「E E」と一致するもの

逆転のトライアングル - ele-king

 いま流行っているのはシチュエーション・コメディである。それも、富裕層の人間たちがある場所に集まり、酷い目に遭ったのちに醜態を晒すものがやたらに多い。最大の成功例はジェシー・アームストロング制作のHBOのテレビシリーズ『SUCCESSION』(邦題はいろいろ変わったのちに現在は『メディア王~華麗なる一族~』)で、これはメディア・コングロマリットを牛耳る一族の家族間の争いをシェイクスピア劇とコメディを合体させつつ風刺するものだが、その後コメディ性を高めつつより戯画的なものが増えている。リゾートに集った富裕層たちがみっともない争いを繰り広げる様を笑うマイク・ホワイト制作のテレビシリーズ『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート・ホテル』、あるレストランに集まった富裕層たちが狂ったシェフに復讐される様を笑うマーク・マイロッド監督作『ザ・メニュー』、プライヴェート・パーティに集まった富裕層たちが殺人事件で右往左往する様を笑うライアン・ジョンソン監督作『ナイブスアウト:グラスオニオン』。もちろんそれぞれでテイストや作劇は異なるが、要約すれば、「富裕層たちを笑う」、である。娯楽やアートは社会を映す窓でもある。これだけ格差が酷いことになってしまうと、とにかく富裕層が酷い目に遭う様を笑いたい……という欲望が世のなかに渦巻いていても仕方ない。
 そしてスウェーデンのリューベン・オストルンドは、なかでももっとも戯画的なコメディを発表してカンヌ映画祭のパルムドールを2作連続で獲ってしまった。ただしその映画、『逆転のトライアングル』が風刺しているのは富裕層たち以上に現代の資本主義社会が生み出す格差の構造そのものである。

 前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』がアート界を描いていたのに対し、本作でファッション界を取り上げているのは業界で仕事をしているパートナーから聞いた話にインスパイアされたからだという。いわく、男性モデルは一般的に女性モデルの3分の1しか稼ぐことができず、業界で力を持つゲイ男性たちからの誘いを断るのに苦労しているとのことで、つまり男性中心の社会で女性が置かれている立場を若い男性たちが経験している世界なのだ、と。これは僕がゲイだから書きやすいことなのかもしれないが、正直に言って思い当たることもある。要は、権力を持つ者と搾取される者が変わっても、誰かが誰かを搾取する構造自体は保持されると……それがまず、この映画の入口である。
 映画は3パートに分かれており、そういうわけで若くて綺麗な男性モデルが辛酸を舐める様がパート1では面白おかしく映される。バレンシアガの広告では偉そうに、H&Mの広告では媚を売った笑顔を……とオネエ感バリバリのディレクターに指導されるのは露骨過ぎて僕は笑えなかったが、ファッション界における「気候変動を止めよう」「すべての人種は平等」といったウォークなメッセージの空々しさをからかいたくなるのは、まあわかる。そんな空虚な業界に振り回されているモデルのカールは、自分より稼いでいるモデルでインフルエンサーのヤヤと高級レストランに行ってもどちらが支払いをするかで揉めてしまう……彼は世間的には「若くて見た目のいい白人男性」だが、様々な意味で権力を持てずにくすぶっている人物なのだ。
 パート2ではそんなカールとヤヤが(彼女のコネで無料で)金持ちばかりが乗る高級クルーズで過ごす様子が描かれるが、このパートがもっともシチュエーション・コメディ的だ。そこにはロシアの財閥オリガルヒ、イギリスの武器商人など世界的な富裕層が集まっており、スタッフたちは彼らの傲慢な要求にも笑顔で答えてみせる。だが様々な偶然が重なることで、金持ちたちは嵐のなかで痛んだディナーを食べることになり、嘔吐と下痢に襲われることになる。みんな、金持ちがゲロとクソまみれになるところが見たいだろう? とまあ、そんな身も蓋もなさで突っ切るのがこの映画のパワフルなところではある。
 だが自分はそこよりも、ウディ・ハレルソン演じる酔っぱらいの船長のキャラクターに笑わされてしまった。彼はマルクス主義者という設定で、金持ちや資本主義社会の構造自体を憎んでいるが、豪華客船で働くなかで正気を失ってしまっている。そのハチャメチャな振る舞いは、ヴェテラン俳優の達者ぶりを遺憾なく発揮させていて可笑しい。が、この現代社会でマルクス主義者は狂ってしまうしかないと言われているようで、僕は笑いながら泣きそうになった。インタヴューによればオストルンド監督の母親は共産主義者であるそうで、それは何やら奥ゆきのあるエピソードだが、少なくとも本作で監督は現代の左翼の行き場のなさをあっさりと差し出している。そして、この世で最後のマルキシストとばかりに船長は嵐の船で狂った演説をぶちかますが、そんなものは当然、金持ちたちの心に届くことはない……(彼がパート3でどうなっているかも皮肉めいた展開である)。
 そしてパート3、めでたく(?)金持ちたちを乗せた船は沈み一部の乗客やスタッフたちは無人島へ流れ着くが、サヴァイヴァル能力のない金持ちたちの代わりに船の清掃スタッフだったアビゲイルが力を持つようになっていく。カールはここでも権力を得ることができない。

(ここからパート3の展開にやや触れるのでお気をつけください)
 無人島という金銭が価値を持たない場所においても別の経済が発生し、権力構造は保持される。オストルンドがそう示したいのはわかる。わかるがしかし、アビゲイルがここでエッセンシャル・ワーカーを象徴するキャラクターを負わされていることを考えると、彼女が権力を得たとたん圧政を敷く様に自分は少し引っかかった。富裕層とエッセンシャル・ワーカーでは、これまで置かれてきた環境や得てきた経験がまるで違うものなのではないか? それを同質のものとして捉えていいのだろうか、と。『ザ・スクエア』にはヨーロッパの知的階層におけるエリート主義めいた態度への自己批判が強くあったし、愚かさも含め人間味のようなものがもう少しあったと思う。本作は冷笑的であることを自己目的化しすぎているきらいがある。
 だが逆に言えば、それくらいの絶望を反映させたコメディということなのだろう。権力を持つと誰もが、誰かを搾取する構図に取りこまれてしまう、という。そこに誰がいるかは重要ではなく、構造だけが強化されていく資本主義と格差社会。映画を観終わった僕はすっかりうなだれてしまって、街じゅうの広告を恨めしく思った。本作の原題は「Triangle of Sadness」で、ファッション業界などで使われる眉間の場所を示す言葉らしい――「悲しみの三角形」。含みのあるタイトルである。そして、無人島だと思っていた場所が何だったのか……は、本作の最大の皮肉だ。これは、どこに行っても資本主義から逃れられない現代を生きるわたしたちの悲しみについての映画なのだ。

予告編

Alice Phoebe Lou - ele-king

 南アフリカ、ケープタウン出身のシンガー・ソングライター、アリス・フィービー・ルー。インディペンデントな精神を保ちながら成功しているミュージシャンの例として、彼女は稀有な存在のひとりだ。
 真冬にベルリンの路上で歌い、ヨーロッパ最大級のフェスティバル《PRIMAVERA》のメインステージでも演奏する。
 ワールドツアーの合間にベルリンの路上で歌う彼女は、自身の美学や信念に忠実であるがゆえに、誰かにとっては寄り添われているような感覚を与えるのかもしれない。

 そんな彼女の初来日は2018年。翌年にも《FUJI ROCK》などを含めた来日ツアーを果たしているが、この三年間はご多分に漏れずパンデミックの影響で来日が途絶えていた。
 満を辞して再来日を果たす彼女に、そのルーツやこれまでの経験、パンデミック中の心境や日本のミュージシャンに対する印象について聞いてみた。

■キャリアの原点として、ダンス、演劇、身体パフォーマンスなど、音楽以外の分野があるとお聞きしました。それらは現在あなたの中にどのように息づいていますか? また、表現方法として音楽に集中するきっかけは何だったのでしょう?

アリス:そうですね。小さな頃からダンスや演劇をしていたおかげで、自分の体をきちんと把握して、自信を持つことができています。それがいまのステージ上での身のこなしやパフォーマンスに確実に良い影響を与えていますね。そういう勉強をしていたおかげで、どうやったら観客の目を引くことができるのか、自分が作り出す世界にどう周りを引き込むかを学べたのも大きいです。  ダンスは表現方法として大好きでしたが、別のやり方がないかな、と考えているうちに、詩や音楽へ自然と移行したんだと思います。初めて路上で音楽を演奏したとき、これかも! と思ったので。

■故郷のケープタウンから1万km離れたベルリンで活動し、アフリカ、ヨーロッパはもちろん、北米、南米、アジア、オセアニアと世界中を移動しながらライヴをおこなってきたと思います。言葉の通じない場所での経験や「移動」はあなたに何をもたらしましたか?

アリス:19 歳のときにストリートミュージシャンを目指してベルリンに移って10年。いまでもときどき公園で演奏していますが、基本的には世界中を飛び回る生活です。こんな状況想像もしていなかったです。家から遠く離れた場所でミュージシャンとして活躍できるようになるなんて!  ベルリンは自己表現やアートが街中に溢れていて、そんな異文化の中に身を置くことはとても刺激的です。アーティストにとってチャンスのある世界に招かれたような気がして、本当に人生が変わりました。  世界中を旅しはじめてからは、異国の地で自分の曲を演奏し、その土地のローカル・ミュージックに触れ、世界のこと、自分のこと、そして次に作るべき曲のことを行く先々で学び続けています。  南アフリカにも年に1 回、2ヶ月くらい帰りますよ。実家からはいつもと違うインスピレーションを得られるので。家族、自然、ノスタルジー、そして「あの頃の私」とつながったり。

■ベルリンといえばダンス・ミュージックやクラブ・カルチャーが盛んです。キーボードの Ziv とのサイド・プロジェクト strongboi を含め、あなたの楽曲のなかにもダンサブルなものやサイケデリアを感じるものが散見されますが、シーンから受けた影響はありますか?

