時代を超えて評価されるということですね。

戸川純:わあ。

ジャンルとはまた別に、戸川さんがスゴいなと僕が思うのは、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドの区別がないというか、国民的な映画やCMに出演したかと思うとパンクはやるわノイズ・バンドともコラボしたりで、なのに戸川純というイメージに揺るぎがないこと。

ジェフ:究極のアーティストなんですね。

戸川純:ありがとうございます。

では最後に、自分にはなくて相手は持ってると思うことはなんですか?

戸川純:アートですね。いま、究極のアーティストと言っていただきましたけれど、自分では自分のことをエンターテインメントな人間だと思っています。いつもどこかショービズに生きている。アクトレスとシンガー、それから文筆業としてやってきましたけれど、エンターテインメントはそれなりに大変だし、アートとエンターテインメントのどっちが偉いとも思わないし、突き詰めて考えたこともありませんが、私はエンターテインメントで、ジェフさんはアート、この組み合わせが今回のコラボは面白いんじゃないかと思います。

ジェフ:ああ、僕ももっとエンターテインメントできればいいんだけど(笑)。もうちょっとオーディエンスを楽しませるとか、そういうことができれば。

ぜんぜんやれてると思うけど(笑)。

ジェフ:ジュンさんにあって、自分にないものはやはり「歌う」ことです。人間の声にはどんな楽器にも勝る強い力がある。音楽のなかではやっぱり一番のツールが声なんです。それが才能だし、すごくパワフルなことだと思っています。僕とジュンさんは2歳しか違わないけれど、やはり61年生まれと63年生まれでは60年代の記憶がだいぶ違うと思うんです。60年代に起きたことの記憶が僕にはあんまりなくて、60年代のことをもっと実感したかった。60年代のことをアーティスティックな視点から理解することができなかったことは自分としてはかなり残念なことです。60年代というのは現在の音楽シーンや文化のスターティング・ポイントだったと思うので、いろんなことを繋げて考えていくと、どうしても60年代に回帰していく。ジュンさんの声には60年代が感じられます。

ジュンさんにあって、自分にないものはやはり「歌う」ことです。人間の声にはどんな楽器にも勝る強い力がある。音楽のなかではやっぱり一番のツールが声なんです。それが才能だし、すごくパワフルなことだと思っています。 ――ジェフ・ミルズ

ちなみに、お互いに訊いてみたかったことって何かありますか?

ジェフ:……。

戸川純:……。

一堂(笑)。

戸川純:たくさんあるけど……。

ジェフ:80年代や90年代から現在までずっと、音楽やファッション、あるいは発言によっていろんな人、とくにいろんな女の子たちに強い影響を与えてきたことを本人はどう思っています?

戸川純:いや、自分で言うのは照れますよ。実際に影響を受けましたと言ってくれる人もいるんですけど、それについて自分でいざ何か言うのは……

一堂(笑)。

戸川純:こんな和やかな場で言いたくはないんですけど、去年亡くなった最後の家族……お母さんが、えーと、暗い影響を私に与えたんですけれど、そのことによって私は奮起してきたんです。お母さんは私に「産まなきゃよかった、産まなきゃよかった」って私に言い続けて、小さい頃から、50代になってもずっと言い続けたんです。私は認めてもらおうと思って、がんばって活動してきて、その時々で喜んではくれるんだけど、ついポロっと「産まなきゃよかった」って。それに負けまいとして、なんとか、その言葉を覆そうとしてやってきたんです。ずっとやってきたので、これからもやり続けることに変わりはないんですけど、だから、なんて言うのかなあ、ジェフさんの話を聞いていて、ほんとにいろんなところでポジティヴだし、タフでらっしゃるし、今日は良き勉強をさせていただきました。Thank you.

ジェフ:こちらこそThank you.

