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Home >  Reviews > Gas Lab & Kazumi Kaneda- Trans Pacific

Gas Lab & Kazumi Kaneda

Hip HopJazz

Gas Lab & Kazumi Kaneda

Trans Pacific

Inner Ocean

小川充 Mar 01,2023 UP

 ジャズのテイストを織り交ぜたビートメイカー&ミュージシャンとして、近年活躍が目立つところではキーファーリジョイサーFKJDJハリソンedbl などの名前が挙げられる。それぞれテイストは違い、イスラエル・ジャズ・シーンのキーパソンでもあるリジョイサー、フランスならではのお洒落なポップ・センスやアンビエント感覚を有する FKJ、ジャズ・ファンク~ヒップホップ・バンドのブッチャー・ブラウンでも活動するDJハリソンなどそれぞれの個性を打ち出しているわけだが、カナダのレーベルの〈インナー・オーシャン〉から登場したガス・ラブとカズミ・カネダのコンビも、こうした面々のなかに入れることができるだろう。〈インナー・オーシャン〉はロー・ファイ・ヒップホップ系のリリースが多く、ガス・ラブとカズミ・カネダもこうした範疇に分類できる。

 ガス・ラブはアルゼンチン出身のマルチ・ミュージシャン/プロデューサーで、カズミ・カネダは東京を拠点とするピアニスト/プロデューサー/作曲家。もともと〈インナー・オーシャン〉で別々にソロ作品をリリースしていたふたりがコラボし、作ったアルバムが『トランス・パシフィック』である。ガス・ラブはラテン系のミュージシャンであるがゆえ、ラテンとファンクを取り入れた曲作りを得意とする。一方、カズミ・カネダはジャズ・ピアノの素養があるようで、自身のピアノ演奏を取り入れたビート・メイキングが特徴だ。
 ブエノスアイレスと東京と離れた場所に住むふたりがネットを通じてのリモート・コラボで作り上げた『トランス・パシフィック』は、そうした両者の持ち味を融合した作品となっている。そして、これまでガス・ラブの作品に参加してきたミュージシャンたち、アンドリュー・グールド、デヴィッド・ラヴォワ、ハビエル・マルティネス・バジェホス、フアン・クラッペンバッハ、ヘクター・マリオがフィーチャーされ、生演奏をふんだんに取り入れている点も特徴となっている。

 “パイプ・ドリーム” はトランペットとエレピがメロウで哀愁漂うメロディを紡ぐジャジー・ヒップホップ。カズミ・カネダのピアノとガス・ラブのベースとそれぞれの演奏も十分に披露されていて、かつてのヌジャベスの系譜を引き継ぐような楽曲である。“ビー・ウォーター” は水の流れる音とエレピのクリアーな音色を融合し、ギター演奏が透明な水のなかに煌めきを加えていく。ビートを少しずらしたJ・ディラ風のアプローチにより、新世代ジャズにも繋がるようなナンバーだ。“ゲッタウェイ” はロー・ファイ・ヒップホップというよりも、かつてのクルーダー&ドーフマイスターを思い起こさせるトリップホップ的なナンバーで、陰影に富むフルート演奏も印象に残る。

 “パナセア” はカズミ・カネダの美しいジャズ・ピアノを軸とするナンバー。浮遊感に富むビート・メイキング・センスの素晴らしさとともに、彼のピアニストとしての豊かな才能も味わうことができる。“リコレクト” はサックスをフィーチャーしたジャズ・バラードとヒップホップ・トラックのコンビネーション。『トランス・パシフィック』全体に流れるメロウネスを象徴するような作品である。
 “インプレッションズ” はジョン・コルトレーン・カルテットの “インプレッションズ” とは異なるナンバーであるものの、ところどころでそれを連想させるフレーズも出てくる。ピアノやサックスのモーダルな演奏はコルトレーンやマッコイ・タイナーを意識したところもあるだろう。“スウェル” はクラブ・ジャズやブロークンビーツのマナーを感じさせる曲で、アンドリュー・グールドのテナー・サックスがエモーショナルでソウルフルなプレイを聴かせる。ヒップホップをベースとしたトラック・メイキング、ジャズをベースとした楽器演奏、それぞれが高い地点で結びついたクオリティではブルー・ラブ・ビーツあたりにも比類し得る作品集となっている。

小川充