アリス:ベルリンに引っ越してきた当初は、ダンス・ミュージック文化やオルタナティヴ・シーンにとても興奮し、朝 6 時に起きてコーヒーを飲んで、ひとりでクラブに行ってひたすら踊っていました。夏の日差しのなか、外でおこなわれるオープンエアーのパーティーや、ストリート・パーティーと化したデモなど、そのワイルドな雰囲気が大好きです。そんな遊び方をしているうちに、70年代のディスコや音楽からインスパイアされた、オーガニックな楽器やテープ録音を使った、ダンサブルな音楽を作りたいと思うようになったんです。私のライヴでは、ソフトでフォーキーな瞬間もあれば、ワイルドに踊る瞬間もあります。それが自分でもとても楽しいんです。ベルリンの魅力は、年齢やバックグラウンドに関係なく何にでもなれて、何にでも挑戦できて、社会的な期待やプレッシャーからも解放されて、自分の好きなアーティストになれる、そして自分のためのシーンやオーディエンスを見つけられる、そんなところにあると思います。

■1300万回という驚異的な再生数になっている “She” は、ヘディ・ラマーの伝記映画の劇伴として使用され、アカデミー賞オリジナルソング部門ノミネートの最終選考まで残りました。あなたにとって映画とはどういう存在ですか? また、お気に入りの映画があったら教えてください。

アリス:この曲に対してこんなにも反応があるとは思ってもみませんでした! トライベッカ映画祭で上映されたときに、この映画の製作陣に会うことができて最高に楽しかったです! 私はもっと映画とコラボレーションしたいし、映画のためにもっと曲を書きたいと思っているので、早くまたそんな機会が巡ってくることを願っています。  好きな映画は本当にたくさんあります! でも、いまパッと思いつくのは、『ヴィクトリア』、『ムーンライズ・キングダム』、『ウエスト・サイド物語』(古い方)ですね。

■パンデミック中にリリースした楽曲は自分を見つめるような内省的な部分が感じとれました。坊主頭にしたりもしていましたが、コロナの期間はあなたにどのような心境の変化をもたらしましたか?

アリス:2019年のツアーでとても忙しい1年を過ごしたばかりのことだったのでその反動もあり、多くの人がそうであったように、私にとっても自分を見つめる時期でした。とても長いライターズ・ブロックを経験しながら、ベルリンでひとりで過ごして自分と向き合いました。とても大変な時期でした……! そんななかでもあるときから、音楽や詩が、湧き上がるすべての感情を導いてくれて、クリエイティヴィティを邪魔していた何かを打ち消してくれました。このプロセスを踏んだことで、率直で、余計なフィルターがかからない心からの曲を書くことができたんです。その後のパンデミックの期間は、作曲とレコーディングに集中することができたので、一気に2枚のアルバムを書いて、初めてのレコーディングスタジオを作りました。これがこの混乱した時期を過ごすのにぴったりでした!  じつは、頭を剃ったのはパンデミックの直前だったんです。個人的にいろいろなことがあったので、過去に別れを告げ、ありのままの自分を見て、新しくスタートするためのきっかけが必要だと思ったんです。頭を剃ったそのときは、私にとってとても美しい瞬間でした。

■以前の日本公演と同様に、今回も踊ってばかりの国やカネコアヤノと共演があります。彼らに感じるあなたとの共通点はありますか? また、他に気になっている日本のミュージシャンがいれば教えてください。

アリス:踊ってばかりの国もカネコアヤノのこともとっても愛してます。彼らが作る音楽も、個性的な人柄も大好きです。日本に来るたびに私が帰る場所になってくれる友だちがいると思うと、 最高な気分です。他に誰か挙げるとしたら、前回の来日で共演した青葉市子ですね。彼女も私の大好きな日本のソングライターのひとりです。

■昨年来日した Noah Georgeson や ボビー・オローサ らに、あなたと交流があるとお聞きしました。彼らとの関係はどういったものなのでしょう?

アリス:Noah Georgeson は素晴らしい友人であり、 プロデューサーです。私の2枚目のアルバム『Paper Castles』で一緒に仕事をして、カリフォルニアの美しいスタジオでレコーディングしました。彼は素晴らしい人で、彼がディヴェンドラ・バンハートの音楽にもたらすものがとても好きです。ボビーとは数年前にお互い出演していたドイツのフェスティヴァルで会ったんですけど、彼のパフォーマンスとバンドの音にすっかり感心してしまって、話しかけてみたら音楽をテープに録音するのが好きだという共通点で意気投合したんです。いつか彼とコラボレートしたいです。

■これまでの来日で印象に残ったこと、そして今回の日本ツアーで楽しみにしていることはありますか?

アリス:日本のお客さんも、この国の自然も大好きです。他に日本での楽しみはと言われたら、まずは食べ物ですね! ツアー・マネージャーの俊介は、毎回私たちを素敵な場所に連れていってくれて、新しい味覚を提供してくれるんです。あとは、また納豆を食べるのが楽しみ! それから、このツアーで新しい街を見られるのがとても楽しみだし、また鎌倉に行けるのもとても楽しみです。あとは、いつも暑い夏に日本に来ていたので、日本の春が見られるのを楽しみにしています。

■最後に、公演を楽しみにしている日本のファンへメッセージを。

アリス:4 年ぶりに日本に戻ることができるのでとても興奮しています! 進化したバンドとたくさんの愛を持って、新曲たちをみんなに披露しますね! See you soon !!


Alice Phoebe Lou来日公演情報

日程詳細は以下の通り

3/22 東京 渋谷WWWX (with 踊ってばかりの国)
3/23 大分 別府市コミュニティーセンター 芝居の湯
3/25 香川 高松市屋島山上交流拠点施設 やしまーる (ソロセット)
3/26 神奈川 鎌倉 浄智寺 (ソロセット) sold out
3/27 東京 晴れたら空に豆まいて (カネコアヤノ Band Set)
3/29 神奈川 Billboard Live Yokohama (with カネコアヤノ ソロセット)

Alice Phoebe Lou来日ツアー2023 特設サイト
https://haremametube.wixsite.com/alicephoebeloujt2023

Peterparker69 - ele-king

 もっと、全てが数字で示される世界になると思っていたよ!

 あれはいつ頃だったかなー……10年くらい前かな。PVだUUだってぜんぶ数字になっちゃって、その後5年前くらいにはバズだなんだってもうすごい勢いでわーってきちゃって、さもしいアイデア泥棒だらけで、あぁこのままこうやって数の力に制圧されるのかぁ、って。

 でも、世の中そんなにつまらなくないんだよね。ゆるい Discord に Bondee でフライしたら Mastodon へ雲隠れ、音声メディアで証拠を霧散させたあと公式見解は Twitter へ、と見せかけてコミュニティでチル。アーティストも同じで、ビデオは YouTube と TikTok に分散されるし、とにかく見えないヒットが多すぎて、単純に数字で全てを計るのは難しくなったってわけ。これは、表現者たちの知恵。何もかもを計測し可視化させようとした大人に対する、すばらしく利口な逃亡。

 というわけで、いよいよ皆が「いかにバズらないか」を考えている2023年なのだが、その点 PeterParker69 ほど利口な逃避を成し遂げている人たちはいない。今回届けられたEP「deadpool」は、表の現実社会から隠れたとあるホテルでひっそりとおこなわれるパーティをパッケージングしたような一枚。昨今コンセプチュアルな小規模のレイヴ・イベントがアンダーグラウンド音楽シーンで多発しているが、まさにそのような、表には姿を見せないクローズドでパラレルワールド的な脱‐現実感覚が本作には広がっている。

 元々 Discord 内で探したクリエイターとコラボするようなゆるさを持ち合わせていた彼らだが、そこから地続きに昨年は欧米のハイスクールで開催される「プロム」に着想を得た《CHAV PROM 2016》を開催したり、tohji t-mix japan tour after party でのプレイが話題になったりした一方で、Spotify プレイリスト「Fresh Finds Indie」に採り上げられ、tofubeats 『REFLECTION』のリミックスに参加し、しまいには “Flight to Mumbai” がAppleのCMソングに採用されるまでに至った。小規模で大切にコミュニティ感を培っていくところも突然マスメディアで楽曲が発信されていくところも、どちらも PeterParker69 らしさであるし、それこそがいまの理想的なヒットの在り方のように思う。再生回数をカウントする計測器自体があまりにもブレイクスルーのメカニズムと直結してしまったいま、彼らの動きからはどこか現実から浮遊しようとするスタンスを感じつつ、それとは裏腹にぬるりと自作をヒットさせているのも面白い。この、ぬるりという感覚が大切なのだ。実際、彼らはライヴ・パフォーマンスもぬるりとしている。キモ可愛く加工した声も、そう感じさせる一因としてあるのかもしれない。もちろん、hyperpop を通過したうえでの歪曲したサウンド・テクスチャも原因にあるだろう。

 小さくて親密な遊び場である「ホーム」と、不特定多数を躍らせる「マス」という公の場──このEPは、脱‐現実的な浮遊する空間として双方を夢見心地に行き来する。ライター/インターネッツ・フィールドワーカーの namahoge が彼らへのインタヴュー記事で “Flight to Mumbai” を「奇妙につるつるしたテクスチャー」と形容している通り、Peterparker69 の抑えて掴もうとしてもぬるっと滑ってしまうような存在感は、「ホーム」でも「マス」においても、どこかよるべない身体性とともに鳴らされている。インターネットとストリート、ヴァーチャルとリアルといった対立関係から抜け出した第三の世界。そういった非現実的なリアリティこそが Peterparker69 が打ち立てた新たな概念だ。

 さぁ、旅をしよう──第三の新たな空間へ。1曲目の “loloi” から、不安定な重力のもと、パラレルワールドをぬるりと行ったり来たりするようなリスナーそれぞれのキモ可愛いtours༼ꉺɷꉺ༽が始まる。少しずつ人が集まってきたホテルの中で、モンスーンによるシャワーのような雨が降り注ぎ、キュートな音が響く。続くアンセム “Flight to Mumbai” で、冒頭にサンプリングされるのは knapsack の “parnassus” (『Bend』収録)。knapsack と言えば、underscores の『fishmonger』(hyperpop の名作!)にも客演していた優れたベッドルーム・ポップの作り手(現在は gabby start として活動)。つまり、PeterParker69 は本作において、親密で個人的なスペースであるベッドルームを起点に作品を開始させるのだ。その旅はMVで描かれているような地元のショッピングモールを経由し、「脱ぎ捨てたんだよ黄色いガウン/鼓膜で暴れたMP sound」と歌いながら、いつしか架空のムンバイへと私たちを連れていく。

 その後も、tours༼ꉺɷꉺ༽は終わらない。3曲目 “Tours pt.2” はシングルでリリースされた “Tours” からドロップが加えられ、より劇的なムードへ。“fallpoi” では気怠さとハッピーなマインド──つまり鎮静と興奮──が引っ張り合い無重力の彼方に飛んでいくサイケデリックなサウンドのもと「I’m spidey逃げちゃうこのまま」「ボニーアンドクライドさえ/銃置いて舞を舞い/脳は体にない状態/あんまいい気分にない/ボニーアンドクライドさえつらい/ってそう信じたい」と歌う。極めてトランシ―なリリック世界に絡む音の一つひとつを紐解けば、じつはエフェクトやサンプリングなど膨大な手数が施されているものの、彼らはそれを決してひけらかさず、むしろあえて表層的な軽やかさの次元に留めているよう見せる。意図的な軽薄さのフックに引っ掛けられるのは、2000年代後半のインディ・シンセ・ポップやチルウェイヴに宿っていた煌めき、2010年代のEDMにある祝祭感、そしてジョイ・オービソンの近作にも連なるダーク&トロピカルなムード。軽さに軽さを掛けていくことによる、無重力の演出の巧みさがここにある。それは言い換えるならば、人工的でプラスチックな音が、ムンバイの湿度と熱気であたたかくふやけていくような感覚でもあるだろう。