(3月19日 南麻布U/M/A/Aにて)

「COSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』」 Supported by AUGER
会 場:ZEROTOKYO(新宿)
日 程:2024 年 4 月 1 日(月) 第 1 部公演: 開場 17:30 / 開演 18:30 / 終演 20:00 第 2 部公演: 開場 21:00 / 開演 21:45 / 終演 23:15 ※第 2 部受付は 20:30
出 演: Sounds: JEFF MILLS  Visuals: C.O.L.O(COSMIC LAB) Singer: 戸川純  Choreographer: 梅田宏明  Costume Designer: 落合宏理(FACETASM) Dancer: 中村優希 / 鈴木夢生 / SHIon / 大西優里亜
料 金: 一般前売り入場券 11,000 円
チケットはこちらから https://www.thetrip.jp/tickets
主 催:COSMIC LAB 企画制作:Axis Records、COSMIC LAB、Underground Gallery、DEGICO/CENTER
プロジェクトパートナーズ(AtoZ):FACETASM、株式会社フェイス・プロパティー、日本アイ・ビー・エム株式会社、一般社団法人ナイトタイム エコノミー推進協議会、株式会社 TST エンタテイメント
オフィシャルサイト:https://www.thetrip.jp

サウンドトラック盤『THE TRIP -Enter The Black Hole-』

■配信
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全12曲収録
リリース日:2024年3月20日 0時(JST) ダウンロード価格:通常¥1,833(税込):ハイレゾ:¥2,750(税込)
配信、ダウンロードはこちらから https://lnk.to/JeffMills_TheTripEnterTheBlackHole

■CD
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全13曲収録  ※CDのみボーナストラックを1曲収録
リリース日:2024年4月24日 (4月1日開催のCOSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』会場にてジェフ・ミルズ サイン特典付きで先行販売) 価格:¥2,700(税込) 品番:UMA-1147
[トラックリスト]CD, 配信
01. Entering The Black Hole 02. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Silent Shadow Mix) * 03. Beyond The Event Horizon 04. Time In The Abstract 05. ホール* 06. When Time Stops 07. No Escape 08. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Long Radio Mix)* 09. Time Reflective 10. Wandering 11. ホール (White Hole Mix) * 12. Infinite Redshift CDのみ収録ボーナストラック 13.矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Radio Mix)*  *戸川純 参加曲

■アナログレコード
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全8曲収録 LP2枚組、帯・ライナー付き、内側から外側へ再生する特別仕様、数量限定
リリース日:2024年5月下旬 価格:¥7,700(税込) 品番:PINC-1234-1235
[トラックリスト]
A1. Entering The Black Hole A2. Time In The Abstract B1. Wandering B2. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Silent Shadow Mix) * C1. When Time Stops C2. Time Reflective D1. Infinite Redshift D2. ホール*  *戸川純 参加曲

戸川純 ライヴ

3/31 渋谷プレジャープレジャー(ワンマン)
https://pleasure-pleasure.jp/topics_detail.php/2492

4/12 台北THE WALL(プノンペンモデルとツーマン)
https://www.ptt.cc/bbs/JapaneseRock/M.1709920228.A.4E3.html

ele-king books 既刊

新装増補版 戸川純全歌詞解説集──疾風怒濤ときどき晴れ 戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/007905/

戸川純エッセー集 ピーポー&メー 戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/006617/

戸川純写真集──ジャンヌ・ダルクのような人 池田敬太+戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/007462/

アリス・コルトレーン - カーネギーホール・コンサート

 365日かけて元の位置に戻るこの地球という美しい岩の上では、作品を聴き、理解し、前日とは違った見方ができる日が365ある。私たちは、地球上の多くのひとがアリスやジョン・コルトレーンのステージを見たことがないであろう時代を迎えようとしている。コルトレーンは2人とも、やがてモーツァルトのように男女の神話のような空間に住むことになるだろう。幸いなことに、私たちには写真があるし、アーカイヴ映像も少しはある。今後新しい世代がこのコンサート、ファイアー・ミュージックとスピリチュアル・ジャズの両方を、そしてアリスとジョン・コルトレーンの一期一会のみごとな融合を解釈し、再評価することになるだろう。

