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石若駿

石若駿

@山口情報芸術センター(YCAM)

2022年6月4日・5日

細田成嗣  
撮影:谷康弘 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]   Jun 24,2022 UP

 かつてスティーヴ・レイシーは自らが目指すソロ・インプロヴィゼーションについて「自己へ向かいつづけること、それが他へ向かってゆきつづけることになるような開かれた行為」と語ったことがある*。内的な探求が外部へと裏返るクラインの壺にも似た奇妙な回路。彼は演奏の際に自らを複数化して捉え、行為のただ中にいる自己と、その行為を客観視する自己の、二つに分裂した「私」が必要なのだとも説明していた。あたかもソロ・インプロヴィゼーションにおいて自分自身をある種の他者と見做して共演しているかのようでもある。語義矛盾に見えるだろうか。しかし今や、こうしたスタンスは、テクノロジーを介してきわめて具体的に実現されるようになった。

 2022年6月4日と5日、山口情報芸術センター(YCAM)でドラマー/パーカッショニストの石若駿とYCAMがコラボレートしたパフォーマンス・イベント「Echoes for unknown egos—発現しあう響きたち」が開催された。石若は2019年にもYCAMとコラボレートしており、その際はサウンド・アーティストの細井美裕とともにコンサート・ピース「Sound Mine」を発表。二度目のコラボレーションとなる今回は、YCAMのほか、AI(人工知能)の研究者でクリエイターでもある野原恵祐と小林篤矢らを交え、約1年半にわたって共同研究開発に取り組み、自らの演奏を学習したAIを含む自動演奏楽器との共演を試みた。

 一つの起点となったのは2020年に虎ノ門・黒鳥福祉センターで実施した特殊なライヴ・パフォーマンスだった**。このとき石若は12分間の即興演奏を行なった後、その記憶を辿りながらもう一度同じ時間の即興演奏を行い、それら二つの演奏の記録映像を重ね合わせることで擬似的なセッションを構築した。打楽器の弓奏を中心とした「デュオ」は思わぬシンクロニシティと意想外の響き合いを生んだ。それは石若が長年取り組んできたフリー・インプロヴィゼーション主体のソロ・パフォーマンスの新たな展開でもあった。ここで「自分と共演することは可能なのか」というテーマをあらためて見出した彼は、YCAMでの制作において自身の演奏データを抽出し、そのデータにもとづく自動演奏楽器を共同で開発していくことになる。2021年10月から翌2022年5月にかけて都内で計三回の試験的なライヴも実施し、公演直前までシステムは改良され続けていた。

 そしてイベント当日。最終的に自動演奏楽器のシステムは大まかに次のようなものとなった。会場はステージ中央にドラムセットが置かれ、その周囲には解体されたドラムセットや音具がインスタレーションのように設置されている。後者はAIが石若を模したリズムを物理的な打音でインタラクティヴに演奏するための装置だ。ステージ奥には一台のピアノがあり、これもAIを用いることでリアルタイムに反応しメロディを生成/演奏する。ドラムセットの脇には抽選器のような形状の「ポンゴ(Pongo)」なるオリジナル打楽器が高々と掲げられている。内部に小さなシンバルやウッドブロック、カウベルなどが固定され、複数の球体を入れて回転させることでガラガラとパーカッシヴな音を発生させる。一定の速度に達すると打楽器音は消えるが心音のようなパルスを発し始める。さらにステージ周辺には複数のシンバルが並べられている。それぞれに磁石とコイル、マイクが取りつけられ、作動することで繊細なフィードバック・ドローンを生むようになっている。またスピーカーから石若が過去に演奏したピアノの音源を断片的に流すというシステムもあり、リアルタイムの演奏パターンをきっかけとしてローファイなサウンドのサンプリング音が響く。以上のように、解体されたドラムセット類、ピアノ、ポンゴ、シンバル、サンプラーと、自動演奏楽器はこれら計五種類の装置=エージェントからなり、個々のエージェントがいつ作動するのかリアルタイムに指令を出すのが「メタエージェント」なる存在だという。

 初日のライヴは冒頭でマレット、ブラシ、スティックと持ち替えて様々なリズム・パターンを提示するように約8分のソロを行い、その演奏データを「メタエージェント」が指令を出すための基準値としつつ、石若と自動演奏楽器との約30分にわたるセッションが繰り広げられた。いや、その光景とサウンドはセッションというよりも、石若の身体と記憶をテクノロジーを介して拡張/外部化することによって、いわば増殖した複数の彼が特異なソロ・インプロヴィゼーションを試みているようにも思えた。石若は鋭敏な耳で自動演奏楽器のリズムを聴き取り、それを自らの演奏に取り入れながら発展させ、不定形なリズムを叩き出す。ステージ後方上部のスクリーンには石若を含め作動しているエージェントの数だけ心電図のような線が三次元で走り、周波数と振幅に応じて上下左右に動いていた。加えて作動中のエージェントには照明も当たっており、システムの作動状況は視覚的にも把握し易くなっている。終盤で畳み掛けるようなソロ・ドラムを披露して演奏を終えると、当日の会場内の音響データをもとにした「ヴァーチャル・ポンゴ」がスクリーンに映し出され、4分弱にわたって電子音が流れる。そして会場の外、石若とYCAMがコラボレートした複数のシンバルがフィードバック・ドローンを発するインスタレーション「Echoes for unknown egos with cymbals」が設置されている広々とした空間へ移動。そこでフィードバック・ドローンに囲まれながら、石若はヴィブラフォンの即興演奏を行なった。公演終了後は会場内に戻ると、石若とYCAMのスタッフおよびAI技術者たちを交えて、主に自動演奏楽器のシステムを解説するトークが行われた。