 最後の曲 “deadpool” では、「今は明日も後に」という時空が歪んだような謎めいたリリックを織りまぜ本作は幕を閉じる。インターネット空間の四方八方へ飛び散った hyperpop の狂騒を経て、いま、PeterParker69 はそことはまた異なる第三の世界への逃避劇を展開する。インターネットでもリアルでもない、数の制圧が及ばない場所へ。だからこそ、彼らが “spiderman4” でピンクパンサレスをサンプリングしていたのは重要だ。なぜなら、ピンクパンサレスもまさにベッドルームでもクラブ・フロアでもない、プラネットで鳴るレイヴとして私たちに新たなサウンドを届けてくれたから。

 2023年のムードとして、確実に新たな世界を鳴らし描写している PeterParker69 の「deadpool」──この並びには、トゥー・シェル「lil spirits」やオーヴァーモノ「Is U」といった、今年に入りリリースされた優れたEP群も連ねることができるだろう。利口な逃亡が多く生まれてきている。希望だ、これは確かに希望だ。皆もっと逃げよう、大人に見つからないところへ……とびきりのtours༼ꉺɷꉺ༽へ……。

Gas Lab & Kazumi Kaneda - ele-king

 ジャズのテイストを織り交ぜたビートメイカー&ミュージシャンとして、近年活躍が目立つところではキーファーリジョイサーFKJDJハリソンedbl などの名前が挙げられる。それぞれテイストは違い、イスラエル・ジャズ・シーンのキーパソンでもあるリジョイサー、フランスならではのお洒落なポップ・センスやアンビエント感覚を有する FKJ、ジャズ・ファンク~ヒップホップ・バンドのブッチャー・ブラウンでも活動するDJハリソンなどそれぞれの個性を打ち出しているわけだが、カナダのレーベルの〈インナー・オーシャン〉から登場したガス・ラブとカズミ・カネダのコンビも、こうした面々のなかに入れることができるだろう。〈インナー・オーシャン〉はロー・ファイ・ヒップホップ系のリリースが多く、ガス・ラブとカズミ・カネダもこうした範疇に分類できる。

 ガス・ラブはアルゼンチン出身のマルチ・ミュージシャン/プロデューサーで、カズミ・カネダは東京を拠点とするピアニスト/プロデューサー/作曲家。もともと〈インナー・オーシャン〉で別々にソロ作品をリリースしていたふたりがコラボし、作ったアルバムが『トランス・パシフィック』である。ガス・ラブはラテン系のミュージシャンであるがゆえ、ラテンとファンクを取り入れた曲作りを得意とする。一方、カズミ・カネダはジャズ・ピアノの素養があるようで、自身のピアノ演奏を取り入れたビート・メイキングが特徴だ。
 ブエノスアイレスと東京と離れた場所に住むふたりがネットを通じてのリモート・コラボで作り上げた『トランス・パシフィック』は、そうした両者の持ち味を融合した作品となっている。そして、これまでガス・ラブの作品に参加してきたミュージシャンたち、アンドリュー・グールド、デヴィッド・ラヴォワ、ハビエル・マルティネス・バジェホス、フアン・クラッペンバッハ、ヘクター・マリオがフィーチャーされ、生演奏をふんだんに取り入れている点も特徴となっている。

 “パイプ・ドリーム” はトランペットとエレピがメロウで哀愁漂うメロディを紡ぐジャジー・ヒップホップ。カズミ・カネダのピアノとガス・ラブのベースとそれぞれの演奏も十分に披露されていて、かつてのヌジャベスの系譜を引き継ぐような楽曲である。“ビー・ウォーター” は水の流れる音とエレピのクリアーな音色を融合し、ギター演奏が透明な水のなかに煌めきを加えていく。ビートを少しずらしたJ・ディラ風のアプローチにより、新世代ジャズにも繋がるようなナンバーだ。“ゲッタウェイ” はロー・ファイ・ヒップホップというよりも、かつてのクルーダー&ドーフマイスターを思い起こさせるトリップホップ的なナンバーで、陰影に富むフルート演奏も印象に残る。

 “パナセア” はカズミ・カネダの美しいジャズ・ピアノを軸とするナンバー。浮遊感に富むビート・メイキング・センスの素晴らしさとともに、彼のピアニストとしての豊かな才能も味わうことができる。“リコレクト” はサックスをフィーチャーしたジャズ・バラードとヒップホップ・トラックのコンビネーション。『トランス・パシフィック』全体に流れるメロウネスを象徴するような作品である。
 “インプレッションズ” はジョン・コルトレーン・カルテットの “インプレッションズ” とは異なるナンバーであるものの、ところどころでそれを連想させるフレーズも出てくる。ピアノやサックスのモーダルな演奏はコルトレーンやマッコイ・タイナーを意識したところもあるだろう。“スウェル” はクラブ・ジャズやブロークンビーツのマナーを感じさせる曲で、アンドリュー・グールドのテナー・サックスがエモーショナルでソウルフルなプレイを聴かせる。ヒップホップをベースとしたトラック・メイキング、ジャズをベースとした楽器演奏、それぞれが高い地点で結びついたクオリティではブルー・ラブ・ビーツあたりにも比類し得る作品集となっている。

Keiji Haino - ele-king

 NYにファンデーション・フォー・コンテンポラリー・アーツ(FCA)なる財団がある。1963年にジョン・ケージや画家ジャスパー・ジョーンズらによって創設された非営利団体で、8つの賞の授与をつうじて芸術家を支援することを目的としている。
 そのうちのひとつにポップアートの代表的な画家、ロイ・リキテンスタインの名を冠した賞があり、これまで詩人でありブラック・スタディーズの研究者でもあるフレッド・モーテン、フェミニズムやLGBTQにまつわる表現をつづけてきた写真家のイヴ・ファウラーなどが受賞しているのだが、その2023年度の受賞者として灰野敬二が選ばれることになった。音楽家としては初の受賞となる。国境を越え、音楽に留まらずさまざまな分野の芸術家たちとコラボレーションをおこなってきた、その50年以上にわたる活動が評価されたということなのだろう。
 昨年70歳を迎えた灰野敬二。コロナ禍以後、海外ツアーには出ていないものの、昨年の国内でのライヴは46本と近年でも最多。最新リリースは〈サブ・ポップ〉からの7インチ・シングル、そして2016年に深センでドイツのファウストと演奏したライヴ・アルバム(2LP+CDのボックスセット)。まだまだ衰えることはなさそうだ。

音楽家・灰野敬二が2023年度ロイ・リキテンスタイン賞を受賞(米ファンデーション・フォー・コンテンポラリー・アーツ)

 ニューヨークのファンデーション・フォー・コンテンポラリー・アーツ(Foundation for Contemporary Arts/FCA)は2月15日、2023年度の助成芸術家を発表し、音楽家の灰野敬二がロイ・リキテンスタイン賞(Roy Lichtenstein Award)を受賞することが決定した。
 FCAは芸術家個人の支援を目的として、作曲家のジョン・ケージと、画家のジャスパー・ジョーンズによって1963年に創設された非営利組織。設立当初より、アール・ブラウン、マース・カニングハム、コーネリアス・カーデュー、メレディス・モンク、トリシャ・ブラウン、スティーヴ・ライヒといった数多くの芸術家への支援を行い、1993年には、ダンス、音楽/サウンド、詩、ヴィジュアルアーツ、パフォーマンスアート/演劇と、広範囲にわたる芸術家への助成金プログラムを公式化した。
 2023年度の助成対象者には、長年FCAと関わりのある芸術家にちなんだ8つの賞、マース・カニングハム賞、ヘレン・フランケンサーラー賞(絵画部門)、ロイ・リキテンスタイン賞、リチャード・パウセット・ダート賞(本年度より新設)、ロバート・ラウシェンバーグ賞、ドロテア・タニング賞、サイ・トゥオンブリー賞(詩部門)、C.D.ライト賞(詩部門)の受賞者が含まれる。対象となった21人の芸術家全員にそれぞれ45,000米ドルの助成金が贈られる。
 灰野が受賞したロイ・リキテンスタイン賞は、ポップアートを代表する画家リキテンスタインの精神を反映すると認められた優れた活動や業績に対して贈られるもので、2018年に創設されて以来、毎年候補者の中から非公開の選考によって決定される。過去の受賞者は、フレッド・モートン(詩)、アンディ・ロバート、イヴ・ファウラー、コンスタンティナ・ザヴィツァノス、フレデリック・ウェストン(以上、ヴィジュアルアーツ)で、音楽家の受賞は灰野が初となる。
 FCAのウェブサイトに英文で掲載されているアーティスト・ステートメントとバイオグラフィの原文は以下の通り。

【アーティスト・ステートメント】
わたしと 今 どっちがどっちに にじんでいる

1というものを成就させる事によって、次を必要としているか、さらにその次に動きたいか。1を成就させてあげれば、次(2)は全く違う次(2)を隣に呼びたいでしょう。そのとき、呼ばれるものをそれぞれ速度の違う、形状も違うものを呼びたいと思うでしょう。それが数字(メトロノーム)に表せない、人が理解しにくい一番深い今として現れます。そのことを人々は間という言葉で片づけてしまいます。私も説明がしきれないので、そのように呼んでいました。

特に私のパーカッションの演奏について、人々は即興という形容をします。しかしそれは前記の如く一音一音を成就させていることであり、時には床を打つ、壁にジャンプする、自分の身体を楽器に近づける等の行為を行うことで、ひとつの宇宙を形成しようとしています。それはその場で考えながら行っていく作曲とも編曲ともさらに変容(憑依)とも言い切れない試みです。音楽と呼ばれているものが次の何かになっていくことです。

私が考えていることは、全ての呼吸をしているものと繋がりたいということです。そして、それは呼吸をしていない全てのものともつながる為の修行だと思っています。
2022年12月