 本作『アリス・コルトレーン~カーネギー・ホール・コンサート』は、ノスタルジアの魅力が二重に構成されている。アルバム・タイトルには「アリス コルトレーン」の名前だけが反映されており、初心者にとっては、そこで聴ける音楽への期待を膨らませることになる。 ただし、実際の録音は追悼と祝福だ。アリスとジョン、2人のアーティストは2024年現在では故人だが、これが録音された1971年当時においては、ジョン・コルトレーンはその4年前に他界しており、依然としてジャズ界のヒーローだった。私たちはまずここで、アリスがジョンのライフワークのなかに創造性と愛を見出していることを知る。そしてまた、アリスが自分の種を植え、宇宙の木々に囲まれているのを聴くことができる。このコンサートは、ある伝説的な人物の出発が、別の人物の上昇の夜明けを始めるという、彼らの芸術的パートナーシップの図式なのだ。

 本作では、スピリチュアルな瞑想やヴァイブに満ちたリラクゼーション集中法からフリー・ジャズ世代の衝撃的なカオスの叫びまで、レコーディングのバランスはシーソーのように変化している。この音の組み合わせが当時どう捉えられ、いまどう捉えられるかは興味深く逆説的だ。往年のジョンの『アセンション』(1965)の爆音をまだ渇望している聴衆にとっては、アルバムの後半はカタルシスだったろう。しかし、それはアリスが必ずしも望んでいた姿ではない。本作において彼女は、 『ジャーニー・イン・サッチダーナンダ(Journey in Satchidananda)』(1971)に収録された表題曲と “シヴァ・ロカ(Shiva-Loka)” で自分自身とその正体を示している。1968年から1973年にかけて、アリスは4人の子供を持つポスト・ジョンの世界での大きなプレッシャーにもかかわらず、信じられないほど多作で、作品のなかで東洋(インド)のスピリチュアリティを探求することに熱心だった。同世代の他のアーティストとは異なり、アリスはそれから何十年も経った2007年に他界するまで、彼女のスピリチュアルな旅から離れることはなかった。ゆえに1971年以降のアリス・コルトレーンの音楽が具現化していった芸術的ヴィジョンの息吹を考えると、このレコーディングには必ずしもアリスの世界すべてが録音されているわけではない。

 しかし、本作を歴史のない音楽として、ジャズの長大な理念のなかに漂う音として受け止めるなら、味わうべきものは多い。アリスがハープという楽器を選んだことは、彼女がジョン以降をどのように歩みたいかを表現する上で重要な意味を持っている。ハープにはジャズの歴史がない。つまり、典型的なヴィルトゥオーゾ(名演奏家)的ジャズの装飾を忌避する、記憶のないサウンド・クリエーターとして機能できる。ジョンもそういうアーティストだった。ハープによってアリスはムード、質感、感情、純粋な表現、メロディ、瞑想、そしてもっとも輝かしいに悟りに集中する。歴史の重みを軽やかに避け、アーティストたちは新しいものの先駆者として自由に表現する。

 アルバムの後半の、獰猛な “アフリカ(Africa)” と “レオ(Leo)” に近づく前に、アリスが選んだ “ジャーニー・イン・サッチダーナンダ” と “シヴァ・ロカ” は、夜の闇と昼の明るさの完璧なコントラストであり、東洋のスピリチュアリティと自由な表現のユニークな融合を示している。アメリカがまだベトナム戦争という失敗に膝まで浸かっていた頃、アリスのゆらぎのあるハープ・フライトのクレッシェンドは、その世代で誰もが苦しんでいた不安に対する治癒として機能したのだろう。

 そして、ノスタルジアへの頌歌として、アリスは楽器をピアノに替え、ジョンがそばにいた時のポジションを再現した。“アフリカ” と “レオ” におけるエネルギーの放出は、グループがどれだけ爆発を起こせるかの耐久テストとなった。ジョンは不在だったが、代わりにファラオ・サンダースアーチー・シェップ、セシル・マクビーなど、ジョンがもっとも信頼したコラボレーターたちが参加している。感動的な音のカデンツは、幸運にも彼らに導かれた聴衆に畏敬の念を抱かせた。音楽はインスピレーションを与え、自己発見へと駆り立てる力を秘めている。そのエネルギーは決して衰えることはない。最後の音が鳴りやむのを心いっぱいの拍手で祝福する聴衆に温められている。