 二日目はゲストとしてサックス奏者の松丸契を迎え、同様の流れでライヴ・パフォーマンスを実施。だが拡張されたソロ・パフォーマンスの様相を呈していた初日とはやや趣きが異なっていた。冒頭から緊迫した空気が辺りを包む。共演経験の豊富な二人だけあって、呼吸の合った、しかし予定調和には陥らないインタープレイを約8分間繰り広げると、自動演奏楽器を交えたセッションへ。複数の装置が同時に起動するシーンは初日以上に壮観だ。松丸はサイン波を思わせるロングトーンや微分音を交えた繊細に揺らぐ響き、軋るようなフラジオや鋭い叫び、素早く攻撃的なフレーズまで繰り出す。スピーカーからは石若のピアノではなくドラム演奏と松丸のサックス演奏のサンプリング音源も流れる。過去のデュオ演奏の録音から似た演奏パターンのシーンを抜き出し、そのとき相手が発していた音を流すという、まるで演奏の記憶を呼び起こすかのような仕掛けだ。加えて印象深いのはピアノである。ときにはバグを起こしたようなフレーズを、あるいは現代音楽を彷彿させる調性感の希薄な音の連なりを、はたまたどこか聴き覚えのあるメロディを奏でるのだが、緩やかに落ち着いたセッションの流れを打ち破るように突如としてピアノが切り込むシーンが繰り返し訪れたのだった。きわめつけはラストで、石若と松丸が息を合わせて終着点を見出したかと思いきや、数秒後にピアノが勢いよく鳴り出した。約30秒のフレーズを奏でた後、石若と松丸はしばらく様子を伺い、結果的にはリアクションを起こさずに演奏は終了した。まるで「メタエージェント」が意志を持ち、二人にもっとセッションを続けるよう誘っているかのようでもあった***。

 自動演奏楽器は石若にとってアンコントローラブルな他者であると同時に、拡張された彼の一部でもある。機械がまるで意志を持つかのように人間味を帯びるという事態は、第三者として松丸が参加していたからこそより強く感じ取ることができたのだろう——松丸にとって自動演奏楽器は端的に共演相手の他者である側面が大きいからだ。初日と二日目では単に演奏人数が増えたというだけでなく、自動演奏楽器の意味合いそのものが変化していたとも言える。しかしいずれにしても、こうした状況はやはり石若にとってきわめて特殊だったはずだ。果たしてどこまで石若駿の演奏に含まれているのか。たとえ人力で演奏していてもアンコントローラブルで意想外の響きが生じることはある。それと自動演奏楽器が発する音はどのように線引きできるのか。少なくともそこで石若には通常のソロ・パフォーマンスとも複数人でのセッションとも異なる在り方が求められることとなる。

 フリー・インプロヴィゼーションの文脈においてAIといえば、有名な事例として1980年代にジョージ・ルイスが開発したリアルタイムに即興演奏を行なうコンピュータ・プログラム「ヴォイジャー」が知られている。だが「ヴォイジャー」はあくまでも他者としての共演相手である****。他方で石若が共演したAIを含む自動演奏楽器は自己と他者が入り混じった存在であった。それはテクノロジーを介することで自らを明示的に分裂させたのだとも、あるいは自己を見つめ直すことが同時に他なるものの探求でもあるような開かれた行為をテクノロジカルに実現したのだとも言える。ただしフリー・インプロヴィゼーションである以上、ゴールがあらかじめ定められているわけではない。その場で価値判断を下していく必要がある。自らをテクノロジカルに複数化することは、むろんそれ自体が目的でも、さらには珍しい響きを生むだけでもなく、全く新たな判断基準を持ち込む必要に迫られることを通じて、即興演奏の価値を創造的に発見し直すことへと向かうはずだ。そのプロセスの大きな一歩を彼らは踏み出した。

* 間章『この旅には終りはない』(柏書房、1992年、46ページ)
** 「Disco 3000 Vol.02_1+2 Layer Shun Ishiwaka extended technique」(企画:SONG X JAZZ/会場:blkswn welfare centre)
https://www.youtube.com/watch?v=LW5xmOa1xAs
*** 二日目は会場外のインスタレーション空間で松丸契がフィードバック・ドローンとともにサックスの即興演奏を行なった。なお通常時のインスタレーションは石若が手がけた複数の楽曲からなるコンポジションをもとにドローンを奏でているが、イベントで石若と松丸がインスタレーションと共演した際は、直前に会場内で行われたパフォーマンスの音響データをもとにドローンを発するようアレンジされていた。
**** ただし共演を通じて自らを見つめ直すことはある。ジョージ・ルイスは「Voyagerは私達自身の創造性と知性はどこにあるのかを問う。それは『どうやって知能を作り出すのか』ではなく『どこに見つけるのか』である」と語っている(dj sniff「消されざる声——ジョージ・ルイス」『別冊ele-king カマシ・ワシントン/UKジャズの逆襲』松村正人+野田努編、ele-king Books、2018年)。

細田成嗣

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