【バイオグラフィ】
 灰野敬二は、一つ一つの音の発生を唯一かつ不可逆的とみなす音楽的一元論を標榜する音楽家で、その実践は作曲とパフォーマンスの区別を消滅させ、(楽譜の)再現と即興という両方の概念を無効化する。彼はロックからインスピレーションを受け取っているが、それはロックから否定性、固着性、復讐心を除去した上でのことである。灰野の独自のテクニックはギター、ハーディ・ガーディ、その他の弦楽器、管楽器、打楽器、DJ機器、エレクトロニクスなどの性能を極限まで引き出し、あらゆるジャンル、スタイル、伝統の自由な探究、コラボレーション、実験を可能にしている。
 灰野は当初アントナン・アルトーに触発され演劇を志したが、ザ・ドアーズに遭遇し音楽に転向。以来ブラインド・レモン・ジェファーソンをはじめとする初期ブルース、ヨーロッパ中世音楽から歌謡曲まで幅広い表現を検証し吸収した。
 1970年、エドガー・アラン・ポーの詩から名を取ったグループ「ロスト・アラーフ」にヴォーカリストとして加入。また、ソロで自宅録音による音源制作を開始、ギター、パーカッションを独習。1978年にロックバンド「不失者」を結成。滲有無、哀秘謡、Vajra、サンヘドリン、静寂、なぞらない、The Hardy Rocksなどのグループでも活動し、デレク・ベイリー、ペーター・ブロッツマン、リー・コニッツ、ジョン・ダンカン、フレッド・フリス、チャールズ・ヘイワード、ローレン・コナーズ、ジョン・ゾーン、ファウスト、ジム・オルーク、スティーヴン・オマリー、オーレン・アンバーチ、SUMAC、Boris、巻上公一、メルツバウ、大野一雄、田中泯、勅使川原三郎など様々な音楽的、芸術的バックグラウンドの芸術家とコラボレーションを行っている。
 灰野はこれまでに200点を超える音源を発表しており、ライブ・パフォーマンスは確認されただけでも2,000回以上を数える。


関連リンク(FCAウェブサイト)
2023年度ロイ・リキテンスタイン賞 灰野敬二(音楽家)
https://www.foundationforcontemporaryarts.org/recipients/keiji-haino/
ロイ・リキテンスタイン賞 これまでの受賞者一覧
https://www.foundationforcontemporaryarts.org/recipients/grant/roy-lichtenstein-award/
助成アーティスト一覧
https://www.foundationforcontemporaryarts.org/recipients/?page=2&limit=20

interview with Toru Hashimoto - ele-king

 日本を代表するDJ/選曲家のひとり、橋本徹(SUBURBIA)。そのコンパイラー人生30周年を祝し、特別インタヴューを掲載しよう。
 クラブやDJなど、90年代渋谷で起こったストリート・ムーヴメントの中心で橋本は活躍し、その活動をパッケージ化したコンピレーションCD、「Free Soul」シリーズ第一弾を1994年春に発表している。同シリーズはジャンルではなく、時代のムードを感覚的にとらえつつ、過去の音源から選曲していく点が新しかった。すでに名盤・名曲としての地位を確立していた作品以外からも多くの素晴らしい曲を発掘していくことで、既存のコンピレーション概念を覆すこと──やがて「Free Soul」はたくさんのレコード会社から引く手あまたとなり、メジャー/インディペンデント問わず複数のレーベルをまたぎながら、数多くのタイトルを送り出していった。そのクオリティの高さとリリース量から同シリーズは大ヒットを記録し、橋本は一躍その名を全国区に広めていくことになる。音楽を選び編集すること。過去の音源をディグすること。そういった文化を日本に広めた貢献者のひとりが橋本徹である。
 今回のインタヴューのきっかけになったのは、これまでになんと350枚にも及ぶ人気コンピレーションを監修・選曲してきた橋本徹の、コンパイラーとしての人生30周年を祝した1枚『Blessing ~ SUBURBIA meets P-VINE “Free Soul × Cafe Apres-midi × Mellow Beats × Jazz Supreme』(P-VINE)だ。以下、彼の活動のまさに集大成とも言えるこのコンピの制作にまつわる話を含め、これまでの選曲家人生を振り返るインタヴューをお楽しみください。

橋本さんのコンパイラー人生が2022年秋で30周年を迎えたとのことですが、「Free Soul」シリーズが始まったのは1994年ですよね?

橋本:今回のコンピCDのブックレットに入っている、30年を振り返るインタヴューにも書いてあるけど、フリーペーパーの『Suburbia Suite』を始めたのが1990年暮れ。その後91年夏から渋谷のDJ BAR INKSTIKでDJパーティなどを始めて、92年の春からTOKYO FMで『Suburbia's Party』という選曲番組がスタートしました。そして、それらのフリーペーパーやラジオで選曲してきたレコードを再編集して紹介する『Suburbia Suite; Especial Sweet Reprise』というディスクガイド本を92年の秋に出します。解説がないと音楽を楽しめないという傾向には違和感があったので、何年のリリースだとか、プロデューサーが誰かとかは記載せずに、そのレコードが持っている雰囲気や気分を伝えることで、リスナーにカジュアルに聴いてもらえたら、という思いで作ったディスクガイドでした。そのときに初めてコンピレーションのオファーをいただいて、『'tis blue drops; a sense of suburbia sweet』というCDを作りました。それが初めて僕が手がけたコンピレーションなんですね。今回のコンピのジャケットではそのアートワークをリデザインしています。
 その最初のコンピレーションは、先日亡くなったアート・ディレクター、コンテムポラリー・プロダクションの信藤三雄さんと、イラストレーターの森本美由紀さんと、僕の計3人が1枚ずつコンピレーションを作るという企画のうちの1枚で、当時の僕はまだ音楽を本職としていたわけではなく雑誌編集者でした。デザイナーとイラストレーターとエディターがそれぞれ90年代前半の東京の空気感を表現するという意味で、すごく象徴的なシリーズだったと思います。「Free Soul」を手がける前は、FM番組などで、サントラやソフト・ロック、ボサノヴァ、ラテン・ジャズからムード音楽的なものまで含めて、自分のなかの「白」っぽいセンスを表現していたんだけど、「『Suburbia』のディスクガイドに載っているものでうちのレコード会社から出せる音源はないか」というお話がたくさん来て、リイシュー・シリーズの監修をやったりしていたんですね。たとえば93年には〈Blue Note〉のBN-LAシリーズから選曲した『Blue Saudade Groove』というコンピレーションを手がけているけど、これもコンパイラーが3人いる企画の1枚で、二見裕志さんの『Blue Mellow Groove』と小林径さんの『Blue Bitter Groove』と一緒に出ています。

大手出版社に入るのは大変だと思うんですが、それを辞めてフリーランスになったのは、音楽に手応えみたいなものを感じたからですか?

橋本:気持ちが完全に音楽のほうに傾いていった感じかな。もう出版社にいた最後の1年くらいは完全にそういう感じで。92年のディスクガイドの波及効果が大きくて、レコード会社の方からリイシュー・シリーズの監修の話とかもたくさん来ていて、『Suburbia』以外のパーティでのDJも少しずつ増えてきて。そういう状況のなかで、92年のディスクガイドのテイストを段落変えして、自分のなかの「黒」っぽいセンスを形にしたい、という気持ちが93年はどんどん膨らんでいったんです。そのタイミングでボブ・トンプソンとヘンリー・マンシーニのリイシューの監修の依頼をいただいて、「それももちろんやりたいんですけど、70年代ソウル周辺のコンピレーションをやりませんか」ってこちらから提案したのが「Free Soul」コンピの始まり。94年4月のリリースに合わせて2冊目のディスクガイドも作ろう、その前の月からDJパーティも始めよう、三位一体で盛り上がっていきますよ、って話して。時代の空気感もそれを後押しする感じが増していってましたね。

音楽家ではない人が企画を持ってきて「じゃあそれやりましょう」という流れになるのが本当にすごいなと思いますが、それくらいの影響力が『Suburbia』のディスクガイドにはあったんですね。

橋本:それ以前のガイド本とは異なって、資料的なことにはこだわらず、エッセイ的というか、レコードの持っている雰囲気そのものを伝えるディスクガイドだったからでしょうね。レーベルや年代が書いていないから、レコード会社の方もどれなら自社から出せるか聞きに来るんですよ。そのときにいろんなレコード会社の方と知り合って、提案すると何でも実現してもらえるような雰囲気がありました。そうして94年の春に「Free Soul」がスタートすることになるんだけど、それが『Suburbia Suite』に負けないくらいブレイクしたんです。あの時代の気分を捉えていたんだと思う。
 背景として最初は渋谷系的なファン層がいたから、〈A&M〉のソフト・ロックとかサントラあたりまでは自然な流れでリスナーもついてきてくれたけど、そのころはまだリスナー側には「え、ソウル? ブラック・ミュージック?」みたいな感じはありました。でも『Free Soul Impressions』の音とあのジャケット、それ一発で「ソウルいいよね」って、すべてがひっくり返った。もちろん、他の背景としてジャミロクワイやブラン・ニュー・ヘヴィーズみたいに世界的に人気のあるアーティストがいたり、オリジナル・ラヴみたいな70年代のソウル・ミュージックを下敷きにした日本のバンドが人気を高めていったり、そういう状況も当然シンクロしていたと思います。アシッド・ジャズやレアグルーヴが、アーティストやファンたちにとってシンパシーを抱けるものになっていったタイミングにどんと出たのが「Free Soul」だった。
 よく覚えているのは、ちょうどそのころア・トライブ・コールド・クエストのシングル「Award Tour」(1993年。ウェルドン・アーヴィンの “We Gettin' Down” をサンプリングしている)が出て。渋谷のCISCOに1000枚入荷したものがあっという間になくなってしまうような、そういう熱気のあった時代でした。それが「Free Soul」の直前で、だから『Free Soul Impressions』にもウェルドン・アーヴィンの “We Gettin' Down” が入ることになる。当時、小西(康陽)さんに渋谷の引っ越したばかりの僕の家で “We Gettin' Down” を聴かせて、「これがATCQのあれなんだ」というような会話を交わしたことを覚えていますね。

当時の日本で「Free Soul」的なチョイスを開拓するのってすごく大変だったと思うんです。たとえばレコード屋でソウル・コーナーにあるのはよくてザ・シャイ・ライツくらいな状況で、(『Free Soul Actions』に入っている)ヴォイシズ・オブ・イースト・ハーレムが入っていたかというと、あまりその記憶がないんですよ。

橋本:それは、入荷してもすぐ売れちゃう時代だったっていうのもあるかも。94年春に出した『Suburbia Suite; Welcome To Free Soul Generation』っていうディスクガイドは、それまでのソウル・ミュージック界隈のプライオリティや価値観を変えました。それ以前のブラック・ミュージックのディスクガイドでは、たとえば「リロイ・ハトソンは歌が弱い」というように書かれていたりしたんだけど、そういった(低く評価されていた)ものを自分たちの感覚に忠実にもう一度取捨選択していくという行為が「Free Soul」の営みでした。

現代も古いものを掘り起こしていくことが流行っていますが、そこに「Free Soul」に通じるものを感じたりシンパシーを覚えたりはしますか?