 

Alice Coltrane - The Carnegie Hall Concert

written by Kinnara : Desi La

  On this beautiful rock called Earth, that takes 365 days to return to its original position, there are 365 different days to listen and understand a work or see it differently than the day before. We are coming at a point in time where no one on Earth will have seen Alice or John Coltrane on stage. Both Coltranes will soon inhabit a space like Mozart as a myth as much as a man and woman. Luckily we have pictures. And a few bits of archival footage. Each following generation will from now on interpret and reevaluate this concert, both fire music and spiritual jazz, and the unique once in a lifetime union of Alice and John Coltrane.
The allure of nostalgia is two fold in this release, Alice Coltrane - The Carnegie Hall Concert. The title reflects only Alice Coltrane’s name and to the uninitiated, that would be their expectation of the music contained. The actual recording though is a reflection and/or a celebration. Both artists, Alice and John are now deceased as of 2024 but at the time of recording in ’71, John Coltrane was a not so distantly deceased hero of the jazz world having passed away almost 4 years previously. We see Alice view the love of her life’s work within herself and creative work. In the same concert we hear Alice plant her own seeds and surround herself with cosmic trees. This concert is a diagram of their artistic partnership with one legend’s departure initiating the dawn of another’s ascent.
The balance in this recording is a seesaw from spiritual meditation and vibe-filled relaxation concentration techniques to the shock chaos screaming of the free jazz generation. How this sound combination was viewed at the time and could be viewed now is intriguing and paradoxical. For the audience still craving the sonic blasts of yesteryear ASCENSION, the latter half of the recording was catharsis. But that isn’t who Alice necessarily wanted to be. She showed herself and what she is with “Journey in Satchidananda” and “Shiva-Loka.” Between 1968 and 1973, Alice, despite the immense pressures of a post-John world with 4 children, was incredibly prolific and intent on exploring eastern (Indian) spirituality within her work. Unlike other artists of that generation, Alice never left that spiritual journey until she passed away many years later in 2007. Given the breath of artistic vision that Alice Coltrane`s music would come to embody after 1971, the recording in a way robs us of completely experiencing Alice’s world.
If we take the album as just music without history, as just sounds floating in the lengthy ethos of jazz, there is much to savor. Alice’s choice of instrument in the harp is instrumental in expressing how she wished to navigate post-John. The harp has no real history with jazz. So it operates as a memoryless sound creator avoiding the trappings of typical virtuosic jazz. The type that John was clearly known for. The harp allowed Alice to focus on mood, on texture, on feelings, on pure expression, on melody, on meditation and most gloriously enlightenment. Without the weight of history, artists can embrace freedom maneuvering as vanguards of the new.

  Alice’s choice of “Journey in Satchidananda” and “Shiva-Loka” before approaching the ferocious “Africa” and “Leo” were perfect contrasts of the darkness of night and brightness of day displaying her unique blend of Eastern spirituality and freeform expression. As the US
was still knee deep in the failure that was the Vietnam War, Alice’s fluctuation crescendos of harp flight acted as band aids to the anxiousness everyone suffered from in that generation.
Then in an ode to nostalgia, Alice switched to piano refilling the position she held with John by her side. Here the burst of energy with both tracks “Africa” and “Leo” became endurance tests for the number of explosions the group could launch. John was absent but supplanted by some of his most trusted collaborators like Pharoah Sanders, Archie Shepp, and Cecil McBee among others. Cadences of sonic emotion left a sense of awe for those in the audience lucky enough to be initiated by them. The music is inspiring and holds the power to nudge towards self-discovery. The energy never wanes, cherished by an audience that blesses with heart filled applause as the last sounds die off.

Groove-Diggers Best of 2023 Second Half of the Year - ele-king

--山崎: 今回は、Pヴァインのレアグルーヴ・リイシューシリーズ、Groove-Diggersの2023年の下期のベストをMomoyama Radioでまとめましたので、軽く解説ができたらと思います。

--水谷: 去年も色々とリイシューさせて頂きました。


□ Clifford Jordan Quartet - John Coltrane

--山崎: オリジナル盤は最近は高額になってしまい、なかなか入手できなくなりました。

--水谷: ストラタ・イーストからリリースされているもう一つのアルバム、Clifford Jordan名義の『Clifford Jordan In The World』は一般的なジャズ界でも非常に評価されているアルバムです。

--山崎: 50年代以降からブルー・ノートやリバーサイドなどでリーダー・アルバムを残している人なので、ストラタ・イーストの中でもレアグルーヴ的ではなくストレートなジャズというイメージですね。

--水谷: この『John Coltrane』はこの盤にもメンバーとしてクレジットされているビル・リー(映画監督スパイク・リーの父)が作曲で、彼の他のグループ、The Descendants Of Mike And Phoebeの『A Spirit Speaks』でも演奏されています。レコーディングはどちらも1973年で、Clifford Jordan Quartetの方が2ヶ月早いくらいですね。

--山崎: The New York Bass Violin Choirの1978年のアルバムにも収録されていますね。

--水谷: Museからリリースされている、Clifford Jordan Quartetの『Night Of The Mark VII』にも収録されています。

--山崎: Bill Leeは自身のリーダーアルバムはこれまでに無いのですが、その作曲が評価されている彼ならではのスピリチュアル・ジャズ名曲ですね。


□ Weldon Irvine - Mr. Clean

--山崎: Weldon Irvineの記念すべきデビュー・アルバムから。

--水谷: やっぱりWeldonはかっこいいですね。作曲センスが抜群です。

--山崎: この曲はFreddie Hubbard – Straight LifeやRichard Groove Holmes – Comin' On Homeでもカバーされています。どちらもWeldonからしたら大先輩にあたる人物に取り上げられるという、当時はまだ新人であったWeldonの作曲力がシーンでは評価が高かったことが伺えますね。

--水谷: Weldonが自主制作で出した最初の2枚、昔(90年代)はこのアルバムとTime Capsuleを比べるとレア・グルーヴの文脈で最初に再評価されたTime Capsuleの方が派手でポップな印象でした。どちらかというとこの1stアルバムは地味に感じた。ただ今は世の中のムードはどちらかというとこっちの1stな気がします。
アンビエント再評価の流れからフリージャズも聴かれるようになっていますし、今は他ジャンルがクロス・オーヴァーされた楽曲よりも硬派でよりストレートなジャズ色が強い方が時代にフィットしているかもしれません。

--山崎: 70年代当時はサウンドが新し過ぎて評価されず、90年代にアシッド・ジャズ・ムーヴメントやレアグルーヴにより発掘、評価された曲が、その後のネオ・ソウルなどの影響で2000年代以降に一般的になり、2020年代以降はむしろ70年代の王道ラインの方が評価されている再逆転現象が起きている。今のソウルやジャズの中古市場ではみんな定番系を漁っていますからね。レコード屋もマーヴィン・ゲイとかダニー・ハサウェイが壁に面だしになっています。


□ Phil Ranelin / Sounds From The Village

--水谷: Tribeってスピリチュアル・ジャズの中でもStrata Eastやブラックジャズのなどと比べて最初は好きになれない感じはありました。Strata Eastの方がグルーヴあったりポップだったりして聞きやすかったので。
好きだったのはマーカス・ベルグレイヴくらいですかね。Wendell HarrisonやPhil Ranelinはフリーな印象が強かったです。でものちに改めて聴くとジャズ・ファンクとしてかっこいい。Farewell To The Welfareとかもあとでいいなと思いました。

--山崎: 僕もTribeを理解できるようになったのはアシッド・ジャズやレア・グルーヴの流れではなくて、ハウスやテクノを聴くようになってですね。
90年台中盤頃にSpiritual Lifeとかカールクレイグの作品に漆黒のグルーヴを感じるようになってから最初にwendellの『An Evening With The Devil』を買って「Where Am I」を聴いたときに「これってテクノだ」と思って。