橋本:まず、当時大きかったのはやっぱり現場があったこと。クラブでDJパーティがあったり、音楽好きが集まるレコード屋やCDショップがあったり。いまはもしかしたらそれがオンライン上にあるのかもしれないんだけど、僕のような(カフェやクラブで曲をかけたりレコード屋で掘ったりする)スタンスの人間からすると、それは見えづらい。インターネットのことは詳しくないから無責任なことは言えないけど、誰でも発信できる時代だからこそ、90年代の「Free Soul」のように突出した感じにはなりづらいのかもしれないですね。

最近知り合った20代の若い人からYouTubeに上がっている、90年代のトンネルを作る映像で流れている音楽がすごくかっこいいから聴いてみてくださいと教えてもらったのですが、じっさい僕も聴いてみてかっこいいと思ったんです。普通はそういう行政が作ったようなビデオにかっこいい音楽が入ってるとは思いもしないわけですが、いま若い子たちはそういうところから掘ってくるんですね。感覚は違うのかもしれませんが、ある意味ではかつての「Free Soul」と少し近いのかもしれません。

橋本:「Free Soul」だけでなく、『Suburbia』初期のころの “黄金の七人のテーマ” の「ダバダバ」(スキャット)とかもそうなんだけど、『11PM』(65年から90年まで放送された深夜のお色気番組)とかで使われているような音楽だったり、B級映画のサントラで聴けるようなもののなかから、「これかっこいいじゃん!」みたいに、親しい者同士の会話のなかで情報が精査されていって、ひとつのシーンやサブジャンルみたいなものが生まれていく、っていうのは90年代といまとで共通する部分があるのかもしれないですね。かつてであれば深夜の長電話だったり夜中のクラブのバーカンだったりで情報交換していたものが、いまではSNSとかになっているのかもしれない。

当時、他にも選曲家はいましたが、「Free Soul」のようなシリーズを構築できたのは橋本さんだけだと思うんですよね。

橋本:もちろん似たような趣味で僕以上に詳しい人も当然いたと思う。僕がたまたま「Free Soul」として始めたコンピやイベントが大きくなって、言葉がひとり歩きして、何かひとつのスタイルを指すようになったけれども、「橋本なんかに負けない!」っていろいろ掘ったりDJプレイしていた人はたくさんいたと思いますね。

とはいえ橋本さんの編集能力があったからこそフリーペーパーやCDとして形にできたと思います。音楽に詳しい他の人がああいうフリーペーパーを出せたかというと……

橋本:もし僕がそういう人たちと少し違ったとすれば、自分の好きなものをみんなと分かち合いたいっていう気持ちが強かったからかも。当時のDJは、お客さんから曲名を聞かれても教えない人もいたし、「俺は人とは違うんだぜ」っていうスタンスのマニアやコレクターも多かった。こだわりを持っているからこそ深いところまで行けたんだとは思いますけどね。僕は逆に、もっとフラットにカジュアルに多くの人に伝えて、一緒に楽しみたいっていうタイプだったので。

それとも関連すると思うんですが、昔のクラブは尖っていて怖かった。それが90年代に変わっていきますよね。オシャレな場所になっていきます。

橋本:もちろんそれもあると思う。クラブが、誰でも気軽に遊びに行ける場になっていった。クラブは90年代後半には、20歳前後の普通の若者にとって親密な場に変わっていたように思います。

世界的にもそういう流れだったような気がするんですよ。80年代ニューヨークのクラブは危険な場所だったけれど、そこにロンドンのシャレたクラブ・シーンの情報が入ってくるようになって。

橋本:役割が少しずつ変わってきたというか。それまではクラブが尖った人たちや、いろんな意味でマイノリティに属する人たちにとっての最高の遊び場だったのかもしれないけど、もうちょっと広くフレンドリーな存在になっていったのが90年代で。「Free Soul」のお客さんも、いかにも遊んでいる感じのクラバーだけじゃなくて、女性やカップルも多くて、ピースフルな雰囲気があった。その点はコンピCDを作るときも考えていました。「Free Soul」にはオープンマインドでポジティヴな気持ちが反映されている気がしますね。そこが他のDJやマニアやコレクターと比べて、自分が少し違っていたところなのかな。でもいまは僕みたいなタイプのほうが多くなっているのかも。それどころかたくさん「いいね」やフォロワーが欲しい、みたいな状態になっている(笑)。

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橋本さんの拠点は渋谷のイメージがありますが、渋谷だったのはなぜでしょう?

橋本:もともと駒沢で生まれ育って、就職して出版社時代は2年半目白にいて、フリーランスになって渋谷に来ました。会社を辞めるタイミングでCISCOのすぐそばに引っ越したんですね。その後そこが手狭になってカフェ・アプレミディを始める99年のタイミングで公園通りの渋谷ホームズへ移って。だから90年代後半は15秒でCISCOにレコードを買いに行って、オルガンバーでDJやって、30秒で家に帰ってくるみたいな生活(笑)。(当時編集長を務めていたタワーレコードのフリーマガジン)『bounce』の編集部までも5分かからない感じ。でもなぜ渋谷だったのかというと、やっぱりレコード屋がたくさんあって近かったからでしょうね。

「Free Soul」を手がけたりコンパイラー生活を続けていくなかで、印象に残った事件や出来事があれば教えてください。

橋本:コンピレーションCDのオファーが来るタイミングのときは、短い期間にものすごい数のオファーが来ていたのね。たとえば2007年はアントニオ・カルロス・ジョビンの生誕80周年記念の年で、リオに行ったりしつつ、ブラジル関連のコンピレーションが増えたこともあって32枚作りました。2014年は「Free Soul」20周年ということで、もう毎週のようにコンピのリリースがあって、たしか、10週連続でコンピCDが出ているような状況だったと思う。すごく楽しいし気持ちも乗って、「世界は45回転でまわってる」っていう感覚だったけど、逆に近年はパタッとそういうオファーが来なくなって。「30年間続けてきた」という言い方もできなくはないけれど、「進んだり止まったりを繰り返してきた」っていうのがじっさいのところなのかなと。

人生って進んだり止まったりするもので、でも止まったときにそのまま止まっちゃう人もいますよね。でもそういう波は絶対にあるんだよっていうのは、若い人には知っておいてほしいです。

橋本:僕もいまなら言える。けっして30年間で350枚ちょっと、年に12枚くらいをコンスタントに作ってきたわけではなくて。仕事も気持ちも浮き沈みがある。2009~11年くらいは精神的にもピンチでした。気持ちがダウナーで、鬱みたいな雰囲気もあって。2000年代前半にカフェ・アプレミディが大ブームになって、その勢いでレストランやセレクトショップを作って、僕としては楽しかったんだけど、経済的には赤字が続いて。お金がなくなっていったり、まわりの人が離れていったり、気分が落ちたり。『Suburbia』のディスクガイドの1冊目が出た後や「Free Soul」が成功したりカフェ・アプレミディが大人気になったりしたときは、ものすごくたくさんの人が寄ってくるのよ(笑)。それがもう2010年ころにはなくなっていった。それで夜中の12時ごろから朝の4時くらいまでニック・ドレイクみたいな音楽ばかり聴いて、ぼわんとした生活を送っていた時期もありました。自死がよぎったことさえあったし、自殺したミュージシャンの音楽以外聴きたくないと思っていた時期もあったくらいで。2010年の終わりには駒沢に戻ったんだけど、そのとき海に行こうと車で迎えにきてくれた友だちにはほんとうに感謝しかない。そういうことで少しずつ心のリハビリをしていって。負のスパイラルを逆回転させてもとに戻すことって、当人だけじゃとても無理だと思う。無償の愛のようなものがないと難しいと思いますね。
 2009年の秋に加藤和彦さんが亡くなって、2010年にはNujabesが亡くなって、その翌年には東日本大地震があって、さすがにそのころは音楽を聴ける感じではなかった。当時出たばかりだったジェイムズ・ブレイクファーストが救いになったのを覚えていますね。何も聴けない状態だったのに、それだけは聴けて。コンピも作ってはいたけど、内省的なものが増えていって。もちろんそれはそれである層の共感を呼ぶし、大切な人たちが聴いてくれたんだけど、「Free Soul」やカフェ・アプレミディのように一般の方たちも巻き込んで劇的に売れるというような状況にはならなくて。
 でもいまはこうやってアニヴァーサリーを迎えたり、去年結婚式を挙げたりして、一緒に幸せにならなきゃいけない人ができたりすると、あのとき命をつなぎ止めておいてよかったなと思うことはあります。生きていればなんとかなるから。お気楽に幸運に30年間暮らしてきたように映るかもしれないけど、僕でもそういう時期はあったんですということは、最近亡くなる方が多いこともあって、お伝えしたいことですね。だから生死の一線を超えないように、互いが互いを大切にしながら生きていきたいなと思います。そういうときに助けてくれた友人ってやっぱり特別だし。

それでは今回のコンピレーションの選曲について伺います。割と古めの音楽の比重が高いように思いましたが、それはどのような意図で?

橋本:まず、今回はメモリアルだという前提がありましたからね。僕のコンピレーションはおよそ350枚のうち27枚を〈Pヴァイン〉から出しているんですが、その「ベスト・オブ・ベスト」というのが今回の基本コンセプトで。ただ、それに加えて、自分が30年間やってきたことを、その断片でもいいから新しい世代やリスナーに伝えたいという気持ちも強くあって。昔からよく僕のコンピは、数が多すぎて初心者はどこから聴いたらいいのかわからないって言われていたので、そういう方のためになるものにするのもアニヴァーサリーにはふさわしいかなと思いました。コンピレーションのコンピレーションのような感じですかね。
 この場を借りて感謝すると、先ほど話した負のスパイラルを逆回転させるのが難しかったタイミングで、2013年に〈Pヴァイン〉から声がかかったんですよ。2014年の「Free Soul」20周年に向けて、『Free Soul meets P-VINE』と『Free Soul~2010s Urban-Mellow』を作らせてもらって。『Suburbia』の別冊扱いのディスクガイドも作ったことで現役復帰できるきっかけになりました。その少し前、2007年の「Mellow Beats」と2008年の「Jazz Supreme」も〈Pヴァイン〉がスタートでした。当時、現在進行形でよく聴いていて好きで選曲したいと思っていたテイストのものを、シリーズのファースト・リリースとして立ち上げてくれたのが〈Pヴァイン〉だったので、今回はその要素も反映させたいなと。だから、それらが全部サブタイトルに入っています。

難しいとは思いますが、今回のコンピレーションのなかから、あえて1曲選ぶとすれば?

橋本:うわっ、難しい(笑)。どれも本当に思い出深い曲ばかりだけど、「Free Soul」的にはその曲がかかると空間がとくに光り輝いていたのはアリス・クラークだよね。ジョン・ヴァレンティやジョイス・クーリング、12インチ探している人も多いDump「NYC Tonight」の坂本慎太郎ヴァージョンもだけど。カフェ・アプレミディ代表としては最後の2曲かな。ザ・ジー・ナイン・グループ “I've Got You Under My Skin” とメタ・ルース “Just The Way You Are”。「Mellow Beats」代表としては、プリサイズ・ヒーローとケロ・ワン。ボビー・ハッチャーソン “Montara” とアーマッド・ジャマル “Dolphin Dance” という僕の大好きなサンプル・ソース両雄をサンプリングしていて、共にシリーズ最初の『Mellow Beats, Rhymes & Vibes』に入れた曲でした。「Jazz Supreme」の観点からはやはり、もっとも思い出深いファラオ・サンダースを。

ホルガー・シューカイの “Persian Love” はちょっと意外でした。

橋本:“Persian Love” は本来であれば〈Suburbia Records〉の「Good Mellows」シリーズに入るようなテイストの曲だとは思うんだけど、2008年に『Groovy Summer Of Love』というコンピの選曲を依頼されたときにセレクトしているんだよね。イランのラジオ放送からサンプリングした歌声がほんとうに気持ちよくて。夏の海辺のDJではずっとかけつづけている曲で、自分のなかでは定番で、ある意味では僕の選曲を象徴している曲かなとも思う。一般的には元カンでジャーマン・ロックとされるけれど、バレアリックやスロウ・ハウス、サマー・チルアウトとして解釈してプレイしてきたということ。あと、中学生のころにサントリーのCMで聴いていたというのもある。そういういろんなパースペクティヴがあって思い出の詰まった曲なので、自分にとって重要な曲なんです。本当にグッとくる、心が洗われる大切な曲ですね。

今後のヴィジョンについて教えてください。

橋本:それほど大きなヴィジョンを抱いているわけではないけど、コンピCDをもうちょっとだけでも作っていけたらという気持ちはあります。「Free Soul」の30周年までもうひと頑張りできたらと思っています。今回これを作らせていただいたことで、そういう気持ちが湧いてきました。

最後に、これから何かを成し遂げたいと思っている若者にアドヴァイスをお願いします。

橋本:特にないですね(笑)。やりたいこと、やらずにはいられないことに忠実にというか……強いて言うなら、一歩踏み出す勇気みたいなものは重要なんじゃないかなと思います。

◆橋本徹(SUBURBIA)コンパイラー人生30周年記念インタヴュー
https://note.com/usen_apres_midi/n/n11d377e01339

◆橋本徹(SUBURBIA)コンパイラー人生30周年記念コンピ『Blessing』リリース記念トークショウ
3月4日(土)15時から16時半までタワーレコード渋谷店6Fにて
出演:橋本徹/柳樂光隆

◆橋本徹(SUBURBIA)コンパイラー人生30周年記念コンピ『Blessing』リリース記念パーティー
3月4日(土)17時から23時までカフェ・アプレミディにて
DJ:橋本徹/櫻木景/松田岳二/高橋晋一郎/三谷昌平/青野賢一/山崎真央/中村智昭/waltzanova/haraguchic/NARU/KITADE/MITCH/aribo/松下大亮
Live:サバービア大学フォークソング部(山下洋&安藤模亜)

橋本徹のコンパイラー人生30周年を記念したベスト・コンピ『Blessing ~ SUBURBIA meets P-VINE "Free Soul x Cafe Apres-midi x Mellow Beats x Jazz Supreme"』に連動したTシャツを発売。

VINYL GOES AROUNDでは過去350枚に及ぶ人気コンピレーションを監修・選曲してきた橋本徹(SUBURBIA)のコンパイラー人生30周年を記念したTシャツの受注販売を開始します。
90年代以降に全世界で人気を博したコンピレーション・シリーズ、『Free Soul』のロゴを使用し、30周年にちなんで30色のカラー・バリエーションで展開。
今回は完全受注生産になりますのでお早めにどうぞ。

橋本徹(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。現在はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

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“Free Soul” Official T-Shirts

White / Black / Sport Grey / Ice Grey / Irish Green / Indigo Blue / Military Green / Mint Green / Light Pink / Lime /
Red / Royal / Safety Orange / Safety Pink / Safety Green / Tan / Daisy / Natural / Orange / Cardinal Red /
Gold / Cornsilk / Sand / Sky / Purple / Pistachio / Prairie Dust / Vegas Gold / Heliconia / Maroon

S/M/L/XL/XXL

¥3,000
(With Tax ¥3,300)

※商品の発送は 2023年4月下旬ごろを予定しています。
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。
※期間限定受注生産(〜2023年3月31日まで)
※限定品につき、なくなり次第終了となりますのでご了承ください。

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Hotel Lux - ele-king

「かつてイギリスで最も意識が高いバンドの座を争ったバンド」、レーベルの紹介文にそうあるように在りし日のホテル・ラックスはサウス・ロンドンのインディ・シーンで最も硬派なバンドとして知られていた。シェイムやHMLTD としのぎを削った17/18年のホテル・ラックスはザ・フォールに影響を受けたポスト・パンク・バンドで、暗く陰鬱でスリリングな音楽を奏でていた。デビュー7インチの “The Last Hangman” ではイギリスの死刑執行人アルバート・ピアポイントをテーマにし、Bサイドの “Pulp” ではそのタイトルが示すとおりにブコウスキーの朗読をサンプリングするなどホテル・ラックスは文学的な匂いのする硬さを武器にサウス・ロンドンのインディ・シーンの黎明期に大きく注目されていたバンドだったのだ。

 だがそれから5年余りの時間が流れたこの 1st アルバムはどうだろう? その間にパンデミックが起こり音楽シーンの季節が変わり、脱退したオリジナルのギタリストに代わりレッグスのマックス・オリヴァーが加入し、さらにオルガン奏者としてディロン・ホームが加わり、ホテル・ラックスはその硬さから離れ新たなスタイルを獲得した。ビル・ライダー・ジョーンズがプロデュースしたこのアルバムのサウンドはパンクやパブ・ロック、ポスト・パンクが混ぜ合わされてカラフルな色彩を放ち、声を合わせて唄いたくなるようなフック(それはフットボールの流儀でもある)までをも持ち合わせている。ともすれば頭でっかちと捉えられかねなかった歌詞は、ピート・ドハーティ・スタイルのやさぐれたロマンとユーモアが入り交じった物語風/戯曲風のものに変わり、その中で彼らはザ・フォールやブコウスキーの名前を出し明るいサウンドに乗せてかつての自分たちをユーモアたっぷりに皮肉るのだ。

 ベースのカム・シムズはサウス・ロンドンのインディ・シーンで活躍していた若き日々を「自分たちがどう思われるのか気にしすぎていた」と自責の念を浮かべて振り返る。ポーツマスからロンドンに移ってからというもの観客が自分たちに何を期待しているのかをつねに考えていた。ロックダウンを経て、バンドはロンドンを一時的に離れウィラルというリヴァプール近郊の街へと録音に行き、そうしてホテル・ラックスは変化した。
 あるいはそれはスムーズに行くことのなかったバンドの失意と後悔がそうさせたのかもしれない。「俺とタメの奴らが代表チームで活躍している」と唄う “National Team” はフットボールの歌であって、ナショナリズムを連想させて、そしてもしかしたら同じシーンで活躍したバンドたちが一足先に大きくなっていく姿を見送る喪失感を描いたものなのかもしれない。いくつかの要素が重なりあいそれが心に残る余韻を生んでいく。このアルバムはそんなふうにして次のステージに入った若者の人生の変化を語っていく。

 そうしてそのホテル・ラックスの真価はアルバム後半に発揮される。レコードをひっくり返してB面に入ったならばそこから先は流れるようにして最後まで一息で進む。これまでのホテル・ラックスの曲とは明らかに趣の異なったアコースティック・ギターが鳴り響くフォーク・ソング “Morning After Mourning”、それを呼び水にするようにして組み合わされる “An Ideal for Living”、ピアノとからみルイス・ダフィンは純粋に心をさらけ出すようにして歌う。
「大人になることの代償だ/無駄に過ごした1年/災いを歌にした/何が正しいか 何が間違っているのか教えてくれ」 
 ここでは皮肉は抜きだ。だからそのコントラストが心に響く。再びテレキャスターを構えポスト・パンクの熱を取り戻したかのように牙を向く “Points of View” を挟み、ギターのサム・コバーンがヴォーカルをとる夕暮れの虚無のような “Eazy Being Lazy” を通過し、そうして “Solidarity Song” にたどり着く。
「もし他の曲を書けたならララバイがよかった/災いを克服した歌を」。ホテル・ラックスは “An Ideal for Living” の中でそう歌っているが、たどり着いた先の最終曲 “Solidarity Song” はなんとも素晴らしいバラッドだ。心を揺さぶるようなオルガンとギターのストローク、そして声を合わせることを誘うコーラス。ブレヒトの連帯の歌を下敷きにして、その視線は市井の中に向かっていく。争いのはびこる世界に広がる分断、世界は酷いありさまだけど、でも最低ってわけでもない。手と手が合わさるクラップの音がまるで祝砲のように鳴り響く、この最終曲は失意の末の大団円みたいに心を揺らす。

 長い時間がかかったが、だからこそ生まれたスタイルがある。いまのホテル・ラックスの自信に満ちた姿はチームを移り再び輝きはじめたフットボーラーたちの姿にも重なって、それがなんとも胸を打つ。次なる未来へと、デビュー・アルバムというにはあまりに悲喜こもごもな、時を重ねた若者たちの唄がここに詰まっているのだ。

Tujiko Noriko - ele-king

 フランス在住のエクスペリメンタル・アーティスト/ソングライター、ツジコ・ノリコの新作アルバム『Crépuscule I & II』が、ウィーンの実験音楽レーベルの〈エディションズ・メゴ〉からリリースされた。
 このアルバムは、比較的短い曲を9曲収録した「I」と、長尺3曲を収録した「II」の二部作構成となっている。ツジコの20年におよぶキャリアのなかでも初ともいえる大作である。
 だが単に無闇に長いだけのアルバムではない。暗くシネマティックなサウンドと彼女のアイコンとでもいうべき唯一無二の声が融合し、まるで薄明かりの空間に「時間が溶けていく」ようなアルバムに仕上がっていたのである。
 この美しいアルバムのアトモスフィアをどう形容すれば良いのか。「音の霧」とでもいうべきか。「時の融解」とでもいうべきか。夕暮れと夜のあいだにある音空間とでもいうべきか。なにしろ「時」も「空間」も粒子の中に溶け合って漂うようなアルバムなのである。