□ Wendell Harrison /Ginseng Love

--水谷: 僕はこの辺を「聴きづらい音楽ではないんだ」って思うようになったのは、どちらかというとこのWenhaとかRebirth Recordsなど80年代の方が先でした。爽やかな楽曲が多くて聴きやすかった。Tribeの本道はこっちじゃないんだろうなとは感じつつ。でも今はまわりまわってこっちに注目が注がれているのも面白いなと思います。

--山崎: 僕は逆に80年代のものはあまり買わなかったかもしれないですね。Wendell Harrisonの「Reawakening」くらいしか持ってなかった。でも70年代のものも滅多に市場に出なかったので買えなかったですが。


□ Rick Mason And Rare Feelings / Dream Of Love

--山崎: オリジナルはかなりレア盤です。

--水谷: 僕が買った当時はYouTubeにもなかったですね。でもこれは相当な奇盤です。

--山崎: そうですね。歌い方がだいぶ変ですね。
こういう奇盤って当時は誰が買ってたんだろうとか、どうやってお金を捻出してレコーディングしてリリースまで漕ぎ着けたのか不思議だなといつも思います。でもやっぱり今、人気のある盤は曲がいいんですよね。だから70'sブラックは面白い。

--水谷: レアグルーヴで評価された人ってこういうカチっとしていない人が多いですよね。
いわゆるヘタウマ系なのですが味わい深い。こういう人を評価していきたいです。

--山崎: これオリジナル盤は今いくらくらいするんですか?

--水谷: 僕は自分が買った時しか見たことないです。

--山崎: 今、Discogsで売ってるのは50万円超えですね。中間点も15万円くらいします。

--水谷: 「欲しい人」は748人もいる。こんな奇盤なのにすごいですね。


□ Three Of Us / Dream Come True Part 1

--水谷: Hilton Feltonによるグループ、Three Of Usのアルバム『Dream Come True』からの一曲です。

--山崎: Hilton FeltonをピックアップするのはLuv N' Haightが早かったですね。1993年にコンピレーション『What It Is!』に「Be Bop Boogie」が収録されています。

--水谷: 昔の話ですけど、その頃は月に一度仕事で大阪と京都に行っていたのですが、もちろん行く度にレコード屋さんを回るじゃないですか。それで大阪のとあるレコード屋さんにこのアルバムがレジ裏の壁に飾ってあってジャケを見ると写真も無しでDREAM COME TRUEという文字だけあって「ドリカムのなんかなのかなぁーと(そんなのが売ってるレコ屋じゃないのですが・・・)」。しかもしばらく売れていなかったんですね。毎月、そのレコード屋に行っては壁のこのレコードを眺めていたんですが、ある日、店員さんに勇気を出してあのレコードはなんですかって聞いたんです。そしたら聴かせてくれて、とても良かったので買いました。これが僕の最初のHilton Feltonとの出会いですね。そこからです、Hilton Felton関連は全部買おうってなったのは。

--山崎: その時はいくらだったんですか?

--水谷: あんまり覚えてないですが、べらぼうに高い金額ではなかったと思います。1万円はしたと思いますが3万円のレコードはなかなか買わない時代でしたので。

--山崎: それはすごいですね。このレコード見たことないですし、Discogsには販売履歴ないですね。そんなにバカみたいに高いレコードではないと思いますが珍しいかもしれないですね。

--水谷: Hilton Feltonがやっていることも知らない人が多かったと思います。


□ Hilton Felton / Never Can Say Goodbye

--水谷: ジャクソン5の曲のカバーですが、なんかこの人の鍵盤の手癖がいいんですよね。

--山崎: こっちの盤は近年、本当に中古市場が上がっていますね。「Be Bop Boogie」が収録されている『A Man For All Reasons』と共に人気盤です。

--水谷: Hilton Feltonはゴスペル出身なのですが、たくさん作品があるんですけどこの3枚が圧倒的にいいですね。
ただE.L. Jamesというボーカリストの『The Face Of Love』っていうアルバムはHilton Feltonが全曲アレンジしていてこのアルバムもすごく良いです。