 結論へと急ぐ前に、まずは20年ほどに及ぶツジコノリコのディスコグラフィーを振り返っておこう。
 ツジコは2000年にファースト・アルバム『Keshou To Heitai (Make-Up And Soldier)』をリリースした。だがツジコの名を知らしめたのは、2001年に〈メゴ〉よりリリースされた『Shojo Toshi』だろう。じっさい私も『Shojo Toshi』でツジコの音楽を知ったのだが、その衝撃はかなりのものであった。
 なぜか。当時、〈メゴ〉といえばグリッチ・ノイズによる電子音響というほどに最先端の尖ったレーベルだった。デジタル・パンク、サウンド・アートの革新派とでもいうべき存在であった。そのなかにあって突如、〈メゴ〉からヴォーカルの入った、しかも日本人によるアヴァン・ポップなアルバムが送り出されたわけだ。驚愕した。だが同時に〈メゴ〉とは音楽の形式にとらわれないのだということも理解できた。まさに二重の意味で驚きのリリースだ。
 『Shojo Toshi』を久しぶりに聴き直してみると、まったく古びていないことにも驚く。ある意味、幽玄なムードは最新作『Crépuscule I & II』に近いともいえるほどに。
 シンプルにして幽玄な印象を残すトラック、霧のように漂うヴォーカル、自在に飛び回るメロディ、『Shojo Toshi』こそまさにいまこそ聴くべき00年代エクスペリメンタル・ポップの傑作ではないか。そして、ツジコノリコの20年の歩みは、このファースト・アルバムの持っている深度をさらに掘り下げていく過程だったのではないかとも思えた。最新作『Crépuscule I & II』は、『Shojo Toshi』と円環している。
 翌2002年に〈メゴ〉から『Hard Ni Sasete (Make Me Hard) 』をリリースする。アートワークのイメージもあってか『Shojo Toshi』と二部作のようだが、ソングライティングがより洗練されており、2003年に〈トム・ラブ〉よりリリースされた『From Tokyo To Naiagara』に連なるサウンドと楽曲を展開している。
 『From Tokyo To Naiagara』は、リリース当時繰り返し聴いたことを覚えている。インダストリアルでアブストラクトなビート、より洗練されたミックスのサウンドなど、初期のツジコノリコはこのアルバムをもって完成したと言っても過言ではない。私がツジコ未聴の方に一作おすすめするとなると、『From Tokyo To Naiagara』を推すだろう。ピュアと洗練のバランスが良いからだ。
 以降、00年代中期から10年代中盤までのおよそ10年間は、ツジコにとってネクストレベルの歩みとなる。〈ルーム40〉、〈エディションズ・メゴ〉、〈ネイチャーブレス〉、〈ハプニングス〉などの国内外のレーベルからソロ・アルバムのみならず、アオキタカマサやTyme.、竹村延和、ローレンス・イングリッシュなどとのコラボレーション・アルバムもリリースを重ねていった。
 ソロ作では、2005年に、ローレンス・イングリッシュの〈ルーム40〉から『Blurred In My Mirror』をリリースした。2007年には、初期三部作のサウンドをより深化させた『SOLO』を〈エディションズ・メゴ〉から発表する。翌2008年に〈ネイチャーブレス〉から新曲7曲に加えPPA、Tyme.、ausなどによる『ソロ』のリミックス楽曲を収録したミニ・アルバム『Trust』をリリースする。
 間を置いて2014年、「10年代の最新型エクスペリメンタル・ミュージック」としての存在感も示した『My Ghost Comes Back』を〈エディションズ・メゴ〉から発表した。これまでのファジーな音響空間に不可思議なエレガンスが折り重なり、ツジコの深化を見事に表現したアルバムだ。
 加えてコラボレーション・ワーク(アルバム)の歩みも(代表的な作品にかぎってだが)降り返っていこう。
 2002年にピーター・レーバーグのユニット DACM のセカンド・アルバム『Stéréotypie』にヴォーカリストとして参加した。『Stéréotypie』は、ピタの『Get Off』の音響を思わせる、煌めくようなエレクトロニクスが太陽の反射のように眩く(時に薄暗く)展開する傑作である。なかでもツジコが参加した “Angel” は耽美的でダークなムードが横溢する電子音響ヴォーカルの名曲といえる。私は『Stéréotypie』を久しぶりに聞き直して、誠に勝手にだが『Crépuscule I & II』との近似性を聴き取ってしまった。具体的にではない。何かムードが……。
 2005年にアオキタカマサとの『28』を〈ファットキャット〉からリリースした。アオキのミニマリズムが全面に出つつ、そこにツジコ的なファニーな声やサウンドが交錯する名盤である。同年2005年は、リョウ・アライとのユニットRATN『J』もリリース。ふたりの才能の化学変化とでもいうべき傑作といえよう。
 2008年には〈ルーム40〉からローレンス・イングリッシュとジョン・チヤントラーとの『U』をリリースした。こちらもツジコ色が全面に出たコラボレーションで、彼女のソロ作に近い印象をもった。2011年にはtyme.との『GYU』を送り出す。明るくポジティヴな印象のエレクトロ・ポップ・アルバムで、ソロ作とは異なる作風ながらエレクトロ・ポップの隠れた名盤だと思う。
 2012年、竹村延和との『East Facing Balcony』をリリースする。エレクトロニカとも童謡とも異なり、まさに新しい「こどもと魔法」的な世界観の音楽を展開していた。ツジコのコラボレーション・アルバムはどれもエレクトロニカ史に残る傑作ばかりだが、なかでも、この『East Facing Balcony』は必聴のアルバムである。
 ツジコは映画にも関わり続けており、近年は2枚のサウンドトラック・アルバムをリリースしている。ひとつは2019年に〈パン〉から自身が共同監督・主演を務めた映画『Kuro』のサウンド・トラックだ。もうひとつは2022年には音響デザイナーであるポール・デイヴィスが手掛けたイギリスのスリラー映画『SURGE』のサウンドトラックである。

 私見だが新作『Crépuscule I & II』は、これらサウンドトラックからのフィードバックも大きいアルバムではないかと思う。霧の中のような音響、環境音の導入などシネマティックな音響空間が実現しており、「耳で聴く映画」のようなムードを放っているのだ。
 特に長尺三曲を収録した『Crépuscule II』に相当する楽曲においては、淡いサウンドが生成・変化し、まるで静謐な映画のカメラワークを追い続けるような聴取感覚を残してくれる。もちろん『Crépuscule I』に相当する9曲も、微かな光を想起させてくれる抽象性を放っていて大変に素晴らしい曲ばかりを収録している。
 「I」「II」どちらも、(ありきたりな表現で申し訳ないが)デヴィッド・ボウイ『LOW』B面のアンビエント・パートを、現代的にアップデートしたような、霧の中の光のごとき音響空間を生み出しているように感じられた。個人的にはミストのような電子音が持続する “Opening Night”、“A Meeting At The Space Station”、“Don’t Worry, I’ll Be Here” にとても惹かれた。
 本作はカセットテープでもリリースされているが、〈メゴ〉の創設者である故ピーター・レーバーグに送ったデモがカセットだった思い出から、ツジコは本作のカセットテープでのリリースも決めたという。その意味で〈エディションズ・メゴ〉からリリースされた本作は2021年に亡くなったピーター・レーバーグへの追悼という側面もあるのかもしれない。
 じっさい本作にはこれまでのツジコ作品よりも悲しみの色が濃いように感じられた。だがそれはこの世の否定ではないはずだ(当然だ)。そうでなく、世界の淡さ、儚さ、悲しみを美しいサウンドとして転生させようとするアーティストの遺志、希望の発露のようなものではないか。
 悲しみ。希望。微かな光。願い。この「薄明かりの世界」によりそう不思議な音のアトモスフィアを放つ本作は、ツジコ・ノリコの最高傑作だと言い切ってしまおう。
 先に自分は、この『Crépuscule I & II』をサウンドトラック的と書いた。それはまさにこの「薄明かりの世界」に寄り添うような音だから、そう感じたのだ。2023年、繰り替えし聴くことになる傑作がはやくも生まれた。

現代SF小説ガイドブック 可能性の文学 - ele-king

SFが描く未来――それは常に時代や社会を反映してきました。

21世紀ならではのテクノロジー描写を駆使したエンタメ作からジェンダーや人種などの多様性を考察した思考実験、躍進する中国をはじめとしたアジアのSFなど、SFの「今、ここ」を紹介する最新SFガイドが登場!

日本SF作家クラブの前会長にして希代の読み手としても知られる池澤春菜さんの監修による厳選した海外作家50人と国内作家50人の紹介と、周辺知識を補うコラムで今読むべきSFを一挙紹介します!

目次

はじめに(池澤春菜)
SF史概説(牧眞司)

作家紹介(海外)
オクテイヴィア・E・バトラー/N・K・ジェミシン/メアリ・ロビネット・コワル/ケン・リュウ/パオロ・バチガルピ/アンディ・ウィアー/シルヴァン・ヌーヴェル/テッド・チャン/グレッグ・イーガン/劉慈欣/アン・レッキー/ジェフ・ヴァンダミア/チャイナ・ミエヴィル/コニー・ウィリス/サラ・ピンスカー/アーシュラ・K・ル・グウィン/ロイス・マクマスター・ビジョルド/ジョー・ウォルトン/ピーター・トライアス/ユーン・ハ・リー/キジ・ジョンスン/マーサ・ウェルズ/ニール・スティーヴンスン/フィリップ・リーヴ/ピーター・ワッツ/アーカディ・マーティーン/アイザック・アシモフ/クリストファー・プリースト/キム・ヨチョプ/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/ラヴィ・ティドハー/ンネディ・オコラフォー/J・P・ホーガン/バリントン・J・ベイリー/コードウェイナー・スミス/ウィリアム・ギブスン/ロバート・A・ハインライン/カート・ヴォネガット・ジュニア/J・G・バラード/エイドリアン・チャイコフスキー/R・A・ラファティ/スタニスワフ・レム/アリエット・ド・ボダール/アレステア・レナルズ/オースン・スコット・カード/アーサー・C・クラーク/P・K・ディック/チャーリー・ジェーン・アンダーズ/マーガレット・アトウッド/カズオ・イシグロ

近年の日本SF(小川哲)

作家紹介(国内)
柴田勝家/伊藤計劃/飛浩隆/伴名練/酉島伝法/小川哲/藤井太洋/円城塔/高山羽根子/宮内悠介/山本弘/春暮康一/三島浩司/上田早夕里/柞刈湯葉/津久井五月/田中芳樹/菅浩江/津原泰水/谷甲州/小林泰三/新井素子/月村了衛/森岡浩之/野﨑まど/林譲治/冲方丁/小川一水/宮澤伊織/石川宗生/長谷敏司/牧野修/上遠野浩平/小松左京/星新一/筒井康隆/光瀬龍/眉村卓/夢枕獏/神林長平/梶尾真治/山田正紀/空木春宵/新城カズマ/樋口恭介/北野勇作/草野原々/オキシタケヒコ/ユキミ・オガワ/高島雄哉

ガイド
花開くアジアのSF(立原透耶)
非英語圏SF(橋本輝幸)
アンソロジーのすすめ(日下三蔵)
最新SF小説原作映像化事情(堺三保)
ライトノベルに確固たるジャンル築くSF(タニグチリウイチ)

コラム
アフロフューチャリズムとは(丸屋九兵衛)
現代日本のジェンダーSF(水上文)
ゲンロン 大森望 SF創作講座(大森望)
世界のSF賞(大森望)
プロ/アマの垣根を超えたウェブジンとファンジンの世界(井上彼方)
SFファンダムとコンベンション(藤井太洋)
対話のためのSFプロトタイピング(宮本道人)
SF編集者座談会──そこが知りたい翻訳SF出版

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お詫びと訂正

このたびは弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございます。
『現代SF小説ガイドブック 可能性の文学』に誤りがありました。
謹んで訂正いたしますとともに、お客様および関係者の皆様にご迷惑をおかけ
しましたことをお詫び申し上げます。

p.2
  誤 作家紹介 国内
→ 正 作家紹介 海外

  誤 キム・ヨチョプ
→ 正 キム・チョヨプ

p.42

ジョンスンの作品世界では、しばしば他者や「未知なるもの」との接触が描かれる。それでも分からないなりに「了解」し、触れ合うことで、登場人物たちは相手を受け入れる。他者や世界の不条理さとどう向き合うかという問題に悩む現代の私達を、そっと導いてくれるかもしれない。


ジョンスンの作品では、しばしば他者や「未知なるもの」との接触が描かれる。「スパー」のような(少々ショッキングな)エイリアンとのファースト・コンタクトの場合もあれば、猿や猫、角と羽の生えたメルヒェンチックな謎の生物の場合ある。こうした他者との交流には、究極的な分かりあえなさ、不条理さが存在する。それでも分からないなりに「了解」しつつ他者と触れ合う登場人物たちは、他者や世界の不条理さとの向き合い方に悩む現代の私達を、そっと導いてくれるかもしれない。

p.50
  誤 キム・ヨチョプ
→ 正 キム・チョヨプ

p.72
  誤 野崎まど
→ 正 野﨑まど

  誤 伊藤計畫
→ 正 伊藤計劃

yahyel - ele-king

 次世代を担うバンドとして彼らが浮上してきたのが2010年代半ば。その後2018年にセカンド・アルバム『Human』で大いに飛躍を遂げた東京の4人組、ヤイエルが5年ぶりに帰ってきた。
 この間、ほんとうにいろんなことが起こった。敏感なアンテナを有する彼らもまた、それぞれに思うところがあったにちがいない。はたしてそれは、どのように音楽へと昇華されたのだろうか。
 まずは3月8日、『Loves & Cults』と題されたひさびさのアルバムがリリースされる。その後3月下旬から4月頭にかけ、名古屋、梅田、渋谷の3年を巡回。ヤイエルの新たな船出に注目したい。

先日アナウンスされたyahyel5年振り最新作「Loves & Cults」のアートワークとトラックリストが公開された。そして、同時発表を行った名古屋、大阪、東京を巡るリリース・ツアーの前売り一般チケットも本日から発売開始する。

“Loves & Cults” は、加熱した時代、愛と狂信の望まない類似性をテーマにしたアルバムとなっている。人間の不確かさを巡る、誠実さへの問いかけはyahyelの脈々と通底するテーマ。しかし同時に、今作がこの5年間の間に、人間が新たに生み出した怪物に向き合っているという意味で、”群れ”の中の人間の視座が新たに加味されている。それは結果的に、かつてのような個々を重んじるプレイヤーの集まりとしてではなく、摩擦の先にある、バンド(≒小社会)”yahyel”しか鳴らせない音像として結実することとなった。”Loves & Cults”は、まさに長い時間をかけて固まっていった大陸のような作品であり、その歪で予定調和のない造形の中に込められた対話への願いが、異質なリアリティとして浮き上がる”怪作”となっている。愛と狂信の境界はどこか。2023年のyahyelに注目だ。

■作品概要
Artist : yahyel
Title : Loves & Cults
Label : LOVE/CULT
Date : 2023.3.8[ Wed ]
Cat # : LC004 ※Digital Only

Tracklist
01. Cult
02. Karma
03. Highway
04. ID
05. Mine
06. Sheep
07. Slow
08. Eve
09. Four
10. Love
11. kyokou

■作品紹介
東京を中心に活動するyahyelが5年の歳月をかけた最新作”Loves & Cults”をリリースする。
2015年に忽然と現れたyahyelは、10年代のポストダブステップ的な感性、出自など関係ないような独特のボーカルライン、猟奇的なライブパフォーマンス、予想外の映像作品など当時の真新しいアイディアを詰め込んだ特異な存在だった。”日本の音楽≒J-Pop”という呪いにかかった東京の街へのアンチテーゼは、”破竹の勢い”とも形容されるほどだった。

そして、世界的なパンデミックを目前にした2019年、yahyelは突然の沈黙に入る。

本人が”糸口の見えない世界の混沌に滅入っていた”と認めるように、 社会と音楽の一進一退の歩みは、彼らにそれだけのインパクトを残したものだった。再定義、線引き、分裂、その中での希望と失望。社会=共同体が、それぞれの正義を掲げて両極化に突き進んだ赤い熱の時代。双方の主張はフェイクニュースと断じられ、仮想敵はカルトじみた存在に仕立てられ、身内はラブの名の下に扇動される。
人の、あらゆる事象への執着が愛から来るものなのか狂信からくるものかは、あくまで不完全な自我が生み出す主観的な感覚でしかなく、社会という相対性の中では非常に脆いものである。音楽という営みなど、カウンターの霞に追いやられ、もれなくyahyelもその問題に向き合っていく。
バンドを小さな共同体として見た場合、我々は一つの社会として何を結論づけるのか。なぜ、我々はここで音を鳴らすのか。“Loves & Cults”は愛と狂信の表裏一体さを意識せずにはいられない、それでも人と人が対話をするという理想を捨てきれない、人間の”群れ”の中に傍観者として立ち尽くすことの憂鬱をテーマにした作品となっている。

おどろおどろしい合唱とサイバーな儀式のような狂騒が印象的なオープニング曲 ”Cult”では、痛烈にカルトじみた世相を皮肉りながらも、その混沌とした音像は迷いの中に立ち尽くしている。アルバムのストーリーはすでにシングルカットされている”Highway”、”ID”などを通過しながら、形而上学的な問いの中で、骨太で90年代のアートロックのような文脈で深まっていく。完全なロックチューンとなった”Four”は、まさにこの時期のyahyelの進化を如実に表しており、”4人でバンドとして音楽をする”ということに対するアンサーになっているともとれるだろう。個人主義から共同体へという流れはまさに20年代らしいが、その結論が一筋縄ではいかないのがyahyelらしく、バンドのリアリティを内包しているとも言えるのかもしれない。そして、アルバムのストーリーは一つの臨界点、アンセム”Love”へと導かれる。アルバムタイトルにある通り、”Cult”への皮肉から始まった物語は、”Love”は何なのかという問いを残して終わるのだ。

yahyelの作品は、3作目となった今でも一貫したテーマを周回している。それは人間の不確かさを巡る、誠実さへの問いかけである。今作がこの5年間の間に、人間が新たに生み出した怪物に向き合っているという意味で、時代に対するyahyelの解答ということにもなるだろう。それは結果的に、かつてのような個々を重んじるプレイヤーの集まりとしてではなく、摩擦の先にある、バンド(≒共同体)”yahyel”しか鳴らせない音像として結実している。”Loves & Cults”は、まさに長い時間をかけて固まっていった大陸のような作品であり、その歪で予定調和のない造形の中に込められた願いが、異質なリアリティとして浮き上がる”怪作”となっている。

■ツアー情報
yahyel "Loves & Cults" Album release tour

2023年3月22日(水)
名古屋 CLUB QUATTRO
18:45 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
ローソン : 42590
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc

2023年3月23日(木)
梅田 CLUB QUATTRO
18:45 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
ローソン : 56616
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc

2023年4月5日(水)
渋谷 WWWX
18:30 開場/ 19:30 開演
ぴあ : https://w.pia.jp/t/yahyel/
ローソン : 75386
イープラス : https://onl.tw/uf6EcBc

■yahyel profile :
2015年東京で結成。池貝峻、篠田ミル、大井一彌、山田健人の4人編成。エレクトロニックをベースとしたサウンド、ボーカルを担当する池貝の美しいハイトーンボイス、映像作家としても活躍する山田の映像演出を含むアグレッシブなライブパフォーマンスで注目を集める。2016年、ロンドンの老舗ROUGH TRADEを含む全5箇所での欧州ツアー、フジロックフェスティバル〈Rookie A Go Go〉ステージへの出演を経て、11月にデビュー・アルバム『Flesh and Blood』を発表。翌2017年には、フジロックフェスティバル〈Red Murquee〉ステージに出演、さらにWarpaint、Mount Kimbie、alt-Jら海外アーティストの来日ツアーをサポートし、2018年3月に、さらに進化した彼らが自身のアイデンティティを突き詰め、よりクリアで強固なものとして具現化することに挑んだセカンドアルバム『Human』をリリース。その直後のSXSW出演を経て、フランスのフェス、韓国・中国に渡るアジアツアー、SUMMER SONICなどに出演。同9月にはシングル「TAO」をリリース。楽曲、ミュージックビデオの両方を通じて、yahyelの芸術表現が完全に別次元に突入したことを証明した。同じく11月には水曜日のカンパネラとのコラボ楽曲「生きろ」をリリース。2019年には再びSXSWに出演、米NPR、英CRASH Magazineなど数多くの海外メディアに紹介される。パンデミックの最中に開催された2020年のワンマンライブを最後に、突然の沈黙期に入ったyahyelは、扇情と混沌のユーフォリアから起き上がろうとする2023 年の世界に呼応するように、新たなフェーズへの密かな胎動を繰り返している。

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