□ Main Source / Time

--山崎: Diggersではないですが、昨年の目玉です。メインソースはなんだかんだやっぱり人気がありましたね。

--水谷: これ90年代のお蔵入りで出なかったトップ・クラスですから。
ブートやなんだでほぼ出てましたけど、でもちゃんと正規で発売されるとみなさんちゃんと買ってくれますね。

--山崎: このネタはMUROさんの「真ッ黒ニナル迄」でも使われているRoy Ayersの「Gotta Find A Lover」ですね。


□ A.P.G Crew / Daily Routine

--水谷: ディガーズでもヒップホップをやりたいと思っていて、なんかないかなって探した時にこれが出てきたんですけど。オークランドのギャングですね・・・契約するの苦労しました・・・。

--山崎: ネタはRoy Porter Sound Machineの「Panama」ですね。

--水谷: こういうヒップホップのいいとこでもあるんだけれど、かなり雑なんですよ。
A.P.G CREWのアルバムって収録曲中の3曲でRoy Porter Sound Machineの『Inner Feelings』収録曲をサンプリングで使っている。Roy Porterと同じ西海岸なので地元のレコ屋でLP見つけてサンプリングしがいのある曲がたくさんあるので摘んだのかと想像しますが、的確にチョイスしてサンプリングしてますね。

--山崎: 「Panama」に「Jessica」、「Party Time」と使いすぎですね。

--水谷: でもちゃんと91年当時にこの3曲をセレクトしてそのまんま使ってるけどポイントを的確に使っていることに評価。Vistone盤の再発が90年にリリースされているので、こっちらかもしれませんが。DJ Spinnaの「Rock」よりも全然早いですから。


□ Funkgus / Memphis Soul Stew

--山崎: シンガポールのサイケ・バンドですね。この曲はキング・カーティスのカバーです。

--水谷: こういうファンキーなサイケデリックは日本のサイケに通じるところがありますね。
70年代のアメリカの黒人でサイケな人ってあまり多くないイメージですが、アフリカやアジア・モノを掘っているとサイケ色強いバンドが多いです。Numeroが2007年にアイランド・ファンク系のコンピレーション、『Cult Cargo: Grand Bahama Goombay』を出しているんですけどサイケ感が出ている曲が多かったです。

--山崎: アメリカからサイケ・ムーブメントが日本やアジア、アフリカ、カリブ諸国に流れつくと同時にジェームス・ブラウンを筆頭としたファンクの波も押し寄せたから、それを融合したようなサイケファンクが多いのではと話を聞いていて思いました。

--水谷: 一理あるかもしれないですね。でもサイケ入ってるとあんまり今のトレンドに乗らないんですよ。だからアフロ・レアグルーヴも一部熱狂はありましたがあまり広がらず、ここんところのDIGマーケットでは少し落ち着きましたね。

--山崎: レアグルーヴの人はロック嫌いだし、ロックのひとは暑苦しいファンクを嫌いそう。狭間ですね。
でもサイケなファンク、これから人気出るかもしれないですよ。聴き方次第では今っぽい気もします。


□ Ernie Story / Disco City

--山崎: この人はインプレッションズとかにも参加している白人ミュージシャンです。
やっぱりロックっぽいですね。こういう盤、どこで見つけてくるんですか?

--水谷: この辺のPRIVATE盤もdiscogsをはじめ、今や情報が氾濫してるのでとても高くなりましたが、個人間でネット売買が始まった2000年代後半〜2010年代前半は比較的にモノもあったし買いやすかったと思います。ただ、こういった無名盤は一部のコレクターで止まっており、レアグルーヴの定番としての人気と評価は今だに90年代から2000年代前半のライナップで止まっている気がしますので、我々ももっといろいろなものを紹介していきたいですね。


□ The Mighty Ryeders / Let There Be Peace

--水谷: 僕は昔からこの曲が「Evil Vibrations」の次に好きでした。

--山崎: この曲は当時7インチも出ていますね。

--水谷: CDアルバムのライナーにも書きましたが、アルバムとシングルではバージョンが違うんです。
今年はこのシングル・バージョンも7インチで再発します、

--山崎: 裏面はMUROさんによる「Evil Vibrations」のエディットですね。

--水谷: でもこのアルバム、本当に全体的にいい。「Evil Vibrations」が突出しているので目立っていますが、どの曲も洗練されているけどファンキーでソウルでもあるレアグルーヴ王道な盤ですね。

--山崎: リーダーのRodney Mathewsさんはアルバムはこの作品のみですが、才能があったんでしょうね。


□ The Turner Brothers / Sweetest Thing in the World

--山崎: この曲もとてもいいですよね。楽曲自体がしっかりしている。
マイナー系でここまでクオリティ高いのも珍しいかもしれません。ソウル・ファンからは昔から評価が高い盤ですね。

--水谷: それにしてもこの盤も1999年に再発させているLuv N' Haight (Ubiquity)は早熟でしたね。先ほどのHilton Feltonしかり、91年にRoy Porter Sound Machineを12インチでリリースしたり、Weldon Irvineも1992年にはStrata East盤と『Weldon & The Kats』を再発している。

--山崎: Weldon Irvineの1st、2ndの2枚を最初に再発したのはPヴァインですね。1996年です。

--水谷: あの頃はまだまだ未発掘なものがたくさんあってよかったですね。

--山崎: ただ、先程もおっしゃってたように、無名盤はまだまだあるので新たなライナップを我々も提示していきたいですよね。


□ Joyce Cooling / It's You

--水谷: これはみんな好きですね。こういうのが今また売れるならもっと色々ありそうですが。

--山崎: 須永辰緒さんが2000年にカバーして有名になった曲であの頃は流行りましたね。
こういうブラジリアン・クロスオーヴァーが全盛期でした。

--水谷: この頃はPヴァインでもブラジリアン・クロスオーバーものはたくさん出してました。

--山崎: でも今、この辺のオリジナルの中古盤安いですよ。Joyce Coolingのオリジナル盤はそこそこしますが、昔は高かったのに今、こんなに安いんだっていうのをよく見かけます。またそのうち高くなるんですかね。


□ Cantaro Ihara / I love you

--山崎: イハラくんのいいとこって自分のエゴを出しすぎないからこれはオリジナルに忠実ですね。
とても良い仕事だなと思います。バランスがいいんでしょうね。

--水谷: うまく日本語にしてくれたと思います。こういうのは流行り廃りがないので、これからクラシックになっていくんじゃないでしょうか。


□ Southside Movement & Jackie Ross -- You Are The One That I Need

--山崎: この曲は素晴らしいですね。

--水谷: 1991年にPヴァインからSouthside Movementの『Funk Freak』というアルバムをCDでリリースしておりまして、1995年にはLPもリリースするんですが、これは未発表曲集という形でリリースされているんですね。そこに「You Are The One That I Need」が収録されているんですけれど、でもこれらの曲が含まれている盤がもっと昔にあるんですよ。おそらく80年代初頭ですかね。ジャケットもないプロモ盤で超レア盤なので滅多に出ないんですけど。

--山崎: なので今回はその盤にさらに曲を足してリリースに至ったんですね。

--水谷: 前述の『Funk Freak』って中古市場でも昔から高くならないんですね。「You Are The One That I Need」を手に入れるのってオリジナルはまず難しいので、『Funk Freak』しかなかったと思うんですけど。でもこれ誰も知らない曲だなって思っていたらMUROさんが2010年にMIX CDに入れていました。この時はさすがだなと思ってシビレましたね。

--山崎: 先ほどからの繰り返しになりますが、こういう曲こそ広がって定番のライナップに入ってほしいですね。

-

--水谷: エンドロールはレアグルーヴ好きならピンとくる方も多いと思いますが今の時点ではシークレット・トラックとしておきましょう。

--山崎: 2024年もP-VINE GROOVE DIGGERSとVINYL GOES AROUNDチームではたくさんの面白い企画を考えておりますので引き続きよろしくお願い致します。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140